投稿します!
今回は会話文多めです。
それではどうぞ!
第2Q、終了
花月 34
洛山 47
試合の半分が終わり、ハーフタイムとなり、花月、洛山共に控室へと戻っていった。コート上では次の試合の誠凛と秀徳の選手達がウォーミングアップの練習をしている。
「花月は最後決めて終われたッスね。…しかしまあ、神城っちはホント驚かせてくれるッスね」
苦笑しながら黄瀬が背もたれにもたれ掛かった。
「あの赤司をここまでコケにした奴はあいつが初めてだろうぜ」
青峰は愉快そうに笑みを浮かべる。
「とりあえず花月は後半戦に向けて士気を保てはしたけど、それでも劣勢である事には変わらない。何か手を打たないと点差は広がって保てた士気もすぐに落ちる」
「…あぁ、そうなるだろうな」
黄瀬の分析に頷く青峰だったが、何かを考えるよう素振りをしている。
「? 何か気にかかる事でもあるんスか?」
「赤司の事だ。どうにもらしくねえ」
「らしくない?」
青峰の言葉に桃井が言葉を繰り返すように尋ねる。
「あの赤司は相手の可能性を1つずつ摘み取って相手の勝機や戦意を奪いながら戦うのがあいつの戦い方だ。…だが、今日の赤司は違う。出てきて早々一気に畳みかけてきた」
「言われてみるとそうッスね。今日の赤司っち…と言うか、あの赤司っちは早々に勝負を付けようとしているように見えたッスね」
これに同感した黄瀬が頷いた。
「どうしたんだろう赤司君。何か理由があるのかな?」
「フッ、まあ、何となく理由は理解出来るけどな」
理由を考える桃井。青峰は直感的に理由を察し、フッと笑みを浮かべたのだった。
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・・・・・・・
・・・・
「状況は悪いが、とりあえず最悪の結果を避ける事は出来た。神城、よくやった」
「…ハッ! 当然ですよ!」
第2Q終了間際の空のブロックと得点を労うと、空は胸を張りながら返事をした。
「とは言うても、点差開いてもうたしなぁ。何か手ぇ打たんと…」
点差が13点。絶望的な点差ではないとは言え、洛山を相手に逆転を計るとなると、このままではジリ貧である。
「まずは…、室井、交代だ。ここまでよくやった」
「…っ、はい」
交代を告げられ、一瞬表情が歪むも、すぐに受け入れた室井。
タイムアウト終了後、洛山のオフェンスは明らかに室井のポジションから仕掛けていた。身体能力こそ全国トップレベルでもあっても、まだバスケを始めて半年足らず。ただでさえオフェンスが有利と言われるバスケにおいて、ディフェンスでものを言うのは経験。その経験が少ない室井ではバスケのエリート集団である洛山に1ON1を仕掛けられると分が悪い。
「生嶋、第3Qの頭から入ってもらう。頼んだぞ」
「はい。ガンガン外を決めて見せます」
指名された生嶋は笑顔で返事をした。
「ポジションは従来通り、1番(ポイントガード)に神城、2番(シューティングガード)に生嶋、3番(スモールフォワード)に綾瀬、4番(パワーフォワード)に天野、5番(センター)に松永だ」
「スタメンに戻す訳やな。やけど、そうなると向こうは…」
「当然、セットプレーで攻めてくるでしょうね」
天野の懸念する事を松永が代弁した。
「やる事は変わらないですよ。これまでどおり2-3ゾーンで俺と大地で外を抑える。…ただ、そうなると今度は確実に生嶋が狙われる事になる」
「だろうね。外からオフェンスならまだしも、中のディフェンスはそこまで得意じゃないから、フォローお願いします」
素直に自分の欠点を認めた生嶋はチームメイトに頭を下げた。
「少しは頑張ってほしい所やけど…、まあええわ。イクには代わりに点を取ってもらうからのう。その分決めてや」
「もちろんです!」
ジト目で生嶋に視線を向けた天野。その後に発破をかけ、生嶋がそれに応えた。
「問題はオフェンスだ。向こうのオフェンスが止めきれない以上、その差をオフェンスで埋めねばならない」
続いての問題点を松永が口にする。
