黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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お待たせしました!

書きたいことを盛り込んでいったら過去最大のボリュームに。

それではどうぞ!


第29Q~遠征~

 

 

 

やってきた大型連休……。

 

 

 

――プァァァーーーン!!!

 

 

 

花月高校バスケ部の部員達と監督、上杉は、新幹線に乗車中。

 

「にしても、たかだか練習試合に行くのに、新幹線に乗れるとは思わなかったよ」

 

「花月高校は名門私立ですからね、OGからの寄付金もありますが、何より、花月高校の創始者の一族は古くからの旧家で、資産家だという話ですから、高校の部活動と言えど、部費が豊富なのでしょう。…お茶、入りましたよ」

 

背もたれに身体を倒しながらリラックスする空に、にこやかに水筒のお茶を渡す大地。

 

「それもあるが、1番の理由は理事長がそれだけ今年のバスケ部に期待しているということだよ」

 

空の真向いに座る三杉が肘掛けに肘を付き、読書を続けながら口を挿む。

 

「文科系ではあらゆる部活動に全国でも優秀な成績を収める生徒が在籍している花月高校だが、それに対して運動部は全般的に実績が乏しい。にもかかわらず、結果を出す前にこの待遇。学校全体がバスケ部に期待を込めているのさ」

 

「なるほど…」

 

いくら理事長であっても、学校の資金を自由にすることはできない。例え切実な理由があっても、その理由に答えるだけの価値が見いだせなければ、資金を出す許可がおりない。

 

花月高校の運営側も、運動部でも実績を上げ、更なる入学希望者を増やすという、大人の事情があったりもする。

 

「正邦と泉真館かぁ…、秀徳はよく知ってるけど、他はよくわからねぇな。…大地、何か知ってる?」

 

「そうですね…、東京都は、去年、キセキの世代が進級したことで、勢力図が大きく変わってしまったのですが、その前年、一昨年までは、インターハイ及び、ウィンターカップの代表校は、常にこの3校でした」

 

大地が顎に手を当てながら説明を続ける。

 

「今日試合予定の正邦高校。この学校は、全国でも珍しい、古武術をバスケに取り入れた学校でもあります」

 

「古武術~? アチョー! のあれ?」

 

空は口を尖らせながら、手を手刀に変えて聞き返す。

 

「それは古武術ではありませんが…、私も記事を読んだだけですので、詳細は存じ上げませんが、古武術の独特の動きを取り入れることで、体力を消耗を抑えたり、動作をスムーズにしたり、動きを読みづらくしたりなど、様々な効果があると言われています」

 

「へぇ…」

 

「もともと、古武術の動きは、現在の様々なスポーツに精通すると言われています。他の競技の有名スポーツ選手も取り入れていると聞きますし、事実、その正邦が東京都の王者に名を連ねていたのですから、確実に効果があるのでしょう」

 

大地は一度言葉を切り、続ける。

 

「正邦高校の持ち味は、古武術を生かした高いディフェンス力。三校の中でもそれが秀でた学校です」

 

へぇーと、空が感心しながら聞いている。

 

「次に、泉真館ですが、特徴としては、入部して1年は公式戦には一切出場させず、徹底的に基礎を磨き、3年時にその集大成を披露するのがこの学校の特色のようです」

 

「…あー、そういや、そんなこと言ってたような…」

 

「パス、ドリブル、シュート、それぞれをバランス良く鍛え上げ、試合に出場する5人の選手が苦手分野のない、何でもこなせるオールラウンダーを理想とし、どのような相手、状況でも対応できる柔軟なバスケ」

 

「ふーん、何となく、すごそーってのは分かるけど、つまらなそうなバスケだな」

 

型にハマることを嫌う空はげんなりとした表情をする。

 

「ディフェンスに比重を置いた正邦とは違い、オフェンス、ディフェンスに大きな偏りはない、バランスの取れた学校ですね」

 

「なるほど」

 

「最後に、秀徳高校ですが…」

 

すると空は、待ってました! と言わんばかりに身体を起こし、真剣に話を聞く体勢を取る。

 

「秀徳高校は、先の泉真館と同じく、バランスの取れたチームではあるのですが、どちらかと言えば、オフェンス力に比重が傾いた学校ですね」

 

「ふむふむ」

 

