投稿します!
試行錯誤しての投稿です。
それではどうぞ!
第3Q、残り4分20秒。
花月 51
陽泉 67
「私が中から点を取ります」
紫原の言葉を受け、調子を崩していた大地がそう告げた。
「(…なに今の? 今の感覚は、帝光中時代のあの時の赤ちんと1ON1した時の…)」
大地の言葉を聞こえ、振り返った時、紫原の背筋に一瞬寒気が襲った。それはかつて帝光中時代、練習の参加に嫌気がさし、赤司に反発した時の事だ。
紫原は赤司の指示に従う事に疑問を覚え、反発し、赤司と1ON1、5本先取の勝負をした。勝負は紫原が先に4本決め、逆に赤司のオフェンスを4本止め、完全に紫原がリードしていた。だが、トドメの1本を決めようとした時、赤司のもう1つの人格が現れ、紫原のボールをいとも簡単に奪い去った。
『少し調子に乗り過ぎたぞ、敦。あまり僕を怒らせるな。僕に逆らう奴は、親でも殺すぞ』
その時に発した赤司の言葉と威圧感。紫原は今でも覚えている。
そして今、大地に振り返った時、その時の赤司と似た感覚を大地から感じ取った。
「(ま、どうせ気のせいでしょ)」
引っかかりはあったものの、紫原は気のせいだと今の出来事を頭の片隅に追いやったのだった。
花月のリスタート。天野から竜崎にボールが渡り、竜崎はすかさず大地にボールを渡した。
「…」
スリーポイントラインの外側、右45度の位置でボールを受け取り、構える大地。
「(サッキマデト様子ガ違ウ。…来ル!)」
大地をマークするアンリも大地の変化を感じ取り、腰を落とし、集中力を全開にする。
「(アンリがマジになった。マジになったアンリを抜くのは至難の業だ!)」
集中しきったアンリを見て木下がこの1ON1はアンリが制すると確信した。
「…」
ボールを小刻みに動かし、チャンスを窺う大地。
――ダムッ!!!
機を見て大地が一気に加速。仕掛ける。
「(ッ!? 速イ!)」
これまで以上のスピードで仕掛けてきた大地に驚くも持ち前の身体能力で大地に食らいつくアンリ。
――ダムッ…ダムッ!!!
「クッ!」
大地はバックチェンジからのクロスオーバーでアンリを抜き去った。
『うぉぉっ! 速ぇ!!!』
アンリを抜いた大地はそのままリングへと突き進む。
「はぁ? 来いよ」
ゴール下で待ち構える紫原。
大地は紫原から僅かに距離を置いた所で急停止し、リングに視線を向けた。
「ちっ!」
直感でシュートを察知した紫原は大地との距離を一気に詰める。
――ダムッ!!!
だが、大地は視線をリングに向けただけでボールを両手で保持してはおらず、距離を詰める紫原の横をドライブで駆け抜ける。
「…っ! このぉっ!」
これに反応した紫原はすぐさま反転。リングに向かう大地を追いかけようとする。だが…。
――ダムッ!!!
直後、大地はバックステップ。リングに振り返った紫原の横をバックステップで通り抜けた。そこでボールを掴み、シュート態勢に入った。
「…調子に、乗んな!」
――バチィィィィッ!!!
だが、これに反応した紫原は大地の後ろから腕を伸ばし、大地の放ったボールを叩き落とした。
「…っ!?」
決められると思っていた大地は思わず目を見開いた。
『紫原の反射神経と身体能力が勝った!』
「ナイス。助カッタヨ!」
ルーズボールを拾ったアンリは礼を言って永野にボールを渡した。
「あかん、戻れ!」
「…くっ!」
天野の声に、大地は悔しさを露にしながらディフェンスに戻っていった。
「アンリ!」
ボールを運んだ永野はアンリにパスを出す。
「行かせません…!」
アンリがボールを受け取ったのと同時に大地が目の前に回り込んだ。
――ダムッ!!!
