「あれ~、楽勝……ていう程の点差じゃないみたいッスね」
黄瀬涼太が手すりに腕を掛けながら言う。
「後輩達は人事を尽くしていない。だからこの体たらくなのだよ」
緑間真太郎がメガネのブリッジを上げながら険しい表情で続く。
「星南…? 聞いたことねぇな。さつき、あんな中学去年いたか?」
青峰大輝がつまらなそう表情で横にいる桃井さつきに問いかけた。
「えっと……、星南中学は、今年が全中初出場で、去年は予選のベスト8で敗退しているみたい」
桃井さつきは自身の持つノートをめくりながら質問に答えていく。
「ん~? それってつまり~、星ナントカって学校に強い新入生でも入ったってこと~?」
その横にいる、キセキの世代の中で1番の身長である紫原敦が駄菓子を食べながら桃井に聞く。
「そういう訳でもないみたいだよ? スタメンは全員3年生みたいだし。…詳しく調べたわけじゃないから詳細は分からないけど…」
「星南の5番と6番。彼らが要因だろう」
6人の真ん中で立っている赤司征十郎が口を開く。
「去年に何故姿を現さなかったかは分からないが、あの2人が実にいい動きをしている。帝光中にいたなら、まず間違いなく1軍、レギュラーにもなっていただろう」
「へぇー、第3Qから来たからよく分からないッスけど、赤司っちがそこまで言うってことは、あの2人は結構やるってことッスね」
「星南中? みんなちっこいよ。これなら後輩が勝つんじゃない?」
「前半戦までと同じならそうなるのだろうが、…おそらく、試合はここから動きを見せるだろう」
「…」
青峰は特に興味なさげにコートを見つめる。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
キセキの世代がこの会場に揃っているのは、ある種の偶然であった。
赤司は自身が声を掛けていた選手の様子見を兼ねて観戦に…。
黄瀬は新しいバッシュを買いに行った帰りに偶然この会場に辿り着き…。
青峰は練習をサボってうろついていたところ、そこを桃井に見つかり、その場所がたまたまこの会場近くだったので無理やり引きずられ…。
紫原は会場入りする赤司と偶然出会い、赤司に誘われて一緒に付いていき…。
緑間はこの近くでさっきまで練習試合をしており、その帰りに後輩達の試合を思いだし、この会場に…。
形だけ見ればただの偶然である。だが、彼らは引き寄せられるようにこの会場にやってきた。
果たして、これはただの偶然なのか…、それとも……。
※ ※ ※
ハーフタイムが終了し、コート上に戻って来る星南と帝光の選手達。
18点ものリードがあり、表情にも余裕がある帝光に対し、18点のビハインドがあり、ポジションごとの力の差もあることから余裕のない表情の星南。
対照的な両校。
『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』
後半戦、第3Qが開始される。
帝光ボールからスタート。
――ダム…ダム…。
ボールをキープし、ゲームメイクをする新海。マークに付く空。
「っ!?」
前半戦とは明らかに雰囲気が違う空。それを新海は即座に感じ取る。フェイクなどを入れて揺さぶりをかけるが、空は意にも返さない。
「(さっきまでとは明らかに違う。隙がない!)」
ドリブル突破を試みようとするが、空はその隙を与えてくれない。
「(くそっ!)」
内心で舌打ちをする新海。
「新海! ボール止めてんじゃねぇ! さっさとパスしろよ!」
攻めあぐねる状況にイライラした様子の水内。
「ちっ!」
仕方なく水内にパスをする新海。
「よっしゃ!」
ボールを受け取った水内はトリプルスレッドの体勢に入る。すぐさまチェックに入る駒込。
――ダムッ!!!
「くそぉっ!」
ドライブで抜き去られ、悔しさを露わにする駒込。
そのままグングンゴール下近くまで侵入する水内。そのままレイアップの体勢に入る。
「もう1回20点差ぁっ!」
ゴールを確信してテンションを上げる水内。
――バチィィィッ!!!
「えっ?」
レイアップをブロックされ、思わず声が漏れる水内。ブロックしたのは…。
「綾瀬だ!」
大地のブロックショットが炸裂する。
こぼれたボールを茫然としながら確保する田仲。
「速攻だ!」
空がフロントコートに向かって走りながらボールを要求する。
田仲はハッと正気に戻り、前線に大きくロングパスを出す。ボールを受け取り、前を向くと、すぐ目の前には新海。空は足を止める。
「ここは行かせん」
新海だけはディフェンスに戻っており、ロングパスを受け取ったのと同時にチェックに入った。
それに続いて次々とディフェンスに戻る帝光メンバー。
「(大地が魅せてくれたんだ。次は……俺の番だ!)」
空がトリプルスレッドの体勢からドライブの体勢に入り、ボールをゆっくり動かす。
「(来るっ!)」
新海はドリブル突破に備える。
――ダムッ!!!
