黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

迫る年越しに向けて、今からスパート!!!

それではどうぞ!



第143Q~未来を越える~

 

 

 

第4Q、4分3秒。

 

 

花月 75

洛山 89

 

 

最悪の1本を赤司に決められ、花月が絶体絶命に陥った直後、空が4人を抜きさり、得点を奪った。

 

「ゾーンか…」

 

空の身に纏う空気が変わった事に気付いた赤司が呟く。

 

「(だがそれは驚く所ではない。奴がゾーンに入ったのは数度見ているからな…)」

 

脅威ではあるがそこに特別驚きはなかった。

 

「(今奴は何をした? 僕のこの眼は確かに奴の未来が見えていた。だが…)」

 

エンペラーアイを発動させ、空の動く未来を捉えていた。空がキープするボールに手を伸ばした次の瞬間、空の姿が視界から消え、気が付いたら空は後ろにいた。

 

「(確かめる必要があるな。奴が今何をしたのかを…)」

 

赤司は空を睨み付けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

「天野、行くぞ」

 

ベンチで沈黙を保っていた上杉が口を開いた。

 

「遅すぎですって、何でもっとはよう出してくれへんかったんですか!?」

 

ようやく出た上杉からのGOサインに天野が不満気に尋ねた。

 

「状況が変わったからですよ」

 

上杉の言葉を代弁するかのように姫川が説明を始めた。

 

「これまでは見ての通り、私達が劣勢を強いられ、ただ押されていました。ここで天野先輩を出してもただ引きずり出されただけ、例え退場とならなくても劇的な変化は起こらず、何も変わらなかったと思います」

 

「…」

 

「監督は天野先輩を最高のタイミングで送り出せるきっかけを探していました。試合の流れを一変させるきっかけを…」

 

「それが今の空坊の1発かいな」

 

「そのとおりです」

 

答えを言った天野に回答を示した姫川。

 

「これでお膳立ては整いました。後は天野先輩。お願いします」

 

「おう! 任せとき!」

 

期待をかけられた天野は親指を立てながら応えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ボールを運ぶ赤司。

 

「…」

 

フロントコートまでボールを運ぶと、空は付かず離れずの距離でディフェンスを始めた。

 

「(今更ゾーンに入っても遅いぜ。この残り時間とこの点差、もうひっくり返せる訳がねえ!)」

 

勝利を確信する四条。

 

「…」

 

赤司がゆっくりドリブルをしながら攻め手を定めている。

 

「(ここで勢いに乗られると厄介だ。乗せる前に叩く!)」

 

エンペラーアイを駆使して空を抜きさろうと1歩踏み込んだ。

 

「っ!?」

 

その時、赤司の身体を言い知れぬ悪寒が襲った。

 

「(何だ、今のは…!?)」

 

エンペラーアイで何かを見た訳でもない。何かを予見した訳でもない。今、赤司に漠然とただ、仕掛けたら取られるような予感がした。

 

「…っ、45番だ」

 

踏み込んだ足を戻した赤司はナンバーコールをしながら二宮にパスを出した。

 

「(気のせいか、今、赤司が仕掛けようとして退いた?)」

 

二宮の目にはそう見えた為、疑問に思いながらパスを受けた後にすぐにハイポストの四条にパスを出した。

 

そこから目まぐるしくボールは動き回り…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

四条がミスマッチを突いてジャンプショットを決めた。

 

 

花月 75

洛山 91

 

 

『うおっ!? 手堅く決めて来た!』

 

空がゾーンに入った影響を微塵も感じさせず、淡々と洛山はボールを回し、確実にチャンスを作って得点を決めた。

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

「メンバーチェンジ! 赤(花月)!!!」

 

ここで花月のメンバーチェンジがコールされた。交代を告げられたのは10番の竜崎。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

『待ってたぞ!』

 

やってきたのは7番、天野。

 

「ええやんけ。まるで遅れて来たヒーローやんけ」

 

歓声で迎えられ、ご満悦の天野。

 

「ファイト―! 天野先輩ー!」

 

ベンチから相川がエールを贈った。

 

「任せてーや茜ちゃん!」

 

エールをくれた相川に笑顔で手を振った天野。

 

「すいません、代わり、務められませんでした。後は頼みます!」

 

