黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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第16Q~変わる流れ~

 

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

空が3Pラインの外側でボールをキープし、チャンスを窺う。その空をマークする新海。

 

試合はまだ帝光中が13点ものリードを保っている。だが、両者の表情は対照的だ。苦々しい、焦りも感じられる新海に対し、空は…。

 

「♪~♪」

 

何とも楽しげな表情でプレーしている。

 

「(くそっ! リードしてるのはこっちなのに…!)」

 

空の余裕とも取れる表情に苛立ちを覚える新海。空はボールを付きながらゲームメイクをする。3回程ボールを付いたところで…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空が右から抜きにかかる。

 

「この程度…!」

 

新海は何とか反応し、それに付いていく。

 

 

――ドシン!!!

 

 

空はそれを見越していたかのようにボールを力強く叩きつけ、左へと高速でフロントチェンジをする。

 

「くっ…そ…」

 

新海は苦悶の表情を浮かべながらもそれに何とかついていこうと強引に足を踏ん張り、逆側に身体の重心を変えようとする。だが、空は新海の重心が逆に切り替わった瞬間…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ! くそっ!」

 

再び右に高速で切り替えし、新海をかわす。

 

高速の切り替えしによるクロスオーバー。

 

『すげー! まるでキラー・クロスオーバーだ!』

 

観客から歓声共にそんな声が上がる。

 

NBA…アメリカでよく呼称されるまさに相手の息の根を止める高速の切り替えしと体重移動によるドリブル。その名がキラー・クロスオーバー。

 

だが、新海を抜いた直後、すぐさまヘルプがやってくる。

 

「調子に乗んなよ!」

 

「行かせないよ!」

 

池永と水内が空を止めにかかる。

 

「ヘルプが速くなってきたな…、関係ないけど♪」

 

空は構わず突っ込み、この2人を抜きにかかる。

 

「あら…?」

 

だが、汗で滑ったのか、踏み込んだ右足が滑り、バランスを崩す。

 

「バカめ、調子に乗るからだ!」

 

「ラッキー」

 

池永と水内が空の手からこぼれるであろうボールを拾いにかかる、…が。

 

「えっ…?」

 

「なに…?」

 

池永と水内がキョトンとする。空が尻餅を付く直前に空の姿が消え、自分達が抜かれていたからだ。コート上の、大地を除く全員が何が起きたのか理解出来ていなかった。

 

空はそのままペイントエリアに侵入する。それに並んで大地が反対側を走っている。そこに最後の砦、センター河野が立ちはだかる。

 

「(……チラッ)」

 

空は一瞬、反対側の大地の方向にチラリと視線を向ける。河野が飛び出そうとして足を止め、瞬間大地に意識が向いてしまう。

 

それを確認して空がボールを持って跳躍する。

 

「しまっ…くそっ!」

 

慌てて河野がブロックに向かう。

 

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

 

それよりも早く空がリングにボールを叩きこむ。

 

『うわぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

沸き上がる歓声。河野のブロックは間に合わなかっただけなのだが、観客には空が河野の上からダンクを叩きこんだように見えたため、地鳴りのような歓声がコート上に注がれる。

 

「っしゃぁっ!!!」

 

「派手に決めましたね」

 

バチン! とハイタッチをする空と大地。

 

「…今日ほど、あいつらが味方で良かったと思う日はないよ」

 

2人の一連のプレーを見てそんな感想を漏らす田仲。

 

 

星南 35

帝光 46

 

 

またさらに2点、星南が点差を縮める。流れは完全に星南へと傾き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「今、クロスオーバーの後何が起こったんスか? ここからじゃ遠すぎて良く見えなかったッスよ~!」

 

今の一連のプレーを見て、何が起こったの理解出来なかった黄瀬が悔しがる。

 

「うるさいのだよ。…だが、最後のあれは…」

 

そんな黄瀬を諌める緑間だが、彼も同じく理解出来てはいなかった。

 

