FLOWERS Another Episode 会長の思惑 作:抱き枕50
ここアングレカム学院は、安息日の日曜日でも寝坊すると朝食を捕り逃がしてしまう。従って何時も同じ様に起床して同室のアミティエと食堂に向かう。食事を先にすませて食堂から帰りのネリーとすれ違う。意味深な笑みをもらいながら・・・・・・。
昨日の試合で筋肉痛がきついが仕方ない。練習はしていたものの、学院の体育はバレエだけ。サッカーとは使う筋肉が違う様で若者にあるまじき態だ。見に来た者、後から話を聞いた者、会う人から次々と勝利の祝辞を受ける。朝の挨拶と共に返礼し食事を取る。相手のメンバーには給食担当の者も居て、僕を待っていたようにオーダーの時に顔を合わせた。
「昨日は良い試合だったね。初試合が私達で光栄だよ。会長さん。初勝利記念に明後日のお昼にスイーツ出してあげるから期待してて」
意外な 発言に思わず聞き返してしまった。問いかけに頷き、もちろん生徒さんに漏れなく全員だよ、の言葉に食堂が沸き立った。改めて頭を下げ謝意を伝える。
「申し訳ありません。お気を使わせてしまいまして。この御恩いつか返しますので、今回はありがたく頂戴します」
「いいのよ。この学校はこういう勝負事が無いからね。体育はバレエだけで体育祭とかも無いし」
「サッカーもそうだけど、クリーニングのオバちゃんの娘さんの話も耳にしたのよ。クリーニング作業所のオバちゃんからこっちに電話があったんだ、今朝早くにね。向こうは夜勤の休憩だったらしいんだけど、会長に宜しく言っておいて下さいって。なんか嬉しそうに涙声で話すものだから・・・・・・」
刹那、昨日久しぶりに会った彼女のことを思い出した。彼女はネリーの方がお気に入りなんだけど、僕からも手紙を出しておこう。ニカイアの会からも礼状をオバちゃんに出しておくか。食事を受け取り振り向くと皆がこっちを向いて頭を下げた。
「僕じゃなくて、スタッフさんに! 今居ない子にも伝えておいて」
ウインクしながら注文する。沙沙貴君達が連れ添って食堂に来たので、匂坂君の様子を聞いた。もうすぐ、車椅子で来ると言う。容態を問うと、急にニヤニヤしだして二人で袖を引っ張りだした。どちらが言うか譲り合っているように思える。
「で、どうなのさ? 」
入り口をチラ見し苺君が、僕に屈む様に手を動かし、耳元で話し始めた。
「怪我は、たいしたことないの。二、三日で歩けると言うか治るみたい。そんなことよりも・・・・・・」
「立花ちゃんが看病してるんだけど、二人いい仲になっちゃったみたいでさ、もう。『そう、バカップルになってしまったのですよ』そう。まさあの二人がああなっちゃうとは思わなかった。立花ちゃんは蘇芳ちゃん狙ってたと思ってたから」
苺君の話に、林檎君が突っ込む。まさに双子のコンビネーションって奴だ。やはり昨日チラッと聞いた18禁の会話はやはりマジだったのかと自問する。林檎君が
「来ましたよ。来ました。先輩見てやって下さいよあの様子を」
確かに、先入観込みを差っ引いても、バカップルの態だ。匂坂君は半身捻って押し手の花菱君の手に手を重ね、見つめ合いながら車椅子を繰る。匂坂君を奥のテーブルの端に用意された車椅子の為の席に着かせた後、オーダーする花菱君。それをずっと熱い目で追う匂坂君だ。席に来たら来たで、いきなりあーんをかましている。これはさすがに風紀的にアレなんで声を掛けざるを得ない。
「お早うお二人さん。随分仲良くなったんだな。怪我の功名かい? まあ、なんだ。そんなに熱いと独り者には目の毒だ。パブリックな場所では自重してくれたまえ」
ハッと気がついたのか、二人して俯いて真っ赤に萎縮してる。
あんまり野暮は言いたくないので食事に戻る。食べ終わりふと見回すと、入り口から様子を伺っている蘇芳君が居る。きょろきょろ見回した後暫くして八重垣君と思われる子をを車椅子で連れてきた。
