FLOWERS Another Episode 会長の思惑   作:抱き枕50

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雨の夜編

捕り物の済んだ朝、ニカイアの会会長として顛末を吹聴していないか一年の教室に来てみた。すると意外な人物が廊下から室内を伺っているのが目に入る。

 

 

「おはよう、八重垣君。君がここに居るのは不自然だろ? 」

 

ギョッとしてこちらを振り向く。そしてこう切り返す。

 

「ここは一応・・・・・・自分のクラスですし、階の異なる二年の先輩がここに居るより自然だと思いますが? 」

 

 

そうはいうものの覗くだけで中には入ろうとしないし、膝の上にファンシーな紙袋が載ってるけど、鞄は持ってない。何だろう違和感が拭えない。

 

「そうじゃない。廊下に居るのがだよ。さあ、お姫様。私が押してさしあげますよ」

 

「ちょっ、ちょっと!先輩勘弁して下さい。後生ですから・・・・・・」

 

「ごきげんよう。シンデレラ嬢をお連れしたんだけど、舞踏会は何処かな・・・・・・」

 

 

ことさら大きい声で朝の挨拶を言う。ざわめく教室。不自然極まりない二人の出現は皆の目を奪った。八重垣君を委員長の花菱君に引き渡し、教室を見やる。教卓の所に昨日の当事者の匂坂君。蘇芳君を確認する。しかし沙沙貴君達が居ない。仕方ないので先に二人に話しをすることにした。

 

 

「匂坂君、蘇芳君。ちょっと来て。すぐ済むから」

 

 手招きし廊下に連れ出して人が居ないの確認し三人で向き合う。

 

 

「お、おはようございます」

 

「やっ、八代先輩、おはようございます。昨晩はご迷惑を・・・・・・」

 

二人ともぎこちない。まああんな事の後だ。そんなもんだろう。

 

「今、沙沙貴君達居ないけど、昨日のことは内密に頼むよ。こういう話題はとかく尾ひれがついて広まるからね。沙沙貴君達には特に釘を刺しておいてくれ。一応、儀式は間に合ってしまったんだろ? 」

 

 頷く二人。刹那予鈴が鳴ってしまった。話はここまでだ。

 

「くれぐれも多言無用な」

 

 そう言って二人を帰し、場違いな教室を後にする。しかし、突然スカートを掴まれたのだ。

 

 

「一体、白羽達に何が? なにか問題でも? 私も知る権利ありますよね。だしにするのに晒者にしたんだから・・・・・・。この恨み、教えてくれたらチャラにしますよ、先輩」

 

猫のようにこっそりと八重垣君が聞き耳を立てていたようだ。彼女は切れ者だ。何とかしないと。

 

「その前に、君はなんで・・・・・・今ここに居る? 授業だろ? 教室に戻らないと。さっ、早く戻りなさい」

 

 

「私は、こんなですから自室で自習なんですよ。バスキア教諭には許可を取ってます。ニカイアの会の会長さんならご承知かと思いましたけど・・・・・・。何か問題でも? 」

 

 

 話すまではスッポンの様にスカート握って離さないようだし、僕の手にしている情報だと彼女は一人部屋で友達は蘇芳君とかの昨日の犯人位しか居ない。まあ何とかなるかと腹くくって話す事にした。

 

 

「そうだな。でも今は時間がない。昼食後にならいいよ。会長が授業に遅刻では拙いからね」

 

 疑いの視線では有るものの、手を離してくれた。

 

「部屋で一人で待っていてくれないか。もしバスキア教諭が同席ならどんな事をしても席を外すように頼んでくれよ。君なら出来るだろ? 」

 

 そう言って、八重垣君の頭をわしわし掻きなでて別れた。

 

 

「八代だ。八重垣君、居るかい? 」

 

「どうぞ。開いています。本の山に気をつけて入室して下さい」

 

 ぶっきらぼうな声が帰ってくる。確かに足の踏み場に気をつけないといけないくらいに本の山がある。自身はどう部屋を出るのか気になる状況だ。そんな事を気にしながら八重樫クンの手に紙袋を手渡した。怪訝そうな顔をする八重垣君。

 

 

「差し入れだよ。待たした詫びだ。最後の残りだ。心して食べよう」

 

 この間のスイーツの教諭用の余りを渡した。今日の14時までの賞味期限なを確認し二人で食べる。そして話を切り出す。

 

 

「君はオカルト的な事信じるかい? 」

 

「そんなにガチでは信じませんけど、乙女のたしなみ程度にはね。そういう話なんですか?」

 

「昨晩、いや今日の深夜というべきか。女生徒四名が校内に不法侵入し、禁忌な行いをした。いや儀式というべきか。そこを私達が捕まえて・・・・・・と言う訳だ」

 

