黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

ついに…。

それではどうぞ!


第39Q~闘志~

 

 

 

 

 

――おぉぉぉぉーーーっ!!!

 

 

 

紫原の必殺の破壊の鉄槌(トールハンマー)をブロックした堀田。

 

これにより、試合の流れは花月へと傾き始める。

 

「(まずいな…、このままでは点差は開いていくばかりだ…)」

 

紫原を鼓舞したものの、胸中では焦っていた。

 

陽泉のエースの一角である、紫原がこうも完璧にブロックされるなど、考えもしなかったからだ。

 

このまま紫原が堀田に抑えれてしまえば、決め手を失うだけではなく、インサイドを制圧させてしまう。

 

「(だが、敦に注意が向いている今なら、他からでも決められる!)」

 

自身の反射神経とスピードでディフェンスエリアをカバーしている紫原と違い、堀田は読みとポジション取りや駆け引きで紫原と同等のディフェンスエリアをカバーしていた。

 

だが、紫原がオフェンス参加している以上、紫原のマークは外せない。今なら、ディフェンスエリアは縮小しているため、紫原以外からでも得点は可能。

 

「(…チラッ)」

 

氷室がアイコンタクトを送る。それと同時に動き出す。

 

「来い!」

 

ボールをキープする永野にパスを要求する。

 

氷室を追いかけるべく、三杉も後を追う。だが、目の前には劉のスクリーンが。

 

「ととっ…」

 

スクリーンを読んでいた三杉はロールをしながら劉のスクリーンをかわす。

 

「…っ!」

 

だが、かわした先に、木下がスクリーンに立っていた。これも何とかかわすが…。

 

「ちっ」

 

木下をかわすと、そこに氷室の姿はなかった。

 

「あかん、スイッチや、空坊!」

 

「言われなくても!」

 

瞬時に天野が空に指示を出し、空が氷室のディフェンスに向かった。

 

ボールを受け取る氷室。対するは空。

 

「止めてやる!」

 

「今の君では俺は止められない!」

 

氷室がシュート態勢に入る。

 

「(っ! 来た! 今度はどっちだ!? …ちくしょう、わかんねぇ!)」

 

空は判別出来ず、シュートブロックモーションに入る。

 

「あっ!?」

 

だが、氷室は飛んでおらず、フェイクであった。

 

氷室は悠々と空の横を抜け、ツーポイントエリアに切り込むと、改めてシュート態勢に入った。

 

「くっそっ! だが、まだだぜ! まだ諦めねぇぞ!」

 

ブロックから着地した空は、すぐさま氷室を追いかけ、ブロックに飛んだ。

 

「っ!?」

 

フェイクでかわしたはずの空が目の前に現れ、思わず目を見開く氷室。

 

「(フェイクに引っかかってブロックに飛んだはずなのに、俺に追いついたのか!? なんて瞬発力だ!)」

 

これには氷室も驚愕した。

 

氷室の手からボールが放される。

 

「(よし、ギリギリ間に合う――)」

 

 

 

――スッ…。

 

 

 

「えっ?」

 

だが、ボールが空の手を触れようとした瞬間、ボールは空の手をすり抜けるように通過していった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールは綺麗にリングを射抜いた。

 

「っしゃぁっ!」

 

拳を握り、喜びを露わにする氷室。

 

 

 

 

「出た! タツヤの陽炎のシュート(ミラージュシュート)…」

 

ブロックをすり抜ける、氷室得意のミラージュシュートが決まる。

 

 

 

「…」

 

空は、その場に立ち尽くしながら自分の手を見つめる。そこに、大地がやってくる。

 

「ドンマイ、あともう少しでしたね……空?」

 

「…いや、今のはギリギリだけど、ブロックに間に合ったはずだった。…そのはずなのに、今、ブロックをボールがすり抜けやがった」

 

信じられないものを見たかのような表情で大地に振り返った。

 

「…私にも、間に合ったように見えましたが…。ですが、ブロックをすり抜けるなど、そんなことがあるはずが…」

 

「そのとおりだ。ブロックをすり抜けるなんてありえない。これにはトリックがある」

 

