黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

リアルの事情で週1投稿を崩してしまいました…(>_<)

それではどうぞ!



第154Q~司令塔~

 

 

 

――ピィッ!!!

 

 

『っ!』

 

笛が鳴ると同時に誠凛の選手達が全力ダッシュをする。

 

「5分休憩よ! 皆、水分しっかり捕球しなさい!」

 

ここは誠凛高校の体育館。迫るウィンターカップを前に猛練習をしている。

 

『ぜぇ…ぜぇ…!』

 

インターハイ優勝チームと言う事で誠凛は東京都予選はなく、無条件で本選出場が決まっている。夏と冬の連覇がかかっている為、士気は高い。

 

「…」

 

そんな中、黒子ただ1人が、体育館の入り口から青空を眺めている。

 

「どうしたのか黒子?」

 

その様子に気付いた火神が話しかける。

 

「……そろそろだと思って」

 

「そろそろ? ……あぁ」

 

黒子が何の事を言っているか理解した火神は軽く頷いた。

 

「そうか、今日はお前の親友の…」

 

今日は静岡県でウィンターカップ出場をかけた試合が行われる日。かつて黒子にバスケを教えてくれた荻原シゲヒロがいる緑川と花月の試合の日であった。

 

「気になるなら見に行けば良かったじゃねえか。頼み込めば監督だって…」

 

「…いえ、高校最後の大会は目の前ですから、今は練習をサボる訳にはいきません」

 

火神の言葉に黒子が首を横に振った。

 

「…そうかよ。ま、正直、黒子の事を考えればその親友が勝ってもらいてーけど、俺としては神城と綾瀬と戦いてーから、…どっちも応援しづれーな」

 

「火神君らしいですね」

 

複雑な心境を口にする火神。そんな火神を見て黒子がクスリと笑った。

 

「噂じゃ神城と綾瀬が試合に欠場してるらしいし、勝ち上がってくるかもな」

 

そう言ってポンと黒子の肩を叩くと、火神はその場を後にした。

 

「(祈ってます荻原君。今度こそ、コートで君と会えると…)」

 

遠く離れた場所で激闘を行う親友に対し、青空を見つめながら祈ったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

 

同日、静岡県。某試合会場前…。

 

『…』

 

これから始まるであろう激闘を前に花月の選手達は静まり返っている。

 

「…行くぞ!」

 

『はい!!!』

 

監督の上杉を先頭に花月の選手達が会場入りをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

緑川高校控室…。

 

『…』

 

刻一刻と迫る試合を前に選手達は準備を進めている。

 

「…」

 

その時、一ノ瀬が立ち上がり、控室の外へと歩き出した。

 

「一ノ瀬トイレ?」

 

「そんな所だ」

 

荻原が尋ねると、一ノ瀬は後ろ手に手を振りながら部屋を後にした。

 

「…」

 

控室を出た一ノ瀬はそのままトイレ…通り過ぎ、歩いて行った。そのまま会場の外に出た。

 

「わざわざ試合前にすまないな」

 

外に出ると、そこに1人の男が待ち受けていた。

 

「ホントだぜ。既にウィンターカップ出場が確定しているお前と違ってこれから試合に勝たなきゃならないんだ」

 

謝る男に対し、一ノ瀬は悪態を吐いた。

 

「そうだな。本当にすまない」

 

「本気にするな。この程度で調子を崩す程柔じゃない。…で、何の用だ、赤司?」

 

ここで自身を呼び出した者の名を呼んだ。

 

「どうしても言っておきたい事があってな。…後輩達の事、礼を言っておこうと思ってな」

 

「礼?」

 

「あぁ。2軍に降りてまで後輩達の事を指導してくれた事。そして、学校の都合で苦しんでいた後輩達を救ってくれた事をね」

 

「…別にお前が謝る必要はない。俺が勝手にした事だからな」

 

礼を言う赤司に一ノ瀬は僅かに表情を曇らせながら返した。

 

「俺に礼を言うくらいなら後輩達に頭を下げてきたらどうだ?」

 

「…っ」

 

この言葉に赤司の表情が曇った。

 

