黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

あけましておめでとうございます!

新年最初の投稿となります。

それではどうぞ!



第91Q~新戦力~

 

 

 

時は4月…。

 

「ふわぁぁぁっ…、やっと終わった…」

 

欠伸をしながら校舎内の1室から出てきた空。

 

4月某日、新年度を迎え、入学式が執り行われ、新しく1年生が花月高校に入学した。空は2年生に進級し、主将…及び部長に任命された事により、新年度の初めに行われる各部活動の部長会議に参加していた。

 

「ずっと寝とった癖にのう…」

 

そんな空に呆れ顔になる天野。

 

部長会議にて、新入生の部活動の勧誘における諸注意等が説明されたのだが、空は机に突っ伏して居眠りをしていた。

 

「ホンマ頼むで。空坊、お前部長やねんぞ」

 

「ハハッ! すんません」

 

窘める天野。空は照れ笑いを浮かべながら謝罪した。

 

「そういや、今日はバスケ部に入部届を出した1年生が練習に参加するんですよね?」

 

「そやで。他の部活動は明日から仮入部やけど、ウチは今日からや。ま、バスケ部の毎年恒例行事って奴やな」

 

昨年も入部届を提出したその日に練習が行われていた。

 

「ま、何はともあれ、これで七面倒くさい部長会議は終わりや、次は、新入生やのう」

 

「ですね。けど、ウチは去年、インターハイ優勝してますし、ウィンターカップも秀徳に勝ってベスト8まで行ってますから、期待は出来るんじゃないですか?」

 

「どうかのう。インターハイは三杉はんと堀田はんありきやったし、ウィンターカップは、マグレや油断や言う輩もぎょーさんおったみたいやしな。今年の1年生も一応はキセキの世代を生で見た事ある世代や。去年の空坊達みたいに、本気でキセキの世代を敵に回す気概がある奴がどんだけいるか…やな」

 

新1年生に戦力を期待する空。天野はそんな空の期待を打ち消すように苦い表情をする。

 

「ちなみにや、空坊。主将として、どんな戦力を期待しとるんや?」

 

「んー、そうですね…」

 

天野が尋ねると、空は顎に手を当てながら考え込む。

 

「まず、1番に欲しいのは、インサイドプレーヤーですね」

 

「ほう」

 

「天さんと松永は信頼はしてますけど、インサイドを担えるのが2人しかいないのはちょっときついんですよね。どっちかがファールトラブルに陥ったり、負傷退場したらインサイドがかなりヤバイ事になります。去年は馬場先輩がいたから良かったですけど、やっぱりもう1人くらい控えにいてほしいですね」

 

「ま、もっともな意見やな」

 

共感出来るのか、天野は満足そうに頷いた。

 

「後は…、これは、新人戦の時に感じた事なんですけど…」

 

そう前置きしてから空は続ける。

 

「試合の後半戦、どうにも点差が伸ばせなかったり、縮まった場面が結構ありました。運動量を生かしたラン&ガンがウチの売りですが、ここから先、これだけで戦うには厳しいと思います。とりあえず、ここ1番で流れを変えられる選手が1人欲しいところですね」

 

「シックスマンやな。確かに、去年はデータが少なかったら勢いで何とかなったが、今年はそういかんやろな。空坊の言う通り、新人戦でも対応されて点差が縮まった場面も多々あったからのう」

 

空の分析に天野は概ね意見があったのか、頷いた。

 

「帆足も、花月で1年間耐え抜いただけあって、今では県レベルのプレーヤーが相手なら問題なく戦えますが、全国レベル相手にはまだ足りないですし、3年の先輩方も、失礼を承知で言うなら、戦力的には申し分ないんですけど、流れを変えるシックスマンの役割を担えるかって考えると、違うんですよね」

 

「手厳しいのう。けどま、そう言われてもしゃーないけど…」

 

空の痛い指摘に、天野は苦虫を噛み潰したよう表情をする。

 

「さて、今年はどれだけ新入生が来るかな…どのくらい来たんですか? 俺、ブースに立たなかったから知らないんですよね」

 

「ぎょーさん来てたで。数えてへんけど、少なくとも去年より多いで」

 

「それは、期待出来るかな…」

 