「洛山はディフェンスも堅いです。綾瀬君もダブルチームで上手くボールを持たせないようにしていますし、神城君も赤司さん相手で点を取らせてもらえません。となれば、2人以外で点を取らなければならないのですが…」
とにかく空と大地を要マークしている洛山。2人以外で点を取ろうにも洛山のディフェンスがそれをさせてくれず、言葉に詰まる姫川。
「だったらよ…」
選手達が沈黙する中、菅野が口を開く。
「生嶋じゃなくて、竜崎を投入するのはどうだ? それで竜崎にボールを運ばせて神城と綾瀬の2人を中心に点を取りに行けば…」
続けてそう提案した。菅野の案は昨日の準々決勝の折に実行した空をスコアラーに専念させ、的を絞らせず、得点を狙いに行く作戦である。
「…」
この案を聞いて空は渋い顔をする。
「どうしたよ、行けるだろ?」
「…スガ、盛り上がっとるとこ悪いんやけど、恐らくアカンやろな」
菅野の案を天野が否定する。
「仮にそれやったとして、恐らくボールを運ぶ竜崎には赤司が付くはずや。もしそないなったら…」
ここで天野は竜崎に視線を向け、首を逸らした。
「正直、赤司先輩相手に俺は何もさせてもらえないでしょうね」
気まずそうな表情で首を横に振った。
「赤司からすれば神城をマークし続けるより、ボールの供給源を潰した方が遙かに楽ですからね。竜崎がボール運びをすれば十中八九そうしてくるでしょう」
「そうか……くそっ!」
ナイスアイディアだと思っていた菅野だったが、天野と松永から理由を聞いて思わず舌打ちをした。
「(せっかく後半戦に良い感じに繋げられる終わり方が出来たんだ。流れは確実にこっちに傾きかけてるはずだ。ここでこの流れを途切れさせたら終わりだ…)」
依然として花月が不利である事を理解している空。流れがこちら側に気かけている以上、上手くこの流れに乗ってリードを縮めていかなければ勝機はない。
「(考えろ…、考えろ! くそっ、こんな時、三杉さんだったら絶対に最良の案を出してくるはずだ!)」
かつての空の尊敬する偉大な先輩の事を思い出しながら自問自答する空。
「………っ!? あった」
頭を抱えながら思考していた空が突如顔を上げた。
「いきなりなんやねん、ビックリさせよって!」
突然隣で声を上げた空に口を尖らせながら抗議する天野。
「何か良い案が思い付いたんですね」
表情を見て悟った大地が尋ねる。
「あぁ。1つ思い付いた。これなら洛山を……赤司を出し抜けるかもしれねえ」
ニヤリと笑みを浮かべた空がその思い付いた案を説明し始めた。
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・・・・・・・
・・・・
コート上では次の試合をする誠凛と秀徳の選手達がウォーミングアップを終え、粛々とコートから撤収をしていた。
『来た!!!』
そして、花月と洛山の選手達が戻り、両校の選手達がコートへと再び足を踏み入れた。
OUT 室井
IN 生嶋
「予想通り、12番を下げて来たか」
「ま、第2Qの終盤はそこを中心に点を取ってたからな。当然だろう」
室井が下がって生嶋がコートに入った事を確認した二宮と三村。あらかじめ予想していた為、納得の表情をしていた。
「そうなると、外の脅威が出てくる。二宮、頼むぜ」
「おう、任せろ!」
四条に発破をかけられ、応える二宮。
「交代しても花月の穴は変わらない。向こうが変わらずゾーンディフェンスを敷いてきたら徹底的に5番の所を中心に攻める。皆、行くぞ」
『おう!!!』
赤司の檄に、洛山の選手達は大声で応えたのだった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
『ピーーーーーーーーーーー!!!』
審判がスローワーの二宮にボールを渡し、笛を吹くと、第3Q開始が開始された。
「行くぞ、7番だ」
二宮からボールを受け取った赤司はゆっくろボールを運び、セットプレーのナンバーをコールした。
――ピッ!!!
同時に洛山の選手間を矢のようなパスが駆け巡った。
『後半戦開始早々出た!!!』
『…っ』
このパスワークに何とか対応しようと花月の選手達はディフェンスをする。
「っしゃ!」
「…くっ!」
――バス!!!
