目を開けると先ほどまで広がっている青空ではなく、暗い夜の空だった。
「うわっ!」
俺は反射的に飛び起きる。確か俺は関羽に吹き飛ばされて……気絶でもしてたのか。
「おう、兄ちゃん大丈夫かい?」
ふと後ろからそんな男の声が聞こえて、え……? と、後ろを振り返るとそこには大勢の人が見えた。食事中なのか、みんないくつかのグループに分かれて火を囲うように座っている。そして、その一つのグループの中には、俺に声をかけたであろうおっさんの姿も見えて、
「あ、はい。大丈夫です。それでここは……」
俺はそのおっさんに言葉を返す。するとそのおっさんは、
「ここは、黄巾……党の拠点だ。……まぁ、隠れ場所みたいなところさ」
黄巾……? あぁ、俺は賊に間違えられてたんだっけか。だから、恐らくは、
「えぇと、あなたが俺を助けてくれたんですか?」
俺がそう聞くと、そのおっさんは、あぁ……と頷いて。
「まぁ、助けたってよりかは拾ったって所だけどな」
と、そのおっさんの言葉に火の回りに集まっている人が口々に言葉を出す。
「まぁ、あの怪力女には勝てないよな」
「あぁ、しかのあの武器、いかにも強いぞ! って感じの武器だしな」
「え……? 見てたんですか?」
俺はその口々に出されるさっきの場面の話題に目を見開く、元はといえば俺は回りに誰もいないからあんな無茶な事をしたというのに。人が居たっていうのか……。俺、視力落ちてないよな……、と俺は辺りを見回して、なんとなくこの雰囲気に違和感を覚えた、みんな他の人と楽しそうに話しながらもどことなく俺を気にしているような……空気がピリピリとしている。
「あぁ、見てたぞ、大体お前が賊の援軍に入った所ぐらいからな」
おっさんが言う、その言葉に俺はもう何度目かのため息をついて、
「いや……あれは俺、賊を倒そうと思って出てきたんですよ?」
と、答えたのだが。俺のその答えにわいわいと盛り上がっていた空気がピタリと止む。あれ? なんかタブーにでも触れたか?
「お前……黄巾じゃなかったのか?」
おっさんが静かになった空気の中聞いてくる。俺は躊躇いがちに、はい。と答えてから、しまったぁぁぁぁぁぁー! と心の中で叫んだ。ここは黄巾党のアジト、そんな中で俺は黄巾党の敵です、と言ってしまったのだ。俺のあほ!
しだいにこの場の空気が完全に沈黙する。危険を感じた俺はここから逃げようと立ち上がって……、
『ふはははははは!』
しかし、俺を包んだのは、俺の想像とは真逆の黄巾党の人たちの大爆笑だった。
「え……?」
俺は困惑する、笑っている黄巾の人達を見るに、俺に対する敵意は感じられない。
「お前、なかなか根性あるな。あの状況で一人の側の味方するって……」
おっさんが笑いを堪えながら話しかけてくる。そう言われても、
「いや、だって……あのままじゃあいつ死んでただろ……」
俺はポツリと呟いた、独り言のつもりのその言葉は以外と大きな声になっていて……。俺の言葉を聞いたおっさんは目を丸くする。そして、そのあとにもう一度笑ってから。
「俺の名は戴倉、字は農叔だ」
おっさん……いや、戴倉が俺に手を差し伸べる。まるで状況が分からなかった俺だけど、
「井上……裕貴です」
とりあえずこの好意は受け取っておくべきだと思った。
ピリピリしていた空気は一転して、まるで花見の席のように盛り上がっている。戴倉から事の顛末を説明され、俺は今やっと状況が分かってきた所だった。
戴倉の話を自分なりににまとめると。
今の黄巾には、世の中を変えようと戦っている古参グループと、略奪などを行っている新参のグループがあって、戴倉達は古参の方のグループらしい。今日も略奪していた新参のメンバーを監視していて……つまり、一刀があの三人組に絡まれている所を見ていたら、正体不明の乱入者……俺が出てきて、対応をどうしようかと思っていた所、関羽が一刀を助けて一件落着、気絶していた俺と三人組を自分の拠点に持って帰った。
新参の三人組はあっちのグループに受け渡して終わりだったが、俺については正体がわからず、まだ子供なので殺すのもためらわれる、という事で起きてから話を聞く事にしたらしい。最初のピリピリした空気の理由これだったそうだ。曰く、警戒していたと。
まぁ、結局俺が賊ではない事が判明し、今までの警戒が馬鹿らしくなってあの大爆笑が起きて……今に至るという訳だ。
「ところで、……裕貴か? お前どうしてあんな荒野にいたんだ?」
ふと、横に座る戴倉が尋ねてくる。
「まぁ、事故……まぁ、災害? みたいなものに遭ってしまってですね……気づいたらあの荒野に」
俺は適当に答える。実際の俺の立場は一刀と同じ天の御使いなんだろうけど、まさかそんな事を言っても信じて貰えないだろう。
「あー、そうか……じゃあ、今まではどこに住んでたんだ?」
戴倉の質問責めに俺は唸る、別に戴倉が悪いわけじゃないんだがどうも答えにくい。三国史に詳しい羽翔ならば、うまくこの場を切り抜けられたんだろうけど……俺には三国史の知識なんてないからなぁ。
と、俺が返答に詰まっていると。
「まぁ、ここはそんな大層な集団でもないしな、答えにくいんならいいさ」
戴倉はそういうと、話題を変える。随分とあっさりした態度に俺は少し驚く、こんな正体不明の奴を普通放っておくか?
「あ、そういえばお前の近くに落ちていたのも拾っておいたんだ、あっちに置いてある」
ふと戴倉がそう言って、俺が最初に気絶していた場所の近くを指差す。そこには、俺のバッグがあって……、
「まじでか!?」
俺はバッグに駆け寄り中身を確認する、ここが恋姫の世界な以上は羽翔から貰った恋☆姫ノートは必須だろう。
「おお……!」
俺は思わず感嘆の声を漏らす、あったのだ、恋☆姫ノートが。
「中身は大丈夫だったか?」
後ろからの戴倉の声に俺は思わず恋☆姫ノートを体の後ろに隠していた。
「ありました! 大丈夫です」
俺のその声に戴倉はそれならいい、と頷く。そして、
「おーい、そろそろ寝るぞ」
戴倉が呼びかければ、うぃーす、と返事が返ってきて火が次々と消えていく。
さっき戴倉に教えてもらった新参のグループが居るという方角を見れば、まだ光が点在していて……。
「すげぇな」
見る限りでは戴倉が古参グループのリーダーなのだろう、いい人だし人望も厚そうだ。
「俺も寝させてもらうか」
俺はその後、人生初体験の野宿をすることになる。だがこんなの、眠れる訳がなかった。
ここから段々とオリジナルが含まれてきます、基本は原作沿いですが、