黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

193 / 228

投稿します!

花粉症ヤベー…(ノД`)・゜・。

それではどうぞ!



第192Q~才能対資質~

 

 

 

海常対陽泉…。

 

試合は40分では勝敗が付かず、延長戦へと突入した。

 

両校共に、キセキの世代をマークしていたキーマン、三枝とアンリが体力の限界によりベンチへと下がった。

 

既に1試合分の戦い終えた両校だが、残る力を振り絞り、準決勝進出への椅子を賭け、ぶつかるのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――おぉぉぉぉー--っ!!!

 

 

盛大に沸き上がる会場…。

 

「…っ!」

 

ボールをキープするのは黄瀬。わき目を振らず、リングへと突き進む。

 

「…っ!」

 

待ち受けるのは紫原。両腕を広げ、黄瀬に相対する。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

高速で左右に切り返しながら揺さぶりをかける黄瀬。対して紫原はそのムーブに翻弄される事無く、ピタリと付いていく。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

ここで黄瀬がボールを掴み、ステップバックで下がって距離を作り、ボールを頭上にリフトさせる。

 

「っ!? ちぃっ!」

 

これを見て紫原もすぐさま距離を詰める。

 

「おぉっ!」

 

しかし黄瀬はシュートを中断。左方向へと高速で横っ飛びをし、ボールをリング目掛けて放り投げる。

 

「…っ、この!」

 

これに反応した紫原が僅かに遅れて同方向に飛んで追いかけ、手を伸ばすが…。

 

 

――バス!!!

 

 

紙一重でブロックが間に合わず、ボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

『うぉぉぉぉーーーーっ!!! 青峰のフォームレスシュート!?』

 

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

代わって陽泉のオフェンス。インサイドでボールを受けた紫原に、黄瀬が背中に張り付くようにディフェンスに入る。ボールを受けたのと同時に紫原はポストアップでじりじりとゴール下へと押し進んでいく。

 

「…ぐっ!」

 

背中越しから、黄瀬に驚異的な圧力が襲う。腰を落とし、歯を食い縛り、紫原のポストアップに立ち向かうも、そのパワーに少しずつ押されていく。

 

 

――スッ…。

 

 

ゴール下まで侵入した紫原がボールを掴んでリングに向かって飛ぶ。

 

「…っ!」

 

これを見て黄瀬がブロックに飛ぶが…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「ぐっ!」

 

ブロックもお構いなしに黄瀬を吹き飛ばしながらボールをリングに叩きつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は、キセキの世代である黄瀬と紫原のぶつかり合いとなった。

 

「紫原っち!!!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ボールを掴んで飛んだ黄瀬がブロックに飛んだ紫原を空中でロールしながらかわし、ボールをリングに叩きつける。

 

 

「黄瀬ちん!!!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

持ち前の高さと腕の長さを生かし、ボールを頭の後ろまで持って行き、その状態から両腕で掴んだボールをリングに勢いよく振り下ろし、黄瀬の上からボースハンドダンクを叩き込んだ。

 

黄瀬はパーフェクトコピーによる、キセキの世代のコピーを用い、スピードと多彩な技で得点を重ね、紫原は持ち前のパワーと高さで得点を重ねていった。試合は一進一退。どちらも退かず、互角のせめぎ合いを演じていた。

 

 

「…っ、どっちも、スゲー…!」

 

観客席で2人の激突を見守っていた花月の選手達。激しくぶつかり合う両者を見て、菅野が思わず引き攣った表情で呟いた。

 

「正直、あの2人が本気のぶつかり合いをしたら、黄瀬に分があると思ったが…」

 

夏に両方と試合をし、対戦経験のある松永。空と大地が2人がかりでも結局、止める事が出来なかったゾーン状態でのパーフェクトコピー。その経験から当初は黄瀬優勢と予想していた。

 

「キセキの世代の技をコピー出来る黄瀬の才能も凄まじい。トータルでは黄瀬の方が上かもしれん。だが、ことインサイドでは、資質で大きく上回る紫原にはその黄瀬でも太刀打ち出来ん」

 

上杉が2人の激突に対して感想を述べる。

 

