黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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第11Q~勝利者~

 

――ダム…ダム…。

 

 

空がボールをキープし、チャンスを窺う。

 

 

 

――ピッ!!!

 

 

 

大地がマークに付いている前田を一瞬の隙を突いてマークを外す。空はそれを見計らったかのようにマークが外れると同時に高速のパスを出す。

 

 

――バス!!!

 

 

大地は落ち着いてレイアップでゴールを決める。

 

 

星南  69

城ケ崎 69

 

残り時間4分。試合は再び振りだしに戻る。

 

城ケ崎は素早くリスタートし小牧にボールが渡る。小牧はボールをゆっくりキープしながらゲームメイクを進める。

 

「2番!」

 

小牧がそう声を上げると同時に左手の指を2本出す。それを合図に城ケ崎が動き出す。生嶋がフリーになるべく左サイド3Pラインギリギリまで走って移動し、生嶋のマークに付いている大地に前田がスクリーンをかける。

 

「(ナンバープレーか!?)」

 

空は城ケ崎がやろうとしていることを即座に理解する。

 

「(フィニッシュは生嶋で来るはず、なら!)」

 

空は小牧のマークを外し、生嶋にディフェンスにいく。

 

「スクリーン!」

 

味方からの声に反応し、大地は前田のスクリーンをかわし、生嶋を追う。

 

生嶋が動き出したのと同時に小牧はパスを捌く。生嶋には空と大地の2人がマークに向っていた。城ケ崎のオフェンスを先読みした星南がスティールに向かう、だが…。

 

『っ!?』

 

星南はここで驚きの表情を露わにした。小牧がパスを出した相手は生嶋ではなく…。

 

「あっ!」

 

ゴール下に陣取っていた末広だった。これには星南のすべての選手が不意を突かれた。

 

「くそっ!」

 

シュート体勢に入った末広に田仲が慌ててブロックに向かうが間に合わず、ボールはリングを潜った。

 

 

星南  69

城ケ崎 71

 

『うおぉーーーっ! ここで中か!』

 

『絶妙のタイミングだ!』

 

この小牧の好判断に観客も唸り声を上げる。生嶋が散々外を意識させ、それを見透かしたかのように中へとボールを渡す。

 

「ちっ」

 

空は思わず舌打ちをする。もともと、インサイドは城ケ崎に分があった。それを何とかゾーンで抑えていたのだが、ディフェンスが外に向き過ぎたため、中が手薄になってしまった。これにより、星南は的を絞れなくなり、苦しい展開になった。

 

星南はリスタートし、再び空がゲームメイクを始める。

 

「…」

 

空はいつもとは一転してゆっくりボールを進めていく。流れは今、城ケ崎に傾きつつある。万が一、ここを落とし、失点をすれば完全に流れは城ケ崎に傾き、残り時間を考えても試合は星南の敗北がほぼ確定する。

 

城ケ崎もそれを理解しており、この試合1番気合の入ったディフェンスをしている。

 

「…」

 

空が中央3Pラインの僅か外側でトリプルスレッドの構えで様子を窺う。

 

「(ここは何としてでも止める!)」

 

空をマークしている小牧は深く腰を落とし、空のドリブル突破に備える。他のメンバーも自身のマークに気を配りつついつでもヘルプに入れるよう集中している。

 

パスを捌くか、それとも自ら突破してくるか、コートに立っている選手達はもちろん、ベンチにいる者も会場の観客達も固唾を飲んで見守っている。

 

空の選択は…。

 

「えっ…?」

 

小牧のそんな声が漏れる。空は、大地に一瞬アイコンタクトのようなものをしたかたと思うと、突然、シュート体勢に入った。

 

ドライブに備えて距離をあけ、さらに腰を落としていたこと。ここでシュートを打つことはないと踏んでいたことから、小牧は茫然と何1つ身動きが取れず、ただただ、空のスリーを見送った。

 

これには城ケ崎だけではなく、星南の者達ですら予想外で、小牧と同じようにただボールの行く先を見送っていた。

 

ボールは放物線を描き、リングへと向かい、そして…。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

リングを潜った。

 

