それから数日が経った。
永琳先生が処方してくれた薬を鈴仙さんが届けてくれて、それを飲んだら怪我の回復が早くなった。
まだ完治はしていないが、里の中なら普通に歩き回れるようになった。
やっぱり、月人の技術は凄いわ。
「ハァッ! オラァァ!!」
久しぶりに、シャドーボクシングで汗を流す。
「ハアッ!シュッ!フンッ!」
多少傷は痛むが、身体は動く。
「よし…、まだまだぁぁ!」
パンチに加えて、キックも繰り出すなど、完全復活目指してトレーニングに熱が入ってしまう。
「イテテテテ…、ちょいと無理し過ぎたかな?」
完治した訳では無いから、リハビリ程度にしておかないとな。
「ふう…、やっぱり鈍ったな…」
一週間は、まともに出歩いていないので、筋肉が贅肉になってしまっている感が半端ない。
ちなみに、その間は慧音さんが身の回りの世話をしてくれて、時々阿求のお嬢が様子を見に来る程度。
また、酒井一家が夜飯を携えて来てくれるなど、皆の親切には本当に感謝している。
「少し歩くか…」
久しぶりに、里を歩く事にした。
禁止されてるのは、里の外に出る事だけであって、里の中なら自由だからな。
――――――――――――――――――――
「おや祐助さん、もう出歩いていいのかい?」
メインストリートを歩いていると、団子屋の女将に声を掛けられた。
「ええ、随分と良くなったんで、リハビリがてらに散歩してるんですよ」
ちなみに、今俺は杖をついて歩いている。
別に無くても問題ないが、傷を庇いながら歩くにはこれは便利なのだ。
「無理しちゃダメだよ?」
「ありがとうおばさん、ついでだから団子下さい」
「はいよ!」
久しぶりに、此処の団子を食った。
涙が出る位、美味かった。
生きている事を、改めて実感。
「あ〜、美味い! 久しぶりの団子は最高ですよ」
「それは良かったわね!」
少しの間、手作りの団子に舌鼓を打つ。
あっという間に、団子を平らげお茶を流し込んだ。
「…そろそろ行こうかな、お代は置いときますね」
「毎度ありがとうございます!」
団子屋を出て、再び里の中を歩く。
心地よい風が吹き抜けていく。
しかし、上空を見ると見覚えのある鴉天狗が飛んでいくのが見えた。
大凡、何かのネタを掴んだんだろう。
気にしないで、歩こう。
「そういえば、もう直ぐ寺子屋だっけ…」
せっかくだ、寺子屋まで行くか。
しばらく振りに、アイツの顔も見たいし。
自分の足が、自然と寺子屋の方向へと向いていた。
――――――――――――――――――――
「はい、次は……」
(おっ、やってるねぇ)
祐助が、寺子屋に着いて様子を伺う。
寺子屋は、戸が開け放たれており、中の様子が良く見えていた。
(平九郎、真剣に授業するからなぁ…、こっちに気付かないかだろうか…)
祐助が平九郎と呼ぶ人物、『木村平九郎』とは、祐助の幼なじみであり後輩である。
鍛冶屋の酒井慶冶とは、同い年の友人でもある。
表の顔は、寺子屋の教師を勤めているが、彼も実は…。
(よーし、面白い事してやらう♪)
すると、真剣に授業をする平九郎の気を逸らす為に、祐助は軽い悪戯を始める。
「ラーララーラララーラーララ♪」
何故か、勝○にシ○ドバッドを歌い出す祐助。
ついでに、踊りまで踊り出す。
「うん…?」
平九郎はそれに気が付く。
「(祐さん…、何やってるんだよ…)」
チラッとその方向を見るも、気付かない振りをして授業を進める。
「それで、ここは…」
(む、無視しやがったなぁ…)
そんな事で諦める彼では無い。
(ならば…!)