期待に胸を膨らませ、空と天野は体育館に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

体育館…

 

 

――ざわざわ…がやがや…。

 

 

体育館内はバスケ部の2・3年生及び、新入生で溢れかえっていた。

 

「おっ? スゲースゲー! いっぱい来てんじゃん」

 

予想より多い入部希望の新入生の数に空は興奮を隠せない様子。

 

「ホンマやなあ。ひいふうみい…50人はおるなあ…」

 

天野も同様の感想で、新入生の数の多さに驚きを隠せない。

 

「(…なあ、あの人、神城さんだよな?)」

 

「(そうだよな! 去年、キセキの世代の青峰さんと互角にやり合った…)」

 

空が体育館に現れると、新入生がざわつき始める。

 

今や、空はキセキの世代と対等に戦った事で顔も名も知られており、新入生の間でも有名であった。

 

「空! 遅かったですね」

 

「わりぃ、会議が長引いてな」

 

少し疲れたような表情をする大地。これだけの人数の新入生をここまで大地が纏めていた事もあり、主将ともう1人副主将である天野がやってきて安堵の表情をした。

 

「盛況だな」

 

「ええ。見た所、県大会の上位クラスの方もチラホラ見受けられます。数だけでなく、質においても頼りになる新入生達です」

 

中学で鳴らした実力者達が揃った1年生を見て大地は笑顔になる。

 

「俺も気になる奴が2人程。後は…」

 

「ここの練習でどれだけ残るか…ですね」

 

花月の練習は質・量共に全国で1番キツイ事で名が知られている。昨年時も、仮入部段階で20以上いた入部希望者も結局残ったのは5人のみ。

 

空と大地は、1人でも多くの1年生が戦力として残ってくれる事を望むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

新1年生が1人ずつ自己紹介と、得意あるいは、希望のポジションを宣言していく。

 

去年の実績があるのか、経験者…それも、県の強豪校出身の者も多数いた。

 

「帝光中出身、竜崎大成。ポジションは何処でもやれます! よろしくお願いします!」

 

 

――ざわざわ…。

 

 

次の瞬間、新入生及び、2・3年生がざわつく。帝光中出身もさることながら、彼の名前は知る人ぞ知る存在だからである。

 

「水鏡中学出身、室井総司です。よろしくお願いします」

 

寡黙に最後の1人が自己紹介を終わらせた。

 

「…」

 

空は最後の1人に視線を向ける。空が新入生で気になったのは、先の竜崎大成と最後の室井総司である。室井は新入生の中で1番の高身長であり、体格もジャージ越しながら、かなり鍛えられている事が窺える。

 

「…あの1年坊、何処かで…」

 

天野が顎に手を当てながら考え込む。

 

「天さん、あいつ知ってるんですか?」

 

「室井総司言う名前、何処かで聞いた事あるねん。何処やったかなぁ…」

 

聞き覚えがある名前なのか、天野は記憶を辿りながら思い出そうとする。

 

「…ま、何にせよ、頼もしい新入生が来たって事か。今年はいけるかもしれないな」

 

期待どおり、頼もしい新戦力の加入に、空は期待を膨らませるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

その後、監督の上杉が体育館にやってきて、去年と同じく集めた入部届を破り捨てた。その後、空に恒例の長距離ランニングの指示を出した。

 

「これから外走りに行くから、1年生は運動靴に履き替えて俺達に付いてきてくれ」

 

空が1年生に指示を出し、先頭を切って外に向かった。それに続き、2・3年生と1年生が後に続いていった。

 

「かなり走るから準備運動は入念にやっとけよ」

 

そう指示を出し、各自準備運動を始めた。

 

「…っ、…っ、…よし!」

 

準備運動を終えた空。辺りを見渡し、目当ての人物を探す。その人物を見つけると、傍まで歩み寄り、声を掛けた。

 

「よっ、1年生」

 

「…っ! あっ、キャプテン、どうもです」

 

柔軟運動をしている途中、空に話しかけられ、上半身を起こして返事をする竜崎。

 

「お前、知ってるぜ。俺らが全中出た時、試合に出てたよな? 決勝トーナメントからは1度も試合出てなかったけど」

 

