黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

先週、季節外れの扇風機を持ち出すくらいの気候だったのに、ここ最近は寒いですね…(;゚Д゚)

それではどうぞ!



第140Q~落とし穴~

 

 

 

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

観客の大歓声が会場に響き渡る。

 

 

――ピッ!!!

 

 

洛山の選手達がパスでボールを動かし、チャンスを窺っている。

 

「っし!」

 

フリーでボールを受け取った三村がシュート態勢に入った。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかし、ボールを放った瞬間現れた大地によってブロックされた。

 

「速攻!」

 

「既に走ってるぜ!」

 

ルーズボールを拾った大地が速攻の指示を出す。すると、ブロック直後に既に走っていた空がボールを要求し、大地がパスを出した。

 

「行かせるものか」

 

ボールを掴んで前へと身体を向けた直後、空の目の前に赤司が現れた。

 

『あの距離じゃポストアップは使えない…!』

 

『しかも、既に赤司に間合いに入られている!』

 

空が立っている場所はスリーポイントラインの外側。ここではポストアップは使えない。しかも、赤司は腕を伸ばせばボールに届く距離にいる為、エンペラーアイを使われればたちまちボールを奪われてしまう。

 

「…しゃーねえな」

 

ここで空は両手で持ったボールを頭上に掲げ、そのまま背中側へと落とした。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

直後にロールしながら落としたボールを掴み、そのまま切り込んだ。

 

「無駄だ。その程度、眼を使うまでもない」

 

この空の変則的なドライブに赤司は冷静に対応、ピタリと空を追走する。

 

「だろうな。…だが、これならどうだ」

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

赤司が再び目の前に現れると、空は左右に絶えず高速で切り返し始めた。

 

『出た、神城の必殺のドライブ!』

 

相手の目の前で縦の変化を付けつつ高速で切り返し続け、相手が空の姿を見失い、左右どちらかに視線を向けた瞬間にダックインで抜きさる空の必殺のドライブ、インビジブルドライブ。

 

「…僕をあまりイラつかせるな。既に破られたドライブが通用すると思うな」

 

僅かに苛立ちの表情を見せた赤司が空の姿を捉えようと後ろに下がって距離を取った。だが…。

 

『あっ!?』

 

ここで洛山の選手達が声を上げた。距離を取った赤司だったが、空はドライブで切り込んではおらず、先程ドライブを仕掛け始めた位置でボールを掴んでいたのだ。

 

「1度完璧に止められりゃ、次善策くらい考えるっつうの。わざわざ空けてくれたんだ。遠慮なく打たせてもらうぜ」

 

空と赤司の間に距離が出来た事で空がスリーを打つ体勢に入った。

 

「…ちっ」

 

「させるか!」

 

舌打ちをしながら赤司が距離を詰め、後ろから四条がブロックに飛んだ。

 

 

――ピッ!!!

 

 

しかし、空は頭上にボールを掲げようとした瞬間、ボールを右へと放った。

 

「ナイスパス!」

 

そこへ走り込んだ大地がボールを受け取る。と同時にスリーポイントラインから1メートル弱程離れたポジションではあるが、スリーの体勢に入った。

 

「打たせるか!」

 

目の前でマークをしていた三村がブロックに飛んだ。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

だが、大地はシュートを中断、中へと切り込んだ。

 

「くそっ!」

 

スリーに釣られてブロックに飛んでしまった三村が悔しさを露にする。

 

そのままリングへと向かって突き進む大地。ペイントエリアに侵入した所でボールを掴み、リングに向かって飛んだ。

 

「決めさせん!」

 

そこへ、ヘルプに動いた五河がブロックに現れる。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

五河がブロックに現れたの同時に大地はボールを下げ、ブロックをかわす。そのままリングを通り抜けた所でボールを上げ、リングに背を向けたままボールを放った。

 

 

――バス!!!

