目を開けると、そこは青空だった。
「あー……」
何とも突発的な意識の目覚め方に思わずうめき声がでる。なぜだか俺は青空の下で寝転がっていた。俺は無意識に体を起こす。
今の状況を確認しようと目を落として……俺は自分のTシャツにべっとりとついている血が見えた。
「……ッ!!」
俺の心臓が跳ね上がる、唐突すぎる血の色に声も出なかった、だが……、
「あぁ、俺死んだのか」
声に出してみれば動揺は簡単におさまった。さっきの事を思い出し、俺はなぜだか安堵する。あぁ、俺は死んだのかと。ひったくりに会い、三人でトラックに轢かれて死亡……それで今、この荒野に佇んでいる。
「これって、生と死の狭間の世界ってやつか?」
なんて言うか……走馬灯? なのかな……。とりあえず体に大きな傷がないことを確認した俺はそんな声を出す。周りを見渡すと荒野……そして遠くに山が見えた。
「ん……?」
俺は遠くに連なる山々から視線を離す、そして自分の足元を見た。すると、
「血だらけ……」
ひったくりが奪っていった俺のバックが目に入る。うげぇ……、と思いながらも、砂を払いそのバック……ショルダーバックを肩にかける。と、バックの下になにかが落ちていて。
「あいつのノートじゃん」
落ちていたなにかはあいつのノート……羽翔(うしょう)の恋☆姫ノートだった。俺はそれを手に取って、バックの中に入れた。なんだか、旅行前のような雰囲気に違和感を覚える。
「なんだかなぁ……」
俺はそう独りごちる。そう、俺は妙に落ち着いていた、死んだのに……だ。まぁ、理由は言わずもがな、死んでいるのに死んでいない今のこの状況にあるわけなのだが。
「この世界って何なんだろ……」
と、俺が何度目かの独り言を発しようとしたときだった。青空になにかが光ったかと思いきや、ものすごいスピードでこっちに光った何かが向かってきて……、
「流星って、俺の走馬灯……どうなってるの?」
その何かはものすごい音を立てて俺の立っている場所の、割と近くに落ちた……。
「行くか」
とりあえず目標を定めた俺は、その何かが落ちた方に向かって歩き出す。……血だらけで。
しかし、この格好がすぐ後に起こる悲劇につながるとは、彼……井上裕貴は、微塵にも思わなかった。
「あぁ? 何寝ぼけた事言ってやがる」
その何かが落ちた場所に行くとそんな声が聞こえてきた。そして視界に入ったのは黄色い三人組と一人の白い青年。俺はとりあえず近くに身を隠す。
「いや、だからカツアゲだろ? お前らバカか?」
その場は緊張していて、状況はたぶん黄色い三人組と白い少年が揉めているのだろう。しかし、見るからに白い青年が不利な状況だった、数が違いすぎる。黄色い三人組は白い少年をだんだんと追いつめていた。
「てか、ここ日本?」
俺は呟く。この荒野を見て、黄色い三人組の服装で確信した、ここは日本じゃない。どちらかといえば、どれも中華風な印象がある。
俺はもう一度辺りを見回す、やはり見えるのは荒野と山々。
「あれ?」
ふと、こんな景色をどこかで見たような気がして俺は首をかしげる。
「中国……荒野……白い服の青年……黄色い三人組……空から落ちてきた……あ」
俺の頭にふと、黄巾党という文字が浮かぶ。そして、北郷一刀という文字も。ここはもしかすると、恋姫✝無双の世界ではないのかと、俺は一つの仮説を導きだした。
「北郷一刀……北郷一刀……」
俺はバックから恋☆姫ノートを取り出す、そして北郷一刀のページを開き……、
「これだ」
そう言った。今の状況、北郷一刀が黄巾の三人組に絡まれている状況がそのままノートに書かれていた。となるともう確定だ、ここは恋姫の世界、俺は死んでこの世界に来てしまったらしい……。転生、したのかもしれない。
「ぐあぁ!」
突然聞こえてきたその悲痛な声に思考を中断して視線を北郷一刀に戻す。すると、北郷がデブな男に殴り飛ばされてた所だった。恋☆姫ノートを見ると、この後に関羽が助けに来るらしい。しかし、周りを見渡しても一向に少女の気配はない。
「関羽が来るならそれまでに敵の注意をひきつけるぐらいやってもいいよな」
いかに俺でも数分ぐらいなら大丈夫だろう、それに……恋☆姫ノートにも、北郷一刀に恩を売っておくといいって書いてあるしな。そう思った俺は隠れていた場所から出ると。
「おい! お前ら!」
俺は声を張り上げ、北郷一刀に近づいて行った。突然現れた俺に驚いている黄巾の三人組を一瞥し、俺はどんどん北郷一刀に近づいていく。途中で落ちていた木刀を拾いまた叫ぶ。
「助けに来たぜ!」
こうなると完全に場の雰囲気は俺のものだ、一刀も三人組も俺を凝視している。
俺は手始めにとチビの奴にその木刀を投げつけた! しかし、
「おわっ! いきなり渡すなよ!」
俺の全力で投げた木刀は山なりの軌道を描きチビにキャッチされてしまった。
「くそ……木刀が……」
一刀が呻く。え、ちょっと待て俺は君の仲間ですよ? なんだか誤解されているような気が……原因は俺の肩力不足なのだが……、なんで木刀投げたんだ俺……。
「これで四対一だぜ、どうする坊ちゃん?」
リーダ格の男がそう一刀に言い放ち……、
「くっ……」
一刀が顔をしかめる。それを見て、俺はやっぱりかとため息をついた、一刀、黄巾党双方に賊側に認知されている。なぜだろう? 一刀に限って言えば、俺の服を見れば現代人だと気づいてもいいと思うのだが……、
「俺は賊じゃな……」
俺が賊じゃない! と叫ぼうとしたその時。
「待てい!」
俺の声を遮って凛とした声が響き渡る。その声の主を見るとそれは、綺麗な黒髪の少女だった、おそらくはあれが関羽なのだろう、そしてやはり関羽から発せられる威圧は半端ではなかった、声が出せない。
「てぇぇぇぇぇぇぇぇやぁぁぁぁぁ!」
関羽が電光石火の速さで突きを放ち、デブを吹き飛ばす。その威力は凄まじいもので……。と、デブを吹き飛ばした関羽は次は俺を睨み付けてくる。俺が賊側だと思われているこの状況はまずい!
「ちょっと待……」
そう思った俺は声を上げようとするが、
「うぉぉぉぉぉぉ!」
近くにいた一刀が雄叫びを上げ俺に突っ込んで来ていて、
「うわっ!」
俺は体をひねり、かろうじてその突進を避けたのだが。
「はぁぁぁぁぁぁ!」
いつの間にやら迫っていた関羽の青竜偃月刀の薙が脇腹に当たり。
「痛っっっ!!」
体重が軽い俺は尋常じゃない程、吹き飛ばされて……、地面を二転、三転。
「あ……俺、服が血まみれだったじゃん」
薄れていく意識の中、俺は自分の服装を思い出す。そうだよな、こんな服じゃ賊に間違えられるか……。
「あー、最悪」
その言葉を最後に俺の意識はまた暗闇の中に埋もれていった。
やっと一話です。無印の出だしですが、ちゃんと真のキャラも登場します!