「ただでさえ、バリエーションが豊富な黄瀬のパーフェクトコピー、しかもゾーン状態だ。紫原を以てしても止めきれねえ。対して、紫原のパワーはあの堀田さんとすら肉薄した程だ。あの身長と高さじゃ、ディナイも意味ねえから黄瀬でも止めきれねえ」

 

「互いの矛が互いの盾を貫いている状況ですね」

 

空と大地。互いに拮抗している状況を示唆する。

 

「まさに、才能(最強)資質(最強)のぶつかり合い。三枝とアンリがコートから去った以上、半端な援護は寧ろ、足を引っ張りかねん。勝敗は、あの2人に委ねられた」

 

腕を組みながら上杉が解説。

 

「監督は、どうなると思います?」

 

天野が尋ねる。

 

「こればかりは終わって見るまで分からん。まさに、神のみぞ知る、だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…やはり、こうなってしまったわね」

 

コートのすぐ傍で次の試合に備える誠凛の選手達。同様に試合を見守っていたリコが口を開く。

 

「「…っ」」

 

黄瀬と紫原。2人の後輩である新海と池永。2人の激突を目の当たりにし、ただただ圧倒され、言葉を失っている。

 

「…火神君。今の2人、君なら止められますか?」

 

黒子が横に立つ火神に尋ねる。

 

「たりめえだろ! って、言いてえが、正直、自信ねえな」

 

苦笑しながら返事をする火神。

 

「…夏に花月はあの2人に勝ってるんだよな?」

 

「ついさっき、夏に負けた洛山にリベンジを果たしたし…」

 

「とんでもないな…」

 

降旗、福田、河原が、夏にこの2校に勝った花月の事を思い出し、その凄さを改めて実感していた。

 

「…今日勝ったら、次に待ち受けるのはあの2人のどっちかか…」

 

朝日奈が確定している事実を口にする。

 

「(…ゴクリ)」

 

田仲は、試合を見ながら固唾を飲んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…リョータ、…アツシ…!」

 

灰崎が2人の名を呟く。

 

『…っ』

 

誠凛とは別の場所で試合を観戦していた鳳舞の選手達。その全ての選手達が、ぶつかる2人に圧倒されていた。

 

「うんうん。凄い選手だ。日本のバスケの未来は明るいねえ」

 

監督の織田だけが、にこやかに2人の戦いを見守っていた。

 

「…ざけんな。勝つのは俺だ。調子に乗んじゃねえぞ…!」

 

2人に…半ば、自分に言い聞かせるように灰崎は呟いたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

互いに退く事無くぶつかる2人。

 

『どっちも、退かねえ…!』

 

『何だよこれ…』

 

『2人共、高校生のレベルじゃねえ…!』

 

『大学…社会人…いや、もしかしたら、プロのレベルすら超えてるんじゃないか!?』

 

結果が見えない2人のぶつかり合い。他と隔絶する程の実力を持つ2人のぶつかり合い。その2人の激突に、当初は白熱しながら観戦していた観客だったが、徐々にその熱が下がっていった。決して冷めた訳ではない。ただただ2人の迫力に圧倒されているのだ。

 

 

「(とんでもない身体能力ッス。マジで手が付けられないッスよ!)」

 

「(あーもう、バリエーション多すぎてマジウザ過ぎ!)」

 

互いに自身を上回る能力に対し畏怖を感じる2人。

 

「(けど…!)」

 

「(けど…!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「勝つのは、俺ッス(俺だ)!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

 

その後も、2人のぶつかり合いはどちらも退かず、試合は、そのまま終盤まで進んで行った。

 

 

延長戦残り18秒。

 

 

海常 86

陽泉 86

 

 

延長戦も残り時間僅か。海常ボール。

 

「ハァ…ハァ…!」

 

「ハァ…ハァ…!」

 

延長戦開始から死闘を繰り広げて来た黄瀬と紫原の表情には疲労が色濃く滲み出ていた。

 

 

「(パーフェクトコピーとゾーンの合わせ技でプレーしている黄瀬、リミッターを外してゾーン状態…、そもそも、自分のパワーに抗える奴と40分やり合って体力を削られてた紫原。どっちも限界寸前だな)」

 

2人の様子を見て、双方、限界は目前である事に気付く青峰。

 

「ハァ…ハァ…!」

 