ショットクロックが残り10秒となった所でゾーンディフェンスの中の生嶋が僅かに孤立し、二宮が生嶋を抜きさってそのまま決めた。
『さすが洛山、あっさり決めてきた!』
「特に何かしてくるでもなく、これまでどおりの動きで決めてきたッスね」
淡々とボールを回して得点を決めた洛山。
「欲を言えば、花月はこの1本を止めるか、せめて手こずらせて終わりたかった」
「あぁ。…だが問題オフェンスだ。ここを決められなきゃ流れには乗れねえ」
第3Q最初の花月のオフェンス。ここが1つのターニングポイントになると青峰は予想したのだった。
オフェンスが切り替わり、花月ボール。空がフロントコートまでボールを運んでいく。
「…」
目の前には当然赤司。赤司がディフェンスに入った。
「…」
この1本の重要性は空も充分理解しており、慎重にボールを運ぶ。
「…よし」
覚悟を決めた空。そう宣言し、ボールを掴むと生嶋にパスを出し、中へと移動をした。
「?」
これにはマークをしている赤司も戸惑いながらも空を追いかけた。
『何をする気だ?』
この行動の意図が見えない観客の中から疑問の声が出る。
ハイポスト付近にまで移動すると、空は振り返り、ボールを要求した。
「くれ!」
「くー!」
生嶋はハイポストに立った空にパスを出した。空は赤司を背負う形でボールを受け取った。
「…行くぜ」
――ダムッ!!!
そう宣言した空は背中をぶつけながら攻め込み、中へと押し込み始めた。
『な…』
『なにぃぃぃっ!?』
この行動に観客からは驚きの声が響き渡った。
「神城のポストアップだと!?」
これには洛山の監督である白金も驚愕していた。
後半戦に際し、空が思い付いた策、それが自身がポストアップで中から仕掛ける事であった。向かい合っての1ON1を仕掛ければエンペラーアイの餌食になる。赤司を背負ってのポストアップならばボールの位置がもっとも近くなる向かい合わせの勝負と違い、ボールがもっとも遠くなる上、押し込みに耐えなければならない為、エンペラーアイの影響は受けにくくなる。
そして何より、ほとんどポジションで高さで下回る花月だが、唯一ポイントガードのマッチアップに限り、花月が身長で上回っており、ある種の勝算あっての仕掛けでもあった。
「馬鹿め、いくらデカいと言ってもたかだか5㎝程度だ、その程度なら赤司は跳ね返すぜ」
無謀だと断ずる四条。赤司への信頼から出た言葉だ。
「神城の思い付きには俺も驚かされたが、その思い付きに俺が何の勝算もなしにGOサインを出すと思ったのか?」
――ダムッ!!!
「…くっ!」
2度目のドリブルで赤司の身体が僅かに仰け反った。
「奴がウチに入学してから今日まで俺が鍛え上げた。同程度の身長の選手を押し返せない程やわではない」
上杉が胸の前で両腕を組みながら言ったのだった。
――キュキュッ!!!
赤司の身体が仰け反ったのを確認した空はここでターンし、ボールを掴んだ。
「…ちっ」
シュート態勢に入った空に赤司が軽く舌打ちをしながらブロックに向かった。
――バス!!!
フックシュートのような構えでブロックをかわしながらボールを放ち、得点を決めた。
「っしゃぁっ!」
得点を決めた空が咆哮を上げるように喜びを露にした。
「…っ」
空に得点を許してしまった赤司。睨み付けるような視線を空に送った。
「フックシュートならトリプルスレッドの体勢に入らずとも放てる。…なるほど、考えたな」
奇策とも言えるこの策に白金が賛辞の言葉を贈った。
「赤司…」
心配そうな表情で赤司の下へ駆け寄る洛山の選手達。
「狼狽えるな」
駆け寄る選手達を手で制止する赤司。
「問題ない。お前達は各々の役割を果たしていればいい」
『…っ』
鋭い眼光をさせながらそう言われ、洛山の選手達は何か声を掛けるどころか、これ以上駆け寄る事も出来なかった。
洛山のオフェンス。
――ピッ!!!
これまで通り赤司がフロントコートまでボールを運び、そこからパスが繰り出される。
「(…ナンバーコールをしなかったな。何か合図を出した素振りもなかった。作戦を変えたのか? こっちとしてはありがたいが…)」
洛山のオフェンスが変化に気付いた空。
パスも、これまでのハイスピードのパスワークではなく、ボールを掴んだ選手がマッチアップの選手を牽制してからパスを出している。明らかにディレイドオフェンスに切り替わっている。
十数秒程ボールが回されると二宮に渡った所でボールが止まる。
――ダムッ!!!
