黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

遂にゴールデンウイークが終わってしまった!

…と言うか、今年何もしてないな…(;^ω^)

それではどうぞ!



第158Q~たった1つの切符~

 

 

 

第4Q、残り7分18秒。

 

 

花月 59

緑川 68

 

 

『おぉぉぉーーーっ!!!』

 

大歓声が響き渡る試合会場。第3Q終了時までは一ノ瀬を中心に緑川が圧倒していた。しかし、菅野に代わり、帆足が投入されると、試合は一変した。

 

帆足が絶妙なアシストで生嶋をフリーにし、生嶋がスリーを決めていき、点差はじわじわと縮んでいった。

 

「良いリズムだったよ」

 

「ありがとう」

 

スリーを決めた帆足に生嶋が声をかえ、ハイタッチを交わした。

 

『…っ』

 

伏兵投入から、タネを見抜き、対応策を実行した直後にその伏兵から更なる1発を決められ、表情が険しくなる緑川の選手達。

 

生嶋は、1年目のウィンターカップこそ、その正確無比のスリーでチームに貢献し、秀徳撃破と桐皇との善戦の原動力となったが、今年のインターハイと国体では徹底マークにあい、大きな活躍は出来なかった。

 

帆足は、バスケ未経験の身で花月のバスケ部に入部。地獄とも言える練習に耐え抜くも、花月の大きな選手層と大きな目標に1度はバスケ部を退部も考えた。

 

打てば決められるスリーも打たせてもらえなければ役に立たない。しかし、生嶋には大地のように相手をかわしてスリーを打つテクニックもスピードもない。そこで生嶋が磨いたのはカット…、フリーになる為のプレーだ。

 

かつて、自分の参加した全中大会で、星南中の空と大地のチームメイトの森崎が帝光中を相手に巧みにマークを振り切り、スリーを決めていた事を思い出し、その動きを研究。その過程で協力者が必要になり、帆足と共に猛練習し、身に着けたものだった。

 

「…」

 

緑川でただ1人、一ノ瀬だけは表情を改め、真剣なものになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

遂に点差を一桁までに詰めた花月。

 

『ディーフェンス! ディーフェンス!!!』

 

花月ベンチからも選手達が大きな声で声援を贈る。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

『っ!?』

 

その時、その声援をかき消すかのようにボールがネットを潜り抜ける。

 

 

花月 59

緑川 71

 

 

「…っ!」

 

思わず竜崎がとある方向に視線を向ける。そこには、ボールをリリースした直後の一ノ瀬の姿があった。

 

「何を驚いているんだ? 俺に外がないとでも思ったのか?」

 

見下ろすかのような表情で一ノ瀬が口を開く。

 

「例えお前達がいくら3点を積み重ねようが、こっちも3点を積み重ねてしまえば点差は縮まらない」

 

そう告げ、一ノ瀬は踵を返し、ディフェンスへと戻っていった。

 

「…くそっ、せっかくの良い流れが…!」

 

みすみすスリーを打たせ、決めさせてしまった竜崎が悔しがる。

 

「…片目が見えないはずなのに」

 

「片目塞がると遠近感掴めへんとはよー言われるけど、意外とそうでもあらへんからのう。…それに、あいつが目ぇ見えへんようになったんわ昨日今日の話やあらへんからな」

 

思わずぼやく帆足。天野が嘆息しながら言う。

 

「望むところだよ」

 

その時、生嶋が真剣な表情で口を開く。

 

「だったらこっちもスリーを打ち続けるだけだよ。向こうが決め続ける事が出来ればこっちの負け。ここから試合終了まで決め続けられると言うなら、やってみればいい。僕は絶対に外さないけど」

 

そう自信満々に言ってのけた。

 

「…せやな。こっちには緑間も認めるシューターがおる。向こうが外の打ち合いで勝負する言うなら、やったろうやないかい」

 

生嶋に同調するかのように天野がニヤリと笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

代わって花月のオフェンス。

 

「…」

 

慎重にボールを運びながらゲームメイクをする竜崎。

 

「(…見たところ、ディフェンスに特に変化はない)」

 

さっきの緑川の動きを見て生嶋がフリーになれるカラクリは見抜かれている事はまず間違いない。にもかかわらず、相手に何の動きもないのはおかしい。

 