三杉が2人の元までやってくる。

 

「いや、確かにそうですけど、現にすり抜けたんですよ」

 

「三杉先輩には、今のシュートのからくりが見えたのですか?」

 

「…」

 

大地が尋ねると、三杉は顎に手を当て、考えるようなしぐさを取る。

 

「…ふむ、俺に少し考えがある。とりあえず、オフェンスだ。1本返すぞ」

 

「「はい!」」

 

2人は返事を返す。

 

「それと…」

 

三杉は空の方を向き…。

 

「あいつのフェイクにポンポン引っかかり過ぎだ。普段あれだけ引っかけてやってるのにまだ判別出来ないのか? いい加減、早く慣れろ」

 

「う…すいません…」

 

空はボールを受け取ると、ゲームメイクを開始した…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

花月ボール。ボールをキープするのは空。

 

「(さて、何処から攻めるか…)」

 

堀田が紫原を攻略し始めた。1番の狙い目はそこだろう。だが、それを警戒してか、劉がディナイに入っている。

 

「(パスコースを塞いできたか…。無理にでも出せないことはないけど…ここは、スティールされる恐れがある堀田さんよりも、ここだな…)」

 

 

――ピッ!!!

 

 

空は、左サイドに展開していた三杉にボールを渡した。

 

「今度こそ止める…!」

 

立ちはだかるは氷室。この1本を止めるべく、気合い充分である。

 

「…」

 

ボールを受け取った三杉…。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

シュート態勢に入る。

 

「(フェイク…いや、違う、これはフェイクじゃない!)」

 

迷うことなく今のシュートを本物と判断し、ブロックに飛ぶ。

 

「(ノーフェイクとは、俺を舐めているのか? だが、これは届く!)」

 

タイミングもバッチリで、ブロック出来ることを確信する氷室。

 

ボールが三杉の指から放たれる。ボールが氷室の手に阻まれるかと思われたその時…。

 

「なっ!?」

 

目を見開き、驚愕する氷室。

 

ボールが氷室の手をすり抜けるように通過し…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールは綺麗にリングを潜った。

 

 

『おぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

 

観客からの歓声が上がる。

 

「馬鹿な…今のは…」

 

氷室は今、三杉がしたことの招待にすぐさま気付く。

 

 

「嘘だろ!? 今のはタツヤの…」

 

観客席の火神も驚きを隠せなかった。

 

 

今のは、先ほど氷室がしたシュートと同じもの…。

 

 

――ミラージュシュート…。

 

 

「三杉さん! 今のって…」

 

空も驚きながら三杉に駆け寄っていく。

 

「思ったとおりだ。氷室の反応を見ても、今のでビンゴだったみたいだな。ブロックをすり抜けるシュートの正体は、今実行したとおりだ」

 

「? 全然分かんなかったですけど、どういうことですか?」

 

「あのシュートのトリックは、2度のリリースにある」

 

「2度のリリース…ですか…」

 

そこに大地もやってくる。

 

「続けるぞ。あのシュートは最高到達点に入る前に1度、真上に放る。それを、最高到達点に入ったところでキャッチしてそこでシュートを打つ。…それを、基本を限りなく磨き、洗練されたフォームを会得している氷室が行えば、すり抜けたように錯覚してしまう。これが、あのシュートの正体だ」

 

三杉は、ミラージュシュートの全容を説明していった。

 

「…2度リリースしてたのですか…。どおりで…、ですが、からくりを理解しても、どう対処すればいいのか、見当が付きませんね」

 

「2度リリースするってんなら、ブロックに行くタイミングを遅らせて飛べば…」

 

「その場合、最初のリリースで打たれれば止めようがないのでは?」

 

空が攻略法の案を口にするが、大地は却下する。

 

「現状、あれを止めるには、1度目か2度目か、どちらか見極めるか、氷室より高く長くジャンプするか。この2つだろう」

 

「…どっちにしても、簡単には止められそうにないですね。…それにしても、よくあのシュート秘密に気付きましたね?」

 

「彼のプレースタイルは、俺に似ているからな。同じ特性を持つ俺だから見極められた。…ま、それはいい、それよりも、ディフェンスだ。戻るぞ」

 

