FLOWERS Another Episode 会長の思惑   作:抱き枕50

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新風編

「蘇芳ちゃん、今日も一緒に寝ようよ。待ってるからね!」

 

「八重垣ちゃんには、ダリア先生が居るんだから。あんまり行っちゃダメだよぅ・・・・・・ビュリダンのロバになっちゃうから」

 

 

あの事件以来、早二週間経ち、苺さん、林檎さんとより親しくなったというか、かなり親密になった。教室でも休み時間は大抵どちらかが一緒に居るし、食事もだ。

 

私の苦手なバレエの指導役も買って出てくれた。柔軟からみっちり扱かれたので、以前とは比べ物にならないくらい動けるようになり、苦手だったバレエの授業が楽しくなった。自信がつくと恥ずかしかったレオタード姿も不思議と気にならなくなった。なにより彼女達のおかげで、ダリア先生には口癖のように言われていた

 

 

「補習はまた白羽さんだけですか・・・・・・」

 

 

視線を会わさずため息まじりに言われたこの言葉を聞かなくなって久しい。同じ様に不得意だったマユリさんも、クラス一上手な立花さんの直々の指導でめきめき上達し、私と同じ補習組の常連だった以前の姿は無い。

 

 

花菱さん、匂坂さんの二人は相変わらず、事実上の交際状態である。立場上、大っぴらに宣言してないだけで、皆も黙認しているし、皆あてられっぱなしだ。ご馳走様を連呼したくなる。

 

しかしクラスの中心人物がくっついた事で、良い事も有った。決め事する時とか、私達のクラスは典型的お嬢様が多く万事控えめで決定力に欠ける事があったけど、二人が巧みに引っ張って決めていく事が増えた。

 

 

その一つが聖母祭のクラスの出し物である。聖書の歴史や考察の展示と争った末、学院の近隣の動植物の分布と決まった。展示の方凝った仕様にする事により内容の地味さを埋め、それにプラスしてコスプレして集客を集める計画だ。

 

図書委員の私は資料揃えが主な仕事で、立花さん達は場所のリサーチ、それに基づく採集は行動派の沙沙貴さん達。これはまさに適任で、虫系に全く抵抗ないのは、この学院的にレアなのではと思う。展示は美術部の匂坂さんが仕切り、コスプレは家庭科の得意な子が主にやる事になった。

 

バスキア教諭的には聖書を袖にした事で大分悄気ていたと、八重垣さんが話してくれたが・・・・・・。

 

 

聖母祭は、クラス以外にも部活の方も展示活動発表が有る。もっと大事なのは、聖母祭そのものもだ。こちらはニカイアの会が企画運営なので、関係者以外はまあ座視して居られる。私もその一人だ。

 

聖母祭としての独自の催しは、選ばれた生徒が花を撒き、聖母役の子が乗った聖母像を祭った山車が通って校内を練り歩くという。そして日が落ちる頃、全生徒の前で聖堂で聖歌を歌う。それは伴奏者と聖母役の子が二人の共演でだ。そしてその二人は結ばれるという話があるとの事だ。

 

通例として聖母役は一年の級長がするという不文律があるらしい。今年で言えば立花さんがすることになるのだ。伴奏者は合唱部の上級生がするのだろうか? もしその二人が結ばれれば、匂坂さんはどうするのかなと要らぬ思案してしまった。

 

 

放課後の料理部、聖母祭に部として何を出すか話し合いは紛糾していた。

 

「蘇芳ちゃんは、出し物どっちが良いの? スイーツと料理と。悩むよね」

 

「私的には、スイーツ押しですよ。流れ的に中華なんだろうけど私達にはあの鍋は重いのです・・・・・・」

 

今月の料理部は、中華月間で私達も中華料理にチャレンジしたのだけど、小柄な二人には大きく重い中華鍋を落としたりと、大苦戦していたので、スイーツ押しは至極当然なのだ。

 

 

