黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

長い長ーい話になりましたが、投稿です…(;^ω^)

それではどうぞ!



第150Q~乱入者~

 

 

 

夏の激闘が終わり、激闘を繰り広げた猛者達が自分達の所属する県へと戻っていった。空達花月高校の選手達も静岡に帰り、次の戦いに備えていた。

 

「あざーす」

 

そんな中、空が職員室から出て来た。その手には1枚の用紙があった。

 

『短期留学申請書』

 

「…よし」

 

用紙を確認した空が頷いた。

 

「空」

 

そんな空に話しかける人影が現れる。

 

「…大地か。これを貰いに行ったんだよ」

 

空は持っていた用紙を大地に見せた。

 

「短期留学制度…」

 

「インターハイでキセキの世代との力の差を思い知った。去年はガムシャラだったから実感なかったけど、今年の夏はそれが良く分かった」

 

「…」

 

「陽泉や海常には勝ったが、個人では完敗だったし、洛山は試合も完敗だった。インターハイでキセキの世代の勝利への執念を思い知った。冬まで同じ事しててもこの差は埋まらねえ。だから俺はアメリカに行く。キセキの世代との差を埋める『何か』を掴むために」

 

真剣な表情で大地に説明をした。

 

「……フフッ」

 

それを聞いた大地が笑い始めた。

 

「?」

 

笑い始めた大地を見た空が怪訝そうな表情をする。

 

「…いえ、すみません。考える事が同じで驚いただけです」

 

そう言って大地が1枚の用紙を空に見せた。それを空が今しがた貰ってものと同じ、短期留学制度の申し込み用紙だった。

 

「ハハッ! お互い、考える事は同じか」

 

用紙を見た空が同様に笑い始めた。

 

「ただ練習をしてもキセキの世代との差は埋まらないでしょう。ならば、違う鍛え方をするしかないでしょう。となれば、本場のバスケを体感する以外にありません」

 

「だよな! 早速これ書いて理事長に承認貰いに行こうぜ!」

 

嬉々として空が歩き始めた。

 

「…ところで、この留学制度は学力が高い者から選出されると言うのご存じですか?」

 

「…」

 

歩き始めた空だったが、ピタリと歩みを止めた。

 

花月高校の留学制度は希望者の人数が多い場合は成績順で選出される。ちなみに、花月高校はかなりの進学校でもあるので、毎年は希望者は成績優秀者ばかり。

 

「…空、1学期の期末考査の結果は?」

 

「…」←全教科赤点ギリギリ

 

沈黙する空。それが全てを物語っていた。

 

「…い、一応、行くだけ行ってみましょう。可能性は0ではないでしょうし」

 

「…い、いざとなったら土下座してでも…!」

 

空と大地は顔を引き攣らせながら用紙を記入し、理事長室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

理事長室にて、記入された短期留学制度の用紙に理事長が目を通していく。

 

「「…」」

 

その様子を固唾を飲んで空と大地が見守っている。

 

「……ふぅ」

 

理事長が一息吐くと、記入用紙を机に置いた。

 

「「…(ゴクリ)」」

 

息を飲む2人。

 

「神城空さん、綾瀬大地さん」

 

「「はい!」」

 

「短期留学制度の件、お二人とも了承致します」

 

笑顔で理事長が了承の判を押した。

 

「えっ!?」

 

断れる事を覚悟していた空は思わず声を上げた。

 

「どうかしましたか?」

 

「あの…その、成績優秀者が選ばれるって聞いたんでてっきり…」

 

空の言葉を聞いた理事長がニコリと笑みを浮かべ…。

 

「昨年のインターハイ優勝。ウィンターカップベスト8。そして今年のインターハイベスト4。立派な成績優秀者ではありませんか」

 

「「…」」

 

この言葉を聞いた空と大地は互いに顔を見合わせ…。

 

「「ありがとうございます!」」

 

揃って理事長に頭を下げたのだった。

 

 

※ ちなみに、空に承認の許可が下りたのは、今年に限り、短期留学制度を希望する生徒の定員が割れていたと言う理由があった事はお約束…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「へぇー、それじゃ、くーとダイはアメリカに姉妹校に行くんだ」