「「はい!」」

 

花月選手達は、ディフェンスへと戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(…俺が、血の滲むような努力の末に身に着けたミラージュシュートを、1度見ただけで…)」

 

氷室の胸中は悲痛に締め付けられていた。

 

弟分である火神大我に勝つため、バスケの師匠であるアレックスの指導の下に身に着けた必殺のミラージュシュート。

 

自身の最大の武器であり、こだわりのあるミラージュシュートを、三杉はすぐさま目の前で再現してしまった。

 

「(三杉誠也…、彼も、タイガや敦達と同じ側の人間…。堀田健も…)」

 

「氷室!」

 

「っ!?」

 

ベンチからの荒木の声で正気に戻る氷室。

 

「(そうだ。今の俺はこのチームの主将なんだ。俺が、チームを立て直さないと…!)1本! 返そう!」

 

『おう!』

 

氷室の鼓舞に、選手達が応える。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ボールをキープするのは永野。

 

「(くそっ! 相変わらず、紫原が空いてやがる! いつもなら、迷わずそこに出すが…)」

 

ここ2本とも、ブロックされている手前、紫原にパスを出しづらい。だが、他のマークは厳しく、パスの出し場がない。

 

 

――ポン…。

 

 

「っ!?」

 

永野の気が緩んだ一瞬の隙を突き、永野の持つボールに空の指先が触れる。

 

「危ねぇ…」

 

「ちっ」

 

すかさず、ボールを所持し直して、ホッと胸を撫でおろし永野と、舌打ちをする空。

 

「(ダメだ…、俺もこいつ(空)相手にいつまでもボールをキープしていられねぇ! …くそっ! ここしかないか…!)」

 

 

――ピッ!!!

 

 

永野はハイポストに入った紫原にボールを渡す。

 

『来た来たーっ! センター対決!』

 

この試合のもはや目玉とも言える、堀田、紫原の一騎打ち。どちらかにボールが渡るだけで歓声が上がる。

 

紫原が背中で押し込みにかかる。

 

「…くっ!」

 

だが、堀田は1ミリたりとも動くことはなかった。

 

「(動かない…! 何で!?)」

 

全く動かすことが出来ないことに、紫原は焦りと苛立ちを覚える。

 

キセキの世代に数えられ、その中でも身体能力、特に力が優れている紫原は、今まで、その力で相手を蹂躙していった。

 

どんなスピードもテクニックも、その圧倒的な力で粉砕していった。

 

だが、今、目の前の相手は、その力が全く通じない。それどころか、逆に力で押されていた。

 

その事実が、紫原の頭の中を混乱させている。

 

「どうした? それで終わりか?」

 

背中から堀田の声がかかる。

 

「っ!?」

 

声がかかった直後、紫原に強大なプレッシャーがかかる。

 

「ちぃっ!」

 

紫原はそのプレッシャーを振り払うように動き出す。

 

 

――スッ…。

 

 

紫原、その場から反転するように身体を回転させる。身体がリングの正面に向くと、すかさず、後ろの飛びながらジャンプシュートを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜る。

 

『うおー! 紫原上手い!』

 

ターンアラウンドからのフェイダウェイシュート。堀田をかわしながらゴールを決めた。

 

「いいぞ、敦!」

 

氷室が背中を叩いて紫原を称えた。

 

「…」

 

だが、紫原の表情は晴れることはなかった。

 

 

「紫原の奴、あんなテクニックも…。けど…」

 

一連のプレーを見て、火神も驚いたが、少々、腑に落ちないリアクション。

 

 

「(…あいつのあんなプレーを見たのは初めてだな…。だが、今のは…)」

 

青峰も、今のプレーに、違和感を覚えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月ボール…。

 

空は、フロントコートまでボールを進める。

 

「…」

 

堀田のマークは依然としてきつい。

 

「(…堀田さんはマークがきついな。さて、何処から攻めるか…)」

 

空は、ボールをキープしながらパスターゲットを探す。

 

「(…こいつ、目の前の俺がいるってのに、俺から視線を外してやがる。…舐めやがって!)」

 

マッチアップをしてる永野。侮りとも取れる空の態度に腹を立て、隙ありとばかりにボールを奪いにいく。

 

「待て、永野! 迂闊だ!」

 

動き出した永野を氷室が静止したが、永野の耳には届かず、ボールに向かっていく。

 

永野の手がボールに触れようとしたその瞬間…。

 

 

――ダムッ! ダムッ!!!

