投稿します!
先週投稿予定でしたが、多忙によりここまで伸びてしまいました…(^-^;)
そして、過去最大のボリュームです。
それではどうぞ!
「舐めた真似してくれやがって…。てめえら、ただでアメリカに帰れると思うなよ」
三杉がジャバウォックの選手達に向けて荒い口調で言い放った。
第4Q、残り4分10秒。
花月 74
J・W 79
三杉がニックとシルバーをかわし、得点を決めた。
「三杉がゾーンに入った。…それより、今、三杉は何をしたんだ?」
ゾーンに入ったことにも驚いたが、それ以上に火神は、その前のニックとシルバーが突然倒れた事に疑問を覚えた。
「昨年の冬に黄瀬のパーフェクトコピーと対峙した君なら分かるはずだ。彼がやったことは『基本』あれと変わらない。だが…」
『?』
「彼の恐ろしいところは、それをフェイクだけでやってのけてしまったことだ」
「なっ!?」
赤司の説明を聞き、火神は言葉を失う。
「恐ろしい限りッスよ。正直あれは今の俺ではコピー出来ないッス」
あらゆる技をコピー出来る黄瀬も、冷や汗を流す。
「だが、堀田健が退場したことで、インサイドが弱体化した事実は変わらない。それでも不利な状況は続くのだよ」
緑間は、冷静に状況を分析していた。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「クソがぁっ…ぶっ殺してやる!」
屈辱とも言える強制土下座をさせられてシルバーは目を血走らせながら立ち上がり、三杉に殴りかかろうとする。
「やめろシルバー!」
「っ!?」
そんなシルバーをナッシュが制止した。
「これ以上、俺に恥をかかせんじゃねぇ。バスケの借りはバスケで返せ」
「……ちっ!」
制止されたシルバーは渋々であるが拳を収めた。
「…サルめ」
シルバー程ではないが、ナッシュも苛ついていた。そして、リスタート。ジャバウォックのオフェンスが始まる。
「…」
ボールをキープするナッシュ。目の前には三杉。
「来いよ」
「…っ!」
低く、静かな声色で言う三杉。その瞬間、ナッシュの背筋に冷たいものが走った。
「…ちっ」
仕掛けるのは危険と判断したナッシュは左サイドに展開していたザックにパスを出した。
「ちぃっ、スイッチや!」
ザックをマークしていたのは天野だったが、アレンのスクリーンに捕まってしまった。即座に、大地がディフェンスに向かった。
「どけぇ、サルが!」
――ダムッ!!!
ドライブを仕掛けるザック。
「…ぐっ!」
ザックに食らい付く大地だが、体格差を生かし、パワーで強引に押し進むザックのドライブを止められず、突破を許してしまう。
「…っ」
そのまま突き進むザックだったが、そこへ、三杉がヘルプに現れた。
「ぶち抜いてやる!」
お構いなしにザックは三杉に仕掛けていった。
「やめろ、戻せザック!」
ナッシュは制止したが、それを聞かず、ザックは仕掛けていく。
――ダムッ!!!
三杉の目の前で高速のクロスオーバーを仕掛け、三杉の背後を取ったザック。
「ハッ! このまま――っ!?」
そのままリングに向かおうとしたザックだったが、その瞬間気付いた。自分のその手に、ボールがないことに。ザックが振り返ると、ボールは三杉の右手に収まっていた。
「行くぞ、速攻だ! 空、綾瀬、走れ!」
三杉がそう号令をかけると共に、ドリブルを始めた。
「くそっ、調子に乗るな!」
そこへ、ニックが立ち塞がった。
「関係ねぇ、そのまま突破する!」
構わず三杉はニックに向かっていく。
「…なっ!?」
三杉が仕掛けると、ニックは言葉を失った。ニックの目には、左右にドライブ、シュート、パスをする三杉の姿が見えたからだ。
「(何だこれは! いったいどれが本物なんだ!?)」
驚異的を誇る三杉のフェイクに、ニックはどれが本物か判別出来なかった。三杉は棒立ちのニックの横を高速で抜けていった。
「野郎、ぶっ潰してやる!」
リング付近まで侵入すると、シルバーが現れた。だが…。
『っ!?』
三杉は構わずボールを掴むと、リングに向かって跳躍した。
「バカが! このまま地べたに叩き落してやるよ!」
シルバーは同時にブロックに飛んだ。
――バチィィィッ!!!
