035
「やぁ、小泉花陽一年生。昨日振りだ」
昨日の会談から今日、私は放課後小泉花陽一年生と中庭で出会った。出会った、というより、探してた、が正しいと思うが。まぁ、昨日のことと、もう一つ頼み事があったのだ。相手からしてみれば、こんな車椅子に乗った女が、と思うかもしれないが…まぁ、一目は会ってるし、大丈夫だろう、と思っちゃったり。
彼女は優しそうだし、私を無下にはしたりしないと思う。思う、のだが。
「夢さん…じゃなかった……先輩…どうか、しましたか?」
うーん、いい響きだ、先輩。彼女のような娘から呼ばれることでさらに良さが増している、気がする。
でも。呼び方なんて今更気にしないというのに、律儀な娘だ。
「昨日のことと、頼み事、用は2つ。あと普通にさん付けで構わない」
「え、えぇと…なら…夢…さん?」
うむ、これもよいな。しかし、先輩かさん付けかと聞かれるとさん付けの方が良い、うん、きっとそう。
「うん、それでいい。それで早速だが…まだ結論は早いとは思うのだけれども、一応、頼み事ついでに聞きたい。決まった?」
「……いえ、まだ…決まってないです…」
「うん、まー、それは予想通り。仕方ない、ゆっくりと君のペースで決めてくれ」
さてと、ついでは終わったので、改めて本題…もとい頼み事を…なに、簡単なことである、誰でも出来る簡単なことだ。たった一言許可を頂くだけで解決する問題だ。
「それで頼み事のほうなのだけど…なに、君がYesと言ってくれれば一瞬で終わることなんだけど…いいか?」
「えと…はい、私が出来ることでしたら…」
そいつはよかった
「一回だけでいい、抱き締めてもいいか?」
小泉花陽一年生の動きが止まった。
ふむ、やはり頼み方が不味かったか、某雪ダルマの真似なんてするものではないな。あ、雪だけに凍ってる(固まって)るってか?やけに高度なギャグだな。
あ、内容?それは勿論、あのもちもちとした小泉花陽一年生を抱きしめたいのだ。もしかしたらこれで関わりが無くなってしまうのではないか、と危機感を覚えただけなので、その前に一度だけその体をー、と思っただけである。他意はない、私にそんな気持ちは断じてない。それに、気持ちよさそうな物を抱きたいというのは皆思うことだと思うのだが。
「さぁ、軽くYesと言ってくれ。一度抱き締めるだけでいいんだ」
「…」
「やはり何か対価がいるだろうか、困ったな、私はあまりお金を持ってないのだが」
「…はっ!?い、いや…!そ、そうじゃなくて…!え、えぇと…冗談、ですよね…?夢さん…?」
至って真面目なのだけど、不真面目に見えてしまったのだろうか。いやいや、冗談ではないぞ?君を抱き締めたいだけなんだ、まるで氷を溶かす炎の如く…話の流れからすれば氷を溶かすのはキスなんだがね
「え、えぇぇ!?ど、どうしよ…だ、ダレカタスケテー!」
ちょっと待ってて……ん?何か変な電波を受信してしまったようだ。うーん、物事はそう簡単にはいかないということか、難儀である。その点あの雪だるまはやり手だったということか。流石だな。
しかし…こうもオロオロされると何か問題があるとしか思えなくなってくる…いやしかし、理由なんて思い付かな…あ、もしかしてこれ、不審者みたいか?
「もしかして変態不審者みたいか?私」
「へっ!?あ、あの、えーと…あの、そのぉ…」
…成る程、目線を泳がせてるあたり、そう見えてるということか。
…変態で不審者やだな、特に不審者は
「すまなかった、どうやら変な風に混乱してたようだ」
「い、いえっ!謝ることなんて…!」
「随分馴れ馴れしいことをした、許してくれ。お詫びに私の体を差し出そう…」
「えええぇぇぇ!?さ、サシダシチャウノォ!?」
「冗談だ」
抱きしめたかったのは事実だけど、変態と思われるのは嫌だ。あー、抱き心地よさそうだったなー残念。
「さてと、本当の本当に本題は片付いたので私はそろそろトンズラこくとする」
「えぇぇ……はい…また、です…」
何か何とも言えない変な顔してたけど何かあったのだろうか、まぁいいや。
後輩にあたる彼女がメンバーに入ってくれると嬉しいー、なんてことをそれとなく呟いてその場から離れようと……
「…」
「…」
「…真姫ちゃん」
「……何やってるんですか、先輩。あと、急にちゃん付けは止めて下さい」
「お話してただけだよ、小泉花陽一年生と」
西木野真姫一年生の目線が少し鋭い。私が本当に何かしたと思っているのか、信用ないな私。マジで何もしてないよ、いや、しようとしたけど無理だったんだ。だから違うぞ、断じて。
「それに、私はそろそろ帰るところだったしな」
「…そうですか」
「そうそう、お疲れ様だー西木野真姫一年生」
「……お疲れ様です」
なんでか居ても立っても居られず、その場から逃げるように車椅子を漕ぐ女がいる。というか、私だ。
早いとこ消えてしまおう…いや、別に他意はないのだがな?
