星南中学が全中大会出場及び地域大会優勝を決めてから数日が経った。
地域大会終了後、学校では、全中出場という星南中学始まって以来の快挙により、戦勝ムードに包まれ、学校を上げてバスケ部を出迎えた。
1学期の終業式を終え、夏休みに突入する。それは、激闘がもう目の前であることを意味している。
「…」
時刻は早朝、まだ陽は昇り切っておらず、辺りは薄暗い。
場所は海。空は船の先端で腕を組んで立っている。
「全中まで残り僅か。……あ~、待ちきれねぇ! 早く試合がしたいぜ!」
空は興奮を抑えきれずにいた。
「バカ息子! 大声で独り言言ってねぇで、早く網を引きやがれ!」
「分かってるよ!」
空の実家は何代も前からの漁師の家系で、現在、家業の手伝いの為、父と祖父と共に漁に出ている。
「やれやれ…」
空は文句を言いながら網を引っ張っていくのであった。
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「それじゃ、綾瀬さんのお家までよろしくね」
「あいよ~」
空は、本日の漁で取れた魚と氷が入ったボックスを肩に担ぎ、歩き始めた。
空の母親の使いにより、漁で取れた魚を大地の自宅までお裾分けに向かっている。空と大地は幼い頃からの幼馴染。家同士も家族ぐるみの付き合いの為、漁の後に取れた魚をお裾分けするのは一種の慣例行事となっている。
歩くこと15分。一軒の屋敷に到着する。空がインターホンを押すと、玄関の奥から『は~い♪』と、陽気な声が聞こえてくる。
「あら~、空ちゃん♪」
玄関が開けられると、そこから着物を着た婦人が現れた。
「おはようございます。これ、今日の漁で取れた魚です。よろしければどうぞ」
「あらあらあら♪ いつもありがとね~♪」
婦人は、空からのお裾分けを嬉々として受け取った。この婦人は、その幼い言動と出で立ちから大地の姉とよく勘違いされるが、大地の母親である。
「大地は?」
「大地ちゃんなら離れにいるわよ~♪ さっ、入って入って~♪」
「お邪魔します」
空は大地の母親に促されるまま屋敷にあがっていく。
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・・・・
――シャカシャカ……。
離れの一室。部屋の中央にて、着物を着た大地がお茶を点てている。
茶筅でひとしきりかき混ぜ、そっと茶筅を置く。
「朝から精が出るな」
離れの入り口の襖が開けられ、そこから空が現れる。
「空ですか。おはようございます。早朝から家業の手伝いをしているあなた程ではありませんよ。どうです? 一服」
大地は先程自分が点てた茶を茶碗に淹れ、空に差し出す。
「もらうわ。…んぐ、んぐ、んぐ…ぷはぁ! …苦っ! …やっぱお茶は俺には合わねぇな」
空はお茶を飲み干すも渋い表情を浮かべる。
「ふふっ、相変わらずですね」
そんな空に苦笑いをする。
「…」
「…」
暫しの間2人は沈黙する。
「…もうすぐだな」
「…ええ」
その沈黙を空が打ち破る。もうすぐとは、言わずと知れた全中大会のことである。
「キセキの世代がいない中学バスケに興味はなかったけど、それでも、やっぱ、…試合は楽しいよな」
「まったくです」
2人は微笑みながら言葉を交わしていく。
「…勝とうぜ、何よりも、俺達をバスケ部に戻してくれて、歓迎してくれたあいつらのためにも、な」
「同感です」
※ ※ ※
2人は一度解散し、身支度と荷物をまとめてから合流し、中学校の体育館へと向かう。
「おっ?」
体育館からはボールを付く音とスキール音が鳴り響いている。
「ソーエイ! オーエイ!」
体育館内では既に練習が始まっていた。時刻はまだ練習開始時間前だ。
「あっ、空、大地! おはよう!」
2人が体育館内に入ると、それに気付いた田仲が挨拶をする。
「おーす!」
「空先輩、チュース!」
「おはようございます!」
それに続いて3年生、下級生達が続いて挨拶をする。
「おーす。早いな」
「ああ。全中まであと少しだからな。時間は無駄に出来ないから、出来ることをやっとこうと思って」
「空と大地がいて、優勝できなかったら俺達の責任だからな」
「足引っ張らないように、頑張らないと」
バスケ部達は全中大会に向け、確実に準備を進めていた。
