痛快! 男達の幻想郷   作:豊之丞

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人間が唐傘妖怪を連れて、寺子屋に駆け込んで来ました。


唐傘妖怪のお泊まり

「慧音さん、居るか?」

 

怪我を負った小傘を抱いた祐助が、寺子屋へと駆け込んできた。

 

「…祐助か、珍しいな………って、どうしたんだその妖怪は!?」

 

「ああ、見事にやられた」

 

「一体、誰がやったんだ!?」

 

「詳しい話は後だ、薬や包帯を準備して欲しい!」

 

「分かった! 中に入れ!」

 

慧音に導かれ、彼は妖怪を抱いたまま中へ上がった。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「少し痛いからな、我慢しろよ」

 

「うぅ…、痛いよぉ…」

 

慧音が血塗れの小傘の身体を拭き、怪我の箇所には塗り薬を施し絆創膏を貼っていった。

 

「骨が折れてる所を矯正するからな、ちょっと痛いぞ」

 

「えっ…、どうするの?」

 

「…それっ!」

 

(コキッ!)

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!」

 

折れた箇所を真っ直ぐに矯正するが、少々強引だった為か激痛が走り、小傘は痛みで絶叫した。

 

「ゆ、祐助、少し無理矢理過ぎるぞ…」

 

「痛かったか? ごめんな…、だが、もう大丈夫だ」

 

祐助は、小傘の脚に添え木をし、包帯を巻いた。

 

「今のは、とっても痛かったよぉ…」

 

「ごめんごめん、これで終わりだからな」

 

包帯を巻き終え、固定されている事を確認する。

 

「よし…、これでしばらく様子見だな」

 

「妖怪だから、3日程すればある程度は治るだろう」

 

手当てを終え、安堵する二人。

 

「横になりな」

 

小傘を寝かせると、祐助はお茶 を淹れる。

 

「これを飲め、少しは楽になる」

 

「う、うん……」

 

彼女は、祐助の言うとおりに湯呑みのお茶を一気に飲んだ。

 

「いい子だな」

 

「あ…あれ…、急に眠くなってきた……」

 

そう口にした小傘は、静かに意識を手放した。

 

「流石は永遠亭の薬だな、直ぐに効き目が出て来た」

 

「あのお茶に、何を混ぜたんだ?」

 

「鎮痛剤と睡眠薬を混合した永遠亭独自の薬さ、しばらく眠れば痛みも多少は和らげるだろう」

 

「そうか、なるほどな…」

 

祐助の説明に、慧音は納得の様子だった。

 

「慧音さん、あんたはこの妖怪の事を知ってるか?俺は見覚えはあるが、何処の妖怪だったかは思い出せないんだ」

 

「ああ、コイツは多々良小傘って言ってな、命蓮寺に出入りしてる妖怪なんだ」

 

「…命蓮寺か!道理で見覚えがあると思ったんだ」

 

「尤も、本人は信者では無いと否定してるがな」

 

「なるほどな…」

 

「…ところで祐助、この妖怪の怪我の事だが…」

 

「そうだったな、何でこの妖怪がこんな目に遭ってたかは…」

 

 

祐助はありのままを話した。

 

墓地の外れで、人間達に暴行を加えられていた事。

もう少しで、殺されていた事。主犯格が、大店の息子だった事。

間一髪、彼が助け出した事を。

 

 

「そうだったのか…」

 

それを聞いた慧音は、全てを把握した。

 

「あの、バカ共がぁ…!!」

 

慧音もまた、怒りに震えていた。

 

「まあ、今回は見逃してやってくれ。 ちゃんと俺から制裁は加えておいたから」

 

「し、しかし…」

 

「俺だって、緊急とはいえ怪我が完治してないうちから里の外に出てしまったんだ。 余り大きい顔は出来ない」

 

「………っ」

 

「今回だけは頼む。ただし、次やったら遠慮無く制裁を加えればいいからさ」

 

「…お前がそう言うなら、そうするよ」

 

「ありがとな、慧音さん」

 

彼は、軽く頭を下げた。

 

「だが、アイツ等はしばらく要注意だな。 自警団の人達にも一言伝えておく」

 

「そうだな、下手すれば事を大きくしかねないもんな」

 

「全くだ、仲間の妖怪共の報復が無かっただけでも良しとしないとな」

 

「仮に攻めて来た所で、俺が退治してやるよ」

 

「相変わらずだな」

 

「「ハハハハハ…」」

 

二人はしばらくの間、眠っている小傘の横で談笑していた。

 

「そう言えば、平九郎の姿が無いが?」

 

「ああ、平九郎は今子供達を連れて近場へ野外授業をしてるよ」

 

「そっか…」

 