「でもスイーツ派は分が悪いみたいね。三年生は殆ど料理派みたいだわ」

 

と私。なんでも去年はスイーツだったらしく、今年は別のをということらしい。

 

「そうなんだよね。桜木先輩は"火の魔術師"の二つ名が有るほどの中華の達人だし、今日、味方になってくれそうな八代先輩居ないし・・・・・・」

 

八代先輩は暫くニカイアの会に専念となり、部活には出てきていない。副会長の小御門先輩は、逆に合唱部に専念し聖母祭の式典を成功に導こうとしている。

 

 

取り敢えず決定は持ち越しとなり私達は寮に帰った。何か寮がざわついている。引っ越しを思わせるような状況だけど、不思議とトラック等は居ないし、業者ではなく段ボール箱を先輩方が運んだりしている。違和感を感じ見ているとバスキア教諭に声をかけられた。

 

 

「白羽さん、お話があるけど今良いかしら? 」

 

 

わりと深刻な話らしい。連れられて食堂の隅のゲスト席に着席する。ここは余程の事が無いと使用しない。腕時計を見やるバスキア教諭。程なく放送が入り呼び出されていく。ゲスト席に一人残され、衆目の中視線が痛い。

 

暫くしてバスキア教諭は見知らぬ女生徒と戻ってきた。何か大人っぽく感じる人だ。背は高い。私やそれ以上の八代先輩よりも明らかに高く、学院一の長身なのかもしれないと思った。体つきはスレンダーで短めの髪と相まってスポーツ選手風で、連れられて来る時も他の女生徒から黄色い声が掛けられていた。

 

「座って下さい。まだ万全ではないのでしょう? 」

 

「はい。寝てばかりでしたんで脚が・・・・・・。それでは失礼します」

 

私に会釈して席に座る彼女。座るとさほど大きく感じない。脚が長いのかと思った。

 

 

「白羽さん、紹介するわ。彼女は黒沼アキラさん。彼女、病気でずっと休んでいてね、先月やっとドクターからOKが出て復学の目処が立ったの。そこでまた一年の履修をすることになって、明日から貴女達のクラスに編入する運びでね・・・・・・」

 

「それで、白羽さん。大変申し訳ないのだけど、彼女のアミティエに成ってはくれないかしら。貴女にも言い分や都合が有るのは承知してます。前のアミティエは二年生になって、組み換えられてしまったし、同年同士が原則だし・・・・・・。改めてのアミティエ試験をしてみて貴女が一番の相性と出たの。それに、今の白羽さん見てると・・・・・・。環境を変えた方が良いと思うのよ、先生は 」

 

 

色々言いたい事も無いわけでは無いけど、先生の言葉にも理が有る。少し考えて答えを出した。

 

「わかりました。そのお話、お受けいたします。ただ、いくらか荷物がありますから少し時間を下さい。明日からでよろしいでしょうか」

 

そう答えて、二人を見やる。

 

 

「受諾してくれてありがとう。白羽さん。これは貴女にとって良い決断だと思うわ。要望が有ったら聞かせてください」

 

バスキア教諭は、満面の笑みで手を握る。このタイミングを見計らったかの様に珈琲と菓子が届いた。バスキア教諭が私達に勧めるので遠慮なく頂く事にした。

 

 

「今、黒沼さんが以前使ってた部屋から荷物運んでるから。少しゴチャゴチャしてるけど明日までには片付くと思うわ白羽さん」

 

バスキア教諭が先ほどの状況を説明した。だからトラックが居なくて先輩方が運んでいたのかと合点がいきスッとする。少し猫背気味の黒沼さんに改めて挨拶をした。

 

 

「これから宜しくお願いします。私は、白羽蘇芳です」

 

 

「私は、黒沼アキラです、宜しく。受け入れてくれてありがとう、白羽さん。私、ちょっとお姉さんだけど、先輩扱いしないで下さいね。同じ一年生だもの。明日から宜しく」

 

