――キュッキュッ!!!
場所は東京都に位置する誠凛高校の体育館。
彼らは今、すぐ先に控えるウィンターカップの予選に向けて、厳しい練習に臨んでいる。
――ピピーーーーーーッ!!!
「そこまで! 5分休憩よ! 皆、水分しっかり取るのよ!」
誠凛高校の監督である相田リコが笛を吹き、指示を出す。
「あ゛ー! やっと休憩だー」
「みずみず~」
まだ残暑も残る季節。滝のような汗を流しながら水道へと向かっていった。
「…」
水分補給を終えた黒子テツヤが、座って身体を休めながら持ってきていた雑誌に目を通していた。
「黒子。何読んでんだ?」
同じく水分補給を終えた誠凛高校の主将である日向が黒子の後ろから尋ねる。
「キャプテン…今週発売された月バスです。これに気になることが載っていまして」
「んーどれどれ…」
日向が後ろから覗きこむように雑誌の記事に目を通す。
「…うぉっ! これ、マジかよ」
そこに載っていた1つの記事に日向は驚愕する。
「ん? どうかしたか?」
それに気付いた他の者達も黒子の周囲に集まってくる。
「これ見てみろよ」
日向が雑誌を周りの者達に見せる。
「なになに……えっ!? 帝光負けたの!?」
雑誌を受け取った小金井が書かれていた記事に日向同様驚く。
そこには、最近行われた全中大会の特集が記載されていた。
『王者陥落』
それがその記事の見出しである。
「…いつかは起きることなんだろうけど、もうか…」
伊月が神妙な面持ちで言う。
「キセキの世代が抜けたとはいえ……黒子、今年の帝光中はどうなんだ?」
「強いです。スタメンに関しては、高校でもたいていの強豪校ならスタメン、あるいはシックスマンの座を掴める実力を持っています」
黒子は自身の分析したことを告げていく。
「…それにしても、星南中学校の名前を聞くのは初めてだな」
「今年が初出場だと、これには書いてあります」
「初出場で初優勝…すげぇーな」
これには全員が感心していた。
「…でもさ、過去3年間は帝光中の圧勝だったから、何かスカッとするよな!」
小金井がケラケラと笑いながら言う。
「おい、コガ」
「ん? あっ! …悪い、黒子…」
伊月が小金井を制し、自分の失言に気付いた小金井が黒子に謝罪する。
「いえ、僕はもう卒業した身ですので気にしていません。それに…」
黒子がそこで言葉を止め、雑誌に視線を移す。
「(帝光中は良くも悪くも、彼らのせいで変わってしまった。今回の敗北で、帝光中はきっと変わって…いえ、戻ってくれるはずです。彼らと笑いあっていたあの頃のように…)」
黒子は、そうなってくれるよう、心の中で願った。
「おっ? 盛り上がっているな。俺もまぜてくれよ」
そこに、木吉鉄平がやってくる。
「木吉。月バス見てみろよ。すげーぞ」
小金井が木吉に月バスを渡す。
「どれどれ…へぇー、帝光、負けたのか」
木吉はその記事に目を通していくと、驚き半分、複雑半分の表情をした。
過去に大敗をした木吉からすると、その内容は少々複雑であった。
「過去3年間、帝光の独占状態だったベスト5も、今年選ばれたのはたった1人か」
キセキの世代が現れてからはベスト5は彼らが常に受賞していた。
「…おっ? 松永の奴、ベスト5に選ばれてるじゃないか」
その中の1人に木吉が気付く。
「知り合いか?」
その反応を聞いて日向が尋ねる。
「ああ。中学の時の後輩さ。1年でスタメンに選ばれていたからよく覚えているよ」
「照栄中も全国クラスのチームだよな。そこで1年からスタメンってのも凄いな」
伊月が素直に驚く。
「俺のことを『鉄心』なんて呼ぶ奴もいるが、それはあいつこそが呼ばれるに相応しい名前さ。…キセキの世代相手に俺も、俺以外の奴も諦めかけて、絶望しかけたが、あいつだけが顔を上げて、前を向いて、諦めなかった。あいつはすごい奴だ」
「へぇー」
「MVP、得点王、共に星南中だな。今年3年なのに聞かない名前だな」
伊月が読み上げていく。
「月バスもべた褒めだな。それぞれに特集組まれてるぜ」
次ページに2人が1ページずつプロフィールとインタビュー内容、全中の成績などが記載されていた。
「来年、こいつらも高校に来るんだよな」
「うおっ! もしこいつらがキセキの世代のいる高校に進学したら…」
小金井がその悪い予感を言葉にする。
「それは多分ないかと思います」
その予感を黒子がバッサリ切り捨てる。黒子がそっとインタビューの内容を指差す。
Q、今後の目標は?
