FLOWERS Another Episode 会長の思惑 作:抱き枕50
「それじゃ、蘇芳さん、黒沼さん。そのプリントのまるが付いてる時間、展示の呼び込みお願いします。アミティエとしての共同作業だから頑張ってね」
級長の立花さんから、シフト表を渡された。見るとお昼頃の時間だった。
「これは・・・・・・拙いわ。料理部の一番忙しい時間に出られないじゃないの・・・・・・」
料理部部員の恨めしげな顔が浮かんでくる。アキラさんはペアで代わってくれる他のアミティエ探すか? って言ってくれたけど、アキラさんはこの時間でないとパレードに行け無くなってしまうから無理。一人だけでもと思案したものの、代わってくれそうな子に心当たりが無いので断念。この時ばかりは交遊関係の狭さが恨めしい。
「蘇芳さんは、案内嬢する時アレを着るんでしょ? 。似合いそうだね」
アキラさんは、執事風の衣装を着た子に、視線を向ける。
「私よりアキラさんの方が似合うでしょ。ハーレム状態が目に浮かぶわ・・・・・・」
声に少し不満を混ぜ、アキラさんを見、手の甲をつねる。
「蘇芳さんでも、嫉妬するんだ。驚いた。でも私は、メイド服の方が良いね。ああいう、リボンやフリル沢山の服って大好きなんだよ」
「何その意外って顔は。ピアノだって元は発表会のドレス目当てで始めたんだよ・・・・・・。髪形や体系が残念だからって・・・・・・。私だって心は乙女なんだよ、蘇芳さん」
下を向いて小声で謝る蘇芳さんが愛しい。アゴクィして顔を上げさせ目を暫し見つめる。
「後で髪をセットしてあげるから。あの服がより似合うようにね。期待してて、蘇芳さん」
言った刹那、私に腕を廻しアキラさんがキスをしてきた。クラスの皆が居る前で。わぁっ、と嬌声が上がる。
何事ですかと廊下に居たバスキア教諭が入ってきて叱責する。私は真っ赤だった。
アキラさんはニカイアの会に行ってきますと、私を置き去りに消えて行った。残された私は羨望の眼差しの中に晒されていた。それは意外と気持ちよく、かつ誇らしかった。
教室に居ても苦手な展示が目に入るし 、また忙しい中では所在無い。料理部もピアノ弾くことから、私は怪我を考慮し調理禁止令が出ている。そのため給仕の時間まで仕事が無い。練習も会場の関係でまだ無理。本番のちょっと前に少しあるだけ。仕方なく上級生のクラスや部活の展示を見に行こうとぶらぶらしてると、上級生たちから頑張ってと言われた。しかも会う人会う人・・・・・・。知らない間に有名人になってしまっているのに戸惑う。アキラさん効果なのだろうか・・・・・・
「先輩、ありがとうございます。期待に添えるように全力で頑張りますから・・・・・・」
この学院に来た時こんな今の自分を想像なんて想像だにしなかった。欲しかったものを少しずつ手に入れ変わる事が出来た自分。幸せだと思う。恩返ししたいと切に思った。
「八重垣さんじゃない。珍しいわね、こんなところに・・・・・・。一人で来たの? 」
お茶会の開かれる何時もの東屋に、彼女は居た。介助の人が居る時になら、何度もここで見たけど、一人でここに居るのは初めて見た。車椅子に一人では、未舗装の外をぐるっと回るか、固い扉を開けないと出られないので、難儀なはずなのに・・・・・・。
「あー、白羽か。お前もぼっちしてんのかよ。ってわけないよな。お前は友達も知り合いもいっぱい居るだろ。何を一人でうろついてるんだ?」
「私、ほら聖母祭で演奏するんで、クラスでも部活でも優遇されていて、結構暇なの。ピアノは本番前に少しだけの練習時間があってそれまでは、アンタッチャブルなの」
八重垣さんが、選んだ言葉に反応し、猫の笑みを見せる。
「やっぱり、お前はいい。それでなんでここに?」
「先に聞いたのは私よ、八重垣さん。質問を質問で返さないで。意地悪」
拗ねる私を見て、照れたようにぷいっと、顔を向こうにそらす。
「わっ、私は、お前と違ってひねくれモノで友達居ないから、落ち着ける場所を探してここに来ただけだよ 。でお前は? 」
「私も同じ。落ち着ける場所捜してここに来たわ」