 

 

バックチェンジでボールを切り返して永野をかわし、そのままぺネトレイトで陽泉ゴールに切り込んでいく。

 

「止める!」

 

「行かせないアル!」

 

その直後、木下と劉がヘルプにやってきて、空の前に立ち塞がる。

 

「(…チラッ)」

 

空は、横でノーマークになっている大地に視線を向ける。

 

 

――ボムッ!!!

 

 

ここで、空はパスを出す。

 

ボールは、視線を送った大地…ではなく…。

 

「「っ!?」」

 

ボールを劉の股下でワンバウンドさせ、その後ろにいた堀田に渡る。

 

それと同時に観客の歓声も上がる。

 

「…」

 

「…」

 

無言の両者。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

堀田は、右に行くと見せかけて、左からスピンムーブで紫原をかわしにかかる。

 

「ぐっ! …こんの…!」

 

紫原もそれに反応し、何とか付いていく。

 

堀田がボールを掴み、跳躍する。紫原も堀田の前方に回り込み、ブロックに現れる。

 

「ふん!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「ぐっ!」

 

堀田のボースハンドダンクが再び炸裂し、紫原は吹き飛ばされてしまう。

 

「…っ」

 

尻もちを付く紫原。堀田はそれを一瞥してディフェンスに戻っていく。

 

『紫原でも止められないのか…』

 

陽泉選手達の中に絶望の声が出始める。

 

「リスタートだ! まだ点差は付いてない! 取り返すぞ!」

 

氷室が、陽泉選手達の不安を払うように選手達を鼓舞する。

 

ボールは永野に渡り、陽泉の攻撃が始まる。

 

「…ちっ!」

 

永野は思わず舌打ちをする。

 

相変わらず、紫原のマークが浅く、それ以外のマークはきつい。紫原以外の者には、ボールを渡し辛い状況だ。

 

かつて、陽泉にとって、このような経験は初めてのことだ。これまでの相手は、何とか紫原にだけはボールを持たせまいとディフェンスに臨んできたが、花月は、紫原だけを空けてきている。

 

もちろん、これは、侮りでもなければ、罠を張っているわけでもない。堀田という、圧倒的な守護神がいることによる、圧倒的な自信。

 

永野に空を抜くテクニックはないため、仕方なく、唯一のパスコースである紫原にボールを渡す。

 

「来い」

 

「っ!」

 

背中からの堀田のプレッシャーに、心臓を掴まれるような感覚が襲う。

 

 

――スッ…。

 

 

紫原は、先ほどと同様、ターンアラウンドからのフェイダウェイジャンパーでシュートを放つ。

 

 

――ガン!!!

 

 

「っ!?」

 

だが、ボールはリングに嫌われてしまう。

 

リバウンドボールは、堀田が悠々と抑え、陽泉の攻撃は失敗に終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後、次の花月のオフェンスは、裏をかいて空→大地の連携で仕掛けるも、紫原にブロックされ、失敗に終わる。

 

続く、陽泉のオフェンス。

 

 

――ガン!!!

 

 

紫原が堀田をかわしてミドルシュートを放つが、ボールはリングから阻まれる。

 

ボールの行き先が良かったため、オフェンスリバウンドを劉が抑え、陽泉のオフェンスは続く。

 

 

――ガン!!!