「ストリートの技だ」

 

青峰がポツリと呟くように答える。

 

「ストリートの~? あいつ何やったの~?」

 

紫原が視線だけを青峰に向け、聞き返す。

 

「スリッピンスライドフロムチェンジ。ディフェンスに背中を向けて倒れ込んだかのように見せかけてボールを切り返しながら起き上がって抜き去るドリブル。主にストリートバスケで使われるドリブルだ」

 

その質問に赤司が答える。

 

「へぇー。なんか凄そうなドリブルッスね! 帰ったら動画でも見て覚えてみるのも面白そうッス!」

 

「黄瀬。今のあれはお前でもコピーできねぇよ」

 

テンションが上がる黄瀬に青峰が苦言を呈す。

 

「そんなひどいッス! …あれくらい、俺にだって…」

 

「従来のスリッピンスライドフロムチェンジならお前でもコピーできんだろうけど、あれはお前にも……俺でも無理だ」

 

「? …どういうことッスか?」

 

黄瀬は青峰の言うことが理解できず、理由を聞く。

 

「本来のアレは床に座り込みながらやるもんだが、あの5番は腰を浮かせたままアレをやりやがった。5番がやったことをまねるには、テクニックだけじゃねぇ、規格外のバランス感覚が必要だ。腰や背中が地面スレスレで、それでも倒れないくらいのバランス感覚がな。お前出来るか?」

 

空は、腰や背中を地面につけることなくそれをやってのけた。

 

「…それは俺にも無理ッス…」

 

黄瀬は落ち込みながら答える。

 

「(にしても、あの5番、どうも頭に引っかかる。俺は何処かであいつに会ったことがあんのか?)」

 

青峰は記憶何処かに引っかかるものを感じ、記憶を巡らせる。が、結局思い出すには至らず。

 

そして、今まではつまらなそうに眺めていたのだが、集中しながら試合を観戦をする。

 

それは、他の4人も同じであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「すごい…、神城先輩と綾瀬先輩、帝光中を相手に圧倒してる」

 

星南ベンチで試合を見届けていた選手がポツリと感想を漏らす。

 

「ふぅ…ったく、あのガキ共、ようやっとふっきれよったか」

 

「? どういうことですか?」

 

龍川が呆れた表情で喋り出す。

 

「田仲、森崎、駒込は相手が帝光中ってだけで萎縮しよって、さらに開始早々の1人アリウープで完全に飲まれておった。じゃがのう、それは、神城も綾瀬も同じやったんや」

 

「えっ?」

 

驚いた後輩は龍川の方を向く。

 

「あの2人の性格上、あれだけ舐められてさらに派手にやられたら即座にやり返すはずじゃ。やのに逆におとなしゅうなりおった。奴等も、帝光中を相手に舞い上がっておったっちゅうことや」

 

「そうだったんだ…、でも、何で急に圧倒出来るようになったんですか? 慎重に試合を進めてたといっても、前半までは先輩達と互角に戦っていたのに…」

 

空と大地は慎重に試合を進めてはいたが、要所要所に見せていた動きは以前までの試合と遜色なかった。ベンチの後輩達はふっきれただけでこうも変わるものなのかと疑問に感じた。

 

「化け始めたからや」

 

「化け始めた?」

 

「お前ら、キセキの世代は知っとるな? 奴等がどうして10年に1人の逸材と呼ばれているか、分かるか?」

 

龍川はそんな質問を投げかけた。

 

「えっ? …それは、キセキの世代はすごい身体能力だし、テクニックだって…」

 

質問されたベンチメンバーは思いついた感想を述べていく。

 

「まあ、それもあるのう。だが、身体能力にしろテクニックにしろ、例年、あれくらいの奴は1人はおる。……奴等は誰にも真似できんものをそれぞれが持っとる。やから10年に1人言う大層な異名が付いたんや」