 

 

放ったボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

『来た! 絶妙のダブルクラッチ!』

 

「やるじゃねえか」

 

「あなたも、ナイスパス」

 

コツンと互いの拳を突き合わせた空と大地。

 

続く洛山のオフェンス。ここでもボールを回しながらチャンスを窺う。

 

「…ちっ」

 

ボールを掴んだ二宮が舌打ちをする。目の前には生嶋が。スリーこそ打たせてもらいそうにないが、抜きさるのは容易い。だが…。

 

「…」

 

ポジションが違う大地が目配せをしており、すぐにでもヘルプに飛び出せる体勢に入っている。仮に生嶋を抜きさっても直後に大地のヘルプに捕まってしまうだろう。

 

「くそっ…」

 

切り込むのを諦め、二宮は赤司のボールを戻した。

 

「迂闊だぜ!」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

瞬時にパスコースに割り込んだ空が手を伸ばしてボールをカットした。

 

「っ!? しまった!?」

 

大地のばかり気を取られ、空のポジションを疎かにしてしまい、緩めのパスを出してしまった二宮は思わず声を上げた。

 

「おら、速攻!」

 

零れたボールを空がすぐに抑え、速攻の掛け声を共にフロントコート目掛けてドリブルを始めた。

 

「…くそっ!」

 

「追い付けねえ…!」

 

先頭を走る空を追いかける二宮と三村だが、空は追い付かせるどころか逆に引き離していく。

 

「いっただきー!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままワンマン速攻で駆け上がった空はフリースローラインを越えた所でボールを掴んで飛び、そのまま右手で持ったボールをリングに叩きつけた。

 

『キタキター!!! 神城のダンク!!!』

 

「っしゃおらぁっ!!!」

 

床に着地した空は拳を突き上げながら咆哮を上げた。

 

『…っ』

 

2度のターンオーバーからの失点を喫し、悔しさが表情に出る洛山の選手達。

 

 

第3Q、残り4分52秒

 

 

花月 53

洛山 59

 

 

後半戦が始まって既に5分が経過。試合の流れは花月に向いており、洛山の背中をジワリジワリと迫っていた。

 

「…監督。ここは1度タイムアウトを取って流れを切った方が…」

 

ベンチに座っていた選手の1人が白金にタイムアウトの申請を進言する。

 

「我慢だと言ったはずだ。まだ追い付かれた訳ではない」

 

しかし、白金はベンチから動かず、胸の前で腕を組み、微動だにせずこの進言を退けた。

 

「(…フルフル)」

 

「(…コクッ)」

 

コート上の赤司がベンチの雰囲気を感じ取ったのか、ベンチの白金に視線を向け、首を横に振ると、その意図を理解した白金は分かっていると言わんばかりに首を縦に振った。

 

 

「1本、行くぞ」

 

ボールを運びながら赤司が静かに声を出す。

 

「来やがれ」

 

フロントコートまでボールを運んだ赤司の前に空が立ち塞がった。

 

「…」

 

「…」

 

ゆっくりドリブルをしながら隙を窺う赤司。空は腰を落として赤司の一挙手一投足に注意を払い、ディフェンスをしている。

 

『スゲー…』

 

『あれじゃ簡単には抜けないよ』

 

目の肥えた観客から空のディフェンスを評価する声がチラホラ飛び出る。

 

「…甘いな」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

その言葉と同時に赤司が突如加速。クロスオーバーで空の横を駆け抜けた。そのまま赤司はフリースローラインを越えた所でボールを掴んで飛んだ。

 

「ちぃっ、させへんわ!」

 

リングに向かって飛んだ赤司に対してヘルプに飛び出た天野がブロックに飛んだ。

 

 

――スッ…。

 

 

次の瞬間、赤司が右手で掲げたボールを下げた。

 

 

――ドン!!!

 

 

「っ!?」

 

ブロックに飛んだ天野と赤司が空中でぶつかる。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に審判が笛を吹いた。

 

「…っ」

 

体勢を崩しながらも赤司は左手に持ち替えたボールをリングに向かって放った。

 

 

――バス!!!

