黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

久しぶりの投稿となります。

それではどうぞ!



第84Q~奇跡を目指して~

 

 

 

第4Q、残り7分11秒。

 

 

花月 74

桐皇 84

 

 

最終Qが始まり、花月は生嶋と松永の活躍により、18点の差を10点にまで縮めた。そして、度重なるファールによって頭に血を登らせた桐皇の主将、若松の退場によって、桐皇は劣勢を強いられる事となった。

 

退場した若松に代わり、新村がコートに入った。

 

「…」

 

フリースローラインに立って入念にボールを回しながら縫い目を確かめる空。テクニカルファールが取られた為、花月に2本のフリースローが与えられる。

 

「……よし」

 

ボールを掴み、リングに視線を向け、構える空。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

1本目をきっちり決める。そして…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

続く2本目もしっかりと決めた。

 

「っしゃぁぁぁっ!!!」

 

フリースローを2本きっちり決めた空はガッツポーズで喜びを露わにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『2本決めたぁっ! これで8点差だ!』

 

『しかも花月ボール! これは2試合連続の番狂わせもあり得るぜ!』

 

確実に点差を詰めていく花月を見て、観客達も興奮を隠せないでいる。

 

「…っ!」

 

そんな観客の言葉が耳に入った若松はタオルを頭から掛け、俯きながら悔しそうに拳を握り、歯をきつく噛んだ。

 

「若松君。私は慰めの言葉などかけません。君は主将として…いえ、選手としてあるまじき行為をしてしまった。それは深く反省して下さい」

 

「…はい」

 

原澤の言葉に若松は申し訳なさそうに返事をした。

 

「よろしい。では、君が今出来る事を全力で行って下さい」

 

「えっ?」

 

何を言っているのか理解出来なかった若松は思わず声を出す。

 

「もうあなたはコートに立つ事は出来ない。ですが、チームの為に出来る事がまだあるはずです」

 

「…っ!」

 

原澤の言いたい事を理解した若松は頭にかけたタオルを取って立ち上がり…。

 

「頑張れぇっ、桐皇!!!」

 

腹の底から声を出し、選手達の応援を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

フリースローを決め、続けて空がボールを受け取り、ゲームメイクを始める。

 

「…」

 

空をマークするのは変わらず今吉。平静を装ってはいるが、心中では若松退場の事実に動揺していた。

 

「(この流れでキャプテンの退場とかシャレにならんわ。…けど、起こってしまったもんはしゃーない。まずはこの1本止めんと…)」

 

これ以上の失点はまずいと今吉は集中力を高めてディフェンスに臨む。

 

「…」

 

空は周囲に視線を向けながらボールをキープする。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そして、一気に加速。クロスオーバーで仕掛ける。

 

「(1度切り返してからのクロスオーバー。ドンピシャや!)」

 

先読みした今吉は仕掛けた空に先回りして進路を塞ぐ。進路を塞がれると空は停止、頭の上からパスを出した。ボールはローポストに立っていた松永に渡った。

 

「止める!」

 

松永の背中に若松に代わってセンターに入った新村が付く。

 

「(…若松に比べればパワーは大した事ない。身長も俺の方が高い。いける!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

1度右へフェイクを入れ、そこから左に反転。スピンターンで新村をかわす。

 

 

――バス!!!

 

 

そのままゴール下からシュートを放ち、得点を決めた。

 

「くそっ…」

 

自分の所から得点を決められてしまった新村は悔しさを露わにする。

 

「気にするな! 次のオフェンスでやり返せ!」

 

ベンチから若松が声を出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「今のワンプレーで一目瞭然ッスね。控えの彼では荷が重すぎる」

 

今の対決を見て松永と新村の間には埋めようが無い差があると言う黄瀬。

 

「あの10番は去年の全中でベスト5に選ばれた程の選手だ。控えの選手では止められないのは当然なのだよ。…しかし、これでインサイドの優位性はひっくりかえった」

 

「ああ。若松の退場はオフェンスもそうだが何よりディフェンス面で致命傷だ。正直、これで試合は分からなくなった」

 

