黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

遅れて申し訳ありませんm(_ _)m

とにかく忙しすぎて投稿出来ませんでした(^-^;)

それではどうぞ!


第40Q~秘策~

 

 

 

第4Q、残り9分43秒。

 

花月 32

陽泉 24

 

 

「来いよ」

 

堀田のダンクをブロックした紫原。ツーポイントエリアの真ん中を陣取る。

 

「…っ! この威圧感、さっきまでとは段違いだ…!」

 

ボールをキープする空。

 

ゾーンに入った紫原の威圧感に圧倒される。空は現在、スリーポイントラインの外側に立っている。

 

「(どうする…? 堀田さんにパスをするか? それとも…)」

 

空をマークする永野。空のドライブを警戒してか、若干ではあるが、空と距離を空けており、腰を深く落としている。

 

この場で空には、スリーを狙うという選択肢もある。

 

「(永野のディフェンスが深い。…なら、ここは…!)」

 

空がスリーを狙うべく、リングに意識を向ける。

 

「(…ピクッ)」

 

紫原が僅かに反応する。

 

「(っ!? 何だ今の…)」

 

空の身体が硬直する。

 

「(冗談だろ!? スリーポイントラインの外側だぞ!? 届くのか!?)」

 

先ほどから空の身体に刺さるようなプレッシャーが伝わっている。それはつまり、今、空がいるその場所は、紫原の迎撃エリア内だということを意味する。

 

「(…ダメだ! 今の俺じゃ、紫原は崩せない…!)」

 

自分との力の差を思い知る空。

 

「ちっ!」

 

空は永野をかわしながら堀田にボールを渡す。

 

「来いよ」

 

堀田はドリブルを始め、背中で紫原を押し込み始める。

 

「(むっ? 重くなったか…)」

 

紫原は腰を深く落とし、堀田の侵入を食い止めにかかる。

 

「こんの!」

 

歯を食い縛り、堀田をその場で押し留める。

 

「(なるほど、ゾーンに入ったことで、俺に抗うことが出来るまでになったか)」

 

第3Qまでとは明らかに様子が違う紫原に、堀田の表情が引き締まる。

 

「(俺とパワーで競うとは見事だ。…だが、まだ、甘い)」

 

堀田がさらに力を込め、押し込みにかかる。すると…。

 

「ぐっ!」

 

少しずつだが、堀田がゴール下へと侵入していく。

 

「っ! ゾーンに入った敦でも力負けするのか…!」

 

不可能なはずの実力の100%を引き出すゾーン。それに入ってもなお、堀田の力には届かない。

 

紫原が侵入阻止にさらに力を込める。それにより、堀田の侵入は阻止出来たが…。

 

「(だが、そこまで押し返すのに神経を注いでしまって、これに対応出来るか?)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

堀田はスピンムーブで反転しながら紫原をかわす。

 

『抜いたー!!!』

 

紫原を抜き去り、そのままボールを掴んでダンクに向かう。

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

「っ!」

 

だが、紫原は驚異的なスピードと反射神経ですぐさま堀田の前に回り込み、堀田のボースハンドダンクを両手でブロックする。

 

「何度も何度も決めさせるわけないだろ!」

 

紫原は両手に渾身の力を注ぐ。

 

 

――バチィィィィン!!!

 

 

堀田の両手に収まるボールを弾きだした。

 

『ついに紫原が堀田を止めたーーーっ!!!』

 

「ナイス、紫原!」

 

ルーズボールを木下が拾う。

 

「ちっ」

 

思わず舌打ちが出る堀田。

 

「まさか、健がブロックされるとはね」

 

これには、三杉にも驚きの表情が現れる。

 

木下がボールを拾い、そのボールを永野に渡し、そのままフロントコートまで進んでいく。

 

「よこせ!」

 

紫原がボールを要求し、永野がすかさずパスをする。

 

ボールを受け取った紫原はそのままドリブルで切り込んでいく。

 

「行かせへんで!」

 

天野がヘルプにやってきてディフェンスに入る。

 

「ぐっ!」

 