一気に加速し、切り込むアンリ。大地はこのドライブに遅れずにピタリと並走する。抜けないと見て急停止すると直後、大地が距離を詰めてガンガンプレッシャーをかける。
「…グッ!」
ボールを掴んだアンリ。大地の受けてシュート態勢に持っていけない。
「(サッキマデトワマルデ別人ダ! コレデワ打テナイ!)」
大地の変化を肌で感じ取り、戸惑いを隠せないアンリ。このままではボールをキープ出来ない。
「よこせ!」
その時、ローポストに立った紫原がボールを要求する。
「頼ム!」
ボールを頭上から放って紫原にパスを出した。
「…っ! いい加減鬱陶しいんだよ!」
ゴール下まで室井を押し込んだ紫原は両手でballを掴んでその場で横回転しながらリングに向かって飛び…。
――バキャァァァッ!!!
「ぐっ!」
「がっ!」
天野と室井を弾き飛ばしながらボールをリングに叩きこんだ。
『おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』
紫原のトールハンマーが炸裂し、観客が沸き上がった。
「スマン、次は止めて――っ!?」
失点を防げず、大地に謝罪をする天野。
「…もっと速く、もっと鋭く…!」
鬼気迫る表情で独り言を囁く大地。そんな大地を見て天野は息を飲むのであった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
花月のオフェンス。再びボールを受け取った大地は中へと切り込む。
「ッ!?」
後を追おうとしたアンリだったが、天野のスクリーンに阻まれる。
「また来るの? いいよ。捻り潰してやるよ」
中で待ち構えるのは当然紫原。それでもお構いなしに大地は中へと切り込み、ボールを掴んで飛んだ。
「無駄なんだよ!」
ボールを持って飛んだ大地に対して紫原がブロックに飛ぶ。
――スッ…。
紫原がブロックに現れると、大地はボールを下げ、空中で反転し、紫原に背中を向け、左手にボールを持ち替えてフワリと浮かせるようにしてリングにボールを放った。
「っ!?」
腕をボールに伸ばしてブロックに向かった紫原だったが紙一重で間に合わず。
――ガン!!!
しかし、ボールはリングに嫌われてしまう。
『あー! 惜しい!!!』
点が決まらず、観客から溜息が出る。
『ピピーーー!!!』
『ディフェンス、イリーガル! 白6番!』
レフェリーが紫原のファールをコールした。腕を伸ばした際に紫原の身体が大地に接触していたのだ。
「…ちっ」
ファールを宣告されると紫原は舌打ちを打った。
「(だが今のはファールがなければ決まっていた。あの紫原がブロック出来なかった。どうなってやがる…)」
絶対的なディフェンス力を誇る紫原がブロック出来なかった事に驚愕する永野。
――ザシュッ!!!
大地は落ち着いてフリースローきっちり2本決め、点差を再び16点にした。
陽泉のオフェンス。
――バキャァァァッ!!!
ボールを運んだ永野がリングに付近にボールを高く放り、そこに走りこんだアンリが空中でボールを掴み、そのままリングに叩きこんだ。
「…っ」
身長差がある大地ではアリウープを阻止出来ず、歯をきつく噛みしめたのだった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
――ダムッ!!!
大地はボールを受け取ると高速のドライブでアンリを抜き去り、三度切り込んでいく。
――ダムッ!!!
紫原との距離がある程度縮まると急停止と同時に高速バックステップで下がり、紫原との距離を空けた。そのままボールを掴み、真後ろに飛びながらシュート態勢に入った。
「…っ! 調子に乗るなよ!」
――チッ…。
距離を詰めてブロックに飛んだ紫原の伸ばした手の指先にボールが僅かに触る。
――ガン!!!
