「「「…(ゴクッ)」」」
コートの中央に整列する星南中学の面々。その表情は緊張に包まれている。
全中地方予選決勝。今日の相手は全国レベルの強豪校の1つである東郷中学。遡ること10年以上全中大会出場を逃したことはなく、昨年も全中大会準優勝校の明洸中学相手に敗れたものの、逆転に次ぐ逆転の好ゲームを繰り広げている。
星南中学スターティングメンバー
4番C :田仲潤 187㎝
5番PG:神城空 177㎝
6番SF:綾瀬大地 179㎝
7番PF:駒込康平 181㎝
9番SG:森崎秀隆 171㎝
東郷中学スターティングメンバー
4番PG :三浦祐二 171㎝
5番C :高島新之助 190㎝
6番SF :木原康生 180㎝
7番PF :鈴木巧 185㎝
10番SG:牧村宗次 174㎝
今年の東郷中学は弱点や穴は特になく、選手のそれぞれがバランスよく鍛えられており、特に昨年時にもスタメンを勝ち取っている三浦と高島は昨年の雪辱を果たすべく、今年にかける想いは強い。
『東ー郷!!! 東ー郷!!!』
応援席からは東郷中学の部員達による応援が鳴り響く。強豪校だけに部員数は多く、ユニフォームを獲得できなかった者も多い。その者達がチームを鼓舞するべく、腹の底から声を出して応援している。
強豪校ならではの光景。空と大地を除く星南中学の面々はその光景に圧倒されている。
「やっぱり全国区の学校は凄ぇな…」
森崎がポツリと苦笑いを浮かべながら呟く。
「ハッ! 強豪だろうが何だろうが、コートでは等しく5人で戦うんだ。ビビることはねぇよ」
空が森崎の肩に手を回しながら声をかける。
「相手がどこであろうと、私達のやることは変わりません。私達は私達のバスケを致しましょう」
大地が続けて声をかける。2人の余裕の笑顔に、身体や表情に硬さが残っていたスタメン達に余裕が生まれる。
「試合開始!」
ジャンパーは星南中学は田仲で東郷中学は高島。審判のコールの後、ボールが高く上げられる。
ジャンプボールを制したのは身長で勝る高島。東郷ボールで試合はスタートする。
星南のディフェンスはハーフコートマンツーで、それぞれが同ポジションの者をマークしている。
東郷はパスを回しながらゲームを組み立てていく。無茶なドリブル突破はせず、パスを回しながらチャンスを窺う。
ボールは3Pラインのやや外側に立つ牧村に渡る。シューターでもある牧村の3Pを警戒し、森崎がすかさずプレッシャーをかけにいく。
――スッ…。
牧村が3Pの体勢に入る。森崎がブロックするべくジャンプする。
「っ!?」
だが、牧村は途中でショットを止め、フェイクをかけ、そのままドライブで森崎の横を駆け抜ける。
ヘルプに大地が向かう。牧村は大地につかまる前にゴール下の高島にボールを捌く。ボールを受け取った高島がそのままゴール下を決める。
先制点は東郷。
「気にするな! 返すぞ!」
素早くリスタートし、空がボールを受け取る。
「1本! 行くぞ!」
空がゆっくりドリブルしながらボールを進めていく。
中央付近で大地にボールを渡す。
「っ!?」
大地にボールが渡ると東郷が木原、鈴木、牧村の3人が取り囲む。
「綾瀬にトリプルチーム!?」
その光景に星南から驚愕の声が上がる。大地自身も僅かに目を見開いている。
星南の総得点の7割近くが大地。大地さえ潰せば試合に勝てる、というのが東郷の目論見だ。
「まさか、全国区の東郷さんがトリプルチームとはねぇ」
空がポツリと感想を呟く。
「ワンマンチームはそいつを潰せばそれで終いだからな。ま、悪く思わないでくれ」
空の呟きに空をマークしている三浦が囁くように言う。
「…」
空はその言葉に若干勘に障った。大地の実力は充分に認めているが、自分が半ば雑魚扱いされていることが納得できなかったのだ。
空は初戦以降、積極的に点を取りに行かず、パス中心で試合をしていたため、東郷側の警戒は薄かった。
「空!」
大地は1度空にボールを戻す。ボールを離れると鈴木のみがマークから外れ、後の2人はそのまま大地についている。
「(ボールがない状態でも2人か…)」
東郷はとにかく大地に仕事をさせないつもりなのだと空は認識する。
「(…あれ? 大地がダメな今、俺が点を取らなきゃいけないんじゃないか?)」
空はとある考えが浮かぶ。そして、ベンチの龍川に目をキラキラさせながら視線を向ける。
龍川はハァ~と深く溜め息を吐きながら。
「(好きにせぇや)」
と、龍川が許可を出す。
「(よっしゃーっ! 楽しくなってきたーーーっ!!!)」
試合での制限が解除され、嬉々とした表情を浮かべる。
「(なんでそんなに嬉しそうなんですか…)」
大地がその様子を見て苦笑いを浮かべる。
「余所見してんじゃねぇ!」
ベンチ方向に視線を向け、マークマンの三浦から目を放して空のボールを奪うべくカットに向かう。
空はボールに触れられる直前にバックロールターンでかわし、そのまま一気に加速し、ゴール下へと侵入する。
「ふっ!」
空がレイアップの体勢に入る。
「させるか!」
高島がブロックに飛ぶ。
――スッ…。
「っ!?」
空は1度ボールを下げ、高島の左脇の下からリングに放り投げた。
――ザシュッ!!!