紫原は、体格を生かしたパワードリブルで強引に切り込んでいく。

 

「(なんやねん、これ!? まるでラッセル車やないか!)」

 

強引に、押しのけるようなドリブルに、天野は紫原の進路から弾き出される。

 

フリースローライン僅か前まで押し進むと、そこでボールを掴む。

 

「させん!」

 

ゴール下まで戻っていた堀田がブロックに向かう。

 

紫原は、横回転しながら跳躍する。

 

『紫原の破壊の鉄槌(トールハンマー)!』

 

『けど、さっきは止められたばかりだぞ!?』

 

 

 

―――バチィィィッ!!!

 

 

 

紫原のダンクに堀田のブロックが衝突する。

 

両者が空中で押し合いをする。

 

「(っ!? さっきまでとは違う!)」

 

堀田が徐々に押していき…。

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

堀田のブロックを弾き飛ばし、そのままボールをリングに叩きつけた。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!』

 

紫原が堀田との対決に初めて勝利した。

 

「…」

 

堀田が自身の、僅かに痺れた手を見つめる。

 

「(ゾーンに入って身体能力が引き出されたか…。だが、それだけじゃない…)」

 

堀田のダンクをブロックに行った際、紫原は僅かに前方に飛び、その力を加えて堀田との力の差を埋め、此度のダンクは、従来の破壊の鉄槌(トールハンマー)に、助走の勢いを加えて堀田のブロックを弾き飛ばした。

 

ゾーンに突入したものの、まだ、堀田の方が力ではまだ上回っている。その差を補うため、紫原は別の力を加えて対抗した。

 

堀田と紫原の勝負は、再び激化していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「いいぞ、敦」

 

ディフェンスに戻りながら、氷室が声をかける。

 

「もう負けたくないし、何より、あいつ(堀田)ムカつくから絶対負けたくない」

 

その表情は、いつものやる気がなさそうな表情とは一転、これ以上になく研ぎ澄まされている。

 

「…けど、次は止められないかもしれない」

 

紫原は、自身の手を見つめながらポツリと呟く。

 

「敦?」

 

そんな紫原を、氷室が怪訝そうな表情をする。

 

「まだ力はあいつの方が上。同じ手は多分通じない」

 

ゾーンに入っているため、これ以上になく現状を把握出来てしまう紫原。

 

「(ゾーンに入った敦をもってそこまで言わせるのか…)」

 

紫原の実力を誰よりも理解している氷室は、紫原にそこまで言わせる堀田の実力に改めて身震いする。

 

「…室ちん、力貸してくんない?」

 

「…まさか、敦の口からそんな言葉が出るとはね」

 

プライドが高い紫原。基本的に、敵を倒すのに誰かの力を借りるようなことはしない。

 

「ホントは俺1人で捻り潰したいけど、それは難しそうだし、…何より、負けるより100倍はマシ」

 

「…分かった。俺も力を貸そう」

 

紫原の言葉を了承した氷室。

 

陽泉の反撃が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「楽しんでるかい、健」

 

三杉が堀田に声をかける。

 

「バカを言うな、三杉。…そんな余裕、もはや無い」

 

先ほどまで試合を楽しんでいた堀田。現在、堀田の表情からは笑みは消えている。

 

「戦いを楽しんでいては足元を掬われるだろう。これからは、楽しむのではなく、勝つためのバスケをしよう」

 

「…分かった。こちらも、出来る限り援護をするよ」

 

「露払いをしてくれればそれでいい」

 

「分かってるよ。約束どおり、君と紫原君の勝負に水は差さないよ」

 

2人は、オフェンスへと向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ボールを進めるのは空。

 

その表情は優れない。

 

「(…話には聞いたことがあるけど、これがゾーンって奴か…)」

 

突如、紫原が様変わりした理由に気付いた空。

 

「…ちっ!」

 

相変わらず、紫原はツーポイントエリアの中央で存在感を露わにしている。

 

そこから相変わらず空へプレッシャーを与え続けていた。

 