リング目前でシルバーの手が三杉の持つボールを捉えた。
「単純なパワーならお前には敵わねぇ。だがな、全身の力を右手に集中させれば…」
「…っ!?」
ブロックしたシルバーの手が徐々に押され始めた。
「そんなチンケなブロックぐれえぶち破れんだよ!」
――バキャァァァッ!!!
「ぐおっ!」
シルバーのブロックを弾き飛ばし、三杉のワンハンドダンクが炸裂した。
『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』
「しゃあっ!」
ダンクが決まると、三杉は拳を握り、大声で喜びを露わにした。
「ハハッ、すげえ…!」
「これが、三杉さんの本気…」
目の前で三杉の実力を目の当たりにし、空は興奮し、大地は驚愕した。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「すげーな三杉」
ベンチで試合を見守る真崎も三杉の活躍に驚愕していた。
「でも、いつもの三杉先輩とまるで別人…いったい何が…」
突然、人が変わってしまった三杉に、生嶋は戸惑っていた。
「そうか。お前達はあの三杉を見るのは初めてだったな」
痛めた肩の治療を受けている堀田が会話に加わった。
「今でこそ、あいつはコート上で誰よりも冷静であろうと努めているが、昔のあいつは、超攻撃的で、例えるなら、キセキの世代の青峰ように野生を武器とした荒々しいバスケをしていたよ」
『…』
「だが、シルバーにそれ以上の野生で蹂躙され、ナッシュには完膚なきまでに封殺されてから、それでは勝てないことを知り、センスや直感頼りのバスケから、より基本を磨き、バスケを研究し、スポーツ医学に基づいて理想的な身体を作り、心理学を学んだ」
『…』
「あいつは常々言っていたよ。野生だけでも、読みやデータだけでなく、両方等しく得たプレイヤーが、バスケ選手の理想像だとな。そして努力の末、あいつはその理想像へと足を踏み入れた。ゾーンに入った今の三杉誠也は、高度なコンピューター並みの頭脳を持った野生の獣。そして、抑えていた自分が解放し、荒々しさと緻密さを兼ね備えた今の姿こそ、本当の三杉の姿だ」
コート上の三杉に視線を向けながら堀田は語った。
「とんでもない話だな。…っと、肩が入った。これで左肩も動くはずぞ」
肩の応急処置を行っていた馬場が堀田に告げた。
「ありがとう、馬場。これでまた戦える」
スッと立ち上がると、オフィシャルテーブルに足を進めた。
「っておい、まさか試合に出るつもりか!? 俺がしたのは肩が動かせるようにしただけのただの応急処置であって、治したわけじゃないんだ。無理に動かせば肩に激痛が走るはずだ。そんな状態じゃ試合どころじゃないぞ」
そんな堀田を馬場が止めた。
「痛みなど一瞬だ。動けば問題ない」
制止を聞かず、堀田は交代申請に向かおうとする。
「待て」
そんな堀田に、上杉が声を掛けた。
「どうしても出るつもりか?」
「はい」
「…」
「……分かった。だが、残り1分まで待て。脱臼した状態で全力で戦えるのはせいぜい1分だ。それまで待て。それが条件だ」
「…分かりました」
上杉の言葉を了承し、堀田はベンチに戻り、腰掛けたのだった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
ジャバウォックのオフェンスが止められ、三杉が決めたことにより、点差は3点にまで縮まった。
「アレン、寄越せ!」
素早くアレンがボールを拾い、ナッシュにボールを渡し、そのままナッシュがドリブルを始めた。
「っ!? しもた、カウンターや!」
攻守を素早く切り替えるジャバウォック。
「行かせっか!」
それよりも早くディフェンスに戻った空がナッシュの前に立ち塞がる。
「サルが…、お前ごとき――ちっ」
空を抜きさろうと試みたナッシュだったが、空の近くに三杉の姿が見えたので断念した。ナッシュと言えど、抜いた直後を今の三杉に狙われたらボールを奪われる可能性があるからだ。
「ふん……なら…」
ボールを止めたナッシュはパスに切り替えた。パスの行き先は、現状、花月で1番脆いゴール下の松永がマークするシルバー。