「お前ら…」
「皆さん…」
空と大地はそんなチームメイトを見て、皆の為にも、絶対優勝したいと改めて心に誓う。
「お前ら、ようやっと来たか」
そこに監督の龍川がやってくる。
「このガキ共は2時間前からこの調子じゃ。お前らもさっさと着替えて準備せんかい」
「オス!」
「はい!」
2人は急いで着替えをし、準備運動を始める。
「お前らは基礎トレじゃ、さっそく砂浜走ってこいや」
「えー、また基礎トレですか~?」
空は不満を漏らす。
「あたりまえじゃ。たかだか地域予選優勝したぐらいで調子づくな。ワシから言わせれば貴様らはまだまだひよっこじゃ。ド突かれる前に早よ行ってこい」
「ラ、ラジャー!」
「分かりました」
指を鳴らしながら龍川が告げると、2人は急ぎ足で駆けていった。
「お前らも! 地域予選はあのガキ共(空と大地)におんぶに抱っこもええとこやったんや。てっぺん取りたきゃ死ぬ気で練習せい!」
『はい!!!』
こうして、星南中学のバスケ部のメンバーは全中大会まで調整していった……。
※ ※ ※
8月を迎え、ついに全中大会開催の日がやってきた。
会場には地方大会を勝ち抜いた全国からの猛者達が集まっている。
「さすが、全中ともなると、どいつもこいつもやる匂いがするな」
会場に集まる全中大会出場校の面々を見て、笑顔を浮かべながら呟く。
「あいつと…あいつ。俺の勘だけど、あいつらはかなり出来るな」
「あのジャージは…、城ケ崎中と照栄中だな」
森崎がジャージの背中のネームを読み上げる。
「あの学校はBランク…、あっちはAランク…」
「ん? 何ですかそれは?」
駒込が月バスを読みながら何やら呟いている。それを見ていた大地が何かと尋ねる。
「あぁ、これね、今月号の月バスに、全中出場校の総合評価が載ってるんだよ」
「えっ、なになに?」
それを聞いて空も興味を持ち、月バスを覗き込む。そのページには、全中出場校の総合評価がアルファベット表記で記載されている。(上からS、A、B、C)
「ちなみに星南中は…なになに、『突如現れた新星。今大会のダークホースになりうる』か、総合評価はB。んだよ、微妙だな」
空はその評価に不満気味である。
「仕方ありませんよ。私達は初出場校で知名度も低いですから」
そんな空を大地が諌める。
「ま、こんなのあてにならないよな。俺達が勝った東郷はAランクだし」
実績の差と、地方予選決勝の結果は星南の作戦勝ちであり、総合的には東郷が上、というのが月バス編集者の批評だ。
「そんで、1番総合評価が高いのは――」
――来たぞ!!!
その時、会場がざわつき始める。
「ま、当然と言っちゃ当然か」
会場中の視線が集まる方向に空も視線を向ける。そこには、キセキの世代を輩出した、中学バスケット界の頂点に立つ名門校…。
「帝光中だ!」
帝光中学校の面々が会場入りする。
「『キセキの世代が抜けたことにより、大きく戦力ダウンをしたが、その実力は未だ健在。今大会の優勝候補』…べた褒めだな。総合評価は最高のSランクっと」
優勝候補筆頭と、月バスでは高評価である。そんな彼らを記者達が半ば囲み取材を始める。
「全中大会の意気込みを聞かせてもらえるかな?」
「はい。尊敬する先輩達が残した連勝記録を守り、全中4連覇を成し遂げることが僕達の使命だと思っています」
「チームの調子はどうかな?」
「ベストです。後は試合に臨むのみです」
「今大会で注目している中学校は?」
「全中大会参加校の全てが厳しい地方予選を勝ち抜いてきた強豪です。全ての相手に敬意を払い、全力で勝負に臨むつもりです」
記者達の質問に、帝光中の今年度の主将である、新海が淡々と答えていく。
「さすが、帝光中のキャプテンだな…」
「なんか、貫録あるな…」
その光景を見て、星南中の後輩達は嘆息を吐きながら感心する。
「…気に入らねぇな」
「えっ?」
「俺には、何処も眼中にない。そう言ってるように聞こえるぜ」
空は、その光景を快く思っていなかった。
「ですが、その実力は盤石ですよ。地方予選の全ての試合をダブルスコア以上で勝ち上がっていますからね」
大地も記者達の受け答えをする帝光中の者達を見て、思うところがある様子だが、その脅威さを実感している様子だ。