会場中が瞬間静まり返る。

 

『おっ…』

 

『うおぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!!』

 

会場が熱気を取り戻したかのように絶叫に包まれる。

 

「っし!」

 

空はボールがリングを潜ったのを確認すると、両手でガッツポーズを作った。

 

「落とせば敗北が決定するこの状況でスリーを打つなんて…、あいつにはここで決められる自信があったとでも言うのか…」

 

城ケ崎選手達は唖然とした表情で空を見つめる。

 

空は決して自信があったわけではない。このスリーは半ば賭けだった。城ケ崎がシュートに対して無警戒だったので、それを選んだだけで、スリーは撃てても純粋なシューターではない空が、試合後半の勝負所、疲労もプレッシャーもあるこの状況で確実に決められる程の自信があった訳ではなく、ただ博打を打っただけ。

 

そして、空はこの博打に勝った。城ケ崎に傾きかけていた流れを強引に引き戻した。

 

 

星南  72

城ケ崎 71

 

星南、再び逆転。

 

ディフェンスに戻ろうとする星南選手達に龍川は…。

 

「下がるな! 当たれやぁっ!」

 

ベンチから立ち上がり、大声で指示を飛ばす。

 

末広がリスタートし、小牧にボールが渡ると…。

 

「っ!?」

 

空と大地がダブルチームですぐさま小牧にプレッシャーをかける。

 

「これは!?」

 

小牧の表情が驚愕に染まる。

 

「オールコートゾーンプレスだ!」

 

試合終盤。残り3分弱。ここで星南が動く。

 

 

 

オールコートゾーンプレス…。

 

 

 

リスタートと同時に即座にボールを奪うためのチーム戦術。高い戦術理解度とスタミナが求められ、相手側をフロントコートに進ませることなくボールを奪うための高度なディフェンス。

 

体力の消耗が激しいことと抜かれるとたちまちアウトナンバーになりやすく、失点する恐れがあるというデメリットがあるが、パスミスを誘発しやすく、ターンオーバーを招きやすいというメリットがある。

 

3-1-1のゾーンプレス。これは、龍川がかねてより星南に仕込んでいた戦術だ。

 

「ぐっ!」

 

空と大地の2人がかりのプレッシャー。小牧はどうすることもできず、コートの隅へと追いやられてしまう。

 

 

 

――バチィ!!!

 

 

 

根気よくボールをキープしていたが、ついにボールは弾かれてしまう。すぐさま大地がボールを拾うと、そのままレイアップにいく。

 

「させっか!」

 

末広がレイアップを阻止するためにブロックに向かう。大地はボールをいったん下げ、末広を空中でかわし、リバースレイアップでゴールを決める。

 

「おぉぉぉーーーーっ!!!」

 

大地のダブルクラッチに再び観客が沸き上がる。

 

「くそっ!」

 

前田がボールを拾い、リスタートしようとすると…。

 

「っ!?」

 

大地がその前で両手を上げ、パスコースを塞ぐ。前田はパスが出せず、苦しむ。

 

「急げ! もうすぐ5秒だぞ!」

 

ベンチから焦りの声が響く。

 

「この…!」

 

前田は何とか小牧にボールを渡すことができた。だが、それを見透かしたかのように再び空と大地が小牧にダブルチームでプレッシャーをかけ、小牧をコートの隅へと追いつめていく。

 

「がぁっ!」

 

小牧は2人がかりのプレッシャーを受けながらも前田の姿を捉え、苦し紛れにパスを出す。だが…。

 

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

 

そのパスは駒込にカットされる。駒込はそのままペイントエリアまで侵入し、シュート体勢に入る。小牧がブロックにいくと、駒込はシュートをせず、ゴール下にいる田仲にパスする。

 

ボールを受け取った田仲はポンプフェイクを1つ入れる。焦った末広がブロックに跳ぶと、それを見届けながら真横に来ていた空にボールを渡し、空はそのまま大きく跳躍し…。

 

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

 

ワンハンドダンクを叩きこんだ。

 