「(考えたって答えが出るではないんだ。これまでどおり、外から狙っていくんだ!)」

 

帆足が動き、桶川にスクリーンをかける。同時に生嶋が動き、マークを外す。これに合わせて荻原がスイッチし、生嶋を追いかけた。

 

「(来た!)…帆足先輩!」

 

先程同様、フリーになった生嶋に対して荻原がスイッチし、帆足がフリーとなり、竜崎が帆足にパスを出した。

 

「…よし」

 

先程の位置でフリーでボールを掴んだ帆足はすかさずスリーを放った。

 

 

――ガン!!!

 

 

「…あっ!?」

 

ボールはリングに嫌われ、外れてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『ディフェンスはどうする? 何だったら、俺がヘルプに行くか?』

 

そう提案する井上。

 

『いやいい。お前が出ると中が手薄になる。打ちたければ打てばいいさ』

 

『おいおい、良いのかよ!?』

 

まさかの言葉に荻原が反発する。

 

『生嶋ならともかく、あの12番(帆足)なら問題ない。そう何度も決められるものでもない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

ディフェンスに戻りながら話し合った内容。

 

「(一ノ瀬の言う通り、外れた!)」

 

スリーが外れ、リバウンドに備える井上。

 

緑間や生嶋と言ったシューターがいるせいで忘れられがちだが、本来、スリーとは決まり辛いものであり、確率50%でも一流と呼ぶに充分。高校生…しかも、高校からバスケを始めた帆足であるなら、如何に今日までスリーを重点的に磨いてきたとしても、限界がある。

 

「(外一辺倒で来るならむしろ望むところだ。生嶋に打たせなければ後はリバウンドを――)」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「こんの!!!」

 

強引にポジションを奪った天野がリバウンドボールを抑えた。

 

「ダイスケ!」

 

抑えたボールを再度帆足に渡す。

 

「今度こそ!」

 

再び帆足がスリーを放つ。

 

 

――ガン!!!

 

 

だが、ボールは再度リングに弾かれてしまう。

 

「リバウンド!」

 

それを見て一ノ瀬がゴール下に立つ城嶋と井上に檄を飛ばす。

 

「よっしゃ!」

 

自分の所へ弾かれたボールに井上が両手を伸ばす。

 

 

――ポン…。

 

 

「っ!?」

 

「リバウンドは……譲らへんぞ!」

 

井上の手にボールが収まるより早く天野がボールを叩く。

 

「ちぃっ!」

 

弾かれたボールに今度は城嶋が手を伸ばす。

 

 

――ポン…。

 

 

「なっ!?」

 

「取らせんへん言うとるやろ!」

 

なんと、再び天野がボールを伸ばした指先で引っ掛けた。

 

「ナイス天野先輩!」

 

舞ったボールを松永が抑えた。

 

「帆足!」

 

ボールを掴んだ松永は帆足にパスを出した。

 

「打てますよ!」

 

「…っ」

 

竜崎の声に反応し、帆足が3度目のスリーを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールは今度こそリングを潜り抜けた。

 

 

花月 62

緑川 71

 

 

『マジかよ!? 5連続スリー!!!』

 

『もう止まらねえよ!』

 

5回連続でスリーが決まり、観客は盛り上がる。

 

「ええで、よー打った」

 

帆足の下に駆け寄った天野。

 

「打てる思たら何本でも打ったらええ。外しても俺が何本でもリバウンドしたるわ」

 

「はい!」

 

そう告げ、天野は帆足の背中を叩いた。

 

 

「スマン!」

 

ディフェンスリバウンドを抑えられなかった城嶋が頭を下げる。

 

「謝る必要はない。天野は全国で屈指のリバウンダーだ。あいつからまともにリバウンドを取れるのは紫原くらいだろう」

 

謝る城嶋を制する一ノ瀬。

 

「やる事はインターバルの時に決めた事と変わらない。こっちも攻めて攻めて攻めまくる。確実に得点を重ねれば勝てるんだ。全員、点の取り合いを仕掛けるぞ!」

 

『おう!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ボールを運ぶ一ノ瀬。フロントコートまでボールを運ぶと、荻原にパスを出した。

