FLOWERS Another Episode 会長の思惑 作:抱き枕50
新しいこと。それは、唐突で意外過ぎて暫し混乱した。黒沼さんが私の手を握りながら一緒に歩き、教室に向かう時の事だった。
「蘇芳さんはピアノはやめてしまったの? あんなに上手だったのに、教室でも誰一人話題にしないし・・・・・・合唱部にも関わってないって言うし。それに蘇芳さんの手を触った感じじゃタコも全然無いなと思ったんでさ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
黒沼さんには、私がピアノ弾ける事も言ってないし、素振りだって見せたことない。辞めて何年も立つし、唯一聖堂で弾いた事があるだけだ。
「どうして、私がピアノ弾いてる事をご存じだったのですか? 誰かから聞いたのですか? もしかして小御門先輩・・・・・・? 」
「どうって・・・・・・。君はすーちゃんでしょう? 。私も、白羽先生の所でピアノ習っていたんだよ。まあ直ぐに辞めちゃったんだけどね。そこに髪の綺麗な小さい子が居て、歳の割りにものすごく上手で・・・・・・」
「嘘・・・・・・」
「正直、名前は忘れてた。と言うか覚えてない。でもその子がすーちゃんって呼ばれてた記憶はあって、先生の娘さんらしいってことは,知ってた。すおうからすーちゃんになかなか至らなくって。白羽性だからもっと早く繋がれば良かったのに」.
「すーちゃんか・・・・・・。懐かしいわ」
「復学するとき、譲葉から手紙貰って、白羽蘇芳って黒髪美人の子が一年に居て、一目惚れって有ったんだよ・・・・・・少し弾いたピアノが上手でさ・・・・・・大体まあそんな様な事が書いてあった。白羽の名に驚いたけど、君の名がすおうって読むとは手紙からわからなくて・・・・・・昨日の自己紹介を布団の中で反芻してやっと点と点が線になったわけ。昨日直ぐに判らなかったのは失態だった」
「失態だなんて・・・・・・」
「そうして会ってみたら、昔の"すーちゃん"だったて訳さ。複雑な様で単純だよ。で本当に辞めちゃったの? 」
問うてみて、改めて蘇芳さんを見ると、何か物凄く悩んでいるように見える。言うか言わまいか・・・・・・。指の怪我とかで辞めてしまったのだろうか? 。でも聖堂で弾いたって言うし・・・・・・。
「悪い。そんなに窮するなら、この話止めておこう。朝から悪かった。それにしても先生は怖い人だったな。完璧主義って言うか、自分が出来るから出来ない人に容赦ないし。私は、辞めたのはそれだけじゃないんだけど、それも理由だった・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「どうしたの? 」
蘇芳さんを見ると、顔色が尋常で無い。呼吸も変だ。あっと言う間も無く、地面に倒れてしまった。傍に居た二年生に手助けしてもらい、保健室に連れてきた。
「先生、すお、・・・・・・白羽さんは大丈夫ですか。大丈夫ですよね。先生! ごめんね。私が変な事聞いたから・・・・・・」
先生はこのまま安静にしてれば平気ということだったが、所要で二時間くらい居なくなるという。そこで、回復するまで私も保健室に居る事にした。どうせダブりの私は今時点の授業は去年やってるし・・・・・・。
「そうだお前、検査行ったのか? 検査だけは欠かすなよ。寛解したって聞いてるけれどもまだやばいんだぞ黒沼! 」
とばっちり食らってしまった。先生には、黒沼がベッドに寝てないなんて、不思議。なんて言われてしまって、面映い・・・・・・。
