黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

ワールドカップ日本初戦、大金星に歓喜…!(^^)!

それではどうぞ!



第185Q~覚醒~

 

 

 

試合終了時間が迫り、次の試合を控えている多岐川東、田加良の両チームがコートにあるフロアへとやってきた。

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

会場は、先程、ウォーミングアップの練習前の試合の折り返し直前以上に盛り上がっていた。

 

『…』

 

会場の熱気に中てられながらも点数が表示されている電光掲示板に視線を向ける。

 

 

第4Q残り6分57秒

 

 

花月 79

洛山 77

 

 

「点差はほぼ無し、か…」

 

双方のスコアを確認した胡桃沢が再びコートへと視線を戻す。

 

「「…っ!」」

 

コート上では、空と赤司が鎬を削っていた。

 

『…っ』

 

2人が放つ気迫、プレッシャーがコートの外にいる両校にも伝わる。

 

両校、どちらの選手達も何か言葉を話すでもなく、試合の行方を見守るのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

ボールを保持する赤司。天帝の眼(エンペラー・アイ)で空の動きを見極めながらハンドリングを繰り返す。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…っ!」

 

高速のハンドリングで空の軸をずらし、その一瞬の隙を突いて空を抜きさる。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

直後にジャンプショットを放つ。空もブロックに飛ぶが間に合わず、ボールはリングを潜り抜けた。

 

「よし!」

 

赤司が拳を握る。

 

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

花月のオフェンス。空がフロントコートまでボールを進めると、当然、赤司が立ち塞がる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

天帝の眼(エンペラー・アイ)で空の動きを読んだ赤司が空のキープするボールに手を伸ばす。が、赤司の手がボールを捉えるよりも速く、空が切り返し、その手をかわして赤司を抜きさった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

赤司を抜きさったのと同時にボールを掴み、ジャンプショットを決めた。

 

「しゃらぁっ!!!」

 

先程のお返しとばかりに空が拳を握る。

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

これに合わせるように観客達が歓声を贈る。

 

試合は、空と赤司がゾーンに入った事をきっかけに、2人のぶつかり合いとなった。互いにチームの司令塔に試合の行方を託した。…いや、託すしかなかった。迂闊に手を出せば、手助けどころか下手をすれば足を引っ張る事になりかねないからだ。

 

 

「神城ぉっ!!!」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

赤司が決めれば。

 

「赤司ぃっ!!!」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

空が決め返す。

 

2人の激突は、拮抗していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『スゲー!!! どっちも退かねえぞ!?』

 

ゾーンに入った者同士のぶつかり合いに観客は沸き上がっていた。

 

「凄い…」

 

2人の激突を見届けていた桃井がただただ圧倒されていた。

 

「赤司君は天帝の眼(エンペラー・アイ)を使っているはずなのに…」

 

「ゾーンに入った事で神城は単純なスピードだけじゃねえ、反射速度も上がってる」

 

そう解説する青峰。

 

相手の未来の動きを読む赤司。空は持ち前のスピードをフルに生かすだけでなく、反射速度も人間の限界とも言われている0.11に限りなく近付いており、赤司の先読みにスピードで対抗している。

 

「…けど、これまでゾーンに入った赤司君を1ON1で止める事が出来たのは三杉さんだけ。その三杉さんにしても、高精度のデータで赤司君の動きを先読み出来たから、やっぱりこのまま赤司君が…」

 

「…」

 

桃井の予想に青峰は何も答えず。

 

「(確かに、普通に考えりゃ、赤司が負ける訳がねえ。一見、あいつらの勝負も互角に見える。だが…)」

 

青峰は口に出さなかったが、2人の勝負に何かを感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

赤司が左右に高速でハンドリングを繰り返し、空の隙を窺う。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

右から左へと切り返した赤司に対応しようとした空。しかし、直前のドリブルで身体の軸が乱されていた為、反応は出来ても身体が対応出来なかった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

「…ちっ」

 

体勢を立て直してブロックに行くも、間に合わず、ジャンプショットを決められてしまう。

 