 

「っしゃ!」

 

「っ!?」

 

ポンプフェイクで目の前の帆足を飛ばさせ、その後にターンアラウンドで反転し、すぐさまシュート体勢に入った。

 

「打たせん!」

 

「ちぃっ!」

 

しかし、ヘルプに飛び出ていた松永がブロックに飛び、シュートコースを塞いだ。仕方なく荻原は身体を捻ってボールを一ノ瀬に戻した。

 

「…よし」

 

フリースローラインの僅か後ろでボールを受け取った一ノ瀬がシュート体勢に入った。

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

「打たせませんよ!」

 

だが、横から現れた竜崎の決死のブロックによってボールは弾かれた。

 

「(くそっ、死角から!)」

 

左目の死角からのブロックの為、察知出来ず、胸中で悔しがる一ノ瀬。

 

「よーやったタイセイ!」

 

「ハハッ! やられっぱなしじゃないですよ! 速攻!」

 

褒めたたえる天野。ルーズボールを拾った竜崎がそのまま速攻に走った。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

「行かせん!」

 

「…っ!」

 

フロントコートに突入した所で一ノ瀬が後ろから竜崎のキープするボールを叩く。零れたボールを何とか抑えた竜崎。

 

「竜崎君!」

 

横から走り込んだ帆足がボールを要求した。

 

「頼みます!」

 

すかさず帆足にパスを出した。ボールを受け取った帆足はスリーポイントラインギリギリまでドリブルをし、ボールを掴んだ。

 

「打たせねえぞ!」

 

後ろから荻原がスリーは打たせまいとシュートコースを塞ぎにかかった。

 

「…」

 

帆足はスリーは打たず、ボールを横へと流した。

 

「ナイスパスだよ」

 

そこには生嶋が立っていた。生嶋はボールを掴むのと同時にシュート体勢に入った。

 

「打たすかぁっ!!!」

 

スリーを阻止するべく、桶川がブロックに飛んだ。

 

「シュート体勢に入った時点で僕の勝ちだよ」

 

生嶋は斜めに飛んでブロックをかわしながらスリーを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを綺麗に潜り抜けた。

 

 

花月 65

緑川 71

 

 

『6連続!!!』

 

遂に第4Q、6本目のスリーが決まり、点差はスリー2本分まで縮まった。

 

「っしゃぁっ!!! よー決めた!!!」

 

「当然だよ」

 

ハイタッチを交わす天野と生嶋。

 

『…っ』

 

17点もあった点差が6連続スリーと言うデタラメな得点で縮められ、表情が曇る緑川の選手達。

 

「…っ」

 

それは一ノ瀬も例外ではなく、ベンチにタイムアウト合図を出すと、北条がオフィシャルテーブルに申請に向かった。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『チャージドタイムアウト、白(緑川)!』

 

次の緑川のオフェンスで、桶川から城嶋へのパスを天野がカットし、その際にボールがラインを割り、緑川が申請したタイムアウトがコールされ、選手達はベンチへと下がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「花月が巻き返してきたッスね」

 

観客席の黄瀬が選手達がいなくなったコートを見つめながら呟く。

 

「流れは完全に花月にきている。それに加え、一ノ瀬の支配力に陰りが見え始めた。この先、花月が点差をひっくり返す可能性は充分にある」

 

そう分析する赤司。

 

「…っ」

 

落ち着かない様子で複雑な表情をする黄瀬。

 

「どうした? 俺はてっきり、お前は花月との再戦を望んでいる思っていたが…」

 

「そりゃ、花月とはもう1回戦いたいッスよ。夏の借りもあるし。けど…」

 

「…」

 

「正直、今勝ってほしいのは緑川ッス。一ノ瀬っちとは1度戦ってみたかったッスから」

 

赤司の問いに黄瀬が悲痛な表情で答え、かつての記憶を思い起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『黄瀬。また練習をサボるつもりか?』

 

これは黄瀬が帝光中の3年時の事。全中予選大会の1ヶ月前の事。

 

『…何か用スか?』

 

一ノ瀬に話しかけられた黄瀬は鬱陶し気に返事をする。

 

『スタメンが確約されてるからって随分と余裕だな』

 

