FLOWERS Another Episode 会長の思惑   作:抱き枕50

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謀編

「ねえねえ、蘇芳ちゃん。最近八代先輩って変じゃない? 料理部に来てもなんか上の空だし,蘇芳ちゃんがコーチしても失敗ばかりだし」

 

朝教室に入って席に着いたら苺さんからそう切り出された。林檎さんも続けて口を開く。

 

「この間のギョーザとか酷かったよ。もうさテロにあったのかと思った」

と容赦がない。

 

気になるとことがあったのか立花さんも、八代先輩、合唱部でスランプなのよと、私の側に来た。確かに最近の先輩は変だ。いや元から変わり者ではあるけど。

 

 

 そう、オリエンテーリングが終わり、私たちアミティエがうまく行き始めたのと裏腹、八代先輩がしっくりいかないのだ。料理部で調理がうまくいかないイライラが、皆に伝わりコーチ役の私がいけない空気になり、そうじゃないと八代先輩が取り巻きに叱責し、またふりだしに・・・・・・。

 

それ以外にも理由がありそうなのだが、そこまではわからない。立花さんは小御門先輩も良く分からないらしいと話す。幼なじみの小御門先輩すらわからないのでは、お手上げである。

 

 

暇ゆえその事を図書室で悩んでいたら、書痴仲間の八重垣さんが、現れ猫の笑みで私に近付く。

 

「何湿っぽい顔してるんだよ。梅雨にはまだ早いぞ、白羽。またぞろ背負いこんだのか? 憂い顔は程々にしておけ」

 

そう声をかけてきた。別に秘密にしておく事でもないので、八重垣さんに話をしてみた。彼女は直接八代先輩を知らない。

 

だからあくまで一般論としての話としてと前置きして切り出してきた。

 

「思うに恋煩いじゃないのか? 。だって料理が下手なのは前からなんだろ? お前の話じゃ他に弱点なさそうだし。幼なじみですらわからないのでは、実家の事とも違う気がするしな・・・・・・」

 

「ご家族の話はあまりしない人だけど・・・・・・小御門先輩の話だと弟君がかわいすぎて・・・・・・くらいしか聞いた事が無いわね」

 

「弟ねえ・・・・・・。でも、この学校に教職員に男は居ないしなあ・・・・・・。私達は出入りの業者との接触は禁忌だし、恋愛の事だと・・・・・・先輩ってのはこっちの人なのかい?」

 

目配せをして八重垣さんが小指を立てて私に囁いた。

 

「それは・・・・・・。無いと思うんだけど・・・・・・」

 

 

八代先輩にはいつも側に小御門先輩が居るし、他に特別親しげにしている人は居ない。人気者だから周りに人は絶えないけど。その小御門先輩との関係だってどうみても親友でしかない。二人を知る私はそう思う。

 

 

黙々と手だけ動かし貸出の処理を。頭の中は八重垣さんの言った事の反芻にフル回転。

 

 

「終わったか白羽? 」

 

貸出処理を終えて本を手にした八重垣さんは、私の顔をマジマジと見据え口を開く。

 

「お前はいらんことで悩んだり面倒事に巻き込まれる、その性格を何とかした方が良いぞ。その・・・・・・いけてる美貌が台無しだ。憂い顔も良いけどお前には笑っていて欲しいから」

 

 

「八重垣さん!? 」

 

「バーカ。本気にするな」

 

八重垣さんは顔を真っ赤に染め、借りた本を膝に乗せ車椅子を進ませて帰って行った。

 

 

 

頭を空っぽにしたい。ひたすら走る。身体を動かす。汗をかく。合羽を着込みボクサーのようにロードワークをする。

 

しかしダメだ。解決しない。まさか自分があの子の事でここまで悩むとは一体どうしたのだろう。確かに蘇芳君はほくのお気に入りだ。切っ掛けは入学前にニカイアの会で、願書の控えを閲覧して気に留めたこと。

 

その時は、この子を次期会長候補位に・・・・・・しか思ってなかった。しかし実際に夜道での唐突な出会い、部屋にあぶれて自室に連れて来た白羽蘇芳を改めて見て、僕はもう一目惚れだった。凡百の手垢がついたありきたりの言葉だけど、運命を感じた。出会えた事を神に感謝した。