「お前達が全中三連覇を成し遂げた翌年、帝光中が王者から陥落したのはお前達のせいだ」

 

一ノ瀬が単刀直入に言い放つ。

 

「練習をサボろうが試合で遊ぼうが、試合に勝ちさえすれば許される。お前が作ったルールだ。このルールに逆らうどころか意見すら言えない当時の帝光中だった」

 

「…そうだな」

 

「試合もお前達が蹂躙し尽くし、戦意すらない相手としか試合が出来ず、まともな経験が詰めなかった。こんな環境で育った後輩達がまともに育つわけがない」

 

「…っ」

 

返す言葉のない赤司。

 

「赤司、お前は全中三連覇と言う偉業の代償に帝光中を壊しかけた。お前は選手としては一流だ。だが、主将としては最低だ」

 

「…あぁ、言い訳はしない。お前がいなかったら、帝光は崩壊していた」

 

反論はせず、赤司は認めた。

 

「……ふぅ。まあ、後輩達が負けた一番の要因は後輩達にあるし、当時の帝光の体制は学校の責任でもあった。何より、俺にだって責任の一端はある。言いたい事も言えたし、もう充分だ」

 

「一ノ瀬…」

 

「高校でお前達を止めるつもりだったが、それも黒子に先を越されてしまったし、ったく、俺も人の事は言えないな」

 

自嘲気味に一ノ瀬が口にする。

 

「まだ終わりではないのだろ?」

 

「当然だ。高校最後の大会でようやくチャンスが巡ってきた。今日ここで花月を倒して全国に行き、お前達(キセキの世代)も黒子も倒し、全国制覇をする」

 

赤司の問いに、一ノ瀬は真剣な表情で答えた。

 

「お前としては複雑か?」

 

「そうでもない。お前と戦ってみたいという気持ちもあるからね。…それに、ここで負けるようならそれまでだ」

 

「そうかい」

 

意地悪そうな表情で一ノ瀬が尋ねると、赤司は淡々と返した。

 

「…さて、そろそろ行かせてもらうよ」

 

「試合にすまなかったな」

 

「それじゃ、全国で会おう」

 

そう言って、一ノ瀬は後ろ手に手を振りながら会場内に戻っていった。

 

「緑川…、一ノ瀬の存在もそうだが、これだけの戦力が揃っているとはね。はっきり言って、神城と綾瀬抜きでは10回やって1度勝てればと言う所だが、どうなるかな…」

 

独り言にように赤司は呟いたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

花月控室…。

 

『…』

 

試合目前。強敵を前に選手達は押し黙って集中している。

 

「時間だ、行くぞ」

 

そこへ、上杉が控室にやってきて選手達にそう告げた。

 

「ほな、行こうか」

 

天野が立ち上がると、続けて他の選手達も立ち上がり、控室を後にしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『おぉぉぉぉぉーーっ!!!』

 

コートのあるフロアに入ると、歓声が選手達を出迎えた。県予選と言えど、決勝ともなれば観客の数も多い。

 

『やっぱり神城と綾瀬がいないぞ!?』

 

『おいおい、負けたら元も子もないんだぞ!?』

 

やはり、空と大地のいない事への落胆が大きく、花月を不安視する声もチラホラ飛び交っていた。

 

「スタメンはこれまでどおり、1番竜崎、2番生嶋、3番松永、4番天野、5番室井だ。コートリーダーは天野に任せる」

 

ベンチに集まると、上杉が選手達に告げた。

 

「ここで負けたら終わりだ。次はない」

 

『…』

 

選手達の前で話をする上杉。選手達は真剣な表情で耳を傾ける。

 

「緑川は強い。だが、俺は今日勝てるだけの練習をお前達にさせてきた。今日まで積み上げてきたものがこの試合で発揮されるはずだ」

 

『…』

 

「行って来い。全国への切符はお前達の手で掴み取れ!」

 

『はい!!!』

 

上杉の檄に選手達が応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

花月、緑川の両チームのスタメンがセンターサークル内に整列した。

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

 

5番SG:生嶋奏  182㎝

 

7番PF:天野幸次 193㎝

 