 

「あぁ。今よりもっと強くなって帰ってくるぜ」

 

事情を聞いた生嶋が感心しながら言った。

 

「そうなると国体はどうするんだ? お前達には確実に声が掛かるだろう」

 

松永が国体の事を2人に尋ねた。

 

国体は県で選抜チームを結成し、秋に開催される高校生の三大大会の1つだ。

 

「来ても辞退する。出ればそれなりに得るもんあんだろうが、正直、夏と結果は変わらねえだろうし」

 

「インターハイから開催期間が短いですからね。冬に備えたいので私も辞退します」

 

2人の返事は辞退だった。

 

「残念ですね。自分としてはまた先輩達がキセキの世代とぶつかる姿が見たかったですけど」

 

辞退を聞いて室井が残念がった。

 

「となると、国体は東京、京都、神奈川、秋田のいずれかが優勝するのは確実ですね」

 

竜崎が今挙げた県は言わずと知れたキセキを冠する者が在籍する県だ。

 

「東京は青峰の怪我の調子もあるが、仮に辞退したとしても火神と緑間の2人がいるし、個々の戦力と層の厚さなら1番だろう」

 

松永が最初に挙げたのは東京都。キセキを冠する火神と緑間。誠凛、桐皇、秀徳は全国で指折りの選手が揃った高校である為、青峰が欠場したとしてもその総合力は1番。

 

「けど、京都、神奈川、秋田は確実に洛山、海常、陽泉の選手が主軸になりますから、連携面でアドバンテージが取れるはずです。戦力と層の厚さだけでは一概に語れませんよ」

 

急造チームとなる東京都と違い。他の3県は普段から一緒に練習をしている選手同士が主軸となる為、連携は抜群だと竜崎が意見を述べた。

 

「強い選手が集まったチームが強いとは限らないからね。結果はやっていないと分からないね」

 

予想が出来ないと生嶋が結論付けた。

 

「他人事にように話ってけど、松永や生嶋は国体に選ばれる可能性が充分にあるし、そうなりゃ、いずれの4校と戦う可能性はあるだろ」

 

結果予想をしている3人に対し、空が投げかける。

 

「…うん」

 

「…うむ」

 

空に尋ねられると、生嶋と松永が表情を曇らせた。

 

「…そう言えば、天野先輩の姿が見えませんが」

 

話題を変えるべく、大地がこの場にいない天野の事を尋ねた。

 

「何や呼んだか?」

 

そこへ、天野が話の輪に加わるようにやってきた。

 

「やっと来たか! 何か監督に呼ばれてたみたいだが、何のな話だったんだ?」

 

僅かに事情を知っていた菅野が尋ねた。

 

「俺ん所に国士台大学の監督が来とってのう」

 

「国士台って言ったら…、去年のウィンターカップ前に練習試合した大学か」

 

思い出しながら菅野が言う。

 

「そや。そこの監督に呼ばれたんや。ほんで、ウチに来ぇーんかって誘われたんや」

 

「国士大大学と言ったら、関東1部の大学ですね。去年の練習試合でも私達がもっとも苦戦した相手です」

 

大地が知ってる限りの情報を口にしていく。

 

「それで、天さんはその話を受けたんですか?」

 

結論を空が聞くと、天野はニコッと笑い…。

 

「そら受ける決まっとるやろ。向こうも練習試合で1番俺を評価してくれとっての、今年のインターハイ見て決めたらしいからのう。これで進路を気にする事なく練習に打ち込めるで!」

 

自身に高い評価をしてくれた国士大大学の監督に感謝しながら天野が喜んだ。

 

「そんな事よりもや、空坊と綾瀬はアメリカ行くらしいやないか。聞いたで」

 

「えぇ。もっと強くなる為にはキセキの世代と同じ事をしても勝てないと思ったので…」

 

「俺がいない間、チームの事は天さんに任せますよ」

 

申し訳なさそうにする大地と、花月の事を空は笑顔で託していた。

 

「大事な時期にキャプテンとエースがのう…まあええわ。そのかわし、絶対つよなって帰ってくるんやで」

 