 

彼女を手の届く所に置きたくて、同じ部活に勧誘したのは確かだ。最初はそれだけで満足だった。人見知りの彼女は自分から動いて相手を作ってしまい事は無いだろうし、図書室の妖精といわれるあの容姿では手を出そうにも気遅れしない子は居ないだろう。このお嬢様学院に光源氏のようなステレオタイプの性に奔放な子は居ない。しかし狙っている娘はやはり居る。それもすぐ近くに・・・・・・。

 

 

出し抜くには二手を打てという。そうすれば追いつかれないからと。今のままでは待ちの立ち位置では、心が干からびてしまいそうな僕。やはり動くか。いい子ちゃんで居る事を放棄すると、どんどん知恵が回って来る。まずは搦手から行くとしよう。

 

 

「匂坂君、おはよう」

 

寮で声をかけると匂坂君が引きつっている。今までない経験に思いっきり戸惑っているのが良く分かる表情だ。

 

「そんな顔しないでくれよ。この間あんなに親密な時を過ごしたじゃないか。そこまで歩きながら話そう」

 

「はあ。いいですけど・・・・・・」

 

 

僕とのやりとりに耳をそばだてていたのか、周りの子がえっとばかりに視線を向けてきた。

 

「君が一人なんて珍しいね。アミティエの二人は一緒じゃないのかい? 」

 

「はぁ。二人は・・・・・・」

 

聞けば蘇芳君は図書室に寄るとかで先に行き、花菱君はこの後来るらしい。

 

「匂坂君、今年からアミティエは三人になったんだけど、うまく行きそうかい? 問題があるなら僕に相談してくれ。これでも人格者なんだから」

 

沙沙貴君からの情報では件の勾坂君が、先日の身体測定の最中に花菱君のことをそれはそれは熱い視線で見ていたとのこと。その事を林檎君が軽口で指摘したら、なんか声を荒らげて否定したとの事だ。

 

でもあれだけ露骨に見てれば誰だってわかるよと苺君。そして林檎君曰く視姦といっていい状況とのこと。その流れは僕にとって好都合。ここは大いに活用させて貰わねば。

 

「いえ。特に問題は有りません。とてもうまく行ってます」

 

何かを隠している表情だ。表情には出さないけど内心の僕は・・・・・・。身体測定自体は、蘇芳君の大人な下着と、クラス一のナイスバディに皆が衆目したとのこと。その蘇芳君に脚を褒められた苺君はそのことを実にうれしそうに語るのだった。

 

 

「なあ匂坂君、サッカーのチームに入る件、どうだい? 決めてくれてくれた? 君の体力、持久力、ダッシュ力、どうしても欲しいんだけどなぁ・・・・・・僕はこういうのには執着する性分でね」

 

ウインクを決めて問うと・・・・・・匂坂君は美術部に入ってるからと固辞してきた。それは想定の範疇。問答のシミュレーションは得意中の得意。

 

「サッカーのチームは学院非公認でね。立場的にはバッティングはしないよ。部活ほどは拘束しないしさ。ユニホームは今作ってるけど可愛い出来で、しかもシャープな感じの逸品だ。手にしたら袖を通してみたくなる事請け合いだよ、君もね絶対そうなる」

 

そうこうしているうちに、階段まで来てしまった。ここで一旦お別れ。

 

「色好い返事を期待してるよ。それでは」

 

投げキスして別れた。階段を上り踊り場で下に視線を移すと、匂坂君がクラスメートに捕まってあれこれ聞かれている様だ。思わずニヤリと口元が緩む。

 

今は匂坂君の警戒心を解く段階だ。過剰にアピールしておくのが吉。そんなことを考えていた僕の心の隙をつくように、ぐぃっと、二の腕を掴まれたのだ。

 

「誰だ? 」

 

反動で振り向くとネリーが笑顔で腕を引く。笑顔と言ったけど目は笑ってはいない。

 

