FLOWERS Another Episode 会長の思惑   作:抱き枕50

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導き編

 さて、蘇芳君を料理部に入部させたわけだが、僕の居ないときはクラスメートの沙沙貴姉妹としか会話をしていないらしい。相変わらずの人見知り状態のようだ。

 

 個人的には僕とだけ仲良ければいいのだけど、立場上そうもいかない。僕はとりあえず蘇芳君のホームとも言える図書室に出向くことにした。

 

夕暮れ時、赤みの増した光の中彼女は居た。声をかけるのが憚られるほどの美しさに気遅れしてしまう。しばし見つめてしまった。返却された図書を棚に戻しているのか、カートと本棚を交互に注視していて僕には気がついていない。そこでちょっと脅かそうと死角から近づいた。

 

「蘇芳君、相変わらず美人だね」

 

耳元にそうささやくと、彼女は驚きのあまり手に持っていた本を放り投げてしまった。硬直する蘇芳君をよそに、僕はダッシュで本をキャッチする。

 

ちょっとわたわたしたけど無事に手に納まり、口うるさい図書委員長のお小言を聞かなく済むことに安堵する。

 

 

「全く・・・・・・そんなに驚かなくたっていいだろう。ちょっと傷つくなぁ・・・・・・本は無事だよ蘇芳君」

 

 

 しゃがんだ体勢から上目使いで彼女を見ると泣きそうな顔が目に入る。立ち上がり手にとった本をカートに置き、近づきギュッとハグしてから片手で頭を撫でる。綺麗な黒髪は誘惑のオーラを醸しだす。これに抗える人は居ない。絶対に。

 

 

「ごめん。いい子だから泣かないで蘇芳君」

 

 

髪を撫でながらのその一言が逆に堰を壊してしまったのか、一筋の涙が頬を伝っている。撫でる手を止め、その涙を指で拭い指を口に含む。ここは二人しか居ない。理性より痴情を優先したって罰は当たらないだろう。

 

 

「八代先輩、もう離して・・・・・・」

 

 まだダメだよとばかりに身体を押さえる方の手に力を入れる。びくっとする蘇芳君がとても愛おしい。

 

「や、八代先輩、まずは離れた所から一声かけてください。もう、びっくりしてしまって・・・・・・」

 

 

 消え入りそうな声で訴えてくる。理性が飛びそうだ。

 

 

「次からは耳元に声でなくて、頬にキスするからそれで赦してくれないかな」

 

「えっ! そ、それは・・・・・・」

 

「不満かい? それとも、お姫様は何かリクエストがあるのかい? 」

 

 

 未だハグしたままの僕達。互いにじっと目を見つめて真っ赤になった彼女が、拗ねたように口を開く。 

 

 

「もう。苦しいから離して・・・・・・今度は普通に挨拶して下さい。からかわれるのは嫌いです」

 

 

「蘇芳君、連れないな。僕は君を特別だと思っているのに。お姫様が望むのなら僕を自由にして構わない。そうそう蘇芳君は胸が結構大きいんだね。一年生では一番大きいんじゃないの?」

 

 

首筋まで赤くなった彼女は、服の上から胸を抑える。こちらをちら見しながら

 

「で、でも八代先輩の方が・・・・・・もっと大きいし・・・・・・それに柔らかい・・・・・・」

 

「今度、二人で見せっこしよう。カメラ準備するから」

 

 

冗談で話題を切り換えることにした。そろそろ本題に入らないと。図書室閉める時間がきてしまうから。僕も手伝い二人で残りの本を棚に納めていく。

 

 

「蘇芳君、本題に入るけど良いかな? 」

 

 

 カートをしまい込みチェックリストをファイルし、戻ってきた彼女は僕を見て頷く。

 

 

「料理部でのことだけど、もっと皆とコミニュケーションとって欲しいな。君が人見知りなのは知ってるし、それを承知で入部させた。君は料理部の皆の事が嫌いかい? 」

 

 