集中的に狙われ、リードを広げてしまった責任から悔しさを噛みしめながら後を託す竜崎。

 

「よーやったで大成。後は俺に任しとき」

 

そんな竜崎に労いの言葉をかけながら肩を叩き、コートへと足を踏み入れた。

 

「待ってましたよ天さん」

 

コートに入ると、空がニヤリとしながら天野に声を掛けた。

 

「待たせてすまんのう。遅らせばながら主役の登場や」

 

親指を立てる天野。

 

「これで役者は揃った。後は点差をひっくり返すだけだ」

 

不敵に笑いながら空が言う。

 

「手はあるんか?」

 

「ある。天さんはリバウンド、頼みます」

 

「任せとき、ここから全部取ったるわ!」

 

拳を握りながら天野が応えた。

 

「大地、耳貸せ」

 

「?」

 

大地を呼んで何やら耳打ちをする空。

 

「……っ!? そんな事が可能なんですか?」

 

「心配すんな。俺とお前なら出来る」

 

一瞬目を大きく見開いて聞き返す大地に、空はニヤリとしながら返事をした。

 

「今のあなたがそう言うならそうなんでしょう。分かりました。やりましょう」

 

その空の笑顔を見た大地は僅かに生まれた迷いがなくなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

花月のオフェンス。空がボールを運ぶ。

 

「そんじゃ、いっちょ景気よく、スー…」

 

大きく息を吸い込み…。

 

「行くぞ!!! ひっくり返すぞ!!!」

 

声を張り上げながら空が檄を飛ばした。

 

『おう!!!』

 

その声に応えるように花月の選手達も大声で応えた。

 

『スゲー気合いだ!』

 

『まだ花月は諦めてないぞ!』

 

その気合いを見て観客達も圧倒された。

 

「威勢のいい事だ。だがそれだけ逆転出来る程、僕達は甘くない」

 

そんな花月を見て嘲笑うように赤司が空に告げる。

 

「出来るさ。今からそれを見せてやる」

 

ゆっくりとボールを突きながら空は赤司に近付いていく。

 

 

「うそ! 赤司君の間合いに入っちゃった!?」

 

「うはー、何考えてんスかね…」

 

エンペラーアイを持つ赤司の間合いに簡単に足を踏み入れた空を見て桃井は驚き、黄瀬は苦笑した。

 

これまで空は何とかエンペラーアイの射程から逃れながらパスを捌いていた。だが、今は無造作に踏み込んでいったのだ。

 

「…」

 

青峰はこの空の行動を無言で見守っていた。

 

 

「(ゾーンに入った程度でこの僕に対等に渡り合えるとでも思っているのか? …舐めるな!)」

 

この空の行動に軽く憤りを覚えた赤司はエンペラーアイを発動させた。

 

「(…右から左へのクロスオーバー。さっきと同じだ。今度こそ、殺(と)る!)」

 

空が動き出したのと同時に赤司が動く。空がボールを右手から左手に切り返し所に手を伸ばした。

 

「(やはり僕のこの眼に狂いはない。今度こそ間違いなく、取れ――)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールをカット出来ると確信した赤司だったが、次の瞬間、空の姿が赤司の視界から消え失せた。

 

「っ!?」

 

振り返ると、空は既に赤司の後ろに抜けていて、ボールを右手で掴んで飛んでいた。

 

「うおぉぉぉっ!!!」

 

ローポストに立っていた五河がすかさずヘルプに飛び出し、空のシュートコースを塞ぐようにブロックに現れた。

 

 

――スッ…。

 

 

次の瞬間、空は右手の手首のスナップを利かせ、指でボールを転がすように放った。

 

「なっ!?」

 

空の得意のフィンガーロール。ボールは放物線を描きながら驚愕する五河のブロックを越えていき…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

リングの中心を潜り抜けた。

 

 

花月 77

洛山 91

 

 

『すげー! またあの赤司をぶち抜いた!』

 

続けて赤司を抜きさって得点を決め、観客が再び沸き上がった。

 

「(…バカな、こんな事が!?)」

 

赤司は目を見開きながら空に視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「あの赤司っちが動きを読み違えた!?」

 

今のプレーを見た黄瀬が立ち上がりながら声を上げた。

 

「大ちゃん、神城君は何をしたの?」

 

思わず桃井が青峰に尋ねた。

 