「「うす(はい)!!!」」

 

2人の肩を叩く天野。空と大地は決意に満ちた表情で返事をしたのだった。

 

こうして、空と大地はアメリカへの姉妹校への短期留学が決まり、早々に荷物を纏め、アメリカへと旅立った。

 

…だが、その前にとある場所でちょっとした出来事が起こった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「着いた着いた、ここだな」

 

1人の男が目の前の校舎を見上げながら1人呟く。

 

「えっと…きり…こう…、間違いねえ、ここだな。…待ってろよ」

 

校門前の学校名が表示されているプレートを読み上げ、目当ての場所だと言う事が確認出来たその男は満足そうに頷きながら学校へと足を踏み入れた。

 

 

――桐皇学園高等学校。

 

 

言わずと知れたキセキの世代、青峰大輝を擁する桐皇に、突如として騒動の芽がやってきたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

桐皇の体育館…。

 

「…ふっ、ふっ…!」

 

「…っ! …っ!」

 

練習開始予定時間前だが、各々選手達が早めに体育館に足を運び、柔軟運動をして身体を解す者、シュート練習をする者、走り込みをする者等、各自自主練を行っていた。

 

「…っと、まだ時間はあるな。って、青峰は…来てねえか」

 

準備運動を終えた桐皇の主将が青峰の姿を探すも見つからず。

 

「青峰さんなら病院によってから来るそうなので、多分、少し遅れて来ると思いますよ」

 

「…そういやそうだったな」

 

事情を説明する桜井。記憶を辿り、思い出した福山は納得した。

 

「あいつの足の調子は聞いてるか?」

 

「桃井さんの話だと、経過は順調らしくて、もしかしたら今日からでも復帰出来るかもしれないって」

 

「そりゃいい。そろそろあいつと1ON1やりたかった所だし、…そんじゃいっちょ、病み上がりの青峰へこまして喝の1つでも入れてやるか」

 

「逆に凹まされるだけやろ」

 

早期の復帰を望む福山は青峰が復帰するのを今か今かと待ちわび、そんな福山に今吉が茶々を入れた。

 

「よっと」

 

転がっていたボールを拾い、ジャンプショットを放つ福山。

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールはリングに弾かれてしまった。

 

「っと、俺も少し気が抜きすぎちまったか」

 

外れたボールを追いかける福山。その時…。

 

「?」

 

体育館の入り口付近に転がったボールを1人の男が拾った。

 

「…あっ? 誰だお前」

 

身に覚えのない男。身長は福山より僅かに低く、ジャージはおろか、制服すら着ていないその男に怪訝そうに話しかける福山。

 

「…」

 

ボールを拾ったその男はニヤリと笑うと、福山目掛けてドリブルを始めた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

その男は福山の目の前でクロスオーバーで切り返し、抜きさった。そのまま男は反対側のリング目掛けてドリブルで突き進んでいく。

 

「そいつを止めろ!」

 

抜かれた後、正気に戻った福山が声を出した。その声に反応して桜井と今吉が男の前に立ち塞がる。

 

 

――スッ…。

 

 

「「っ!?」」

 

今吉を急停止してロッカーモーション、緩急で抜きさり、続く桜井をバックロールターンで反転して抜きさった。

 

「(嘘やろ!? 早過ぎるわ!)」

 

「(このスピードとキレは!?)」

 

その圧倒的なスピードに今吉と桜井は驚愕した。

 

「っしゃっ!!!」

 

リング近辺まで到達した男は気合い一閃、ボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「おぉっ!」

 

そこへ、國枝がブロックに現れた。

 

「らぁっ!」

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

ブロックもお構いなしに、國枝の上からダンクを叩き込んだ。

 

「(こいつ!? 俺よりタッパがないのに俺の上から!?)」

 

リングから手を放し、男は着地した。

 

『…』

 

突然現れた来訪者に体育館が静まり返る。男は転々とするボールを拾い…。

 

「ここにはキセキの世代ってのがいるんだろ? 俺と勝負しろよ」

 

不敵な笑みを浮かべながらそう言った。

 