 

 

再び、紫原にボールが渡ると、堀田をかわしながらミドルシュートを放ったが、ボールはやはり、リングに嫌われてしまう。

 

「(リズムもフォームもガタガタだ。これでは入らん。最初のシュートは、偶然入ったに過ぎん)」

 

堀田がリバウンドをきっちり抑え、陽泉の攻撃は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…なあ、黒子」

 

「何でしょう、火神君?」

 

「紫原はひょっとして、リングから離れた場所からのシュートが下手なのか?」

 

火神がこれまでの紫原から感じていた違和感。それは、紫原のシュートフォーム、リズムが悪かったことだ。

 

「…下手かどうかは分かりませんが、少なくとも、高速でディフェンスをかわしながらのシュートを連続で決められるような器用な選手ではないことは確かです」

 

質問を受けた黒子は、少し思考すると、こう答えた。

 

「そう言えば、去年も紫原が離れたところからのシュートは見たことないな…」

 

「ほとんどダンクだったな」

 

昨年の試合を思い出しながら話す誠凛選手達。

 

「あれだけの身長に高さ、パワーを持っているんだ。そんなものに頼らずとも、押し込んでダンクだけで充分脅威だからな」

 

 

――ガン!!!

 

 

再び、紫原のミドルシュートが外れる。

 

「…決まりだな。紫原のシュートエリアは狭い」

 

今の外れたシュートを見て、日向は断言した。

 

「…その弱点が分かってれば、去年も少しは楽に勝てたのに…」

 

「そうだよな。もっと早く知っていれば…」

 

「ダアホ!」

 

「「あいた! キャ、キャプテン!?」」

 

降旗、河原を、日向が後ろから小突く。

 

「バカなこと言ってんじゃねぇぞ。確かに、紫原のシュートエリアは狭いのかもしれない。だが、それは、紫原をゴール下から追い出せて初めて成立する弱点だろうが」

 

「「?」」

 

「…忘れたのか? 去年、俺と木吉と水戸部の3人がかりでも押し込まれたことを…」

 

「「あっ…」」

 

降旗と河原は、去年の試合を思い出す。

 

「紫原のパワーは半端ねぇ。まるでトラックと押し合いしてるようだった。…それを1人で抑え込んじまう堀田健…マジでバケモンだ…」

 

紫原のパワーを知る日向は、その紫原をパワーで圧倒してしまう堀田に驚愕の一言しかなかった。

 

「陽泉のエースである、紫原は堀田に抑え込まれ、氷室も、三杉のマークで仕事をさせてもらえない。このままでは勝敗は決まるぞ」

 

「…紫原の奴、何やってんだよ…。今のあいつはまるで…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ボールは、紫原に渡る。

 

当然、マークに付くのは堀田。

 

「(…調子に乗りやがって! どうにかして、こいつをかわさないと…!)」

 

紫原は、堀田をどうにかかわし、得点を奪う方法を考える。

 

「…どうした、それがお前のバスケなのか? 足りないぞ。もっと本気でぶつかってこい。それこそ、殺すつもりでな」

 

「っ!」

 

背中から、堀田の強烈なプレッシャーがかかる。それを受けた紫原は…。

 

 

――ブン!!!

 

 

頭の上で掴んでいたボールをそのままアウトサイドに立っていた木下にパスを出した。

 

「あっ!?」

 

木下をマークしていた大地。堀田と紫原の戦いに目を向けた一瞬に木下はマークを外し、慌てて追いかけるも、劉のスクリーンに捕まってしまう。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

木下が放ったスリーがリングを潜る。

 

「よし!」

 

スリーを決めた木下はガッツポーズをする。

 

「ナイスパス、紫原!」

 

「今のはナイス判断だ」

 

木下と氷室が紫原に声をかけながらディフェンスに戻っていく。

 

「…っ」

 

だが、紫原の表情は晴れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『今のは良いパスだったよな』

 

『良い判断だ』

 

今のパスを、観客は称賛する。

 

「…逃げたな」

 

「えっ?」

 

青峰の呟きに、横で一緒に観戦していた桃井が驚きながら振り返る。

 

「今のは、パスを捌いたんじゃねぇ、ただパスで逃げただけだ」

 

「逃げたって、あのむっくんが?」

 

紫原をよく知る桃井は信じられないと言った表情だ。

 

「そもそも、あいつが試合でミドルシュートを打つとこなんざ、帝光中時代から1度も見たことねぇ。あいつは今、怯えてるだけだ」

 

