黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

遂に来た。花粉症のシーズンが…(/ω\)

それではどうぞ!



第151Q~目標~

 

 

 

「遂にこの日が来たな!」

 

「空、声が大きいですよ。周りに人がいる事を忘れないで下さいね」

 

興奮する空を大地が窘める。

 

現在、2人は空港のラウンジにて、これから乗る飛行機の搭乗時間を待っていた。更なる高みを目指し、アメリカへの留学を決めた2人。出発の時間を今か今かと待ちわびていた。

 

「にしても、見送りはなしか。薄情だよなー」

 

「あなた、自分で見送りはいらないって言ったんじゃないですか」

 

ボヤく空に呆れる大地。

 

「見送りはなくとも、皆さんからのエールはちゃんと送られてるんですからいいではないですか」

 

スマホを取り出して操作する大地。その画面には、チームメイトからのたくさんの応援のラインがきていた。

 

「みんな、私達の成長を心待ちにしています。皆さんの期待は裏切れませんよ」

 

「だな。絶対強くなってやる。それこそ、キセキの世代以上にな」

 

同じくスマホのラインを応援を見て気合いを入れる空。

 

「…っと、時間ですよ空。行きましょう」

 

「っしゃ! 待ってろよ!」

 

搭乗の時間が来た2人は、アメリカ行きの飛行機に乗り込んだのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「足を止めるな! この程度で動けん奴は試合で使わんぞ!」

 

『はい!!!』

 

上杉の檄に選手達が大声で応えた。

 

「よし! 5分休憩だ! 各自、水分補給はしっかり行え」

 

「みんな! こっちでタオルとドリンクを受け取って下さい!」

 

相川が笑顔で選手達を誘導する。

 

『ハァ…ハァ…』

 

休憩時間になり、選手達は息も絶え絶えになりながら相川の下へ向かい、タオルとドリンクの入ったボトルを受け取っていく。

 

「きょ…今日も…、一段と厳しいですね…!」

 

床に座り込み、タオルで汗を拭いながら水分補給をする帆足。

 

「んぐ…んぐ…ぷはぁ! ま、当然じゃねえの? 夏は力の差を見せつけられて負けちまったからな」

 

ボトルのドリンクを飲み、口元を拭いながら帆足の言葉に菅野が答えた。

 

「後は…」

 

チラリと菅野が視線を向ける。

 

「ハァ…ハァ…、マツ、走り込みが足らんで。それじゃあ終盤までもたへんぞ」

 

「うす!」

 

「タツ君、素早くリリースする事に意識が向きすぎててフォームが崩れてるよ。もう少しフォームを意識してみて」

 

「はい。ありがとうございます!」

 

天野が松永、生嶋が竜崎にアドバイスしていた。

 

「あいつらは国体が控えてるからな。それもあるんだろうよ」

 

先日、国体の静岡選抜メンバーが発表され、天野、生嶋、松永が選ばれた。空と大地が辞退した事で、竜崎が選ばれたのだ。

 

「去年は国体を辞退したからな。天野にとっては最後の国体だ。気合い入ってるだろうな」

 

「国体か…。雲の上の話だなぁ」

 

「俺もだ」

 

選抜メンバーに選ばれなかった帆足と菅野は思わず上を向いた。

 

「とは言え、俺らも頑張らねえとどんどん先に行かれちまう。俺はこれでもスタメンを諦めた訳じゃねえからな」

 

「菅野先輩…」

 

「っと、もうすぐ5分か。っしゃ、行くぞ帆足!」

 

「はい!」

 

菅野の声で帆足は立ち上がり、歩き出した。

 

「(神城君と綾瀬君はもうアメリカに着いたかな?)」

 

体育館の窓から見える青空を見た帆足は、異国の地に旅立った2人の事を考えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「や、やっと着いた」

 

飛行機から降りた空がげんなりしながらぼやいた。

 

「ずっと座りっぱなしだからケツがいてぇ。これなら船で移動した方がマシだぜ…」

 

「お疲れ様です」

 

そんな空に大地が労いの言葉をかけた。

 

2人はゲートで荷物を受け取った。

 

「この後どうすんだっけ?」

 