ボールに触れられた事で軌道が僅かに逸れ、ボールはリングに弾かれた。
――ポン…。
だが、弾かれたボールを天野がタップで押し込んだ。
「ありがとうございます」
「礼なんていらんわ。当然の事やで」
礼を言う大地に対し、天野は当然の事と手で制した。
「(今のも紫原のブロックはかなりきわどかった。今までは確実にボールを叩いていたのに今のは辛うじて指に触れただけ。やはり間違いない。綾瀬のスピードとキレが増してきている…!)」
目の前で大地と紫原の攻防を見ていた木下は大地の変化に驚きを隠せなかった。
「まだです。…まだ足りない」
ディフェンスに戻りながら大地は自分に言い聞かせるように呟いていた。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「いいぞ。綾瀬のおかげで中で点を取れるようになってきた。これなら…!」
乱調から脱した大地の活躍もあり、花月が点を取れるようになった。可能性が出てきたと喜ぶ田仲。
「だが、点差は縮まっていない」
「あっ…」
新海の指摘にその事実に気付く田仲。
第3Q、残り2分56秒
花月 55
陽泉 71
確かに花月は中で点を取れていた。だが、陽泉のオフェンスを止める事も出来ていないのだ。
「強力なインサイドである紫原先輩。外から切り込んで点が取れるスラッシャータイプのアンリ。この2人を止める事は困難だ。5番の外があるから不用意に中も固められない。正直ジリ貧だ」
状況を冷静に分析する新海。
「…いや、やばいのはここからだ。恐らく――」
コートを見つめていた火神がおもむろに予言する。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「(…しぶとい奴らだ。1本でもオフェンスをしくじったら流れを持っていかれちまう。ここは確実に――)」
この1本は慎重に攻めようと決めた永野。その時…。
「あーあ、いつまでも粘られる展開にも飽きてきた。けど、それ以上に、不愉快だわ」
「っ!?」
永野の横に並ぶ紫原。その表情を見て永野は思わず背筋が凍った。
「ボールちょうだい。いちいちパス待つのも面倒くさいから、俺が直接捻り潰すよ」
そう告げて、紫原はスリーポイントラインの外側、左45度のポジションに移動した。
「っ!」
迫力に押される永野。紫原が移動し、手を上げてボールを要求したのと同時にパスを出した。
「っ!」
ボールを受け取る紫原。目の前に大地が立った。
「…確か、綾瀬だっけ? 神城? とか言う奴も、みどちんに勝って、青ちんを追い詰めただけの事はあって、小さいけど確かに才能はあるみたいだね。それは認めてやるよ。…けど、これ以上お前らに調子に乗られるのは我慢出来ないわ」
ゆっくりとドリブルを始める紫原。
「もうお前には何もさせない。俺が直接捻り潰してやるよ!」
――ダムッ!!!
宣言と同時に紫原が切り込んでいく。
「(…速い!)」
2メートルを優に超える巨体からは似合わないスピードとキレがあるドライブを仕掛けられ、驚愕するも大地はこれに対応する。
――ダムッ!!!
直後、紫原はバックロールターンで反転。大地の後方へと抜けていく。
『スゲー、抜いたぁっ!』
大地を抜いた紫原はそのままリングに向かって突き進んでいく。
「くっ!」
慌てて室井がヘルプに飛び出す。
「…お前、パワーはあるけど、それ以外は話にならないよ」
――ダムッ!!!
飛び出した室井をクロスオーバーで一瞬で抜き去った。同時にボールを右手で掴んでリングに向かって跳躍した。
「くっ! まだです!」
室井を抜き去る際にスピードが緩んだ隙に追い付いた大地がブロックに現れた。
「いい加減学べば? お前程度ブロックに現れても意味がないんだよ!」
――バキャァァァッ!!!