「っ!?」
シュートフェイクで生嶋の両腕を上げさせ、すかさず切り込んだ二宮。その後すぐさまシュート態勢に入った。
「何度も打たせるか!」
そこへ、ヘルプに向かった空がブロックに飛び、二宮のシュートコースを塞いだ。
「(…ヘルプが速い、さすがに連続で打たせてもらえる程甘くはないか…!)」
二宮はシュートを中断し、ビハインドパスでボールを左へと放った。そこへ、赤司が現れ、ボールを掴んだ。
「打たせません」
すると、すかさず大地が目の前に現れ、フェイスガードでピッタリとディフェンスに入った。
「…っ」
こうも密着されてしまえばシュートは打てず、例えかわそうと試みても既にツーポイントエリアに侵入している為、囲まれてしまうだけ。
「…ちっ」
仕方なく赤司はボールをさらに左へと放った。
「ナイスパス!」
左45度付近のアウトサイド、そこに立っていた三村がその位置からシュート態勢に入った。
――チッ…。
「っ!?」
「打たせへんわ!」
チェックに向かった天野の決死のブロック。伸ばした指先に僅かにボールが触れた。
「落ちるで、リバウンド!」
外れる事を確信した天野が声を出す。
――ガン!!!
言葉通りボールはリングに弾かれた。
「おぉっ!」
弾かれたボールに松永が飛び込む。
――ポン…。
松永の後ろから五河が腕を伸ばし、タップで押し込んだ。
『うわー! 惜しい!』
「くそっ…」
「ドンマイ、今のは運が悪かっただけだ。ウチは売りはオフェンスだ。点取るぞ」
「おう!!!」
悔しがる松永に空が声を掛け、松永は気合いが籠った返事をしたのだった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
――ダムッ!!!
代わって花月のオフェンス。再び空がハイポストで赤司を背中で背負う形でボールを受け、ポストアップで押し込み始めた。
「同じ手がこの僕に通用すると思うな!」
空が押し込もうとした瞬間、それに合わせて赤司は後ろに下がって距離を取った。
「うぉっ!?」
押し込もうとした空がすると突如寄りかかるものがなくなり、バランスを崩してしまう。
「今だ、ボールを奪っちまえ!」
チャンスと見た三村が声を出す。赤司が空のキープするボールに手を伸ばした。
「なんてな♪」
――ダムッ!!!
「っ!?」
バランスが崩れた体勢から高速のターン。赤司の伸ばした手が空を切り、背後に抜けた。直後にシュート態勢に入った。
「くそっ!」
慌ててローポストにいた五河がヘルプに飛び出し、ブロックに飛んだ。
――スッ…。
目の前に五河のブロックが現れると、空はボールを下げ、足元からゴール下へとボールを放った。
「あっ!?」
「ナイスパスだ神城!」
――バキャァァァッ!!!
そこに走り込んだ松永がボールを掴み、これまでの鬱憤を晴らすように豪快なボースハンドダンクを叩き込んだ。
『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』
一連のプレーを見た観客が沸き上がった。
「派手に決めたな」
「さすがだ」
空と松永がハイタッチを交わした。
「くそっ…」
得点を決められ、悔しさを露にする五河。
「今のは僕の責任だ。…オフェンスだ。リスタート、急げ」
「お、おうすまん」
赤司に励まされると同時に急かされ、五河は慌ててボールを拾って赤司に渡した。
「…」
ボールを受け取り、振り返った赤司。その視線の先には空の姿があった…。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「へぇー、意外と様になってるッスね。咄嗟の思い付きとは思えないッスよ」
2度の空のポストアップを見て黄瀬が称賛の言葉を口にした。
「スピードとテクニックがあるガードプレーヤーの彼がポストアップなんて覚える必要はないはずッスけど…」
「神城にはお前(黄瀬)程の器用さもフィジカルもねえからな。間違いなく事前に覚えたんだろうよ」
空の動きを見て努力の成果が見えた黄瀬と青峰。
「赤司君のエンペラーアイ対策の1つにポストアップでマッチアップする事は考えていたけど…、もしかして、今日の為に?」
「いや違うな。もしそうならあの赤司が出てきた時点で試してるはずだ。あれは間違いなくハーフタイム中に考えた作戦だ」