 

花月 83

洛山 83

 

「(ゾーンに入って、スピード…特にキレが半端ねえ。だが、手に負えない程じゃねえ。問題なのは、左右の切り返しの際に軸を乱されちまう事だ…)」

 

天性のバランス感覚があるおかげでアンクルブレイクが通じない空だが、それを理解している赤司は天帝の眼(エンペラー・アイ)を使って空の身体の軸を乱している。赤司はステップや切り返しを駆使して空の体重が左右どちらかの足に乗った瞬間を狙っているのだ。その為、空は赤司の動きに反応は出来ても身体が対応出来ないのだ。

 

「(なまじ、全部に対応しようとすると軸を乱されちまう。だったら…)」

 

何かを思い付いた空は不敵に笑ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月のオフェンス。当然、空がボールを運び、目の前には赤司が立ち塞がる。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

『…っ! また赤司の間合いに躊躇なく踏み込んだ…!』

 

空は天帝の眼(エンペラー・アイ)等、お構いなしに赤司との距離を詰める。

 

「…っ!」

 

「(来る!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「(バックチェンジで右から左!)」

 

天帝の眼(エンペラー・アイ)で空の動きの先を読む。読み通り、空はバックチェンジでボールを背中側で右から左へと切り返した。

 

赤司の右手が左へと切り返されるボールに伸びる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…っ!?」

 

しかし、赤司の手がボールに触れるより早く、空が再度バックチェンジで逆に切り返してかわし、そのまま赤司の手をかわすのと同時に赤司を抜きさった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

その直後にジャンプショットを放ち、決めた。

 

 

花月 85

洛山 83

 

 

「(僕の眼は間違いなく()の動きの未来を視ている。にもかかわらず追い付けないとは…!)」

 

赤司の天帝の眼(エンペラー・アイ)は空の動きの未来を的確に視ている。だが、空のスピードはその上を行っていた。

 

「(僕の眼は絶対だ。必ず、次こそは必ず()る!)」

 

目付きを鋭くしながら空を睨み付けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

赤司がボールを運ぶと、空が待ち構える。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

小刻みにステップを踏みながらボールを切り返し、空を崩しにかかる。

 

「っ!?」

 

赤司は目を見開いて驚愕する。空は赤司のどの動きにも反応を見せず、その場でジッとしていたからだ。

 

「(どういうつもりだ。僕のこの眼を誤魔化す事は誰であっても不可能だ…!)」

 

天帝の眼(エンペラー・アイ)は目の前の相手の僅かな動き、呼吸でさえも見逃す事はない。動きの僅かな挙動を視れないと言う事はつまり、空は全く動くつもりがないと言う事である。

 

「…」

 

空を見据える赤司。もちろん、空は諦めている訳ではない。空は先程より僅かに距離を取ってはいるが、空の集中が高まっている事は目の前の赤司が1番感じ取れている。何か策が思い浮かび、実行に移そうとしている事は明白。

 

「(…いいだろう。何を企んでいたとしても、僕の眼を欺く事は出来ない。止められるものなら止めてみろ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意を決して赤司がクロスオーバーで仕掛けた。

 

「…」

 

赤司が一気に距離を詰めてくるが、空は動かない。

 

「…」

 

更に赤司が進み、空の横に足を踏み入れる。だが、空はまだ動かない。

 

「(何を考えて……いや、もういい。このまま――っ!?)」

 

意識を空からリングへと移そうとしたその時…。

 

「おっ…らぁっ!!!」

 

空が赤司の後ろからボールに手を伸ばし、狙い打った。

 

「…っ、甘い!」

 

一瞬、驚いて目を見開いた赤司だったが、即座にボールを掴んでターンアラウンドで反転し、冷静に対処。すぐさまシュート体勢に入った。

 

『上手い!』

 

赤司がクイックリリースでボールをリリースした。

 

 

――チッ…。

 

 

「っ!?」

 

「まだだぁっ!!!」

 

素早く体勢を立て直した後、咆哮と共にブロックに飛んだ空。その伸ばした手の指先に僅かにボールが触れた。

 

