黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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第19Q~プライド~

 

両校ベンチに引き揚げていく。

 

『…』

 

帝光ベンチ、楽勝ムードに包まれていた第2Q終了時とは対照的で、今は誰1人口を開こうとはしない。

 

「…」

 

それは、監督である真田も同様で、ベンチに座り、ただ目を瞑っている。

 

「…」

 

池永はベンチに座り、タオルを頭にかけながら俯いていた。

 

「(こんなことが…こんなことが…!)」

 

池永の胸中はひどく荒れ、混乱していた。そして思い出す昨年の苦い記憶。

 

彼はキセキの世代に憧れて帝光中学への入学を決意した。当時、1年生でありながら超強豪校のスタメンの座を勝ち取り、試合で相手を圧倒しているキセキの世代に憧れて…。

 

念願が叶い、帝光中学の進学が決まり、バスケ部へ入部する。

 

残念ながら、入部当初のテストで1軍に入ることは出来ず、しばらくは2軍で過ごすこととなったが、努力が実り、2年に進級する直前の昇格テストで1軍に昇格した。

 

池永は嬉々として憧れであったキセキの世代の中でも特に尊敬していた青峰大輝に1ON1の誘いに向かったのだが…。

 

『あぁ? お前なんかと勝負しても時間の無駄にしかなんねぇんだよ。他あたれ』

 

学校の屋上で昼寝をしていた青峰には鬱陶しげに断られた。

 

仕方なく黄瀬涼太に同様の誘いをかけるが…。

 

『あ~…悪いスけど、他あたってくんないスかね』

 

同じく断られてしまった。

 

ならば、先輩達が勝負をしてくれるくらいに強くなろうと一層バスケにうちこんだ。強くなれば、先輩達が自分と勝負してくれるだろうと信じて。そして、実力を示す絶好の機会がついにやってくる。

 

それは、キセキの世代にとっての最後の全中大会。その1ヶ月程前に行われた……。

 

 

――帝光中バスケ部、3年生と1・2年生との試合…。

 

 

これは帝光中バスケ部の恒例行事であり、来年を担う下級生達に檄を入れる意味合いも含まれている。

 

この行事には普段練習を休みがちな青峰と紫原と黄瀬も参加している。

 

※ キセキの世代は試合に勝てばあらゆるものを不問とされているのだが、この恒例行事も試合と見なされているため、渋々であるが3人も参加している。

 

試合方式は前後半8分の試合。

 

3年生チームのスタメンは当然、キセキの世代の5人。1・2年生チームは現帝光の5人。

 

 

――この試合で実力を示せればキセキの世代の5人は自分を認めてくれる。1ON1の誘いにも快く引き受けてくれる。

 

 

池永は嬉々としてこの試合に臨んだ。だが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

試合終了を告げるブザーが体育館中に響き渡る。

 

『…』

 

茫然と立ち尽くす、あるいは膝を付いているのは1・2年生チーム。

 

 

帝光3年生 83

帝光下級生  0

 

 

始めから勝てるとは思っていなかった。差を付けられるだろうとも予想していた。結果は一矢も報いられず、僅かな傷痕すらも付けることも出来ず、惨敗に終わった。

 

『何ていうか…、拍子抜けッスね』

 

黄瀬が苦笑いをし…。

 

『話しにならないのだよ』

 

緑間が落胆のこもった顔をし…。

 

『ちっ! わざわざ赤司に言われたから仕方なく来てみれば…手ぇ抜いてこの有り様かよ』

 

青峰が苛立った顔をし…。

 

『その程度の実力で頑張ればどうにかなると思ってんの? もうバスケ辞めたら~?』

 

紫原が蔑んだ顔で言い放ち…。

 

『…来年、お前達が帝光中のバスケ部を担うことになる。このザマでは先が思いやられる。帝光中の名に傷を付けるような真似だけはするな』

 

赤司が見下ろすように言い放った。

 

『あ…あ…』

 

その、侮蔑、落胆、失望がこもったその瞳。池永にとって、トラウマに近いものとなってしまった。

 

