黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

1年で最も嫌いな、花粉シーズンが到来…(>_<)

それではどうぞ!



~達人~

 

 

 

第2Q終了

 

 

花月 36

奇跡 45

 

 

第2Q、試合の半分が終了し、両チームの選手達がベンチへと戻っていく。

 

試合は選手交代をきっかけに、チームミラクルが逆転、一時、点差を二桁にまで伸ばした。

 

コート入りをした空の弟である陸。

 

素質は見せたものの、発展途上である為、緑間に完全に抑え込まれてしまうも、第2Q終了目前に、緑間からボールをカットし、直後、三杉のパスからアリウープを慣行、ブロックに来た火神を吹き飛ばしながら成功させたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

チームミラクルベンチ…。

 

『…』

 

ベンチに座る選手達。逆転し、点差は9点を保っているが、表情は釈然としないものであった。理由は最後のアリウープだ。

 

「火神君、大丈夫ですか?」

 

派手に吹き飛ばされた火神を気遣う黒子。

 

「ん? ああ、問題ねえよ」

 

負傷するには至らなかった事をアピールする火神。

 

「火神弱すぎだし」

 

そんな火神を非難する紫原。

 

「うるせーよ。…ってか、スゲーパワーだったぜ、あいつ。あれでまだ中坊かよ。信じらんねえぜ」

 

自ら味わった陸のパワーに驚く火神。

 

「(…確かに、彼のフィジカルの数値は中学生とは思えない程だけど、いくら助走の勢いがあったとは言え、火神君をあんな吹き飛ばし方が出来る程とは思えないのよね)」

 

顎に手を当てながら思案するリコ。

 

「(…ひょっとして、さっきのが、彼の能力の一端?)」

 

リコはそう結論付けた。

 

「最後の最後に派手なモンかましてくれやがったな。だがまあ、最後に1本やられたが、展開自体は悪くねえ」

 

選手達の前に立った景虎。

 

「メンバーチェンジは無しだ。第3Qは今のままのメンバーで行く」

 

交代はしない事を告げた。

 

カゲツ(向こう)はどう来るかしら?」

 

「向こうも現状維持……と行きたい所だろうが、1人、代えて来るだろうよ」

 

リコの問いに、景虎はチームカゲツベンチに視線を向けながら返したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

チームカゲツベンチ…。

 

「ハーハッハッハッ! スカッとしたぜ!」

 

直前まで不機嫌だった陸だったが、最後にアリウープを決め、気分は上々であった。

 

「調子に乗るなガキィ」

 

そんな陸の前に、ガンを飛ばすように視線を合わせる龍川。

 

「下手くその貴様のせいで笑ってられる点差ちゃうんじゃ。黙って息整えんかい。しばくぞ」

 

「……うす」

 

鋭い眼光に圧倒され、大人しくした陸。

 

「ハァ…ハァ…!」

 

コートから戻ってきた選手達が次々とベンチに座っていく中、最後にベンチへと戻ってきた天野。

 

「…っ」

 

ベンチ目前で、天野は糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

 

「天さん!?」

 

これに気付いた空が咄嗟にベンチを飛び出し、駆け寄る。

 

「っと」

 

そんな天野を、空よりも早く、上杉が受け止めた。

 

「…っ、すんまへん、もう少し、頑張りたかったんやけど、これ以上は、迷惑かける事しか、出来そうにありませんわ」

 

皮肉気味に苦笑する天野。

 

「ここまでよくやった。後は任せろ」

 

「…おおきに」

 

ニコリする天野を、上杉はそっとベンチに座らせた。

 

「えっ? えっ? もしかして、怪我したとか?」

 

状況が分からず、戸惑う陸。

 

「スタミナ切れさ」

 

横に座る三杉が答える。

 

「ここまで天野は、スタミナ度外視で、常にアクセル全開でやって来た。ここまでもっただけでも大したものさ」

 

「ハハッ、それでも、大して活躍出来へんかったけど」

 

相手は5人全て、自身より格上の相手。余力を残そうなどと、僅かでも考えればたちまち抜かれてしまう。その為、天野は常に集中全開、全力で試合に臨んでいたのだ。

 