 

「誰にも真似できないもの…」

 

「選ばれたもんしか開けられん扉。神城と綾瀬はそこへ辿り着きよった。あんのガキ共、これから先…いや、この試合中にもどんどん伸びていくやろうなぁ」

 

龍川は竹刀で身体を支えるようにしながら答えた。

 

「…ていうことは、あの2人は今やキセキの世代と同等っていうことじゃ…」

 

「勝てる…勝てるよこの試合…!」

 

ベンチメンバーは龍川の言葉を聞いて盛り上がっていく。

 

「(いや、あくまでも扉に辿り着いただけや。キセキの世代には『まだ』遠く及ばん。試合も、このままなら確実に大勝するやろう。『このまま』行けたら、のう…)」

 

沸き上がる横で、龍川だけは冷静に思考を巡らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

帝光のリスタートをし、再び試合は進んでいく。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

帝光は何とか空と大地をかわし、ミスマッチを突く形で得点を決め、再び点差が開く。

 

「ま、気にすんな。取られたらまた返しゃいい」

 

空は気にする素振りも動揺する素振りも見せず、チームを落ちつかせる。

 

リスタート。ボールを受け取った空は即座にボールを大地に預ける。ボールを受け取った大地はフロントコートまでボールを進めていく。そこにマークに付くのが池永。

 

「…来い」

 

睨み付けるようにディフェンスに入る池永。

 

「…ふむ」

 

ディフェンスは池永。だが、今の大地ならばさほど脅威にはならない相手。だが、後方にはすぐにヘルプに入れるようにその他の者達が目を開かせていた。

 

例え抜いても即座に囲まれてしまう状況。そうなると突破は今の大地と言えど難しい。

 

「いったんこっちに戻せ!」

 

空が声を掛ける。無理に行く状況でもないと判断した大地はすぐさま空にボールを渡す。

 

「よっしゃ!」

 

3Pライン外側でボールを受け取った空。そこからすかさずスリーの体勢に入る。

 

「(まずい! こいつには外がある…!)」

 

マークに付いている新海は空のアウトサイドの確率の高さをデータで知っており、すぐさまブロックに跳ぶ。だが…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!」

 

空はシュートを途中で止め、新海の横をドライブで抜ける。

 

そこに池永と水内のヘルプが入る。

 

「えっ…?」

 

「な…に…?」

 

ヘルプに来た2人は即座に困惑する。ドライブで切り込んできた空がボールを持っていなかったからだ。ボールの行方は…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空の横を大地が高速で抜けていく。空は、新海をかわした直後、ノールックで大地にビハインドパスを出していた。

 

ペイントエリアまで切り込んだ大地。

 

「させるか!」

 

センターの河野がヘルプにやってくる。大地は捕まる前に、ビハインドパスを出すのと同時に大地の横まで来ていた空へパスを捌く。

 

「っ! ちっ!」

 

河野はボールが渡った空のチェックに向かうが…。

 

 

――バチン!!!

 

 

空はボールをキャッチせず、両手でボールを弾き、大地にリターンパスを出す。

 

「あっ!」

 

声を上げる河野。リターンパスを受け取った大地は悠々と無人のゴール下を沈める。

 

 

星南 37

帝光 48

 

再び点差を11点差まで詰める。

 

空と大地のコンビネーションによる得点。

 

「よーーし!」

 

喜びを露わにする空。

 

「ディフェンス。次は止めましょう!」

 

『応っ!』

 

大地が檄を入れ、ディフェンスに戻っていく。

 

新海がボールをフロントコートまで運ぶ。星南は変わらず2-3のゾーンのディフェンス。

 

「(どうする…。さっきは何とかミスマッチを突けて点を取れたが、あんな形、そうそう出来るものじゃない…)」

 

点差はまだ二桁あるものの、焦りを覚える新海。何とか自分が状況を打破したいが、目の前の空を抜くことが出来ない。仮に出来てもゾーンディフェンスによって囲まれてしまう。