「へっ! 王様気分の帝光中の奴等に、所詮は裸の王様にすぎないってのを教えてやるよ」
空は帝光中の面々を睨みつけながら意気込む。
「気合を入れる事は好ましいことですが、脅威なのは彼らだけはないことを忘れないでくださいよ」
帝光中ばかりに鼻息を荒くする空を大地は溜め息を吐きながら諌めるのだった。
※ ※ ※
全中大会は各地方大会を勝ち抜いた全23校(+開催都道府県から1校)の計24校で行われる。その24校が3校1グループの計8グループに分けられ、予選リーグが行われる。その中の上位2校が決勝トーナメントに進み、そこから最後まで勝ち抜いた学校が優勝となる。
試合日程は1日2試合ずつ行われるため、選手達にとって過酷な試合日程と言える。
「帝光とは…ハハッ! いいねぇ、クライマックスか」
空が全中大会の組み合わせを見てニヤリと笑みを浮かべる。
星南中と帝光中。双方が順調に勝ち上がれば両者が戦い合う舞台は全中大会決勝。空にとっては願ってもないシチュエーションであった。
「…空。先程も言いましたが、帝光中ばかり――」
「心配すんな。他を舐めてかかるつもりはねぇよ。あいつらと戦うためには、まずはそこまで辿り着かなきゃならないんだからな」
「分かっているなら、いいのですよ」
大地は再び空を諌めようとするが、それは杞憂であったと判断する。
「この全中大会、私達は出ずっぱりになるでしょう。心してくださいよ」
「毎日馬車馬みたいに走らされたんだ。そのくらい楽勝だ」
空は両脚をパチンと叩きながら気合を入れる。
「ガキ共! 集合じゃ!」
龍川が星南メンバーを集める。
「まずは初戦じゃ。スターターは田仲、神城、綾瀬、森崎、駒込でいく。気ぃ入れていけよ」
「「「「「はい!」」」」」
スタメンは予選時と同じメンバー。
「神城! 全中ではお前に制限をかけるつもりはない。自由にやれ」
「おっしゃ!」
制限がなくなり、空はガッツポーズで喜びを露わにする。
「綾瀬! 星南のエースはお前や、ガンガン仕掛けて点を取れ」
「わかりました」
大地は粛々とおじぎをして指示を了承する。
「田仲! ゴール下がお前の戦場じゃ。神城と綾瀬同様、責任重大じゃ。覚悟決めぇ」
「はい!」
田仲は大きな声で返事をする。
「森崎! お前の外が決まればそれだけチームが活性化する。役目を果たせ」
「了解ッス!」
森崎は軽く手を上げて返事をする。
「駒込! スクリーンアウトとポストプレーはきっちりこなせ。数字には表れんでもそれがチームの勝利をもたらす。腐らずに励みぃ」
「はい」
駒込はそのまま返事をする。
「言う事やる事は一緒じゃ、行ってこい!」
「「「「「はい!!!」」」」」
スタメンの5人はコート中央へと向かっていった。
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・・・・・・・
・・・・
全中大会の予選リーグが始まった。相手も星南と同じ、地域予選を勝ち抜いてきた強豪。当然、強敵である。だが…。
「おらぁっ!」
――バキャァァァッ!!!
空のワンハンドダンクが炸裂する。
『うおぉぉぉーーーーっ!!!』
『すげぇ! あの身長でダンクかましやがった!』
観客が沸く。
「ふっ!」
――バキャァァァッ!!!
大地がドライブで切り込み、ヘルプに来た相手C(センター)の上からダンクをかます。
『あいつもすげぇ! 相手C(センター)の上から決めやがった!』
ダンク2連続。それも180㎝も満たない2人がしたこともあり、観客のボルテージはグングン上がる。相手チームはそれを見て唖然としている。
相手は地域予選を勝ち抜いた強豪。にもかかわらず、空と大地を止められる者はおらず、試合を2人の独壇場となっている。
初戦と続く2戦目も、2人の活躍により、81-59、83-55で破り、無事、予選リーグを1位突破を果たし、ベスト16に進出を果たす。
初日2戦が終わり、これより、それを勝ち抜いた16校による決勝トーナメントが始まる。
ここから先は1度の敗北も許されず、負ければそこで終了。最後まで勝ち抜いた学校のみが王者となる。
2日目、地域予選を勝ち抜き、予選リーグを突破した16校によるサバイバルゲームが始まるのだった……。
続く