「っ! 触った、落ちるぞ!」

 

手応えを感じた空がすぐさま指示を飛ばす。

 

「となれば、俺やな!」

 

ゴール下に立った天野がリバウンドに備える。

 

「…くっ!」

 

良いポジションを取ろうとする四条だったが、天野にスクリーンアウトで抑え込まれ、出来ず。

 

「(くそっ、こいつ…!)」

 

同じく、リバウンドに備える五河だったが…。

 

「(俺では五河(こいつ)相手にリバウンド勝負は不利。ならば、取るのではなく、取らせない事に全力を注ぐ!)」

 

松永は、リバウンドボールを抑える事は始めから諦め、天野がリバウンドを制してくれる事を信じ、胸の前で両腕を束ね、五河をゴール下から身体を張って追い出しにかかった。

 

 

――ガン!!!

 

 

空の言葉通り、ボールはリングに弾かれ、外れた。

 

「「…っ!」」

 

天野と四条が外れたボールに飛び付く。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「もろたでぇっ!!!」

 

「っ!?」

 

リバウンドボールを天野が抑えた。

 

「天さん!」

 

既に速攻に走っていた空がボールを要求。

 

「させるか!」

 

空に縦パスを出そうとした天野に対し、すぐさまチェックに入る三村。

 

「うぉっ!?」

 

密集地帯で縦パスを妨害され、驚きで声を上げる天野。

 

「天野先輩!」

 

その横で、大地が声を出す。

 

「頼む!」

 

その声に反応した天野はすぐさま大地にパスを出した。

 

「空!」

 

ボールを受け取った大地はそのまま空に大きな縦パスを出した。

 

「っしゃぁっ! …っと」

 

大地からのパスを受け取り、ドリブルを始めた空。

 

「行かせん」

 

三村のチェックの間にディフェンスに戻っていた赤司が空の前方に立ち塞がった。

 

「いーや、行かせてもらうぜ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空はクロスオーバーでボールを右から左へと切り返した。

 

『なっ!? あんな離れた所で!?』

 

観客が戸惑いの声を上げる。空は赤司と2メートル程も離れた位置でクロスオーバーを仕掛けたからだ。

 

「…また奇策か! だが、2度目はない!」

 

クロスオーバーを仕掛けた空に対応すべく、赤司が自身の右へと切り返す空に詰め寄る。

 

「だっらぁっ!!!」

 

ボールが左手に収まるのと同時に空は再度ボールを切り返す。左手に力を込め、かつ右斜め前方に倒れ込んだ。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

空はコートに付くギリギリまで身体を倒し、その体勢のまま加速し、赤司を抜きさった。

 

『抜いたぁっ!!!』

 

『何だよ今の!?』

 

「おぉっ!!!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

赤司を抜きさった空はそのままリングへと突き進み、ボールをリングへと叩き込んだ。

 

 

花月 87

洛山 83

 

 

「おらぁぁぁぁっ!!!」

 

ダンクを決めた空はガッツポーズを取りながら咆哮を上げた。

 

『っ!?』

 

遂に均衡が崩れ、洛山の選手達に動揺が走る。

 

「ボールを寄越せ。早く!」

 

「お、おう」

 

赤司はボールを拾った五河に対して素早くリスタートを求める。

 

「…っ!」

 

スローワーとなった五河からボールを受け取った赤司は表情を険しくし、そのままドリブルを始めた。

 

 

「来い!」

 

「行くぞ!」

 

ドリブルで突き進み赤司の前に空が立ち塞がる。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

赤司は素早くハンドリングを繰り返しながら空を翻弄する。

 

「…」

 

しかし、空は先程同様、赤司のこれからの仕掛けに対し、身動きを取らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…ハッ! 相変わらず、あいつは常識外れの作戦を取りやがる」

 

青峰が苦笑する。

 

「…大ちゃん、神城君が何をしたか分かったの?」

 

「ああ。…あいつはこれまで、赤司の動きの全てに反応していた。そこを赤司に付かれ、軸を崩されたからこれまでは止められなかった」

 