『何が言いたいんスか? 1軍の主将の赤司っちや監督だって認めてる事っスよ。1軍ですらないあんたにとやかく言われる筋合いはないと思うけど?』

 

『…別に俺はお前に指図するつもりはない』

 

若干表情を曇らせるもすぐに元の表情に戻す一ノ瀬。

 

『だったら――』

 

『…だが、チームメイトとして敢えて言わせてもらう。目の前の全中大会はどうでもいい。どうせうちが負ける事は100%ないだろうからな』

 

『…』

 

『お前は天才だ。才能だけならあいつら(キセキ世代)の中でもトップレベルだ。だがこの先、高校に進学してもバスケを続けるつもりなら、才能に胡坐をかいた今の状態じゃ、他の4人には絶対勝てないぞ』

 

真剣な表情で一ノ瀬は黄瀬に告げた。

 

『…言いたい事はそれだけッスか?』

 

若干不快な表情をしながら黄瀬が尋ね返す。

 

『他の4人ならともかく、あんたにそんな偉そうな口利かれたくないんだけど? 何年バスケしてきたか知らないッスけど、バスケ始めて1年程度の俺より下手な癖に。偉そう事言わないでくれないッスか?』

 

一ノ瀬の傍まで歩み寄った黄瀬は一ノ瀬を見下ろしながらそう言った。

 

『指図するつもりないと言っただろ? ただ思った事を言っただけだ。後はお前の好きにすればいい』

 

そう告げて、一ノ瀬はその場を後にした。

 

『キセキ世代は正直、敵に回したら勝つのは至難の業だ。けど、お前に限って言えば、負けると思った事は1度もない』

 

『…』

 

『お前は所詮ただの天才だ。どれだけ点が取る事が出来ても、チームを勝たせる存在じゃない。この意味が分からなきゃ、お前はこの先、天才と呼ばれても頂点には立てないよ』

 

そう最後に言い、一ノ瀬はその場を後にしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「(あの時は負け惜しみとしか思わなかった。…けど、海常に入って火神っちに負けて、直後のインターハイで青峰っちに負けた。一ノ瀬っちの言ったとおり、俺はチームを勝たせるエースにはなれなかった…)」

 

奇しく一ノ瀬言葉通りになってしまった海常の1年目。

 

「(3年に上がって主将に任命されて、一ノ瀬っちの言ってた事を思い返すようになった。もっと早く耳を傾けていれば…)」

 

チームを率いる存在となった黄瀬。思い返すのは帝光中時代の一ノ瀬の言葉。

 

「(今になって、一ノ瀬っちにもっとバスケを教わりたいって思うようになった。だから…!)」

 

黄瀬は、かつてのチームメイトの勝利を願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

しかし、試合は黄瀬の願いとは裏腹に、赤司の予測通り、花月に流れが傾いた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

生嶋の外が健在。帆足も合わせて2つの長距離砲が緑川に襲う。その為、緑川はやむを得ずディフェンスを外へと広げざるを得なくなる。

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

ディフェンスが外へと広がると中が手薄となり、待ってましたとばかりに松永がボースハンドダンクが炸裂する。

 

帆足の投入でスリーが決まるようになり、花月に良いリズムが生まれるようになった。

 

 

――ガン!!!

 

 

「…くっ!」

 

起死回生のスリーを放つもリングに嫌われ、悔しがる桶川。

 

対して緑川には悪い流れが現れる。スリーを立て続けに決められ、急速に縮まる点差を見て焦り、スリーを狙うも決める事が出来ない。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

外れたボールを天野がかっさらう。

 

花月に勢いをもたらしているのは、天野のリバウンドだった。オフェンス、ディフェンス問わず、天野がリバウンドを取りまくる。その為、花月は外れる事を気にせずシュートが打て、結果シュートが決まる。逆に緑川はリバウンドが取れず、思い切りよくシュートが打てず、結果得点から遠ざかる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

何とか一ノ瀬が個人技で盛り返そうとするも、一ノ瀬の動きに対応出来るようになった竜崎を始め、花月の決死のディフェンスによって得点が伸びず、単発で終わる。

 

第4Qに入り、流れは完全に花月に傾き、勢いと共に試合は完全に花月のペースとなった。そして…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