 

 

放られたボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

『ディフェンス、赤7番(天野)、バスケットカウント、ワンスロー!』

 

洛山の得点が加算され、さらにフリースローがコールされた。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

赤司の一連のプレーを見て観客が沸き上がった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

与えられたフリースローも赤司は落ち着いて決め、3点プレーを成功させた。

 

「…」

 

ディフェンスに戻る赤司は一瞬だけ空に視線を向け、戻っていった。

 

「野郎…!」

 

その行為をまるで力の差を誇示されているように取った空は自身の闘志を更に燃え上がらせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「さすが赤司っち、嫌な所で嫌な決め方してきたッスね」

 

今の赤司の3点プレーを見て黄瀬が苦笑しながら絶賛する。

 

「ああ。…だが、それでも流れを変えるには至らねえだろうな」

 

黄瀬の言葉に賛同しつつも流れは変わらないと断ずる青峰。

 

「ッスね。勢いに乗った時の花月は凄まじい。多分、その時の勢いだけなら全国随一かもしれないッスからね」

 

昨日、試合をした黄瀬だからこそ語れる言葉である。

 

「けど、洛山が何も手を打って来ないのが腑に落ちないッスね。赤司っちも、この第3Q入ってからエンペラーアイを使ってる様子もないし」

 

「花月に流れが向いてる今、動いても効果がないどころか逆効果って事もあり得るだろうからな」

 

洛山が動きを見せない事に疑問を感じる黄瀬に対し、理由を語る青峰。

 

「赤司がエンペラーアイを使わねえのも、第2Qの時に使い過ぎたからだろうよ。あれは恐らく、むやみやたらに乱発すると体力をかなり削られる代物だろうからな」

 

「…やっぱ、そんな理由ッスか」

 

赤司についても青峰が理由を語ると、黄瀬は内心で理解していたのか、静かに頷いた。

 

「(…確かに、この状況で動いても効果は得られねえ。だが、それでも赤司なら何かしらの動きは見せるはず。だが、目立つ動きを見せたのは今の3点プレーだけだ)」

 

「(青峰っちの言った事は薄々分かってはいた。…けど、それにしても赤司が流れが切れるまで耐えるだけってのは納得出来ない…)」

 

今、青峰が語った事は一般的な試合のセオリー。だが、赤司ならそのセオリー通り進めながらも手を打ってくるはずと考える2人。

 

「(手を打てない程今の花月の勢いが凄まじいのか…)」

 

「(それとも既に…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「赤司の奴、嫌な決め方してくるぜ…!」

 

ベンチの菅野が赤司を見て険しい表情をしながらぼやく。

 

「ですが、それでもうちの勢いは止まらないと思いますよ。今の先輩達の勢いは凄いですから!」

 

竜崎がそんな菅野を励ますように言った。

 

「…」

 

ベンチ内で士気が上がる中、上杉が顎に手を当てながら神妙な表情で考え込んでいる。

 

「監督、どうかしましたか?」

 

そんな上杉に気付いた菅野が声をかける。

 

「監督?」

 

「……いや、何でもない」

 

返事がない上杉に再度話しかける菅野。だが、上杉は何もなかったかのようにコートへと視線を戻した。

 

「?」

 

そんな上杉を見て菅野は頭に『?』を浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「取り返す、行くぞ!」

 

ボールを受け取った空が声を張り上げ、ボールを運ぶ。

 

「…来い」

 

フロントコートまで進むと、赤司が静かに待ち受ける。

 

「言われなくとも、行ってやらあ!!!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

1度立ち止まり、その後、一気に加速。クロスオーバーで切り込む。だが、赤司もこれに対応。空の進路を塞ぐ。

 

「やっぱりな。この感じ、エンペラーアイを使ってる気配がねえ。1つ言っておくぜ…」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「手抜きで俺に勝とうなんざ舐め過ぎだぜ!」

 

そこから空が高速でクロスオーバーで更に逆に切り返し、赤司を抜きさった。

 

「ちっ」

 

抜かせるつもりがなかった赤司の口から思わず舌打ちが飛び出た。

 

「だらぁ!!!」

 

フリースローラインを越えた所で空はボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「調子に乗るなよ。何でもダンクを決めさせる訳ないだろ!」

 

そこへ、四条がヘルプに現れ、ブロックに飛んだ。

 

 

――ドン!!!