「天野先輩の代わりに誰を投入しますか?」

 

姫川が上杉に尋ねる。

 

「綾瀬、行けるな?」

 

「はい、もちろんです」

 

指名された大地はユニフォームの上に着ていたシャツを脱ぎ、準備を始めた。

 

「となると問題は、天野先輩が抜けた事で出来るインサイドの穴ですね」

 

姫川が顎に手を当てながら思案する。

 

天野が抜ける事で生じる問題はインサイド、特にリバウンドだ。相手が赤司を下げ、火神を投入してインサイドを強化している今、大地では高さとパワーのミスマッチが生まれてしまう事が予想出来る。

 

「うむ」

 

この指摘を受け、上杉が顎に手を当てる。

 

「心配はいらんですわ」

 

その時、龍川が足を進め…。

 

「こいつにやらせますわ」

 

そう言って、陸の頭に手を乗せた。

 

「……はっ!? 俺!?」

 

指名された陸はポカンとした後、目を見開いた。

 

「何で俺が!? 代わったの大地さんなんだから大地さんがやればいいじゃん!」

 

「ええからやれ」

 

「さっきの俺の活躍見たろ!? 今の俺なら誰が相手でもやれるって!」

 

「…やれ言うとるやろ」

 

「嫌だって。こっからが俺の本領発揮――」

 

 

「――ええからやれ言うとるやろこのクソガキがぁっ!!!」

 

 

遂に堪忍袋の緒が切れた龍川が怒鳴り上げた。

 

「誰が相手でもやれる? たった1本決めたくらいで調子乗っとんちゃうぞガキ」

 

「…っ」

 

怒髪天の龍川のあまりのド迫力で委縮する陸。

 

「今のワレじゃ、オフェンスとディフェンスの両方で話にならんのじゃ。それはワレ自身がよー理解しちょるやろ」

 

「…」

 

言い返そうとしたが、言われていると事が事実である為、やめた。

 

「ええか? ワシが中坊の間、禁じとったあれ(・・)を解禁させたんは、これ以上、足引っ張らせん為じゃ」

 

「…」

 

「ワレは去年、チームを全中優勝に導いた。間違いなくワレの功績や。それは認めたる。やけどな、この試合は、ワレ1人で試合をどうこう出来るようなレベルちゃうんじゃ」

 

「…」

 

「今はまだ、ワレの力じゃどうにもならん。ワレが出来る事、チームの為に全力でやりぃ。必要なもんはとうに教えとる」

 

「…」

 

「そうすれば、この試合、勝てる。ええな?」

 

「……うす」

 

陸は頷いたのだった。

 

「つう事で、ここは1つ頼んます」

 

「…良いだろう。お前がそこまで言うなら、ひとまず陸に任せるとしよう」

 

上杉は、龍川の提案に乗っかる事に決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

「…」

 

「なにしょぼくれてんだよ」

 

下を向く陸に、空が声を掛ける。

 

「…」

 

返事をしない陸。

 

「お前は充分スゲーよ。俺や大地が、お前と同じくらいの時期に、この試合のコートに立ったとしても、何も出来なかっただろうよ」

 

「…だせーな」

 

「うるせーよ。あの時の俺は、燻ってて、相手が誰でも負ける気がしねーて、自惚れてたな。今のお前みたいに」

 

「……うるせーよ」

 

「全中優勝して、三杉さんに出会って、花月高校に入って、キセキの世代にズタボロにされて、インターハイ優勝して、冬に負けた。俺1人じゃ、どうにもならねえ事を思い知ったよ」

 

「…」

 

「お前は恵まれてんだよ。中学入ってすぐに龍川さんにしごかれて、負けも優勝も経験して、この試合のコートに立てて。俺が高校に入って学んだ事、経験した事を今の内に味わってんだからよ」

 

「…よく分からねえ」

 

「今はそれで良いよ。この試合が終わる頃にはまあ、少しは分かる事だろうからよ」

 

そう言い、空は陸の肩に手を乗せる。

 

「任せたぞ。こっからは、お守されるんじゃない、お前がチームを支えんだ。縁の下でな」

 

「…」

 