8番SF:松永透  196㎝

 

10番PG:竜崎大成 183㎝

 

12番 C:室井総司 188㎝

 

 

緑川高校スターティングメンバー

 

 

4番PG:一ノ瀬京志郎 185㎝

 

5番SG:桶川文吾   179㎝

 

6番 C:城嶋則之   190㎝

 

14番SF:荻原シゲヒロ 183㎝

 

15番PF:井上智也   192㎝

 

 

「これより、花月高校対緑川高校の試合を始めます。礼!」

 

『よろしくお願いします!!!』

 

「よろしゅー頼むわ」

 

「こちらこそ」

 

整列が終わると、コートリーダーである天野と緑川の主将である一ノ瀬が挨拶と同時の握手を交わした。

 

「…」

 

「…」

 

ジャンパーの松永、桶川を残してコートに散らばる両校の選手達。

 

『…』

 

審判がジャンパーの2人を交互に視線を送るとボールを構え、高く上げ、ティップオフ!!!

 

「「…っ」」

 

同時にジャンパーの2人がボール目掛けて飛ぶ。

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

ボールを叩いたのは松永。

 

「よし、1本行きましょう!」

 

すかさず竜崎がボールを抑えた。

 

「…」

 

ゆっくりとボールを進める竜崎。緑川のディフェンスはマンツーマン。生嶋には桶川、松永には荻原、天野には井上、室井には城嶋、そして…。

 

「まさか、お前とやり合う事になるとはな」

 

竜崎の目の前には一ノ瀬が。

 

「中学時代はお世話になりました。一ノ瀬先輩には恩義はありますが、この試合は譲れないですよ」

 

「当然だ。遠慮なんていらない。全力でかかって来い」

 

帝光中時代の先輩後輩の間柄の2人が挨拶を交わした。

 

「…」

 

「…」

 

ゆっくりドリブルをし、一ノ瀬は牽制しながらゲームメイクをする竜崎。

 

「(…全員、マークを外せてない。いつ来るか分からない機を待つくらいなら!)」

 

「(…来るな)」

 

自ら仕掛けようと決めた竜崎。その意思を感じ取った一ノ瀬が集中を高める。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

左右にボールを切り返し、小刻みに身体を動かし、ステップを踏みながら隙を窺う竜崎。

 

「(…ここだ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

僅かに一ノ瀬の重心が右足に乗った瞬間、竜崎が仕掛ける。クロスオーバーでボールを左手から右手に切り返しながら一ノ瀬の横を抜けた。

 

『抜いた!?』

 

完全に隙を突いた竜崎のクロスオーバー。

 

「(抜けた! このまま――)」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

次の瞬間、竜崎の右手からボールが消える。

 

「甘いぜルーキー君」

 

一ノ瀬を抜いた直後、その瞬間を狙いすましたかのように桶川がボールをスティールした。

 

「いいぞ桶川、パスくれ!」

 

既に速攻に走っている一ノ瀬がボールを要求する。

 

「(っ!? やけに簡単に抜けた思ったけど、今のはトラップディフェンス!?)」

 

あまりにも速すぎる速攻を見て竜崎は確信した。一ノ瀬はわざと竜崎に対して隙を作り、左手側から抜かせた。そのタイミングに合わせて桶川にヘルプに飛び出させ、ボールを奪った。

 

「りょーかい、先制点、頼むぜ!」

 

ボールを拾った桶川が前を走る一ノ瀬に大きな縦パスを出した。

 

「くそっ!」

 

パスを受け取った一ノ瀬はそのままドリブルを始める。それを見て慌ててディフェンスに戻る竜崎。

 

「よし!」

 

フリースローラインを越えた所でボールを掴んだ一ノ瀬はボールを掴み、レイアップの体勢に入った。

 

「決めさせるかい!」

 

そこへ、動きを察知してディフェンスに戻った天野がブロックに現れた。

 

「…」

 

しかし一ノ瀬、天野のブロックに動じる事無くボールを下げ、後ろへと落とした。そこには井上が走り込んでおり、ボールを掴むのと同時にリングに向かって飛んだ。

 

「おぉっ!」

 

その井上を阻むように今度は室井がブロックに現れた。

 

『うおっ! 花月戻りはえー!?』

 

 

――スッ…。

 

 

井上は室井がブロックに現れるとボールを下げ、室井のブロックをかわす。

 

 

――バス!!!