「お前、ウチの生徒じゃないな? いきなり乱入して、どういうつもりだ!」

 

思わず駆け寄った新村が男に掴みかかる。

 

「どういうつもりって、今言ったじゃん。キセキの世代と勝負しにきたんだよ」

 

掴みかかれた男は鬱陶し気にそう答えた。

 

「勝負しに来たって、礼儀知らずにも程があるやろ」

 

その物言いに今吉は呆れながら言った。

 

「わざわざクソ遠いここまで小遣いはたいて来たんだよこっちは。充分礼儀正しいだろ」

 

「知らんがな」

 

思わず今吉はツッコんだ。

 

「そんな事はいいんだよ。それよりキセキの世代を出せよ! 俺と勝負しろ!」

 

「うるせー奴だな。青峰ならいねーよ。来たとしても怪我が治ってねえから勝負出来ねえよ」

 

あまりのしつこさに辟易しながら福山が事情を話す。

 

「あぁ、怪我だぁ? んだよ、それじゃ勝負出来ねえじゃねえかよ…」

 

勝負出来ない事を知って愕然とする男。

 

「…ハァ。同じキセキの世代のチームにボロ負けしたって聞いたからキセキの世代の格下かと思って来てみたけど、なるほど、怪我でいなかったからか、納得」

 

溜め息を吐きながら肩を落とす男。

 

「あーあ、来て損したわ、帰ろ」

 

男はボールを放ると踵を返し、出口へと向かって行った。

 

「…待てよ」

 

そんな男を福山が呼び止める。

 

「今お前、俺達のことバカにしただろ」

 

険しい表情で福山が男に聞く。

 

「ようやっと帰ろうとしたのにキャプテンが呼び止めてどないすんねん…」

 

ツッコミながら今吉が額に手を乗せた。

 

「…ん?」

 

福山に声を掛けられ、男は振り返る。

 

「青峰の事をとやかく言うならともかく、俺達の事をバカにするのは許せねえ」

 

「…それで?」

 

「ちょっとばかしバスケが出来るから調子に乗ってるみてーだから、その鼻っ柱とへし折ってやる。…俺と勝負しろ」

 

福山は男に勝負を提案した。

 

「…」

 

勝負を挑まれ、どうするか思案する男。

 

「俺はディフェンスよりオフェンスが得意なんだよ。オフェンスなら青峰に張り合えるだけのものは持ってる。だから俺とやれ。まさか、もう時間がねえとは言わねえよな?」

 

勝負を断られないように福山は挑発するように尋ねた。男は少し考え…。

 

「勝負挑みに来といて、挑まれた勝負を断るのは筋が通らねえわな。いいよ、やろうぜ」

 

不敵に笑った男は勝負を受けた。

 

「1ON1、5本先取だ。さっきのオフェンスはサービスで1本にしてやる。だから俺からオフェンスだ。今吉、審判やれ」

 

「もう勝手にしいや」

 

呆れながら今吉は審判を引き受けた。

 

「ハッ! いいぜ。少しは楽しませてくれよ」

 

満足そうに笑みを浮かべながらディフェンスに入る。

 

「クソ生意気な後輩を持った若松先輩の気持ちがようやく理解出来たよ…。楽しんで行けよ。そんな余裕があったらな」

 

睨み付けながら福山はオフェンスに入ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

一方その頃…。

 

「うむ。経過は良好。もう完治しているよ」

 

「…やっとかよ」

 

医者から完治のお墨付きを貰った青峰が愚痴る。

 

インターハイで足を負傷し、母校に戻ってからも安静をし続けた青峰。その甲斐もあり、ようやく完治に至ったのだ。

 

「とは言え、捻挫は癖になりやすいからね。いきなり激しい練習をすると再発する事もあるから、少しずつペースを上げながら治療で落ちた筋肉を取り戻して……って、いない。やれやれ、最後まで困った患者だ」

 

既に席を立って診察室から出ていた青峰を見て医者は溜息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「大ちゃん、どうだった?」

 

診察室から青峰が出てくると、外で待っていた桃井が尋ねた。

 

「治ったってよ。これでもうこんな辛気臭ぇ所とはおさらばだよ」

 