「(今の俺じゃ、1人で紫原から得点を奪うのは不可能だ。…崩すには、連携しかない…)」

 

ここで、空は大地に視線で合図を送る。

 

「(…コクリ)」

 

合図に反応した大地が頷く。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

それを確認した空は、インサイドへカットインする。

 

永野はそうはさせまいと食らいついていく。

 

それを見越していた空は、直後にクロスオーバーで切り返し、反対側から永野をかわす。

 

ヘルプに氷室が来ると、それに捕まえる前にノールック・ビハインドパスで大地にボールを渡す。

 

「行きます」

 

ボールを受け取った大地はそのまま紫原に突っ込んでいく。

 

「お前ごときが勝てると思ってんの?」

 

迎撃態勢万全の紫原。

 

そのままペイントエリアまで侵入すると、そのままリングに向かって跳躍する。

 

「ハァ? 舐めてんの?」

 

当然、紫原もブロックするべく跳躍する。

 

 

――ビュン!!!

 

 

紫原がブロックに飛んだその瞬間、大地は身体を反転させ、後方にパスを捌く。

 

「よし! 狙うならここしかねぇ!」

 

ボールを受け取った空。ブロックに飛んだ隙を狙う。

 

ワンドリブルを入れてそのままシュート態勢に入る。

 

「させないアル!」

 

そこへ、劉のヘルプが現れた。

 

2メートルを超える劉のブロックは、空の前方をすっぽりと塞いでしまう。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

空は、レイアップの態勢から、上へ放り投げるようにボールを放った。

 

『これは!?』

 

放ったボールは、劉の伸ばした手の上を弧を描くように越えていく。

 

『まさか!?』

 

『スクープショットだ!』

 

ボールは劉の上を越えてリングへと向かう…と、思ったその時!

 

「お前らじゃ無理に決まってんじゃん」

 

劉の後方から、新たな手が飛び出す。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「ぐっ!」

 

空が放ったボールは、紫原によって弾かれてしまう。

 

「(くそっ! 今までさんざんやられまくって、紫原の反射速度は掴んだつもりだったが…)」

 

「(ここに来て、さらに反射速度が……、これがゾーン…!)」

 

大地が紫原を極限まで引き付け、空がその隙を付いてゴールを沈める。

 

だが、紫原の反射速度は、2人の上を行く。

 

ルーズボールを永野が拾い、陽泉のカウンターが始まる。

 

「ちっ!」

 

空は軽く舌打ちをし、ディフェンスへと戻っていく。

 

「オフェンスでは全て俺にボールを預けろ」

 

「堀田さん?」

 

戻りながら、堀田が空に声をかける。

 

「今のお前達では紫原から点を奪うことはほぼ不可能だ」

 

「っ…」

 

単刀直入の堀田の言葉に空は思わず歯を食い縛る。

 

「頼んだぞ」

 

それだけ告げて、堀田は戻っていく。

 

「ドンマイ」

 

「三杉さん…」

 

そこに、隣にやってきた三杉が、空の背中をポンと軽く叩きながら声をかける。

 

「健も別に、お前らを過小評価しているわけではない。だから――」

 

「別に、分かっていたことです。気にしてない、と言えば嘘になりますが、受け入れますよ」

 

空は表情を引き締める。

 

「正直、勝てそうにありません。……今の俺達では…。けど、絶対、近いうちにあそこに行きますよ」

 

「…ふっ、そうか」

 

空の回答を聞いて、三杉は満足そうに微笑む。

 

もし、ここで空が現実を受け止めず、熱くなっていたり、現実を思い知り、心が折れていたら、三杉は失望していただろう。だが、空の表情は、現実を受け止めつつも、心も折れていない。

 

「…」

 

それは、大地も同様であった。

 

「さあ、ディフェンスだ。多分、向こうは何か仕掛けてくる。動揺するなよ」

 

空と三杉、花月の選手達は、ディフェンスへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

陽泉側が、フロントエリアに侵入する。

 

「永野!」

 

それと同時に、氷室がパスを要求する。永野、すかさず永野にボールを渡す。

 