「っ!?」
ナッシュの手からボールが消え去る。
「うおっ!?」
だが、ボールはシルバーの遥か頭上に飛んでいった。シルバーは咄嗟に跳躍し、右手でボールを掴んだ。
『パスミスだ!』
『プレッシャーから手元を狂わせたか!?』
軌道が大きく逸れたパスを目の当たりにし、観客が騒ぐ。
「(このサル…! 俺のパスに触れやがっただと…!)」
パスの軌道が大きく上に逸れた理由はパスミスではなく、空の手にボールが触れたからだ。これはもちろん、ナッシュのパスがたまたま空の手に当たった訳ではなく、空が伸ばした手がボールに当たったのだ。
「(俺のパスに癖が? …いや、それはあり得ない。そういえばこいつ…)」
ここでナッシュは気付いた。誰もが見えないパスを、空だけが唯一最初から見えていたことに。
「(こいつ、まさか…)」
軌道が逸れたボールを掴んだシルバーがコートへと着地する。
――ポン…。
「っ!」
だが、着地した直後、外から1本の腕がシルバーの持つボールを弾いた。
「練習嫌いというのは本当のようですね。狙われやすいリバウンド直後の対応が散漫です」
大地がリバウンド直後のシルバーを狙い、ボールを弾いた。
「空!」
ルーズボールを拾った大地が大きく前線へロングパスを出した。
「よっしゃ! ナイスだぜ!」
空がボールを受け取り、そのままドリブルを始めた。
「あんなサルに…! クソがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
大きな咆哮をシルバーが上げると、自陣へ猛ダッシュを始める。そして…。
「っ!?」
スリーポイントライン手前で空を追い越し、立ち塞がった。
「調子に乗るなよ、チビザルがぁっ!」
「…このデカ物が」
薄っすらと何を言われた理解した空はシルバーに突っ込んでいく。
「空坊! それはいくら何でも無茶やで!?」
さすがにシルバーを相手には分が悪過ぎると判断した天野は制止した。
「ハッ! 行くぜ!」
グングン加速して猛スピードでシルバーに突っ込んでいく空。シルバーの目前で空は両足を滑らせるように前に出し、仰向けに態勢を低くした。
「なっ!?」
その直前で空はビハインドパスでボールを左へと流し、滑り込んだ勢いのままシルバーの股下を潜り抜けた。ボールを受け取ったのは先ほどシルバーからボールを奪った大地。大地はボールを受け取るとすかさずボールをリング付近に放った。
『こ、これは…!』
シルバーの股下を潜り抜けた空は素早く両足を曲げ、態勢を整えると、リングに向かって跳躍…ちょうどそのタイミングで飛んできたボールを右手で掴んだ。そして…。
――バキャァァァッ!!!
そのままリングに叩きつけた。
『うおぉぉぉっ! 何だ今の!?』
一連のプレーを見た観客は大歓声を上げた。
「ハハッ、すげぇ…!」
火神も驚きを半分含んだ笑みを浮かべていた。
「デカけりゃ良いって訳でもねえだろ?」
ドヤ顔でシルバーの横を通り抜けながら言い放つ空。
「くっ…くそっ…!」
屈辱から顔を歪ませ、拳をきつく握りしめるシルバー。
点差はついに1点。ワンゴールで逆転の所までやってきた。
『くっ!』
ついに背中を捉えられたジャバウォックの選手達の表情には焦りの色が現れた。
「…ふぅ。まさか、ここまで追いつめられるとはな。驚いたぜ」
一息吐くと、ナッシュは花月を認めるような言葉を呟いた。
「どうやら、使うしかないようだな。切り札を…」
「っ!」
ここで、ナッシュの雰囲気が変わった事に気付いた三杉は臨戦態勢を取った。
「…」
「…」
ゆっくりドリブルをするナッシュ。それに立ち塞がる三杉。
――ダムッ!!!
唐突に、ナッシュが動く。レッグスルーからバックチェンジに繋げて左右に揺さぶる。だが、三杉はそれにピタリと付いていく。三杉がナッシュの進路を遮ったその時。
「っ!?」
ナッシュの手元からボールが消え失せた。コート上の花月の選手達がボールを所在を見失う。
「っ!?」
ここで空が花月で誰よりも早く気付いた。ボールが、自身がマークするニックに渡っていることに。
――ザシュッ!!!