「東京都でもナンバーワンを誇るインサイド。これが攻守共に生きてきます。バランスを取りつつも、高いオフェンス力を誇る。これが秀徳高校の特徴……ですが」

 

「?」

 

「これは、あくまでも、キセキの世代、緑間さんがいない時までの話しです。強力なインサイドに、あの驚異的な射程距離を誇る天才シューター、緑間さんが加わります。それを考えると、現在では秀徳高校が頭1つ2つ突き抜けている言っても過言ではないでしょう」

 

「なるほどね…、せっかくなら、秀徳とも戦ってみたかったなぁ」

 

話しを聞き終わり、両手を頭の後ろに組み、座席にもたれかかりながら自身の願望を口にする。そんな空をクスクスと笑いを零しながら大地は会話をしていく。

 

「東京都のインターハイの出場枠は3つ。全国有数の激戦区を誇る東京都ですが、秀徳高校が3つの椅子から弾かれることはおそらくないと思います。我々がインターハイの出場を果たせれば、然るべき場所で戦うことも充分ありえるでしょう」

 

「…そうか、そうだよな! やっぱ、楽しみは、後に取っとくべきだな!」

 

空は握り拳を作り、目を輝かせながら気合を入れる。それを大地が『他の乗客の迷惑ですよ』と窘める。

 

「さて、そろそろ到着しますから、下車の準備をしますよ」

 

新幹線は既に減速に入っており、もうすぐ到着を告げるアナウンスも入っている。

 

空は慌てて新幹線を降りる準備を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

新幹線を降り、そこからさらに電車を乗り継ぎ、正邦高校へと向かう。

 

校門の前に到着すると…。

 

「上杉さん、遠路はるばる来てもらってすまないね」

 

「こちらこそ、試合を組んでいただき、恐縮です」

 

監督の上杉と、校門の前で待っていた正邦の監督、松元郁憲が挨拶と握手を交わした。

 

「花月高校のバスケ部の皆も、わざわざ遠くからすまないな。今日は是非ともいい試合をしよう」

 

『よろしくお願いします!』

 

花月高校バスケ部一同が松元監督に礼をする。

 

「今から控室に案内させる。…おーい」

 

体育館方面に声をかけると、ジャージ姿の1人の部員がやってきた。

 

「花月高校の方々だ。控室まで案内頼む」

 

「はい」

 

呼ばれた部員が前に出て先導を始める。

 

「主将の早蕨です。今から控室に案内しますので、自分に付いてきてください」

 

主将と名乗った早蕨を先頭に、花月高校の面々は、体育館に隣接しているプレハブ小屋まで案内される。

 

「こちらの小屋を自由に使ってください。着替えが終わったらすぐそこの体育館の方までお願いします」

 

と、頭を下げ、体育館へと向かっていった。

 

「急いで着替えろ。あまり相手を待たせるな」

 

バスケ部のメンバーは、すぐさま着替えを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『チュース!』

 

着替えを終えたメンバー達は、体育館内へと足を踏み入れる。

 

正邦高校の面々は既にアップを開始しており、花月高校の者達がやってくると、手や足を止め、彼らが入ってきた体育館入り口に視線を向ける。

 

「試合は1時間後に始めます。花月高校の皆さんはこちらの半面を使ってアップを始めてください」

 

早蕨に案内され、花月高校はアップを開始する。

 

 

――ザシュッ! ザシュッ…!

 

 

パスを出し、リターンパスを受け取った者がそのままレイアップを決めていく。

 

「おっしゃ!」

 

空の番。パスを出し、リターンパスを貰う。

 

「(景気づけに! …1発…)」

 

「空、試合前に余計な体力は使うなよ」

 

「…うげっ!」

 

 

――ガン!!!

 

 

ダンクを決めようとした空。寸前で三杉に止められ、勢いが付きすぎ、ゴールを外す。

 

「しまった…」

 

空が外したボールを拾いにいく。

 

「アハハハハッ! おもしれー!」

 

「ん?」

 

その様子を見ていた正邦側の丸坊主頭の選手が大笑いする。

 

「普通あれ外すかなー。ねぇ、キャプテン! 花月高校って、聞いたことない高校だし、景気付けにダブルスコア狙いましょうよ! ていうか、できなきゃ恥っすよ!」

 

『っ!』

 

その選手が続けて暴言とも取れる言葉を続ける。その言葉を聞いた花月高校の面々(三杉と堀田と大地を除く)は怒りを露わにする。

 