A、打倒、キセキの世代!
それは、両者がそう答えていた。
「となると、もしかしたら誠凛(うち)に来る可能性もあるってことだよな? そうなったら助かるな~」
「俺としては、ポイントガードの彼が来たら、出番がなくなるだろうからそうなったら少し複雑だな」
希望を語る小金井に対し、少々複雑な表情をする伊月。
「…」
黒子は、それは無いと、直感していた。彼らは来年、自分達の敵となると、何故かそう確信していた。
「はいはい! もう休憩時間は過ぎてるわよ。お喋りはそこまで!」
監督である相田リコが手を叩きながらやってくる。
「来年の事を気にしてる余裕はないわよ! もうすぐウィンターカップの予選よ。決して楽な道程ではないのよ? もっと集中して練習に臨みなさい」
緊張感が薄まっていた誠凛に、相田リコが檄を入れる。
「…そうだな。よーし! 3ON3、始めるぞ! 気合入れていくぞ!」
『おう!!!』
日向の言葉に誠凛全員が気合を入れなおす。それぞれが3ON3の為に散っていく。
「ん?」
置かれた雑誌に火神が視線を送る。そこには、先程のMVPと得点王の受賞者のページ。そこの顔写真。
「(こいつら確か……黄瀬と青峰の試合を見に行った時にすれ違ったあの2人。…なら、あの時感じた直感ももしかしたら…)」
「おらぁっ! 火神! ぼさっとしてんじゃねぇ!」
「すいません、今行きます!」
火神も遅れて練習に参加していった……。
※ ※ ※
月日は流れ、季節は春先、3月…。
星南中学校の卒業式が粛々と行われていた。
「神城先輩! 一緒に写真撮ってください!」
「綾瀬! 最後に写真撮ろうぜ!」
空と大地を大勢の在校生、卒業生達が囲んでいる。
バスケ部が全中を制し、胸を張って凱旋すると、それはそれは盛大にバスケ部を出迎えた。
星南中学始まって以来の快挙。それも、バスケで成し遂げてことにより、学校を越えて街全体がお祭り騒ぎとなった。
雑誌の切り抜きや、号外まで地域に配られ、バスケ部…その中でも空と大地は街の有名人となり、一時期は街を歩けば指を差される程に。
季節が変わる頃にはそれも落ち着いたが、卒業式になると、最後の思い出にと、皆が2人を囲む。
2人はそれに戸惑いながらも1人1人それに応えていく。全ての者に対応が終えた頃には2時間以上の時間が過ぎていた。
「はぁー、ようやく解放された…」
「これなら、試合の方が遥かに楽ですね」
空と大地が冷や汗を流しながら笑いあった。
2人は校舎の方を振り返る…。
「あっという間の3年間でしたね」
「…ああ。最後の1年はメチャメチャ楽しかったけどな」
2人は憂いの表情を浮かべながら星南中学での思い出を思い浮かべる。
1年時、2年時は特に振り返る程の思い出はないが、3年時には決して忘れられない思い出が満載である。
チームメイトとの猛練習…。
試合での激闘…。
そして優勝…。
これは一生涯忘れることはない思い出になるだろう。
「…」
「…」
しばらく思い出に浸ると…。
「さて…それじゃ、最後に、寄って行こうか?」
「そうですね」
2人はあるところへと歩き出した。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
――キュッキュッ!!!