「別に何もしてねえよ」

 

青峰はただそう回答した。

 

「なら、赤司っちが読み違えたって事スか?」

 

「それも違う」

 

黄瀬の言葉を青峰は否定した。

 

「あいつはただ持ち前のスピードで赤司を抜きさった。それだけだ」

 

続けて青峰が言った回答は、シンプルなものであった。

 

「さっきまでのあいつは雑念だらけで無駄な力があったせいで本来のスピードを発揮出来てなかった。だが、ゾーンに入った事で無駄な力がなくなり、さらにあいつの持つ最大のスピードが出せるようになった」

 

「「…」」

 

「最小の動きで最速の動きをした事で、あいつはエンペラーアイを使った赤司ですら追い付けない速さを披露した」

 

「うそ…」

 

この青峰の説明を聞いて桃井は言葉を失った。

 

「それが本当なら、今の神城っちは…」

 

「…あぁ。純粋なスピードだけなら、あいつの右に出る奴はいねえ」

 

黄瀬の言葉を遮るように青峰は言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

洛山のオフェンス…。

 

「…」

 

赤司がボールを運ぶと、空が待ち受ける。

 

「…」

 

目の前に赤司が近付いてくると…。

 

 

――スッ…。

 

 

空は後ろへと下がり、距離を取った。

 

 

「あっ? あいつ、何考えてんだ?」

 

この行動に池永が疑問を覚えた。

 

「一昨年に火神君が赤司君をマークした時と同じですね」

 

「あぁ。俺ほど距離を取っちゃいねえけどな。だがあれは、赤司のエンペラーアイに対応する為のものだ」

 

2年前のウィンターカップ決勝の折、火神は赤司のエンペラーアイでアンクルブレイクを起こされるのを防ぐ為、敢えて距離を空けてディフェンスに臨むという方法を取った。だがこれは当時の火神にアンクルブレイクを防ぐ事が出来なかったからであり、持ち前のバランス感覚で立て直せる空がやる意味はない。

 

「となると、あれには別の意味があるって事だ。黒子、分かるか?」

 

「…分かりません。何の意味があるのか、見てみましょう」

 

少し考え、答えが分からなかった黒子はその答えを見守る事にした。

 

 

「…」

 

対峙する赤司も空の狙いを理解出来なかった。

 

この状況でドライブを仕掛けるのは下策。スリーを打つにしても空のスピード、瞬発力、反射神経が相手では打てない。

 

「…30」

 

ドリブルとシュートを諦めた赤司はナンバーコールをし、パスを出した。

 

「(来た!)」

 

洛山のパスワークが始まると、待ってましたと言わんばかりに空が動き出した。

 

ボールを止めず、絶えず動かし続ける洛山の選手達。

 

三村にボールが渡ると、左45度付近のスリーポイントラインの外側でフリーになっている二宮に視線を向けた。

 

「…っ」

 

それを見て大地がすぐさま距離を詰めに走った。

 

「(残念だが、本命はこっちだ!)」

 

三村は視線とは違う方向。ローポストに立つ五河にパスを出した。

 

「っ!?」

 

フィニッシャーを読み違えた大地は目を見開いた。五河もまた僅かにフリーになっており、松永のポジションも悪かったのだ。

 

「…っ」

 

これを見て松永が五河の下へ急ぐ。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ボールが五河の手に収まる瞬間、横から伸びて来た1本の手にボールはスティールされた。

 

「ドンピシャだ」

 

スティールしたのは空。空はしてやったりの表情でボールを奪い去った。

 

「まさか、パスのパターンが読まれた!?」

 

空のしてやったりのスティールを見て思わず四条が声を出した。

 

「速攻!」

 

ボールを奪った空は指示を出し、そのまま速攻に走った。

 

『おう!!!』

 

その空の声に花月の選手達が応える同時に一斉にフロントコート目掛けて走り出した。

 

「戻れ! ディフェンスだ!」

 

慌てて洛山の選手達がディフェンスに戻る。幸い、赤司、二宮、三村がアウトサイド及びアウトサイド付近にいた為、アウトナンバーにならずに済んでいる。

 

「っと」

 

ドリブルで突き進む空の横を赤司が並走する。

 

「あっぶな」

 

赤司がボールを狙うと、空は立ち止まり、バックチェンジでかわした。

 