「…」

 

「だからあいつは反応をするのを止めた。動こうとしなければ赤司の天帝の眼(エンペラー・アイ)には何も視えねえ。赤司が天帝の眼(エンペラー・アイ)の範囲外を抜けてから動けば赤司でも神城の動きは視えねえ」

 

「嘘!? でも、それってわざと抜かせるって事だよね? そんな事して止められるの?」

 

解説を聞いた桃井は驚きの声を上げ、尋ねた。

 

「ま、普通の奴なら無理だな。赤司が天帝の眼(エンペラー・アイ)の範囲外に移動したギリギリを狙える反射速度とその赤司に追い付けるスピード。更にかわされてもすぐさま対応出来るだけのバランス感覚がなけりゃ、な」

 

「っ!? それって…!」

 

「ゾーンに入った神城以外には出来ねえ作戦だ」

 

青峰が提言する条件を全て満たした空だからこそ、実行出来る作戦であった。

 

「赤司も運がねえ。あの赤司(・・・・)からすれば、神城はもはや天敵だ。…ここで決まるかもな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・・

 

 

―――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

小刻みにハンドリングとステップを繰り返しながら空の隙を窺う赤司。

 

「…」

 

空は自身のスペックで後追いで赤司の動きに対応していく。

 

「…」

 

何とかシュートまで持っていこうとするが、その前に空が追い付き、出来ない。

 

「…っ」

 

 

――スッ…。

 

 

赤司が切り返しと同時にノールックビハインドパスでハイポストに走り込んだ三村にパスを出した。

 

 

「っ!?」

 

このパスに観客席の青峰が反応する。

 

 

「ナイスパス赤司!」

 

ボールと掴んだ三村がそのままリングへと突き進み、ボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

「残念だったな!」

 

ボールがリングに叩きつけられる直前、現れた空が三村の右手に収まるボールを叩きだした。

 

「いいぞ神城!」

 

松永がルーズボールを拾い、すぐさま空に渡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

空が高速で左右に切り返し、隙を窺う。

 

「(未来は視えている。今度こそ!)」

 

左から右へと切り返されたボールを狙い打つ赤司。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空はボールに触れられるより早くボールを再度切り返し、赤司の手をかわす。

 

「…っ! まだだ!」

 

自身の左方向から抜けようとしている空に対し、右足を踏ん張って強引に方向転換をし、切り返した空のボールを再び狙う。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

しかしこれも、空はバックチェンジで切り返してかわした。

 

「…くっ!」

 

再度食らいつこうとした赤司だったが、バランスを崩し、その場で尻餅を付いてしまう。

 

『赤司がアンクルブレイク!?』

 

赤司を抜きさった空がリングへと進み、ボールを掴んだ。

 

「うぉぉぉぉー--っ!!!」

 

「決めさせるかよ!!!」

 

その空に対し、四条と五河がヘルプに行き、ブロックに飛んだ。しかし…。

 

「「っ!?」」

 

ボールを掴んだ空だったが、ボールを頭上にリフトさせただけで、飛んではいなかった。

 

 

――スッ…。

 

 

掲げたボールを下げた空はそこから2人のブロックを下から潜り抜けるようゴール下にステップする。

 

 

――バス!!!

 

 

そこから再度ボールを掲げ、リバースレイアップで得点を決めた。

 

 

花月 89

洛山 83

 

 

『…おっ――』

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

次の瞬間、観客が爆発したように大歓声を上げた。

 

「ナイス空!」

 

「おう!!!」

 

パチン! と、ハイタッチを交わす空と大地。

 

『…』

 

その光景を、洛山の選手達は茫然と見ていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「決まったな」

 

「えっ?」

 

青峰が断言するように言う。

 

「神城は決めて、赤司はパスを出させられた。これで勝負は付いた」

 

「で、でも、まだ時間は残ってるし、そう決めつけるのは――」

 

「――見ろ」

 

反論をする桃井、青峰は赤司に視線を促した。

 