それ以後、池永は弱さを憎むようになった。弱者は何も成すことが出来ず、踏みにじられる。代が変わって彼らが帝光中の主力となり、対戦相手を罵倒したり露骨にバカにするようになったのも、かつて自分が味わったトラウマによるもの…。

 

 

「―永、池永!」

 

「えっ?」

 

池永はここで正気に戻る。

 

「ボーっとすんなよ。第4Q、もうすぐ始まるぞ」

 

「あ、あぁ…」

 

水内に声をかけられ、タオルを取って立ち上がる池永。

 

「(負けられねぇ! もう、あんな屈辱を味わうのは嫌だ! 絶対に…!)」

 

心中で池永は自分を鼓舞する。

 

結局、何も対策も作戦も決まることなくインターバルを終えてしまった。

 

コート上に向おうとする帝光の5人。

 

「皆、待ってくれ」

 

『?』

 

それを止める新海。

 

「集まってくれ、頼む」

 

新海が真剣な面持ちで他の4人を呼び止める。それを見てか、4人は新海の傍までやってくる。

 

「…この試合、このままでは負ける。それはもう皆分かっているだろう?」

 

『…』

 

他の4人は反論することはなく沈黙する。

 

「ここで俺達は選ばなくてはならない。つまらないプライドにこだわって勝利を逃すか……、勝利の為にプライドを捨てるか…」

 

『…』

 

「認めよう。星南は強い。そして、あの5番と6番、神城と綾瀬は俺達の誰よりも強い。資質だけなら、先輩達にも匹敵するほどに…」

 

『…』

 

「けど…俺は負けたくない。スカウトだとか帝光中の為だとかはもうどうでもいい。俺はあいつらに負けたくないんだ!」

 

新海は自身の心情を吐露していく。

 

「頼む。理由は何だっていい。帝光中の為でも、自分の為でも構わない。この試合に勝つために、協力してほしい。頼む!」

 

新海は4人に頭を下げる。この、真摯に頼み込む新海の姿を目の当たりにした4人の答えは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             ※ ※ ※

 

 

星南ベンチ…。

 

第3Q終了目前で逆転に成功し、勢いも流れも星南にある今、ベンチの和やかであった。

 

「特に指示することはない。逆転はした。じゃが、相手は帝光じゃ。間違っても油断などすんなや。ここから先は気持ちの勝負じゃ! 気持ちが強い方が勝つ! 行ってこい、ガキ共!!!」

 

『はい!!!』

 

龍川の檄に元気よく答える星南選手達。

 

「皆、せっかくだから円陣を組もう」

 

キャプテンである田仲の提案で5人が円を描くように集まる。

「神城、綾瀬」

 

「ん?」

 

「なんでしょう?」

 

呼ばれた2人が返事をする。

 

「ありがとな」

 

「「?」」

 

「お前らがいなかったら、俺達は帝光とこうやって対等に戦うことはできなかった」

 

「そもそも、全中大会にこれたかどうか疑問だよな」

 

「ほんとほんと」

 

森崎と駒込が続くように言う。

 

「だから言わせてほしい。たった数ヶ月の間だけど、お前らとバスケができて良かった。お前らとバスケが出来た事は一生の自慢と誇りなると思う。だから…、ありがとう」

 

田仲は心からのお礼を2人に捧げる。

 

「…俺達も感謝してるんだぜ?」

 

「えっ?」

 

「3年に進級したあの日。お前がバスケ部に誘ってくれなかったらこうして試合に出ることはなかった。あの時、キセキの世代のいない全中に興味はないって言ったけど、やっぱ、試合をすんのは楽しいし、何より、皆で力を合わせて勝つのはもっと楽しい」

 

「こうして、皆でこの舞台に立てた事、私は一生忘れません。今、この瞬間のこの気持ちと思いを、私は絶対忘れません」

 

空と大地も3人に心からのお礼を捧げた。

 

「泣いても笑っても後8分だ。だったら勝って…笑って終わらせようぜ! 礼は、改めてその時に聞かせてもらうし、言わせてもらうよ」

「…そうだな。まだ試合は終わってない。この試合に勝って、中学最後のバスケを最高のものにしよう。……、よし、それじゃあ……」

 