「ここは取らせん」

 

「いーや、取らせてもらう…ぜ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そう言い返し、空が切り込んだ。赤司もピタリと空を追いかける。

 

「っ!?」

 

次の瞬間、空の手にボールがない事に気付き、目を見開く赤司。

 

「ナイスパス!」

 

ボールは空の右方向に走り込んだ大地に渡った。スリーポイントラインの外側、1メートル程離れた所でボールを掴んだ大地はすぐさまスリーの体勢に入った。

 

「打たせるか!」

 

「させねえ!」

 

すぐさま大地の前後から三村と四条がブロックに飛んだ。大地はそれよりも速くボールをリリースした。

 

「(シュートセレクションは乱した。しかもこの距離、外れる!)…リバウンド!」

 

外れると確信した三村が声を上げる。

 

 

――ガン!!!

 

 

言葉通り、大地の放ったスリーは外れた。

 

『あぁっ…!』

 

観客からは溜息に近い声が漏れる。

 

「外れたって構いません。何故なら今は…」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「天野先輩がいます」

 

ニコッと笑顔を浮かべる大地。

 

「ここ(リバウンド)は俺の土俵やぁっ!!!」

 

リバウンドボールを天野が抑えた。

 

「(ちぃっ! やはりこいつのリバウンド能力は…!)」

 

あっさりとポジションを奪われ、オフェンスリバウンドを取られた五河が苦悶の表情をした。

 

「もろた!!!」

 

着地後、すぐさまシュート態勢に入る天野。

 

「くそっ!」

 

決めさせまいと同じく着地した五河がすぐさまブロックに向かった。だが…。

 

「っ!?」

 

天野はボールを頭上に掲げただけで飛んではいなかった。

 

 

――ピッ!!!

 

 

そこからボールを左方向へとパスを出した。

 

「ナイス天さん!」

 

左のサイドラインとエンドラインが交わる左端で空がボールを受け取った。

 

「…ちっ」

 

スリーの体勢に入った空に対し、赤司が舌打ちをしながらチェックに向かうも空はそれよりも早くスリーを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたボールは今度はリングの中心を潜り抜けた。

 

 

花月 80

洛山 91

 

 

「決めたぁっ!!!」

 

「いいぞ神城ぉっ!!!」

 

ベンチの竜崎と菅野が立ち上がりながら声を張り上げた。

 

「戻れ、ディフェンスだ! 次も止めて一気に点差詰めんぞ!」

 

『おう!!!』

 

自陣に戻りながら空が声を出し、それに花月の選手達も呼応する。

 

「…」

 

ボールを受け取った赤司がボールを運んでいく。

 

「っしゃ来い!」

 

待ち受けているのは当然空。先程同様、距離を取ってディフェンスをしている。

 

「…」

 

赤司はどう攻めるか考える。距離を空けられているのでドライブは悪手。かと言って空が相手では距離を空けられていてもスリーも危険。となれば、後はボールを回すしかないのだが…。

 

『…』

 

先程、ナンバープレーによるボール回しは空に止められた。数十にもあるナンバープレーのパスワークを試合中に全て見抜く等まず考えられない。かと言って、今の空を前にまぐれや偶然で片付けてしまうのも危険。

 

「(ならば、もう1度確かめて見ればいい…)13番だ!」

 

ナンバーコールをした赤司はパスを出した。リスクを覚悟で赤司は本当に空にパスワークが通じないかどうか確かめに来たのだ。

 

「(俺達の50以上もあるセットプレーを見抜くなど不可能だ。さっきの偶然…)三村!」

 

ボールを受け取った四条がすぐさま三村にパスを出した。そこから絶えずボールを動かし続け、花月のディフェンスを切り崩しにかかる洛山。

 

「…」

 

パスが続く中、空がフリーになるべく動こうとしている三村に向かって走り出した。

 

「(バカめ、三村は囮、本命は五河なんだよ。やっぱりさっきのはたまたま、神城はパスコースを見抜いていない!)」

 

ボールを掴んだ二宮。今回の13番のフィニッシャーは五河。三村はディフェンスのスペースを広げさせ、五河へのパスコースを開けさせる為の囮だったのだ。

 

「よし、三村!」

 

敢えて本命だと思わせる為に三村の名前を呼び、ローポストの五河へとパスを出した。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「なに!?」