(アイツにも謝っておかなきゃなぁ…)

 

 

――――――――――――――――――

 

 

それから一刻程、小傘が目を覚ました。

 

「…あ……あれ…、私…寝ちゃったの…?」

 

「おっ、お目覚めか?」

 

「どうだ? 傷は痛むか?」

 

「……まだ痛い………けど、さっきよりはマシになったかな…」

 

「そうか、それを聞いて安心したよ」

 

祐助と慧音は小傘の様子を見て、少しだけ安堵した。

 

「しかし、お前も運が悪かったな。 あんなロクでもない人間に捕まってしまって」

 

「うん…、もう懲りたよ………でも、私は誰かを驚かさないとお腹いっぱいにならないの…」

 

「君はそういう妖怪だったな、どうしたものか…」

 

少し考え込む祐助であったが、其処に慧音が声を掛ける。

 

「どうするかを考えるのはいいが…、彼女をどうする?」

 

「ああ、そうだな…、しばらくは俺が預かろう」

 

「預かるって、いいのか?」

 

祐助の一言に、慧音は驚きの声を上げる。

 

「問題無いだろう、怪我をしてるうちは何も出来ないだろうし、このまま放り出したら、またアイツらが仕返しをしないとも限らない」

 

「まぁ、確かにそうだが…」

 

「心配しなさんなって」

 

慧音を説得すると、今度は小傘に聞く。

 

「小傘さん、君さえ良ければ俺の家に来ないか?」

 

「えっ…、いいの?迷惑じゃない…?」

 

「ああ、構わないさ。怪我が治るまでは置いてあげるよ」

 

「うん…、行く……」

 

弱々しいながらも、小傘は首を縦に振った。

 

「決まりだな、それじゃあ、そろそろ帰るか、晩飯の支度もあるしな」

 

祐助が立ち上がると、小傘の元へと近付き

 

「抱っこしてやるから、掴まりな」

 

「は、はい…」

 

ひょいと抱き上げた。

 

「私も送ろう」

 

「ありがとな」

 

3人は寺子屋を出て、里の中を歩いた。

 

 

 

道中は、祐助が小傘を抱っこしたまま歩き、慧音が声を掛けながら横を歩いていた。

 

行き交う人々も見てはいたが、特段気にしている様子は無かった。

 

 

 

「…それじゃ、私はもう帰るよ」

 

「悪いな、こんな所まで送ってくれて」

 

「気にするな、大した距離じゃないよ」

 

「それじゃあ慧音さん、お休み」

 

「ああ、お休みなさい」

 

そうして、慧音は帰路についた。

 

 

「…よし小傘さん、此処が俺の家だ、立てるか?」

 

「うん、大丈夫…」

 

抱きかかえた小傘をゆっくりと下ろし立たせた。

 

「無理するな、掴まれ」

 

片足で立つ小傘を横から支え、家の中へ上げた。

 

「そこでしばらく横になってな、今から飯の準備をするからな」

 

「あ、ありがとう…」

 

座布団を枕代わりにして横になる小傘。

それを確認した祐助は、台所へと行った。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「さあ出来た! 今日は小傘さんの為に腕を振るったんだ。食べようか」

 

「うわぁぁぁぁ…」

 

食卓に並べられたご飯やおかずを見て、小傘は感嘆の声を上げた。

 

「どれもこれも武骨な男料理で済まない、これで勘弁してくれよな」

 

「そんな事無いよ、とっても美味しそうだよ!」

 

「そうか、そう言ってくれると助かるよ」

 

笑みを浮かべる小傘を見て、祐助もつられて笑みを浮かべた。

 

「これは、何て言うの?」

 

「これは、うちの庭で採れた野菜と、牛肉は無かったから、代わりに猪の肉を辛めの味付けで炒めた、外の世界では回鍋肉と呼ばれてるやつだ。こっちは、鶏の肉とネギを串で刺して焼いたねぎまってやつだ。 味は食べてみてのお楽しみだ」

 

「へぇ…、色々知ってるんだね…」

 

「ああ、俺は外の世界のマニアでね、この献立も外の世界の料理本を参考にしてみたんだ」

 

「そうなんだ…」

 

食卓の料理を、目を輝かせながら見ている小傘。

 

「さぁ、食べようか」

 

「うん!」

 

 

「「いただきます」」

 

 

箸を取り、おかずを一口頬張る。

 

「モグモグモグ……」

 

「………っ」

 

祐助も気になるのか、その様子を伺っていた。

 

「………っ」

 

「…味はどうだ? 辛くは無いか?」

 

「…美味しい……」

 

「そうか…、良かった」

 

それを聞いた彼は、笑顔になった。

 

「美味しい……美味しいよぉぉぉ………うえぇぇぇぇん……」

 