「みんなー!チルノのさんすう教室、始まるよー! あたいみたいなさいきょー目指して頑張っていってね――!」
何故か、チルノのパーフェクトさんすう教室を踊り出す。
「バーカバーカ!バーカバーカ!」
平九郎を指差しながら踊る祐助。
「……ブッ!」
思わず吹き出してしまう。
「(ヤバい…、祐さん止めてくれ…)」
必死で笑いを堪えながら授業を続ける平九郎。
(よしよし、いい感じだ♪)
一通り踊り終えると、次のパフォーマンスへ。
「(次は何すんだよ、祐さん…)」
「オーレ――、オーレ――…♪」
「(うわっ、それマジすか!?)」
「『チャチャチャチャチャ♪』マツケンサンバー♪」
「ブッ!」
(ようし、アヘ顔効果あり!もう一息だぜ!)
「オーレ――、オーレ――…『チャチャチャチャチャ♪』
マツケンサァンバァァァァァァ↑↑!!」
「ぶふほぉ!?」
アへ顔で踊る祐助を見てしまい、ついに盛大に吹き出してしまった。
(よっしゃぁぁぁ!大成功!)
「どうしたの、先生?」
「何1人で笑ってるの? 気持ち悪いよ?」
「なっ!? 違う! これは……」
平九郎は、慌てて祐助の居た方向を指さしたが、
「あっ…、あれ……?」
何処を見ても、彼の姿は既に無かった。
「に…、逃げやがったなぁ……!」
「先生? あそこがどうしたの?」
「幽霊でもいたの?此処は命連寺じゃないよ?」
「それとも先生、幻覚でも見たの?」
「永遠亭に行った方がいいんじゃないの?」
「病なら、もう人生詰んだよね?」
「今日の授業は出来ないよね?もうゴールしても良いよね?」
「ひ、酷い……君達酷すぎる……」
子供達からの容赦ないツッコミに、涙目の平九郎。
「(祐さん、覚えてろよぉぉぉ!!)」
心の中で、そう叫んでいた。
――――――――――――――――――――
「ふっ…、まだまだ青いぜ、平九郎…」
久しぶりにしてやったりだったな。
全く以て愉快、愉快♪
さぁて、散歩を再開しようかね。
「そうだ、本屋でも行くか」
まだ暇を持て余しているんだ、この機会に読みたい本でも買っておくか。
幻想郷の人里にある本屋は一軒だけ。
貸本屋、『鈴奈庵』だ。
外の世界から流れてきた本が多くあり、俺も時々此処で読み漁っている。
だが、あそこはそれだけじゃないんだよな…。
そんな事を考えているうちに、鈴奈庵に到着した。
「ごめんよー」
出て来たのは、鈴奈庵の店主だった。
「いらっしゃい……って、祐助君じゃないか、怪我は大丈夫なのかい?」
「ああ、おじさん。今日は店にいたんですか」
「さっき、外回りを終わらせてきたところだ」
「そうでしたか、俺の方は大丈夫っすよ、この通りね」
軽く身体を動かして、順調である事をアピールしておいた。
「仕事とはいえ、あんまり無茶はするなよ? 妖怪にやられたなんて聞いたら、心臓が縮むぜ」
「お気遣い感謝します、でもね、俺もこれが仕事ですから。 多少の怪我は覚悟しないと…」
「もう、博麗の巫女に任せれば良いじゃないか?」
「そうはいきません、表向きは猟師であっても、近藤の家の本来の仕事は妖怪退治なんですから。 俺の代で絶やす訳にはいきません」
「君も頑固だなぁ…」
「親父に似たんですよ」
「「ハハハハハ……」」
俺と店主、二人して談笑をしていた。
ここの店主は良い人だよ、普段は余り店には居ないけど。
「…ところで、新しい本は入りましたか?」
「ああ、それなら小鈴に聞いた方が早い」
「なるほど…」
店主は、店の奥へと入って行った。
「小鈴! お客さんの相手をしてあげなさい」