竜崎がジャンプショットを決めた。

 

 

第4Q、残り2分3秒

 

 

花月 74

緑川 73

 

 

「っしゃぁっ!!!」

 

握り拳を作り、竜崎が喜びを露にする。遂に花月が緑川を捉え、逆転に成功した。

 

『…っ』

 

逆転された緑川の選手達は一転して表情が曇っていた。

 

「けどまだや。まだ時間はある。全員気を抜かんと集中せえよ!」

 

『おう!!!』

 

気が緩まないよう、天野が活を入れ、選手達が応えた。

 

「…」

 

同じく険しい表情をする一ノ瀬。

 

「おぉぉぉーーーっ!!!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

咆哮と共に切り込み、目の前の竜崎を抜きさり、カットインする。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

カットインした一ノ瀬を包囲しようとゾーンディフェンスを縮小させるも、一ノ瀬はスピンムーブでこれを突破した。同時にボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「させるか!」

 

そこへ、松永がブロックに飛んだ。

 

「らぁっ!」

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

「…ぐっ!」

 

ブロックもお構いなしに一ノ瀬がリングにボールを叩きつけた。

 

 

花月 74

緑川 75

 

 

『…おっ――』

 

『おぉぉぉーーーっ!!!』

 

リングから手を放し、コートに着地すると、観客が大歓声を上げた。

 

『一ノ瀬!』

 

気落ちしかけた所に一ノ瀬の1発に、緑川の選手達が安堵する。

 

「負けるかよ。俺達はこの最後の大会に全てを賭けてんだ。絶対に勝つぞ!」

 

『おう!!!』

 

一ノ瀬の檄に、緑川の選手達が応えた。

 

「…流れがこっちに傾いとった所に水を差してくれたのう」

 

チームの士気を上げる豪快な1発に顔を顰める天野。

 

「やけど、賭けとるんはこっちも一緒や。ここからは実力は関係あらへん。どっちの気持ちが上かや」

 

「ですね。でも、気持ちなら絶対に譲らないよ」

 

天野の言葉に生嶋が続く。

 

「全国だけは絶対に譲らん。絶対に勝つ」

 

松永が静かに意気込んだ。

 

「俺だって、こんな所で終わりたくない」

 

「行きましょう! 勝つのは俺達だ!」

 

帆足と竜崎も決意を露にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月のオフェンス。竜崎がボールを運ぶ。

 

「…」

 

帆足が動き、桶川にスクリーンをかける。同時に生嶋がフリーになるべく動いた。だが…。

 

「…っ!?」

 

桶川は生嶋を見失う事無くピタリと生嶋を追いかけ、マークをした。

 

「いい加減、慣れて来たぜ! もう見失わねえ!」

 

不敵な笑みを浮かべる桶川。

 

 

「時間切れだ。原理は黒子のミスディレクションと変わらない。時間が経てば自ずと慣れ始める。黒子と違い、その効力はさらに短い」

 

赤司がポツリと呟く。

 

立て続けにブラインドの為のスクリーンを仕掛けた帆足。度々仕掛けられていた桶川に遂に耐性が生まれ、生嶋の姿を見失う事がなくなった。

 

 

「…やべーぞ。遂に来やがった。これじゃこっちは外が打てねえ」

 

ベンチの菅野が頭を抱える。

 

マークを振り切れなければ生嶋はスリーを打てせてもらえない。帆足のスクリーンに気を配る必要がなくなれば荻原は帆足のマークに集中出来る。帆足では荻原を相手に抜きさる事はもちろん、スリーも打たせてもらえない。外が打てなくなれば自ずとディフェンスを外に広げる必要がなくなる。

 

 

――ポン…。

 

 

「…あっ!?」

 

帆足のスクリーンが通じなくなった事実を目の当たりにした一瞬の動揺を一ノ瀬は見逃さず、竜崎のキープするボールを捉えた。

 

「速攻だ!」

 

すかさずボールを拾った一ノ瀬がそう叫び、速攻に走った。

 

「戻れ! 戻れ!」

 

ベンチから必死に声を出す菅野。

 

 

――バス!!!