「うち二人は朝の始業に居なかった。残りの二人に口止めした次第だ。その程度だよ」

 

「そういう事でしたか」

 

「唯、かつて生徒の集団退学と関わりがあると一部で言われているのが、その件の儀式でね。君たちのクラスでも何人か辞めたろ。それにリンクして変な噂が出るのはまずいし、今回の事件と四人の処分は学校側には秘密なんだ」

 

「ばれたら最低でも謹慎。下手すると放校かもしれんので、今回はニカイアの会が押さえてるんだ」

 

「四人って、居なかった双子と匂坂と、白、白羽ですか。あんな聖人然としてあいつ何やってんだ? 」

 

「まあ君も聴いてしまった以上、一蓮托生だ。黙っていてくれたまえ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「先輩も校風にそぐわない、言葉使うんですね。ぶつの言葉でしょ」

 

「まあ、いいじゃないかそんなことは」

 

「そうだ。そう、君は朝のことだけどさ、なんで教室を覗いてたんだい? 」

 

 

「あれは、養護教諭からの頼まれ事なんです。一年の子の私物が搬入車両のとこに落ちていたって。見つけたのは寮のスタッフの人で、それを小御門先輩に託し、たまたま養護教諭と同席していた私にお鉢が回り、それで仕方なく教室に・・・・・・」

 

「そこを僕に捕まった訳か。御愁傷様。それで誰のなの? 」

 

「防犯カメラは作動してなかったらしいです。全員総当たりしないと判らないようなので、委員長に押しつけ、いや渡してきましたよ」

 

 

「今日初めて、小御門先輩を拝見しましたけど、美人過ぎてびっくりしました。会長もですけど、ニカイアの会は美人コンテストのトップランカーの集まりなんですか? 」

 

「前にも話したけど、白羽もどうです? 一年の一番の美人ですから」

 

「蘇芳君は僕の後継に考えてるんで、今はまだいいや。その時が来たら力になってくれ、八重垣君」

 

蘇芳君も一目置く書痴の彼女との会話は楽しい。時間があっと言う間に過ぎていく。

 

 

お暇の挨拶し午後の授業に向かう僕を、ネリーが呼び止めた。彼女には、心を病むといけないので、夜の顛末は伏せていたのだ。しかしその表情は知ってしまった事を物語っていた。

 

「譲葉、蘇芳さん達のこと本当なの? 見逃してあげられなかったの。酷いじゃない、譲葉」

 

「まあちょっと落ち着いてよ」

 

「確かに夜勝手に校内入ったりしたのは、学院側で見逃せない事例なのはわかるわ。でもだからって・・・・・・」

 

「ネリー、良く聞いて。これは最善の策だったんだよ。現状、ニカイアの会で止まってる案件なんだ。学院バレはしてない。してたら蘇芳君達には、放校処分が出たかもしれない。唆したとして、ネリーも何らかの処分が出たと思うよ」

 

「心配する気持ちもわかるけど、これは僕に任せて。ネリーは気に病まないで、ほら泣かないで」

 

抱き留めて、僕の胸の中で暫く泣かせてあげた。本鈴の音が響くけどバレエの授業は少し遅れても遅刻にしない先生だから。いつも杓子定規じゃね。

 

 

結局、沙沙貴姉妹は授業に来なかったという。部屋に行っても入れてもらえずドア越しに話しをしたらしい。

 

「帰ったよ。ユリーと委員長。図書委員終わったら蘇芳ちゃん来るってさ。懲りないね全く」

 

「林檎の支度は済んだ? もうそんなに時間無いから。早くして」

 

ドアから戻り、妹の林檎に声をかける、姉の苺。私物を片づけて何か殺風景な部屋。

 

「あと少しで終わるよ、苺姉。それよりそれどうするのよ? 折角集めたのにね」

 

「今回は諦める置いていくよ。ユリーとかが引き取ってくれると良いんだけど、仕方ないから。なんかいよいよだね、林檎」

 

「うん・・・・・・」

 

「どうかした? 未練でも有るの? この先の事だけ考えて」

 

自分にも言い聞かせるような口調で話す。林檎は、丸の付いたカレンダーをじっと見つめている。

 

 

「苺さん、林檎さん、蘇芳です。開けてくれない? 」

 

顔を見合わせる二人。どうしようか思案する。

 

「今はダメ。今日一緒に寝たいから、消灯前に。30分くらい前に蘇芳ちゃん一人で来てくれないかな? 」

 

「バカップルには黙って来て。約束だよ。親友以外には聞かれたくない話があるんだ。いいでしょ蘇芳ちゃん」

 