「おぉぉぉーーーっ!!!」

 

空のダンクにより点差はさらに開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

星南はその後も間髪入れずにゾーンプレスを続けた。城ケ崎は試合終盤で疲労困憊のこのタイミングでのゾーンプレスを喰らい、ターンオーバーを繰り返す。タイムアウトを取って流れを切りにかかるも、星南の勢いを止めることは出来なかった。

 

 

星南  82

城ケ崎 75

 

第4Q残り7秒。ゾーンプレスが功を奏し、7点もの点差をつけた星南。試合の結果はもはや決したのだが…。

 

「1本! 絶対取るぞ!」

 

小牧はボールをキープしたまま檄を飛ばす。星南は既にオールコートを解き、ハーフコートマンツーとなっている。

 

残り5秒になったところで小牧がぺネトレイトで星南インサイドに侵入する。マークマンの空は真後ろにスクリーンに来ていた前田をロールでかわし、小牧を追いかける。田仲、駒込もヘルプに向かう。

 

小牧は囲まれる前にローポストにいる末広にパスを捌く。大地がシュートを打たせまいとすぐさまチェックにいく。

 

末広はシュート打たず、彼の真後ろ、左サイド3Pラインの外側でフリーになっていた生嶋にパスを出す。

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

生嶋はそのままシュート体勢に入った。森崎がブロックに跳ぶ。

 

「っ!?」

 

生嶋は真上ではなく、真後ろに跳び、フェイダウェイでシュートを放った。それにより、森崎は触れることができず、ボールはそのままリングへと向かっていく。

 

 

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

 

 

それと同時に試合終了のブザーが鳴る。生嶋はそのまま真後ろに倒れ込んだ。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

ボールは綺麗にリングを潜った。得点はカウントされ、3点が城ケ崎に加算される。

 

 

星南  82

城ケ崎 78

 

最後、城ケ崎がブザービーターで得点を決めたものの、後一歩星南に届かなかった。

 

「生嶋!」

 

最後、スリーを打った生嶋は倒れ込んだまま起き上がれないでいた。チームメイトが慌てて駆け寄る。

 

「大丈夫…。ただ、起き上がれないから…誰か肩貸してくれない?」

 

最後のスリーで残った体力を全て使い果たした生嶋。小牧が生嶋の腕を肩に回し、センターサークルへと運んでいく。

 

「82対78で星南中の勝ち! 礼!」

 

『ありがとうございました!』

 

星南、城ケ崎共に礼をし、握手を交わしていく。

 

「帝光中を倒す役は、君達に譲るよ。僕達の分まで頑張って」

 

「任せろ。きっちり倒しておく」

 

生嶋は小牧に抱えられたまま空と大地と握手を交わしていく。

 

「城ケ崎ー! 強かったぞ!」

 

「生嶋ー! 最後まで凄かったぞー!」

 

退場していく城ケ崎の者達に観客は惜しみない拍手を送る。城ケ崎のメンバー達は涙を流しながら観客席に礼をし、退場していった。

 

「最後まで気を抜けない相手でしたね」

 

「ああ。結局、俺達生嶋1人に34点も取られたんだよな」

 

城ケ崎の総得点の78点うち、生嶋があげた得点は34点、そのうち、3Pシュートは30点。

 

「すげーのは、キセキの世代ばかりじゃないって、改めて思い知らされたよ」

 

惜しみない拍手を送られた城ケ崎を見ながら空と大地は語り合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「スタメンは絶対身体冷やすな! 栄養補給も忘れるんやないで!」

 

控室に戻った星南のメンバー達はすぐさまこの後に迫る決勝戦の準備を始める。

 

「これ、俺の母親が持たせてくれたレモンのはちみつ漬けです。良かったらどうぞ!」

 

「おっ、サンキュー」

 

後輩の1人がタッパーに入ったはちみつレモンをスタメンに渡していく

 

「試合に出た先輩達はバッシュ脱いでください。今からマッサージしますので」

 

同じく、後輩達が1人1人スタメン達の下に寄っていく。

 

「へぇー、お前ら、そんなことできんの?」

 