「お前は、思ったことをすぐ口出すなって、岩村さんに散々言われただろうが!」

 

「あいたっ!」

 

その選手の傍まで寄ってきた首相の早蕨が、坊主頭の選手に拳骨を落とす。

 

「申し訳ない! あのバカは後できっちりしめておきますので!」

 

主将が坊主頭の頭を押さえ、無理やり頭を下げさせながら自身も頭を下げながら謝罪した。

 

「いやいや、試合前に挑発をして相手のペースを乱すのも立派な戦術の1つだ。謝る程のことじゃないよ」

 

三杉は特に気にする素振りを見せず、淡々と気にしていない胸を述べた。

 

「いや…こいつはそんなつもりは…すまない! おらっ! こっちこい! あんま恥を掻かせるな!」

 

早蕨は丸坊主頭の選手の襟首を掴んで連れていき、再度拳骨を落とした。

 

「…帝光の池永とは、違った意味でむかつく奴だな…」

 

バカにされた当の本人である空はかなりイライラした様子で相手を睨みつける。

 

「…まあ、あの池永さんと違って、あちらの方に悪気はなさそうですけど」

 

「余計に性質が悪いわ」

 

空の機嫌を直そうとする大地だが、全く直らない様子を見て苦笑いを浮かべる。

 

「…ですが、あの方には注目した方がいいですよ」

 

「…どういうことだ?」

 

「あの方、確か津川智紀という方です。去年、正邦はインハイ予選の準決勝で誠凛に敗れたのですが、あの津川という選手は、誠凛の火神さんを抑え込んだ程の選手です」

 

「っ!? あの火神をか!? マジかよ…」

 

その告げられた事実に、空は驚きを露わにする。

 

火神大我。誠凛高校のエースであり、キセキの世代と同等の資質を持ち、昨年のウィンターカップ優勝の立役者の1人である。

 

空は去年の誠凛の試合映像はその目で見ている。火神の実力はある程度把握している。

 

「まだスタメンの発表がされてないので、誰がマッチアップするかは分かりませんが、もし相手になったら、気を引き締めてくださいよ」

 

大地は空に警戒を促す。

 

「分かってるよ……でも、それなら、是非ともやりあってみてーな」

 

空は返事をしつつも、ワクワクが溢れ、笑みがこぼれる。

 

「まったく、あなたという人は……ですが、同感です」

 

大地もやれやれと言った口調で空を窘めるが、大地もまたワクワクが抑えきれず、ニヤリとした表情をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合開始10分前となり、それぞれの選手がそれぞれにベンチに集まっていく。

 

「スタメンを発表するぞ。呼ばれた奴はマネージャーからユニフォームを貰え」

 

上杉がそう告げると、全員がゴクリと唾を飲み込む。

 

「4番、三杉誠也!」

 

最初に呼ばれたのはアメリカからやってきた、三杉。

 

高みを求めてアメリカに渡り、キセキの世代と戦うために日本に帰ってきたスーパーエース。

 

三杉が前に歩き出す。部員の誰もが当然だな、という眼差しで見送る。

 

「試合、楽しみにしています」

 

「ああ。ありがとう」

 

三杉はにこやかな笑顔でユニフォームを受け取る。

 

「お前はSGとして入れ。コートでの指揮はお前に任せる」

 

「分かりました。任せて下さい」

 

上杉が放り投げたキャプテンマークを受け取った。

 

「次、5番、堀田健!」

 

「はい!」

 

次に呼ばれたのは同じく、アメリカからキセキの世代と戦うためにやってきた堀田。

 

2メートルを超える身長と圧倒的なパワーを誇る肉体。相対する者を萎縮させる超人。

 

「堀田先輩! 大暴れしちゃって下さい!」

 

「ふっ、もちろんだ」

 

相川から背番号5を受け取る。

 

「ポジションはCだ。ゴール下はお前が死守しろ」

 

「はい」

 

返事をすると、堀田は指を鳴らす。

 

「次、8番、天野幸次!」

 

「はいな!」

 

次に呼ばれたのが、現2年生である、天野幸次。

 

192㎝という長身に、高い身体能力を誇り、そのディフェンス力とリバウンドは静岡県でもナンバーワンを誇る。

 

プレースタイルはリバウンドやスクリーン等、チームの汚れ役に回る事が多いロールプレイヤータイプ。

 