「ま、出来ねえなら、俺が代わりにやるだけだけどな」

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、ハーフタイム終了のブザーが鳴った。

 

「…ハッ! チビな兄貴には無理に決まってんだろ。ずっとベンチでも温めてな」

 

ニヤリと笑い、陸は立ち上がった。

 

「見てろよ。俺がその気になれば何でも出来るって所を見せてやるぜ!」

 

拳を握りながら天に向かって叫び…。

 

「っしゃ行くぞ!!!」

 

チームカゲツの先頭に立ち、意気揚々とコートへと向かって行った。

 

「騒がしいやっちゃな」

 

「天さん、お疲れ様です」

 

そこへ、天野がやってきて、空の横に座った。

 

「…率直に、あの坊主はやれそうなんか?」

 

「さて、どうでしょう」

 

この答えに、天野はガクッとなる。

 

「何やねんそれ。タケさんにしても三枝にしても、そない余裕がある訳やないんやで?」

 

現状、インサイドはカゲツが制圧していたが、決して余裕がある訳ではなく、天野が欠いた今、均衡が崩れれば、さらにリードを広げる可能性を出て来る。

 

「ただあいつは、頭ん中でごちゃごちゃ考えたり、縮こまって小さく纏まるより、頭空っぽにしてテンション全開でやらせた方が良いんですよ。ああなったあいつは、面白いですよ」

 

ニヤリとする空。

 

「…要するに、空坊と同じって事やな」

 

フっと笑みを浮かべ、天野はコートに視線を向けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

『待ってました!!!』

 

ハーフタイムが終わり、選手達がコートに戻って来ると、観客達が大歓声で出迎えた。

 

 

OUT 天野

 

IN  大地

 

 

チームミラクルは選手交代はなく、チームカゲツ天野が下がり、代わりに大地がコート入りをした。

 

 

「天野が下がりましたね」

 

「まあ、ヘロヘロやったからな。これ以上は無理やろ」

 

若松の指摘に、天野の異変に気付いていた今吉翔一が頷く。

 

「で、代わりに入るのは綾瀬か」

 

「赤司が戻らないなら、ある程度、インサイドでやり合えて、外もある綾瀬の方が適任だろう」

 

大地が入った事を指摘する森山。笠松も妥当だと頷く。

 

「けどさあ、あの10番。代えなくて良いの? 確かに最後に1本、派手に決めたけどさ。それ以外はボロボロだったじゃん」

 

コートに残る陸を見て、小金井が陸を指差す。

 

「良いんじゃないかな」

 

そんな指摘に、木吉が口を挟む。

 

「確かにここまでやられ続きだったけど、それでも、あの緑間の動きに対応は出来ていた。何より、最後に火神を吹き飛ばしたあのプレー」

 

先程のプレーを思い出す元誠凛の面々。

 

「抜いた抜かれたならまぐれや偶然の入り込む余地があるかもしれないが、フィジカルのぶつかり合いに偶然も何もない」

 

「…あっ」

 

思わず頷く小金井。

 

「素質だけなら、キセキの世代や他の者達と遜色ない。見た所、メンタルも相当に強いようだし、ここから何かやってくれそうな期待感はありそうだと俺は思うよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

審判からボールを受け取った緑間が黄瀬にパスを出し、チームミラクルから試合が再開される。

 

「緑間っち!」

 

ゆっくりボールを運んだ黄瀬は緑間にパスを出した。

 

 

「ま、狙って来るよな。…さ、どうするよ」

 

ベンチの空がニヤリとする。

 

 

「(早速来やがった! さて、どうすっか!)」

 

緑間をマークする陸が身構える。

 

「(この眼鏡、教科書通りのプレーだけど、とにかく無駄がねえし、駆け引きも上手ぇ。…けど、スピードは、前にやり合った青峰(ガングロ)やそれこそ、兄貴比べればそこまででもねえ)」

 

動きそのものには付いて行けている。だが、引き出しの多さ、何より、キャリアのミスマッチのせいで常に後手、劣勢に立たされているのが現状。

 

「(これまでまともにディフェンスしてたから歯が立たなかった。…だったら、これならどうよ!)」

 

何かを思い付いた陸が行動に移す。

 

 

『…はっ?』

 