 

 

そのまま一ノ瀬が速攻を決めた。

 

 

花月 74

緑川 77

 

 

「ナイス一ノ瀬!」

 

駆け寄った桶川と一ノ瀬がハイタッチを交わした。

 

『…っ』

 

ここに来て花月の切り札の効力が切れた事に動揺する選手達。スリーが打てなくなれば花月のオフェンスの選択肢は狭まり、得点チャンスが減る。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『メンバーチェンジ!』

 

その時、花月のメンバーチェンジがコールされた。オフィシャルテーブルに立っていたのは室井。交代を告げられたのは帆足。

 

「交代…か…」

 

残念がる帆足だったが、スクリーンが効かなくなり、自身もスリーを打たせてもらえない今の状況ではコートに立っていても役に立たない事はすぐに理解した為、交代を受け入れた。

 

「後は、頼んだよ」

 

そう告げ、室井の肩に手を置く帆足。

 

「…っ」

 

肩に置いた手に込められた力と帆足の表情を見て、室井は帆足が悔しがっている事に気付いた。

 

「…後は任せて下さい」

 

そう返し、決意に満ちた表情で室井はコート入りをした。

 

「よくやったぞ帆足!」

 

タオルを渡しながら帆足を称える菅野。

 

「ありがとうございます」

 

そう返事をした帆足はタオルを頭に被り、ベンチに座った。

 

「…っ」

 

ベンチに座った帆足は下を向き、膝の上で拳をきつく握り、歯を食い縛った。

 

花月のバスケ部に入学し、自分がチームに貢献が出来るチャンスが来たこの試合。最後まで試合に貢献出来ず、最後は役立たずとなってコートを去った事に悔しさを堪える事が出来なかった。

 

「顔を上げろ」

 

そんな帆足に上杉が声を掛ける。

 

「お前はチームに良い流れをもたらした。お前のおかげでここまで戦う事が出来た」

 

「監督…」

 

「お前が花月にいてくれて良かった。よくやった」

 

静かにそう告げた。

 

「……はい…!」

 

顔を上げた帆足は静かに涙を流したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「12番(帆足)が下がって11番(室井)が来たか」

 

コート入りをする室井を見つめる一ノ瀬。

 

「試合開始前に戻っただけだ。オフェンスでは俺に任せてくれ」

 

「頼んだぜ」

 

ボールを要求する城嶋に荻原が肩に手を置きながら託したのだった。

 

 

花月のオフェンス。室井が投入された事でセンターに室井が入り、松永が再びスモールフォワードに入った。

 

「へい!」

 

その時、ローポストで背中に城嶋を背負った形の室井がボールを要求した。

 

「(…珍しいな)」

 

ボールを運ぶ竜崎が驚く。普段ならマークを振り切った時にしかボールを要求しなかった室井がポストアップを仕掛けようとしているからだ。

 

「(…何かあるんだよ)…任せた!」

 

何かを感じた竜崎が室井にボールを渡した。

 

「…行くぞ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そう宣言すると同時にボールを突き始める室井。

 

「…っ!? こいつ!?」

 

その、室井の圧力を受けて城嶋が圧倒される。

 

「(このパワーは…、松永とは比較にならない!)」

 

ジリジリとゴール下まで押し込まれる城嶋。その圧倒的なパワーを前に侵入を防ぐ事が出来なかった。

 

「おぉっ!」

 

ゴール下まで押し込んだ室井はボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「調子に、乗るな!」

 

城嶋がブロックに飛んだ。

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

「ぐっ!」

 

ブロックもお構いなしに室井がブロックを吹き飛ばしながらボースハンドダンクを叩き込んだ。

 

 

花月 76

緑川 77

 

 

「こっちだ!」

 

緑川のオフェンス。城嶋がボールを要求した。

 

「お前に俺は止められない」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ローポストでボールを受け取った城嶋はそう告げ、いくつかフェイクをいれた後、反転し、室井の背後に抜け、そのままリングに向かって飛んだ。

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

「なん…だと…!」

 

「それは何度も見させてもらった!」

 

しかし、背後から現れた室井によってボールは叩き落された。

 

「よっしゃぁぁぁっ!!!」

 

室井の豪快なブロックにベンチの選手達が立ち上がりながら喜びを露にした。

 