「…」

 

青峰の言葉に、桃井は言葉を発することが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ハイポストでボールを貰う紫原。

 

「(くそっ! この距離じゃ、どうにもならない。どうにかして、ゴール下に行って……っ!?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ゴール下に行って、どうすんの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫原の頭の中に、そんな疑問が生まれる。

 

自身の最大の武器である、破壊の鉄槌(トールハンマー)は、難なく防がれてしまった。それが通じなければ、仮にゴール下まで行けたとしても紫原には手立てがない。

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

「っ!?」

 

紫原が思考状態に陥った瞬間、紫原に隙が出来た。それを見逃さなかった堀田は後ろからボールを弾いた。

 

「さすがッス! 大地!」

 

ボールを拾った空はフロントコート目掛けて走っている大地にロングパスを出す。

 

「っ! まずい、カウンターだ!」

 

陽泉選手達も慌ててディフェンスに戻っていく。

 

「よしっ! 行きます!」

 

ボールを受け取った大地はワンマン速攻を開始する。

 

「っ! この…!」

 

紫原も全速力で自陣まで戻っていく。

 

「っ!? やはり速い…」

 

後方から全速力で追いかけてくる紫原に思わず悪寒が走る。

 

「これでも私は、スピードが武器の選手です。自分より身長が高い選手にスピード負けなどできません!」

 

大地もグングン加速していく。

 

紫原も驚異的なスピードで自陣まで走っていく。だが、スタート位置、走り出しが良かった大地に、紫原は追いつくことが出来ない。

 

「この1本、行かせてもらいますっ!」

 

大地がボールを持って跳躍する。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのまま、ワンハンドダンクを叩き込んだ。

 

『来たーっ! 綾瀬のダンーク!!!』

 

決して身長が高くない大地によるダンクに、観客は沸き上がった。

 

「くそっ!」

 

ディフェンスに戻っていく大地を、苦々しい表情で睨みつける紫原。

 

点差は、さらに開いていく…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第3Q、残り10秒。

 

ボールを持つのは堀田。

 

「…」

 

「…」

 

このQ,最後となる2人の対決。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

堀田が紫原をかわしにかかる。

 

「っ!?」

 

ここで、堀田の表情が曇る。何故なら…。

 

 

 

 

 

 

 

――紫原は、それを棒立ちで見送ったからだ。

 

 

 

 

 

 

――バス!!!

 

 

堀田が悠々とレイアップで得点を決めた。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

ここで、第3Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第3Q終了。

 

花月 32

陽泉 24

 

 

第3Qが終了し、ついに点差が付いた。

 

「…」

 

「…っ」

 

堀田が紫原に視線を向けると、当の本人は、その視線を逸らすように陽泉ベンチに戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月ベンチ…。

 

「決着はもうまもなく、付いてしまうかもしれん」

 

「健?」

 

ベンチに座り、マネージャーの相川からドリンクとタオルを貰い、汗を拭っていると、堀田がポツリと言葉にする。

 

「またあの目だ」

 

「……そうか」

 

堀田の様子が少しおかしいことが気にかかっていた三杉だったが、今の言葉を聞いて、複雑な表情をしながら納得した。

 

2人がアメリカへと挑戦する以前のこと。

 

堀田は、恵まれた身体能力を武器に、コート上でこれ以上にない存在感を出していた。

 

だが、その実力は強大過ぎて、堀田を止められる者は皆無であり、ダブルチーム、トリプルチーム、時には、4人がかりでマークされても、堀田を止めることは出来なかった。

 

試合が進むと、相手チームは、堀田の圧倒的過ぎるディフェンスを前に、攻撃意欲を無くす。

 

そして、最後には、戦意さえも無くしてしまう。

 

その時に見せる相手の目を、堀田は、何度も見てきた。

 

第3Qの最後、紫原の目はその時と同じ、戦意がなくなりかけていた。

 

「紫原敦。奴なら、俺と対等の存在なってくれると思っていたんだがな…」

 

10年に1人の逸材と称されるキセキの世代。その中でも堀田は、同ポジションでもある、紫原敦を高く評価していた。

 

