コートに戻ってくる両校の選手達。星南ボールからスタートする。
――ダムッ…ダムッ…。
ボールをキープし、ゲームメイクをするのは空。その空をマークするのは新海。
「…」
「…」
双方睨み合う。空がそっと口を開く。
「何だが揉めてたみたいだけど、話しは纏まったかい?」
「…うるさい」
軽口で尋ねる空に対し、新海は険しい表情で答える。
「…相変わらず、こっちを見下して、自分達は王様気取りか? …あのさあ、キセキの世代はいなくても帝光には俺も少しは期待してたんだ。…あんまり――」
――ダムッ!!!
「――失望させんなよ」
「っ!?」
空はクロスオーバーで新海の横を抜けながら言う。新海はその速さに棒立ちで抜きさられた。
グングンインサイドに侵入していく空。そこに池永と水内のヘルプがやってくる。空はここでノールックビハインドバックパスで左に走る大地にパスを捌く。
「っ! バカの1つ覚えかよ。いい加減読めるぜ!」
池永が空と大地の間に入り、パスコースを塞ぐ。
「(やっば…、さすがに大地との連携を見せすぎたか…このままじゃ取られちまう…)」
空は咄嗟に左肘を後方に突きだす。
――バチン!!!
「なっ!?」
目を見開く池永。空の背中の右から通されたボールは右方向へと飛んでいく。
「よし! …ここは決める!」
パスを受け取ったのは右サイド、3Pラインの外でノーマークの森崎。
「えっ!?」
思わず声を上げる森崎をマークしていた沼津。森崎は何の障害もない位置からスリーを放つ。
――ザシュッ!!!
ボールは綺麗な放物線を描き、リングの中央を潜る。
「よっしゃぁーーーっ!!!」
スリー決めた森崎は身体全体で喜びを表現した。
「沼津! 9番のマークはお前だろ! 何フリーにしてんだよ!」
水内が怒りの声を上げる。
「…わからないよ。あいつが動きだして、7番がスクリーンをかけてきたからそれをかわしたら、あいつはもういなかったんだよ」
沼津は何が起こったか理解できていなかった。森崎がフリーなるべく動きだす。当然、沼津はそれを追いかける。それと同時に目の前に現れた駒込のスクリーン。かかりが甘かったため、それをかわして森崎を追いかけるとそこに森崎はいなかった。
気が付けば右サイド3Pラインの外側でボールを受け取っており、悠々とスリーを決めた。
「9番が一瞬消えた…、もしかして、これは黒子先輩の…」
――ミスディレクション。
沼津はその可能性を考えた。
それは帝光中のキセキの世代の幻のシックスマンである黒子テツヤが得意としていた技術である。黒子テツヤはこれを利用して相手マークの視界から消えるように動き、パスを中継し、仲間をサポートした。
だが、森崎がやったのはミスディレクションではない。これは、森崎と駒込の2人の連携によって起きた現象である。森崎が動いたのに合わせて駒込が動き、沼津に、森崎の姿を隠すようにスクリーンをかける。沼津が森崎の姿を見失った瞬間を狙って動き、フリーとなる。
2人は幼稚園の頃からの幼馴染であり、付き合いが長い。そんな彼らだから出来る阿吽の呼吸で駒込がサポートし、森崎がマークを外す。
森崎はアウトサイドシュートを得意としているが、それ以外は平凡であり、駒込は仲間をサポートすることに長けているが、同じくそれ以外は平凡。だが、この2人が同じコートに立てば相手マークを無効化し、アウトサイドシュートを量産する脅威の存在になる。これが、龍川の言った帝光と戦える2人の武器。
「…それよりも、その前の5番のパス…」
池永が身体をワナワナとさせながらボソリと呟く。
「ん? ああ、あいつ、エルボーパスしたんだよ。NBAで見た事あるけど、わざわざ見せてくるなんて、感じ悪ぅ」
水内は嫌悪感を抱きながら言う。
「(…問題はそこじゃねぇ。あいつはそれを咄嗟のリカバリーでやったことだ…)」
池永が驚愕したのは、エルボーパスそのものではなく、大地とのパスコースを塞がれてしまったことによるアクシデントの咄嗟の機転でそれをやってのけたこと。
空はビハインドパスを出す直前まで大地にパスをするつもりだった。だが、右手からボールから放れる直前にパスコースを塞がれてしまったので瞬間的に左側を走る大地へのパスを右アウトサイドでフリーの森崎のパスへと切り替えた。それもエルボーパスで…。
これは、ずば抜けた反射神経と広い視野と判断力が求められる。
「(そんなの、コート全体を見渡せる視野の広さと咄嗟の判断力、反射神経がないとできねぇ。狙ってやったんならまだしも、咄嗟にそんなことやるなんて、それこそ、赤司先輩以外に出来るはずが…)」
池永は空に対して恐怖を抱き始めた。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
星南 42
帝光 48
点差が再び縮まる。
「くそっ…切り替えろ! まだ点差はある。ここを決めて突き放すぞ!」
新海がゲームメイクを始める。新海はマークが緩い池永にパスを出す。
「…よし」
――ダムッ!!!