「お前はPFに入れ。役割は、分かっているな?」

 

「もちのロンや! 一生懸命チームのフォローしまっせ!」

 

親指を立てて役割を口に出していく。

 

「天(てん)先輩、ファイトです!」

 

「おおよ! ファイト1発や!」

 

キャッキャ言いながら天野にユニフォームを渡す相川。

 

「次! ……10番、神城空!」

 

「っしゃあっ! はい!」

 

次に呼ばれたのは、昨年、無名の星南中を全中の覇者にまで押し上げた立役者の1人、空。

 

抜群の身体能力と予測不能のプレースタイル。無尽蔵のスタミナを誇る空。

 

呼ばれた空は身体全体で喜びを露わにする。

 

「PGだ。状況によっては三杉とチェンジすることもある。その時は勉強させてもらえ」

 

「了解っす!」

 

空は敬礼のようなポーズを取る。

 

「…一応、多少は期待はしてるわ」

 

素っ気ない表情で空にユニフォームを渡す姫川。

 

「最後! 11番、綾瀬大地!」

 

「はい」

 

最後にスタメンに起用されたのが、空と同じく星南中出身であり、空に比類する実力を持つ大地。

 

高い身体能力に加え、空にも負けない運動量。高いテクニックを誇り、ガンガン1ON1を仕掛けていくスラッシャータイプのプレイヤー。

 

「SFだ。よーく三杉のプレーを見ておけ」

 

「はい。期待添えれるよう、頑張ります」

 

優等生のような言葉で返事をする。

 

「綾瀬君! 神城君と一緒に頑張ってね!」

 

「ええ。空共々チームに貢献しますよ」

 

背番号11を相川から受け取る。

 

こうして、スタメンが発表された。ベンチメンバーとして、6番、馬場高志。7番、真崎順二。9番、松永透。12番、生嶋奏。

 

「試合際して特別な指示は出さん。…だが、課題は出す」

 

深く目を瞑った状態で話しだし、そして両の目を見開いた。

 

「今日の試合、得点は100点以上、失点は30点以内に抑えろ」

 

『っ!?』

 

出された課題に、驚愕の表情を浮かべる。

 

昨年、王者の座から陥落したとはいえ、未だ全国区の実力と実績を誇る正邦高校。一方、実績は乏しい花月高校。

 

そんな状況下で出された厳しい課題。

 

「鉄壁を誇る正邦相手に100点以上…」

 

「オフェンスだって決して緩くはないのに…」

 

思わず弱音が漏れる。

 

「いいか! 100点以上、30点以内だ! 俺の顔に泥を塗ったらインターハイには出られないと思え! お前達の躍進はここから始まるんだ! それを正邦に…特にあの坊主頭に思い知らせてやれ!」

 

『(やっぱり気にしてたんだ…)』

 

先程の津川の失言。それは上杉の耳にもしっかり入っていた。

 

しかも、今の上杉の指示は正邦にも聞こえており、正邦メンバーは一様に花月高校のメンバーを睨みつけている (監督の松元は笑っている)。

 

「背番号を受け取った奴は控室で着替えろ。それ以外の奴は試合の準備を手伝いに行け」

 

『はい!』

 

花月高校バスケ部の面々は控室に行く者、手伝いに行く者に分かれて移動していく。

 

「ふう」

 

ベンチ内に選手がいなくなり、上杉は一息吐きながらベンチに腰掛ける。

 

「お久しぶりです。上杉のおじ様」

 

そこに、上杉に話しかける1人の人物。花月でも正邦でもない制服を身に付けている。

 

「んー…おう、トラんとこの嬢ちゃんじゃねぇか!」

 

話しかけたのは、誠凛高校の学生であり、監督でもある相田リコだ。

 

「遅くなったが、去年のウィンターカップ、見させてもらった。見事な監督ぶりだったぞ」

 

「いえ、私ではなく、優秀な選手達のおかげです。私は、あくまでも、優勝した学校の監督ってだけで…」

 

リコは上杉の賛辞の言葉に謙遜しながら苦笑いする。そんなリコを見て上杉は豪快な笑い声を上げる。

 

「ハッハッハッ! そう謙遜することはねぇ。試合の勝利は、選手の手柄なんて言葉はあるが、どんないいチームでも、率いている監督がヘボじゃ、勝てるものも勝てん。逆に、監督が優れていれば、番狂わせなんかも容易に起こせる。自信を持て。俺から見てもお前の采配は見事だった。もう、立派に監督しているぞ。もしかしたらトラより優秀かもな、ガッハッハッ!」