事前に考えた作戦だと考えた桃井だったが、青峰が否定した。
「(あの単純バカ(空)にそんな知恵があるとは思えねえな。あの監督(上杉)が仕込ませたなら同様にあの赤司が姿を現した時点でやってるはず。…となると…)」
ここで青峰に思い当たる1人の人物の顔が浮かんだのだった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「ええで空坊。俺から見てもあのポストアップは合格点上げてもええくらいの出来や。突然言い出すだけの事はある。何処であれ覚えたんや?」
ディフェンスに戻りながら天野が尋ねる。
「…」
ここで空は以前の記憶を辿り出した。
※ ※ ※
遡る事1年程前…。
『違う、もっと腰を落とせ。前のめりになるな。上体を上げろ』
花月の高校の体育館にて、三杉が空の後ろに立って指導していた。
『間違ったフォームを覚えても無意味だ。早く身体に正しいフォームを染みつかせろ』
『三杉さん、俺ガードだし、こんなの覚えても使い道ないですよ。それよかもっと実用性のあるテクニックを覚えたいですよー』
使い道が見られないポストアップの練習に空は不満顔で三杉に抗議する。
『確かに、お前の場合、ポストアップを覚えてももしかしたら使い道はないかもな』
『だったら…』
『だがな、だからと言って覚えなくていい理由にはならないぞ』
『…ブー』
抗議が受け入れられず、益々不満顔になる空。
『バスケってのは面白いもんでな。一見必要がないと思っていたものが意外な所で役立ったりする事があるんだ。これは俺の実体験でもある。今は必要がなくとも、いつか役に立つ時が来るかもしれないぞ?』
『…』
『よし、もう1度だ。言っておくが、今日はこれを覚えるまで1ON1は無しだ。俺と勝負したけりゃ早くこれを覚えるんだな』
『分かりましたよ! さっさと覚えて1ON1だ!』
※ ※ ※
「まさか、ホントに役立つ時が来るとは思いませんでしたよ」
「? 何の話や?」
ボソリと独り言を言った空に思わず聞き返す天野。
「まあええわ、それより、お前の考えた作戦、ええ感じにハマってるやん」
「…まあ、今の所は…、ですけど」
歯切れの悪い返事をする空。
「何や不満そうやのう。何か気に入らん事でもあったんか?」
「そりゃ、せっかくエンペラーアイ対策の為にポストアップで仕掛けたのに当の本人が肝心なエンペラーアイを使ってこないんですから不満の1つも出ますよ」
「っ!? ホンマか!?」
この事実を聞いた天野が声を上げて驚いた。
「本当です。赤司がエンペラーアイ使った時、全てを見透かされてるみたいな嫌な感覚が身体を襲うんですが、今の2本にはそれがなかった。まず間違いなくエンペラーアイは使ってません」
「…空坊が言うなら間違いないんやとしたら、どういうつもりなんやろか。使っても無駄やと判断して諦めたんか、それとも何か理由があるんかな」
相手の目的を必死に探る天野。
「ま、ここで考えても答えは出ないでしょう。それよりディフェンスですよ。リバウンド、期待してますよ」
「せやな、任せとき、全部拾ったるわ!」
話を切り上げ、天野に期待をかけると、天野は大声で応えたのだった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「…」
五河からボールを受け取った赤司。その赤司に二宮が駆け寄った。
「赤司、俺もお前と一緒にボールを運ぶ」
「必要ない。これまで通りのポジションに付け」
ボール運びを申し出た二宮の言葉を拒否する赤司。
「だが、監督の指示は――」
「必要ないと言っているだろう。これ以上、無駄口を叩くな」
「…っ、分かった」
睨み付けられながら赤司に語気を強めて言われ、二宮は怯みながらその場を離れていったのだった。
「…」
洛山の選手達が各ポジションに立った。
「…っ」
赤司はゲームメイクをしながらハーフタイム中の事を思い出していた。
※ ※ ※
「ちっ、神城の野郎、反則紛いの事やりやがって…!」
第2Q終了直前の額の接触の件を思い出し、いきり立つ三村。
「赤司、額は大丈夫か?」
「…問題ない、大丈夫だ」
四条が尋ねると、赤司はタオルを被り、下を向いたまま返事をした。