 

ボールが五河の手に収まる直前、そのボールを1本の手がスティールした。

 

「もらいますよ」

 

『今度は綾瀬だぁっ!!!』

 

ボールをカットしたのは大地。1度は二宮と五河のパスコースを通り過ぎた大地だったが、二宮がパスを出す直前に急停止、そこから反転、バックステップをしてパスコースに手を伸ばし、ボールを奪ったのだ。

 

「なるほど、空の指示通りでしたね」

 

ニコリと笑みを浮かべる大地。

 

「っしゃ、さすが大地だぜ」

 

立てた親指を大地に向ける空。

 

「(まさか、今のは神城の指示!?)」

 

「(やっぱり俺達のパスコースが見抜かれているのか!?)」

 

ここで洛山の選手達の疑念が確信にまで高まった。

 

「空!」

 

ボールを奪った大地が速攻に走る空に縦パスを出した。

 

「っし、速攻!」

 

ボールを掴むとすぐさまドリブルで進み始めた。

 

「…っ! またあんたか!?」

 

ドリブルを始めた空を邪魔するように赤司が空の横に並んだ。

 

「よくあのパスを見抜いた。だが、これ以上点はやらない」

 

「…ちっ、しゃーねえな!」

 

ここで空は赤司のいない右側にボールを放った。

 

「次は外すなよ」

 

そう囁く空。そこには大地が走り込んでいた。

 

「2度も外しませんよ」

 

スリーポイントライン1メートル程手前。先程外した場所から大地がスリーを放った。

 

『っ!?』

 

放たれたスリーを茫然と見送る洛山の選手達。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたボールはリングの中心を射抜いた。

 

 

花月 83

洛山 91

 

 

「よし!」

 

「頼りになるぜ相棒!」

 

笑顔で駆け寄った空が大地をハイタッチを交わしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

「凄い…、あそこから決めちゃった」

 

距離のあるスリーを走り込んだ勢いを瞬時に殺して決めた大地に驚く桃井。

 

「そこも凄いッスけどそれよりもその前っスよ。またあのパスをカットした」

 

黄瀬が驚きながら声を出した。

 

「やっぱり神城君にはパスコースを見えているの?」

 

「…さすがにそれはねえだろ。さつきにも出来ねえ事をあのバカが出来る訳がねえ」

 

桃井の予想を青峰が否定した。

 

「ここから見てて、神城の動きが明らかにおかしかった。ただボールとマークマンを追ってる動きじゃなかった」

 

「と、言うと…?」

 

「これまであいつは、ナンバープレーの最後のフィニッシャーを嗅ぎ分ける事は出来ていた。恐らくあいつはフィニッシャーを特定した後、敢えてパスコースを開けさせる事でパスを誘導してそこをカットした」

 

黄瀬の疑問に、青峰が解説を始めた。

 

「…けど、それでもカット出来るものなの? 洛山は最後にパスする選手を変える事だって出来るんだし、いくらゾーンに入った神城君でもそれは難しいんじゃ…」

 

桃井が青峰の解説に引っ掛かりを覚え、尋ねた。

 

「神城1人なら無理だ。だが、もう1人いれば不可能じゃねえ」

 

「もう1人と言うと、綾瀬っちッスか?」

 

「神城がちょくちょく指示みたいなものを出しているのがここから見えた。その指示に従って綾瀬が動いて誘導を完全なものにしたんだろう。さっきは綾瀬が誘導役で神城がボールを奪う役。今はその逆だ」

 

「凄い、まるで霧崎第一の花宮さんの蜘蛛の巣みたい…」

 

ここで桃井がスティールの名手である無冠の五将の1人、花宮真の名前を出した。

 

「ま、似てはいるな。ただ、あのカス(花宮)とあの2人とじゃ身体能力が違い過ぎっから比較にもなんねえだろうがよ」

 

手酷く五将の花宮を下げる青峰。

 

青峰の解説は当たっていた。空が洛山のセットプレーによるパスをスティール出来たのは、最後のパスを誘導していたからだ。空が何度かのパス交換の際の敵と味方の動きの流れを見ながら直感でフィニッシャーを特定し、そこから大地に目線やハンドシグナルでサインを出し、誘導あるいはカット役の指示を出し、後はボールを奪う。これが洛山のパスワークからボールを奪った種である。