「あの時はどうも。実は、予選リーグの最終戦で足やっちゃって、決勝トーナメントは出れなかったんですよ」

 

バツの悪そうな表情で答える竜崎。

 

「あの時の帝光中の中ではまともにバスケしてたから、よく印象に残ってるぜ」

 

空は当時に全中で帝光中の試合はほとんど観戦していた。好き勝手、自分勝手なプレーをする帝光中の選手の中で、竜崎は唯一チームプレーをこなしていた事から、空は竜崎の事は深く印象に残っていた。

 

「怪我さえなければ中学時代に戦えたんですけどね。そうなれば、試合結果も変わってかもしれないです」

 

「へえ…」

 

自信満々に言い放つ竜崎に、空は不敵に笑った。

 

「いやいや、冗談ですよ!? 多分結果は変わらなかったですよ!」

 

次の瞬間、竜崎は慌てて手を振りながら否定をした。

 

「期待してるぜ、竜崎。ウチはとにかく戦力が足りないからな。くれぐれも、ウチの練習で潰れないでくれよ?」

 

「舐めないで下さいよ。これでも帝光中出身ですよ? あそこの練習はそこらのバスケ部とは次元が違いますからよゆーッスよ」

 

「その言葉、忘れんなよ」

 

空はそう言い残し、部員達の先頭に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

「ぜぇ…ぜぇ…! 何スかこれ!? このペース、あり得なくないですか!?」

 

恒例の20キロのランニングが始まり、中間地点である10キロ地点。竜崎が呼吸を荒げながら弱音を吐く。

 

『ぜぇ…ぜぇ…!』

 

他の1年生も同様の感想で、2・3年生グループから大きく離された所で息を切らしながら走っている。

 

「喋ると呼吸が乱れるぞ」

 

一定のリズムで呼吸をしながら松永が忠告する。

 

「でも、僕達のグループに付いていけるだけでも凄いと思うよ」

 

松永の横を並走している生嶋。1年間花月で鍛えられている2・3年生達のグループに弱音を吐きながらもピッタリと付いてくる竜崎に称賛の言葉をかける生嶋。

 

「確かに、帝光中で鍛えられただけの事はあるな」

 

同様の感想を松永も思っていたのだった。

 

「…だが、驚きべきは…」

 

「…うん、何者なんだろう?」

 

松永と生嶋は、前方に視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

「…」

 

「…」

 

先頭を走る空と大地。

 

「(……へぇ)」

 

「(…これは)」

 

走りながら感心する空。

 

「…フー、…フー」

 

一定のリズムで呼吸を取りながら2人の横を走るのは、1年生の室井。

 

空と大地のスタミナは、花月でずば抜けている。そんな2人に平然と付いていく室井に、2人は素直に感心する。

 

「…やるね」

 

「…ありがとうございます」

 

賛辞の言葉を贈った空に、前を向きながら礼の言葉を返す室井。

 

「…とは言え、このまま並ばれるのも芸がないな。…大地、先輩の威厳って奴を見せてやろうぜ」

 

「全く。…分かりました。行きましょうか」

 

そう言って、空と大地はペースを上げて走り出した。

 

「……負けません」

 

室井もペースを上げ、2人の後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…ぶはぁっ!」

 

「…ハァッ!」

 

トップで花月高校の校門に辿り着いた空と大地。

 

「フゥッ!」

 

数秒遅れて室井が校門に辿り着いた。

 

「ハァ…ハァ…引き離すつもりで全力で走ったのに…」

 

「ハァ…ハァ…、まさか、最後まで付いてこられるとは…」

 

走り切った2人が呼吸を整えながら室井の方に視線を向ける。

 

「ハァ…ハァ…、驚きました。体力には自信があったのですが、まさか、あそこからさらにスパートをかけてくると思いませんでした」

 

同じく呼吸を整える室井。空と大地と並んでも走るも、結局1度も2人の前に出ることが出来ず、その表情は驚いていた。

 

「さすがだな」

 

「…あっ、監督」

 

そこへ、上杉がやってくる。

 

「室井総司。噂通りだな」

 

「彼をご存知なんですか?」

 

「ああ。水鏡中の室井総司は名が知れているからな」

 

大地が尋ねると、上杉は両腕を胸の前で組みながら答える。

 