緑間も火神も、若松の退場がもたらした影響を危惧した。

 

「…だが、こういう展開になれば力を発揮するのが…」

 

「青峰っち、スね」

 

火神の言葉に黄瀬が不敵な笑みでそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「よこせ」

 

ボールを拾った新村の前で青峰がボールを要求。新村はすかさず青峰にボールを渡した。

 

「…ハッ」

 

ボールを貰った瞬間、笑みを浮かべ、そのまま加速。フロントコートに向かってドリブルを始めた。

 

「いきなり来よった!」

 

「っ!」

 

オフェンスが切り替わって早々仕掛けてきた青峰を見て身構える大地と天野。スリーポイントライン手前で青峰を待ち受ける。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

大地と天野の目の前まで進むと、そこで高速かつ変則的なリズムで切り返しを繰り返し、2人を翻弄する。

 

「くっそ…」

 

どうにか抜かせまいとしていた天野だったが、ハイスピードかつトリッキーなリズムでドリブルを続ける青峰に付いていけず、その場で尻餅を付いてしまう。青峰はすかさず天野の横を高速で抜けていく。

 

「くっ、させません!」

 

そんな青峰を慌てて追いかける大地。青峰の横に並ぶ。横に並ばれると、青峰はボールを持って跳躍する。

 

『おいおい、リングの反対側に飛んだぞ!?』

 

リングから離れた方向へ飛ぶ青峰に疑問の声を上げる観客。

 

「っ!?」

 

意図を理解した大地が続いてブロックに飛ぶ。

 

 

――ブン!!!

 

 

青峰はボールを右手に持ち替えると、リング目掛けてボールをぶん投げる。手を伸ばしてブロックに向かった大地だが僅かに手が届かず…。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

『この状況でも青峰のフォームレスシュートは健在だ!』

 

バスケのフォームから大きくかけ離れたシュートに観客は沸き上がる。

 

「ここに来て、このキレとスピード…」

 

「若松退場で危機感が増して集中力が上がったんやろうな。ようやく本気になったっちゅう事やろ」

 

キレが増した青峰を見て大地と天野は戦慄を覚える。

 

「緑間だって土壇場でとんでもない力を見せてきた。このくらいの事は当然やってくるだろうよ」

 

2人の前まで来た空が動揺する2人に声を掛ける。

 

「裏を返せば、本気を出さなきゃ負けるってとこまで俺達が追い詰めてるって事だろ? だったら、後はあいつの本気を超えてやるだけだ」

 

「……そうやな、ここまで来たら泣き言はなしやな。おっしゃ! 全力で止めたるわ!」

 

空の言葉に天野が顔を叩きながら気合を入れ直す。

 

「頼むぜ大地。お前はウチのエースなんだ。お前が青峰相手に張り合えなきゃ話ならねえんだ。負けるなよ。相手が例え、キセキの世代のエースでもだ」

 

「っ! ……分かりました。あなたがまだ私に期待をしてくれるのなら、私はそれに全力で応えます」

 

静かに大地も気合を入れた。

 

ボールはスローワーとなった松永から空の手に。空はゆっくりボールをフロントコートまで進める。

 

「…」

 

生嶋と松永が作ってくれたこの流れ。この流れを途切れさせてしまえば残り時間を考えても花月に勝ち目はない。故に、1本の取りこぼしも命取りになる為、空は慎重にボール運びを続ける。

 

ここで天野が動く。生嶋をフリーにする為に桜井にスクリーンをかける。天野の合図を受けた生嶋が左アウトサイドに走る。同時に空はパスを出す。

 

『ダメだ! マークが外れてない!』

 

桜井はスクリーン読み切り、反転して天野をかわしながら生嶋を追いかける。左アウトサイドの端ギリギリまで走った生嶋だったが、桜井はすぐ傍まで迫っており、このままではシュート態勢に入る前に捕まってしまう。

 

 

――バチン!!!