「ぐぅっ!」
紫原はブロック等お構いなしにボールをリングに叩きつける。ブロックに向かった大地は為す術なくコートに叩きつけられてしまう。
「ダイ! 大丈夫!?」
あまりの衝撃に生嶋が大地の下に駆け寄る。
「だい…じょうぶです。…っ」
一瞬苦痛で顔を歪ませるも大地は膝に手を置き、力を込めて立ち上がった。
「それよりオフェンスです。取り返しますよ」
大地は前を見据えながら言ったのだった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
花月のオフェンス。ボールを運んだ竜崎は生嶋にパスを出した。
「…打たせん!」
スリーポイントラインの外側で生嶋がボールを受け取ったのと同時に木下が激しくプレッシャーをかける。
「(くっそ…! ここまでプレッシャーが激しいとシュート態勢に入れない!)」
激しく密着させるようにディフェンスをする木下。その為、生嶋はシュートはおろかドリブルをする事もままならない。
「こっちです!」
そこへ、大地がボールを要求する。
「お願い!」
隙を付いて大地にパスを出した。
――ダムッ!!!
ボールを掴むのと同時にドライブ。目の前のアンリを抜き去る。
『おぉっ! また抜いたぁっ!』
同時に観客から歓声が上がる。
「(……おかしい)」
直後、大地はある違和感に気付く。
やけにあっさりと中へ切り込めた。アンリのディフェンスがあまりにもあっさり過ぎる。まるでわざと抜かせたような…。
そう思い当たった大地。この考えは当たっていた。陽泉の選手達がディフェンスに戻る際、紫原は…。
『みんな外だけ警戒してくれればそれでいいよ。アンリちんも、綾瀬がもし中に切り込んできても無理して止めなくていいから』
と、話していたのだ。
自分1人で大地を止める為、紫原は中から人を追い出し、事実上の大地との1対1を仕掛けたのだ。
「…来いよ」
ゴール下に立つ紫原が静かにプレッシャーを放つ。
「…っ!」
プレッシャーを受けて大地は僅かに圧倒される。
――ダムッ!!!
フリースローラインを越えた所で急停止からのバックステップ。同時にボールを掴んでシュート態勢に入った。
「お前のそれももう見飽きたよ」
――バシィィィッ!!!
「っ!?」
ボールが放ったのと同時にブロックに現れた紫原によってボールは叩き落とされた。
「ナイスブロック、紫原さん!」
ルーズボールを渡辺が抑え、前方へ大きな縦パスを出した。そこには既にアンリが走りこんでいた。
「っ!? あかん、戻れ!」
すかさず叫ぶ天野。だが、他の花月の選手達も反応出来ず、シュートを打ちに行った大地は当然戻れるはずもなく…。
――バキャァァァッ!!!
ノーマークでボールを受け取ったアンリは悠々とダンクを叩き込んだ。
『おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』
「ヨシ!」
リングから手を放し、コートに着地をしたアンリは拳を握りながら喜びを露にした。
「……20点差」
ベンチの菅野が電光掲示板の得点を見て苦い表情で呟く。これまで16点~18点差を繰り返してきたが、ここに来て遂に均衡が崩れたのだ。
「…ちっ、まだや! 落ち着いて1本返すで!」
暗くなりかけた空気を天野が声を張り上げて払拭させようとする。
室井がボールを拾い、リスタート。竜崎がボールを運ぶ。
「(…くそっ! 外の警戒が強い。これじゃ外は打てない…!)」
隙あらば積極的に外を打つつもりだった竜崎だったが陽泉のディフェンスが打つ隙を与えてくれない。
「…あのさあ、もう諦めたら? まだ勝つ気でいるみたいだけどさ、もう状況は理解してるでしょ?」
未だ、戦意を捨てていない花月の選手達を見て紫原は冷めたような目付きで言い放つ。
「…俺は阿呆やからのう。教わっとらん事は出来へん。花月に来て2年以上経つが、監督から『諦める』言う言葉を教わった事は1度もあらへん。やから、最後まで勝ちに行くで」
睨み付けるように返す天野。生嶋と、竜崎と室井も同様の考えであり、試合を投げてはいなかった。
「…ふーん。だったら分からせてやるよ。希望も可能性もないのに足掻いた所で余計に痛い思いするだけだって」
天野の回答と他の選手達を見て紫原の目付きが再び鋭くなった。
ボールが大地に渡り、再び中へと切り込んだ。今度は下がらず、そのまま突き進み、バックロールターンで紫原をかわし、そのままリングん向かって飛んだ。
――バチィィィィッ!!!