「確か、理事長は私達に迎えの方を手配してくれてると言う話でしたが…」

 

辺りをキョロキョロとしながらそれらしい人物を探す2人。その時…。

 

「よう! 久しぶりだな」

 

2人に対して話しかける者が現れた。

 

「「三杉さん!?」」

 

現れたのは三杉誠也。かつて、2人を花月へと誘い、僅かな期間ではあるが、2人を指導した先輩である。

 

「理事長から連絡を受けてな。俺がお前達の案内役を兼ねて迎えに来たって訳だ」

 

「久しぶりっす三杉さん!」

 

1年ぶりに尊敬する先輩と再会し、歓喜しながら三杉の手を取る空。

 

「話は移動しながらだ。付いてこい」

 

そう促され、空と大地は三杉の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「三杉さん、車の免許持ってたんですね」

 

2人は三杉の車に乗り込み、移動していた。

 

「あぁ。こっちは免許費用も車も日本より安いし、あると何かと便利だからな」

 

軽快なハンドル捌きで車を操る三杉。

 

「お前達がアメリカに留学に来た理由は分かってる。キセキの世代との差を感じてそれを埋める為に来たんだろ?」

 

「はい。そのとおりです」

 

留学の理由を察していた三杉が尋ねると、大地が頷いた。

 

「俺と健を指導してくれたコーチに話は付けてある。アメリカでも有名な指導者だ。宿舎に荷物を置いたらお前達を紹介しよう」

 

「話が早いッスね。それも理事長から?」

 

とんとん拍子で進む話に思わず空が尋ねる。

 

「いや、前々からコーチには話はしてあった。俺がアメリカに戻った後、お前達はキセキの世代に限りなく近付く事は予想出来た。後一歩及ばない事も」

 

「「…」」

 

「その差を埋める為に、アメリカに来るだろう事も予想出来たからあらかじめ了解を取り付けておいた。感謝しろよ? 本来ならアメリカ人でもなかなか指導してもらえない人なんだからな」

 

「大変光栄話ですが…」

 

「三杉さんはどこまで俺達の事、お見通しなんですか…」

 

三杉の慧眼に空と大地は畏怖を覚えた。

 

「覚悟しておけよ。あのコーチの練習は質も量も尋常じゃない。実際、あの人の指導で才能を開花させた以上に潰れて選手を諦めた者もいる。生半可な覚悟じゃ死ぬぜ?」

 

「ハッハッハッ! 望むところですよ!」

 

「今の私達にはそれくらい必要ですので、ありがたい限りです」

 

脅し同然の三杉の言葉に、2人は笑って意気込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

時は進み、10月…。

 

『おぉぉぉぉぉーーっ!!!』

 

某県にて、国民体育大会、通称国体が行われていた。各県から選抜された選手達がしのぎを削り合っていた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを持っていた火神がドライブで相手ディフェンスを抜きさり、中へと切り込んだ。

 

「…っ!」

 

リングへと突き進む火神を見て松永がヘルプに飛び出した。

 

「らぁっ!」

 

ボールを掴んだ火神がリングに向かって飛ぶ。

 

「くそっ!」

 

それを見て松永がブロックに飛んだ。

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

「っ!?」

 

松永の上から火神がダンクを叩き込んだ。

 

現在、コート上では静岡選抜チームと東京選抜チームが試合をしていた。

 

 

第3Q、残り3分45秒

 

 

静岡 30

東京 68

 

 

『…っ』

 

開いていく点差を見て静岡選抜の表情が曇る。

 

静岡選抜は国体予選を勝ち抜き、国体本選の初戦で東京選抜とぶつかった。花月のメンバーを主軸に戦う静岡選抜に対し、東京選抜は誠凛、桐皇、秀徳の選手達の混合チーム。連携面に不安があるものの、層の厚さでそれをカバーしていた。

 

「…」

 

顎に手を当てながら考え込む東京選抜の監督であるリコ。

 

試合は序盤から東京選抜が優勢に進めていた。連携に不安があるとはいえ、層の厚さは恐らく全ての県の中で1番。青峰が辞退したとは言え、火神と緑間の二大エースがいる為、盤石な布陣を敷いていた。

 