田仲が大きく息を吸う。

 

「星南ーっ! ファイ!!!」

 

『おーっ!!!』

 

星南の選手達は勝利を誓い、コート上に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             ※ ※ ※

 

 

コート上で対峙する両校。

 

最終Q、この試合の勝敗が決まる。両選手共気合は充分に溢れている。

 

雌雄を決する最後の8分間が始まろうとしている。

試合は星南ボールで再開される。

 

「っ!?」

 

空が思わず目を見開く。帝光のディフェンスが変化する。

 

『こ、これは…!』

 

『ゾーンディフェンスだ!』

 

帝光のディフェンスがハーフコートマンツーからゾーンディフェンスに切り替わる。それも、星南と同じ2-3ゾーンに…。

 

「お前も、綾瀬も。今の帝光中に止められる奴はいない。だから、お前達は5人で止めさせてもらう」

 

帝光中は空と大地を1人で止めることを諦め、ゾーンを用いてチームで止めにかかる。

 

「いいね。止められるものなら止めてみろ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

クロスオーバーで新海の横を抜け、インサイドへ一気に切り込む。

 

「うおっ!」

 

そこへ、帝光の選手達が一斉に囲みだす。

 

「(これはしんどい…)」

 

さすがの空もこの包囲網には驚きを隠せない。ここは無理をせず、ゴール下で待ち受ける田仲にパスをする。そこへ、すかさず包囲網が敷かれる。

 

「うわ!?」

 

その包囲網に田仲は慌てだす。

 

「まずい! 外に出せ!」

 

森崎から指示が飛ぶが、田仲に周りを見渡す余裕はない。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

ついには、ボールは弾かれ、奪われてしまう。

 

「速攻!」

 

ボールを拾った河野が前線へ大きくロングパスを出す。既に新海が走っており、ボールを受け取った新海がワンマン速攻を始める。

 

「くそっ!」

 

空が慌ててディフェンスに戻る。空のスピードは凄まじく、距離があったにも関わらず、新海に追いつく。新海がレイアップの体勢に入る。

 

「させっか!」

 

空がブロックに飛ぶ。だが、それと同時に新海が後方にボールをパスをする。

 

「あっ!?」

 

ボールはその後ろを走っていた池永に渡る。池永は追いついてミドルシュートの体勢に入る…が、途中で止め、真横へボールを捌く。

 

「っ!?」

 

池永のすぐ後ろを、大地がブロックに飛んでいた。

 

「だろうと思ったよ」

 

もしシュートを放っていれば確実にブロックされていただろう。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールを受け取った水内がミドルシュートを決め、更に帝光に得点が加算される。

 

 

星南 59

帝光 59

 

 

「これが本当のゾーンディフェンスだ」

 

池永が大地に指を差し、不敵に笑いながらディフェンスに戻っていく。

 

「まさか、奴等がゾーンディフェンスとはな…」

 

「これには、驚きましたね」

 

空も大地も驚きを隠せなかった。

 

これはとどのつまり、帝光は1対1で空と大地を止めることを諦めたことを意味する。いわば、1対1では空と大地に勝てないと認めたようなものである。

 

星南のリスタート、空がボールを運ぶ。

 

帝光は再び2-3ゾーンディフェンスを組む。

 

「…」

 

空がチャンスを窺いながらゲームメイクを開始する。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空が一気にゾーンに切り込む。帝光は空の包囲に入る。

 

 

――スッ…。

 

 

空は完全に囲まれる直前に外へとボールを捌く。

 

森崎がボールを受け取る。だが…。

 

「っ!?」

 

ヘルプでやってきた池永がフェイスガードでディフェンスをしたため、森崎は何も出来なくなる。

 

 

――ポン…。

 

 

「あっ!」

 

ボールはスティールされ、池永がワンマン速攻を始める。

 

「行かせねぇよ」

 

空と大地が猛スピードで戻り、池永の速攻を止める。

 

「…」

 

池永は無理をせず、新海にボールを戻した。

 

「?」

 

空はさっきまでとは様子が違う帝光に気付く。

 

空と大地が速攻を止めた隙に星南は全員がディフェンスに戻る。

 

「…」

 

新海は落ち着いてゲームメイクを始める。

 

星南は変わらず2-3ゾーンディフェンス。

 

4秒ほど機会を窺っていると、新海が動き出す。

 

 

――ピッ!!!