彼女は首を横に振る。沙沙貴君達の話では、蘇芳君はクラスでも沙沙貴君達とアミティエと位しか話をしていないという。本人は意図的に他人を拒絶している訳ではないらしい。あまりにももったいない。一歩踏み出ししてしまえば好転しそうなんだが。

 

 

「なあ、蘇芳君、大人の君に言うのは失礼かもしれないけど、ここはひとつ指切りしよう。これから料理部の皆と仲良くしますと。徐々にで佳いからね。僕は君の味方だ。どんな事が有っても君を守るから。信じてくれるかい? 」

 

「はい」

 

小声ながらもしっかりとした口調での返事。僕がまず指を出し、彼女が続く。アイコンタクトして二人同時に口を開いた。

 

「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲~ます」

 

 

子供っぽい行為に二人で笑う。蘇芳君の仕事が終わるまで待ち、料理部の部室に一緒に行く。今日は活動してないけどね。ここ図書室は飲食禁止なので部室で珈琲を、と相成った次第だ。

 

 

部室の鍵を開け、電気を付けて珈琲をいれてある戸棚に足を運ぶ。カップとスティックの珈琲を取りだす。本当ならサイホン用立てて味わうとこだけど、いかんせん時間がない。

 

 

残念だけどそれは次回のお楽しみだ。電気ポットで二人分の湯を沸かして、さっと淹れる。問えば蘇芳君は珈琲党の様である。蘇芳君のアミティエの一人、花菱立花君は紅茶党で有名で、放課後お茶会しているのは僕も知ってる。

 

蘇芳君が珈琲党と知ったら気を悪くするかなと邪推する。花菱君のことは合唱部のネリー経由で色々聞こえてくるのだけど、もう一人のアミティエである匂坂マユリ君は、合唱部見学の後は会ってないし、向こうも僕を避けているのか、素性が正直良く分からない。

 

 

匂坂君は美術部に入ったとのことだが、どうも彼処は苦手で関わりたくなかったりする。ニカイアの会の会長も人間だ。いつも分け隔てなくとはいかない。閑話休題。

 

 

「蘇芳君、たまには珈琲も佳いものだろう? インスタントで悪いけど」

 

 こくんと頷き微笑む彼女。それにしても美人だ。何をしても絵になる。彼女に見つめられると普段のプレイボーイは何処へやらと照れてしまう僕。そこで前から気になっていたことを問う。

 

 

「蘇芳君は、この学院に来て良かったかい? 前にアミティエ制度が有ったからと言ってたよね。二人とはうまくやれてる? 」

 

 

彼女は二人の事を話し出す。花菱君と匂坂君、二人に対する話のトーンに微妙な差異を感じる。ネリーから聞いたこの三人は好意のベクトルが絡み有っている様だ。

 

「今はまだ平気だと思うけど、花菱さんが蘇芳さんを意識し始めてて、蘇芳さんは匂坂さんを好いてるみたい。だからこの先色々ありそう・・・・・・」

 

僕もそういうような印象を持った。今年から三人のアミティエ制度になったので、こうなるのも仕方ないかと思う。下手な三角関係よりは良いのかもしれないが、それでも・・・・・・。

 

 

「蘇芳君は、読書家だよね。吉屋信子とか読んだりする?」

 

 カマをかけ気味に話題をふってみた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 即答しない彼女を見、僕の目に視線を合わせてきたことで、こちらの意を理解したと判断した。

 

「君は二人のどっちが好きなのかい? 」

 

 ストレートに聞いてみる。そうしないと呑まれてしまいそうな空気感だ。

 

「比べることなんて出来ません・・・・・・。二人は、二人は、私の大事な友人です」

 

 小さいながらもハッキリとした口調で答えた。でもそれは本心ではないだろう。カップを持つ手の震えを見逃す僕ではない。でも今日はここまでにしておく。

 

 

「だとすると、僕も可能性があるということだね。蘇芳君」

 

軽口たたいて、重くなった空気を払底する。何時の間にか、外は逢魔が時を終えようとしている。

 

 

 

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