「…桜井君、池永君、準備して」

 

「は、はい!」

 

「おっしゃ出番来た!」

 

指名された2人は準備を始めた。

 

「火神と緑間を下げるのか?」

 

コーチとして参加していた秀徳の監督である中谷がリコに尋ねる。

 

「はい。充分な程リードは作れましたし、せっかくこれだけ選手の層が厚いんですから使わない手はありません」

 

「うん。もっともな意見だ。…だが、変な気を回さなくても構わんぞ?」

 

リコの回答に中谷が尋ねる。自チームの選手ならいざ知らず、他チームから預かった選手、特に緑間のようなエースを怪我させるのは他チームの監督のリコの立場から避けたい所であるだろうし、せっかく選抜された選手をベンチに置いたままと使わないのも選手の気持ちを考えれば避けたいだろう。

 

「もちろん、それもないとも言いませんが、神城君と綾瀬君不在の今日の静岡選抜なら、後は選手入れ替えながらでも充分戦えます」

 

「…そうか」

 

返事を聞いて中谷は納得するように頷いた。

 

「他のみんなもいつでも出れる準備をしておいて。今日は全員出すわよ!」

 

リコは選手達に指示を出した。

 

「(…それにしても、神城君と綾瀬君がいないとは言え、それでも多少の苦戦は覚悟していたのだけれど…)」

 

想像以上に優勢に試合が進んだことにリコは引っ掛かりを覚えるも、そのまま試合を見守るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『あーあ、点差が付いて来たな』

 

『神城と綾瀬を見に来たのになぁ…』

 

『あの2人いなきゃ相手にもならないだろ』

 

一方的な展開を見て観客席からチラホラそんな声が飛び交う。

 

「…やはり、あの2人が不在なのが響いていますね」

 

マネージャーとして帯同していた姫川が険しい表情で呟く。

 

試合は東京選抜の司令塔である高尾が巧みにパスを捌き、他の選手達が水を得た魚のように得点を決めている。対して静岡選抜は現在司令塔をしている竜崎が高尾に抑えられ、さらに決定力に欠けている為、得点が伸び悩んでいた。

 

「…」

 

胸の前で腕を組みながら静岡選抜の監督である上杉が試合を見つめている。

 

「(こうも差が出ているのは何も神城と綾瀬がいないからだけではない…)」

 

この展開を見て、上杉は空と大地がいないだけが原因ではないと考えていた。

 

「(冬に向けての課題が見えて来たな…)」

 

顎に手を当てながら上杉は次の戦いを見据えた。

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

「メンバーチェンジ! 白(東京選抜)!!!」

 

ボールデッド共にメンバーチェンジがコールされた。

 

 

IN  桜井 池永

 

OUT 緑間 火神

 

 

「…っ、向こうは火神さんと緑間さんを下げてきましたね」

 

交代人員を見て姫川は僅かに表情を歪める。交代の理由は2人の温存である事は明白であり、つまりは、もうエースを代えても問題ないと判断されたと言う事に他ならないからである。

 

「当然の判断だな。向こうは層も厚い。俺でもそうするだろう」

 

上杉は1度視線をオフィシャルテーブルに向けただけで特に表情を変える事はなかった。

 

「…何か策はないのでしょうか?」

 

「…」

 

姫川の言葉に、上杉は何も答えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は東京選抜がエース2人を下げると、拮抗した試合展開となった。

 

「絶対足止めたるな! 意地見せるで!」

 

天野が必死に声を張り上げて味方を鼓舞する。時折、連携不足によるミスを突いて得点を奪うも、交代策を駆使して戦う東京選抜は常に万全の状態にぶつかってくる。

 

『ハァ…ハァ…』

 

対して静岡選抜は花月のメンバーが中心に戦っている為、疲労の色は隠せず。それでも必死に食らいついていった。だが…。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

試合終了

 

 

静岡 51

東京 97

 

 

結局、静岡選抜は追い付く事はおろか、もう一度エース2人をコートに引き摺り出す事も出来なかった。

 

『…っ』

 

悔しさに打ちひしがれる静岡選抜。

 

「撤収するぞ。急いで荷物を纏めろ」

 

ベンチに戻ってきた選手達に上杉が指示を出す。

 