書痴仲間、話の合う同士、会話が弾んだ。聖母祭が近づいてからあまり話しなかったことも有り、弾みすぎて危うくクラスの出番に遅れそうになってしまった。着替えやらで、早く行くことになってるのだ。演奏、見に行くからなと言ってくれた八重垣さんと別れ、教室に戻ってきた。
白羽さん遅いわと言われ黒沼さんはもう着替えたと言われた。こっち来てと衣装係に手を引かれ更衣室に強引に引き込まれる。そして、されるがままに着替え、丈を手直しし、鏡を見た。まずは執事風のパンツルックだ。
「さすがに蘇芳さん、スタイルいいわ。決まってる! 次は髪形ね。黒沼さんお願いします」
衣装係の世辞に送られ、メイク用の大鏡の前に座る。そしてメイド服のアキラさんが髪を梳き、編み込んでハーフアップにしていく。髪をいじられるのか心地よい。目を瞑ると寝てしまいそうだった。
出来たよと言われ、慌てて鏡を注視する。
「これ私なの。ありがとうアキラさん。うれしい。普段の重さが無いわ。ありがとう」
「今日はこれで勘弁して時間無いし。次はもっと大胆にしてあげるよ、蘇芳」
耳元で息がかかる距離で、アキラさんが私を呼び捨てで呼んだ。名を呼び捨てで呼ばれると言うのはこんなにも近しく感じるのだろうか。
かっとなっていくのが恥ずかしい。
「アキラさん、お願いするわね。こういうことされるの初めてなのよ、私。ここに来るまで、友達らしい友達なんて一人も居なかったの。ずっと一人でそのうち学校にも行かなくなって・・・・・・だから今とっても幸せなの」
感傷に浸る間も無くねえ、終わったかしら? 。交代よ。これ口上ね。とカンペを渡されてすぐに呼び込み開始した。私達が並んでいると、皆が写真を撮っていく。この聖母祭、小学生の遠足みたいに、使い捨てカメラを一人一人渡されているのだ。級友もそうだけど、上級生も例外なく撮っていく。なんとも面映い。
アキラさんには、私が東屋に居た時にしていた、聖母祭のパレードの事を話していく人も多い。二年越しに叶ったね。とか綺麗だったよ。王子様でなくてまごうこと無きお姫様だったねとか・・・・・・
私は照れも有り、途中少しちら見しただけだけど、べールを被ったアキラさんはほんとに綺麗だった。病気が治り本当に良かったと思う。でも病気故、一年遅れて私と出会い、あの晴れ姿を見られる事になったと思うと、少し複雑に思う・・・・・・。
途中で衣装変えて2クールを全うし、料理部に向かった。ご飯時は過ぎつつあるも、まだまだ賑わってる。メニューは半分くらいは伏せられていて、ちょっと驚いた。あんなに有ったのに、もうこれだけなんだと。バツが悪くこっそり覗いていると、背中をたたかれ捕まえたとドロケイよろしく部屋の中に連行されてしまった。
「こっち無視して黒沼さんといちゃってたんだって? 目撃談が多数届いてるよ,蘇芳ちゃん。」
「調理免除なんだから、給仕くらいしてよ。クラスの執事服借りてきてさ。それで勘弁してあげる」
沙沙貴さん達が私を口撃する。
「あの服取って来るから待ってて」
振り向こうとしたら、
「あー、マジに取らないで下さい蘇芳ちゃん。冗談。お姫様こき使ったら災厄が全部こっちに来ちゃいそうだからさ」
「こっちのことは任しておいてよ。もうすぐ食材のストック切れるし。私達だけで回すから。平気だよね林檎」
来れなかったことを先輩方に謝罪したけど、逆に励まされてしまった。ピアノ頑張ってと。
教室に帰ると、閑散としていた。残っていたのは匂坂さんだけ。メイド服も淋しげに何かしょんぼりしている。立花さんは聖堂で合唱部の準備に行ってしまったと・・・・・・。美術部はと聞くと、午前中が担当で午後は非番でこっちなんだとのこと。蘇芳さんは行かなくて良いのと問われ、時計を見る。そろそろ行くわと彼女に告げた。
「蘇芳さん、髪形似合ってるよ。それじゃ後で聖堂でね」
日が長い夏至近辺の今時分でも、いよいよ日の入り。雲にかかる夕日が赤く聖堂の外壁を染めてきた。すでに生徒も教員も全員聖堂に集まっている。聖母祭のフィナーレの合唱部の聖歌斉唱と聖母役の生徒の独唱。そしてその開始の時を待つ。