ボールを受け取ったニックが悠々とミドルシュートを決めた。
「今のパスは…」
そのあまりにも不可解なパスに、火神は驚愕する。
「今、あの6番がフリーになった瞬間にパスを出してたッスよ!」
「まずいな…」
一連のプレーの正体に気付いた赤司は表情を顰める。
「今のパスは打ち合わせたプレーではない。彼(ナッシュ)が三杉さんを抜いていたら、自らシュートに行く態勢だった」
『…』
「彼は持っている。俺と同系統の眼を…。しかも、俺のエンペラーアイを凌ぐ、目の前の1人だけではない、コート上の敵味方全員の未来を視える眼を…」
「なっ!?」
赤司に説明を聞いてその場にいた全員が驚愕する。
「敵味方全員だと? そんなこと…」
「間違いない。そうでなければ今のプレーは説明が付かない。…そして、これによって花月は苦境に立たされることになる。敵味方の未来が視えるということは、オフェンスは防げず、ディフェンスは出し抜く事が出来ないことを意味するからだ」
あまりにも絶望的な事実が赤司に口から語られた。
「褒めてやるよ。俺の最大の切り札であるこの魔王の眼(ベリアル・アイ)を使わせたんだからな。だが、頑張りもここまでだ。完全なトドメを刺してやるよ」
『っ!?』
ナッシュから告げられると、花月の選手達の表情が曇った。
「赤司さんと同じ…いや、それ以上の眼があるなんて…」
ポジティブな空でも状況の悪さが理解出来てしまい、悔しさを露わになる。
「落ち着け。例え、未来が視えていても、ナッシュ1人だけならまだ何とかなる。残り時間僅かだ。点差も3点。死力を尽くすぞ」
「は、はい!」
気持ちが落ちる空に三杉が肩に手を置いて激励する。
リスタートし、ボールは三杉に渡される。
「…」
「…」
三杉の前に立ち塞がるのはナッシュ。三杉がナッシュの間合いに踏み込むと、三杉が動き出す。
――ダムッ…ダムッ!!!
高精度のフェイクとスピードとキレのあるテクニックでナッシュを翻弄する。
「どんなフェイクも、俺の眼の前では無意味だ」
「…」
だが、ナッシュは三杉の動きにピタリと付いていく。
「(1ON1なら赤司と戦った時と状況は同じ。だが、ナッシュと赤司とでは個人の性能に差がある。簡単には抜けないか…)」
「(ちっ、眼を使っても尚、抜かせないだけで精一杯とはな。イラつかせてくれる…)」
ゾーンに入った三杉。ベリアルアイを使ったナッシュ。個人の戦況は互角。
――ピッ!
僅かに距離を取って三杉は天野のスクリーンでマークを外した大地にパスを出す。
「これで…!」
ボールを受け取った大地がシュート態勢に入る。
――バチィィィッ!!!
「っ!?」
だが、そのシュートは後ろから駆け込んだナッシュにブロックされる。
「それで出し抜いたつもりか? 笑わせてくれるな」
ルーズボールをアレンが拾い、素早くナッシュにボールを渡す。ボールを受け取ったナッシュはそのままドリブルで進軍していく。
「この…!」
「行かせへんで!」
ドリブルで突き進むナッシュの前に天野と松永が立ち塞がる。ナッシュは高速のクロスオーバーで松永の横を抜ける。
「ぐっ!」
「まだや!」
松永を抜いた直後、回り込んだ天野がナッシュのボールを狙い撃つ。
「所詮はサル知恵だ」
天野の手がボールに触れる直前、バックチェンジで切り返し、その天野をかわす。
「これ以上好き勝手させるか!」
「止めます! ここで!」
ナッシュの左右から空と大地が挟み込む。
「「っ!?」」
だが、ナッシュの手にボールがなく、2人は目を見開く。ボールはさらに左サイドに走り込んでいたザックの手に渡っていた。
「トドメだ!」
リング付近でボールを掴んだザックはリングに向かって跳躍した。
――バチィィィッ!!!