こうして、花月の選手達の国体は、苦い結果で終わったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

国体は東京、京都、秋田、神奈川がそれぞれ準決勝まで勝ち進んだ。

 

 

――準決勝

 

 

 東京選抜 × 神奈川選抜

 

 京都選抜 × 秋田選抜

 

 

キセキの世代を擁する4県がぶつかり合った。

 

東京選抜と神奈川選抜の試合は火神、緑間を中心に試合序盤は東京選抜が優勢に進めていったが、後半戦に入ってから海常が主体となる神奈川選抜が連携面の利が出てくるようになる。

 

「ふん!」

 

インサイドを三枝が支配している事も多く。火神、緑間を相手にしてもなおリバウンドを量産し続けた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

第4Qに入ると黄瀬のパーフェクトコピーが爆発し、どんどん点差を詰めていった。火神と緑間が必死に黄瀬をマークするも抑えられず…。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

東京  83

神奈川 88

 

 

神奈川選抜が東京選抜を降し、決勝へと駒を進めた。

 

もう1つの準決勝のカードである京都選抜と秋田先発の試合。

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

陽泉が主体である秋田選抜はアンリが積極的に中に切り込み、得点を量産。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

対して洛山が主体である京都選抜は赤司が自在にボールを散らし、中と外とどこからでも点が取れる洛山の4人が得点を重ねていく。

 

鉄壁を誇る紫原のディフェンスを赤司が巧みなゲームメイクで穴を作り出し、無効化する。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

京都 70

秋田 66

 

 

試合終盤間際、紫原に詰め寄られるも、京都選抜が最後は逃げ切る形で勝利した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

そして決勝…。

 

京都選抜と神奈川選抜…、実質、洛山対海常の試合が始まった。共に攻守において隙が無い万能型のチーム。

 

第1Q、第2Qこそ拮抗した試合展開だったが、第3Qに入ってすぐに試合は動いた。

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

黄瀬が第3Q入ってすぐにパーフェクトコピーを使い、点差の引き離しにかかった。パーフェクトコピーを使った黄瀬の勢いは凄まじく、みるみる点差は広がっていった。

 

「…」

 

しかし、赤司はこれに動じる事無く、黄瀬のパーフェクトコピーを歯を食いしばって耐え、その後、少しづつ点差を詰めていった。

 

「…」

 

点差が開いていく中、京都選抜の監督の白金はタイムアウトを取らず、表情を変える事無く試合を見守っている。

 

『…っ』

 

洛山主体の京都選抜。それも、帝光時代から共にしているチームメイト同士。連携はプロのチームすら舌を巻くレベル。1度は広がった点差も確実に詰めていった。

 

「(花月はどれだけ引き離そうとも食らいついてきた)」

 

「(この程度は今更動じないぜ!)」

 

花月と戦った経験が京都選抜の選手達に心に余裕を与えていた。

 

試合時間残り2分となり、京都選抜がリードを10点に広げた。しかし…。

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

ここで黄瀬がパーフェクトコピーを再度発動。再び追撃を始めた。無敵の黄瀬のパーフェクトコピー。これで試合は神奈川選抜が制すると思われた。

 

「っ!?」

 

試合時間残り30秒を切った直後、黄瀬が失速し始めた。

 

「(どうして!? まだ使用限界はまだのはずだ!)」

 

パーフェクトコピーの使用限界時間は7分。黄瀬は第3Qに入って5分使ったのみ。試合終了までギリギリもつはずだった。

 

「過信し過ぎたな」

 

失速した黄瀬に赤司が言い放つ。

 

赤司は罠を仕掛けた。パーフェクトコピー使用時間はあくまでも黄瀬の現状の体力と筋力からフル出場した際の疲労を考慮して算出した時間。黄瀬の負担や消耗が増えれば自ずと使用時間は短くなる。

 

「やられた…!」

 

神奈川選抜の監督の武内は表情を歪めた。第3Qに入って京都選抜がタイムアウトを取らなかった事に不自然さを感じたが、それが黄瀬に休憩時間を与えない為だと言う事に気付いた。

 