溜息を吐きながら青峰が告げながら出口に向かった歩き始めた。

 

「ホントに?」

 

「嘘ついてどうすんだよ。さっさと行くぞ」

 

再度尋ねる桃井に辟易しながら青峰が靴を履き替えて診療所の外に出ていった。

 

「ちょっと大ちゃん、待ってよ!」

 

慌てて桃井は青峰を追いかけた。

 

「大ちゃん、何処に行くの?」

 

「学校に決まってんだろ。思ったより早く診察が終わったからな」

 

視線を合わさないまま青峰が答えた。

 

「学校って、今から練習に参加するの?」

 

「わりーかよ?」

 

「ううん、全然」

 

嬉しそうに桃井は頷いた。

 

「…」

 

つい最近行われたインターハイを見届けた青峰。そこで青峰は自分と同じキセキの世代、それと火神や空や大地の試合を見て、その成長ぶりに青峰なりに脅威に感じていた。

 

僅かとは言え、怪我で練習が出来なかった期間があり、身体は恐らく鈍っており、実戦の勘も僅かに鈍っている。冬に優勝を果たす為には少しでも早くブランクを取り戻し、さらに自分を進化させなければならない。その為、今は少しでも早く練習がしたいと青峰は思っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

「急いで大ちゃん! 間に合わないよ!」

 

「るっせーな」

 

急かす桃井に顔を顰める青峰。急いで自宅に戻って着替え、荷物を持って学校の体育館に向かった2人。もう間もなく練習開始時間になろうとしていた。

 

「…あっ?」

 

体育館に近付くと、中から何やらどよめいている声が耳に入った青峰。

 

『…』

 

中に入ると、部員達が何やら一点を無言で見つめていた。

 

「…良、何があった?」

 

傍にいた桜井に青峰が事情を尋ねた。

 

「あ、青峰さん! 実は…」

 

事情を桜井が話そうとすると…。

 

「あんた、ディフェンスは大した事ねーけど、オフェンスはスゲーな!」

 

聞き覚えのない声が青峰に聞こえてきた。視線を声の方向に移すとそこには…。

 

 

――満足そうに笑っている見知らぬ男と、両膝を突いて愕然としている福山の姿があった。

 

 

「…」

 

その傍らで小さなホワイトボードを持っている部員の姿があり、ボード内には5-2と書かれており、2人と周囲の様子からどちらが勝ったかは一目瞭然。

 

「(ディフェンスはともかく、あのバカ(福山)のオフェンスを止められる奴はそうはいねえ。あいつは3本も止めたって事か…)」

 

福山のオフェンス力は青峰も買っており、3本も止めた事に少なからず驚いていた。

 

「あの人が突然やってきて――」

 

「いやもういい」

 

説明をしようとした桜井を制し、青峰はその男に近付いていった。

 

「なかなかやるみてーじゃねえか」

 

「あん? 何だあんた――っ!?」

 

青峰に話しかけられた男は振り返ると青峰から何かを感じ取った。

 

「…ハハッ! 分かった。あんたがキセキの世代、青峰だな?」

 

目当ての人物が現れた事に喜ぶ男。

 

「だったらなんだよ?」

 

「俺はあんたに会いに来たんだよ。俺と勝負しろ!」

 

指を差して男は勝負を挑んだ。

 

「…ハッ! いいぜ。やってやるよ」

 

その挑戦を青峰は受けた。

 

「ちょっ! 大ちゃん、まだ病み上がりなんだよ? いくらなんでも…」

 

「勘と調子を戻す為にちょうど相手が欲しかった所だ。そこのバカ(福山)に勝つくらいならそれなりにやるって事だろ?」

 

故障明けの青峰を心配する桃井だったが、青峰は構わず準備を始めた。

 

やがて準備が終わると、青峰は男の前に向かった。

 

「5本先取だ。お前から来いよ」

 

ボールを男に渡して青峰はディフェンスに入った。

 

「ハハッ! 行くぜ!」

 

ボールを受け取った男は楽しそうにドリブルを始めた。

 

「…」

 

「…」

 