ボールを運ぶ小牧。試合開始から出場し続けている小牧の表情も疲労の色が強い。

 

『ハァ…ハァ…!』

 

小牧だけではなく、延長戦から試合に出場した、小平と立花以外も疲弊していた。プレー時間は既に1試合分を超えているので、当然である。

 

「おぉっ!」

 

「っ!?」

 

そんな中、ボールを運ぶ小牧に対し、永野が残り少ない体力を振り絞り、激しく当たるようなディフェンスをする。

 

「(くっ!? 何てプレッシャー…! まだこんなに動けるのか!?)」

 

ボールを止められ、必死にボールをキープする小牧。延長戦も終盤に入っても尚、ここまで動ける永野に驚きを隠せなかった。

 

「(この大会が最後なんだ。もう次はない。絶対に勝って、優勝するんだ!!!)」

 

胸中で絶叫する永野。永野とて、限界寸前。高校最後の大会であるウィンターカップを制する為、その執念が身体を動かしていた。

 

「…くっ!」

 

「ぜぇ…ぜぇ…!」

 

必死にボールを死守する小牧とがむしゃらにボールを狙う永野。

 

 

――バチィン!!!

 

 

「あっ!?」

 

永野の執念が実り、小牧が死守するボールを、永野の指先が捉え、ボールが零れる。

 

「っ!? ルーズボール、抑えろ!!!」

 

ベンチから立ち上がった武内が思わず声を張り上げる。

 

「ナイスカット、キャプテン!」

 

転がるボールに1番近くにいた渡辺が駆け寄る。ボールに手を伸ばしたその時!

 

「させるかぁぁぁぁっ!!!」

 

 

――バチィッ!!!

 

 

渡辺がボールを拾おとした直前、ボールに手を伸ばしながら飛び込んだ氏原が先にボールを弾いた。

 

「最後なのはお前達だけじゃねえんだよ!!!」

 

再び零れるボールは。ボールは…。

 

 

『黄瀬にボールが渡った!!!』

 

転々としたボールを黄瀬が拾った。

 

『海常、命拾いだ!』

 

辛うじてターンオーバーを防ぎ、観客が溜息を吐く。

 

「…いや、拾ってねえ」

 

だが、青峰は険しい表情でコートを見つめていた。

 

 

「…っ」

 

何とかボールを掴んだ黄瀬だったが、その位置はローポスト。背中に紫原を背負う形となってしまった。

 

 

「…最悪だな。あのポジションじゃ、紫原が有利だ」

 

火神がポツリと言う。

 

これまで、黄瀬は紫原と向かい合う(・・・・・)形で1ON1を仕掛けていた。その為、黄瀬の能力を十全に生かす事が出来た為、紫原から点を取れていた。しかし、ローポストで紫原と背負い込む(・・・・・)形での1ON1となると、身体能力に分がある紫原が有利。

 

「まずい! もうすぐ24秒だ! 急げ!」

 

海常ベンチからオーバータイムを知らせる声が出る。

 

「(仕切り直す時間はない。イチかバチか、行くしかない!)」

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

意を決した黄瀬は紫原に背中をぶつけながらドリブルを始めた。

 

「…っ!」

 

激しくぶつかる黄瀬。しかし、紫原の身体は微動だにしない。

 

 

『うわー! やっぱりビクともしない!?』

 

押し込む事が出来ない黄瀬を見て頭を抱える観客。

 

 

「(…俺のパワーじゃ、紫原っちを押し込めない。だったら、これならどうッスか!?)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

黄瀬が再びボールを突き、紫原に背中をぶつける。

 

「っ!?」

 

その時、紫原の身体が僅かにグラついた。

 

「(今だ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

これを機と見た黄瀬はスピンムーブで一気に紫原の背後へと抜け、ゴール下へと侵入すると、すかさずボールを掴み、リングに向かって飛ぶ。

 

 

『っ!? あれは!?』

 

『紫原の新型のトールハンマー!?』

 

観客が思わず声を上げる。

 

 

ボールを右手で掴んだ黄瀬は回転しながら飛び上がる。これは今日、紫原が見せた、ゴール下までポストアップで押し込めなかった時を想定したトールハンマーの改良型だった。

 

「…っ! ざけんな! やらせるかよ!!!」

 