「親友・・・・・・。わかったわ。それじゃ後で来るわね」

 

耳を立てて、足音が去るのを確認してドアを開けた。そして料理部から失敬した油をドアに差す。粘るように色々混ぜた特製だ。音が静かになるのを確かめる。懸案は解決した。静かになるのは一時だけで良いのだから。

 

 

消灯前に雨が降り出してきた。窓の外はかなりの雨量で既に警報が出るレベル。風も強く煙って視界は最悪。ちょっと不気味だ。

 

 

「蘇芳です。開けて。苺さん、林檎さん」

 

ガチャっと音がして鍵が解除される。ほぼ同時に手を強引に捕まれ、倒れるように部屋に連れ込まれる。

 

「何するの。痛いわ。ま、真っ暗じゃない、一体どうしたのよ。あっ痛っ!」

 

ベッドの二段目に頭をぶつけて一瞬抵抗できなくなる。ふらつきそのままベッドの下段に押し込まれる。うつ伏せに倒された私の身体の上に二人で乗り、予め手摺りに括り付けてあった紐で四肢を縛らてしまった。そしてアイマスク。

 

 

「助けて。苺さん、林檎さん。一体私が何をしたの。解いて。お願い」

 

「黙って! 蘇芳ちゃん。手荒なことはしたくないの。だって一番の友達だから。酷い事してるのは判ってる。ごめんなさい・・・・・・」

 

「でももう二度としないし出来ないから許して。勝手でゴメンね。でもこうしないと決心が鈍る」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ガラスを叩く雨の音は激しいまま、三人はその中で無言。先に林檎が口を開いた。

 

「蘇芳ちゃん、私達今日で学院から脱獄するの。蘇芳ちゃんは入学してからいつも私達に良くしてくれたから・・・・・・。最後に蘇芳ちゃんだけに挨拶をしようって苺姉と相談してここに呼んだの」

 

「本当は、誰にも会わずにオカルトの血塗れメアリーの故事を利用して脱獄予定だんたんだけど、失敗しちゃったからね。残念だけど」

 

 

「今なんて言ったの? 辞めちゃうって学院を? どうして、なんで? 」

 

 

「まあ、単純に刑務所に飽きたって事かな。蘇芳ちゃんやユリーや委員長。それに八代先輩、小御門先輩。みんな良い人。そういう不満なんて無い。食事は美味しいしね。空気は綺麗だし。

 

 

でも、ここって山の中でさ、街は遥か遠くだし、学院に今風の娯楽は皆無だし、手に出来る情報は何周も周回遅れみたいに古いし。昭和みたいに世の中全部がIT無しだったりなら、そりゃ良いけど。平成も四半世紀を過ぎてるんだよ。ここだけが取り残されてるってのはつらい」

 

「それは最初からわかっていたじゃない? 」

 

「頭では判ってた。それでも、実際してみるとキツい。蘇芳ちゃんだってそう思わない? 図書室の本だって古いばかり。英語の原書が豊富? 私達14だよ。読めないって・・・・・・。ム所だってこんなじゃないと思う。視聴覚室で映画見られるたって、皆の内緒の持ち込み無かったら見られる物がどれだけあるのかって」

 

 

この間、おばあちゃんから手紙来てさ、辛い時は無理はしなくて良いのよって。でもお父さんは我慢しろ! たかだか三年間なんだからって許してくれない。だからおばあちゃんのいる田舎に行くの。最近体調悪いのに一人暮らしをしてるから。私達でも行けば少しは役に立つだろうし。学院に入れてくれるために色々無理してくれたお父さんやお母さんには悪いと思うけど・・・・・・」

 

 

「それじゃ蘇芳ちゃん。さよなら・・・・・・」

 

「蘇芳ちゃん、今迄ありがとう、一生忘れないから」

 

 

私達は、順番に蘇芳ちゃんの頬にキスして部屋を出た。蘇芳ちゃんの口にはテープを張って発覚を遅らす処置を。計画通り、搬入車両にもぐり込む。事前のリサーチ通り、中からでもゲートを開けられるクリーニング店のワンボックス車に狙いを絞っていた。

 

雨が侵入の痕跡や音を消してくれる。乗り込み息をひそめていると車が動き出した。車はかなりうるさいので沈黙のままでいなくていいのには助かった。後は街で停まった時に中からゲート開けて脱出するだけだ。その場所もリサーチしてある。お金は最低限の小銭+カードを持たされているから平気。

 

 

 

「沙沙貴君、沙沙貴君、ご実家から電話だ大至急だ。おい、返事しろ。僕だ八代だ、鍵を開けろ。くそっ! 中はどうなってるんだ。まさか・・・・・・自死」

 