ポジション的に一番近くにいた空がディフェンスに付く。

 

ボールを受け取った氷室。ゆっくりドリブルを始めると、左手の人差し指を1本立て…。

 

「さあ、1本決めていこう!」

 

ゲームメイクを開始する。

 

『これは、まさか!』

 

『氷室がポイントガードをするのか!?』

 

突如、氷室がゲームメイクを始めたことにより、観客からどよめきが起こる。

 

『っ!?』

 

それは、花月側も同様だった。

 

 

「氷室がポイントガード…確かに、あいつはパスも捌けるが…」

 

伊月が少々面を食らう。

 

「(タツヤは視野も広いし、並のポイントガードより、パスセンスもある。アメリカ時代でも、ポイントガードをしたことはあったが…)」

 

終盤のこの局面での奇策。火神はいささか不安を感じていた。

 

 

「(奇策ではない。この戦術は、かねてより構想はあった。本当は、対洛山戦の為に用意した戦術プランだったが、ここで負けてしまっては元も子もない)」

 

バスケにおいて、重要とも言えるポジションであるポイントガードとセンター。陽泉には紫原という強力なセンターがいるが、ポイントガードは永野。全国レベルに恥じない実力を有しているが、赤司相手では分が悪い。

 

そこで戦術の1つとして用意したのが、氷室のポイントガードに据えたフォーメーション。

 

氷室なら、赤司が相手でも対抗が出来る、という考えで洛山相手を想定して用意していた氷室ポイントガード。

 

実は、このプランは、昨年時から構想はあった。

 

氷室を、昨年時の副主将であり、司令塔の役割を担っていた福井の代わりに司令塔を任せ、空いたシューティングガードのポジションに木下を置く。

 

もし、これが実現していれば、2メートル選手3人に、190cm台が1人の最強のインサイドに加え、外からの飛び道具も加わる。

 

冬で敗戦した誠凛はもちろん、冬を制することも出来たかもしれない。これは、氷室が陽泉に加入した時期が遅すぎ、机上の空論に終わってしまったが…。

 

「ちっ!」

 

空は思わず舌打ちをする。

 

星南中時代に、監督龍川に見出され、空はポイントガードにコンバートされた。

 

オフェンス意識が高い空。当初こそ、司令塔に任命されたことに反発を覚えたが、試合を重ねていくうちに、ゲームメイクすることに楽しさを覚え、今では自身に1番合ったポジションだとも思えるようになった。

 

キャリアこそ浅いが、ポイントガードというポジションにこだわりがある空。素質はあれど、本来のポジションではない氷室がポイントガードをすることに軽く憤りを覚えた。

 

「(いよいよ負けられねぇ。本来のポジションじゃない奴に負けられるかよ!)」

 

空は腰を落とし、睨みつけながら氷室の一挙手一投足に注視する。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

氷室がクロスオーバーで空の右側から仕掛ける。

 

「(右! …いや、これはフェイクだろ!)」

 

読み通り、氷室は空の右側からではなく、左側から仕掛けていた。

 

空は遅れることなく氷室にピタリと付いていく。

 

抜けないと悟った氷室は、その場で一旦止まり、オーバーヘッドパスでハイポストに展開していた永野にパスを出す。

 

それと同時に永野の傍まで走り出し、すれ違い様にボールを受け取り、そのまま堀田に突っ込んでいく。

 

「来い」

 

両腕を広げ、攻撃に備える堀田。

 

リングにグングン迫っていく氷室。だが、堀田は紫原のマークは外さず、ヘルプに行かない。

 

「(来ないつもりか? なら、このまま決めさせてもらう)」

 

そのままゴール下まで侵入し、レイアップの態勢に入る。

 

堀田は、氷室がレイアップの態勢に入ったまさにその瞬間にブロックに向かう。

 

「(来ると思っていたよ!)」

 

シュートブロックに来た堀田を確認した氷室は、レイアップの態勢からリングの近辺に放るようにボールを投げる。

 

そこに、紫原が示し合わせたかのように飛んでくる。

 