すぐさま振り返った紫原はブロックに飛び、黄瀬とリングの間に割り込んだ。

 

 

『あの体勢からもう追いついた!?』

 

これに観客がさらに声を上げる。

 

 

「(相変わらず、信じれない反射速度っスね。…けど、負けられないんスよ。俺は海常として、いろんなものを背負ってるんスから…!)」

 

黄瀬の脳裏に、かつての先輩達の顔を呼び起こされる。全国の頂点を目指し、死に物狂いで練習し、それでも辿り着けずなかった先輩達の無念。そして、託された想い。

 

「(勝つんだ!!! チームの優勝の為に!!! 託してくれた先輩達に報いる為に!!!)…おぉぉぉぉー--っ!!!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「っ!?」

 

咆哮と共に振り下ろされた右手は、紫原のブロックを吹き飛ばし、リングにボールを叩きつけた。

 

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

ダンクが決まるのと同時に、観客の一部が興奮のあまり立ち上がりながら大歓声を上げた。

 

 

海常 88

陽泉 86

 

 

「凄い…、あのムッ君を…!」

 

両手で口を覆いながら驚く桃井。

 

「あの体勢から追いついちまう紫原もさすがだが、あの不十分な体勢じゃ、止めるのは無理だったみてーだな」

 

苦笑しながら青峰。

 

 

「ディフェンス!!! 絶対止めるッスよ!!!」

 

『おう!!!』

 

陽泉のオフェンス。黄瀬が檄を飛ばし、選手達が応える。

 

残り時間僅か。ここを止めれば海常の勝利。逆に決められれば再延長、3点なら逆転負けである。

 

「…っ」

 

「…っ!」

 

外からの1発逆転がある木下を氏原が徹底マーク。

 

「紫原に絶対ボールを持たせるな!!!」

 

武内がベンチから指示を出す。この指示を受け、徹底して紫原へのパスコースを塞ぐ。

 

「残念だが、紫原にボールを届ける事は、陽泉(うち)にとっては造作もない」

 

そう荒木が呟くと、ボールを運んでいた永野が逆サイドに高めにボールを放った。

 

「よし!」

 

そこへ駆け込んだのは渡辺。渡辺がジャンプしながらボールを両手で掴む。

 

「頼みます!」

 

ボールを掴んだ渡辺は空中で掴んだボールをそのまま中へ入れた。

 

 

『あっ!?』

 

観客が声を上げる。

 

 

ボールはローポストに立つ紫原に。渡辺のパスに、紫原はジャンプしてボールをキャッチし、着地した。

 

『っ!?』

 

最悪の位置で紫原にボールを掴まれ、海常の選手達の表情が曇る。

 

渡辺に対し、高いパスを出し、そのパスをジャンプで掴んだ渡辺が空中でローポストに立つ紫原に再び高いパスを出し、紫原がそのパスを空中で掴む。2mを超える渡辺を使い、空中で経由する事でパスカットのリスクを削ぎ、確実に紫原にローポストでボールを掴ませる為に用意した陽泉のパスワーク。

 

 

「ムッ君にボールが渡った! …けど、あの位置じゃ、きーちゃんがファールでもしない限り、同点止まりじゃ…」

 

「同じゾーン状態でも、パーフェクトコピーと併用してる黄瀬の方が消耗は遙かに激しい。再延長に持ち込めば、陽泉の勝ちだ」

 

桃井の疑問に、青峰が答える。

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

「…っ!」

 

ポストアップで押し込み始めた紫原。圧倒的な衝撃が黄瀬に伝わる。

 

「黄瀬! 後もう少しだ、踏ん張れ!」

 

延長戦の終了時間が刻一刻と迫る中、武内が黄瀬に檄を飛ばす。

 

「分かって…るッスよ…!」

 

最後の力を振り絞り、重心を深く落とし、ゴール下への侵入を食い止める黄瀬。

 

「黄瀬ちん…! けど無駄だよ。ここで俺にボールを掴ませた時点で、もう終わりなんだよ!!!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ここで、紫原が高速のスピンムーブで黄瀬の背後に抜け、ゴール下まで躍り出る。

 

 

『出た!!!』

 

観客が思わず声を上げる。

 

 

紫原がスピンムーブを行うのと同時にボールを掴み、そこから回転しながらリングに向かって飛んだ。

 