真剣な表情で対峙する2人。

 

「(普通に考えりゃ青峰が負ける訳がねえが、青峰は故障明けでブランクがある。何より、こいつは只者じゃねえ。この勝負、下手したら、あり得るぞ…)」

 

今しがたこの男と勝負をした福山が万が一の可能性もあり得ると心中で予想した。

 

体育館中の部員達が見守る中、男は動いた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

何度か切り返した後、一気に加速し、クロスオーバーで青峰の横を駆け抜けた。

 

『抜いた!?』

 

そのままリングに突き進み、ボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「いただき!」

 

ダンクが成功すると確信した男は嬉々としてボールをリングに向かって振り下ろした。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ダンクが決まる直前、男の手に収まるボールをブロックされた。

 

「遅ぇーよ」

 

不敵な笑みを浮かべながら青峰は男に向かって言った。

 

「次は俺のオフェンスだ」

 

「マジかよ…、あそこから追いつくのかよ…」

 

未だかつてあのシチュエーションからブロックされた経験がなかったのか、男は驚いていた。

 

「…」

 

「…」

 

ドリブルを始める青峰。男は腰を落とし、備える。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

数度ボールを突いた後、青峰が一気に加速。高速で男の横を抜けた。

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

男が振り向いた時には青峰がボールをリングに叩きつけていた。

 

「うはっ! はっえー!」

 

その青峰のあまりの速さに男は苦笑した。

 

「てめえがおせーんだよ。次はお前の番だぜ」

 

ボールを拾った青峰は男に放ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後、2人の1ON1は青峰が力の差を見せつけた。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

男があの手この手で攻めるも、ブロックされるか、シュートに行く前にボールを叩かれる。

 

 

――バス!!!

 

 

対して青峰は男を抜きさってダンク、あるいはフォームレスシュートで男のブロックをかわしながら決めた。

 

「さすが青峰さんだ。力の差は歴然だ」

 

「ブランク明けでこれとかホントに化け物だな」

 

圧倒的な実力を示す青峰に部員達は感嘆する。

 

「(…いや、そうでもねえ。回数重ねるごとに危うくなってはきていた。何より、青峰がストリートのバスケを出したのは出さなきゃヤバいって判断したからだ)」

 

1人、福山が冷静に分析していた。

 

「これで4本目だ。次、決めなきゃてめえの負けだ」

 

男にボールを放る青峰。現在4-0。次の5本目を決められなければ男の敗北は濃厚。

 

「たっはー! 噂は本物だ。ここまでとは恐れ入ったぜ!」

 

一方的な展開ながらも男はその事実を受け入れるどころか楽しんでいた。

 

「こりゃ勝てねえな。とは言え、このまま一方的ってのも癪に障るし…」

 

ドリブルをしながら何やら独り言を始める男。

 

「『アレ』行くか。禁止されてっけど、おやっさんいねえし、これは試合でもなければ相手はキセキの世代だから大丈夫か。っしゃ、行くぜ!」

 

何かを決めた男は気合いを入れ直した。

 

「(…空気が変わった。こいつ、何かやるつもりだな)」

 

男の空気の変化に気付いた青峰は集中力を高め、警戒を強めた。

 

「…っ」

 

男が一歩踏み出した次の瞬間!

 

「っ!?」

 

青峰の表情が驚愕に染まった。男が一歩踏み出した瞬間、2メートルは離れていたはずの男が気が付いたら青峰の横を駆け抜けようとしていたのだ。

 

『抜かれた!?』

 

青峰が抜かれた事に桐皇の部員達が思わず声を上げた。

 

「野郎!」

 

慌てて振り返った青峰は男を追いかける。男はボールを掴んでリングに飛んでいた。

 

「させっかよ!」

 

1度は抜かれた青峰だったが、すぐさま追い付き、男とリングの間にブロックに飛んだ。

 

『間に合った!』

 

ブロックを確信する部員達。

 

「どけぇ! だっしゃおらぁ!!!」

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

「ぐっ!」

 

男は青峰のブロックもお構いなしにボールをリングに叩きつけた。

 

