004
高坂穂乃果。
16歳O型獅子座、身長157cm。
スリーサイズは上から78、58、82。
好物はいちご、嫌いな物はピーマン。
八月三日産まれで、パン派。
そんな彼女を簡単に言い表すなら、馬鹿正直。
私達、幼馴染みグループの中でも突出して行動力に溢れた人物だ。そしてトラブルメイカーでもある、とは園田海未談である。
しかし、そうは言い合うものの、彼女らの関係は伊達に長い付き合いしていない。なんだかんだ言って、お互いがお互いのことを好きなのだろう。断じて百合的な意味ではないと、本人達の威厳のため、此処に記す。
閑話休題
行動力に溢れた彼女は、私達三人をよく連れ回し、巻き込み、騒いだものである。しかし、タイプもキャラも全然違う我々がそれでも誰も欠けずここまで来れたということは、やはり全員が全員、高坂穂乃果という人間を好いていることに違いはない。その屈託のない笑顔は、知らぬ間に周りも笑顔にさせていた、という逸話もある。
だからこそ、そうであるからこそ、今回もどんなぶっ飛んだ案を出すのかと少し心配していたのだが、今回のはぶっちぎりでぶっ飛んだものだった。ぶっ飛び過ぎて、心配もこうもない。一周回って笑いすらでた。本当に、私の幼馴染みはとんでもないことを言う。
『アイドルだよ!アイドル!私達四人で、スクールアイドルをするんだよ!』
本当に、高坂穂乃果という人間は、どこまで行っても高坂穂乃果という人間なのだろう。
005
高坂の話が始まって園田が教室から逃げ出すのを横目で見ながら、高坂の説明を聞く。
それにしてもやけに瞳をキラキラさせている。よっぽど、そのスクールアイドルとやらが気に入っているように見えた。
「でね!人気のスクールアイドルがいる学校は入学志願者も増えたんだって!」
「それを私達で…?」
「うん!」
やれやれ、と内心呆れる。
確かに方法が欲しいとは言ったが、まさかアイドルとは。園田が『ア』の字が聞こえた瞬間に逃げたのがわかった。あいつ、意外と臆病だからな。この中で一番腕っぷしは強いのに。
入学志願者が増える、というのも、先程高坂が自分自身で言っていた通り、人気が出た場合だ。その逆、つまり人気が出ない場合だ。入学志願者が増えないだけではない、下手すれば学校にさらに悪評判を塗るかもしれない。が、どうせ、このお馬鹿はそんなリスク考えていないだろう。
瞬きを一つ。
世界は理屈で出来ている、下手な行動はするべきではないのだ。
だが、それも、『高坂穂乃果』が言うなら話は変わる。何故なら、彼女のやってきたことは失敗こそあれど、私達を含め、後悔することはしたことがなかった。絶対、と言っていいほど彼女がやることは後悔はなかった。
だから、今回も、と私は思ってしまう。
「海未ちゃん!」
「無理です!アイドルなんて無理ですぅ!!」
「あぁ!?海未ちゃぁーん!」
残念ながら、逃げる園田には不評のようだが。難儀なことである。
006
「むぅ…いい考えだと思ったんだけどなー…」
南の奴はどこかへ行った。大方、園田の奴のところだろうが。
まぁあっちはあっちで任せることにして……ということで、私は高坂が一人、校舎の裏で練習するのを付き合っている。が、今は少し休憩である。素人は少し踊るだけでも辛いものだ。クルクル回って倒れたり、足が絡まって倒れたり。素人には幾分キツイ。
「夢ちゃんはどう思う?」
私へ意見を求めるか。まぁ、嘘言っても仕方ないので。精々、そのままの私の素直な意見を返させてもらう。
「ハイリスクハイリターン、だな」
成功した時のリターンは大きいが、失敗した時のリスクも大きい。しかも、今回は失敗の方が確率高いときたものだ、普通はそんな賭けしない、する筈がしない。
だけど
「でも、お前がやると言うならやればいいさ。お前は何も考えてないだろうが、考えは間違ってないと思う」
そのまま、本当にそのままの意見である。
「…ちょっと馬鹿にしてない?」
「してない」
「してたよー!」
もぉー!と怒る幼馴染みからは、本当に迷いというものを感じない。本気なんだろう、間違いなく。本気でない人間がこんなにも真っ直ぐ目を合わせて笑えるだろうか。否である。
しかし、だからこそ、それだから、私は一緒の歩けないことを残念に思う。
「まぁ、私は足をやられてるからな。残念だよ、お前と一緒に踊れないなんて」
詳しくは省く。ただ、一つだけ言うと、私は足が不自由で車椅子に座っているということだ。本当に、残念だ。可能ならば、私もあいつらの隣にいたかった。四人で歌って踊りたかった。