「なっ!?」
だが、ボールがリングに叩きつけられる直前、三杉によってブロックされた。
「お前のように未来を視えるような眼は持ってないが、観察した得た敵味方全員のデータから攻撃パターンを予測するくらいは出来る。そう簡単に俺を出し抜けると思うな」
「…ちっ」
攻撃が失敗したナッシュは軽く舌打ちをした。
敵味方全員の未来が視えるナッシュと、敵味方全員の未来が予測出来る三杉の存在によって、試合は膠着状態に陥ったのだった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
第4Q、残り1分3秒。
花月 84
J・W 87
三杉とナッシュという、双方のチームに攻守に大きく影響を与える選手がいる為、点差は3点差と5点差を行き来していた。
互いに決定打がなく、手をこまねいている状況だが、焦りの色が大きいのはジャバウォックの背中を追う花月。
「くそっ…」
「点差が縮まらない」
空と大地は、変わらない上に刻一刻と試合終了が近づいている状況にひと際焦っていた。
『アウトオブバウンズ、黒ボール!』
ボールがラインを割る。その時…。
『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』
『メンバーチェンジ、緑!』
ここで、花月のメンバーチェンジがコールされる。
「堀田さん!」
オフィシャルテーブルには、堀田の姿があった。
「ほ、堀田さん…」
フラフラと松永歩いていき、そして、堀田にハイタッチを交わす。
「後は……、頼み…ます…」
「任せろ。ここまでよくやってくれた」
息を限界にまで切らした松永が堀田に後を託した。
僅か数分の試合だったが、マッチアップの相手はシルバー。体力を全て注ぎ込んだ結果、限界を迎えてしまった松永。自力でベンチまで歩いていくと、ベンチに倒れ込んだ。
「やれるんだな?」
「当然だ」
「……分かった。それじゃあ、トドメを刺しに行くぞ」
『きたぁぁぁぁぁぁっ!!! 堀田が帰ってきたぁぁぁぁぁぁっ!!!』
花月最強の守護神、堀田が再びコートに戻ってきたことにより、会場のボルテージは最高潮になる。
「…」
試合が再開され、ナッシュがボールをキープする。
――ヒュッ…。
ナッシュのノーモーションクイックパス。ボールの先はシルバー。
「容赦なんかしねーぞ。出てきたなら遠慮なく狙ってやるよ」
「ハッ! 死ねや!」
高速のスピンターンで堀田の左手側から仕掛けるシルバー。痛めたの左肩。ブロックするには左腕を動かすしかない。
「ふん!」
――バチィィィッ!!!
堀田の左腕がシルバーの持つボールを捉える。
「っ!」
その瞬間、堀田の肩に激痛が走る。それと同時に徐々に押されていく。
「これしきの痛み、かつて味わった敗北に比べればはるかに温いわぁっ!」
渾身の力を左腕に込め、そして…。
――バチィィィン!!!
シルバーの右手に収まるボールを弾き飛ばした。
「なんだとぉぉっ…!」
「負けん。この試合だけは絶対に負けん」
ルーズボールを空が必死に食らい付き、確保する。
「空!」
「あいよ!」
空が前線に走る大地にロングパスを出す。
――バス!!!
そのままワンマン速攻を決め、レイアップを決めた。
『再び1点差だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』
花月が再度点差を1点に縮めた。
「よーし!!!」
三杉と堀田がハイタッチを交わす。
「…くっ!」
自らの判断ミスで点差が縮まり、悔しさを露わにするナッシュ。
再びリスタートをし、ナッシュにボールが渡る。
「(…ギリッ!)」
目の前の三杉を見て、歯ぎしりをするナッシュ。その怒りが、今まで隙を見せなかったナッシュに隙を作ることになった。
「健、シルバーだ!」
「っ!?」
ナッシュがマークから外れようとするシルバーを堀田に伝えた。シルバーにパスを出そうとしていたナッシュは一瞬ではあるが身体を硬直させた。
―――バチィィィッ!!!
僅かな隙を見逃さなかった三杉は動きを止めたナッシュの手に持つボールを叩いた。
『なにっ!?』
まさかナッシュがボールを奪われると思わなかったジャバウォックの選手達は目を見開く。ボールを弾いた後、三杉がすかさずボールを拾い、そのままワンマン速攻で突き進み…。
――バキャァァァッ!!!
そのままワンハンドダンクを決めた。
『逆転だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』
遂に花月が逆転に成功する。
第4Q、残り24秒。
花月 88
J・W 87
「っしゃぁ!」
空は喜びを露わにし、大地も小さく拳を握った。天野とベンチの選手達、そして、観客全てが歓声を上げた。
『…っ!』
逆転を許し、焦りを露わにするジャバウォックの選手達。
「…」
だが、ナッシュだけは、1人冷静さを保っていた。
――ダムッ…ダムッ…。
リスタートをし、ゆっくりとフロントコートまでボールを進めるナッシュ。
「…(チラッ)」
「「(コクッ)」」
ここで、ナッシュはアレンとザックにアイコンタクトをすると、2人は頷いた。ザックが三杉の背後まで寄り、スクリーンにやってきたところで…。
――ダムッ!!!
ナッシュがドライブを仕掛ける。
「…っ!」
三杉はザックのスクリーンを読み切り、ザックをかわしてナッシュを追いかける。
――ガシィィッ!!!