「嘘だろ!? 青峰を吹き飛ばしやがった!」

 

この事実に福山は驚きを隠せなかった。身長やフィジカルは確実に青峰の方が勝っていたからだ。

 

「っしゃっ!!!」

 

ダンクが決まり、両拳を突き上げて喜ぶ男。

 

「ファールですよ」

 

その時、入り口からこんな声が聞こえてきた。そこには、桐皇の監督の原澤が立っていた。

 

「少し強引過ぎですね。今の大抵の審判がオフェンスファールを取るでしょうね」

 

「誰、あんた?」

 

声が聞こえた方向に男が怪訝そうに視線を向けながら尋ねる。

 

「桐皇学園高校バスケ部の監督の原澤です。白熱している所、恐縮ですが、これより練習を始めますので、部外者はご退場していただけませんか?」

 

「…ちぇっ、もう終わりか。けどま、楽しかったぜ!」

 

勝負を途中で止められて不満そうにするが、それでも青峰と勝負出来た事には満足し、男は体育館を後にしようとした。

 

「待てよ。名前くらい名乗っていけよ」

 

帰ろうとする男を青峰が呼び止め、尋ねた。

 

「そういや名乗ってなかったな」

 

自己紹介してなかった事に今更気付いた男。そして…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は陸。神城陸だ。また勝負してくれよな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男はそう名乗ると、笑顔で手を振り、体育館を後にした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

練習の合間の休憩時間。桃井が練習の合間に先程の男の可能な限りの情報を説明始めた。

 

「神城陸。星南中学の2年生」

 

「あいつ中坊なのか。星南中って言えば、一昨年帝光倒して全中優勝した所か」

 

話に参加していた福山が桃井の情報に聞き入る。

 

「はい。星南中は優勝メンバーが抜けた後は大きく戦力ダウンして、新人戦を2回戦敗退したんだけど、翌年には再び全中出場を果たしました。その原動力になったのが…」

 

「さっきのガキか」

 

話の途中で青峰が割り込んだ。

 

「そう。彼のおかげで星南中は翌年も全中出場出来たみたい。ただ、彼が集中的にマークされてあまり活躍できなくて星南中はリーグ戦で負けちゃったみたいだけど」

 

ここで桃井が手に持ったノートのページをめくる。

 

「けど、今年も徹底マークされながらも得点を量産して星南中にとって2回目の全中優勝を果たした」

 

「マジか!? …まあ、青峰相手にあそこまでやれりゃ中学レベルじゃ止められねえわな」

 

優勝させた事に驚いた福山だったが、すぐさま納得した。

 

「あの、さっきの神城陸って名乗ってましたよね? 神城ってもしかして…」

 

「うん。花月高校の神城空君の弟だよ」

 

桜井の予感に桃井が肯定した。

 

「…あいつの弟か。そりゃやる訳だ。今の思えば顔もあのデカい態度もそっくりだ」

 

その実力に納得する福山。

 

「…」

 

青峰は先程の勝負。最後の陸のオフェンスを思い出していた。

 

「(あの時、俺は最大限警戒していた。にもかかわらず、あいつは一瞬で俺の横を抜けた。あの距離を一瞬で潰しやがった…)」

 

足を踏み出し、僅かに身体が沈み込んだ瞬間、陸は青峰のすぐ真横まで切り込んでいた。青峰は相手の動きが見えなかった。

 

「(消えるドライブや姿の見えないドライブは俺も覚えがある。だが、さっきのはそいつらとは違う)」

 

相手の視線を誘導し、その隙に切り込む黒子のバニシングドライブ。高精度のシュートフェイクで視線を上げさせ、切り込む三杉のドライブ。相手の目の前で高速で左右に切り込み、相手の視線が右か左に向いた瞬間、逆に切り込む空のインビジブルドライブ。先程の陸のドライブの種はそのどれにも属さないと青峰は推測。

 

「…」

 

どれだけ考えても答えは出なかった。

 

「(そういや、あいつ、何処かで会った気がしたが、インターハイの会場で見かけた奴か…)」

 