 

仕方なく、ボールを水内に渡す。

 

「っし」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

水内は囲まれる前にとボールを受け取ると同時に切り込んでいく。だが、星南の対応は早い。空、大地、森崎の3人が一気に水内を囲む。

 

「くっ!」

 

思わずボールを止めてしまう水内。その結果、3人に完全に囲まれてしまう。水内はボールを奪われないようにするだけで精一杯となる。

 

「戻せ!」

 

そんな声が水内の耳に届く。3Pラインの外側でボールを要求する沼津の姿を捉える。

 

「こん…の…!」

 

何とか沼津にパスすることに成功する水内。

 

「フリーだ! 打てるぞ!」

 

新海から声が飛び、シュート体勢に入る。ボールは沼津の手から放たれる。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

ボールはリングに向かうことなく大地によってブロックされる。

 

「(嘘だろ!? こいつ、さっきまで水内に付いてたじゃんか!)」

 

あまりのブロックの速さに驚きを隠せない沼津。こぼれたボールを誰よりも早く空が拾う。

 

『ターンオーバーだ!』

 

空が一気にフロントコートに突き進んでいく。

 

「くそっ!」

 

そんな空を追いかける帝光だが、最高速に達した空に追いつくことは出来ず…。

 

 

 

――バス!!!

 

 

 

難なくレイアップを決める。

 

 

星南 39

帝光 48

 

 

再び失点をし、ついに点差を一桁の9点にまで詰める星南。

 

「っしゃーーーっ!!!」

 

喜びを露わにする空。星南の士気は最高潮にまで達する。

 

「くそ…くそっ…!」

 

不安、苛立ち、焦りが帝光中を襲う。前半戦までの余裕が嘘であるかのように。

 

「…っ!」

 

帝光中の中でも新海は一際動揺が激しい。

 

「(まずい…、流れが星南に傾きつつある。このままでは…)」

 

依然としてまともに星南の2-3ゾーンは破れていない。今のこの状況がかなりまずいことを新海は誰よりも理解していた。

 

「こっちだ、くれ!」

 

池永がパスを要求。新海は自分ではこの状況を打破することは出来ないため、希望を込めて池永にボールを渡す。

 

パスが渡ると、それに合わせて星南のゾーンディフェンスもそれに合わせて動きを見せる。

 

「(調子に乗りやがって、見てろ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

池永がドライブで星南のゾーンディフェンスに切り込む。当然、星南は池永を囲みにかかる。

 

『あ~! やっぱり駄目だ!』

 

観客から絶望の声が上がる。

 

「無理だ! 一度俺に戻せ!」

 

後方で新海がボールを戻し、仕切りなおすよう要求する。

 

「(うるせーよ! この程度の相手、俺1人でも楽勝なんだよ!)」

 

池永は囲まれてもなお強引に推し進めていく。

 

 

 

――ドン!!!

 

 

 

だが、目の前に立つ駒込にぶつかってしまう。

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

「オフェンスチャージ! 白6番!」

 

審判がホイッスルを鳴らす。

 

『うわーっ! 帝光また攻撃失敗だ!』

 

観客からは溜め息交じりの声が。

 

「んだよ、今のあいつからぶつかりに来ただろ…」

 

そして、苛立ちを露わにする池永。

 

「今のは戻せよ。1人で格好付けすぎ」

 

「うるせーよ!」

 

今の池永の行動に水内が苦言を呈し、池永は更に苛立ちが増す。

 

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

そこに、会場中にブザーが鳴り響く。

 

『チャージドタイムアウト! 白!』

 

タイムアウト…それも帝光側のタイムアウトを告げるアナウンス。そのことにコート上の帝光の選手達は驚く。

 

「…」

 

帝光ベンチには、腕組みをして選手達を待つ監督、真田の姿があった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 

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