『おいおいおい、何考えてんだよ!』

 

その行動に、観客達が疑問の声を上げる。

 

「ハハッ! そう来たかよ」

 

これを見て空は笑い声を上げた。

 

 

――陸が、後ろに下がり、緑間との距離を空けたのだ。

 

 

「…何のつもりなのだよ」

 

陸の行動に、緑間は戸惑いと憤り、疑問等、あらゆるものが入り混じる。

 

相手がスラッシャーであれば距離を空け、シューターであれば距離を詰める。ディフェンスでは、相手や状況に応じて距離を変える事はままある。緑間はシューター。近年ではスリー以外のプレーもこなすようになったが、それは変わらず、この試合でもスリーを決めている。一見すれば、この選択はただの自殺行為。

 

「へへっ!」

 

ニヤリとする陸。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

「…」

 

「玲央姉、どしたの?」

 

何やら渋い表情をする実渕に声を掛ける葉山。

 

「…あの坊や、神城空ちゃんの弟なのよね? ちょっと、嫌な事思い出しちゃって」

 

「嫌な事? ……あー」

 

この言葉に葉山も思い出した。

 

かつて、インターハイ決勝で花月と試合をした際、途中で実渕とマッチアップをした空が、今の陸と同じように距離を空けてディフェンスをし、結果止められたのだ。

 

「あいつも同じ事しようとしてるって事?」

 

「分からないわ。正直、空ちゃん程のスピードも瞬発力もないあの坊やに出来ると思えないけど…」

 

そう言い切る実渕だったが、それでも何か起こりそうな予感のようなものを感じ取った。

 

 

「緑間の奴、攻めあぐねてるな」

 

第2Qまでとは違い、攻めあぐねている様相を感じ取る福井。

 

「緑間君は青峰君のようにスピードでちぎるようなタイプではないですからね。あれだけ距離を空けられると、ドライブは仕掛け辛い」

 

「じゃが、あれなら外は打ち放題じゃ。緑間なら躊躇う必要はないじゃろう?」

 

氷室の解説に口を挟む岡村。

 

「確かにそうなんですが、緑間君…と言うか、シューターからすると、スリーを誘われているように見えますから、安易にスリーを選択も出来ない」

 

未だ、先程のスティール余韻が残る緑間。完全に実力を計れたと思い込んだ矢先の事だったのもあり、安直な選択は出来ない。

 

「なるほどアル」

 

「緑間からすれば、選択肢を狭まれたようなものか。となると、ここは1度引くか?」

 

福井が尋ねる。

 

「(いや、それも弱気過ぎる。いずれにしても、何処かで勝負はしなければならない。もし俺だったら、ここは――)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

「…」

 

「…」

 

小刻みにステップを踏み、ボールを動かす緑間と、対峙する陸。

 

「(勝負を避ける? そんなのあり得ないのだよ。お前が何を備えているか、ここで確かめる!)」

 

意を決した緑間がスリーの体勢に入る。

 

 

『動いた!』

 

 

シュート体勢に入る緑間。

 

「っ!?」

 

しかし、頭上にボールを掲げようとしたボールに、陸の手がすぐ傍まで迫っていた。

 

「(…っ、また距離を一瞬で…!)…だが、予測はしていたのだよ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

緑間はスリーを中断。ドリブルに切り替え、陸の手をかわした。

 

「(スピードは青峰レベルを想定していた。おかげで対応出来た。このまま――)」

 

「緑間っち、後ろ!」

 

その時、黄瀬が大声を上げた。

 

「なっ!?」

 

ここで緑間の目が大きく見開かれる。

 

「(バックチップ!? 速過ぎる!?)」

 

既に二撃目が来ていたのだ。あまりに速過ぎる二撃目に緑間も驚きを隠せなかった。

 

「これなら、どうよ!?」

 

緑間のキープするボールを狙い打つ陸。

 

「くっ…!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

だが、緑間はこの二撃目を紙一重でボールを切り返してかわした。

 

「はぁっ!? これもかわすのかよ!?」

 

いけると考えていた陸は思わず声を上げてしまう。

 

 

「あたりめーだろ。それくらい出来なきゃ、キセキの世代とか呼ばれてねえよ。…だが、上出来だ」

 