 

『新型のトールハンマー!!!』

 

この試合、紫原が幾度と見せた、ローポストからのポストアップで体勢を崩させ、直後にスピンムーブでゴール下に侵入し、その勢いも利用した改良型のトールハンマー。三枝も黄瀬も1度も止めきれていない必殺のダンク。

 

「…っ!」

 

黄瀬は青峰のコピーですぐさまゴール下まで戻ると、すぐさまブロックに飛び、紫原とリングの間に割り込んだ。

 

 

『スゲー!!! あの状態から追いついた!?』

 

『けど…!』

 

「パワーじゃ、紫原の方が上だ」

 

無情にも青峰が告げる。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

紫原が振り下ろしたボールを掴んだ右手と、ダンクに割り込み、ブロックの為に伸ばした右手がぶつかる。

 

「おぉぉぉぉー--っ!!!」

 

「おぉぉぉぉー--っ!!!」

 

両者が咆哮を上げながら空中でせめぎ合う。

 

「(もう悔しい思いをするのは充分だ! 絶対に勝つ!!!)」

 

振り下ろした右手に渾身の力を込める紫原。

 

中学時代からキセキの世代と呼ばれ、称されるも、漠然とバスケをしてきた紫原。バスケなど、紫原からしたら欠陥スポーツだと蔑み、ただ才能に恵まれ、向いていたから続けてきた。そう思っていた。高校1年の冬に、自身にとって、初めて、試合での敗北を喫する事で、負ける悔しさと共に、自分がバスケを好きであった事を知った。2年目の夏に、自身を上回る逸材と戦い、個人で負ける悔しさを知った。その後も、頂点には立てず、高校、最後のウィンターカップ。これを逃せば、もう、次はない。最後の大会で頂点を掴むため、今日まで努力を重ねて来た。

 

「行ケ! アツシ!!!」

 

『決めろぉぉぉぉっ!!!』

 

ベンチのアンリ、そして、選手達、監督の荒木も、紫原に声援を贈る。

 

「(このまま押し切る! これを決めて、再延長でトドメを――)――っ!?」

 

 

――バチィッ!!!

 

 

その時、紫原の右手からボールが零れる。

 

『っ!?』

 

これに、コート上の選手達、及びベンチの選手達、監督、観客、全ての者が驚愕に染まった。

 

 

――ガン!!!

 

 

零れたボールがリングにぶつかる。ボールがリングの上で1度跳ねた後、ボールは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――リングの外側へと、落ちていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビ―――――――――――!!!』

 

 

同時に延長戦終了のブザーが鳴った。

 

 

試合終了

 

 

海常 88

陽泉 86

 

 

そして、45分間にも渡る、長い長い激闘の決着が、付けられた。

 

『海常が勝った!!!』

 

『準決勝に駒を進めたのは、海常だ!!!』

 

試合終了のブザーが鳴り、決着が付くのと同時にコート上を大歓声が包み込んだ。

 

「キャプテン!!!」

 

「黄瀬!!!」

 

勝利の立役者である黄瀬に、コート上の選手達、ベンチの選手達が一斉に駆け寄った。

 

「うおぉぉぉぉー--っ!!!」

 

力を使い果たした三枝は、ベンチに座りながら、両手を天に突き上げ、歓喜した。

 

「さすがじゃ黄瀬! 他の選手達も、よくやった!!!」

 

武内も、試合を決めた黄瀬と、勝利の為に死に物狂いで励んだ選手達を激励した。

 

 

「…」

 

「くそっ! …くそっ…!」

 

「…っ」

 

永野は敗北を噛みしめながらきつく目を瞑り、木下は床を叩きながら悔しさをぶつけ、渡辺は、床に突っ伏しながら涙を流していた。

 

「アァァァァァァァァーーーッ!!!」

 

ベンチのアンリは、天を仰ぎながら号泣した。

 

「…っ」

 

監督の荒木も、無念とばかりに、右手で顔を覆った。

 

「…っ!」

 

紫原は、身体を震わせながら下を向き、拳をきつく握りしめたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「海常が勝ったか…」

 

試合が終わり、観客席の空がポツリと呟く。

 

「まさか、あの土壇場で黄瀬のパワーが紫原を上回るなんてな」

 