そう言って戻っていった黒沼さんを、離れて待っていた二年生が寄ってきてに揉みくちゃにしていたた。それを見ていたら・・・・・・。耳元で突然・・・・・・。

 

「あいつ、アキラじゃないか。本当に戻ってこれたんだな。良かった。良かった。めでたい。同じクラスじゃないのが残念だけど」

 

 

何時の間にか、隣に八代先輩が来ていた。話を聞くと、去年の夏頃から休みがちになり、病気と骨折で出席日数が足りなくなってしまった。でも復学の気持ちが強く辛い治療に耐えたらしい。

 

 

「蘇芳君がアミティエになるんだって? 。話し相手に成ってやってくれよ。あいつ感染症の事で病院でずっと一人だったらしいし。そのうち僕もお邪魔して良いだろ蘇芳君。あいつには積もる話もあるからね」

 

 

部屋に帰り、花菱さん、匂坂さんのアミティエに顛末を話した。既に彼女達も知っていた。残念だけど仕方ないわと。部屋が変わるだけだからとね。実にあっけなくなじみの部屋を離れることになった・・・・・・。

 

 

翌日、クラスの皆に黒沼さんが紹介された。珍しく八重垣さんも来ていて、小声で毒づく。

 

「脱柵の良い機会なのに、わざわざ帰ってくるなんて・・・・・・。もったいない。見た感じここでしか生きられないお嬢様って風には見えないなぁ。シャバに出れば良いのに・・・・・・」

 

 

「出たくても出られない奴、多いってのにさ。そういやそこにもわざわざ戻ってきたのが居るか・・・・・・」

 

聞こえていた沙沙貴さん達が八重垣さんを見て、あっかんべーの顔をした・・・・・・。

 

 

黒沼さんの存在はクラスに新しい風を吹き込んだ。背が高いし大人っぽい容姿をしているのに憧れるのか、彼女に早速取り巻きが出来ていた。

 

クラスメートというよりお姉様と言った感じである。まあ実際年長な訳だけど。教室を出ると、上級生が取り巻くので、一年生は教室だけは死守する態だ。

 

 

寮の部屋に戻っても、黒沼さんは来客に追われる。さすがに見るからにお疲れモードになってしまっているので、僣越ながら諸先輩にお引き取りをお願いし静かな時間を取り戻す。

 

 

餞別代わりに? 立花さんから譲ってもらったティーセットで紅茶を淹れる。もちろん、体調的にOKを聞いた上でだ。

 

「どうぞ、黒沼さん。大変ですね、皆が話をお聞きに来て・・・・・・。お疲れでしょう。ご病気は完治されたのですか?」

 

「ありがとう。病気は平気さ。悪いところはすべて取り去ってしまったからね。白羽さん、淹れるの上手だね。誰に教わったの? 」

 

一瞬躊躇した。気を悪くするかもしれないので、アミティエの言葉を避けた。

 

 

「委員長の花菱さんです。彼女は紅茶のオーソリティーでお茶会を放課後にしたりしてるんですよ」

 

あー、あの子か。といった表情の黒沼さん。

 

「世話焼きだよね。あの子。一緒にいたのは匂坂さんだっけ? あの二人が譲葉の言うバカップルなんだよね? 。確かに所構わずだったね。そして君はその二人とアミティエだったわけだ。そして私が割り込んで壊した・・・・・・。ごめんね」

 

「それは違います。今、あの二人と私が一緒にいたらお邪魔虫だから・・・・・・。それにしても色々ご存じだったんですね・・・・・・」

 

「まあ大体の事情は聞いてるよ。譲葉は退院が決まった頃、復学の手助けにと手紙を寄こしてね。そして君のこともかなり割いていたよ。妬けるくらいに」

 

一瞬で真っ赤に照れる。どこまで知ってるのだろうか。俯き上目遣いでチラ見する。黒沼さんは目を閉じてカップを口にして匂いを楽しんでいる風だ。

 

 