普段の八重垣君は、バスキア教諭が食事を部屋に運んでいるそうなので、ここに来るのは非常にレアな光景と言うことになるのであろう。蘇芳君たちに食堂の中の視線が集まる。普段ですら蘇芳君は美貌で衆目を集めるのに、今日は見慣れぬ車椅子の少女を連れているのだ。
奥側は匂坂君たちが使っているので入り口側の車椅子席に止める。良い機会なので一緒に来たアミティエを先に帰ってもらい、僕一人、八重垣君の処に足を運び、二人に挨拶する。
「蘇芳君、お早う。昨日はお疲れさま。なかなかセンス有るんで驚いたよ。また頼むよ。君は、蘇芳君のお友達の八重垣君?でいいのかな? 初めまして僕はニカイアの会会長の八代譲葉だ。宜しく」
彼女の前にしゃがみこんで握手をする。
「君は蘇芳君と昵懇の仲みたいだね。羨ましい。僕もそうなりたいのだけど、蘇芳君は冷たいんだよ」
「お初です。会長。八重垣です。白羽とは書痴仲間なだけで、友達とかではないです」
「そうなのかい。蘇芳君はよく君のことを親密に話してくれるから、友達以上かと邪推していたのだけど」
「し・ら・は・ね・・・・・・」
「八重垣君とここで会うのは初めてだよね。今までは部屋で食事をしていたのかい? 」
「普段はバスキア教諭に介助をお願いしていまして、その時に配膳していただいてます。それが、突然・・・・・・白羽が介助に来ることになり、この時間初めてここに連れ出されました。やれやれです。部屋の方が落ち着くのですけど」
むくれる八重垣君が蘇芳君を目で訴える。蘇芳君はそれを母親の様なオーラでいなす。
「それにしても会長。白羽から話は聞いていましたけど、こんな美形の美人とは思いませんでしたよ。こんな美人に出会えただけでも連れ出した白羽に感謝しないといけないかな? 副会長も美人と伺いました。美人つながりで、白羽もニカイアの会にどうです? 。絵になりますよ? 」
「世辞はともかく、その話いいね、推薦状の書式を後で連絡するよ。そうそう君達は人前でああいう破廉恥な行為は控えてくれ。教員にも色々居るから。人前でなければ好きにしなさい。僕は理解が有る方なんだ」
そう言い部屋の奥に視線を誘導する。蘇芳君は赤面し、八重垣君も呆気にとられている様だ。ちょっと前に注意したのにもう元通りになってる。写真でも撮って晒して更生させるかと思うも可哀想に思い頭から消す。んっ、写真。写真? 写真? ???
「そうだ、写真だ。蘇芳君、後で試合前の写真手渡すから僕の処に来て、いや僕が届けよう。匂坂君や苺君には取りに来させるか。試合中の写真は向こうの方から来ないとダメだから、暫くかかるよ」
それじゃ、貴重な食事時間を盗ってしまって申し訳ない。明後日のお昼の食事期待してくれお二人さん。ではまた」
理解できない二人は怪訝そうに手を振る。そんな二人を余所に忘れてた写真のプリントをしないといけない。学校の機械を借りるのだけど、事前に申請出してなかったので今日は不可だ。斯くなる上は天文部の備品だ。
あそこは今では使う人も居ない暗室、銀塩の現像引き延ばし一式が有る上に、学院に内緒で手に入れたハイスペックノートPCに、デジカメ用プリンターも有り写真に関することは銀塩もデジタルも巷の写真部もかくやと思うほど、何でもこなせるのだ。
何よりも僕の葉子が部員なんで先生を迂回して事に当たれるのが肝。早速、先に帰ったはずの葉子を捜す。
部屋には居なかった。テーブルにメモがあるのに気づく。"入るんでしょ? 鍵。部室の鍵は双子の子に渡したわ。 あの子達も大事にしてあげてね、譲葉。ちょっと寂しそうよあの子達。
終わったら珈琲くらいは淹れてあげなさい。料理駄目なあなたでもあれは得意でしょう 最後、鍵は副部長に渡しといて" サムアップのイラスト付きであるメモ見て暫し惚けてしまった。
そうか沙沙貴君をほったらかし過ぎたか。大反省だな。そういえば僕に聞きたいことがあるって言ってたっけ。でもまずは写真だ。
授業が終わるのを待ちわび、メモリーカード持って沙沙貴君達の部屋に行く。ノックをしドアを開けると二人が居た。