今、堀田は、戦意を失いかけている紫原を見て、失望しているのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

一方、陽泉ベンチ…。

 

『…』

 

ベンチ内は、第3Q前のインターバルの時とは違い、暗いムードに包まれている。

 

「…どうする?」

 

開口、口を開いたのは氷室。

 

「非常事態だ。まさかうちが、インサイドで圧倒されるとは…」

 

「堀田には俺も付くアルか?」

 

「いや、それではゾーンが崩れてしまう」

 

「なら、いっそ、シューターをもう1人入れるか? 木下ともう1人、外から撃てる選手が入れば…」

 

「逆効果だ。木下でさえ、こうも撃たせてもらえないんだ。逆に、インサイドが瓦解するだけだ」

 

「なら、どうします?」

 

陽泉選手達がどうにか対応策を考えようと意見を出し合っている。

 

「(…まさか、うちのインサイドがこうも崩されるとは…。未だかつて、うちがインサイドで悩まされることなどなかった…)」

 

監督の荒木も、今の事態に危機感を感じていた。

 

陽泉の監督として、選手達の動揺を抑え、対策を立てて選手達をコートに送り出したい。だが、それが浮かばない。何故なら…。

 

「(あの紫原が圧倒されることなど、どうやったら想像が出来る…!)」

 

陽泉のエースの一角の紫原が、たった1人の選手に抑えこまれている。

 

紫原は、頭からタオルかぶり、下を向いている。

 

第4Qが始まる前に、何か1つでも対応策を立てたい。

 

選手達が話し合う中…。

 

「ていうか、もう無理でしょ?」

 

今まで黙り込んでいた紫原がそっと口を開いた。

 

「もうどうしようもないし、考えるだけ無駄でしょ」

 

「っ!? 敦! お前、またそんなことを!?」

 

「何言ってんだよ! まだ試合は終わってないだろ!?」

 

試合を諦めたとも取れる紫原の言葉に、選手達は怒りを露わにする。

 

「じゃーどうすんの? 何か方法があるなら教えてよ。それするからさ」

 

紫原は、下を向いたまま、言い放つ。

 

「あるわけないじゃん。押しても押してもビクともしない。速く動いても追いつかれる。あんな化け物、どうすればいいんだよ!?」

 

紫原は激昂しながら声を荒げる。

 

「仮にどうにか出来ても、もう1人はどうするのさ!? 室ちんだって歯が立ってないじゃんか!」

 

「っ!」

 

もう1人、それは三杉のこと。

 

主に、三杉のマッチアップをしているのは氷室だが、これまで、ほとんどまともに止めきれていない。

 

三杉が堀田にラストパスをすることが多いため、その印象が周囲には残っていないが…。

 

『…』

 

この、タオルを握りしめて激昂する紫原の姿を見て、陽泉選手達は理解する。

 

紫原は決して、試合を投げ出したいわけではないのだと。

 

だが、堀田を打倒出来ない自分自身に…、見えてしまっている試合展開を前に、悔しさを隠すことが出来ない。

 

『…』

 

再び静まり返る陽泉ベンチ…。

 

「…紫原」

 

今まで口を開かなかった荒木がここで初めて口を開く。

 

「今ここで、お前を納得させるだけの言葉をかけることは出来ない」

 

「…」

 

「だが、これだけは言っておく。私は以前。このチームは、お前と氷室のダブルエースだと。だが、今は違う。お前はもはや、このチームのエースではない」

 

「…」

 

「お前は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――このチームの柱だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

「お前が折れれば、このチームはそこで終わる。だが、お前が折れなければ、まだ勝機はある」

 

「…」

 

「それだけは、忘れないでくれ」

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

ここで、インターバル終了のブザーが鳴る。

 

紫原は、無言のまま、コートに向かっていく。

 

続く陽泉選手達も、不安を拭えないまま、コートに向かっていった。

 

 

「…何て無能なのだ、私は!」

 

荒木は、拳が肉に食い込むほどきつく握りこみながら怒りを露わにする。

 

ここで優秀な監督なら、選手達の不安を払拭し、効率的で的確な作戦を与えて選手達を送り出すのだろう。

 