「ちぃっ!」

 

着地し、すかさず紫原のブロックに向かうが…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

不安定な態勢では紫原の渾身のダンクに抗えず、ブロックを弾き飛ばされてしまう。

 

『うおぉぉぉぉぉっ! すげぇコンビネーション!』

 

「いいぞ、敦!」

 

「室ちんも、ナイスパス」

 

ハイタッチをして健闘を称えあう2人。

 

「ちっ! 1本、返しましょう!」

 

空が声を張り上げ、ゲームメイクを始める。

 

「っ!」

 

空の前に立つのは、永野ではなく、氷室。

 

陽泉のディフェンスが変わる。2-3ゾーンからマンツーに。堀田に紫原。大地に永野。三杉に劉と木下のダブルチーム。天野はノーマーク。

 

「(堀田は今の敦なら対等に渡り合える。だが、他のメンバーで三杉を抑えることは難しい。なら、ボールを持たせなければいい。故に、潰すのは…)」

 

「なるほど、潰すのは、ボール運びをする俺ってことか…」

 

劉と木下で、全力でマークしボールを持たせないようにし、ボールを回しをする空を氷室がシャットアウトする。

 

ボールが回らなければ、三杉と堀田がどれだけ強力であろうとも、意味をなさない。

 

 

――ギリ…!

 

 

陽泉が布いてきた戦術に作戦を目の当たりにし、空は憤りを感じた。

 

「(要は、俺は舐められてるってことかよ…!)」

 

氷室が空を完封出来ることが前提に立てられたこの戦術。

 

「(けど、ここでムキになって突っかかっていたら、それこそ向こうの思う壺。…だが!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「気に入らねぇんだよ! その上から目線の余裕がよぉ!」

 

氷室に1ON1を仕掛ける。

 

「(若いな…)」

 

空はクロスオーバーで仕掛けるが、氷室はそれに付いていく。

 

「ちぃっ! なら!」

 

レッグスルーで切り返す。だが、それにも氷室は付いていく。

 

「キレが悪いよ。それでフェイントのつもりなら、俺には通じない」

 

「そうかい、だったら通じるまで続けるまでだよ!」

 

そこから空は、前、股下、背中の後ろでボールを連続で切り返し続けた。

 

「……くっ!」

 

スピードとキレがどんどん増す空の連続切り返しに、氷室の余裕がどんどんなくなっていく。

 

「(何て奴だ! 思えば、試合が始まってから動きがどんどん良くなっていく。試合前とは別人に思えるほどに…!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!」

 

機を見て空がダックインで氷室の左側から仕掛ける。

 

「ぐっ!」

 

氷室、不意を突かれるも、何とか空を追いかける。

 

「問題です。ボールをいったいどこにあるでしょう♪」

 

「っ!?」

 

ニヤリと、笑みを浮かべながら問いかける空。

 

氷室はここで初めて、空の手にボールがないことに気付く。

 

「(何処に…?)」

 

氷室は、ボールの所在を探す。

 

「氷室! 後ろアル!」

 

「っ!?」

 

ボールは、今正に氷室の頭を越えて後方へと落ちようとしていた。

 

空は、ダックインし、氷室が空を追いかけようとした直後、ボールを背中の後ろで手首のスナップを利かせ、氷室の後方へと放り投げた。

 

完全なる死角を突かれた氷室は、ボールを一瞬見失ってしまった。

 

空は外回りに反転しながらボールを追いかけ、ボールを拾う。

 

「くっ!」

 

それでも何とか空を追いかけるべく、1歩踏み出す。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

空は、踏み出した氷室の股下にボールを通し、そのまま切り返す。

 

「俺相手ならいつでも止められると思ってたんなら、舐めすぎだよ」

 

すれ違い様に呟き、氷室を抜き去った。

 

『うおぉぉぉぉぉっ! 氷室を抜いたーーーっ!!!』

 

氷室を抜いた。

 

「空!」

 

それと同時に劉と木下のマークを振り切った三杉が右サイドでボールを要求。

 

「よし!」

 