 

 

生嶋は自身に向かってきたボールを両手で弾くように叩き、ハイポストの松永に中継した。

 

「ナイスパスだ生嶋!」

 

ボールを受け取った松永は1歩引いて新村と向かい合わせに立った。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

小刻みにフェイクを入れ、隙を窺い、態勢が崩れた所でスピンムーブで新村を抜きさる。

 

「よし!」

 

ゴール下まで侵入した所でボールを掴む。

 

「戻せ!」

 

「っ!?」

 

シュート態勢に入ろうとした所、後ろから空の声が聞こえ、反射的にボールを戻した。

 

「ちっ」

 

その瞬間、松永の近くで舌打ちが聞こえた。視線を向けると、そこには青峰の姿があった。もし、打ちにいっていれば確実にブロックされていただろう。

 

松永から空にボールが渡ると、青峰が空との距離を詰めていく。空はボールを受け取ったのと同時にボールをリング付近に放り投げた。すると、そこにドンピシャのタイミングで大地が飛んでいた。

 

「…っ」

 

青峰が反転してブロックに向かったが…。

 

 

――バキャァァァァ!!!

 

 

紙一重で間に合わず、大地のアリウープが決まった。

 

「っしゃ!」

 

空と大地がハイタッチを交わす。

 

「ボーっとしてんじゃねえ、早くボールよこせ」

 

「す、すまん」

 

慌てて新村がボールを青峰に渡した。ボールを受け取った青峰はそのままドリブルを始める。

 

「ディフェンス、止めるぞ!」

 

『おう!!!』

 

空が自陣に戻りながら声を上げ、選手達が応える。スリーポイントライン手前まで青峰がボールを進めると、大地と天野が立ち塞がる。

 

「…」

 

1度青峰は停止すると、ボールを切り返す。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…っ!?」

 

切り返しの折、天野の体重が僅かに右脚に乗った瞬間、大地と天野の間に出来た僅かな隙間から青峰は突破した。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

突破と同時にそのままジャンプシュートを決めた。

 

『スゲー、あのダブルチームをいとも簡単に!』

 

「くっ…!」

 

「何しとんねん俺は!」

 

失点を許した大地と天野は悔しさを露わにする。

 

「(何処かで青峰を止めなきゃ点差が縮まらねえ…! だが、今はオフェンスだ。この分じゃ、1本の取りこぼしが命取りになる…)」

 

熱くなる自身の頭を状況を見つめ直す事でクールダウンさせる空。

 

「1本、きっちり返すぞ!」

 

ボールを貰った空がボールをフロントコートまで運ぶ。同時に目の前に今吉が現れる。

 

「…」

 

空はその場でレッグスルーを繰り返しながら隙を窺う。

 

「(よく見ろ。あいつ(今吉)の体重移動する瞬間を見逃すな。…体重が片足に乗っ……ここだ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

レッグスルーで揺さぶりをかける最中、今吉の体重が右脚に乗った瞬間、クロスオーバーで切り返し、右手側から抜きさった。

 

「(あかん! レッグスルーからのクロスオーバー。読んどったのに動かれへん!)」

 

ほぼ動けず、抜きさられる今吉。

 

「片足に体重が乗った瞬間逆を付かれれば、例え動きが読まれようとも関係ねえ」

 

今吉を抜いた空はそのままシュート態勢に入った。その時…。

 

『あっ!』

 

観客から声が漏れる。空の右側から1人の影が現れる。

 

「青峰やと!?」

 

天野が思わず声を上げる。青峰が空のシュートコースを塞ぐようにブロックに現れた。

 

「……分かってるよ。見えてたからな」

 

空はシュートを中断し、ゴール下付近にボールをバウンドさせながらパスを出した。そこへ、大地が走り込み、リングへと飛んだ。

 

「ちっ」

 

舌打ちをした青峰が瞬時にゴール下まで走り、ブロックに飛び、大地のシュートを阻んだ。

 

「これに追いつくのか!? 何てスピードだ!」

 

ベンチの馬場が常軌を逸した青峰のスピードと反応速度に驚愕する。

 

「…やはり、一筋縄ではいきませんね」

 

大地はシュートを中断し、ボールを足元に落とした。

 

「っ!?」

 

青峰が目を見開く。ボールを落としたそこには空が走り込んでいた。

 