「うん……でも!夢ちゃんにだって出来ることはあるよ!ぜーったいに!」
根拠のない自信ほど空虚なものはないというが、彼女ならば根拠がなくても空虚ではないのではないかと思えてくる。
今は精々、その言葉を受け取らせてもらうとする。
「なら精々私にも出来ることを探すよ。お前は、踊れない私の分まで精々踊ってくれ」
「…うん!よぉーし!練習再開だー!」
ラジカセ…でいいのかな、ああいう物から曲が流れ始め、高坂はそれに合わせて踊る…まぁ、こけてばっかりだが。
「いったーい!!」
腰辺りを擦る高坂に、手が伸ばされる。どうやら、上手くいったようで、何よりである。
「一人で練習しても、仕方ありませんよ」
「海未ちゃん…!」
「穂乃果ちゃん」
「ことりちゃん…!うわぁぁ!二人ともありがとー!!」
高坂が二人に抱き付くのを見ながら、私はことりにグッドを送っておく。
返事はウィンクと、洒落た奴である。
それに対して私の返事は瞬き。なんとも色気のないことである。
007
「認めるわけにはいかないわ。部活申請には、最低でも5人必要よ」
「ですが!5人未満でも活動してる部はあります!」
「開部したときには5人だった。違う?」
園田が即論破される。生徒会長の勝ちである。伊達に生徒会長はやっていないようだ。
どうやら、部活申請には最低でも5人が必要なのである。言っておくがこのことは知らなかった、生徒手帳なんて見たこともない。
しかし、だとすれば、正直メンバーに入れていいかわからない私を百歩譲ってメンバーに入れたてしても、4人。一人足りない。この世には1つ足りなくさせる妖怪がいると聞くが、こんなところにも出没するとは思わなかった。
まぁ、人数が足りないなら仕方ない。早々に退出するようにと、隣の高坂に合図する。それに高坂はコクン、と頷いて。『失礼します』と言った。今回は物分かりがよかったな。と、高坂がドアノブに手を掛けたときである。
「こんな時期に部活申請、それもアイドルなんて。貴方達、何をしようとしているの?」
止めろ生徒会長、それを聞くと話が面倒になる。ほら見ろ、高坂の奴が振り向いてしまったではないか。
「この学校を、存続させるためです。スクールアイドルで学校の人気をあげるためです」
この世には、言わなきゃいいことと、言わなきゃいけないことの2つがあるが、この場合は間違いなく前者である。残りの学校生活を満喫したいから、とかでも理由はつけれた筈である。たとえ後々バレようとも、今はそれで言い訳できたのに。幼馴染みは、少し正直すぎる。
「だとすれば、もっと認めるわけにはいかないわ」
「どうして!?」
「貴方達がすることが…」
それから生徒会長が話した内容は私が前述したメリットの内容と似ていた為、割愛する。
ハイリスクハイリターンで、失敗したら悪評判になるかもと、そもそも成功の確率の方が低いとか。
「それに、残りの学校生活、何をして、何をするべきか、よく考えなさい」
確かに、真面目な人から見れば一生徒が学校の為と理由をつけて、半端な覚悟で頭突っ込んでるだけに見えるかもしれない。高坂穂乃果のことを知りもしないで何を言うかと思えばそんなとこである。まぁ、反論のしようもないので、精々、捨て台詞を一つ吐いて退場するとしよう。
「やろうとしてる姿勢が大事だと思いますけどね」
捨て台詞にもなりきれてない捨て台詞だったと、自分でも思う。
008
しかし、一体これからどうするのか。5人目の当てはない、曲もない、衣装もなければ振り付けもない。勿論、私を入れてもらっても困るし、この足では踊るのなんか到底無理である。困ったという話ではない、絶望的が正しい。
「これから一体…」
『どうすればいいの.…
私もそう思う、どうすればいいかわからない。ノープランで、ハイリスクで、何もかも0である。
でも、彼女なら、高坂穂乃果なら、こういうとき、必ず言うだろう。
「だって可能性感じたんだ…そうだ…ススメ…!」
間違いなく言う。彼女なら、可能性だとか、後悔したくないだとか、道があるだとか、恥ずかしげもなく、声一杯で言うだろう。
「後悔したくない目の前に、僕らの道はある…!」
だから、高坂穂乃果は高坂穂乃果で、どこまで行っても高坂穂乃果なのである。
Let`s Go!!
だからこそ、私達は高坂穂乃果に惹かれる。あの、太陽のような笑顔に。
「私、やっぱりアイドルやる!やるったらやる!!」
なんだかんだ言って、皆好きなのだ。高坂穂乃果のことが。あの、みんなを引っ張る笑顔と手が。勿論、私も。
……でもな、道端で急に歌い出すのは流石にやめたほうがいいと思う。