「へぇー、という事は、全中にも出場してたのか?」

 

「いや、室井はバスケの選手ではない」

 

「?」

 

空は上杉の言葉が理解出来ず、頭にハテナを浮かべる。

 

「はい。自分は中学まで陸上部でしたので」

 

捕捉するように室井が答えた。

 

「陸上…ですか?」

 

「短距離、長距離、砲丸、槍投げ、あらゆる競技で入賞や表彰台に上った、将来を嘱望された陸上界の雄とまで呼ばれた男だ」

 

室井のプロフィールを簡単に説明する上杉。

 

「なるほど、だから俺達にあっさり付いてこれた訳か。…けど、そんな奴が何でウチのバスケ部に来たんだ?」

 

自分達に付いてこれた訳に納得した空。そんな逸材が何故花月のバスケ部に来た理由を尋ねた。

 

「実は昨年の年末、知り合いに誘われて高校のウィンターカップの試合を見に行きました。そこで、先輩達に試合を見ました。正直、素人目ですが、相手の方が1枚2枚格上に見えました。それでも、点差を付けられても諦めずに最後まで前を向いて戦い、後1歩の所まで戦った先輩達を見て、自分も花月高校でバスケがしたくなり、受験しました」

 

「へぇー、あの試合見ててくれたんだ。…でも、良かったのか? そこまで有名なら、いろいろスカウトとか来てたんじゃないのか?」

 

「えぇ、いくつか話は頂きました。実際、周囲からは止められました」

 

空の疑問に困った表情で答える室井。

 

「あの試合を見る前まで、陸上を続ける事に疑問を感じていました。1つの競技に集中するとすぐに敵がいなくなってしまう。様々な競技に挑戦したのも、少しでも陸上に張り合いを出す為でした。高校に進学し、さらにそこから視野を国内から世界に広げれば、自分以上の存在…それこそ、死に物狂いで努力をしてもそれでも届かない選手もいるでしょう。それでも、当時、自分にはそこまで存在がいなかった…」

 

「(…彼もまた、キセキの世代と同じ…)」

 

大地はかつてのキセキの世代と室井を重ね合わせた。

 

「そんな時、先輩方の試合を見て、新しく挑戦をしてみたくなりました。周りからは無謀と言われましたが、それでも、自分はその無謀に挑戦したい。ですから、ここ、花月高校に来ました」

 

真剣な表情で室井は言い放った。

 

「なるほどな。お前みたいに向上心のある奴は大歓迎だ。だが、あえて言わせてもらう」

 

上杉は室井に賛辞の言葉を贈った後、表情を改める。

 

「お前のその身体能力はバスケにおいて大きな武器になるだろう。だが、それだけで通用するほど、バスケは甘くはない」

 

「…」

 

「ウチのバスケ部を始め、全国の猛者は中学…それこそ小学生の頃からバスケを始めた経験者で、実績がある者達ばかりだ。高校からバスケを始めるお前とはスタート地点が違う。そのキャリアの差は致命的だ。努力でどうこう出来るものではない」

 

「…」

 

「ウチの目標は全国制覇だ。俺は勝ち抜く為に最善の選手を使う。身体能力だけの選手を使うつもりはない。バスケ部に入っても3年間試合に出れずに終わる事も充分あり得る。いや、その可能性が高い。率直に言う。今からでも陸上部に行くべきだ。花月の設備はそこらの陸上強豪校より充実している。足りなければお前ほどの実績がある者が申請すれば通るだろう。お前の将来を考えれば、これが最善の選択だ」

 

監督の立場から諭すように室井に告げる。

 

「…お気遣いありがとうございます。ですが、自分は覚悟してここに来ました。キャリアで劣っていると言うなら、人の2倍でも3倍でも努力してその差を埋めます。誰が何と言おうと、自分はバスケ部に入部します」

 

一切の迷いのない表情で室井は上杉に宣言した。

 

「…フッ、そうか。そこまで覚悟出来ているならこれ以上は野暮な事は言わん。死に物狂いで練習して花月の全国制覇に貢献してみせろ」

 

それだけ告げ、上杉は体育館に戻っていった。

 

「はい! よろしくお願いします!」

 