ここでボールを手に取り、三杉へとボールを出す。

 

「っ!?」

 

が、空はそのパスを途中で止め、ビハインドバックパスに切り替え、反対サイドに展開していた天野のパスを出した。その直後…。

 

「あっぶねぇ、油断も隙もねぇな」

 

「くそっ!」

 

空の後方、死角から、空と三杉のパスコースを塞ぐように氷室が現れた。

 

「堀田さん!」

 

ボールを受け取った天野は、すぐさまローポストに展開している堀田にパスを出す。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!』

 

両チームのセンター対決。

 

この試合の目玉と言える両者の対決。今や、どちらかにボールが渡るだけで歓声が上がる。

 

『堀田はどう攻める?』

 

『紫原はもう、堀田を凌ぐ勢いだぞ!?』

 

「…」

 

「…」

 

無言で対峙する両者。

 

「(まともな勝負では勝てないことはもう理解しているはず。なら、堀田はここでどのような手を打ってくるか…。紫原を引き付けてパスを捌くことも考えられる)」

 

陽泉選手達は、パスも視野に入れ、動き出す。

 

 

――ズン!!!

 

 

「っ!」

 

堀田はパワードリブルで紫原を押し込み始める。

 

紫原は踏ん張るも、ジワリジワリとゴール下まで押し込まれていく。

 

押し込んだ直後、堀田はボールを掴んで跳躍する。

 

「させるかよ!」

 

紫原もブロックに飛ぶ。

 

紫原が堀田の立ち塞がるように現れる。

 

『よし!』

 

それを目の当たりにした陽泉サイドはブロックを確信して拳を握る。

 

「ぬぅん!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「がっ!」

 

ブロックに飛んだ紫原を力付くで弾き飛ばし、リングにボールを叩きつけた。

 

尻もちを付く紫原。コートに着地し、紫原を見下ろす堀田。

 

「ここで小細工に走るようなやわな鍛え方はしていない。俺の武器はあくまでも、この鍛え上げた肉体とそこから培ったパワーだ」

 

「っ! 上等だよ、絶対捻り潰す!」

 

立ち上がり、鬼の形相で睨みつける紫原。

 

オフェンスが陽泉に切り替わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「なんて、パワーだよ…!」

 

一連のプレーを見ていた火神は思わず冷や汗を流しながら呟く。

 

「あいつ(堀田)の力は、ゾーンに入った紫原をも上回るのかよ…」

 

ゾーンに入り、100%の力を引き出した紫原の力は凄まじい。だが、堀田はその紫原を正面から弾き飛ばした。

 

「それにその前の、タツヤをかわした神城のテクニック…。キレやスピードはまだまだ及ばねぇが、あれは青峰と同じ、ストリートのバスケだ」

 

最初に見せた左右の揺さぶり、ダックインした直後の氷室の後方に放ったプレー、最後の股下にボールを通した、シャムゴットと称されるテクニック。

 

これらはストリートでよく見られるテクニックである。

 

「試合当初は良いようにあしらわれていたが、今では、タツヤに付いていってるし、ついには抜けるまでになってやがる」

 

キセキの世代に近しい才能を持つ氷室。その実力は、火神も身をもって理解している。

 

火神は、空と大地の成長速度の速さに、軽く恐怖を感じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「ナイッシュ、健」

 

ディフェンスに戻りながら健闘を称える三杉。

 

「…とはいえ、向こうはこれからも氷室をポイントガードに据えて攻めてくるだろう。いくら健でも、今の紫原と氷室を同時に相手取るのは困難だろう」

 

「…ふむ」

 

三杉の分析に、堀田は唸るように返事をする。

 

「空も、ようやく氷室に対抗出来るまでにはなったが、まだ止めるのは難しい。…ここは、俺が氷室に当たろう」

 

「動くのか?」

 

「ああ。空や綾瀬に氷室をぶつけて、成長を促したかったんだが、とりあえずここまでだ。まず、陽泉側に傾きかけた勢いを止める。その為に、まずは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――氷室の心を支配する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