「っ!?」
だがその直後、三杉は動きを止められる。ザックの背後、三杉にとって死角の位置にアレンがスクリーンをかけていた。三杉のデータにもない連携。これにより、ナッシュがフリーになる。
「ちぃっ!」
ここで、天野がヘルプに飛び出し、ナッシュを止めにかかる。
――ダムッ!!!
天野がディフェンスに現れると、ナッシュは前後への揺さぶり、ロッカーモーションで天野を一気に抜きさる。天野を抜くと、そのまま堀田が待ち構えるゴール下にドリブルしていき、そのまま跳躍する。
「させん!」
それに合わせて堀田がブロックに飛ぶ。堀田の手がナッシュのボールに触れる直前…。
――スッ…。
「っ!?」
ナッシュはワンハンドダンクの態勢から手首を捻り、ボールを上へ向けると、手首のスナップを利かせ、ボールをフワリと浮かせるように投げると、ボールは堀田のブロックを越え…。
――ザシュッ!!!
弧を描きながらリングを潜った。
「なっ!?」
あっさりと得点を奪われ、絶句する空。
「勝ったと思ったか? この程度の修羅場なんざ俺は何度も潜り抜けてきたんだよ。…これでトドメだ」
睨みつけながら花月の選手達に言い放つナッシュ。ナッシュ最大の切り札である、スクープショットとフィンガーロールを組み合わせたブロック不可のショット。残り時間9秒を残して、再び花月は逆転を許してしまった。
「ちくしょう…」
試合終了間際に逆転を許し、悔しさと焦りが露わになる空。得点を決めたナッシュを始め、ジャバウォックの選手全員自陣に退いており、試合終了まで逃げ切る態勢を取っている。
「空、ボールをくれ」
ボールを拾った空に、三杉がボールを要求する。すかさず空は三杉にボールを渡した。
「これが日本での最後のプレーになる。空、綾瀬。よく見ておけ」
空と大地にそう告げ、三杉はドリブルを始める。
「抜かせるか!」
グングン加速していく三杉の前に、ニックが立ち塞がる。
――ダムッ!!!
「っ!?」
だが、三杉はスピードを緩めず、そのままニックに突っ込む。ぶつかる直前にフェイクを入れ、無条件反射を起こさせ、ニックを進路からどかした。
「くっ! 何なんだお前は!?」
尚も突き進む三杉に、ザックがヘルプに飛び出し、進路を塞ぐ。だが…。
――ダムッ!!!
「うおっ!?」
先ほどのニックと同じく、高精度のフェイクによって無条件反射を引き起こされ、道を空けてしまう。
「バカが! 俺にそんな子供だましが通用すると思うな!」
ザックを抜きさると、ナッシュが三杉を止める為に立ち塞がる。
「眼を使われればナッシュにフェイクは通じない。裏を掻けない相手に三杉誠也はどうする…」
同系統の眼を持つ赤司が警鐘を鳴らすような発言をする。
三杉とナッシュの距離がどんどん縮まっていく。すると…。
「っ!?」
ここで、ナッシュが目を見開く。三杉は止まるどころかさらに加速をし始めた。
――ボムッ!!!
「なっ…!?」
三杉はナッシュの股下にボールを投げつけ、ボールを通すとさらに加速。最高速でナッシュの横を駆け抜けた。投げたボールを再び保持する。
『抜いたぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』
ナッシュをも抜きさり、ゴール下まで侵入していく。
「シルバーーーーーーーっ!!! ファールしてでも止めろぉぉぉぉぉっ!!!」
最後の砦であるシルバーに必死に声を張り上げるナッシュ。
「サルがこれ以上付け上がるんじゃねぇっ!!!」
ゴール下でシルバーが立ち塞がる。さらに、先ほど抜かれたナッシュがすぐさま後ろから三杉に襲い掛かる。
…残り時間、2秒…。
――スッ…。
前後から襲い掛かるナッシュとシルバー。双方に挟まれる直前、三杉が動く。
…その瞬間、コート上の時間が止まる。
三杉が左サイドにボールを流す。ボールはキレイな線を描くかのように舞っていく。
「(っ!? このコースは…!)」
ナッシュが目を見開く。
ボールは、左サイドに展開していた空の手元に届いた。
『っ!?』
ここで、ナッシュ以外のジャバウォックの選手及び、花月の選手、観客の時間が動き出す。
「打て、空!」
ボールを受け取った空はすぐさまシュート態勢に入り、ボールを放った。
『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』
それと同時に試合終了のブザーが鳴る。
――ザシュッ!!!