小御門先輩の指揮の元、合唱部の皆が所定の場所に。そして私、白羽蘇芳は、ピアノのふたを開けて譜面を置き椅子に腰を落とす。そして指揮者が動き最終章が始まったのだ。
そして恙なく五曲を弾き、合唱部も最高の出来でそれに答える。ここからが本番。九十九里を以て半ばとすると言った感じだろうか。そしていよいよ聖母役の黒沼アキラのトータプルクラの独唱だ。重い扉を開いて入場し、彼女が私の方ににするすると近づいて来る。聖母の衣装をまとう彼女は、何時もの中性的なところはなく、慈愛に満ちた聖母そのものだった。
そして合唱部の皆は、脇に移動しその開いた場所にアキラさんが立つ。そして私の横には八代先輩が事前の打ち合わせ通りに特別に補佐してくれる。
そして、歌いだしのキューはアキラさんが両手を合わせた時・・・・・・。指が練習した通りに鍵盤を舞い旋律を奏でる。そして神掛かったアキラさんの声が聖堂の空気や存在を限りなく透明にしていく。まるで魔法にかけたように。そこには意識だけが存在する不思議な空間だった。
そして歌い終わって、万雷の拍手で幕を引いた。皆笑顔で私とアキラさんを祝福している。クラスメートも上級生も先生達も。終わった。そう終わったのだ。そう思うと泣けてきた。
隣に立っていた八代先輩が私にハンカチを手渡してきた。
「僕は要らなかったみたいだね、蘇芳君」
ハグした後合唱部の列に戻っていく八代先輩に心の中で『どうもありがとうございました』と私は頭を下げた。
そしてアキラさんが頬を寄せてきた。そして小声で
「蘇芳のおかげだ。君の演奏が全てを引き出したんだよ。自信を持って。君は立派な演奏家だよ、すーちゃん」
握手してアキラさんは退場していく。そして鐘の音と共に今年の聖母祭は終わって行った。
「ヨゼフ座で待ってて欲しい」
私は真っ赤に染まった夕刻の聖堂とは打って変わった、漆黒の闇に沈む黒い聖堂にたどり着いた。申し訳程度に点いている黄色い外灯を頼りにヨゼフ座の入り口を捜す。
「有った! こんな所に・・・・・・」
木の影で見えにくかったスロープを見つけた。年季物の鉄の手摺りを伝い、大きな鉄の引き戸の横に有る小さな木のドアを押し開ける。
入るとそこはまだ前室だった。
「暗い・・・・・」
暗闇に目が慣れるまで暫し立ち止まる。暗順応が済むとそして順書き割りとかの大道具が色々置いてあるのが判った、ぶつからない様に非常口の明かりを頼りに慎重に進む。意外な事に定番の蜘蛛の巣はなかった・・・・・・。
何十歩か歩いたろうか、非常口の明かりの下の遮音材の付いたドアを引き開ける。と、そこは・・・・・・
「客席・・・・・・だわ」
非常灯だけが点いている。他の明かりは無く人の気配は無い。まさか誰も居ないとは思っていなかったので、私は平常心を失い焦り始めた。
「蘇芳・・・・・・良く来てくれた。こっちだよ」
人の声だ。緊張が解れる。アキラさんの声・・・・・・。
声の方に振り向くとマッチを擦る音?と思った刹那ボワっと明るくなった。蝋燭を点けたのだ。地下なのに風があるらしく火が揺らいでいる。アキラさんは舞台の前に立ち、手に持っていた蝋燭を舞台に置いた。
目が慣れてきてヨゼフ座が立派な作りの小劇場と理解できた。
「アキラさん、学院にこんな場所があったなんて、知らなかった・・・・・・。年季入ってて立派だわ・・・・・・」
「ここは朗読会とか、バレエの発表会とかで使うんだよ。そうまずは朗読会が先だね」
そうなんですかと、相槌を打つ。今はその事よりも・・・・・・。そして近づいてきたアキラさんが私の手を取り舞台の上に上った。
「蘇芳、どうして呼び捨てで呼んでくれないの。私だけが呼び捨てなんて・・・・・・」
そう言って強引に抱きしめ、これからはさん付け禁止だよと言い、絶対守らせるからとキスをしてきた。舌を入れてくる、今までに無いような激しいキスだ。そして身体を離し私と向き合う。蝋燭の光が二人の影を舞台の奥の幕に影絵のように映している。
「私は、蘇芳の全てが欲しい。愛しているんだ。もう抑えていることなんて出来ないんだよ。一人の女として聞く。蘇芳は・・・・・・私のこと嫌いか? 」