陽泉のオフェンス…。

 

ボールをキープし、ゲームメイクするのは氷室。

 

「…やはり来たか」

 

司令塔となった氷室をディフェンスするのは……三杉。

 

「…むぅ」

 

不満顔の空。もっと相手をしたかったのだが、今の空では氷室を抑えることは難しい為、渋々マークを変わる。

 

これを想定していた為、氷室の表情に焦りや驚きはない。

 

「この流れは切らせない」

 

「悪いが、これ以上はやらせるつもりはない、止めるよ」

 

対峙する両者。

 

氷室が動く、シュートモーションに入った。

 

『うおっ、いきなり行った!』

 

だが、三杉はブロックに飛ばない。

 

「(読まれたか…だが、想定の範囲内だ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

シュートはフェイクであり、それを看破した三杉。氷室はすかさずドライブで三杉の右側を抜けて切り込んでいく。

 

『フェイクだったのかよ!?』

 

『氷室が仕掛けた!』

 

観客は、再び騙されることになる。

 

右側からのドライブ。これもフェイクであり、本命は、左側からのドライブ。

 

「っ!?」

 

だが、三杉はそのフェイクに引っかかることなく付いていく。

 

「…やはり、あなたには通じないか。…だが、それも織り込み済みだ」

 

氷室はそこでビハインドバックパスを劉に出す。

 

自身のフェイクが三杉には通じないことを想定していた氷室は焦ることなく劉にボールを渡す。

 

「(抜けずとも、彼(三杉)を俺に引き付けることが出来ればそれでいい)」

 

「ナイスアル!」

 

ボールを受け取った劉はすかさず紫原にボールを渡す。

 

「っ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

高速スピンターンで堀田をかわす。

 

そして、そのまま跳躍する。

 

「ふっ!」

 

そこに、堀田がブロックに現れた。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

両者が再び激突する。

 

ボールは紫原の手から離れる。

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールはリングを弾く。

 

 

――ポン…。

 

 

弾かれたボールを劉がタップし、リングへと押し込む。

 

「紫原を全員でフォローするアル」

 

紫原を最大限に生かすための氷室ポイントガード。

 

この1本をものにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

オフェンスが切り替わり、花月のオフェンス。

 

『っ!?』

 

陽泉側が驚愕する。

 

「さあ、1本、行こうか」

 

ゲームメイクを始めたのは何と三杉。

 

「…これは、少し驚いたな」

 

ポツリと呟くように言葉を発する氷室。

 

永野では三杉を止めることは不可能な為、ディフェンスに付くのは氷室。

 

「…」

 

「…」

 

睨む合う両者。

 

三杉がシュートモーションに入る。

 

「(よく見ろ! 彼を止められるのは俺だけなんだ!)」

 

氷室はフェイクと読み、ブロックに飛ばない。

 

シュートではなく、ドライブを仕掛けていた三杉。それを何とか看破した氷室は、三杉を追いかける。

 

「止め……なっ!?」

 

だが、振り返ると三杉はそこにおらず、今一度先ほど、三杉が立っていた場所に視線を戻すと、そこには、シュート態勢に入っていた三杉の姿があった。

 

2重のフェイクをかけ、氷室を翻弄した三杉は、悠々とシュート放つ。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールは綺麗にリングの中心を潜った。

 

「くっ! …だが、次は必ず…!」

 

対抗心を燃やす氷室。その表情は闘志に溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は再び拮抗する。

 

花月は、三杉がゲームメイクをし、ぺネトレイトで切り込み、そこから堀田にパスを捌き、堀田がフィニッシャーとなる。

 

対する陽泉は、氷室がゲームメイクをし、紫原をフィニッシャーとなっている。

 

その他のメンバーがフォローに回り、得点を重ねていく。

 

勝負の目玉はやはり堀田と紫原のセンター対決。

 

一方が決めれば一方決め、一方が止めれば一方が止める。

 

試合は、再び均衡が保たれ始めた。

 

試合は第4Q終盤へと向かっていく。

 