室井はただベンチに下がっていた訳ではなかった。これまで止められなかった城嶋の巧みなムーブやフェイクを織り交ぜたフェイントの対応策を姫川が映像を確認しながら授けていた。

 

「紫原さんや三枝さんとマッチアップ経験のある室井君です。パターンを覚えてしまえば彼ならやれます」

 

指導が実り、笑みを浮かべる姫川。

 

「速攻!!!」

 

ボールを拾った竜崎が速攻に走った。

 

「ここは決めさせん!」

 

フロントコートに入った所で一ノ瀬が追い付き、並走するようにディフェンスをする。

 

「…っ」

 

一ノ瀬が現れると、竜崎は足を止め、ボールを掴むと頭上から右へとボールを放った。

 

「ナイスパス!」

 

そこへ走り込んだのは先程ブロックをした室井。室井はそのままドリブルで突き進み、フリースローラインを越えた所でボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「させるか!」

 

「調子に乗んじゃねえ!」

 

その時、室井に追い付いた城嶋と井上がブロックに現れた。

 

『うわー! これじゃ打てねえ!?』

 

190㎝を超える2枚のブロックに悲鳴を上げる観客。

 

「行け、室井。確かにお前には経験もテクニックもない。…だが、お前にはこのコートで1番優れているものをもっている」

 

ベンチから室井に後押しをする上杉。

 

「おぉぉぉーーーっ!!!」

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

「…ぐっ!」

 

「…がっ!」

 

現れた2枚のブロックも室井はお構いなしにぶつかり、2人を弾き飛ばしながらボースハンドダンクでボールをリングに叩きつけた。

 

 

花月 78

緑川 77

 

 

『うぉぉぉぉーーーっ!!! スゲーダンクだ!!!』

 

ブロックを吹き飛ばすそのパワーに観客が沸き上がった。

 

「すっげーパワー…」

 

室井から発せられたパワーに言葉を失う竜崎。

 

「(…っ、あの11番のパワーは…!)」

 

表情には出さなかったが、室井のパワーに一ノ瀬も動揺していた。

 

「残った力振り絞れ! 絶対に死守するで!」

 

『おう!!!』

 

天野の檄に選手達が応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

残り時間、後1分。花月が再度逆転に成功した。

 

「ディーフェンス!!! ディーフェンス!!!」

 

花月ベンチからも声を張り上げながら声援が贈られる。

 

「…くそっ!」

 

「打たせないよ」

 

右45度付近のスリーポイントラインの外側でボールを掴むも生嶋のディフェンスでスリーが打てず、苦悶の声を上げる桶川。

 

「こっちだ!」

 

「頼む!」

 

ローポストの城嶋の声に反応し、そこへパスを出す。

 

「止める。絶対に止める!」

 

「っ!?」

 

ぶつかってもびくともしない室井。フロントターンで反転して裏に抜けようとするも室井がそれを許さなかった。

 

「くれ!」

 

その時、井上がボールを要求。すかさず城嶋は井上にパスを出した。

 

「決めさせへんで!」

 

「…っ」

 

目の前に現れたのは天野。鉄壁のディフェンスで井上を抑え込む。

 

 

――分かってねえよ、お前。自分がどんだけ化け物か。いるわけねえだろ。お前とやれる奴なんて。…嫌味かよ。

 

 

かつて、自身がライバル視していた存在にかけた言葉。

 

自分のちっぽけなプライドを守る為にかけた心無い言葉。中学1年時に互角の勝負を繰り広げたライバル。次こそは練習に練習を重ね、迎えた2年時の全中大会。しかし、差はもはや覆しようがない程広がっていた。

 

半端に才能を持っていただけに思い知る自分の限界と相手との差。自分の努力、才能を嘲笑われたように感じ、咄嗟に出てしまった言葉。自分はライバルではなく、ただの転がっていた石にしか過ぎなかったと知った中学2年の夏。

 

その大会を境に井上はバスケ部を辞めた。バスケに対して熱が冷めてしまったからだ。その大会から1年が経った翌年の全中大会。何気なく見た帝光中のかつてのライバルの姿を見て井上は愕然とした。

 

『何だよ…、これ…』

 

かつては楽しそうに目の前に相手に向かって行くかつてのライバルの姿はそこになく、心底つまらなそうに試合をするその姿に、井上は言葉を失った。

 