「っ!?」
空のドライブで新海の横を抜ける。今日イチのスピードとキレを有したドライブに新海もあっさりと抜き去られた。
『うおぉっ! はえー!』
高速のドライブに観客からも歓声が上がる。
「何やってんだよ、新海!」
沼津がヘルプにやってくる。空は沼津の右側を抜けようとフェイクをかける。沼津がそちらに警戒をする。
――ダムッ!!!
「うそぉっ!」
空は逆の左側からビハインドバックで抜け、沼津をかわす。
「調子に乗んな、雑魚が!」
池永が不快感を露わにしながらヘルプに入り、空の進路を塞ぐ。空は逆サイドに走る森崎の方に視線を向ける。
――ダンッ!!!
空は森崎にではなく、池永の股下にボールを投げつける。投げつけられたボールを大きくバウンドし、リング付近に弾む。そこに、先程ブロックをした大地が走り込む。
「ふっ!」
大地は跳躍し、空中でキャッチし…。
――ザシュッ!
そのまま放り投げ、ボールはリングを潜る。
ゴールを沈めた大地はそのまま着地する。
『うおぉぉぉーーーーっ!!!』
『アリウープだ!』
大地によるアリウープ。観客が沸き上がらせるには充分なインパクトだった。
空と大地はパチンとハイタッチをする。
「いっきに点差をひっくり返すぞ」
「勝ちましょう、この試合」
2人は田仲、森崎、駒込に声を掛ける。この2人のワンプレーと声掛けにより、失いかけていた戦意が戻り、勝利への意欲と執着心が戻る。
『おう!』
3人はそれに応えるように大きく返事をする。
「それと、監督の指示、それにちゃんと従いませんとね」
「監督、すっげー顔でこっち睨んでるぜ」
3人が恐る恐る星南ベンチに視線を向けると、不快感と怒りを露わにしている龍川の姿があった。
『(ゴクッ!)』
そのあまりの殺気に星南選手は息を飲んだのであった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
帝光はリスタートし、新海がボールを受け取り、ゲームメイクを始める。
ゆっくりフロントコートに侵入すると、星南のディフェンスが動きを変える。
「っ!?」
『これは!?』
『2-3ゾーンだ!』
星南はこれまでのハーフコートマンツーから2-3ゾーンにディフェンスを変える。
前には空と大地、後ろには森崎、田仲、駒込。
「星南は勝負をかけてきたな」
「えっ?」
生嶋がニヤリと表情を変える。
「ここでこれを出すということは、かなりこのディフェンスを練習してきたんだろう。ここでこれがハマれば、勝負は分からなくなるよ」
突然の2-3ゾーンのへの変化に新海は少なからず動揺する。
「こっちにくれよ! 今度は決めてやるからさ!」
水内がパスを要求する。新海は仕方なくパスをする。
「よっしゃ!」
ボールを受け取った水内はすぐさまドライブの体勢に入る。
――ダムッ!!!
そのまま大地の横を抜けようとする。だが…。
「っ!」
水内がドライブしてきたのと同時に星南は水内を囲うように包囲する。
「(ぐっ!)」
個々の能力で勝る帝光中とはいえ、複数の人数を相手ではさすがに突破は困難。
「くそっ…」
水内は舌打ちをしながら新海へと一度ボールを戻した。
ボールを受け取った新海はまだマークに誰も来ていないことを確認し、すかさずスリーの体勢に入った。
「っ!?」
だが、打たせまいと空が一瞬で距離を詰めてピッタリと付き、ガンガンプレッシャーをかける。
「ぐっ!」
空のあまりのプレッシャーに、新海はシュートどころか、ボールをキープすることで精一杯の状況まで陥る。
「(なんてプレッシャーだ!)」
新海は歯を食い縛りながらボールを奪わせまいとキープする。
「こっちだ! さっさと寄越せ!」
池永が苛立ちながらボールを要求する。
「ちぃ!」
新海は空のプレッシャーをかわしながら何とか池永にパスを出す。
「(どいつもこいつも、こんな雑魚共にやられやがって…見てろ)」
ボールを受け取った池永はドライブの体勢に入る。
「(ちっせぇだけあってスピードだけは大したもんだ。それだけは認めてやる。だがな…!)」
――ダムッ!!!
全速のドライブで池永が星南のペイントエリアに一気に侵入する。星南はすかさず人数をかけて池永を包囲する。池永が包囲されながらも強引に突破していき、そのまま大きく跳躍する。
「(見とけチビ共! こうやって飛んじまえば、お前らはただの雑魚なんだよ!)」
跳躍した池永は右手にボールを持ちかえる。リングにグングン近づき、ダンクの成功を確信してか表情に笑みがこぼれる。右手のボールがリングへと叩きこまれるであろうその時…。
――バチィィィッ!!!