ここで青峰は思い出した。インターハイで花月対陽泉の試合終了後に見かけた、出来る匂いを放つ男だった事に。以降、試合で見かけることはおろか、会う事もなかったのでその事を記憶の片隅に追いやっていたのだが。

 

「…ハッ、おもしれー奴は後からどんどん出てくるじゃねえか。やっぱ、バスケはこうでなきゃな」

 

最強は自分であり、その自分とまともに戦えるのはキセキの世代のみだと思っていた。だが、火神を始め、次々と青峰と対等に戦える者が現れた。その事に青峰は愉快そうに笑った。

 

「…」

 

一方で、桃井の話を聞いていた原澤は何かを思案していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「ったく、なんだってんだよ…」

 

1人愚痴りながら職員室に走る空。練習中に校内放送で呼び出されたのだ。

 

「失礼しまーす!」

 

「来たね神城君。君に電話だ」

 

職員室で出迎えた先生が受話器を渡した。

 

「もしもし?」

 

『お忙しい所、わざわざお呼び出して申し訳ありません。私は桐皇学院高校のバスケ部の監督をしている原澤と申します』

 

電話の相手が丁寧に謝罪と共に挨拶をした。

 

「桐皇…監督……、あぁ…」

 

記憶を辿った空は若々しい姿の監督を思い出す。

 

『実はですね――』

 

ここで原澤が桐皇学園高校の体育館に陸が来た事と何があったかを話した。

 

「あのバカ…! ホントにすいません! すぐにでもあのバカ引っ張って謝りに行かせますんで!」

 

事情を知った空は電話口で頭を下げながら謝罪をした。

 

『いえいえ、今日は苦情の電話を入れに来た訳ではないので悪しからず。今日のあなたの弟さんの報告と、…1つお尋ねしたい事があったからです』

 

「?」

 

「あなたの弟の陸さんは、進路は決めているのですか?」

 

原澤がそう空に尋ねた。

 

「進路ですか? あいつはまだ2年生ですし、ここ最近は碌に話もしてないですけど、多分あいつの事がだから何も考えてないと思いますよ」

 

『そうですか。でしたら是非、あなたの弟の陸さんを桐皇学園へのスカウトさせていただきたい』

 

「っ!? あいつを…。けど、さっきも言いましたが、あいつはまだ2年生ですよ?」

 

陸のスカウトの話に空は表情を変える。

 

『存じております。まだ先の話ではありますが、彼は今の内に獲得に乗り出すだけの価値があります』

 

「…」

 

『とは言え、当人が不在の所でこれ以上は無粋ですので、不躾なお話ですが、是非とも、この事を弟さんにお伝えいただけるとこちらも助かります』

 

「…はぁ、とりあえず、伝えるだけ伝えてはおきます」

 

「感謝します。遠からず、弟さんも下へ直接挨拶に行かせていただきます。本日は忙しい所、お時間をいただきありがとうございます。それでは…」

 

そう言って、通話は切れた。空は受話器を戻し、職員室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

体育館に戻りながら空は先程の電話の内容を思い出していた。弟の陸へのスカウトの話も驚いたが、それ以上に驚いたのは…。

 

「あいつがあの青峰から1ON1で得点を奪った?」

 

事情を説明する中で原澤はそう言った。←ファールだった事は伏せられていた。

 

「インターハイの時に陣中見舞いに来た時に久しぶりに顔を合わせたが、いつの間にか俺より身長が伸びただけじゃなくて、そこまで成長してやがったのか」

 

陸とは家庭の事情で年に数度しか顔を合わせていなかったのだが、その成長ぶりに驚きを隠せなかった。

 

「才能があるのは知ってたが、もうそこまでになってやがったのか。…俺もうかうかしてられねえな!」

 

弟の成長を聞いた空は新たに気合いを入れ直し、体育館に走っていったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





二分割しようとかと思いましたが、本編にそこまで絡む話ではないので一挙に投稿しました。ここから最後の大会に向けての準備の話に入りますが、自分もまた試合描写の準備に入らないといけません…(>_<)

気が付けば、総文字数でも黒子のバスケ二次の中で1番になっていました…(^-^)

再び黒子の二次に活気が戻りますように…。

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!
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