「そうか、スゲー音したからよ。一応これで冷やして……って、おい、何だよその汗の量は!?」
マネージャーから受け取った氷嚢を赤司に渡そうとした四条だったが、赤司の身体から滴る汗の量を見て思わず声を上げた。まだ試合の半分が終わっただけだと言うのに掻いた汗の量が尋常ではないのだ。
「どうかしたのか?」
その声を聞いて選手達が注目しだした。
「エンペラーアイを使い過ぎたな」
同じく異変に気付いた白金が赤司に歩み寄り、声を掛けた。
「スピードと運動量が桁違いの神城を抑える為に赤司はかつてない程エンペラーアイを使った。これはその代償だ」
「代償?」
白金のとある言葉を繰り返す五河。
「相手の動きの未来が見えるエンペラーアイ。相手の僅かな筋肉の動きはおろか、呼吸や心拍数、汗の動きさえも見抜き、あらゆる動きを先読み出来る。だが、使用の際には極限の集中力が求められる為、かなり精神的疲労が求められる。そんな代物を神城をマークしながら短いスパンで乱発すれば体力が削られるのは自明の理だ」
『っ!?』
この言葉を聞いて洛山の選手達は驚きを隠せなかった。
「力の差を見せつけて早々に格付けを済まそうとしたのが仇となったな」
「…」
白金に咎めるように言われた赤司だったが、赤司は何も反論しなかった。
「…監督、赤司を1度下げるんですか?」
恐る恐る尋ねる二宮。
「その必要はない。確かに消耗はしているが、それはあくまでも『いつもの試合よりは』と言う程度だ。このまま試合に出る」
交代の言葉を口にした二宮を制するように
「もちろん赤司にはこのまま出てもらう。…だが、少しプランを変える。第3Qは二宮、お前も赤司と一緒にボール運びをしろ。得点機会が少なくなっても構わんから赤司の補佐に努めろ」
「は、はい!」
補佐を命じられた二宮。
「セットプレーは最初の1本のみ。以降はディレイドオフェンスで時間をかけて確実に得点を積み上げて行け」
『はい!!!』
出された指示に選手達が返事をする。
「赤司」
「…はい」
名指しされ、赤司が顔を上げる。
「第3Qに限り、エンペラーアイは使用するな。お前ならそれでもやれるはずだ。後は今話したプラン通りに進めろ」
「…監督、僕は――」
「赤司、コート中からしか見えないものがあれば、コートの外からしか見えないものもある。終盤の勝負所にお前が力を発揮出来ないのでは困る」
「…っ」
異議を申し立てようとした赤司だったが、白金に諭されてしまう。
「この指示に従えないのであればベンチに下がってもらう以外にない」
「……分かりました」
渋々、赤司はこの指示に了承したのだった。
「こちらには心もとないが、13点もの貯金がある。第3Qはこの貯金を有効に使う。点差は縮まるだろう。もしかしたら逆転されるかもしれんが、仮にそうなっても決して慌てるな。最初の10分は我慢の10分だ。ここを凌いで最後の10分でトドメを刺す。いいな」
※ ※ ※
これがハーフタイム中に白金から出された指示である。
「…っ」
赤司は苛立っていた。自滅同然でプランを変える事態を引き起こしてしまった自分自身に…。
「神城…、空…」
誰に聞こえない声量で自身のマッチアップ相手である空の名前を呼んだ赤司。その胸の内に漂う感情に、ただただ怒りを覚えたのだった…。
※ ※ ※
後半戦が始まり、淡々と得点を決めた洛山に対し、花月は空がポストアップをするという奇策に出た。
そんな中、洛山に飛び出す不穏な空気。勝負を急いだ赤司がスタミナを削られてしまうというアクシデントが発生。
試合は、また新たな方向へと進んで行くのだった……。
続く
エンペラーアイに関しましては、NARUTOの写輪眼のように発動すれば問答無用で相手の動きや先が見えるものではなく、一時的に超集中状態になって相手のあらゆる動きを読み取り、その情報を基に相手がどう動くを瞬時に解析するという位置づけです。その為、使用する際はかなり精神的な疲労を要するという設定です。キセキの世代は中学時代に全力を出す事を禁じられていたと原作でもあり、赤司はそう言った事情からエンペラーアイを使わなかったのかなと思っています。
正直、素人の思い付きによるエンペラーアイ対策。原作で実行する描写がないので実際の効果はどうなのかは謎です…(;^ω^)
感想アドバイスお待ちしております。
それではまた!