 

 

「っ!?」

 

ボールを叩こうとした四条だったが、寸前で空がボールを迫る四条から遠ざける。その結果、空の身体と四条の身体が接触する。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

これを見て審判が笛を吹いた。

 

「…ちっ」

 

空中で接触を受けてバランスが崩した空だったが、何とか態勢を立て直し、リングにボールを放った。

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールは1度リングに当たり、その後、リングの周囲をグルグルと回り、そしてリングの外側に零れ落ちた。

 

『ディフェンス、プッシング、白7番(四条)!』

 

ファールが宣告され、フリースローが2本与えられた。

 

「くそっ、決められなかった…!」

 

先程の赤司と似たシチュエーション。しかし、赤司は得点を決め、自身は得点を決められなかった事に悔しさを覚える空。

 

「仕方ありませんよ。切り替えて行きましょう」

 

「あぁ、分かってるぜ」

 

励ます大地に空は気持ちを切り替えながら返事をしたのだった。

 

 

「…」

 

フリースローラインでボールを構える空。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

1本目を決め。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

2本目もきっちり決め、フリースローを2本成功させた。

 

「っしゃぁっ!!!」

 

右拳を突き上げながら喜びを露にする空。

 

「…フッ」

 

そこから赤司に振り返り、突き上げた拳を胸の前に持っていき、不敵な笑みを浮かべた。

 

「…ふん」

 

明らかに先程の意趣返しに、赤司は鼻を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「ガンガン走って止めるぞ! この第3Qで試合をひっくり返す!」

 

『おう!!!』

 

洛山のオフェンスに始まり、空が声を出して鼓舞すると、花月の選手達がそれに応えた。

 

「…ちっ」

 

その光景を見て舌打ちが飛び出る三村。ハーフタイム中に白金からこの状況を示唆する事を言われたが、実際その状況になってしまうのは面白くない。

 

「熱くなるな。今は全てが花月に都合よく転がっているだけだ。ここを耐えれば必ずチャンスは来る」

 

そんな三村や他の選手達が心情が見て取れた白金は静かに選手達を諫めた。

 

洛山の選手達はボールを回し、時間をたっぷり使いながらチャンスを窺っている。

 

「思い切りがねえな。ズバッと攻めて来いよ」

 

「…」

 

挑発のような言葉をかける空だったが、赤司は反応する事なく淡々とボールを回す。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ショットクロックが残り7秒になった所で三村が中へと切り込んだ。

 

「…っ」

 

追いかけようとした大地だったが、四条がスクリーンをかけており、出来なかった。

 

「あかん、声掛け怠ってしもた!」

 

自身の失態を悔やみながら天野がヘルプに走った。

 

「来たな」

 

 

――ピッ!!!

 

 

天野が自身にヘルプに来たのを見た三村がパス。外に展開していた二宮にパスを出した。

 

「ナイスパス!」

 

右アウトサイド、サイドラインとエンドラインが交わる位置でボールを受け取った二宮。

 

「っ!?」

 

三村が切り込んだ事でディフェンスを収縮させる為に中に移動していた生嶋が目を見開く。1番近い位置にいた天野もヘルプに向かってしまった為、フリーでボールが渡ってしまった。

 

「よし!」

 

悠々と二宮はシュート態勢に入った。しかし、その時…。

 

「なに余裕ぶってんだよ。簡単に決めさせると思うな!」

 

二宮に向かって空が急速に距離を詰めていた。

 

「っ!?」

 

これに二宮は驚きながらもボールをリリースした。

 

「らぁっ!」

 

 

――チッ…。

 

 

「なっ!?」

 

猛ダッシュで走り、飛び付いて伸ばした空の手の先に僅かにボールが触れた。

 

「っ! 触れた、落ちるぞ!」

 

外れる事を確信した空が声を出す。

 

「任せろ!」

 

その声を聞いた松永がすかさずスクリーンアウトを行い、絶好のポジションの確保に入る。

 

「(いや、これは…)」

 

リングに近付くボールを見て何かを感じ取る天野。

 

「もらった」

 

その隙を突いて四条が天野の前に出てポジションを確保した。

 

「っ!? ならば俺がリバウンドボールを抑えるだけだ」

 

ポジションを取られた天野を見て自分が抑えるしかないと判断した松永は覚悟を決める。

 

 

――ガン!!!