黄瀬に対し、赤司はとにかく消耗させるべく、オフェンスは積極的に仕掛けさせ、ディフェンスは中に誘い込んでポストアップで攻め立てた。向かい合っての1ON1が得意の黄瀬は背中をぶつけられるディフェンスは苦手ではないが得意でもない。無意識の内に体力を削られていたのだ。

 

「まだだ! まだ終わらないッスよ!」

 

それでも黄瀬は残り少ない体力を振り絞って攻め立てる。

 

「無駄だ。今のお前のそれは完璧な模倣ではない。姿形を似せただけの贋作だ」

 

黄瀬の最後のオフェンスも赤司によって止められてしまった。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

京都  84

神奈川 82

 

 

ここで試合終了し、国体は、京都選抜が優勝を果たした。インターハイ優勝を逃した洛山の選手達がその力の差を見せつける形で国体は幕を閉じたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

一方、その頃アメリカに渡った空と大地は…。

 

「「ハァ…ハァ…!」」

 

身体全体汗まみれになり、息を切らしながら膝を床に付いていた。体力には絶対の自信がある空と大地が限界目前まで消耗していたのだ。

 

「ヘイ! どうした下手くそな日本人共! この程度へばったか!」

 

脇で2人を見ていた高い背丈に屈強な体付きの金髪のアメリカ人コーチから罵声が飛んだ。

 

「くそっ…!」

 

「まだ…まだ…!」

 

2人は強引に立ち上がり、走り始めた。

 

「チンタラ走ってんじゃねえ! 10本追加だ!」

 

「…っ! 上等だ!」

 

「負けません!」

 

無情の追加に空と大地は怒りを覚えるも負けず嫌いの為、歯を食い縛って走り出した。

 

「ヘイ、スティーブ!」

 

「おーセイヤか!」

 

そこへ、陣中見舞いに三杉がやってきた。

 

「どうだい2人は?」

 

「どうもこうもねえ…」

 

2人の様子を尋ねるとスティーブは手を広げて首を横に振り…。

 

「とんでもねえ逸材だ。サイズが少し物足りねえが、それを補って余りあるセンスがある。特にスピードは絶品だ」

 

満面の笑みで2人を称賛した。

 

「セイヤとタケシ以外にも、ジャパンにはまだあんな逸材がいるんだな!」

 

「まだまだいるさ。俺の知る限り、6人程ね」

 

興奮するスティーブに三杉が不敵な笑みを浮かべながらそう返した。

 

「それが本当なら、近々日本人が世界を席巻する時代が来るかもな」

 

「来るさ。必ず」

 

実現させると三杉は宣言した。

 

「見た所、もう本格的なトレーニングを始めているようだね」

 

「あぁ。本来なら俺様式のトレーニングを始める前に必要な基礎体力を付けさせるんだが、あいつらにはそれが十二分に備わってやがる。あれだけ才能がありゃ普通は才能任せになりがちだが、みっちり鍛えられてる。あいつらのジャパンの指導者は余程優秀か、変わり者かのどっちかだな」

 

「どちらかと言えば後者かな?」

 

三杉は苦笑しながら答えた。

 

「もし、俺様のトレーニングに潰されなければ、あの2人はかなり化けるぜ。それこそセイヤやタケシのようにな」

 

「やれるさ。あいつらのタフさと負けん気の強さは俺以上だからね」

 

ニヤリとスティーブ言うと、三杉はニヤリと返した。

 

「下手くそなジャパニーズ共! 上手くなりたきゃ俺様のトレーニングをこなしてみせろ!」

 

「やってやらぁ!」

 

「はい!」

 

確かな強い目で空と大地は返事を返した。

 

「頑張れよ。お前達はもっと強くなれる」

 

疲弊しながらも前を向いて走る空と大地を見ながら三杉はエールを贈ったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

場所は変わって日本…。

 

「…」

 

国体を終え、静岡に戻った上杉が自室にてインターハイでの花月試合、国体での試合映像を無言で見つめている。

 

「…ふぅ」

 

溜息を吐くと、上杉はテレビの電源を落とした。

 

「…よし」

 

そして1人呟くと、何か覚悟を決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

渡米して間もなく2ヶ月。順調にトレーニングを積む空と大地。当初は慣れないアメリカでの生活に戸惑いもあったが、今ではすっかり馴染んでいた。

 