「なっ!?」
池永は大きく目を見開く。池永の持ったボールは、リングに叩きこまれる瞬間にブロックされた。
「うそ…だろ…」
新海はその光景を目の当たりしてもなお信じられないでいた。
『か…神城だーーーっ!!!』
池永をブロックしたのは何と空だった。
先程まで新海にフェイスガードでマークしていた空。にもかかわらずパスを貰ってすぐさまドライブで切り込んでダンクに向かった池永をブロックに行ったその俊敏性。だが、それ以上に驚愕なのが…。
「(こいつ…、こいつのタッパ(身長)は180㎝もないはず。なのに何で俺(190㎝)のダンクをブロック出来んだよ…)」
空と池永の身長差は13㎝。だが、空は脅威の跳躍力で池永のダンクをブロックした。
「池永、切り替えろ! ディフェンスだ!」
「はっ!?」
空にブロックされたショックで茫然としていた池永だったが、新海の檄で正気に戻り、ディフェンスに戻っていく。ブロックされたボールは駒込が拾い、すぐさま空にボールを預ける。
「もう1本! どんどん返すぞ!」
空が人差し指を上げ、ゲームメイクを始める。
空に対し新海がマークに付く。新海の表情には先程の動揺がまだ残っている。
「(さてと、もう1本かまして……ふふっ、そうだよな。お前もそろそろ我慢できないよな)」
空は笑みを浮かべてパスをする。パスの先は…。
『来たぞ!』
ボールの先は大地。先程の空を見て、会場は大地に期待感を寄せる。
「(大地は大人しそうに見えて、実は俺と同じくらい…いや、俺以上に攻撃意識が高い奴だからな。これまではチームの為と抑えてきたみたいだが、もう抑えられねぇよな)」
スリーポイントラインの外側でボールを受け取った大地。マークするのは池永。大地はドライブの体勢に入る。
「(こいつ…! 調子に乗りやがって。今まで1度もまともに抜けてねぇくせに!)」
池永は腰を落とし、ドライブに備える。
「スー…ハー…」
大地は深呼吸1つする。
「(空にああも魅せられてしまっては、私も負けていられませんね)」
大地が顔を上げる。そこには、普段の穏やかな眼つきではなく、鋭い眼光が発せられていた。
――ダムッ!!!
「っ!?」
大地が僅かにボールを振り子のように動かし、そのままドライブ。大地は池永の横を風の如く通り抜けた。
池永は棒立ちで抜かれてしまった。
『は…、はえーーーっ!!!』
あまりの速さに観客からも歓声が上がる。
「く…そがっ!」
池永はすぐさま追いかけようと振り返り、追いかけようとする。だが、池永は再び驚愕することになる。
「なっ!?」
池永が振り返ると、そこに大地の姿はなかった。圧倒的な速さで抜かれ、一瞬視界から外れただけに過ぎないのにだ。
「何処に…」
池永は大地を探す。だが、視界に大地の姿は映らない。不意に、目を見開いて池永の後方を指差す河野の姿が目に映る。
「う…後ろだ!」
声に釣られ、池永が振り返った後、再び振り返ると、先程ボールを受け取った地点に大地がおり、シュート体勢に入っていた。ノーマークになった大地は障害も遮蔽物もなく、悠々とスリーを放った。
――ザシュッ!!!
ボールは綺麗にリングを潜った。
星南 33
帝光 46
『おっ…』
『おぉぉぉーーーっ!!!』
会場が大歓声で埋め尽くされる。
今のワンプレーで会場中が盛大に湧き上がった。
「何が起こったんだよ…」
状況が理解出来ない池永はただただ困惑するばかり。
「バックステップだ…」
「はっ?」
「あいつ、ドライブでお前の横を抜けた直後にとんでもない速さでバックステップしやがったんだよ!」
一部始終目の当たりにした河野も、今見た光景が信じられないでいた。
高速のドライブとそれと同等のスピードでの高速のバックステップ。常識外れのプレーだ。
「おいおい…、そんなわけ…」
信じまいとする池永だが、河野の表情と今自分に起きた現象を頭が理解してしまい、そこから先を続けることは出来なかった。
当の本人は、空と笑顔でハイタッチをしている。
僅か1分の間に起きた3つのビックプレーに、会場とコートの空気が一変した。
※ ※ ※
――神城空…。
――綾瀬大地…。
名も無き中学でくすぶっていた2人のプレイヤー。
後に、『次世代のキセキ』と称されることになる2人の天才。
彼らの覚醒への扉が今……、開かれ始める……。
続く