おでこに熱取りシート張ったり、汗を拭ったりして回復を待つ。少しうなされているようなので、手を握ってみた。それにしても陽光の中目を閉じ寝ている蘇芳さんは、王子のキスを待つ白雪姫みたいだ。悩んだ末欲望に負けてしまった。効いたのか程なくしてお姫様が目を覚ました。
「黒沼さん? 」
「気がついたかい。良かった。急に倒れたから心配したよ。鉄分足りないの? 無理しないで寝ていて、そのままね」
起きたら計る様に言われていた、体温、血圧を測り、飲ます様に言われていた薬を水と共に手渡す。
薬を飲み、暫くしたら落ち着いたのか、半身を起して、朝聞いた事への返答を語り始めた。
「私、ピアノの事で義母にとっても厳しく指導されました。耐えてはいましたけど、三年を迎える頃、心が病んでしまってどうしても弾けなくなってしまいました。それ以降は弾けないのです。ピアノを見るだけでも悪心を起してしまうほどに。聖堂で弾いたのはそれ以来初めてだったのですが、何年も経ったしと弾いてはみたものの・・・・・でもやはり途中で・・・・・・。弾こうとは思っても無理なんです、もう・・・・・」
そこまで言って、号泣し突っ伏してしまった。蘇芳さんを責めるつもりで聞いたのではなかったのに、こんなに苦しめてしまった事に心が痛む。
私にとってスーちゃんは親しく成りたかった憧れの存在で、会えなくなって本当に悲しかった。その人が今ここにいる。手を伸ばせば届く場所に。蘇芳さんを先に見つけた譲葉には悪いが蘇芳さんは私が貰う。譲る気はない。無理して復学したのも、蘇芳さんと一緒に居たかったから・・・・・・」
アイツも蘇芳さん落とすのにネリネを捨てた様だけどそれはそれだ。気を取り直して、蘇芳さんに向き合う。消沈する蘇芳さんを抱き寄せて涙を拭く。そして今度はお姫様でなく、等身大の白羽蘇芳にキスをした。意外にも素直に受け入れてくれた‥そして頭を撫でる。先程の懺悔の意味をこめて。
「どうしたらあの先生の事、忘れてくれる?、いや、忘れられるのか・・・・・・私はどうすれば良い? 今尚こんなに君を苦しめて。どうすれば乗り越えられる? 」
そう言いながら再びキスをする。熱く融ける様だ。少し大胆に恋人つなぎで手を握り指を絡ませる。細く綺麗な指。この指が再び音を奏でて欲しいと思うと私は自然と涙を流していた。そして私も蘇芳さんのベッドに一緒に入って過ごした。逡巡したのだろうけど、蘇芳さんは受け入れてくれた。心音がシンクロしていく・・・・・・。
この日は、結局午後も二人で保健室で過ごした。先生が戻って来なかったからだ。お昼にはクラスメートが来て昼食を持ってきたり、ノート取っておいたよとか、教室に蜂が入ってパニックになったとか、色々話しをしに来た。明日聖母祭の聖母の発表があるという話もしていった。
もう聖母祭なのか。去年は聖母祭が病気の検査で参加できなかった事を思い出していた。あの検査の結果からこうなってしまったと思うと、皆に見つからない様に奥のべッドの布団に包まりこっそりと泣いた。
授業時間になりクラスメートは帰って行き、保健室に二人。再び同衾したものの会話に詰まり互いの名前について話しをした。
「すーちゃんの名前が蘇芳だなんて知らなかったよ。お父さんはどういう意味込めて付けたのかね? 私のアキラは、著名なアレンジャーの人から父が付けたのさ。変だよね男みたいで。アキラでも晶や玲は女性でも居るけど、戸籍は艦なんだよ。だから恥ずかしくてカタカナをずっと使ってるんだ。どうせアレンジャーの名前なら純にしてくれればと今でも思うさ・・・・・・」