『俺の……せいなのか…』

 

ライバルの変わってしまった姿に井上は自分を責めた。高校に進学し、再びその姿を見ても何も変わっていなかった。

 

だが、自分に何が出来るか。何も出来ない。再びバスケを始めて彼の目の前に立った所で何も出来ない。…だが、彼を変えてしまった罪悪感に常に苛まれていた。

 

そんな時、たまたまストリートバスケコートでたまたま落ちていたボールでシュートやドリブルをしていた姿を見た荻原に声を掛けられ、共にバスケへと誘われた。当初はそれを断ったいたが…。

 

『燻ってものがあるんだろ? だったらやろうぜ! 遅すぎる事なんてないんだからさ』

 

自分の胸の内にある気持ちを見透かされた井上は再びバスケを始めた。

 

「(もう1度、あいつの前に立つんだ。無駄でもいい。自己満足でもいい! 青峰の前に!!!)」

 

強引に天野を抜きさろうとする井上。だが…。

 

「絶対に通さへん!」

 

天野の鉄壁のディフェンスがそれを許さない。

 

「…くっ!」

 

「こっちだ!」

 

道を阻まれ、苦悶の表情を浮かべていると、荻原がボールを要求した。

 

「頼む!」

 

すかさず井上は荻原にボールを渡した。

 

「止める!」

 

ボールを持った荻原に立ちはだかるのは松永。

 

「(勝つんだ。勝って全国に行って、今度こそ黒子と…!)」

 

中学時代に対戦を熱望し、運命の悪戯か、結局叶う事がなかった2人の約束。1度は心を折られ、バスケを辞めたが、それでも捨てる事が出来ず、かつて戦う約束をした親友の姿を見て、改めて再選の約束を交わした。

 

親の転勤等が重なり、約束を果たす事が出来なかったが、高校3年の最後の大会で、そのチャンスはやってきた。

 

「(今度こそ、約束を守る為にも、この試合に勝って全国に行くんだ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

何とか切り込もうとする荻原。

 

「行かせん!」

 

しかし、松永がそれを許さない。

 

「…くっ!?」

 

半端な位置でボールを止めてしまった荻原。このままではゾーンディフェンスの餌食になってしまう。

 

「荻原!!!」

 

その時、一ノ瀬の声が荻原の耳に入り、すかさずパスを出した。

 

「(3年間、待ちに待ったチャンスがようやく来たんだ…)」

 

かつてのチームメイトの暴走を止める為、高校でもバスケを志した一ノ瀬。帝光中を出て緑川にやってくるも、自身の左目が原因で試合出場から遠ざかり、出番が来る事がなかった3年間。

 

「(やっと巡った最初で最後のチャンスなんだ! 勝って、もう1度、あいつらと――)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

目の前の竜崎をクロスオーバーで抜きさる。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

その直後に現れた生嶋と松永を左右に切り返し、出来た隙間を一気に駆け抜けた。

 

「おぉぉぉーーーっ!!!」

 

同時にボールを掴み、リングに向かって飛んだ。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

「させへんわ!!!」

 

ボールがリングに叩きつけられる直前、天野によってボールは叩き落された。

 

「ルーズボール、絶対に拾え!」

 

決死の表情で一ノ瀬が声を出す。

 

「おらぁっ!!!」

 

零れたボールを荻原が何とか抑える。と、同時に振り返り、身体をリングの方へと向けた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

その時、試合終了のブザーが会場に鳴り響いた。

 

静岡県の、たった1つの全国への切符をかけた激闘が、今、終わったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





非情に長くなり、2つに分けようとも考えたんですが、先に話を進めたかったので一挙に決着まで行きました。

我ながらあっさりとした決着で、しかも、各キャラの掘り下げがあまり出来ず、申し訳ありませんでした…m(_ _)m

…さて、話は遂に次のステージに向かうのですが、差し当たって悩んでいるのが、空と大地のアメリカでの話をどうするか、です。一応、構想はあるんですが、結構長くなりそうで、下手すると、それだけで今年の夏が終わりそうなんですよね…(;^ω^)

とは言え、ある程度書かないと繋がらないので、長過ぎずあっさりし過ぎないように出来たらと思います。

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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