ボールを受け取った池永がインサイドに切り込む。当然、切り込んできた池永を星南のゾーンディフェンスが襲いかかる。
「ちっ!」
池永は舌打ちをし、強引にドリブル突破を試みようとする。だが…。
「っ!」
先程のオフェンスチャージが頭をよぎり、動きを止めてしまう。そこにすかさず星南が囲い出す。
「戻せ!」
3Pライン外側に立つ新海が戻すように声を掛ける。池永は今の状況では何も出来ないので一度新海に戻す。
「(池永はダメだった。…だが、これで2-3ゾーンが乱れた!)」
池永を囲い込んだことにより、ゾーンが形を変えてしまった。新海はそれを見逃さず、ゴール下に立つ河野へパスを出した。
「よし、これなら!」
ゴール下でボールを受け取った河野。それをマークするのは後方に立つ田仲1人。
「行け! これなら決められるぞ!」
水内から声が飛ぶ。
河野が反転しながらジャンプをする。
「叩きこんでやる!」
ボールを片手に持ち、リング目掛けてボールを叩きこもうとする。
空と大地以外が相手なら1対1では負けることはない。帝光は得点を確信する。
「…ていうか、うちのキャプテン舐めすぎでしょ?」
空がボソリと呟く。
「おぉぉぉーーーーーーーっ!!!」
田仲がそのダンクをブロックするべく大きくジャンプする。
――バチィィィッ!!!
河野のワンハンドダンクを両手で受け止める田仲。
「舐めるなぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!!!」
――バチィン!!!
田仲はそのダンクを両の手ではたき落とした。
『なにぃぃぃーーーーーーーっ!!!???』
その光景を目を見開きながら絶叫する。
空と大地以外は雑魚。それが帝光の認識だった為だ。
「地域予選から全中の決勝まで、星南のゴール下を守ってきたのは彼ですよ? そんな彼が弱いわけがないでしょう」
大地が薄く笑みを浮かべながら言った。
「星南のエースと柱は神城と綾瀬じゃ。じゃがのう、ワシが監督になってから今日までで、1番伸びたのは田仲じゃ」
ベンチで龍川が呟く。
強敵とのマッチアップが続き、何度も苦い思いをさせられた。田仲はその度に相手から学び、敗戦の悔しさをバネに努力をし、その集大成が今発揮されている。
才能を開花されて空と大地。星南のキャプテンである田仲もまた積み上げてきたものが実り、実力を発揮し始めた。
「よし! 速攻だ! 走れ!」
ボールを拾った空が速攻を始める。
『星南すげえ! 帝光を圧倒してるぜ!』
星南の奮闘に観客席から歓喜の声が上がる。
『星ー南! 星ー南!!!』
試合開始当初はそのほとんどが帝光コールをしていた観客が星南の応援をし始めた。
今日の観客の目当ては帝光中学校。それは大地の言ったとおり間違いはない。だが、彼らが本当に見たかったのは帝光が相手を圧倒し、順当どおりに勝利する姿ではなく、帝光の敗北。
――ジャイアントキリング。
弱い者が強い者を倒し、勝利する。
その姿は観客を熱狂させる。
その熱は、会場全てに広がっていく…。
※ ※ ※
『決めたぁっ! 神城だ!』
『綾瀬もすげぇ!』
試合は空、大地が中心に進んでいく。2人を止めることは出来ず、迂闊に2人に集中してしまえば他の3人にやられてしまう。
もはや、バラバラの帝光中に星南の勢いを止めることは出来なかった。何とか得点をしてもそれはただの単発であり、この勢いと流れを変えるには至らなかった。そして…。
――ザシュッ!!!
ボールが綺麗にリングを潜る。
『キタァァァァァァーーーーーーーッ!!!』
第3Q、残り3秒。
星南 59
帝光 57
『ついに逆転だーーーっ!!!』
残り2秒、ついに星南が逆転する。
「っしゃあぁーーーっ!!!」
シュートを決めた空がガッツポーズをする。
帝光は慌ててリスタートをするが…。
『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』
ここで第3Q終了のブザーが会場に鳴り響く。
第3Qに才能を開花し始めた空と大地をきっかけに星南の勢いが増し、帝光を圧倒し始め、ついには逆転に成功する。
士気が高く、流れも勢いもある星南に対し、逆転を許し、それぞれがバラバラでチームワークの欠片もない帝光。
第4Q、勢いのまま星南が圧倒するのか、それとも、帝光が息を吹き返すのか。
会場全ての熱気が増す。
星南、帝光の選手達がベンチへと引き上げていった……。
続く