こんな話をしていたら少し笑顔を見せてくれた。
放課後になり、今度は私の元の級友が大人数で押し寄せてきた。お昼には先手を打たれた一年生に阻まれたとの事で、今度は雪辱したと、したり顔だった。
オシャレや恋話しても、やはり聖母祭の話はでる。去年の経緯があるから仕方ないけど、一様に慰めてくる。するとそれは呼び水の様にして私の涙を引き出す。もう泣きたくて泣いてはいないのに・・・・・・。
聖母祭の準備に一人また一人と級友が去っていく中、やっと来た先生に文句を言い保健室を出る。蘇芳さんは私の涙の訳を知りたがっている様に見える。でも言わない。言ってしまったら・・・・・・。
「いよいよ明日だね。蘇芳さんが選ばれたら、パレード映えるだろうな。見てみたいよ。それに伴奏のピアノを弾いてみたいな・・・・・・。昔と違い、それなりには弾けるように成ったんだから、すーちゃん!」
「すーちゃんは恥ずかしいわ。こんな大女なのに」
「大女言わない。私の方が大きいんだよ。それにしても、あのチビちゃんがこんなにいい女になるなんて、思わなかった。ぼんきゅっぼん凄いよ・・・・・・」
「言わないで・・・・・・」
「私なんて背は高いけど、まな板でさ。委員長から貰った"胸大きくなる実証済みレシピ"をやってみようと思ってるんだ。あれはすーちゃんの実体験からでしょう」
今日は寝るまで、ずっと昔話をした。私もだけど、蘇芳さんが楽しそうにしてくれたのが嬉しかったから・・・・・・。
朝になり、すっかり回復した蘇芳さんは、私をアキラさんと下の名に呼び方を変えた。そして今まで以上に親密にかつ一緒に行動する。
照れる蘇芳さんの手を恋人つなぎでだ。王子様とお姫様と茶化された。そんな冷やかしも心地よく感じる。今日は聖母祭のプレイベントたる聖母発表が聖堂であるので、生徒、教職員全員集合である。バスキア教諭や小御門副会長が話しをして、いよいよ発表だ。そして・・・・・・。
「私的には、蘇芳ちゃんを願ってたのにダメでしたよ」
「私は、不文律通り、立花だと思ってた」
「誰よ級長だから選ばれるなんて言った人。舞い上がってて恥かいちゃったじゃない。もぅ・・・・・・」
「今年は双子ですって選んでくれれば、ハモって歌って拍手の渦にして見せるのになぁ。悔しい・・・・・・」
発表が終わり教室に戻ってきた級友は、イレギュラーな事実に戸惑いを隠せないようだ。
9時になり封書を開きバスキア教諭の言葉が聖堂に響き渡った。それでは、発表します。今年の聖母は、『黒沼アキラ』さんです。みなさん拍手を。一瞬呆気にとられた様に沈黙し、後は拍手の波が。祝福でたたかれ身体が痛い。そう、番狂わせ中の番狂わせとなった。聖堂出て先生達にいくら何でもと問いただしたけど、決定事項ですと取りつく島もない。
口の重い教師は諦め、ニカイアの会から聞き出すと去年も私が選ばれていたらしい。そして降板した経緯。リベンジじゃないがどうもそうらしい。
一年生には、納得いかない子も居る様だけど、二年や三年生にはそういう声は少ない様で、部屋にはお祝いのカードがたくさん届いた。そこでちょっと図に乗る事にしてみようと悪巧みを思いついたのだ。
ニカイアの会に出向き、ちょっとした交渉をしてみた。教員巻き込んで色々あったけど、お許しが出た。さて本丸を落とすとしますか。
「蘇芳君、放課後聖堂に来て。話したい事あるから」
八代先輩から呼び出されてしまった。なんだろう?