「はーい!」
店主の代わりに出て来たのは、この店の売り子をしている『本居小鈴』である。
なかなか、可愛い娘さんだ。
だが、騙されちゃいけない。
この子の能力は、なかなかずば抜けているんだ。
「いらっしゃいませー…」
「よう小鈴ちゃん、元気してたか?」
「あっ! 祐助さーん!」
俺の姿を見るなり、いきなり飛びついてくる小鈴ちゃん。
この子が幼少の頃、面倒を見ていた事もあり、俺にはよく懐いている。
「おいおい…、嬉しいのは分かるが、こっちは病み上がりなんでね、お手柔らかに頼むよ」
「もう…、心配したんですよ!」
「ああ…、悪い……」
少し怒った表情で、俺を見上げる小鈴ちゃん。
怒った顔も可愛いとは、こういう事か。
「祐助さんは、大事なお客さんなんですから、無理をしないで下さいね!」
「その台詞は、みんなから言われて、耳にタコが出来たよ…」
「当たり前です! こんな事を何回も繰り返してるんですから!」
「分かったよ…、ところで、新しい本は入ったかい?」
「はいっ、何冊か入りましたよ。 ちょっと待ってて下さい」
そう言うと、彼女は店の奥へと向かって行った。
少し待った後、何冊かの本を抱えて戻ってきた。
「とりあえず、こんなものですかね…」
「どれどれ、ちょいと拝見…」
彼女が持ってきた本を手に取り、読み始めた。
そうして半時程、小鈴ちゃんと談笑しながら本を読んでいた。
「…よし、全部読み終えたっと」
「どうでしたか?」
「この三冊は面白かった、買うよ」
「毎度ありがとうございまーす!」
そうして、本の会計を済ませた。
「なぁ、小鈴ちゃん…」
「何ですか?」
「好きとはいえ、これは頂けないなぁ…」
俺は、そう言って一冊の本を手に取った。
それは、所謂『妖魔本』である。
特殊な字のせいで内容は分からないが、こういう稼業をしていると、これが危険な本だというのがヒシヒシと伝わってくる。
「その本、私はちゃんと読めますから。 内容はちょっとした呪術的なものでしたよ」
「それ、尚更ダメだろ…」
「大丈夫ですよ、問題があれば霊夢さんにお願いしますから!」
「他力本願かよ、尚悪いぞ…」
「それに、目の前にも信頼出来る人が居ますから…」
そう言うと、小鈴ちゃんは俺の手を、ギュッと握ってきた。
「祐助さん…」
俺の名前だけ呼ぶと、彼女は俯いてしまった。
まだまだ、子供だな。
「…大丈夫だよ小鈴ちゃん、俺はいつだって君の味方だ。困った事があったら相談に乗ってやるよ」
彼女の頭を撫でながら笑顔で答えてやると、小鈴ちゃんの表情も再び明るくなった。
「…ありがとう」
顔を赤くしながら、そう一言だけ呟いた。
「俺はもう帰るから。お父さんに宜しくな」
「…はい、またのご来店をお待ちしております!」
最後に、彼女は元気良く挨拶をしてくれた。
やっぱり、彼女には笑顔が似合う。
そして、俺は店を後にした。
彼女は寂しかったのだろうか?
どうも、あの表情が印象に残ってしまっている。
恐らく、阿求のお嬢が余計な事を吹き込んだのだろう。
そうなると、事を大袈裟にするんだから尚悪い。
これだから、稗田の家とはあんまり関わりたく無いんだよ。
だが俺の立場上、そうはいかないのがツラい。
「はぁ…、早く帰ろ…」
俺は、買った本を片手に杖を付きながら家路についた。
日はまだ高かったが、今日は帰りたかった。
しばらく動いていなかったせいか、体力が落ちているのが、はっきりと分かる。
リハビリ続けなきゃな…。
ギャグを書いたつもりですが…。
自分は、センスが無いのかもしれない…orz