「会長! 」

 

「ごめん聞かなかった事にしてくれ。にしても埒があかない。寮監のとこからマスターキーを持ってくる! 君は靴の確認に、君は校内巡視に行ってくれ」

 

ニカイアの会は何でも屋ではないのだけど、今日は寮監やスタッフは大雨の対策におおわらわで、こっちにお仕事が回ってきた。

 

 

マスターキーを借りてきて開けるとそこには縛られた蘇芳君が。急いでテープを剥がし紐を解いて蘇芳君を助ける。グッタリしてるので最悪の事態を危惧したが外傷は頭のこぶだけ。

 

 

そして蘇芳君から沙沙貴君達が脱柵したことを知る。なんて事だ・・・・・・何故このタイミングで・・・・・・。電話の内容は、おばあちゃんの具合が悪くなり、危篤とのことで二人に戻ってきて欲しいとの事。

 

 

真実を話すと色々拙い。学院が事実を知ってしまう。二人にとって最善の手を考えないと。仕方ない、ここは嘘も方便だ。電話にはその前に連絡が余所から有ったことにして、既に二人は学院を出たと伝えた。

 

次に乗ってるであろう車を押さえる。防犯カメラと入証帳と照合し、あの時間の配送は、クリーニングチェーンのハイエース一台のみと確認できた。確かクリーニングチェーンの車には本部との無線が付いてる。そうだ良い手が有る。そこでサッカーの試合の時に会った、以前僕の家に居たお手伝いさんの娘さんのコネクションを思い出した。

 

再会以来連絡取っているというネリーを呼んで、娘さん経由でクリーニング店にいるその子の母親へ連絡を取り、そこから本部にお願いして車に無線を飛ばして貰い、車から逃げ出す前に二人を確保できた。

 

二人に事情を説明し、そこから配送車から娘さんの自家用車に乗り換えて病院まで長駆のドライブになった。深夜の悪天候の中でこれが一番速く着く方法なのだ。

 

 

「お嬢様、いえ譲葉ちゃんとネリーのお友達なんだもの、ぜひ協力させて」

 

 

その言葉に嬉し涙が出た。綱渡りとはいえ何とかなった安堵感で少し余裕が出来た。骨を折ってくれた人に色々頭を下げ、協力してもらったお礼を言う。皆、苦労よりも二人の事、その祖母の事を心配している。怪我してしまった蘇芳君も、おくびにも出さず、良い結果出るように聖堂に向けて祈っている。もちろん僕もだ。

 

 

残念ながら、沙沙貴君は間に合ったものの、祖母は助からなかった。しかし少しは話しを出来たらしい。

 

 

即戻って来た娘さんの話はここまでだった。ネリー共々、ドライブの礼を言い労う。免許取り立てでの悪天候深夜ドライブは、相当に疲れたようだ。沙沙貴君は道中、ずっと祈り続けていたと話してくれた。結果的には亡くなってしまったとはいえ、二人が脱柵をしなければ、絶対に間に合わなかった。

 

これは災い転じて福となすということなのだろうかと自問する。二人がこのまま戻らないか、帰ってくるかは、判らない。でも僕は帰って来ると信じていた。

 

 

結果、沙沙貴君達は葬儀一通りが終わってから直ぐに帰朝した。迷惑掛けた人全員に謝罪し、特に怪我させた蘇芳君には土下座して謝っていた。

 

蘇芳君はそれを友達なんだからと止めさせた。二人に抱き合って亡くなった事に残念だったねと慰めていた。蘇芳君に抱かれ、沙沙貴君達は感情を爆発させた。

 

 

いまわの際に、お友達を大事にしなさい。そして逃げないで二人とお友達とで頑張りなさいと。言ってくれたと・・・・・・。

 

 

「おばあちゃんは私達が逃げたいの判ってたんだなって思った。それで卑怯者にならない様に最後手を貸してくれたのかなって」

 

「蘇芳ちゃん、迷惑ばかり掛けたけど、これからもお友達でいてね」

 

二人のした事を考えれば、拒絶したって罰は当たらないだろうが、蘇芳君はそうしないで受け入れたのだ。

 

時季外れの大雨も上がり、それと同時に? 騒動は一件落着。学院には脱柵はバレずにただ帰省してお葬式に出向いたことになっている。真相知るのは蘇芳君と僕とネリー。それと学外の協力者。ニカイアの会の庶務や書記、会計すら事実を知らないままに事が済んだ。

 

 

まあ疲れたけど、和が固まったかな。さて、聖母祭が近づいてきた。またひと波瀾ありそうだ。

 

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