直前のダンクと最後のブロック。それを見た松永がそう感想を漏らす。

 

「……松永さん」

 

「…ん?」

 

コートを見つめながら何かを考えていた大地が松永に話しかける。

 

「今年の夏の3回戦に試合をした、鳳舞高校の鳴海さんを覚えていますか?」

 

「? …もちろん覚えているが、それがどうし――っ!? そうか、そういう事か…!」

 

大地の言葉に、松永をとある事を思い出した。

 

「どないしてん?」

 

「海常が逆転した黄瀬さんの最後のダンク。その直前のポストアップで、パワーで上回る紫原さんがなんでバランスを崩したか、分かったんです」

 

「…それは俺も驚いたが、何やカラクリがあったんか?」

 

松永の言葉に興味を持った天野が尋ねる。

 

「鳳舞のセンター、鳴海さんが俺とのマッチアップの時に使った技を使ったんですよ」

 

自身の経験を思い出しながら松永が説明していく。

 

インターハイの3回戦で花月が戦った鳳舞高校。そのセンターを務めていた鳴海大介。松永とマッチアップした際、鳴海はポストアップで背中をぶつけるのと同時に相手の懐に深く入り込み、背中で相手の上体を無理やり上げさせ、棒立ちにさせる事で体勢を崩し、力を出し切れないようにした。黄瀬はこれをコピーし、紫原の体勢を崩し、グラつかせたのだ。

 

「…そうか、だから紫原は直前にバランス崩してグラついたんやな。…やけど、その後のブロックはなんでなんや? 青峰のコピーで体勢こそ崩さんかったみたいやけど、それでもパワーなら紫原の方が上やろ?」

 

松永の説明に納得はしたが、今度はその後のブロックに疑問を持った。最後の攻防は小細工無しのパワー勝負。ならば、紫原に分があるはずである。

 

「さすがにそれは…」

 

答えが出ず、苦笑する松永。

 

「火事場のクソ力とか、主将を背負った事の責任感って奴が黄瀬に力を貸したのか?」

 

思い付く理由を菅野が口にしていく。

 

「…」

 

各々が理由の予想を口にしていく中、1人、大地は顎に手を当てながら考え込む。

 

「(……もしかして――)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「88対86で、海常高校の勝ち。礼!」

 

『ありがとうございました!!!』

 

センターサークル内に整列した両チームの選手達が礼をする。各選手達が、各々握手を交わし、一言二言、言葉を交わしていく。

 

「ハァ…。延長戦はこれで2度目ッスけど、ホント、もう勘弁ッスよ」

 

軽口を叩きながら黄瀬が、紫原の下に歩み寄る。

 

「……ホント、今日程、黄瀬ちんの事、嫌になった日はないよ」

 

不機嫌になりながら後ろ髪を止めていたヘアゴムを外す紫原。

 

「最後の俺の奴。まさか、模倣(・・)されたんじゃなくて、盗まれた(・・・・)とは、思わなかったよ」

 

愚痴るように言う紫原。

 

最後の新型のトールハンマー。本来であれば、ブロックに来た黄瀬を吹き飛ばしながら決められるはずだった。そうなるのが当然であった。だが、紫原は技を仕掛けた後、奇妙な感覚に襲われた。歯車が合わない、何かが噛み合わないちぐはぐな感覚に。直後には気付かなかったが、すぐに答えに辿り着いた。黄瀬は、自分の新型のトールハンマーを、模倣したのではなく、盗んだのだと。

 

盗む…。それは、かつて帝光中時代に、黄瀬が入部する以前にスタメンに名を連ねていた、同学年の灰崎祥吾の得意としていたものである。黄瀬同様、その目で見た相手の技を真似る。ここまでは一緒だが、違うのはその際、リズムやテンポだけを我流に変えてしまい、それを見せられた選手は、無意識に自分本来のリズムを見失ってしまい、その技を使えなくなってしまう。その為、最後の紫原の新型のトールハンマーは、力が上手く入りきらず、パワーの劣るはずの黄瀬にブロックされてしまったのだ。

 

「たまたまッスよ。イチかバチか、紫原っちの技をコピーしてはみたんスけど、ぶっつけ本番だったせいか正確にコピー出来なくて、偶然、リズムとテンポだけがコピー出来なかったんスよ」