感情が高ぶっていて、震えがちな声。目には涙が溜まっている。何時もの王子様然とした面影は無く、一人の少女、いや女がそこにいる。
走馬灯のように記憶が渦巻く。どれくらいそのままで居たのか、多分何秒も経っていないのだろうけど、脳内は永遠の時間を味わっていた。ブラックホールに吸い込まれる人を外から見る時の様に。
「アキラ。私も貴女が好きよ。女だからとか関係ない。理屈じゃない。私もアキラの全てを欲しいわ」
見つめ合い二人して服を脱ぐ。生まれたままの姿。アキラは手術の傷跡を手で隠す。私はその手を取り跪いてキスをした。
「辛かったんでしょ。でも隠さなくたっていいわ。アキラの全てを受け入れるから・・・・・・」
脱いだ服をシーツ代わりに、舞台に二人で横になった。そしてまぐわう。アキラが私の上に・・・・・・。
「蘇芳は初めてなんだね。やさしくしてあげるよ。それにしても綺麗な身体だ。今妖精を抱いてるのか、勘違いしそうだよ」
「アキラは経験があるの? 誰なのよ。言いなさい! 」
私は嫉妬心にかられ、首に手をかけ身体を持ち上げアキラの肩を噛む。
「はふひようしなひと・・・・・・」
「痛い、わかったよ。言うから噛むの止めて・・・・・・」
「それじゃ被告人は証言を」
「被告人なの? まあいいか。初体験は、病院の看護師さん。隔離棟で私の担当だった主任さん。退院するまで色々調教されちゃって、ノン気だったのに戻れなくなった。綺麗な人でいろんな意味で大人で・・・・・・退院する時は悲しかった」
しれっと言うので、また嫉妬。口を両手の親指で『いーっ』と左右に開きアキラの舌を甘噛みする。
「いはいょ。ゆるひて」
情けない声を聞き、許してあげる。自分でも意外に意地悪でびっくりした。今までこんな感情になったことなんて無いから・・・・・・。
「聞きたがったのに、そんなことするなんて結構鬼畜だね、蘇芳・・・・・・。イメージと違う。でも今の蘇芳の方が魅力的だよ」
「こんなに・・・・・・嫉妬深い女なのに? 好いてくれるの? 」
「だってそんな蘇芳を知ってるのは私だけ。他に誰も居ない。私だけの秘密。嬉しい・・・・・・」
それは、私も。これから黒沼アキラを私色に染めたいと思った。主任さんなんて今日を限りに思い出せなくしてしまうわよと。そして再びまぐわう。
「ねえ、蘇芳。消すかい? 蝋燭。なんだか少し恥ずかしいんだよく見えてしまって」
「ダメよ。私はアキラの身体をもっと良く見ていたいの。燃え尽きるまで我慢よ、アキラ」
結局、蝋燭が燃え尽きるまで二人の少女は身体を重ね濃密な時を過ごして朝を迎えた。
床の埃をたっぷりと付けて汚れた制服を払い、ヨゼフ座を後にしたのは朝食の始まる時間のちょっと前だった。
夜露に靴を濡らし、慌てて寮に戻る。受け付けで名前を申告し荷物を受け取り急いでシャワーを浴びた。
そして聖母祭の後の衣替えの規則に従い、受け付けで戴いた綺麗にラッピングされた箱を開け、夏服一式を取り出して着て二人して姿見に身体を映す。
「似合う? 蘇芳」
「とっても。アキラは背が高いから・・・・・・」
「蘇芳も決まってるよ。夏服は蘇芳の為に有る様だ。清楚で上品で。難を言えば蘇芳は胸の膨らみが凄いから、ちょっとおデブに見えてしまうね」
「酷いー」
「でも、ウエストを細く見える様にとアンダーの所に切り替え付けたり、リボンで絞ると、それはそれで凶悪だなぁ。皆の溜め息が聞こえてきそうだ」
「もう、やめてよ。これ以上大きくなるとブラに困ってしまいそうなんだもの。でも軽いし涼しいし良いわね夏服」
「私も、去年はあまり着られなかったから今年は夏服を愉しませてもらおう」
「そうよ。アキラ・・・・・・愛してるからずっと一緒よ」
「蘇芳・・
夏服に着替えての初のキスを交わして抱き合う私達。そして改めて事後のキスマーク等が見えてないかを確認した。そして汚れた制服を袋に詰めクリーニングに出し、食堂で食事だ。この間ずっと恋人つなぎで手を繋いでいた。二人の関係を皆に知らしめたかった。