036
……タスケテー、ニャー、ワカンナイ。
さっきから学校から聞こえてくる奇声…もしかしてこれが七不思議か?まさかな…
「今日も屋上でしたよねー…っと」
屋上前の階段の近くで私は動きを止める。
個人的理由で遅れてしまったけれど、電話で三人の誰かを呼ぶに止まったのだ。練習中だと申し訳ないけれど、私は屋上まで行けないので誰かの手助けを必要するのだ。理由はとても簡単で、脚が動かない。なぁんて火を見るより明らかなんだろうが。というわけで携帯を取りだし……
「ん?」
私から見て右側の廊下、少し遠いが、あそこに見えるのは副会長さんではないだろうか。
ふむ、緑のリボンだから三年生だし、間違いないと思うのだが…あの豊満な胸もそうそうおるまいて、いてたまるか。
…下を向いて溜め息一つ。
「貧乳はステータス…っと」
さてはて、気を取り直して改めて。電話を掛けようか…
「こんにちわ」
…としようとして、噂の渦中の豊満な胸の先輩が話し掛けてきたので中断する。
…歩く度に揺れてる。何が、とは言わない
「…こんにちわー、副会長先輩。何かようですかねー」
「つれへんなぁ、なんかあらな話掛けちゃ駄目なん?」
少し困ったように副会長は笑う。
相変わらずイントネーションに首をかしげる関西弁だけど、不思議と様になっているのはなんでだろうか、何か包容力というのだろうか、母性のようなモノを彼女から感じるのが関係してるのだろうか?
決して胸とか関係なく。
「まぁ、いいですけど。何か話題でもありますか?大抵の話題は合わせれると思いますけど」
「なんや可愛げのない後輩君やなぁ…君の名前も聞いてないんやで?」
「それなら私もです。この際名前の交換でもしますか?」
すると先輩、懐から何かを取りだし…名刺かと思ったが(この歳で名刺も中々に愉快だが)違うようでどうやらタロットカードのようだった。
占いの道具であるソレを何故…はっ!?まさか…某RPGの占い師みたいに武器に…!?
と、思ったけど、普通に引いた。
「…いや、止めとくわ。君とはまたそのうち会うことになるって、カードも言ってるしな」
カードが…?もしや占ったのか、この瞬間、今。
えーっと、もしや先輩、わりと不思議ちゃんなのでしょうか。いや前に巫女服を来ていたことからもしかしてガチなのかもしれないが……まぁそれだとしても、今は一言。
「ア、ハイ」
そうことしか言えなかった私を許してほしい。あ、幻聴も聞こえてきたよー…なんかまたタスケテー、とか聞こえてきた…疲れてるのかな、私。
「ふふっ、ほなな。また会いましょ」
あの日と同じように、彼女はほななと言って去っていった。
…しかし、なんというか、その
「変な人だよな…」
私が言えた口じゃないけれど、変な人だと思う。うん、変な人だ。
037
今回のオチというか、結論。
部員が三人増えた。小泉花陽一年生と、その友人の星空凛一年生と、そしてなんとなんと、西木野真姫一年生である。
場面をカットしまくってすまないが、私も副会長も会話してて気付かなかったんだ、本当だよ?てっきり、あのタスケテーとニャーは幻聴だと思ってたんだ。
私が電話掛けた時には全部終わってたんだ。
ってゆーか、感動のシーン見逃して少し私は悲しい……そこ、手抜きとか思…っても仕方ないな、これは。では私の頑張りって一体なんなんだろうか…
って、いじけてたら花陽一年生が、『一度だけなら…いいですよ…?』と控えめに言ってくれたので、存分に可愛がって癒されたることにする。
今回の報酬はこれでいいやー。