ボールはキレイな放物線を描き、リングの中央を射抜いた。
『っ!』
会場にいる全員の視線が審判に集まる。
審判は手を上げ、指を2本立てると、2本の指を振り下ろした。
『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』
その瞬間、観客から大歓声が会場中を包み込んだ。
「…」
勝利のシュートを決めた空はシュート態勢のまま固まっていた。そんな空に、大地が抱き着き、続いて天野が。さらに、ベンチから飛び出した生嶋、松永が飛び込んだ。
試合終了…。
花月 90
J・W 89
『…』
敗北したジャバウォックの選手達はただただ絶句していた。
「ふざけんじゃねえ! こんなのはマグレだ! もう1度やらせろ!」
試合結果に納得が出来ないシルバーが1人、再戦を叫ぶ。
「やめろシルバー」
「っ!」
喚くシルバーをナッシュが制止する。
「俺達の負けだ。これ以上、恥を晒すんじゃねえ」
「…っ! ちくしょうがぁぁぁぁぁっ!!!」
ナッシュが舌打ちをすると、三杉の下に歩み寄る。
「俺の負けだ。言い訳はしねえ。……折れよ」
三杉の前に立つと、ナッシュは右腕を差し出すように出した。
負ければ腕を折ると公言していた今日の試合。その公言通り、ナッシュが腕を出す。
「…」
三杉は右手を前に出すと、その手を握った。
「あぁっ!? 何の真似だ!?」
握られた手を振りほどくと、ナッシュは怒りを露わにした。
「これで1勝1敗。その腕は、いずれ勝ち越しを賭けた戦いの時に必要になる。それまで預けておく」
「ふざけんじゃねえ! サルの情けなんざ受ける気はねえ! さっさと折りやがれ!」
三杉の言葉に納得が出来ないナッシュは激昂する。
「うるせえな。同じ1勝でも俺は辛勝、お前は圧勝。これで終わりじゃこっちが納得出来ないんだよ。約束を行使するかしないかは勝ったこっちに決める権利がある。黙って従えよ」
激昂するナッシュに淡々と告げる三杉。
「ちっ! ……てめえ、名前を教えろ」
「三杉誠也だ」
ナッシュが視線を三杉の横に向ける。そこには堀田の姿があった。
「堀田健だ」
「セイヤ・ミスギ。タケシ・ホッタ。その名前、忘れねえぞ。俺が受けたこの屈辱は必ず返す。必ずだ」
睨み付けながらナッシュは三杉と堀田に告げ、ナッシュはコートを去っていった。
「「三杉さん」」
ナッシュが去った後、空と大地が三杉の下にやってきた。
「綾瀬」
「はい」
「これから先、お前が花月のエースとしてチームを支えていく事になる。だが、今のお前ではキセキの世代に及ばない。チームを背負い、戦っていく為に足りないものがある」
「足りないもの…」
「それを見つけた時、お前はチームのエースとして、キセキの世代が相手でも対等に戦えるはずだ。それを必ず見つけて見せろ」
「…はい!」
三杉は空に視線を向ける。
「空」
「はい!」
「最高のパスとは何だと思う?」
突如、三杉が空に問いかけた。空は顎に手を当てて考える。
「最高のパス……赤司の味方をゾーンに引き入れるパスですか?」
「それも正解の1つだ」
「1つ?」
「ああ。だが、その系統の眼を持たないお前には出来ない芸当だ」
「…はい」
「だが、まだある。最後のラストパス。お前は見ていたな?」
「は、はい」
「バスケには、得点に必ず繋げる事が出来る究極パスコースというものがある。それは、NBAでも一握りのポイントガードにしか見る事が出来ないと言われている」
「究極パス……なら、さっきのパスがそうですか?」
「違う。俺は頭に入れたデータからそのコースを限定したに過ぎない。純血のポイントガードではない俺には見る事出来ない」
「…」
「だが、お前には見る事が出来るはずだ。広い視野と独特のパスセンスを持つお前なら」
「…俺に」
空は胸の前で拳を握った。
「これが、お前達に教えられる最後の教えであり、課題だ。この課題、必ずこなしてみせろ」
「「はい!!!」」
三杉の言葉に、2人は大きな声で返事をした。
「…さて、今日は疲れた。さあ、引き上げよう」
三杉に促され、空達はコートを去っていったのだった…。
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・・・・