だが、後ろから伸びてきた紫原の手によってブロックされてしまう。
『アウトオブバウンズ、緑(花月)ボール!』
ボールはラインを割ってコートの外へと飛び出た。
「見飽きたって言っただろ? お前がバックステップする時って僅かに上体が上がるしスピードも僅かに落ちてる。だから何度か見れば下がるか下がらないか見分けがつくんだよ」
「…っ!?」
紫原の指摘を受けて大地は目を見開いて驚愕する。
「…綾瀬君はバックステップを行う時は後ろに下がる為の力を確保する為に上半身を起こすからスピードも僅かに落ちてしまう…」
観客席の桃井がボソリと大地のドライブからの高速バックステップの解説をする。
高速のドライブから急停止するだけでも足腰にかかる負担は大きい。故に大地は負担を軽くする為に無意識にスピードを落とし、後ろに下がりやすい態勢を作っていたのだ。
「…」
隣の青峰も直感で理解していたのか、無言でコートを見つめていた。
「悪足掻きするって言うなら好きにすれば? そんな気も失せる程捻り潰すだけだから」
未だ希望を抱く花月の選手達の心を打ち砕くように放たれる紫原の言葉。
「何をしようが、どう足掻こうが、勝敗が覆る事はもうない。これが現実。もうお前達の負けだよ」
淡々と無慈悲な言葉を紫原は言い放ったのだった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「(……負ける?)」
紫原の放った言葉が大地の頭の中を反芻する。
「…っ!」
直後、大地の胸を張り避けるような激痛が襲い、そして走馬灯のように記憶が巡る。昨年のウィンターカップの敗北が…。
悔しさを露にする選手達の表情。最後の大会を敗北で終える先輩達の無念。そして…。
『…っ』
空の、チームを勝利させる事が出来なかった悔しさと無念の涙。
「(…………嫌だ)」
あんな思いは2度としたくない。
「(…………嫌だ)」
自身の1番の友であり、相棒である空の無念の思いで流す涙を見たくない。
「(もう負けたくない。あんな思いはもうしたくない! もう、試合に負けて流す皆の涙は見たくない!)」
敗北を強く否定する大地。だが、目の前で突き付けられた現実はとてつもなく非情なものであった。
自身の最大の武器はもはや通じない。この圧倒的な劣勢を覆すものはない。
考えれば考える程大地の脳裏を塗りつくし、浸食していく『敗北』という言葉が…。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!」
大地は天を仰ぎ、雄叫びのような咆哮を上げた。
『…っ!?』
突然の大地の奇行に花月の選手達は動揺する。
「抗えない今の状況を目の前に発狂でもしたか? だが、これが現実だ。紫原の言葉を肯定するつもりはないが、圧倒的過ぎる才能は、時としてあらゆる努力を無にしてしまう」
咆哮を上げる大地を見て、その心情を理解し、それでも非情な現実を語る荒木。
花月がリスタートし、ボールを回してシュートチャンスを窺う。だが、シュートチャンスを作る事が出来ない。
――バシィィィッ!!!
出されたパスをアンリによってスティールされてしまう。
「トドメを刺せ、アンリ」
荒木が静かにそう口にする。
ボールを奪取したアンリはそのままワンマン速攻をかける。
「くそっ! くそっ!」
悔しさを口にしながらアンリを追いかける竜崎。だが、アンリのスピードはすさまじく、ドリブルをしているのにも関わらず引き離されていく。
ここを取られてしまえば、脳裏の片隅に追いやっている『敗北』という言葉が決壊したダムの如く脳裏を支配してしまうだろう。だが、アンリに追い付く事は出来ない。
もう…、どうする事も出来ないのか……、誰もがそう思ったその時!