聖堂の重いドアを開けると、そこには、八代先輩、小御門先輩、アキラさん、伴奏担当の先輩が待っていた。
「遅くなって申し訳ありません・・・・・・」
謝罪を遮り八代先輩が口火を切る。
「蘇芳君も知っての通り、今年の聖母祭の聖母は君のアミティエの黒沼アキラがやるわけだ。で聖母は最終日にここで伴奏者のピアノでトータプルクラを合奏するわけだ」
「それが私と何の関係が?」
ちっちっちっ,と、ひとさし指を動かしながら八代先輩が続ける。
「蘇芳君、今ここでの話というのは、その伴奏者を君にする承諾取りの為のだよ。既に決定事項で、まあ拒否権は無いわけだが一応形だけ認めを取ろうとだ。尚、教職員には了承済みだ」
「腕前は、皆知ってる。メンタル面は私達でフォローするこれで良いだろう蘇芳君」
頭の中は真っ白だった。無理だという自分、義母の叱責がよぎる。あなたは"失敗作"と。しかし心の隅で皆の期待に応えたい自分が居る事に驚いた。それに・・・・・・
気がつくとアキラさんが私の前に土下座して懇願している。
「何してるんですか、アキラさんやめて下さい。先輩方も止めさせて下さい。もう頭を上げて! 」
パニックで声がヒステリックになってしまった。それでも状況は変わらない。八代先輩に受け入れてくれないと、僕たちも土下座するよと脅され、仕方なく了承した。
そしていきなりレッスンが始まった。アキラさんが歌い、私が伴奏し横には指導役の専属伴奏者。指に包帯を巻いている。怪我でもしたという事なのだろうか? その代わりならという事でいくらか気が軽くなった。それを八代,小御門の両先輩が囲む。
「王子と姫と侍女かな。この図は」
八代先輩は軽口を口にするも、私はマンガでありがちな証言台の被告で、大きく描かれた裁判官が上から覗き込み判決を言う図を想像していた・・・・・・
翌日、教室で意外な話が広まっていた。八代先輩が早朝のロードワークで怪我をして街の病院に搬送されたという。その割にはサイレンの音は聞こえなかった。噂では事故でなく事件で、誰かが殴ったとか。不祥事なんで教師のマイカーで搬送したとか。裁判宜しく先生が犯人を処罰してるだとか群盲象をなでると言った感じである。
時間が経ち判ってきた事は、頭部の怪我で多量の出血、頭部である事を重視して街の専門病院に搬送。本人談として自爆の怪我だという。しかし色々現場と適合しないものがあるという。箝口令の敷かれた今、八代先輩が退院するまで、真相は闇だ。いや、退院しても守秘してしまいそうだ。
一件以来、アキラさんがナーバスになってる。歌にも影響が出てダメ出しが続く。私はまあまあ及第点だろうか。今のところ悪心からの問題は出ていない。夜、部屋でアキラさんに聞いてみた。しつこく問いただすと、事故日の前の夜遅く、八代先輩と会っていたらしくそこで口論したらしい。
学院からはその事で聴取されたとの事。詳細は語ってくれなかったけど、人に話した事で気が楽になったのか、落ち着きを取り戻した様だ。しかし病み上がり故、部屋ではグッタリしていることが多く、サッカー部直伝マッサージをしてあげる毎日だ。
一方聖母祭の片輪であるクラスごとの催しに関して、私達のクラス展示発表の準備は進み、採集もコスプレの衣装も既に殆ど終わっている。後は展示の準備関連と日持ちしない物を前日に採るくらいだ。衣装は涼しげな白を基調とした。メイド服的な物と、執事風パンツルックだ。着てはみたいと思うものの、紹介する展示物が苦手なモノばかりなので聖母祭の後に貸してもらえたらなと思う。
そしてもう一つの片輪、部活の方は各部とも実施を前におおわらわだ。クラスに人を取られ、掛け持ち多いので、きついのだ。私達料理部は、紛糾の末結局中華料理に決着してしまった。三年生に押し切られた形だ。全員一丸で取り組みことになった。とはいえ私は演奏に引っ張られてしまったので、余り関われないことになってしまい、沙沙貴さん達からは、ジト目で見られてしまった・・・・・・。当日は少しでもフォローしてあげたい。でも・・・・・・。
入院していた八代先輩が学院に帰ってきたのは、聖母祭の前々日。留守中の残務を処理し、放課後遅くに、聖堂に来てくれた。復帰を皆の嬌声で迎えた。合唱部の部長の小御門先輩はハグして歓待する。アキラさんも笑顔だ。部員全員と歓談を済ませた後、明日のリハーサルを迎え練習に熱が入る。やはりこの人が居ると居ないでは、空気が全然違ってくる。さすがにカリスマだと思わされる。