ボールはリングを潜る。
「っ! ダブルクラッチ…」
高島がポツリと呟く。
空が見せた高等技術に東郷メンバーも息を飲む。
ここから、東郷中学の計算が狂い始める。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「5番を止めろ!」
東郷ベンチから指示が飛ぶ。だが…。
「っ!」
「くそっ!」
空は東郷のディフェンスを物ともせず、ガンガンドライブで相手ディフェンス突破し、得点を重ねていく。そのあまりのスピードとテクニックに東郷中は空は止めきれないでいた。
「星南の5番にこんな得点力があるとは…」
これには東郷の監督も頭を抱えた。東郷とて、星南の研究をしなかったわけではない。侮りは禁物と、星南の研究は欠かさなかった。空が得点を取りまくった試合は1回戦のみで、それ以降はボールを持てばパスを中心に、ドリブル突破もそこそこに得点は決定時しか奪っていなかった。
東郷の空の評価はパス回しこそ特化しているが、それ以外は平凡なPG。これが東郷の評価だった。
――ザシュッ!!!
空の3Pが決まる。星南の…空の勢いは止まらない。
これまで窮屈なプレーを強いられていた鬱憤を晴らすかのように空は得点を量産していく。たまらず、東郷は第1Qは半ばにタイムアウトを取り、終了後に、大地のトリプルチームを解き、空と大地に1人ずつマークし、残りはゾーンを組む。トライアングルツーで対抗。
ボールを所持する空。それをマークするのは三浦。その表情に侮りはなく、全神経をディフェンスに注いでいる。
「やる気になってくれてなにより。それじゃ…行くぜ!」
――ダムッ!!!
「っ! くそっ!」
クロスオーバーで三浦を抜き去る。グングン加速しながら東郷ゴールへと迫る。高島と鈴木のヘルプにくる。
――スッ…。
空は囲まれる直前にパスを捌く。
「ようやく、やりやすくなりました」
ボールを受け取った大地がミドルシュートを決める。
マークを振り切った大地に絶妙のタイミングでパスが渡り、得点が加算される。
※ ※ ※
その後、制限が外された空とトリプルチームを解消された大地によって星南ペースで試合が進んでいく。東郷も分があるインサイド中心に攻め立てて食らいつく。第3Q終了時、点差僅か6点。星南リードで終了する。
試合は第4Qから動き出す。
「ハァ…ハァ…」
「ゼェ…ゼェ…」
ここで、空をマークしていた三浦と、大地をマークしていた木原のスタミナが尽きる。
運動量もスピードも尋常ではない2人を第3Qまでは気力と根性でマークし続けた2人だが、遂に限界が訪れた。2人の交代によって点差は更に広がっていく。
さらに、インサイド主体で攻め立ててきたが、それも読まれ始め、インサイドに陣取る高島と鈴木へのパスは空か大地のディナイによってカットされ、得点力が半減。攻めてを欠く。
――ガシィィッ!!!
「綾瀬! 行け!」
「助かります」
田仲がスクリーンをかけ、大地をフリーにする。
――ザシュッ!!!
森崎が3Pが決める。
駒込がハイポストでボールを受け、そこから大地へとボールを捌き、ポストプレーをこなす。
東郷のペースにも慣れてきた田仲、森崎、駒込が、的確に空と大地のフォローにまわり、星南本来の持ち味が発揮される。
高島、鈴木、牧村と、1度はベンチに戻り、体力を回復させた三浦と木原が奮闘するも…。
『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』
試合終了のブザーが鳴り響く。
星南 79
東郷 62
星南が全中大会地方予選決勝を制した。
「っしゃぁぁぁーーーっ!!!」
空は大きくガッツポーズをする。
「やりましたね」
大地は空の下に歩み寄り、パチン! と、ハイタッチする。
「「「よっしゅあーーーっ!!!」」」
田仲と森崎と駒込が歓喜の表情で空と大地の抱きつく。その目には涙が浮かんでいる。
星南ベンチのメンバーもその輪に駆け寄っていく。龍川はベンチから腰を動かさず。
「ようやった」
と、試合を戦い、勝利をもぎ取った5人を労った。
『ありがとうございました!』
整列し、互いに礼をする。
「完敗だよ。この借りは全中で返すよ」
「楽しかった。またやろうぜ」
空と三浦が固く握手する。
「次は負けねぇからな!」
「こちらも同様ですよ」
大地と木原が同じく握手する。
その他の面々もそれぞれ握手し、健闘を称えている。
東海地方の全中出場枠は3つ。敗れた東郷にも出場権があり、全中大会で再び戦う可能性がある。そこでの再戦を誓い、ベンチへと戻っていった。
※ ※ ※
全中大会地方予選を見事優勝を勝ち取った星南。
空と大地の最初で最後の挑戦権を勝ち取り、地方予選を超える戦いが始まるのだった……。
続く