「……あっ!?」

 

赤司に視線を移した桃井がある事に気付いた。

 

「赤司のゾーンが解けてる。解け方としては最悪の解け方だ。このまま押し切られて終わりだ」

 

「……洛山が、赤司君が、負ける…」

 

桃井は茫然とコートを見つめたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

続く洛山のオフェンスは失敗し、ターンオーバー。赤司は空を止める事は出来ず、その空に対応しようと人数をかけて空に当たった所、大地にパスを捌かれ、決められてしまう。

 

 

花月 91

洛山 83

 

 

『点差が開いてきたぞ!?』

 

『これはもう決まったか!?』

 

花月が点差を伸ばしていき、観客は花月の勝利を確定する者が現れてきた。

 

『ハァ…ハァ…!』

 

開いていく点差を止める事が出来ず、洛山の選手達の表情は疲労も相まって益々曇っていった。

 

「ハァ…ハァ…!」

 

洛山の士気が確実に下がっている状況に、赤司は何も声をかける事が出来ず、ただただ下を向いて項垂れていた。

 

「(…いかん!)」

 

洛山の監督の白金がたまらずタイムアウトの申請をしにオフィシャルテーブルに向かった。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

『っ!?』

 

ボールを回してチャンスを窺っていた洛山だったが、空によってパスをカットされてしまう。

 

『うぉぉぉぉー--っ!?』

 

『来るか4連続!?』

 

度重なる攻撃失敗を見て、観客が沸き上がる。

 

ボールを奪った空がそのまま攻め上がる。

 

「…」

 

そんな空の前に、赤司が立ち塞がった。

 

「(もうあんたには俺は止められない。これでトドメだ!)」

 

空はここで雌雄を決する為、赤司に対して仕掛けるのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『こうなってしまったか…』

 

もう1人の赤司。本来の赤司が呟く。

 

『分かっていた事だ。今の神城と僕が戦えば、こうなる事は…』

 

現在、表に出ている赤司がそう返す。

 

『ならばどうする?』

 

本来の赤司が尋ねる。表の赤司は暫しの沈黙の末…。

 

『……さよならだ』

 

『……それしか無いのか』

 

その言葉に、本来の赤司が悲しそうに返す。

 

『もはや神城は僕でもお前でも敵わない。…ならば、天帝の眼(エンペラー・アイ)を完全なものにするしかない』

 

『…っ! だがそれは…!』

 

それが何を意味するのか理解してしまっている本来の赤司は反論しようとする。

 

『僕が消え、僕達が2人になってしまった事で分かれてしまったものを1つにすれば、究極のパスを出す為のコートビジョンと未来を視る天帝の眼(エンペラー・アイ)を融合させれば、この状況を打開出来る』

 

『それで本当に良いのか? それしか無いのか?』

 

『僕は本来、生まれるはずがなかった存在だ。最後に我が儘を聞いてもらった。悔いはない』

 

フッと笑みを浮かべながら表の赤司が答える。

 

 

我が儘…それは試合前日の事。たまたま外を歩いていた時、1人、自主練をしている空を見つけた時の事。

 

『明日の試合、スタートから僕にやらせてほしい』

 

『…フッ、それは相手が神城空だからか?』

 

今では珍しくない。空を相手にすると普段は見せない負けん気を出すもう1人の赤司の特徴。

 

『頼む。最後(・・)の我が儘だ』

 

 

これが、表に出ている赤司の言う最後の我が儘の内容である。

 

『最後に最高の(ライバル)と全力でぶつかり合えた。餞別としては充分だ』

 

『…っ、そう…か』

 

歯を食い縛り、何かを堪える本来の赤司。

 

『後は、頼んだ。――ありがとう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「…」

 

赤司が目を開け、前を見据える。そこには、空が迫っていた。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

ダブルクロスオーバー。キラークロスオーバーで赤司を抜きにかかる空。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

2度目の切り返される直前のボールを赤司に叩かれてしまう。

 

『っ!?』

 

これには花月の選手達も驚愕していた。

 