ほくそ笑む空。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

再び緑間の目が見開かれる。

 

「意表を突かれた後の咄嗟の動きは読みやすい。しかも、そんな状況では、周囲に気を配る余裕もありません。おかげで、私でも簡単にボールを奪えます」

 

ボールを奪ったのは大地。緑間がボールを切り返した直後を狙い撃ったのだ。さすがの緑間も、知覚の範囲外からの第三者によるスティールには対応出来なかった。

 

「速攻!」

 

ボールを奪った大地がそのままワンマン速攻を仕掛ける。

 

「ちっ!」

 

舌打ちをしながら青峰がディフェンスに戻る。

 

「行かせないッスよ!」

 

先頭を駆ける大地。司令塔だった為、チームミラクルで誰よりもバックコートに近かった黄瀬が大地に迫る。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

スリーポイントラインを越えた所で、大地が急停止と同時にバックステップをし、スリーポイントラインの外まで下がった。

 

「うそっ!?」

 

急ブレーキからの高速バックステップによって、黄瀬は止まり切れず、大地を追い越してしまう。

 

ボールを掴んだ大地はそのままスリーの体勢に入る。

 

「させるか!!!」

 

そこへ、背後から火神がブロックに飛んで来た。

 

 

――ピッ!

 

 

「ええ、来ると思ってましたよ」

 

大地はスリーを打たず、ボールを横へと流した。

 

「ナイスパス」

 

そのパスを受け取ったのは三杉。

 

「させねえよ」

 

すぐさま青峰がディフェンスに入る。

 

「速いな」

 

呟きと共に三杉がフェイクを織り交ぜながら仕掛ける。

 

「(右か、左か…止めだ。どうせ読めねえんだ、本能で食らい付くだけだ!)」

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

「(左から仕掛け――いやちげー!?)」

 

自身の左から仕掛けると見た青峰だったが、これはフェイク。本命は、右手によるスリー。

 

「クソが! 舐めんじゃねえ!」

 

 

――チッ…。

 

 

「…っ、リバウンド!」

 

三杉の眉が微かに動く。後追いの青峰だったが、僅かにボールに触れたのだ。

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールはリングに弾かれた。

 

「おっしゃ! 関西弁のあんちゃんの代わりに俺が――」

 

「ハァ? 邪魔」

 

ポジションを確保しようとしたその時、直後にやって来た紫原がその体格とパワーで最適なポジションを奪い取った。

 

「オーラ――」

 

 

――ドォッ!!!

 

 

「邪魔はてめーだ!!!」

 

「っ!?」

 

リバウンドボールを抑えようとした紫原が仰け反る。陸は奪われたポジションを再び奪い返したのだ。

 

「なっ!? 紫原を吹っ飛ばしただと!?」

 

圧倒的なパワーを持つ紫原をパワーで押し返した事に火神が驚愕する。

 

 

――バシィィッ!!!

 

 

「確保ぉっ!!!」

 

紫原の飛ぶタイミングが遅れた為、リバウンドに行けず、陸が悠々とリバウンドを抑えた。

 

「っしゃいただき!」

 

そのままリバウンドダンクを叩き込む。

 

「調子に乗んなよ!」

 

次の瞬間、陸とリングの間に割り込むように紫原がブロックに現れた。

 

「マジか! もう来やがった!」

 

速過ぎる紫原のブロックに驚きを隠せない陸。

 

「ちっ」

 

リングに振り下ろそう右手で掴んだボールを止め、手首を捻ってボールの向きを変える。

 

「(無駄ッスよ。パスに切り替えた所で、紫原っちの反射神経と長い腕からは逃げられない)」

 

スティールを確信する黄瀬。

 

 

――ピッ!

 

 

「…はっ?」

 

陸の手から放たれたパスに、紫原が茫然と声を上げる。パスに切り替えた陸のボールを奪おうと狙った紫原。しかし、陸は、腕を振り下ろす事無く、右腕を伸ばしたまま、手からまるでボールが発射されたかのように鋭いパスが放たれたのだ。その為、スティールが間に合わなかった。

 

「…っ」

 

そのパスを駆け込んだ堀田が同じく驚いた表情で受け取り…。

 

 

――バス!!!