 

 

目論み通り放たれたボールはリングに弾かれた。だが…。

 

「「「っ!?」」」

 

弾かれたボールがリングから遠くに跳ね、ゴール下でポジション争いをしていた松永、四条、五河は眼を見開いた。

 

「いただきや!」

 

ただ1人、天野だけがこれに反応し、リバウンドボールを確保した。

 

「(やけに張り合いがないと思ってたが、まさか!?)」

 

リバウンド争いに天野が消極的だった事に引っ掛かっていた四条だったが、その答えに今気付いた。

 

「思った通り遠くに跳ねよったわ。…リバウンドは俺の土俵や。ここは譲らんで。ほれ、速攻や!」

 

したり顔で言う天野は確保したボールを空へと渡した。

 

「さっすが天さん! 速攻だ。全員走れ!」

 

号令と共にドリブルで駆け上がる空。

 

『おう!!!』

 

それに応えてフロントコートに走る花月の選手達。

 

「っと、やっぱりあんただけは簡単には行かせてくれないか」

 

洛山で唯一赤司だけがディフェンスに戻っており、スリーポイントライン目前で空の進攻を阻んだ。

 

「だが、いくらあんたでも1人で俺達の速攻を止められるかよ」

 

そう言って空はビハインドパスでボールを右に放った。そこへ大地が走り込み、ボールを掴んだ。

 

「…っ」

 

ボールを掴んでそのままシュート態勢に入る大地。赤司がすぐさまブロックに向かったが、赤司が来るより早く大地はボールをリリースした。

 

「(…っ、短い!)…リバウンド、お願いします!」

 

赤司のブロックをかわす為に素早くリリースした事でリリースしたボールがショートした事を確信した大地は声を出した。

 

「「…っ」」

 

いち早くゴール下に走り込んだ二宮と三村がリバウンドに備えた。

 

 

――ガン!!!

 

 

言葉通り、ボールはリングの手前で弾かれ、外れた。

 

「あっかーん。これじゃポジション争いはでけへんわ」

 

後ろから走る天野が思わず声を上げる。

 

「やけどな、リバウンドちゅうのはこういう取り方もあるんやで!」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

リバウンドボールに手を伸ばした二宮と三村だったが、それよりも早く、天野がボールをチップアウトした。

 

ポジション争いに間に合わなかった天野はタイミングを見て助走を付け、2人に僅かに遅れて飛びながらも助走の勢いを利用して高く速く飛び、右手を伸ばしてボールをチップしたのだ。

 

「頼りになるぜ天さん!」

 

天野がチップしたボールを空が素早く確保した。

 

「誰に言うてんねん! 俺やで!」

 

ドヤ顔で返事をした天野。空が天野にパスを出す。

 

「くそっ!」

 

慌てて二宮がパスコースに手を伸ばして割り込む。だが…。

 

「っ!?」

 

パスを出そうとした瞬間、空がパスを中断した。そこからノールックビハインドパスに切り替えた。

 

「ナイスパスくー」

 

パスの先は右アウトサイドの深い位置に移動していた生嶋。

 

『っ!?』

 

完全のフリーの生嶋を見て目を見開く洛山の選手達。生嶋は悠々とその位置からスリーを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたボールはリングに掠る事無く潜り抜けた。

 

『うおー! ここでスリーが来た!』

 

値千金のスリーが決まり、観客が沸き上がった。

 

「ええとこおったやないか!」

 

「天先輩もナイスリバウンドです」

 

ハイタッチを交わす生嶋と天野。

 

「戻れ、ディフェンスだ! 次も止めるぞ!」

 

『おう!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後も花月の勢いは止まらず、洛山を圧倒し続けた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

大地がミドルシュートを決めれば…。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

後半戦から調子が出始めた天野が相手選手のシュートをブロック。リバウンドもオフェンス・ディフェンス共にもぎ取っていった。そして…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

三村をかわして大地が放ったジャンプショットがリングを潜り抜けた。

 

 

第3Q、残り17秒

 

 

花月 65

洛山 64

 

 

遂に花月が逆転に成功する。

 

『おぉっ! 逆転だぁっ!!!』

 

「…っ」

 

沸き上がる観客。そっと大地が拳を握った。

 

「っしゃ遂に捉えたぞ!」

 

大地の下へ駆け寄り、肩を引き寄せながら喜ぶ空。

 

「よし、最後のディフェンスだ。ここを止めて次のQに繋げるぞ!」

 

『おう!!!』

 

第3Q残り僅か。恐らくこれがこのQ最後のオフェンス。リードしたまま終わりたい花月は集中力を高める。

 