 

 

その後、再度ボールを上げボールを放ると、バックボードに当たりながらボールはリングを潜り抜けた。

 

 

花月 0

緑川 2

 

 

『ダブルクラッチ!』

 

『あの15番やるぞ!?』

 

先制点を緑川に取られてしまう。

 

「…くっ」

 

ボールを拾ってスローワーとなった室井が竜崎にボールを渡す。

 

「…っ! あかん、大成!」

 

「…えっ?」

 

何かに気付いた天野が声をかける。次の瞬間!

 

「…っ!?」

 

ボールを掴んだ竜崎に対し、一ノ瀬と荻原が激しくプレスをかけ始めた。

 

「まさか!」

 

「オールコートゾーンディフェンス!?」

 

ベンチの菅野が立ち上がり、姫川が思わず声を上げた。ボールマンの竜崎に対し、一ノ瀬と荻原が激しくプレス。コートの隅へと徐々に押し込んで行く。

 

「…くっ!」

 

意表を突かれたオールコートゾーンディフェンスに面を食らい、動揺する竜崎。

 

「お前の性格はよく理解している。序盤に躓くとゆっくりペースを作り直そうとする。だが、そうはさせない」

 

ニヤリと笑いながら告げる一ノ瀬。

 

「あかんはよパスを出せ! 時間あらへんぞ!」

 

ヴァイオレーションの時間が近付いている事に焦りを覚えた天野が慌てて声を出す。

 

「くっ…そ…!」

 

僅かに見えて味方を頼りにどうにか強引にパスを出す竜崎。

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

「もらうぜ」

 

松永にボールを渡る瞬間、井上が飛び込みながらボールをカットした。

 

『うわぁ! 通らねえ!』

 

ボールを掴んだ井上はそのままカットイン、中へと切り込んでいく。

 

「ここは通さへん!」

 

シュート体勢に入る前に天野が井上の前に立ち塞がる。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

左右にボールを切り返しながら井上が天野を牽制。天野は動じる事なくディフェンス。

 

「(…こいつ、データ通りディフェンスが上手いな。だったら!)」

 

抜く事を諦めた井上がボールを掴み、頭上に掲げる。

 

「(打つんか!?)」

 

シュートを警戒して天野が両腕を上げる。が、井上は頭上に掲げたボールを下げ、天野の脇の下からボールをゴール下に走り込んだ城嶋へと放るようにパスを出す。

 

「ナイスパス!」

 

ボールを掴んだ城嶋はすぐさまフックシュートのような構えでシュート体勢に入る。

 

「今度こそ!」

 

すかさず室井がブロックに飛んだ。

 

「違う、フェイクだ!」

 

「っ!?」

 

慌てて指示を出した松永だったが一足遅く、室井は既にブロックに飛んでしまった。

 

 

――バス!!!

 

 

頭上に掲げたボールを下げ、フロントターンで室井をかわし、リバースレイアップで城嶋が得点を決めた。

 

 

花月 0

緑川 4

 

 

間髪入れずに失点を喫する花月。

 

「…くそっ」

 

悔しさを口にしながらボールに駆け寄る室井。

 

「待てや!」

 

そんな室井の肩を掴んで制止させる天野。

 

「浮足立っとるお前がスローワーになったら同じ事の繰り返しや。お前は前に走ったれ」

 

そう小声で指示を出す天野。

 

「…っ、分かりました」

 

指示を受けた室井は言われたとおり前へと走った。

 

「(…クィッ)」

 

「(…コクリ)」

 

天野が松永に顎でサインを出すと、頷いた松永は室井に続くように前へと走った。

 

「っしゃ!」

 

それを見た天野が大きく振りかぶるようにボールを構えた。

 

「…っ、まずい、戻れ!」

 

カウンターを警戒した桶川が声を出し、慌てて戻る。

 

「…させねえ!」

 