「今度は俺の番だ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ボールを受け取った空がボールをリングに叩きつけた。

 

『今度は神城だ! あの身長で何てバネだよ!』

 

「(ちっ、こいつらの連携の精度と速度は…、テツと火神より面倒だな…)けどま、関係ねえな。この先全部決めりゃいいだけの事だ」

 

空と大地の連携を見て楽しそうに笑う青峰。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

オフェンスが切り替わり、再び青峰が高速かつ変則的なストリートバスケのテクニックで揺さぶりをかける。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

揺さぶった結果、僅かな隙を付いて青峰はダブルチームを突破する。

 

「あっ!?」

 

直後、桜井が声を上げる。大地と天野を抜いた瞬間、即座にヘルプに行った空が青峰のボールを狙い撃ちに来たからだ。

 

「ほらよ」

 

だが、青峰は野生の勘で空のスティールを感じ取り、空の手がボールを捉えるギリギリでボールを横に流した。

 

「ナイスパスだぜ青峰!」

 

そこへ走り込んだ福山がボールを受け取り、そのままリングに向かって跳躍した。

 

「くそっ!」

 

慌てて松永がヘルプに飛び出し、ブロックに向かうが…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

僅かに間に合わず、福山のダンクが炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「これだ。誰にも頼らずに1人で戦っていた去年までと違い、今の青峰にはパスがある」

 

「昔の青峰っちからは考えられない事ッスね。話には聞いていたッスけど、実際この目で見ても信じられない光景ッス」

 

火神と黄瀬が今の青峰のプレーを見て驚愕する。

 

「パスというバリエーションが加わった青峰を止めるのは俺達でも至難の業。ダブルチームですらまともに止めきれない今の花月では止める事は不可能なのだよ」

 

一連のプレーを見た緑間が冷静に分析する。

 

「決まりッスかね」

 

黄瀬が試合の結末を予言するかのように呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

花月のオフェンス。空と大地の連携で得点を決める。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『チャージドタイムアウト、桐皇!』

 

ここで、桐皇が申請したタイムアウトがコールされた。原澤は選手達の残りのスタミナを考慮し、花月の流れを断つ意味も込めてタイムアウトを申請した。

 

選手達は各々ベンチに戻っていった。

 

 

第4Q、残り5分40秒。

 

 

花月 84

桐皇 90

 

 

「何とか決められたが、問題はディフェンスや」

 

オフェンスに成功し、ホッとするのも束の間、目の前の問題点に頭を悩ませる天野。現状、ダブルチームでも青峰を止められない。かと言って、空を加えてトリプルチームで対応すれば今度はパスに対応出来なくなる。

 

八方塞がりの現状。持ち前の手札で対抗出来ない現状。何とか食らい付き、均衡を保ってはいるが、それもいつまでも保っていられる保証はない。

 

『…』

 

必死に策を巡らせる上杉及び花月の選手達。ベンチ周辺を沈黙が支配する中、大地が口を開いた。

 

「青峰さんマーク。私1人でさせてもらえないでしょうか」

 

『…っ!?』

 

唐突に大地の口から出された提案に、花月のベンチの面々が驚愕した。

 

「お前1人でって、何言ってんだよ? ここまでダブルチームでさえ止められなかったんだぞ。いくら何でも…」

 

大地の提案に真崎が苦言を呈した。

 

「無理は百も承知です。ですが、青峰さんを止めようとすれば周りが止められない。周りに気を配ると今度は青峰さんが止められない。もはや、ダブルチームも、空による2人同時のマークも限界に来ています。点差を詰めるには、誰かが青峰さんを1人でマークする必要があります」

 

「…ふむ」

 

真剣な表情で説明する大地の言葉を聞いて上杉が腕を組みながら思案する。

 

「お願いします。やらせてください」

 

「……分かった。やってみろ」

 

深く考えて末、上杉は頷いた。

 

「監督、よろしいんですか?」

 

「綾瀬の言う事ももっともだ。ここは、綾瀬に賭ける」

 

確認するように真崎が問いかけると、上杉は頷いた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、タイムアウト終了のブザーが鳴った。