「譲葉、何を悪巧みしてるのかしら。最初からずっと見てたわ。匂坂さんに何を話してたの? 」

 

しまった。ネリーに嘘をついてもまずばれる。多少は真実を折り込まないと・・・・・・。なにしろ子供の頃からずっと一緒なのだからね。

 

「御機嫌ようネリー。怒ってばかりでは眉間にしわが出来るよ。綺麗な顔が可哀相だ」

 

「誰がそうさせるのかしら? それで何のお話を? 」

 

 

「いやなに、匂坂君をサッカーチームにスカウトしようとしてただけさ。他意は無いよ」

 

「経験者なの彼女? 」

 

「違うけど、運動部上がりのスポーツ得意ちゃんだからさ」

 

 

ネリーはまだ疑っているようだ。ネリーは恋人ではないけど少々嫉妬深い。機嫌を直してもらわないと色々面倒なんで軽口を叩く。

 

「嫌だなぁ、僕には君が居れば他に誰もいらないよ、お姫様」

 

軽くハグしながら何時ものセリフを。

 

「ふざけないで、譲葉。何時もそれで誤魔化すんだから」

 

さっきとは大分声のトーンがやさしくなった。やれやれ。身体を離すと、クラスメートが挨拶に寄ってきた。

 

「おはよう。痴話喧嘩見せちゃってごめん」

 

「お代はいらないからね。でもどうしてもなら募金箱にね」

 

「寝不足なのかい、荒れてるよ唇。リップをしてあげる」

 

そんな感じに会話してたら、予鈴だ。さてさて、切り替え、切り替え。授業、授業、自分に言い聞かせて教科書を出す。

 

 

放課後、今日は合唱部に参加。今日は良く声が出る。久方ぶりにネリーにも褒められた。高揚してる自分に照れる。

 

「今日はここまで。お疲れさまでした」

 

ネリーが締めの宣言を言った後。お疲れさまの復唱が聖堂を埋める。

 

その声が消え、ふと冷静になると花菱君がネリーに話をしているのが目に入る。何か僕をチラ見しながらの話のようなので首を突っこみに行く。

 

「何の話をしているのかい、美人のお嬢さん方? 」

 

二人の肩を抱いて声をかける。

 

「あのね譲葉、今度東屋でお誕生日会をするから、私たち二人に出てくれないかと言う相談なの」

 

 

なんだそんな事だったのかと、拍子抜けだった。日時を問うと、生憎ニカイアの会と学院との折衝の日。まだまだ先の話では有るけど、聖母祭のことで予算やら色々詰めないといけない事があり、どうしてもその日は無理となった。

 

落ち込んでしまった花菱君に、料理部からなにか送るよと約束し、後で沙沙貴君か蘇芳君にリクエスト出しておいてとフォローした。

 

 

恐縮する彼女に、その時は師匠の蘇芳君を寄越す様に・・・・・・と、こちらからのバーターだ。それは出来ばえの保証付きを意味すると理解した花菱君が笑顔で説得を承諾した。僕も内心にまにましてしまう。

 

 

二人っきりで蘇芳君と居られる機会が舞い込んできたのだからね。ん、沙沙貴君達が来る可能性もあるか、ちょっと一計を練るか仕方ない。毒を以て毒を制すじゃないけど、沙沙貴君達とと匂坂君が身体測定の場で揉めたと聞いてる。その日、苺君に匂坂君のサッカーチーム勧誘を頼むか。共倒れではまずいけど、まあどうかなるだろ。それに美術部に出てるかもしれないし。

 

 

「ねえ、譲葉。この後予定あるかしら? 。視聴覚室の機械に不具合があるんだって、あなたそういうの詳しいでしょ。見て欲しいんだって」

 

「いいけど、それって学院側に言う事じゃないかい? 」

 

「馬鹿ねえ。こっちに言ってきたってことは、学院所蔵でなく、持ち込みモノが引っかかったんでしょ。多分」

 

「ああ、そういうことか。しょうがないな。気持ちはわかるけどね。所蔵のはイマイチ堅いしなぁ、内容」

 

やれやれ、女神の頼みでは仕方ないかとネリーに連れられて聖堂を後にした。

 





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