荻原が縦パスを阻止する為に両腕を上げながら天野の前で飛ぶ。

 

「なんてな」

 

右手で持ったボールを左手で抑え、パスを中断。

 

「っ!?」

 

飛んだ荻原の足元から竜崎にパスを出した。

 

「よし、これなら!」

 

マークが1人減った事で竜崎は悠々とボールを掴み、ボールを運んだ。

 

「慌てる事ないで。試合は始まったばかりや。いつものように堂々と司令塔やったらええんや」

 

ボールを運ぶ竜崎に並んだ天野が肩を叩きながらそっと声をかけた。

 

「天野先輩…、よし!」

 

この言葉で落ち着きを取り戻した竜崎は気合いを入れ直したのだった。

 

「(…花月で唯一の3年だけあって、さすが場数を踏んでいるな)」

 

慌ただしい空気を即座に変えた天野を見て一ノ瀬が心中で呟く。

 

「(タイプは違えど、シチュエーション次第ではあいつら(キセキの世代)と同等の活躍が出来る天野。奴がいる限り、例え神城と綾瀬がいなくとも油断は出来ないな…)」

 

一ノ瀬は天野に対し、高い評価をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「こうなったか…」

 

観客席から試合を観戦している赤司がボソリと呟く。

 

 

第1Q、残り4分23秒。

 

 

花月 8

緑川 12

 

 

試合が開始して6分が経過し、緑川が二桁目の得点を決めた。試合は完全にロースコアゲーム。互いに得点は伸び悩んでいた。

 

「普段なら常に100点ゲームの花月だが、速攻主体のラン&ガンを好む神城とスコアラーの綾瀬がいないから当然の結果か」

 

機動力と運動量を活かして戦うのが花月の十八番だが、その肝となる空と大地がいない為、竜崎自身が慎重にゲームを組み立てるディレイドオフェンスが好む事もあり、得点の伸びは芳しくない。

 

「おぉっ!」

 

ボールを持った松永が荻原をポストアップでローポストに追い込み、そこからボールを掴んでバックステップ→フェイダウェイからのジャンプショットを放つ。

 

「くそっ!」

 

慌ててブロックに向かう荻原だったが、体勢を崩されていた上に身長差もあり、届かない。

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

「打たすか!」

 

しかし、横から井上が手を伸ばし、ブロックした。

 

「速攻!」

 

ルーズボールを拾った一ノ瀬が声を出し、そのままボールを運んだ。

 

「これ以上は…!」

 

竜崎がスリーポイントライン手前で一ノ瀬の横に並び、並走する。

 

 

――スッ…。

 

 

直後、一ノ瀬はボールを掴み、ノールックビハインドパスでボールを左へと放る。

 

「ナイスパス!」

 

そこへ走り込んだ井上がボールを掴む。

 

「…っ!」

 

井上の目の前に生嶋が立ち塞がる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…あっ!?」

 

視線をリングに向け、僅かにポンプフェイクでスリーを意識させた後、ドライブで切り込み、生嶋を抜きさった。

 

「っしゃ!」

 

直後にボールを掴み、シュート体勢に入った。

 

 

――チッ…。

 

 

「決めさせん!!!」

 

「…くそっ!」

 

井上がボールをリリースした瞬間、横から現れた松永の伸ばした手の指先にボールが触れた。

 

 

――ガン!!!

 

 

指に触れた事で軌道が逸れ、ボールはリングに弾かれた。

 

「と来れば、俺やぁぁぁっ!!!」

 

リバウンドボールを天野が抑えた。

 

「(…くそっ! こいつ!)」

 

天野に絶好のポジションを抑えられ、リバウンドボールを奪われた城嶋が心中で悪態を吐いた。

 

「取り返すで!」

 

抑えたボールを竜崎に渡した。

 

 

「試合はディフェンス主体のロースコアゲーム。花月は同じ3番のポジションのマッチアップによる縦ミスマッチから得点を重ねている」

 

ここまでの花月の得点は松永がハイポストから荻原をポストアップで押し込んでの得点、あるいは他のディフェンスを引き付けてのパスによるアシストから得点を重ねている。

 