ボールを奪った赤司がそのまま攻め上がる。

 

「くそっ、戻れ!」

 

慌てて空が声を出し、ディフェンスへと戻り、赤司の前に立ち塞がる。幸い、花月はまだ攻め上がる前だった為、すぐさまディフェンスを整えられた。

 

「(ああ、視える…)」

 

赤司の眼には視えていた。全て(・・)が…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「……えっ?」

 

誰かが呟いた。何が起こったのか、理解出来ていなかった。赤司が持っていたボールが、スリーポイントラインの外側、ウィングの位置に移動していた三村の手に渡っていた。

 

「っ!?」

 

大地は理解出来なかった。三村にはもちろん、気を配っていた。しかし、気が付けば三村の手にボールが渡っていたのだ。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

三村はすかさずスリーを放ち、決めた。

 

 

花月 91

洛山 86

 

 

『…』

 

静まり返る会場。

 

『――お』

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

1人が声を発すると、それに反応するように観客達が沸き上がった。

 

「なんやねん。何が起こったんや?」

 

怒った事が理解出来ない天野が頭を抱える。

 

「(さっきの動き、今のパス。まさか!?)」

 

一連の赤司の動き。空には今の動きにとある答えが頭に浮かんでいた。

 

「オフェンスだ。切り替えろ! まだ点差はあるんだ。慌てるな!」

 

ベンチから菅野が声を出す。

 

「神城!」

 

スローワーとなった松永が空にボールを渡す。

 

「…」

 

ゆっくりとボールを運ぶ空。フロントコートまでボールを進めると、赤司がやってきた。

 

「…」

 

「…っ」

 

目の前に立ち、赤司と対峙する空。空は、目の前の赤司の変化を直感で感じ取っていた。

 

「(さっきの動き、もし、俺の予想通りなら…!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

自身の予想を確かめるべく、空は赤司に対し、仕掛けた。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

高速のハンドリングで赤司を翻弄する空。しかし…。

 

『抜けないぞ…!』

 

これまでは抜きさる事が出来た空のドライブ。しかし、此度は抜く事が出来ない。

 

「…くそっ!」

 

ひとしきり仕掛けるが、赤司を抜く事が出来ず、空はマークを外して動いた大地にパスを出した。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「なに!?」

 

しかし、そのパスは四条にスティールされてしまった。

 

「(バカな!? 大地がマークをかわすのに合わせてパスを出した。赤司ならまだしも、どうして四条(こいつ)に!?)」

 

立て続けに起こる出来事に、空はもはや驚きを隠せないでいた。

 

「赤司!」

 

「よし、行くぞ!」

 

奪ったボールを赤司に渡し、洛山の選手達が攻め上がる。

 

 

――ピッ!!!

 

 

ここで洛山はお家芸である、高速のパス回しを始めた。

 

「ここでパス回しか!?」

 

突然のボール回しに驚く松永。

 

「(…けど、今、ナンバーコールがなかった…!)」

 

洛山のボール回しは赤司のナンバーコールから始まる。だが、今、赤司はナンバーコールをしなかった事に戸惑う生嶋。

 

 

――ピッ!!!

 

 

絶え間なく人とボールが動き回り、花月のディフェンスを乱していく。

 

「なんやねん。ここに来てパスのスピードが上がりよった!?」

 

激しく動き回るボールと人。そのスピードがこの試合で1番のものとなり、戸惑う天野。

 

「(スピードが上がっただけじゃない。このパスは今までと違う!)」

 

空はこのボール回しに別の何かを感じ取っていた。

 

「あっ!?」

 

ボールは、いつの間にかフリーになっていた四条に渡っていた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリーでボールを受けた四条はジャンプショットを決めた。

 

 

花月 91

洛山 88

 

 

『出た! 洛山のお家芸!』

 

「…そうか、そういう事か…!」

 

空は、今の洛山の動きの違和感に気付いた。

 

『…』

 

『っ!?』

 

ディフェンスに戻った洛山の選手達が花月の選手達に振り返る。次の瞬間、花月の選手達は気付いた。

 