 

 

そのまま得点を決めた。

 

 

花月 38

奇跡 45

 

 

「ええぞ陸!」

 

 

――バチィッ!!!

 

 

「った! へへっ!」

 

背中を叩いて労う三枝。

 

 

『またあいつだよ!』

 

『てか、今あいつ、紫原吹き飛ばさなかった?』

 

『手で押したんだろ? そうじゃなきゃ…』

 

『もしそうなら笛吹かれてんだろ』

 

『てか、最後のあのパスはどう言う事だよ!?』

 

『何で腕をほとんで動かさないであんな速いパスが出せんだ!?』

 

一連の陸のプレーにどよめく観客達。

 

 

「何スか今の。…てか、紫原っち!」

 

「…っ、あいつムカつく…!」

 

しかめっ面で陸を睨み付ける紫原。

 

「最後のパスはどう言う事だよ。あいつ、ほとんど腕動いてなかったぜ?」

 

不可解なパスに戸惑う火神。

 

「「…」」

 

緑間と青峰が無言で陸に視線を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

会場の全ての者が今の一連の陸のプレー動きに戸惑いと疑問の声を上げている。

 

「…ほう?」

 

そんな中、ただ1人、陸の行った事の詳細に辿り着いた者がいた。それは、正邦高校の監督である松元である。

 

「監督、分かったんですか?」

 

その言葉を前の座席で聞いていた岩村が聞き返す。

 

「お前らも何となくピンと来てんだろ?」

 

「と言う事はやっぱり?」

 

薄々と理解はしていた春日。

 

「ああ」

 

そう呟き、松元が前のめりに座り直すと――。

 

 

 

「――ありゃ、古武術だ」

 

 

 

「なるほど、どおりで」

 

「あいつ、なんば走りこそしてないが、要所で監督が教えてくれた古武術の基本的な動きに似てたからな。特に、あのバックチップ。あの動きでピンと来たわ」

 

陸の動きからどことなく繋がりを感じ取っていた岩村と春日。

 

「最初に緑間との距離を一瞬で詰めた動き、ありゃ縮地法だな。引力を利用し、重心移動を駆使して一瞬で相手との距離を詰める、別名、膝抜きだとか、抜重とも呼ばれる技術だ」

 

『…』

 

「その次の紫原を仰け反らせたあれは、古武術における、当て身の応用だろうよ。本来は手足を使って攻撃する手段なんだが、…よくもまあ、バスケの技術に落とし込んだものだ」

 

「すっげ、あの紫原を仰け反らす事も出来るのか」

 

驚嘆する春日。

 

「そもそも、古武術ってのは、戦場で生き残る為に生まれた武術だ。身体が小さかったり、力無くともな」

 

「で? で? 最後のパスは!?」

 

津川が目を輝かせながら尋ねる。

 

「ありゃ、投擲術の応用だな。簡単に説明するとだ、腕を使って投げると言うより、ここの、肩甲骨や身体の各種関節を使って撃ち出す事で、腕を後ろに引いたり、上から振り下ろさずとも、速く鋭いパスが出せるって訳よ」

 

前に座る津川の背中の肩甲骨に触れながら1つ1つ解説をしていく。

 

「スゲー! 古武術ってあんなことまで出来るんだ! 監督何で教えてくれなかったの!?」

 

「俺がお前達に教えたのはあくまでも基本。あの坊主がやってるのはその発展形だ。余程筋が良くなきゃ出来ねえ。バスケやりながら3年間でマスター出来る代物じゃねえんだよ」

 

文句を言う津川を、松元が窘める。

 

「あの坊主、神城陸って言ったか? なかなか面白れぇじゃねえか」

 

興味津々に陸に視線を向ける松元。

 

古武術をバスケに取り入れ、正邦高校を一時は東京の三大王者と呼ばれるまでに押し上げた名監督。3年間と言う短い時間故に、教えられる事はどうしても限られる。古武術を駆使して他を圧倒した陸は、古武術を駆使してバスケを教える松元にとって、云わば理想像と呼べる選手。

 