 

「おじ様…、ありがとうございます!」

 

リコは涙ぐみながら頭を下げて礼の言葉を述べた。

 

「それで? 今日は正邦の試合でも見に来たのか?」

 

「はい。正邦は、誠凛(私達)がインターハイ出場を狙うにあたって障害になる相手の1つですから」

 

本題を切りだした上杉。リコは袖で涙を拭い、答える。

 

昨年、勝利を収めたとはいえ、辛勝もいいところだった誠凛。誠凛にとって、障害となる学校は何もキセキの世代が所属する学校ばかりではない。

 

「今日は他にも、秀徳も練習試合をしているので、そっちに行きたかったんですけど、パパが、『インターハイで頂点を目指すなら、正邦の試合を見に行け』って、言うものですから…」

 

「なるほど、トラがそう言ったのか…」

 

すると、上杉がニヤリと笑みを浮かべる。

 

「なら、よーく見ていけ。今日は、すげーもんが見られるぞ」

 

「…自信があるようですね。それだけ、今年の花月高校は強いと?」

 

「説明せずとも、その目で見た方が早い。…まあ、監督としては、つまらんチームだがな」

 

そう説明すると、上杉は太腿の上に肘を立てて頬杖を突いた。

 

「…」

 

花月高校のスターティングメンバーはまだ着替えから戻ってきていない。リコは準備が出来ている正邦の方に視線を向ける。

 

「(さすが、三大王者の一角ね。去年の主力がほとんどいなくなったとはいえ、よく鍛えられている。津川君も、去年より伸びているし、戦力は去年と同等…けど、今年は去年までと違う点があるわ)」

 

リコの視線の先には、試合に出場するであろう選手。

 

「(あの5番、身長は推定で191㎝。7番、推定で189㎝。今年の正邦には、高さがある)」

 

去年の最高身長は、主将を務めていた岩村勤の187㎝。全国区のチームとしては高さがあるとは決して言えなかった。

 

今年は、去年と同様、古武術を生かした鉄壁のディフェンスに加え、高さまでプラスされる。

 

「(見に来て良かったわ。キセキの世代がいる秀徳、桐皇ばかり気にしていたら、確実に足元をすくわれていたわ)」

 

東京都のインターハイ予選に参加する高校は100を超える。その中で、インターハイに出場出来るのはたった3校。その3つしかない席を獲得するため、その全ての学校が死にもの狂いでやってくる。僅かばかりにも驕りがあった自分自身に反省を促し、対策を取るべく、試合に集中することを決意する。

 

「お待たせしましたー!」

 

ちょうどその時、着替えを終えた花月高校のスタメン達がやってくる。

 

「(来たわね!)」

 

リコは待ってましたと言わんばかりにそちらに視線を向ける。

 

花月高校は今年、スーパールーキーを獲得したことは既に情報として入っている。気が早いが、全国で当たる可能性も考えられるため、そちらにも興味がある。

 

まず入ってきたのは…。

 

「(あれが、今年のルーキーの目玉、あの帝光中を倒した2人、神城空君と綾瀬大地君ね)」

 

空と大地が花月高校のユニフォーム、白を基調に、緑をあしらったユニフォームに着替えてやってきた。

 

「(っ! 服の上だから正確な数値は測れないけど、全ての数値が軒並み高い。しかも、伸び代も見えない…)」

 

肉体を数値化することができるリコ。その、弾きだした数値に驚きを隠せない。リコが1番印象的だったのが…。

 

「(…良く鍛えられているわね。才能をより伸ばすため、才能が開花しても身体がそれに耐えられるようにしっかり鍛えられている。普通あれだけ才能に恵まれているなら、才能任せになりがちなのに…。高校に上がって1ヶ月であれだけの肉体にするのは不可能。なら、高校入学以前から鍛え上げてきたことになる。だとすると、彼らの中学時代の指導者はすごいわね)」

 

中学時代の空と大地の監督であった龍川は、とにかく基礎づくりを2人にやらせて (ほぼ脅しで)やらせていた。才能を伸ばすのも、支えるのも基礎であるため、自身の才能に潰されないように、先に控える強敵との戦いの為に、龍川は出来る限りの指導をしていた。