 

「よっしゃ、若松の代わりのセンターは大した事ねえ。松永、頼むぜ」

 

「任せろ」

 

空の問いかけに松永が自信に満ちた表情で答える。

 

「生嶋も、まだスリーは打てるよな? 中が固くなればそっちに回すから、あともう少し頼むぜ」

 

「ぜぇ…ぜぇ…もちろん。いつでもボール待ってるよ」

 

息を切らしながらも笑顔で空の言葉に生嶋が答えた。

 

「大地、青峰は任せる。頼むぜ」

 

「はい。チームの勝利の為、やってみせます」

 

表情を引き締めて大地は空の問いに答えた。

 

「外しても構わんからバンバン打っていきや。俺が全部拾ったる」

 

「頼りしてます。天さん」

 

胸を張りながら告げる天野に空が笑顔で答えた。

 

「残り時間僅かだ。お前らの持ってるものをコートの中で出してこい!」

 

『はい!!!』

 

「行って来い!!!」

 

上杉の激を背中で浴びながら花月の選手達はコートへと向かった。今吉がボールを受け取り、試合は再開される。

 

『おっ?』

 

『おいおい、マジかよ…!』

 

花月のディフェンスが変わった事に観客が早くも気付き、声を上げる。天野が福山に付き、青峰は大地1人でマークしている。

 

「無謀としか思えへんわ。万策尽きて血迷ーたんか?」

 

薄ら笑いを浮かべながら今吉が空に問いかける。

 

「ちげーよ。賭けたんだよ。ウチのエースにな」

 

空は真剣な表情で今吉に返した。

 

「たいそうお宅のエースを買っとるみたいやのう。…ほな、遠慮なく突かせてもらうわ。絶好の穴をのう!」

 

ここで今吉がパスを出す。ボールの先は当然、青峰。

 

「…っ!」

 

青峰にボールが渡ると、大地は腰を落とし、オフェンスに備える。

 

「ほう? やる気満々みたいじゃねえか」

 

ボールを受け取るのと同時に青峰はドリブルを始める。

 

「(これまでずっと青峰さんの相手をしてきて独特のリズムにはある程度慣れてきました。スピードも、単純なスピードなら空の方が速い。後は、動きを読むことが出来れば…!)」

 

揺さぶりをかける青峰。大地は懸命にそれに対応しながら青峰の動きを予測する。

 

「夏の合宿でも思ったが、お前の資質は大したもんだ。けどな、それじゃ俺は止められねえ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

バックチェンジで切り返し、大地の左手側から青峰が駆け抜けていく。

 

「まだです!」

 

同時に大地がバックステップで青峰に並走し、追いかける。

 

「良い線行ってたが……甘ぇ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

バックステップと同時に青峰は後ろに踏み込んだ大地の脚の股下からボールを通しながら切り返し、大地をかわした。

 

『やっぱり綾瀬じゃ青峰は止められない!』

 

大地を抜きさった青峰はそのままリングに向かっていく。

 

「くそっ!」

 

慌てて松永がヘルプに飛び出すが…。

 

「止まって下さい!」

 

「っ!?」

 

大地が松永を制止させる。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

無人のリングに青峰が悠々とワンハンドダンクを叩きつけた。

 

『おぉぉぉーーーーっ!!!』

 

観客が盛大に沸き上がる。

 

「…へぇ」

 

ダンクを決めた後、青峰は大地に視線を向けながら感心するような声を出した。

 

「綾瀬、どうして止めた? タイミング的には間に合っていた。ブロックする事も…」

 

「狙われていました」

 

制止させられた事に不満を覚えた松永が大地に問いかけるが、大地は表情を変えることなく告げていく。

 

「私を抜きさった後、青峰さんは意図的にスピードを緩めました。恐らく、松永さんからのファールを誘ってボーナススローを狙っていたのでしょう」

 

「っ!?」

 

事実を告げられ、松永は息を飲んだ。

 

「それに、ここでファールをすればあなたはファール4つ目です。そうなれば、こちらの勝利は絶望的になっていたでしょう」

 

「そういう事か。すまない、助かった」

 