『…』

 

フロントコートまでボールを運んだ赤司はそこからパスを捌き、その後はパスを繋ぎながらチャンスを窺っている。時間いっぱいまで使い切ってこのオフェンスを終える算段であった。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

残り5秒になった所で赤司にボールが渡り、中へ切り込んだ。

 

「行かせねえよ!」

 

このカットインの空が対応、赤司を追いかける。しかし…。

 

「っ!?」

 

ここで空の目が見開く。赤司がボールを持っていなかった。

 

「…ちっ!」

 

空が視線を右へと向けると、スリーポイントラインやや内側に立っている四条にボールが渡っていた。

 

「野郎…、カットインと同時にパス出してやがったのか!」

 

赤司はカットインと同時にビハインドパスを出していたのだ。

 

「打たせるかい!」

 

シュート態勢に入る四条。1番近くにいた天野がチェックに向かった。

 

「(しめた! これならギリギリ間に合うで!)」

 

ボールを掴んだポジションがスリーポイントラインに近かった事もあり、通常のミドルショットよりモーションを大きい為、ギリギリ間に合うと見て距離を詰める天野。

 

「止めたるわ!」

 

そう叫び、天野がブロックに飛んだ。その時…。

 

「(…ニヤリ)」

 

ボールを持った四条がニヤリを笑みを浮かべた。

 

「っ!?」

 

四条はシュートには飛ばず、ポンプフェイクを入れただけであった。

 

 

――ドン!!!

 

 

直後、飛んだ四条と天野が接触した。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

審判が笛を吹き、口から笛を放すと…。

 

『ディフェンス、プッシング、赤7番(天野)!』

 

ディフェンスファールをコールした。

 

「何やと!?」

 

これに驚く天野。

 

「っ!?」

 

思わず立ち上がる上杉。その視線はオフィシャルテーブルに向いていた。そこには4の数字が記載された旗が。それはつまり…。

 

「天さん、4つ目か…!」

 

状況を理解した空が目を見開いた。

 

4ファール。つまり、後1回ファールをしてしまったら退場となってしまう。

 

「しもた…!」

 

思わず悲痛な表情で額に手を当てる天野。第4Qをまるまる残した状態での4ファールはあまりにも辛い状況である。

 

「全てが上手く行っている時は総じて足元が見えなくなるものだ」

 

「っ!?」

 

声が聞こえた方角に空が顔を向けると、そこには赤司の姿が…。

 

「僕らがただただお前達の猛攻に耐えているだけだと思ったか? 奪われた得点と引き換えにお前達の生命線と言えるものをいただいた」

 

「…っ!」

 

この言葉にハッとした姫川がスコアブックのとある箇所に視線を移す。そこには…。

 

「…神城君と綾瀬君1つ。生嶋君が2つ、松永君が…っ!? 3つ…!?」

 

スコアブックを見ながら姫川が数え上げる。それは各選手のファールの数である。

 

天野に次いでファールが多いのは松永の3つ。決して予断を許されない状況。つまり、花月のインサイドを支える2人がファールトラブルに陥っていたのだ。

 

『っ!?』

 

これを聞いた花月の選手達が驚愕した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

不幸中の幸いと言えるのか、審判は四条がシュート態勢に入れなかったと判断し、フリースローにならなかった。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

プレーを開始してすぐに第3Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第3Q終了。

 

 

花月 65

洛山 64

 

 

選手達が各ベンチへと戻っていく。

 

「機は熟した。後は蹂躙するだけだ」

 

赤司が静かにそう宣言したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

試合の後半戦が始まり、花月の猛攻が始まった。

 

洛山も奮闘するも、花月の勢いを止める事は出来ず、花月は遂に逆転に成功した。

 

しかしその直後、天野がファール4つ目。松永も3つのファールを犯しており、花月のインサイドを担う2人がファールトラブルに陥ってしまった。

 

花月は逆転と引き換えに耐え難い代償を負ってしまったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





コロナが第三波がやってきて、体調管理に気を遣うようになりました。ちょっとでも体調が悪いと本当に不安になります…(;^ω^)

皆さんも体調管理、手洗いうがい、出来る事はしっかりやっていきましょう…!(^^)!

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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