空が感心して、後輩に尋ねる。

 

「実は、俺の親がマッサージ師で、練習後にみんなで習いに行ってたんですよ」

 

「俺達、試合に出れないけど、代わりに何か先輩達の役に立ちたくて…」

 

後輩達が恥ずかしそうに告げていく。

 

「…マジでサンキューな」

 

そんな後輩達の心遣いに、上級生達は感謝の気持ちでいっぱいになった。

 

チーム一丸。これは試合だけに限った話ではなく、これも1つのチームワーク。

 

星南のメンバーは、ゆっくり疲労を抜きながら決勝戦の準備を進めていった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

一方、もう1つの準決勝のカード、帝光中対照栄中の試合は、試合開始当初は照栄中のC(センター)、松永透が帝光中を相手にインサイドを制圧し、試合を優位に進めていき、第2Q半ばまでは同スコアで試合が進んでいった。

 

だが、帝光中は攻め手をインサイドからアウトサイドへと変え、外から照栄中を崩しにかかった。照栄中は、悪い言い方をすれば松永のワンマンチームであり、松永以外のポジションは全くと言っていい程帝光中に歯が立たず、アウトサイド、あるいはインサイドから松永を誘い出し、得点を重ねていく。

 

第3Q終了時には20点もの点差が付き、第4Q開始時にはスタメンのPGの新海とPFの池永を決勝戦のためにベンチへと下げ、第4Q半分が過ぎた頃にはスタメンは全員がベンチへと退いていた。

 

これに松永1人が奮起して帝光中を猛追していく。帝光中の控えでは松永は止められず、点差はどんどん詰まっていく。だが、残り時間が足りず、点差を限りなく詰めた照栄中だったが…。

 

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

帝光 81

照栄 75

 

後一歩届かず、決勝戦へは下馬評どおり、帝光中が駒を進めた。

 

この結果は星南中の者達にも伝わり、予想通りの結果に皆が息を飲む。

 

部員数100人以上を誇り、キセキの世代を輩出した全国屈指の強豪校。バスケをする者ならその名を知らぬ者はいない中学校。星南中はついにそこに辿り着いた。

 

「ちょっと便所行ってくる」

 

マッサージを終えた空は1人控室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「……ん?」

 

トイレに向かって歩いていると、正面から帝光中の、それもレギュラーの2人が歩いてきた。空は思わず足を止めた。試合前の宣戦布告でもしようとどんな言葉をかけるか考えていると…。

 

「っ!」

 

だが、その2人は雑談しながら、一瞬、空の方をチラリと見ると、そのまままた雑談をしながら歩いていった。

 

「ちっ!」

 

空は険しい表情をしながら拳をきつく握り、控室まで引き返していった。

 

 

 

――ドォン!!!

 

 

 

控室の荒々しく開けると、険しい表情のまま備え付けの椅子に座り込んだ。

 

「? …どうかしましたか?」

 

大地がいち早く空の様子のおかしさに気付き、声をかける。

 

「……すぐそこで、帝光中のスタメンの奴等とあった」

 

「…何か言われたのですか?」

 

大地がそう尋ねると、空は歯をギュッときつく噛みしめた。

 

「何か言われた方がまだマシだったよ」

 

「どういうことですか?」

 

「あいつら、次の…決勝戦の相手のスタメンの俺の顔を知りもしなかった」

 

先程帝光中のメンバーがした反応は、言うなれば、街中ただすれ違う一般人の反応とも言うべき反応。空が憤っている理由は、決勝であたる対戦チーム、それもスタメンである空の顔を向こうは知らないことを意味している。それはつまり、帝光中は星南中のことなど眼中にないということに他ならない。

 

それを聞き、他のメンバーも険しい表情をする。

 

「…見てろよ、決勝じゃ、あいつらの鼻っ柱へし折ってやる…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

激闘の準決勝を制し、ついに全中大会の決勝の辿り着いた星南中。

 

相手は帝光中学校。全中3連覇中の超強豪校。

 

選手達は暫しの休息を経て、最後の激闘へと足を進めるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 

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