大地の制止の意図を理解した松永は頭を下げながら礼を言った。

 

「最悪のシナリオこそ防げたが、失点をしちまった事には変わりない。…大地、どうする?」

 

「続けさせて下さい。何としてでも止めてみせます」

 

「……愚問だったな。お前に賭けたんだ。任せるぜ」

 

そう大地に告げ、ボールを受け取った空はフロントコートにボールを進め、ゲームメイクを始めた。

 

「…」

 

今吉が目の前に来ると、空は右サイドに展開していた大地にパスを出した。

 

「お宅らも懲りんのう。ほな、こっちはカウンターに備えるかのう」

 

先程と変わらず含み笑いを浮かべる今吉。ボールを持った大地の前に青峰がディフェンスに現れる。

 

「…」

 

「…来いよ」

 

腰を落とし、圧倒的な威圧感を醸し出しながらディフェンスをする青峰。大地はゆっくりボールを動かしながら機会を窺う。その時…、

 

「っ!?」

 

空が旋回しながら大地の横へと走り込んできた。大地がボールを横へと差し出し、すれ違い様空がボールに手を伸ばす。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

だが、空はボールを受け取らず、そのまま走り、大地はバックステップをして距離を取り、そのままシュート態勢に入る。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

「ちっ!」

 

走り込んだ空を警戒をし、大地のバックステップへの対応が遅れ、ブロックに紙一重で間に合わず、放たれたボールはリングを潜った。

 

「…ハッ! いいね、なかなかやるじゃねえかよ!」

 

失点を許したが、それでも不敵な笑みを浮かべる青峰。突き放そうとも食らい付いてくる花月を相手にする事がとても楽しいのだろう。

 

桐皇のオフェンスが始まると、躊躇わず青峰にボールを渡す。

 

「…」

 

「何度やっても同じだ。お前じゃ俺は止められねえ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

高速で左右に切り返しをし、大地の態勢が崩れた所で一気に仕掛けた。

 

「っ!」

 

態勢が崩れるも、大地は強引に立て直し、バックステップをしながら青峰の進路を塞ぎにかかる。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

大地が進路を塞いだのと同時に青峰が急停止し、そのままシュート態勢に入る。

 

「まだです!」

 

大地も急停止し、即座にブロックに飛び、シュートコースを塞ぐように手を伸ばした。

 

「よく間に合ったな。だが、惜しかったな」

 

すると、青峰はジャンプシュートの態勢から背中を後方に大きく倒した。

 

『フォームレスシュート!』

 

『やっぱり青峰は止められない!』

 

ブロックをかわす青峰のフォームレスシュートに誰もが得点を確信する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「分かってますよ。今の私では青峰さんは止められない。ですから――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

放ったボールが弾かれ、思わず声を上げる青峰。状況的に大地にブロックは不可能。

 

「させねえよ!」

 

ボールを弾いたのは空だった。空が青峰の後方からシュートをブロックした。

 

大地は先程の勝負で今の自分では青峰を止める事が出来ない事を理解し、それでも青峰を止める為、フォームレスシュートを打つように誘導した。

 

『…(チラッ)』

 

『っ!』

 

青峰がシュート態勢に入った瞬間、大地は空に目で合図を送った。空は大地の意図を即座に理解し、ヘルプに飛び出し、青峰のフォームレスシュートを後方からブロックした。

 

 

「あいつら、青峰を止めやがった!」

 

これには火神も思わず立ち上がりながら驚愕した。

 

 

「速攻や!」

 

ルーズボールを拾った天野が前線へボールを放り投げる。そこへ、大地が既に走り込んでおり、ボールを受け取るとそのままワンマン速攻。

 

 

――バス!!!