室井は上杉の背中に向けてお辞儀をした。

 

「さて…、他が戻ってくるまで時間があるし…、室井、体育館に行くぞ。俺と大地でバスケの基本を教えるよ。まだ、動けるよな?」

 

「もちろんです。ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」

 

空と大地と室井は体育館へと向かっていった。

 

付きっきりで室井に指導をする空と大地。その3人を見て、戻ってきた部員達は、言葉を失うのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

1週間後…。

 

「足を止めるな! 声を出せ! この程度でバテるようじゃ試合じゃつかいものにならんぞ!」

 

『はい!!!』

 

上杉から厳しい激が飛ぶ。部員達は腹から声を出して答える。

 

あれから1週間が経ち、本日、入部届が受理された。当初は50人程新入生だったが、この時点でもう11人まで減っていた。中学からの経験者…実力者が集まった新入生だったが、やはり、花月の厳しい練習に耐えられず、1日が過ぎるごとに新入生は1人、また1人と去っていった。

 

「おらぁっ、竜崎! 声が出てねえぞ!」

 

「はい!!!」

 

新入生の1人である竜崎に空が激を飛ばす。この1週間、空は竜崎に対しては厳しく接していた。これは、空が竜崎に対し、期待を込めての行動である。

 

「室井君。腰が上がっているわよ。基本の姿勢を意識して!」

 

「はい!」

 

体育館の隅で、室井が腰を落としながらボールを突いている。その横で、姫川が指導をしている。

 

基礎トレーニングが終わると、ボールを使った練習に入り、それが終わるとゲーム形式の練習に移行するのだが、室井だけは別メニューを行っている。初心者である室井は、チーム練習にまだ参加させず、バスケの基礎を覚える事から始めていた。

 

指導を命じられたのは姫川。上杉はチーム全体の指揮を取らなければならない為、付きっきりで指導が出来ない。そこで…。

 

『姫川。室井の指導を任せる。4月中に奴を試合に出せるまでにしろ。出来るか?』

 

『任せて下さい』

 

上杉が尋ねると、姫川はニヤリとしながら了承した。

 

パス、ドリブル、シュート。その3つの指導を姫川が行っている。

 

「姫川。調子はどうだ?」

 

「はい。とても飲み込みが早いです。バスケの基本ルールは既に覚えてきたみたいですし、陸上出身者だけに身体を使ったプレーの飲み込みは特に早いです。後10日もあればチーム練習に合流出来ます」

 

「うむ。ならばよし」

 

姫川の言葉を聞き、上杉は満足そうに頷いた。

 

「室井は身長もあるし、パワーもある。インサイドプレーヤーとしてはうってつけだ」

 

「私も同じ意見です」

 

188㎝という身長に恵まれた体格。姫川も上杉と同意見である為、頷いていた。

 

「インターハイの県予選までに試合に出られるようにまでしたいものだな」

 

ドリブルの基礎練習を行う室井を見ながら、上杉は1人呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「今日の練習はここまでだ。各自、後片付けと戸締りはしっかり行ってから下校しろよ」

 

そう言い残し、上杉は体育館を後にしていった。

 

『ハァァァァァッ…!』

 

すると、溜息を吐きながら1年生達がその場で座り込んだ。バスケ部の練習に参加して早1週間。やはり、花月の練習はきつく、練習に付いていくだけで精一杯なのが現状である。

 

「ほな、マツ。ゴール下の1ON1でもやろか」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

天野と松永がボールを持ってリングの下へ向かっていった。

 

「僕は日課のシューティングをやろう」

 

「あっ、俺も」

 

ボールが入った籠を運んでいく生嶋。その後を帆足が追っていく。

 

「…先輩達はスゲーな。あれだけ練習をした後なのにまだ動けるのかよ…」

 

唖然とする1年生達。

 

ここからは個人の自主練の時間なのだが、1年生にはまだその余裕はまだない。一部を除いて…。

 

「さて、俺も…」

 

1ON1をしようと大地の姿を探す空。その時…。

 

「キャプテン」

 

空は声を掛けられ、振り返ると、そこには竜崎の姿があった。

 

「ん? 何かようか?」

 

「よろしければ、1ON1の相手、してくれないですか?」

 