「大地! トレーニングの時間まで1ON1でもやらねえか!」

 

大地の部屋を訪ねた空はバスケットボールを見せながら大地を誘う。

 

「これから練習があると言うのに。…それより空、忘れていませんよね?」

 

「何を?」

 

「ウィンターカップの事ですよ」

 

「忘れる訳ないだろ。っていうか、ウィンターカップは12月なんだから別に焦る必要はないだろ」

 

そう返事をすると、大地は呆れるように溜息を吐いた。

 

「…ハァ。空、昨年私達はインターハイを優勝したので県予選が免除になりましたが、今年は準決勝で敗退したので県予選を勝ち抜かなければならないのですよ」

 

「……あっ」

 

ここで空はようやく思い出した。

 

「ももも、もちろん覚えてるに決まったんだろ。なな、なに言ってんだよ…!」

 

声を震わせながら空は弁明した。そこへ…。

 

「ヘイソラ、ダイチ! お前達に日本から国際電話だ!」

 

2人が寝泊まりする宿泊施設の職員が電話の取り次ぎにやってきた。

 

「えぇっと……電話、電話ね! オッケー、すぐに行くよ!」

 

単語とジェスチャーで内容を悟った空は慌てて部屋を後にした。

 

「やれやれ、全く空は…」

 

呆れながら大地は空の後を追った。

 

「もしもし! 電話変わりました! …あっ、監督! お久しぶりです!」

 

受話器を取った空は電話越しで頭を下げた。

 

「ウィンターカップの県予選!? もちろん覚えてますよ! これから荷物を纏めて……えっ!? それって――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

時期は11月…。

 

「花月ーファイ!!!」

 

『おー!!!』

 

天野の掛け声に合わせ、選手達が声を出し、走っている。国体は苦い結果に終わったが、終わればすぐに次の戦いが待ち受けている為、いつまでも引きずってはいられず、選手達は次の戦いに備えて猛練習をしていた。

 

「各自、二人一組になって柔軟運動せえ、しっかり身体解すんやで!」

 

そう言って、各自がペアを組んで柔軟運動を始めた。

 

「もう11月だね」

 

「あぁ。間もなく冬の戦いが始まる」

 

松永の背中を押しながら生嶋が話をする。

 

「全員、準備運動は出来てるな?」

 

その時、監督の上杉が体育館にやってきた。

 

「全員集合や!」

 

天野の号令と同時に選手達が上杉の下に駆け寄った。

 

「冬の県予選はもう目の前だ。これから最後の追い込みに入る。各自、怪我には充分注意しろ」

 

『はい!!!』

 

その後、上杉から今日の練習内容に付いて説明が行われる。

 

「ではこれより練習を始める。散れ!」

 

「あ、あの…!」

 

上杉の号令で練習が始まろうとしたその時、帆足が手を上げた。

 

「神城君と綾瀬君はいつ頃帰国するんですか?」

 

帆足が上杉に尋ねた。

 

「確かに、時差や連携の事とかあるからな」

 

菅野も気になっていた。

 

「そうだな。その事も話しておかなくてはならないな。神城と綾瀬の帰国は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――12月だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『っ!?』

 

上杉の回答を聞いて選手達は驚く。

 

「12月って、それじゃ予選に間に合わないじゃないですか!?」

 

当然の事を竜崎が口にする。

 

「…っ!? まさか!?」

 

ここで生嶋がある考えに辿り着いた。

 

「ウィンターカップの県予選は、神城と綾瀬抜きで戦う。全員、覚悟しておけ」

 

上杉の口から、まさかの言葉が飛び出したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

空と大地の留学。国体での敗戦。

 

キセキの世代の最後の戦いが迫る中、上杉からまさかの発言が飛び出した。

 

絶対的な司令塔とエースを欠いた辛い激闘が始まるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





国体はほぼダイジェストで終わりにしました。まあ、空と大地が不在ですので…(;^ω^)

ここから本腰を入れて冬の戦いに移行するのですが、今回は予選にも力を入れようと思います。さてと、試合のネタを集めますか…(>_<)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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