「黒沼さん、蘇芳ちゃん、おはよう。何よベッタリしちゃって。こっちもあっちも暑くて熱くてたまらないわ」
涼しいはずの夏服が涼しくないと、苺さんがむくれる。
苺さんが、視線を送ると立花さんが匂坂さんにあーんをして食べさせてた。さすがにまだアレはここでするには抵抗がある。
「王子様とお姫様、今朝は私どもに配膳しては下さいませんか? 私達は昨日手伝いに来なかった人の為、大変疲れております。ご一考くださいませ」
林檎さんが、ジト目で言うと、苺さんもそうだそうだと言う。まあ仕方ない、アキラを連れてオーダー通り取ってきて二人の前に並べる。
「アキラは先に座ってて。貴女の分取ってくるから」
何げに言った言葉に、周りが少しどよめく。
「呼び捨てなの? 蘇芳ちゃん。もうあてられちゃうな。伝説通り二人は結ばれたって訳か。そういや夜に二人の部屋に行ったのに鍵かかって返事無かったけど。寝てたの? 」
「えっ・・・・・・・・・・・・」
「それじゃ何処かに二人でしっぽりしてたんだ? 」
真っ赤になって押し黙る私達を見てにやつく二人。
「だよね。蘇芳ちゃんは気付いてないと思うけど・・・・・・首筋にキスマークが有るもん」
「嘘、鏡で見た時には・・・・・・そんなの・・・・・・無いのは確認したはず」
「蘇芳・・・・・・。担がれたんだよ・・・・・・」
「えっ、あっ、あ・・・・・・アキラごめんなさい」
「脇甘いよ、蘇芳ちゃん、黒沼さん。ご馳走様です。」
「ねえねえ、アキラ王子様から手を出したの? 」
「アキラは女らしい女の子なのよ。私は良く知ってるわ。だから王子様なんて言い方は止して、苺さん、林檎さん」
私はただ単純に王子様って言って欲しく無いだけだった。だけど・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「それって蘇芳ちゃんから誘って落としたってことなの? 」
「今のは聞き捨てなりませんね。そう、お嬢様の蘇芳ちゃんからですか。でフルコース? 」
「蘇芳さんも肉食だったのね。色々教わりたいわ。詳しそうだし」
「白羽さんも隅に置けないね。あのコミュ障が嘘みたいだ。覚醒したきっかけは? 」
立花さんも匂坂さんも集まって来てしまった。何か誤解を生んでしまったけど、訂正しようとしても皆は聞く耳持たなかった。噂は音速のように広まって・・・・・・
今日は聖母祭の後片付けの日。授業は無い。アキラは、聖母祭のことで職員室に行ってしまった。別れた私はまずは教室の片づけ。視線が刺さってくる。そして部活棟や聖堂の片づけ。部活棟で八代先輩に噂の真相を聞かれ、泣かれてしまった。それはもうガチ泣きで。たちまちの人だかり。一瞬で善玉がヒールになってしまった。
聖堂に行くと、ここでは小御門先輩から、まず昨日の演奏を褒められた。そしてアキラの歌も。あんなにうまく歌ってしまうと、真実の女神に攫われてしまうかもと、小御門先輩は言う。
「真実の女神?ですか・・・・・・」
腑に落ちない私。
「黒沼さんはともかく、蘇芳さんは、知らないかもね。学院の七不思議の一つで、名は『真実の女神』聖母祭で上手に歌うことが出来た生徒が攫われると言うものなの」
「これは優秀だからゆえに、神の御許に呼ばれたということで、災いでなく誉れとして伝承されているの」
「消えてしまうのが、慶ばしいのですか?・・・・・・私は消えて欲しくは無いのですけど・・・・・・」
「私は、呼ばれたら、喜んで神の許に赴くけど・・・・・・」
小御門先輩は、根っからのキリスト教徒なのだと思った。私にはちょっと理解できないし、アキラが消えるなんて思いたくないから・・・・・・。
複雑な気持ちで教室に戻ると、アキラが居ない。慌てて問うと保健室で寝てるという。瞬間、病気かと邪推したけど、昨晩徹夜したことを思い出して寝てないからかと推測した。ゆっくり休ませたくなったので、私は会いに行かずに教室に残った。そして終業のホームルームまで、目を閉じてうたた寝しながら今ここに居ないアキラのこと、夜の出来事を反芻していた。