 

 

新海が矢のようなパスを出す。それと同時に帝光の他の4人も動き出す。

 

河野がハイポストへと向かい、その横を水内が駆け抜け、そこで水内がボールを受け取る。新海もパスを出したのと同時に動き出し、池永も連動して動き出す。

 

そこから、帝光選手達は目まぐるしくポジションを入れ替え、ボールも絶えず動いていく。

 

『っ!?』

 

先程までの個人技主体から一転、高速のパスを捌き出し始めたことにより、星南選手達は混乱する。

 

ボールも人も絶えず動き回っている為、星南選手達は徐々にボールを見失いつつある。

 

24秒のタイマーが残りの2秒になったところで…。

 

「よっしゃ!」

 

左サイドの3Pライン外側に移動していた沼津にボールが渡る。

 

「あっ!」

 

星南選手が思わず声を上げる。

 

絶えずボールと人が動き回ったことにより、星南の2-3ゾーンが崩され、ついにはフリーの選手を作ってしまった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ノーマークの沼津が悠々とスリーを決める。

 

『お…』

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

帝光のパス回しからの得点。ゾーンディフェンスを崩すための見事な連携。観客を騒がすには充分であった。

 

これには空も大地も冷や汗を流す。

 

 

星南 59

帝光 62

 

第4Q、再び帝光中が逆転する。

 

「いつまでもその程度のゾーンが通じると思うな」

 

新海がディフェンス戻り際に空にボソリと囁く。

 

「おもしれぇ!」

 

挑発とも取れるその言葉に空はテンションを上げる。

 

 

「さっきのゾーンディフェンスといい、今のパス回しといい、苦し紛れの付け焼刃…という感じはしないな」

 

「ええ。おそらくこれが、今年の帝光中の真の姿なのでしょう」

 

ゾーンディフェンスはオフェンス側にとってもっとも攻めにくいディフェンスである。だが、チームの連携が悪ければ上手く機能しない。さらに、相手のゾーンディフェンスを破るための連携ならば尚の事だ。

 

個人技主体の愚直に1ON1を仕掛けるスタイルは去年のキセキの世代に憧れて彼らが始めたスタイルであり、本来の彼らのスタイルは高速のパスワークによるラン&ガン。去年、キセキの世代に惨敗するまではこのスタイルであった。

 

空も大地も、今の帝光中の方がしっくりきていると感じている。

 

「どうするか…」

 

田仲が心配な面持ちで空と大地の下へやってくる。

 

「悲観することはねぇよ。ここにきてこれを出してきたってことは、こっちがそれだけ奴等を追いつめてる証拠だ」

 

「ですね。今までの彼らの言動と行動を鑑みるに、今の戦い方は本来ならやりたくはないのでしょうし」

 

空と大地はそんな田仲の心配を払拭させるべく声をかける。

 

「任せろ。あんなゾーン、俺達でぶち抜いてやる」

 

「心配いりませんよ。練習通り、やれば問題ありません」

 

「…ああ! 頼りにしてるぜ!」

 

田仲の心配事はなくなり、笑顔を浮かべながら定位置に向かっていく。

 

「…とはいえ、プライドを捨てたエリート程、怖いものはないんだけどな」

 

空は田仲がいなくなった後にそんなことをポツリと言う。

 

「…その割には、随分楽しそうですね?」

 

「あ、分かる? …やっぱ、中学最後の試合は、こうでなければ面白くねぇ!」

 

「ふふっ、同感ですね」

 

空と大地は共に笑い出す。

 

「勝つぞ、絶対に」

 

「ええ!」

 

空と大地はコツンと拳を合わせる。

 

そして、試合はこれまで以上に激化していくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

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