「キスどまりなんだって? そんな挨拶程度で済ましてるなんて譲葉も君のことは大事にしてるみたいだね。あいつ、昔から本命には奥手なんだよな。それにしてもこんな美人見てよくもまあ抑えられるもんだよ? 」

 

 

「その見事な黒髪なんてモデルさんも目じゃないよ。是非ともシャンプーのCMに出るべきだね」

 

 

八代先輩とのこと、やっぱり知ってるんだと。居たたまれなくなり、下を向く。話をそらすため髪の話題にする。

 

 

「もう、からかわないで下さい。皆がこの髪の事を良いって言うけど、私嫌いなんですこの黒髪。重く見えてしまって・・・・・・」

 

「だからって切るなんて言わないよね。そんなことは神が許しても、私が許さん。というか、許す子なんて居ないよ」

 

「髪質にもよるけど少し弄ってみれば良いのに。編んでみても結んでみてもいいし。今度任せてごらん。いろいろしてあげるよ。私得意だから」

 

黒沼さんが私の髪に手を伸ばしてきた。髪質を確かめるように指を動かす。満足したのか?笑みを見せ手を戻す。

 

 

「さて今日は色々ありがとう。歯を磨いて寝ようよ、白羽さん。私、朝強くないから、起きてなかったら頼むよ。起してくれなかったら覚悟してね」

 

「そうだ、私のことはアキラでいいよ。男みたいで気味悪いかい? 黒沼じゃ言いにくいし、語意的にも白羽が黒い沼に嵌まって沈むんじゃ嫌だし。そうだ私も下の名で呼んでも良いでしょ? 」

 

 

「はい」

 

そして部屋の表札に入れる名前の下書きを作る。事務に出すとアルミの削り出しで創ってくれるのだ。

 

「こんな字なんだ・・・・・・蘇芳さん? はてどこかで? まあいいや。君も名前で苦労した口かな? いや学院的にはこれからもか・・・・・・」

 

独り言を呟く黒沼さん。自愛の目を私に向けてきた。

 

「それじゃ蘇芳さん、朝頼むね」

 

 

色々、一方的に約束をさせられてこの日は消灯になった。

 

 

朝になり、梯子降りると下のベッドでは、黒沼さんが熟睡してた。相当疲れていたのだろうか、試しに揺すってみても起きる気配はない。仕方ないので先に自分の支度をし、耳元にキッチンタイマーを置いて目覚まし代わりにしてみた。

 

鳴っていたタイマーが止まったので、起きたと思いベッドに赴く。半身を起してはいるものの、殆ど起きてない感じ。近づいて声をかけると

 

 

「主任さん? おはようございます。今日は朝のチューしないの? 早く・・・・・・」

 

いきなり抱きつかれた上に、なんなの? この人は・・・・・・。病院と間違えてる? それにしても主任さんて。看護師さんとそんなことしてたのかな。

 

「私です。し・ら・は・ね・です。起きてください、黒沼さん。もうすぐ時間ですよ」

 

抱きつかれたまま、耳元で言う。時間にしては短かったと思うが、永遠を感じる程抱かれ、黒沼さんの匂いを味わうことになった。不覚にも少しうっとりとしてしまった。

 

 

「良い匂いだね。蘇芳さん。譲葉の言った通りだ・・・・・・母の感じがする」

 

黒沼さんから、匂いを言われ心底びっくりした。心を読まれた? 母の感じって、私おばさん臭いってことなの? 年下なのに。さっき寝ぼけて主任さんと間違えたのもおばさんっぽいからなのかな。ショック・・・・・・。よろめくように椅子に座りぼんやりする。

 

 

「おはよう。蘇芳さん。起してくれてありがとう。どうしたの、そんな顔して? 昨日の疲れかい? 」

 

邪気なさそうな笑顔の黒沼さん。困惑する私をよそ目にさっさと支度して、未だ落ち込む私の手を取り、ダッシュで寮を後にしたのだった。また新しい出来事とがあるだろう学舎へ。

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