 

「そうなると、洛山は残りの時間、あのナンバープレーは使いづらくなるッスね」

 

「あぁ。通用するかもしれねえが、明らかにスティールされる確率の方がたけーからな。となると後は…」

 

「個人技で突破するしかないッスね」

 

「…っ」

 

3人の視線が赤司に向いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ボールを運ぶ赤司。

 

「次も止めるぜ」

 

当然、待ち受けるのは空。空が不敵な笑みを浮かべながら距離を取ってディフェンスをしている。

 

「…」

 

2度もパスカットされている今の現状、ここで再びナンバープレーで攻めるのは躊躇われる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ならばと赤司は仕掛け、空との距離を詰めた。

 

「例えゾーンに入っていようと、この眼を持つ僕を止める事は出来ない!」

 

エンペラーアイを発動し、空の僅かな動きを読み取ろうとする赤司。

 

「(っ!? 動かない? 何を考えている…)」

 

赤司がエンペラーアイで見た空は、微動だにしないものであった。エンペラーアイを前に動きを欺くのは不可能。

 

「(何を考えている知らないが、ならば遠慮なく通るだけだ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

動かない空の横を赤司は抜けていった。

 

『抜いたぁっ!!!』

 

「エンペラーアイを味わい続けて分かった事がある。あんたのエンペラーアイは目の前の1人の動きの未来しか視る事が出来ない」

 

「っ!?」

 

赤司の視界から空の姿が消えた瞬間、赤司の背後から空がボールに手を伸ばした。

 

「死角から仕掛けりゃ、あんたでもどうしようもねえだろ!」

 

グングンボールに空の伸ばした手が近付いていく。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空の手がボールを捉えようとした瞬間、赤司は左手から右手へとボールを切り返し、その手をかわした。

 

「それがどうした? たとえ未来は見えずとも、お前の動きくらい容易に予測出来る」

 

そんな空を嘲笑うかのように告げる赤司。

 

「…ハッ! だろうな。この程度で俺も取れるなんざ思っちゃいねえよ。だが、死角からなら『予測』しか出来ない」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

ここでボールを狙う為に伸ばした左手を止め身体を横に倒して右手に切り返したボールを狙い打った。

 

「俺があんたを素通りさせたのは何でだと思う? 下手に対応しようとしてエンペラーアイで重心が偏った所を狙われるとせいぜい倒れ込んでスティールを狙う事くらいしか出来ねえからさ」

 

重心が片方の足に乗ってしまえば空と言えどもすぐには後を追えず、せいぜい倒れ込んでのスティールが関の山。しかし、それさえなければゾーンに入った空のスピードと瞬発力、さらに、赤司がエンペラーアイの死角に入った瞬間に動ける反応速度を持つ空なら苦も無く追う事が出来、抜かれた後からでも追い付く事も可能。

 

「俺が後ろから狙えば当然ボールを切り返してかわしにかかる。俺でも分かる未来だ。体勢さえ万全ならさっきまではせいぜい次しか続かなかったものが次の次までいける。いくらあんたの予測でも、これはかわせねえだろ」

 

エンペラーアイの死角からのダブルアタック。しかも、咄嗟の行動をしてしまった状態では赤司でもかわす事は出来なかった。

 

「空坊!」

 

「もう走ってますよ!」

 

ルーズボールを拾った天野。空は既に速攻に走ってボールを要求していた。

 

「頼むで!」

 

前を走る空に天野が縦パスを出した。

 

「くそっ! 戻れ!」

 

懸命に声を出してディフェンスに戻る洛山の選手達だったが、先頭を走る空には追い付けない。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

ボールを掴んでドリブルを始めた空はスリーポイントライン目前で急停止し、スリーを放った。

 

 

――スッ…。

 

 

同時に空は踵を返し、自らが放ったスリーの行く末を見届ける事なくディフェンスに戻り始めた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングの中心を潜り抜けた。

 

 

花月 86

洛山 91

 

 

『来た!!! スリー3連発!!!』

 

『これで5点差! スリー2本で逆転だ!!!』

 

立て続けのターンオーバーからの3連続スリーを決めた事によって詰まった点差を見て観客は盛大に沸き上がった。

 

『…っ』

 

急速に詰まっていく点差を見て洛山の選手達の表情にも焦りが見えた。

 