しかし、この均衡のある一角がすでに崩れ始めていた。

 

そしてそれは、突如現れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第4Q、残り3分12秒。

 

花月 46

陽泉 40

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

三杉がゆっくりドリブルをし、ゲームメイクをしている。

 

「…」

 

落ち着いてボールをキープをしている三杉に対し…。

 

「ハァ…ハァ…!」

 

大きく肩で息をしている氷室。心なしか、目の焦点が合っていないように見える。

 

「氷室?」

 

氷室の違和感に監督の荒木が気付く。

 

三杉は、特にフェイクをかけることなく、ドライブを仕掛ける。

 

「っ!?」

 

それに対して氷室は、何故かシュートブロックモーションに入る。

 

「室ちん!?」

 

氷室の行動に、誰しもが目を疑った。

 

今の三杉のドライブは、周囲の者すべてがドライブだと認識出来たからだ。

 

「っ!」

 

やむを得ず、紫原がヘルプへと飛び出す。

 

 

――ピッ!!!

 

 

その瞬間を狙い、堀田に矢のようなパスを出す。

 

「あっ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ヘルプに飛び出していた紫原はブロックに行けず、堀田のワンハンドダンクが炸裂する。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!』

 

三杉と堀田がハイタッチをしながらディフェンスに戻っていく。

 

「氷室、どうした!?」

 

心配になった陽泉選手達が氷室に駆け寄る。

 

「今…のは、フェイク…?」

 

未だに正気に戻ったとは言えない氷室を心配する選手達。

 

「ああ…大丈夫だ…」

 

氷室は、様子が変わらないまま、オフェンスに向かっていった。

 

『…』

 

そんな氷室を、怪訝そうな表情で見送っていく。

 

 

オフェンスは陽泉。ボールは氷室が所持している。

 

「っ…」

 

ディフェンスに立つのは三杉。心なしか、氷室は怯えているようにも見える。

 

「っ!」

 

三杉がプレッシャーを強めると、それから逃げるようにアウトサイドに展開している木下にパスを出した。

 

「ひ、氷室さん!」

 

「あっ…」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

無造作に出されたパスは、大地によってスティールされる。

 

「やはり氷室の様子がおかしい」

 

氷室らしからぬミスを目の当たりにし、非常事態と見て荒木がタイムアウトを申請すべく動く。

 

ボールを奪った大地はすぐさま三杉にボールを渡す。

 

三杉の前に立ち塞がるのは氷室。

 

「ハァ…ハァ…!」

 

「…無駄だよ。君はもう、見失っている」

 

三杉がゆっくりと進んでいく。

 

「あっ…あっ――」

 

 

 

 

 

 

「虚実に目を奪われ、現実を見失った君が、真実に辿り着くことはない」

 

 

 

 

 

 

三杉は、何のフェイントも無い、ゆっくりとしたドライブで氷室の横を抜けていく。

 

氷室は、目を見開いたまま、ボールを奪うことはおろか、ピクリとも動くことも出来ず、棒立ちのまま、三杉に抜き去られた。

 

それと同時に加速し、ゴール下で待ち構える紫原に突っ込んでいく。

 

レイアップの態勢に入ると、それを阻止するため、紫原がブロックに現れる。

 

 

――ドン!!!

 

 

三杉と紫原が激突する。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

審判が笛を吹く。

 

体格で下回る三杉が弾かれる形となる。

 

 

――ピッ!!!

 

 

弾かれながらボールをリングに向けて放り投げる。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜る。

 

「ディフェンス、チャージング、白8番! バスケットカウント、ワンスロー!」

 

『うおぉぉぉぉぉっ! バスカンだ!』

 

倒れこみながら拳を握る三杉。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

ここで、陽泉のタイムアウトのブザーが鳴る。

 

氷室の乱調。陽泉側に暗雲が差し掛かる。

 

試合は第4Q終盤差し掛かり、クライマックスへと向かっていくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





ついに三杉が動きました。

能力の詳細は次話にてさせていただきます。

年内最後の投稿となります。

皆さん、良いお年を…。

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!
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