だが、それが出来ず、口から出たのは、何の具体性もない、ただの精神論だけ。

 

そんなことしか言えなかった自分が、選手達の力になれなかった自分がたまらなく憎いのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第4Qが始まり、ボールは現在、堀田が所持している。

 

目の前に立つは、紫原。

 

「…」

 

堀田のディフェンスをする紫原だが、その目には覇気がない。

 

「…お前はこの程度なのか? もう、抗うこともしないのか?」

 

「…」

 

堀田の問いに、紫原は何も答えることはしなかった。

 

そんな紫原を目の当たりにし、堀田は完全に紫原に失望した。

 

「…そうか。ならばもういい。そうやって、チームが負けるのを、そのまま見ていろ」

 

堀田がドリブルをし、紫原の横を抜ける。そのすれ違い様…。

 

「…もうお前には、何の期待もしない」

 

この言葉を囁きながら紫原の横を抜ける、そのままダンクへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(あーあ、早く試合終わんないかな~)」

 

紫原は、もう試合から意識が離れかけていた。

 

「(バスケなんてどうでもいいし、別に負けたって……っ!)」

 

その時、紫原の胸に、鋭い痛みが襲う。それは、以前にも経験したことがある痛みだった。

 

昨年の冬。誠凛に負けた時も、この痛みが襲った。

 

紫原にとって、初めてとも言える敗北だった。

 

 

――バスケなんて、欠陥競技…。

 

 

紫原にとってのバスケの認識はこうだった。ただ向いていたからやっていただけあって、試合に負けようがどうなろうがどうでもいい……はずだった。

 

だが、誠凛に負けた時、鋭い痛みと同時に、敗北の悔しさに、悔し涙が止まらなかった。

 

辞めようと1度は口にしたが、それでもバスケを辞めることは出来なかった。

 

 

 

 

 

――また、負けるの…?

 

 

 

 

 

頭の中でそう考えた時、紫原の胸に、鋭い痛みが襲う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――嫌だ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――嫌だ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――もう負けるのも…、あんな思いをするのも嫌だ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫原の目に、闘志が蘇る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…もうお前には、何の期待もしない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――何言ってんの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初めて会った時から気に入らなかった。

 

自分が上だと言わんばかりのその尊大な態度が…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――何で、こんなこと言われなきゃいけないの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫原の胸中では、怒りとも取れる感情が生まれてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――気に入らない…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――いつまでも…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――いつまでも…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「調子に乗ってんじゃねぇよ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――バチィィィィィッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

紫原はダンクに向かう堀田の前方に回り込み、そのダンクのブロックに行った。

 

「おぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!」

 

紫原が渾身の力を込める。

 

 

 

 

――バチィィィィン!!!

 

 

 

 

堀田の右手に収まっていたボールをその手から弾き飛ばした。

 

 

 

両者が同時に着地する。

 

 

 

そして静まり返る会場。

 

 

 

――おぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!

 

 

 

会場に熱気が戻る。

 

「もう負けるのは嫌なんだよ! もう誰にも負けない! たとえそれが赤ちんでも! …誰が相手でも、捻り潰してやる!!!」

 

最大限に声を荒げながら堀田に告げる。

 

「そうだ。それだ。紫原敦。やはり、俺の目に狂いはなかった。これでようやく、俺の臨む勝負が出来る…!」

 

堀田は、自分と対等の現れたことに、この試合一番の笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…この、紫原っちの迫力は!?」

 

「…間違いないのだよ」

 

「…紫原が、このまま終わるわけがない」

 

「ついに、来やがった…!」

 

黄瀬、緑間、赤司、火神は、紫原の変化に気付く。

 

「紫原の奴……入りやがった…!」

 

青峰がポツリと呟く。

 

 

 

紫原、ゾーンに突入する……。

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





紫原、ゾーンに突入です。

原作では、わずか1分足らず、しかも、最後には限界がきてしまって、正確な紫原のゾーンは語られなかったですが、それを何とか表現出来るよう、精進致します。

感想、アドバイスお待ちしています。

それではまた!
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