 

肩を竦めながら説明する黄瀬。

 

「ホント、運が良かったッス。もし、完璧にコピー(・・・・・・)出来てたら、最後のダンクは止められなかった。そうなれば、負けてたのは俺達だったッスね」

 

苦笑しながら説明する黄瀬。

 

これは謙遜でも何でもなく、事実であった。今日、始めて見た紫原の新型のトールハンマー。如何にキセキの世代随一の才能を持つ黄瀬であっても、練習無しで完璧にコピーする事は出来なかったのだ。その結果、偶然にも灰崎祥吾の強奪と同等の効果をもたらす事となったのだ。

 

「……あっそ。どっちにしても、負けた事には変わりないから、どうでもいいし」

 

半ば拗ねた紫原は、踵を返してベンチへと戻っていった。

 

「強かったッスよ、紫原っち。また何処かでやるッスよ」

 

紫原の背中に向かって告げる黄瀬。紫原は一瞬、歩みを止めると…。

 

「…運よく、俺とミドちんには勝ったみたいだけど、それが最後まで続けばいいねー」

 

皮肉とも声援とも取れる言葉を残し、紫原は再び歩き始めたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「よく頑張った。立派だったぞ」

 

ベンチに戻ってきた紫原に、荒木がそう声を掛けた。

 

「…ハァ? 負けたんだけど?」

 

嫌味のような言葉を返す紫原。

 

「それでもだ。今日、勝てなかったのは私の責任だ。…お前は、最高の試合をした」

 

そう言って、紫原の頭にタオルを被せた。

 

「…っ」

 

同時に、紫原の身体が震え始めた。

 

「……ごめん。勝てなかった」

 

声を震わせながら紫原がそう言葉を紡いだ。

 

「私にはまだ次がある。だから気にするな。今日と…そして、陽泉(うち)に来てから今日まで、お前がしてきた経験が、きっとこの先、お前を助けてくれるはずだ。…3年間、ごくろうだったな」

 

肩に手を置いてそう言葉をかけると、荒木は他の選手達の下へと向かって行った。

 

「ちくしょう…! ちくしょう…!」

 

人目をはばからず、紫原は涙を流したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「海常が勝ったね」

 

「…ああ」

 

観客席の桃井が呟くと、青峰が返事をする。

 

「それにしても、まさかきーちゃんが灰崎君の技をコピーするなんて…」

 

「まあ、たまたまだろ。黄瀬と灰崎の関係を考えりゃ、コピー出来てもおいそれと使いたくはねえだろうが、今の黄瀬だったら、勝つ為にコピーする事は躊躇わねえはずだ。最後の最後まで使わなかった事を考えれば、今はまだコピー出来ねえって事だ」

 

青峰も最後のやり取りの真意に予測が付いており、桃井の感想にそう返した。

 

「…次は、誠凛対鳳舞。勝った方が明日の海常対戦相手だね」

 

コート上では、誠凛と鳳舞の選手達が試合に備えて準備を始めていた。

 

「…まあ、誠凛が無難に勝つだろ。火神と灰崎、戦力を比べてみても、誠凛の方が上だろうからな」

 

興味が次の試合へと移った2人。青峰は当初の予想通り、誠凛勝利の予想を推した。

 

「やっぱり?」

 

「ああ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――余程の事がなけりゃ、な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

海常対陽泉の激闘。

 

延長戦の末、海常が陽泉を降した。

 

次に始まるのは、ベスト4の最後の椅子をかけた誠凛対鳳舞の試合。

 

キセキならざるキセキを擁する火神を擁する誠凛と、元キセキの世代の灰崎を擁する鳳舞との試合が、始まる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





1年でもっとも嫌いな2月下旬からマックス5月頭までの花粉症シーズン。年々飛散量が増えているせいか、薬飲んでも発症する時があるからマジでしんどい…(>_<)

そのくせ、薬の副作用はしっかりあるから目の痒み、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、眠気、ガチに場所関係なくその場で眠りたくなる時があります…(;^ω^)

あー克服したい…((+_+))

と言う事で、思ったより長くなった海常対陽泉戦はこのように決着を付けました。納得の有無はあるかと思いますが、お手柔らかに…(;^ω^)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。