来るのか気にしていただろう不安そうな顔が笑顔に変わって行った。姫様をエスコートするように二人の手を取り、天文部の部室に出向く。鍵を開け、勝手知ったる他人の部室で作業開始。
プリンターにメモリーカードを入れて作業開始。人にあげたりする枚数を鑑み、40枚ほど印刷した。もちろん沙沙貴君にも。ロール状の紙をしまってさあ後片付けだ。二人に待っててもらい一緒に鍵を返しにいく。馴染みの無い三年生の寮室を訪ねた。
下級生が来るのは珍しいのだろう。しかも双子。久々の来客らしく歓待を受ける。部屋に少し違和感がある。ここは一人分しか荷物が無い。アミティエが辞めてしまっているのだ。沙沙貴君達も気づいた様だった。
お暇する時、彼女からも気を掛けてあげてと言われた。悩んでるみたいだからと。沙沙貴君達を珈琲に誘うも固辞されてしまった。先輩やアミティエの懇願を反故にしてしまうのは心苦しいが仕方ない。蘇芳君にでも聞いてみようか。
蘇芳君曰く、沙沙貴君さん達は、学院に来て初めて出来たお友達なの。私にだけ話してくれることも多いの。ちょっといたずらが多いけど・・・・・・。だから部活も料理部にした云々。これから写真を届けに行くから聞いてみるか。
「蘇芳君居るかい? 」
八重垣君の部屋に居た彼女に写真を渡した。八重垣君のが居ないので聞くと、バスキア教諭と入浴だと言う。君も一緒に入れば良いのにと振ると、真っ赤になってわたわたしている。裸を見る。見られるに物凄く抵抗があるというのは沙沙貴君から聞いていた。
話していた通りのリアクションの蘇芳君に苦笑する。初奴だけどもったいないなと思う。一年生で最高のスタイルの美人が何を出し惜しみしているのだろうと。まあいい。それはそのうち僕が独占・・・・・・だ。
「蘇芳君に聞くけど、沙沙貴君達何か変じゃないかい? 何か悩んでいる気がするんだけど。思い当たる節は? 」
想像だにしなかった様で、ぽかーんと固まってしまった。がっ、すぐに思慮モードにスイッチした様だ。頭がフル回転して違和感を拾いだしているのだろう。しかしその答えは・・・・・・。
「いえ判りません。私には何時ものお二人にしか思えませんが・・・・・・。どうしたんです? 何かあったのですか? 」
「いや、ただの勘でしかないんだ。でも僕のアミティエの葉子が今朝会ってね。何かを感じ取ったらしいんだ。その後詳しい話を彼女から聞けなくてね。さっき会った上級生もそう言ったんだ、何か変よってさ」
「おっ、お姫様のご帰還だ。バスキア教諭お久しぶりです。八重垣君、邪魔してるよ」
「あら、八代会長ごきげんよう。どうしたのですかこんな時間でこんな場所で」
「いえ、試合の写真が出来たものですから、蘇芳君に持ってきたんですよ」
写真を見ながらバスキア教諭が話を続ける。
「まあ。良く撮れてる。初陣で勝ったのでしょう凄いわ。ここは体育はバレエだけですから、短い練習時間では大変だったのでしょう。特に白羽さんは全くの未経験者だったわよね? 」
「ええ、八代先輩をはじめ、皆に助けてもらいました。特に苺さんやマユリさんは私に試合中ずっと声かけてくれてて。本当に嬉しかったです」
「ただ、マユリさんの怪我が・・・・・・。凄く痛そうで見てるの辛かった」
知らない話題が詰まらないのか、見に行かなくてバツが悪いのか、八重垣君が所在無い感じでこちらをチラチラ見てくる。渡すものの済ませたし、お暇しよう。
「それじゃ、八重垣君帰るから。我が師蘇芳君を宜しく。バスキア教諭、それでは失礼します。ごきげんよう。そうそう、蘇芳君、さっきの話忘れてね! そうそう、勝負下着で試合をすると勿体ないからね。次の試合はサラシと締め込みでするといいよ」
「何を言うんですか・・・・・・」
皆が蘇芳君を見る。慌てて取り繕う蘇芳君。想定内のリアクションだ。その後、彼らに想定外の事態が降りかかるとは、僕も思いもしなかった。