「ッ!?」
スリーポイントラインを越えようとした直前、1つの影がアンリを追い越し、回り込んだ。
「…」
現れたのは大地。アンリの進行を阻むように立ち塞がる。
「(追イ付カレタ? ケド、君デハ僕ハ止メラレナイ!)」
――ダムッ!!!
急停止したアンリはすぐさま一気に加速。自慢のスピードとアジリティを生かしたドライブを仕掛ける。
「ナッ!?」
直後、アンリの表情が驚愕に染まる。
高速のドライブを仕掛けたアンリ。対する大地は振り返らず、後ろ向きのままで下がりながらアンリに並走したからだ。
「クッ! ナラバ!」
抜けないと見て急停止し、ボールを掴んでシュート態勢に入った。
「(飛ンデシマエバ止メラレナイ!)」
ジャンプ力と滞空力に優れたアンリがシュート態勢に入ってしまえばブロックされる事はない。
――バシィィィッ!!!
『ッ!?』
だが、アンリがボールを頭上に掲げようとした瞬間、アンリの持つボールを大地は叩き落した。
カットしたボールをすぐさま拾い、そのままドリブルを始めた。
「…ちっ、ここを止めて今度こそトドメだ!」
フロントコートまで進むと、永野が大地に立ち塞がる。
――キュッ!!!
その瞬間、大地は急停止。
――ダムッ!!!
同時に急発進。緩急をもって永野を抜き去る。
「っ!? は、速い!?」
その規格外の緩急とスピードに目を見開く永野。
「…まだ足掻くの? 鬱陶しいなぁ。口で言っても分からないなら力で分からせてやるよ」
大地にうんざりする紫原。両腕を広げて立ち塞がる。
永野を抜き去り、中へと切り込む大地。
「(…上体が低い。このまま来る)」
大地の態勢を見て、突っ込んで来ると予測する紫原。
――キュッ!!!
だが、予測とは裏腹に大地は急停止した。
「(読みが外れた? けど、関係ない。この距離なら例え下がっても追い付ける!)」
すぐ後にくるバックステップに備えて紫原が大地との距離を詰める。
「あ…れ…?」
ここで、紫原は奇妙な感覚に襲われた。
距離を詰める為にゴール下から飛び出した紫原。だが、大地との距離が全く縮まらない。
大地はシュート態勢に入り、そのままボールを放った。
――ザシュッ!!!
ボールはリングの中心を潜り抜けた。
「…えっ? 何が起きたの?」
何が起きた分からない紫原の頭の中は混乱する。
「何て奴だ…!」
離れた位置から見ていた木下には今、何が起きたの理解していた。
大地がした事は今までと変わらない。ただ下がっただけ。ただ…。
――態勢を一切変えず、距離を詰める紫原と変わらないスピードで…。
「…負けません。もう負けるのは嫌です」
コートに着地した大地は静かな声で、それでいてよく通る声で静かに言葉を口にする。
「空は身体を張って私をコートに残してくれました。ここで負けてしまったら矮小な私を花月のエースだと言ってくれた空に合わせる顔がありません」
ここで大地が紫原に振り返る。
「っ!?」
振り返った大地を見て紫原が目を見開く。
「あなたは花月が負ける事が現実だと言いました。もし、それが現実だと言うなら、そんな現実は、私が変えてみせます!」
声高々とそう宣言する大地。
――大地が、ゾーンの領域へと足を踏み入れた……。
続く
当初、この試合は過去のキセキの世代の試合の中で1番短い試合になるかも? っと、思っていたのですが、もしかしたら1番長い試合になるかもしれません…(;^ω^)
正直、陽泉…というか、紫原との試合は描写が難しいです。原作での紫原のあの凄さを表現するのはまー辛い! こういう所で文才のなさが出て悔しいです…(>_<)
今年も残すところあと僅か、後1話、投稿出来たらと思います。
感想、アドバイスお待ちしております。
それではまた!