花月、ジャバウォックの選手達がコートから去り、観客は未だに試合の余韻に浸っている。
『…』
試合を観戦していたキセキの世代と火神は無言でコートを見つめていた。
「俺は帰るぜ」
最初に、青峰が立ち上がり、席を後にしていった。
「…へっ!」
その表情は、新たな目標が出来た事の喜びに溢れていた。
「俺も帰るねー」
次に紫原が立ち上がり、席を後にした。
「…俺より強い奴。2人もいた」
その表情は、真剣なものだった。
「…試合は終わった。帰らせてもらう」
「俺も帰らないと。監督がカンカンなんで」
緑間と黄瀬が同時に立ち上がり、席を後にした。
「上には上がいるのだよ」
「俺にもコピー出来ないものがまだある。面白いッスね」
メガネのブリッジを上げる緑間と、不敵な笑みを浮かべる黄瀬。
「俺もそろそろ失礼する。これでも無理を言ってここに来ているのでね」
赤司が立ち上がり、席を後にした。
「ベリアルアイ…もしかするなら俺も…」
何かを考えながら赤司は去っていった。
「みんな、興奮が隠しきれていませんでしたね」
「あんなの見せられて熱くならない方がどうかしてるぜ」
普段は表情が乏しい黒子もこの時は興奮が表に出ていた。
「帰ろうぜ。そして、冬。必ず制して連覇するぞ」
「はい」
黒子と火神も会場を後にしていった。
※ ※ ※
試合が終わり、1週間が経過した。
――某国際空港…。
そこに、三杉と堀田の姿があった。
この日は、2人のアメリカへと帰国の日であった。
「見送りはなくても良かったのか?」
そこに、花月の選手達の姿はなく、あるのは監督の上杉だけだった。
「構いません。今は1分でも時間が惜しいでしょうから」
三杉が上杉の問いにこう返す。
夏以降、花月は三杉と堀田抜きで戦わなくてならない。先の困難を考えれば、今はとにかく練習が必須である。
「わざわざ見送りありがとうございます。それと、お世話になりました」
「礼を言うのはこっちだ。わざわざ日本まで感謝する。向こうに戻っても頑張れよ」
「はい。それでは失礼します」
2人は頭を下げると、搭乗口へと向かっていった。
「……さて」
姿が見えなくなるまで2人を見送ると、上杉は踵を返した。
上杉の頭には、もうこれから始まる冬の激戦しか頭にない。最強の矛と盾を失った状態でどうやって勝ち上がっていくか…。
「……フッ、腕が鳴る」
1つ含み笑いを浮かべながら上杉は花月高校への帰路に付いた。
※ ※ ※
飛行機内にて…。
飛行機は、今まさに空を飛び立とうとしている。
「日本に来て良かったな」
「ああ。キセキの世代という俺達と同じ領域にいる猛者と戦えたし、ナッシュとシルバーに借りを返す事も出来た。1年足らずの帰国だったが、最高だった」
その表情は2人共満足気だった。
「あいつらは、冬を勝ち抜く事が出来ると思うか?」
堀田が三杉に尋ねた。
「……そうだな。僅かな期間ではあったが、教えられる事は教えた。特に空と綾瀬。2人には扉を開ける鍵となるものは渡した。扉を開ける事が出来て、可能性は1割くらいだろうな」
「…そうか」
問いを聞いて、堀田は表情を軽く曇らせる。
「心配はいらないさ。あいつらならやってくれる。あいつらは俺達が認めた奴らなんだから」
「フッ、そうだな」
「…いつの日か、実現出来るといいな。俺と健と、キセキの世代と火神大我。そして…」
ここで、三杉の脳裏には空と大地の姿が浮かんだ。
「全日本のユニフォームを着て、アメリカを倒す。俺達の夢が…」
「出来るさ。俺達ならな」
堀田が力強く答えた。
やがて、飛行機は滑走路を離れ、離陸した。どんどん高度が上がる飛行機。
「勝てよ。次世代のキセキ達…」
こうして、長く、波乱を帯びた熱い夏は、終結したのだった……、
続く
この話で夏の話は終わりです。次話からこの二次の本筋に入ります。
実は、いろいろ盛り込みたかった事がありましたが、長くなるのでカットしました。三杉のゾーンの描写だったり、笠松と花月の絡みだったり、ジャバウォックの選手の1人(7番、アレン)がナッシュとシルバークラスの実力者で、ジャバウォックで唯一の常識人であるという独自の設定だったり…。
文字数過去最高の13176文字。書いたなぁ…。いっそ2話に分割した方が良かったかな…(^-^;)
感想、アドバイスお待ちしております。
それではまた!