 

次にやってきたのは…。

 

「久しぶりの試合や。いっちょ、やったるでぇ」

 

「(静岡でディフェンスとリバウンドに定評がある天野幸次君)」

 

天野は腕の関節を鳴らしながら歩いていく。

 

「(…すごいわね。単純な肉体の数値だけなら、ウチの火神君や、キセキの世代にもひけを取らないわ)」

 

静岡で現時点で最も有名であり、鬼監督と言われる、上杉剛三の下で育ったその実力は本物。

 

「(ウチの火神君でも、かなり苦しめられそうね…)」

 

見に来て良かったと、心の中で思ったリコ。

 

続いて、生嶋奏、松永透がやってくる。

 

「(全中ベスト5の生嶋君と、同じくベスト5で鉄平の後輩である松永君。失礼だけど、静岡でも決して強豪校とは言えない花月高校にこれだけの選手が集まったのは奇跡だわ)」

 

リコは、今年の花月高校は必ず全国へとやってくると確信する。自分達が全国大会へと出場した時、花月高校は強敵の1つになると。

 

だが…。

 

「…えっ?」

 

ここでリコは、言葉を失う。

 

「嘘…、こんなの、ありえない…」

 

驚きを隠すことが出来なかった。

 

最後に体育館内にやってきた、2人。4番と5番のユニフォームを着てやってきた2人。

 

「三杉さん! 遅いっすよー!」

 

「堀田さん。待たせすぎでっせ」

 

空と天野に急かされてやってきた2人。

 

「(何よこれ…あり得ないわ…。あの2人の筋力の数値…、今まで見たどの人より高い…。それこそ、火神君やキセキの世代よりも…!)」

 

三杉誠也、堀田健、2人の選手を目の当たりにして驚きを隠せないでいた。

 

身体能力の数値は嘘を付かない。これほど数値を持った選手がコートに立ったらどうなるのか…。

 

 

――まあ、監督としては、つまらんチームだがな。

 

 

この言葉の意味がよく分かった。

 

これだけのメンバーが揃っていれば、特に指示を出さなくても試合に勝ててしまうからだ。

 

監督の身としては、当然、選手達を勝たせてあげたい。勝利は何よりも望むものだ。

 

だが、やはり、自身が采配を揮って試合に勝たせたいという願望が何処かにある。

 

誰が率いても勝てるチームでは、上杉にとっては面白みはないということだ。

 

「すまない、遅くなった」

 

「遅くなった」

 

2人は軽く謝罪し、ベンチへとやってくる。

 

ユニフォームに着替えた選手達が花月側ベンチへとやってくる。

 

「ん?」

 

選手達が上杉の横に立つリコに気付く。

 

リコはペコリと頭を下げる。

 

「…あっ!? 確か誠凛の!」

 

空がリコの正体に気付く。

 

「俺の知人の娘さんで、知ってると思うが、正邦と同じ、東京都の誠凛の監督だ。今日はここで見学してもらうことになっている。まあ、気にせず試合に集中しろ」

 

「よろしくお願いします」

 

リコは再度頭を下げる。

 

「楽しんでいって下さいね」

 

三杉は笑顔で声をかける。

 

「は、はい//」

 

リコは何故だか一瞬心がときめいてしまう。

 

「さて…、まもなく試合だ。三杉、一言あるか?」

 

「はい」

 

上杉が仕切り直し、三杉に声掛けを託す。

 

「さて、これが俺達の初陣となる。初戦から躓くことなど、あってはならない」

 

三杉は白のヘアバンドを額に巻き、立ち上がる。

 

「言うことはこれだけだ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――勝とう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そっと、両肩にかけていたジャージをベンチに落とす。

 

『はい「おう」「了解や」!!!』

 

その三杉の言葉に、部員全員が一同に返事をする。

 

かくして、花月高校の…空、大地と、三杉と堀田が加わった花月高校の初陣の幕が、今、開かれる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





花月高校のユニフォームのカラーは緑です。イメージ的にはスラムダンクの翔陽のユニフォームをイメージしてください。

今回は、正邦のユニフォームのカラーが黒なので、今回は、というか、のっけから別カラーバージョンとなります。

本当は正邦戦まで書きたかったのですが、試合始まるまでにこんなボリュームになってしまったので、次回に持ち越します。

感想、アドバイスお待ちしています。

それではまた!

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