「…っ」

 

赤司の表情にも僅かに変化が窺えた。それは焦りではなく、怒りにも似た表情…。

 

「あ、赤司…」

 

流れは完全に花月にあるこの状況。どうするべきかを聞く為に洛山の選手達が赤司の周囲に集まる。

 

「スー…フー…、充、ボールを寄越せ」

 

1度大きく深呼吸をした後、赤司が五河にボールを要求した。

 

「赤司?」

 

「早くしろ」

 

「…っ」

 

決して大きな声ではないが、赤司が発した声の迫力に五河が身体をビクつかせ、言う通り赤司にボールを渡した。

 

「…っ!」

 

突如カッと目を見開いた赤司は加速をし、1人フロントコートにドリブルで突き進み始めた。

 

『1人赤司が攻め込んだぞ!?』

 

『何をする気だ!?』

 

その突然の赤司の行動に観客も戸惑いの声を上げた。

 

「なんだか知らねえが、受けて立つ!」

 

フロントコートに侵入した赤司。花月のディフェンスの先頭に立つ空が赤司を待ち構える。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空の目の前で赤司がクロスオーバーを仕掛ける。先程同様、空は何もせず、赤司を素通りさせる。

 

「何度やっても同じ――っ!?」

 

赤司のエンペラーアイの死角に入ったギリギリで動き出して後ろからボールを狙おうとした空だったが、赤司は既に先程よりさらに前に進んでおり、ダブルアタックどころか、最初のカットすら手が届かなかった。

 

「…くっ!」

 

空が抜かれたのを見て大地がヘルプに向かい、赤司に立ちはだかった。

 

「どけ、邪魔だ」

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

「…なっ!?」

 

高速で赤司が数度切り返すと、大地は崩れ落ちるように床に膝を付いてしまう。

 

「なんやそれは!?」

 

「止める!」

 

続いて天野と生嶋が同時に現れる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

一瞬視線をリングに向け、シュートを意識させた後、バックロールターンで反転しながら2人を抜きさった。直後、ボールを掴んで飛んだ。

 

「おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

次の瞬間、松永が咆哮を上げながら赤司とリングの間にシュートコースを塞ぐようにブロックに現れた。

 

「…」

 

 

――スッ…。

 

 

松永が目の前に現れると、右手で持って掲げたボールを指でなぞるように動かし、フィンガーロールで松永のブロックを越えるように高くボールを放った。

 

「っ!?」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

目を見開いた松永が振り返ると、ボールはリングを潜り抜けた。

 

『…』

 

茫然とする花月の選手達。静まり返る会場。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

すぐに会場は歓声に包まれた。

 

「…5人抜き」

 

ベンチで茫然と呟く竜崎。

 

「何が…、起こったんだ…」

 

同じく茫然とする菅野。

 

「…っ!」

 

ゆっくりと自陣へと戻っていく赤司に身体を向ける空。

 

「ここまで僕達を追い詰めたお前達の健闘は認めよう。…だが、ここまでだ」

 

センターライン付近まで歩いた赤司が振り返った。

 

「ここから先は僕自らお前達を蹂躙する。2度と歯向かう気すら起きない程の力の差を見せてやる」

 

『っ!?』

 

赤司の発したプレッシャーを受けた花月の選手達は全てを理解したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「火神君!」

 

「あぁ、間違いねえ…!」

 

変化に気付いた黒子が火神に問い掛ける。

 

 

「青峰っち!」

 

「あぁ、赤司の奴、入りやがった」

 

同じく気付いた黄瀬が青峰に問い掛ける。

 

 

「赤司…!」

 

緑間が赤司の名を呼んだ。

 

 

「ゾーンか…!」

 

空が呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――赤司征十郎が、ゾーンの扉を開いた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





まさか前話が日間ランキングに入っていて目玉飛び出た…(゚Д゚;)

しかも一時過去最高の17位にこの二次があった時は五度見しました。翌朝には幻だったかのようにランキングから消えてましたが…(;^ω^)

おかげでテンション爆上がりでただでさえクソ忙しい年末にも関わらず、睡眠時間削りまくって1話仕上げちゃいました…(^_^)v

今年最後にランキングに乗れて、感無量です…(ノД`)・゜・。

と言う訳で……寝ます…(=_=)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!
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