「対して緑川は5番のポジションからの得点。言うなれば、キャリアのミスマッチからの得点が中心」

 

緑川は城嶋にボールを集め、ムーブやステップを駆使して得点を重ねている。

 

「互いに狙いははっきりしているが、互いにそこは上手くカバーしている」

 

狙いがはっきりしてからはそれぞれ松永、城嶋にボールが渡るとすぐにヘルプへと向かっていった。

 

「赤司っち、来てたんスね」

 

その時、赤司に話しかける者が現れた。

 

「黄瀬か」

 

「久しぶりッス。夏以来ッスね」

 

軽く挨拶を交わすと、黄瀬は赤司の横に並んだ。

 

『なぁ、あの2人って…』

 

『嘘!? まさかキセキの世代!?』

 

あらゆる意味で目立つ黄瀬が現れた事で観客の一部が2人の気付き、軽くどよめき始めた。

 

「いやー、会場探すのにすっかり迷って試合開始に間に合わなかったッス。…で、今はどんな状況ッスか?」

 

黄瀬が赤司に尋ねると、赤司が大まかにこれまでの試合展開を話した。

 

「なるほど、ディフェンス先行となると、緑川が有利な感じスか? 花月には神城っち綾瀬っちがいないから状況を打開する突破口がないし、緑川にはあの黒子っちの友達の14番と言い動きしている15番がいるみたいだし」

 

ディフェンス先行で得点が伸び悩む試合の場合、個々の力で状況を打開出来る選手いるチームがいる方が有利に事が運ぶ場合が多い。緑川には荻原と井上がいる為、緑川が有利と黄瀬は予想する。

 

「そこはあの天野幸次がいい働きをしている。彼がリバウンドの大半を抑え、あの15番、井上智也を抑え込んでいる為に花月は何とか食らいついている」

 

花月が不利な中で花月が緑川に食らいついていけているのは天野の尽力によるものが大きい。攻守に渡ってリバウンドを抑え、緑川のキーマンの1人である井上を抑え、コートリーダーとしてしっかりチームを纏めているからだ。

 

「…となると、試合は何かきっかけがない限りこの状況が続きそうッスね」

 

「あぁ。……だが」

 

「こういう時に仕事をするのが、一ノ瀬っち。スね」

 

2人はコート上の1人の選手に注目した。

 

 

「…」

 

それから試合は進み、第1Q、残り2分となった所で一ノ瀬がボールを運んでいる。

 

「止める!」

 

一ノ瀬をディフェンスをする竜崎が気合いを入れてディフェンスに臨む。

 

「…」

 

表情を変えず、視線で左右を確認しながらゲームメイクをしている一ノ瀬。

 

「京志郎!」

 

桶川が一ノ瀬に向かって走りながらボールを要求する。

 

「…」

 

「(5番にパスか!?)」

 

竜崎がパスを警戒する。

 

 

――ブォン!!!

 

 

「っ!?」

 

その時、一ノ瀬は桶川…ではなく、竜崎の顔面スレスレの僅か横にボールを投げるように放った。

 

「ナイスパス!」

 

ボールは、室井の裏を取り、ゴール下に走り込んだ城嶋にボールが渡った。

 

「っ!?」

 

桶川に一瞬気を取られた室井。気付いた時には既に遅かった。

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

ボールを掴んだ城嶋はボースハンドダンクでリングに叩きつけた。

 

 

花月 10

緑川 16

 

 

「よーし!」

 

ダンクを決めた城嶋に荻原が駆け寄り、ハイタッチを交わす。

 

「…くそっ」

 

「ドンマイ、今のは仕方あらへん」

 

悔しがる室井に駆け寄った天野が肩を叩きながら励ます。

 

「マークを外した一瞬に…」

 

図ったかのように矢のようなパスを一瞬で城嶋に届けた一ノ瀬に目を見開く竜崎。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

パスをしながら隙を窺い、最後は竜崎が狙ったが、後ろから現れた手にブロックされた。

 

「いいぞ京志郎!」

 

竜崎のレイアップをブロックした一ノ瀬に労う桶川。

 

「速攻!」

 