左手で持ったボールを掲げながら頼む竜崎。空は少し考える素振りを見せ…。

 

「いいぜ、やろうか」

 

ニヤリとしながらその頼みを聞いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「おっ? なんやなんや?」

 

「?」

 

ゴール下で1ON1をしていた天野と松永。辺りがざわつき始めた為、中断して事情を聞きに行く。

 

「1年が神城に1ON1を挑んだんだよ」

 

同じ3年生である菅野が眉を顰めながら答える。

 

「ほう? ウチの練習こなした後やのに、大した玉やないか」

 

「帝光中出身というのは伊達ではないみたいですね」

 

まだ花月高校バスケ部の練習に参加して1週間。にもかかわらず、空に1ON1を挑む体力と度胸に感心する天野と松永。

 

「…少し調子に乗り過ぎだろ。いきなり神城に挑むとかよ」

 

そんな竜崎を快く思わない菅野。

 

「まあええやないか。空坊も満更でもないみたいやしな」

 

菅野を窘めつつ、2人の勝負に注目したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

フリースローラインまで移動する空と竜崎。

 

「せっかくだから勝負形式でやるか。5本先取。どうだ?」

 

「いいですね。それでお願いします」

 

空の提案に、竜崎は快く承諾した。

 

「では、キャプテンからどうぞ」

 

そう言って、空にボールを渡す。

 

「いいぜ、そんじゃ、始めるか」

 

空がスリーポイントラインの外まで移動した。

 

「…」

 

「…」

 

ボールを持った空。その目の前に立つ竜崎。

 

『…』

 

その様子を、体育館に部員達が固唾を飲んで見守っていた。

 

「…もし」

 

「…ん?」

 

「もし、この勝負で俺が勝ったら、スタメンになれたりするんですかね?」

 

唐突に竜崎が空に尋ねた。

 

「…スタメン決めるのは監督だから何とも言えないが、もし俺に勝ったら、監督にはその事は伝えるし、俺から監督に推薦はしてやるよ」

 

空は激昂した菅野を窘めつつ、竜崎の質問に答えた。すると、竜崎は空の言葉に満足したのかニコリと笑みを浮かべ…。

 

「ハハッ! その言葉を聞いたら俄然やる気が出てきましたよ。これで心置きなく本気でやれます」

 

「そう来なくちゃ」

 

同じく空も満足そうに笑った。

 

「…ちっ」

 

竜崎の言葉が癇に障ったのか、菅野が舌打ちを打った。

 

「次世代のキセキに自分が何処まで通用するか、挑ませていただきます」

 

「次世代のキセキ?」

 

「去年、キセキの世代の緑間先輩が所属する秀徳に勝利し、青峰先輩が所属する桐皇に、惜しくも敗北するも青峰先輩と互角にやり合ったキセキの次世代から現れたキセキ。キセキの世代の次世代なので次世代のキセキって呼ばれているんですよ。知らなかったんですか?」

 

「いや、知らなかった」

 

以前に雑誌でそう紹介された事で、空と大地の2人を『次世代のキセキ』として広まっていた。

 

「ふーん、ま、どうでもいいや」

 

自分自身がどう呼ばれているのか特に興味がなかったのか、空は聞き流した。

 

「そんじゃ、今度こそ始めるぞ。見させてもらうぜ。去年、帝光中を全中の覇者に導いた主将の実力をな…」

 

神城空と竜崎大成。

 

2人の勝負が、始まったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





無事、年越しを迎えられ、こうして投稿する事が出来ました。

新戦力の紹介と致しまして…。

竜崎大成

身長183㎝
体重71㎏

帝光中の昨年時の主将。物怖じしない性格で、言いたい事は先輩が相手でもはっきり言う。

室井総司

身長188㎝
体重89㎏

中学時代はあらゆる競技で表彰台、入賞を飾った陸上界の雄。昨年の花月対桐皇の試合を見てバスケに興味を持ち、花月高校のバスケ部の門を叩いた。
性格は寡黙でストイックな性格で、イメージ的にはアイシールド21の進清十郎。

この話からキセキの世代のラストイヤーが始まります。原作キャラよりオリキャラが多くなりますが、何とか魅力を出せるように出来たらと思います…(^-^;)

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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