「ウチはスカウトはしちゃいねえが、いっちょ、引っ張ってみるか」

 

陸の獲得に目を光らせたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

「あいつ、家の手伝いしたくねえって駄々こねて、中学に上がるまでは沖縄の親戚の所にいたんですけど、近所に住む古武術の達人だとか言う爺さんの所に入り浸って、何か色々教えてもらってたらしいんですよね」

 

チームカゲツベンチの空が説明を始める。

 

「ほう、なら、あの坊主がやっとるんはその古武術言う訳か?」

 

「でしょうね」

 

「古武術は強力な武器になる。現に、東京で、少し前までは正邦高校が激戦区の1つである東京都で三大王者と呼ばれておったくらいやからのう」

 

そこへ、龍川が口を挟む。

 

「じゃが、古武術に頼り切りのバスケじゃ、すぐに通用せんようになる。やけん、あのガキにワシの目の黒い内は古武術の使用を禁じ、徹底的に基礎を叩き込んだ」

 

『…』

 

「しかし、全中では圧倒出来ても、この試合のレベルじゃ話にならんかった。前言を曲げるんはワシのポリシーに反するが、試合をぶち壊す訳にもいかんからのう。仕方なく解禁させたっちゅう訳じゃ」

 

フゥと溜息を吐く龍川。

 

「けどまあ、見た所、良い感じやないか。相手全員面食らっとるし、行けるんやないか?」

 

「(どうかな。元々の実力に差がある事には違いないし、現状、通用するのは古武術を織り交ぜたバスケのみ。あのメンツ相手に、どこまで誤魔化し(・・・・)が利くか…)」

 

楽観視する天野を尻目に、空は逆の予感を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

「面白いじゃないか」

 

自陣に戻る際、陸に駆け寄る三杉。

 

「でしょでしょ! 沖縄にいた時、近所に住んでた爺さんにコブジュツってのを教わったんだけど、バスケでもいろいろ試してみたら結構便利でさ!」

 

褒められ、ニコニコで話す陸。

 

「(俺も古武術の動きの一部を取り入れてはいる。過去にも、同様の選手はいた。だが、ここまで極端なのも珍しい)」

 

古武術の有用性には三杉も目を付けており、それを独学で学び、自身のプレースタイルに取り入れている。

 

「(古武術は万能ではない、当然、欠点(・・)もある。だから俺は、一部しか取り入れなかった。だが、それは俺が自在に古武術を扱える程の達人ではなかったからだ)」

 

三杉も正邦の選手達同様に、バスケをやりつつ、古武術を極める時間がなく、自身のプレースタイルに有用なものだけを取り入れた。

 

「(これでまだ中学生。まだまだ発展途上。環境に恵まれれば、こいつはもしかしたら、今、この試合に参加する誰よりも上手くなるかもしれない。…ホントに、これだからバスケは、面白い)」

 

新たな逸材を目の前に、三杉はにこやか笑みを浮かべたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

後半戦が始まり、陸のバスケの本領が発揮される。

 

これまでにない、陸のプレーに、対戦相手のチームミラクルのみならず、チームカゲツの選手達も度肝を抜かれた。

 

白熱する試合。

 

両チームの激突は、さらに激化していくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





今回は、陸の性能についての話となりました…(^_^)v

ちなみに、前話最後のセリフは、正邦高校の監督である松元のものであります。

陸の古武術に関しては、ある程度は現実に寄せてますが、ある程度は他の創作物からの引用をしているので、多少、現実離れしてるかもです…(;^ω^)

黒バスのファンブックにて、当初は誠凛に古武術を教える予定だったが、正邦にウリがなかったのであげたとありましたが、本当の所は、既に古武術を取り入れて強くなるバスケ漫画が存在していたからなのではと、何の根拠もなく勝手に予想しています。有名漫画家によるまだ今より有名になる前の作品で、自身もこれを参考にしました。敢えて作者と作品名は出しませんが、知っている人は多いかも…(^_^)/

とりあえず今後の予定として、もう一方の二次の方向性が定まらないので、この二次に集中する予定です。そうしないとまた長期間放置とかありそうなので…(>_<)

感想アドバイスをお待ちしております。

それではまた!
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