「アキラ、後で話がある。ニカイアの会の執務室に来てくれ」
八代先輩はアキラさんにこう伝え出て行ってしまった。思うとこがあるのか、浮かない顔をしている・・・・・・。
練習も終わり、小御門先輩とアキラさんが連れ立って八代先輩の元に向かう。私は寮に戻り、毎日恒例のマッサージの準備してアキラさんを待つ。まだ筋肉が完全でなく夜にはかなり脚が辛いと言うので、私は八代先輩からマッサージを習っているのだ。帰ってきたアキラさんは、泣きはらした様な顔してる。驚く私に、何でも無いとは言うものの、精気が無い。マッサージしてても上の空だ。
食事し、予習し、お風呂入っても、生返事しかしない。寝る前に
「せめて後もう少し・・・・・・」
そう言っていた気がした。歌の出来のことだろうか。私には問題無い様に思えたけど。
そんなアキラさんも、リハーサルでは別人に変わって、伸びやかな声を披露し魅了する。観客として動員されたクラスメートを圧倒した。私も緊張感からか、うまくこなす事が出来た。本番に無いソロは本当に大変だったけど。義母の影を払ってくれた皆に心の中で感謝する。あの人の影が出ない中で弾くピアノは楽しい。こんな気持ちは何時以来だろうか。
本番を明日にし、八代先輩が私達の部屋に来て、私達にマッサージをしてくれた。アキラさんに対する態度が前と違う。凄く気を使ってるのが私にすら判る。無理するなと声をかけ、私には普段通りしろと。そして譜面めくってあげるよ。特等席で見たいからと。要らないとも言えず行為を受ける事にした。
八代先輩はこの後、まだ終わらない部活に徹夜するか帰るか聞きに回るという。やはり会長職はは大変の様だ。皆の努力で私達のクラスは無難に準備完了。しかし徹夜の部活のとこもあるらしい。それを思えば皆に感謝しないといけないなと思う。途中から殆ど参加していない私は少々肩身が狭い。
消灯になり、いざ寝ようとしても中々寝られない。私だけでなくアキラさんも同じ様だ。そして布団を出る音がする。そして梯子を登る音。
「蘇芳さん、まだ寝てないよね。ちょっとだけ時間くれないかな。明日、聖母祭が終わったら二人で話したい事があるんだ。必ず来て。場所はヨゼフ座」
私は聞き慣れない言葉に戸惑い,刹那聞き返した。
「ヨゼフ座って? それは何処に有るのですか? 」
「あーすまない、一年生は知らないよな。ゴメン。聖堂の地下だよ。すごく趣のある場所さ。聖堂の中からは鍵の関係で無理だと思うけど、聖堂の外からも入れるよ。大道具の搬入口があってね。こっちは通常鍵かかってないはずだから。聖堂の裏にスロープが有るからそこから入って待ってて」
そう言いながら降りて行ってしまったアキラさんに慌てておやすみを言う。
ヨゼフ座ってなんだろうと思う。それに話って。想像するだに赤面する。私まだアキラさんの事良く知らないし、あんなことや、こんなこと、そんなことされたら・・・・・・どうしようと要らぬ心配して寝つけなくなってしまった。それはお互い様だった様だけど。
朝になり、天気は晴れでカーテン越しに差し込む朝日が眩しい。私の後を追う感じにアキラさんが起きてきた。背後からいきなりハグされてびっくりしてコップを落としてしまった。割れてしまったコップを拾おうとしたら、アキラさんが指を大事にしてと制止する。私が悪いんだしとしょぼーんとしながら片づけしている。落ち込んだ彼女がなんだか子供ぽくって可愛い。
身支度を整え、食堂で朝食だ。部屋に入り皆に挨拶する。その時、白羽!と少しばかり懐かしい声がした。八重垣さんだ。アミティエの組み替えしてからご無沙汰してたのだ。図書室には来ていたようだけど、私が当番の時は会えなかったので、久闊を叙すると言った感じだ。
「白羽、今日は見に行ってやるから、しゃんとして弾けよ。まあ失敗してもタマ取られないから安心しろよ」
そう言い、手でピストルを撃つ真似をする。彼女らしい励まし方だ。
しかし、中には苺さんの様に
「八重垣ちゃん何言ってんのよ。蘇芳ちゃんに玉なんてある訳ないじゃん」
真意を掴めていない子もちらほら居る様だった。今日は授業無いので、朝は出席だけとる形だ。教室も準備万端で出番の子は既に皆着替えていた。