 

 

大地がレイアップを決めた。

 

「おっしゃぁぁぁぁっ!!!」

 

「っ!」

 

拳を突き上げて喜びを露わにする空に、大地は笑顔を浮かべて拳を胸元で握った。

 

「そんな…、青峰さんが止められた…」

 

目の前で起きた事実に桜井は茫然とする。

 

「まだ逆転されたわけじゃねえだろ! 切り替えろ!」

 

『っ!』

 

ベンチから若松が懸命に声を張り上げ、チームを鼓舞する。リスタートをした桐皇は今吉がボールを運ぶ。

 

「…っ」

 

平静を保とうとする今吉だったが、未だ先ほどのブロックの動揺を引きずっていた。

 

「(まさか、青峰はんが止められるとは…、やが、こないな事が2度も続く訳あらへん! 最強は青峰はんや!)」

 

絶対的な青峰に対する信頼を寄せる今吉。そして、先程の動揺。この2つが、今吉のミスを誘発した。

 

 

――バチィィィ!!!

 

 

「っ!? しもた!」

 

青峰に対して出した不用意に出したパス。大地のポジション確認を怠ってしまい、瞬時にパスコースに割り込んだ大地にボールをカットされてしまった。

 

「ナイス大地! っしゃぁっ! 速攻!」

 

ルーズボールを拾った空がそのままフロントコートに駆け上がる。スリーポイントラインを越え、フリースローラインを越えた所でボールを右手で持ち、シュート態勢に入る。

 

「させねえ! これ以上やらせるかよ!」

 

 

――バチィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ボールを持ち換えてシュートを放とうと跳躍した直後、空の後ろから福山がボールを叩いた。

 

「くそっ!」

 

手から零れたボールを慌てて掴む空。だが、態勢が不安定の為、これではシュートが打てない。

 

「空!」

 

「っ!」

 

その時、空の耳に自身を呼ぶ声が聞こえ、空は導かれるようにそこへパスを出した。左アウトサイド、スリーポイントラインの外側のエンドラインとサイドラインが重なる所に走り込んだ大地がボールを受け取り、そこからスリーを放った。

 

『っ!?』

 

コート上の選手達、そして、ベンチ、観客全てがボールの行方に注視する。ボールは弧を描き…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

リングの中心を射抜いた。

 

『キタ…』

 

『これで1点差…遂に背中を捉えた!』

 

スリーが決まり、1点差にまで詰めた事で観客が沸き上がった。昨年、誠凛がキセキの世代を次々打倒して日本一に輝いた奇跡。その奇跡が再び起ころうとしている今、観客のボルテージは最高潮にまで上がった。

 

『…』

 

茫然とする。桐皇の選手達。

 

油断など微塵もしていなかった。むしろ、秀徳を倒して勝ち上がった花月を警戒すらしていた。だが、ここまでの接戦に持ち込まれるとも思っていなかった。

 

試合の流れ、風は花月に向いている。昨日の番狂わせが今日も起こる。と、誰もが思っていた。

 

「スー…フー…」

 

動揺する桐皇の選手の中で、青峰だけが俯きながら呼吸を整え、精神統一するかのように集中力を高めていた。

 

「…っ!」

 

ボールを運んでいる今吉の前に来て無言でボールを要求する青峰に対し、異変を感じながらもボールを渡した。大地が青峰の前に立ち塞がる。

 

「っ!?」

 

青峰が動きを見せ、大地が対応しようとした瞬間、一瞬で大地の背後に青峰が抜けていた。

 

 

――バス!!!

 

 

そのままレイアップを決めた。

 

「綾瀬が、こないあっさりと…」

 

「まさか…!」

 

茫然とする天野。そして、青峰の変化に気付いた空。

 

「ここまでやるとはな。さすがに驚いたぜ」

 

背を向けながら話す青峰。そして、花月の選手達に振り返る。

 

「正真正銘、こっから本気だ。死ぬ気でかかってこいよ」

 

不敵な笑みを浮かべながら青峰は言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――青峰大輝が、ゾーンの扉を開いた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





テクニカルファールについて。現在テクニカルファールの場合、与えられるフリースローは1本(2014年から施行)なのですが、原作が連載当時の2009年頃のルールなので、ルール改正がされる以前の2本としています。

ここからは愚痴です。新しいパソコンが欲しい…( ;∀;)

執筆中にパソコンが停止したり、執筆中のウィンドが何故か消えたりしたので新しいのが欲しい。けど、お金がないorz

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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