「…えっ? 何故に泣く訳?」

 

食べながら大粒の涙を流し泣き出した小傘に、祐助は戸惑ってしまう。

 

「だって……ぐす……私の為に、こんなに美味しいご飯を……作ってくれたんでしょ?……ぐすっ…ぐすっ……こんなに優しく接してくれた人間は、貴方が初めてだったから……嬉しくて……嬉しくて……、うわぁぁぁぁん!!」

 

彼女は感極まり、ついに大声で泣き出してしまった。

 

「嬉しいのは良いんだが…、そんなに泣くこと無いだろう? 弱ったなぁ…」

 

どうしたものかと、祐助は頭を抱えた。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

その後、小傘を宥めどうにか夕食を済ませ片付けをする祐助。

 

「よし、片付けは終わったし風呂入るか」

 

そう呟き、着替えとタオルを準備し風呂場へと向かう。

 

ちなみに、小傘は居間で静かに本を読んでいた。

 

 

 

 

「ふう…小傘か……、あの子はもっと強い筈だよな? 確か幻想郷縁起にも名前が載っていた筈だし…、弾幕ごっこより驚かす方が良いのかな?

しかし、あの野郎共にボコられてたのを見ると、驚かし方も下手なんだろうなぁ…。

何か、良い指南の仕方は無いかものねぇ……」

 

1人呟く祐助は、湯船に深く顔を沈めた。

 

 

 

 

「はぁ、さっぱりした!」

 

風呂から上がり、祐助は冷たいお茶を一気飲みする。

 

「……ふう、風呂上がりの一杯は最高やねぇ♪」

 

そして座敷に座ろうとすると、小傘がお願いをしてきた。

 

「ねぇ…、私もお茶が欲しい…」

 

「おっ、分かったよ。 待ってな」

 

彼女用の湯呑みにお茶を淹れ、彼女に渡した。

 

「ありがとう…」

 

「ゆっくり飲みなよ」

 

そう言って、祐助は座り煙管で煙草を吹かし始めた。

 

「ふぅ…」

 

「ねぇ、お兄さん…」

 

(お兄さんか、悪くない)

 

「どうした?」

 

「今日は、助けてくれてありがとう…」

 

「あんなの、何てこと無いさ」

 

「ねえ…」

 

「うん?」

 

「何であの時…、私を助けてくれたの?」

 

「何でって言われるとなぁ…、そうだなぁ…」

 

煙草を吹かし、ふうっとひと息つきながら答える。

 

「無抵抗な相手を寄ってたかって暴行するヤツを見ると腹が立つんだ。 大抵そういうヤツは1人じゃ何も出来ない弱いヤツでな、ああいったヤツら程、徒党を組んでやりたい放題するんだ。そういうのを見ると、虫酸が走るんだ」

 

彼は静かな口調で語ったが、微かに怒りも含まれていた。

 

「私が妖怪だって知ってて助けたの?」

 

「勿論だ、妖怪だろうと妖精だろうと、あんな状況を見過ごす事は出来ないよ。 だが…」

 

「……っ?」

 

「一昔前の自分だったら、違っていただろう…」

 

彼は、何処か遠い目をしていた。

 

「…お兄さん?」

 

「…小傘、君さえ良ければ、その怪我が治ったら武術を教えてやろうか?」

 

「えっ? 私に武術を?」

 

「そうだ、あんなヤツらに見下されちゃ悔しいだろ? 強くなって見返してやれ」

 

「で、でも、私に出来るかな…?」

 

「大丈夫! 先ずは手解きから教えてやるよ」

 

「うーん…」

 

「自分で言うのも何だが、俺はそりなりの使い手だ。里の人間同士なら負け知らずだし、先代の博麗の巫女も、ボコってやったからな」

 

「へっ?博麗の巫女に勝てるの?」

 

その言葉に、小傘は目を丸くした。

 

「単純な武術勝負なら勝てる、だが博麗の巫女が総合的な術で攻めて来たら勝てないだろうなぁ」

 

「へぇ…」

 

(この人、実は凄い人間なのかも…)

 

「…それで、どうする?」

 

「私に出来るなら、やってみたい…!」

 

小声ながらも、力強く答える小傘。

 

「よし分かった! 怪我が治ったら簡単な練習から始めよう」

 

「は、はい!」

 

祐助は小傘の頭を撫でながら、煙管内の灰を落とした。

 

「それじゃ、寝るか」

 

彼は二人分の布団を用意し、

小傘は隣の部屋で寝させた。

 

「じゃ、お休み」

 

「はい、お休みなさーい」

 

そうして、部屋の行灯の火が消された

 




本作の小傘は、これがターニングポイントになります。
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