ボールを掴んだ一ノ瀬の掛け声と共に緑川の選手達が速攻に駆け上がる。

 

「あかん、戻れ!」

 

ターンオーバーからの速攻を見て慌てて声を出す天野。一ノ瀬はそのままワンマン速攻を仕掛け、レイアップの体勢に入った。

 

「させん!」

 

そこへ、追い付いた松永がブロックに現れた。

 

「よく戻った松永!」

 

追い付いた松永に喜ぶ菅野。

 

 

――スッ…。

 

 

しかし、一ノ瀬はレイアップを中断。肩越しに後ろへとボールを落とした。

 

「ナイスパス!」

 

 

――バス!!!

 

 

ボールを落とした所に走り込んでいた荻原がそのままレイアップを決めた。

 

試合はここから一ノ瀬が支配し始めた。司令塔である一ノ瀬が巧みにゲームをコントロールし、花月を圧倒していく。

 

 

第1Q、残り34秒。

 

 

花月 12

緑川 22

 

 

ボールを運ぶ一ノ瀬。

 

「…っ」

 

良い様に試合をコントロールされ、悔しさを滲み出しながらディフェンスに臨む竜崎。

 

「(…くそっ、今度はどう攻めてくる!? 誰で決めてくる!?)」

 

狙いを絞れない竜崎の頭の中は混乱している。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

しかし、一ノ瀬はパスを出さず、中にカットイン。竜崎を抜きさり、そのままリングに向かっていく。

 

「ここで自ら来るんかい!」

 

これを見て天野が慌ててヘルプに飛び出す。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

シュート体勢に入った一ノ瀬。ブロックに飛んだ天野だったが、一ノ瀬はボールをフワリと浮かせるように放り、天野の伸ばした手の上を越えていった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

一ノ瀬の技ありのティアドロップがリングを射抜いた。

 

「…っ、あんなのもあるのか…!」

 

目の前で見せられた高等技術に驚く竜崎。

 

動揺しつつも第1Q、最後のオフェンスに臨む花月。

 

「タッツー! 頂戴!」

 

天野のスクリーンでマークを引き剥がした生嶋がボールを要求する。

 

「させるかよ!」

 

これを見て井上がヘルプに向かう。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

スリーポイントラインから1メートル離れた所でボールを受け取った生嶋は井上がブロックに現れる前にシュート体勢に入り、ボールをリリースし、スリーを決めた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで第1Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第1Q終了

 

 

花月 15

緑川 24

 

 

『…っ』

 

リードされた花月、最後にスリーを決められてしまった緑川は悔しがりながら各ベンチへと戻っていった。

 

「お疲れ様です! これ受け取って下さい!」

 

戻ってきた選手達を相川がタオルとドリンクを配りながら出迎える。

 

「くそっ!」

 

荒々しくベンチへと座る竜崎。自分が止めなければならない一ノ瀬に良い様にやられてしまっている為、その悔しさは計り知れない。

 

『…っ』

 

他の選手達も状況を理解してか、表情は硬い。

 

「……さて」

 

選手達の前に立った上杉が声を上げると、選手達が注目する。

 

「状況は…、良いとは言えないな」

 

気休めを言うでもなく、単刀直入にそう言った。

 

「一ノ瀬京志郎。大した選手だ。あれほどの選手がまだ静岡にいたとはな。ゲームの組み立てだけなら神城を凌ぐだろうな」

 

今の状況の立役者である一ノ瀬を称賛する上杉。

 

「このまま今の状況を黙って見ているつもりはない。こちらも動くぞ」

 

『…』

 

この状況を打破する為、どんな指示を出すか、黙って耳を傾ける選手達。

 

「…準備は出来てるな?」

 

上杉は、1人の選手にそう声をかけた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

ウィンターカップ出場をかけた試合が始まり、緑川の猛攻に苦しめられる花月。

 

劣勢であるこの状況。上杉は1人の選手に声をかけた。

 

声をかけられた選手とは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





この試合はテンポ良く行きたいですね…(;^ω^)

正直、重要キャラを出し過ぎて上手く活躍と描写が出来る心配です…(>_<)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!
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