星南中学の体育館。そこでは外にも漏れる程にバッシュのスキール音が鳴り響く。
「おらぁっ! もっとキビキビ動かんかい!!! 亀かおのれらは!!!」
それに合わせて龍川の怒声が轟く。
「監督、チース!」
「こんにちわ」
空と大地は龍川に話しかける。
「ん? 何やお前ら、こっちは忙しいんじゃ。卒業したなら部外者じゃ、早よ去ね去ね」
龍川は虫でも払うかのように手をヒラヒラさせる。
「んなこと言わないで下さいよ。可愛い教え子でしょう」
「ほざけボケ。ド突くぞ」
そんなやり取りを交わす。
「ほんで? お前ら揃って何しに来たんや?」
「最後の挨拶にと思いまして」
「そんなんいらんいらん。こっちに気にかけてる暇があるなら自分達の心配せぇ」
あくまでも冷たい対応で追い払おうとする龍川。
「取りつく島もねぇな…なら、仕方ねぇな」
2人は諦めたのか、体育館から出ていこうとする。その体育館から出る直前に…。
「「龍川監督ー!」」
2人が声を揃えて監督に叫ぶと、龍川が振り返る。
「「ありがとうございましたー!!!」」
2人は頭を下げ、声を精一杯張り上げながら感謝の言葉を述べた。
感動の一面……になるはずなのだが…。
「やかましいわぁっ!!! はよ消ぇぃっ!!!」
持っていた竹刀を2人に投げつけた。
「挨拶ぐらいさせてくれよぉっ!」
「し、失礼致します!」
2人は大急ぎで立ち去っていった。
「ったく、最後まで面倒かけよって…」
龍川は投げた竹刀を拾いにいく。
「あっ、監督」
そこにちょうど挨拶に来た田仲、森崎、駒込がやってきた。
「どいつもこいつもがん首揃えよって、何じゃ?」
「いえ、まあ、挨拶に寄ったのですが…あれ、どうしたんですか?」
田仲が指差す方向に、ダッシュで逃げ去る空と大地の姿が。
「ピーピーやかましいから追い払っただけじゃ」
「あ、相変わらずですね…」
田仲は冷や汗を流しながら言う。
「あいつら、今年、キセキの世代と戦うんですよね」
「2人ならやってくれそうだよな?」
「俺もやれると思うな」
共に戦ったチームメイトである3人はそれを確信する。
「…いや、それはどうかのう」
「えっ?」
「あの2人は未完の大器。まだまだ伸びるじゃろう。じゃが、それはキセキの世代にも言えることじゃ」
「「「…」」」
3人は龍川の言葉に無言で耳を傾ける。
「ウィンターカップの事はお前らも知っとるじゃろう? 優勝したのはキセキの世代のおる高校ではなく、また、別の高校じゃ。それはつまり、奴等が負けたことを意味する」
ゴクリと3人は息を飲む。
「1度の敗北は100度勝利するより遥かに人を成長させよる。敗北を知った奴等は更に高みに昇るじゃろう。まだ、扉に辿り着いた程度のあの2人じゃ、2人がかりでも手も足も出んじゃろう」
「そんな…」
無名の中学を全国優勝…それも、絶対的王者を破っての優勝の原動力になった2人を目の当たりしている3人には到底信じられないことであった。
「じゃが…」
「「「?」」」
「ええ指導者、ええ環境、ええチームメイトに恵まれれば可能性はゼロではないかもしれんのう。ワシも、短い期間であいつらに最低限の仕込みはしておいた。後は……奴等次第じゃ」
龍川は逃げ去っていく2人に笑みを浮かべながら見届けながら言った。
「まあ、楽しみにするかのう。今年、キセキが順当に勝つか。キセキならざるキセキが再び勝つか。…次世代のキセキが勝つか…のう」
その言葉は、一陣の風に流されていくのだった……。
※ ※ ※
季節は春…。
桜舞い散る季節…。
空と大地は新たな制服に身を包み、新たな学び舎の前に立っていた。
「始まるな」
「ええ」
高校に進学した2人。その胸は期待とワクワクで張り裂けそうであった。
「俺達の夢が…目標がやっと叶う時が来たんだ。やろうぜ!」
空が拳を突きだす。
「もちろんです。キセキの世代と、そして、彼らを破った新たなキセキを倒し、あの時の誓いを果たしましょう!」
大地が同じく拳を突き出し……。
――コツン…。
そっと拳を合わせるのだった……。
※ ※ ※
在校生達が様々な部活の勧誘を行っている。
その中の1つ、バスケ部のブースに2枚の入部届が出される。
1年A組 神城空
1年C組 綾瀬大地
氏名、組、出身中学の記入欄に加え、目標と書かれた記入欄がある。そこには2人共同じくこう書かれていた――。
――キセキの世代とそれを破った誠凛を倒し、日本一になると……。
キセキ達の激闘の影で起こった1つのキセキと2人のキセキ…。
2人の新たな戦いの舞台が始まったのだった……。
~ 第1部 全中大会編 完 ~
以上が、過去に別サイトにて掲載していたものです。ここから先は現在執筆中ですので、なるべく早く書き上げ、投稿できたらと思います。
オリキャラも多数出ることになるので、ご了承を…。
それではまた!