 

――洛山の選手全員が、ゾーンに入っている事に…。

 

 

「まさか、赤司さんの味方をゾーンに入れるパス!?」

 

大地が思わず声を上げる。

 

「…ああ。だが、問題はそれだけじゃねえ。今のパス、そしてその前のディフェンス――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

続く花月のオフェンス。空は再び赤司を抜く事が出来ず、パスを出させられる。ボールを回している内に再びスティールされてしまう。

 

「行くぞ!」

 

赤司の号令と共にパスを出される。

 

「(くそっ! このパスはこれまでの決められたパターンで動くナンバープレーとは違う!)」

 

縦横無尽に高速で動き回るボールと人を見て空は確信する。

 

「(そうだ。これは今までのとは違う!)」

 

「(インターハイで花月(お前ら)との試合の最後に1度だけ出来た…!)」

 

「(あの後、どれだけ練習しても出来なかった…!)」

 

「(だが、今の俺達なら出来る!)」

 

洛山の選手達は、決められた動き、決められた人物にパスを出すのではなく、ただいて欲しい所にパスを出し、ボールが欲しい所に動いている。

 

「今の俺達なら出来る。長年、バスケを共にした俺達なら。ただ互いを信じ、一瞬の閃きを共有して出す究極のパス――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――閃きのパス(フラッシュ・パス)!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チームメイトを信じて出されるボール。洛山の選手達は一糸乱れる事無くボールを回し続ける。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

やがて、フリーの選手が作り出し、その選手が決めてしまう。

 

 

花月 91

洛山 90

 

 

『洛山が追い上げて来た!!!』

 

『…っ』

 

遂に1点差まで詰まり、花月の選手達は、焦りを隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「大ちゃん!」

 

「…っ」

 

口元を両手で抑える桃井。青峰は身体を乗り出して驚いていた。

 

「あれって、今年の夏に花月との試合の最後に見せたパスワークだよね?」

 

「…間違いねえ」

 

桃井の予測に青峰が断定する。

 

「って事は…!」

 

「ああ。赤司はゾーンのもう1つの扉を開きやがった」

 

椅子に座り直した青峰が苦笑する。

 

「各選手達が独自の閃きに応じて動いて高速でボールを回すパスワーク。こんなの…」

 

「止められる訳がねえ」

 

冷や汗を流しながら青峰が言った。

 

「しかも問題はそれだけじゃねえ。赤司の眼が変化した。明らかに目の前の相手以外の未来を視ているような動きをしていた。それを直結連動型(ダイレクトドライブ)ゾーンで共有してやがるからディフェンスでも隙がねえ」

 

「…っ」

 

「この試合はもう、赤司の…洛山の勝ちだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「おいナッシュ! ソラ達のチームが押され始めたぞ!?」

 

アメリカで試合の生放送を見ているニックが慌てる。

 

「なあ、あの白い方の4番の動き、あれは――」

 

「…ああ。あいつ、明らかにコート全体の未来を視ていた」

 

アレンの言葉にナッシュは神妙な顔で答えた。

 

「それに応じて洛山(白い方)のチーム全体の動きが変わった。もう、サル達の負けだ」

 

ナッシュがそう断言した。

 

「な、なあ、もうどうしようもないのか?」

 

縋る気持ちでアレンがナッシュに尋ねる。

 

「俺に聞いても仕方ねえだろ。もうどうしようもねえよ。点は取れねえ、相手は止めらねえ。もう、詰み(チェックメイト)だ」

 

「マジかよ…、良いところまで行ったのによう」

 

ニックが頭を抱えた。

 

「……だがまあ、サル達がこの状況をひっくり返せる可能性があるとすれば――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――あのサルが、あの眼(・・・)を使いこなせれば、あるかもしれないな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





久しぶりに文字数1万文字を超えました…(^_^)v

今年も残すところ1ヶ月ちょっと。無事、駆け抜けたい…(-_-)zzz

しかし、日本戦は今年1番、テンション上がりましたわ…(;^ω^)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!
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