夢物語(上)   作:患者

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『勝った。』

009

 

 

 

春にしては日が照った日のことである。

先日、生徒会長に喧嘩を売ったわけだが、いやいや不名誉のないように言っておくが、別に学校を敵に回すようなことはしていない。断じてだ、精々、生徒会長に捨て台詞を吐いて逃げ出してきた程度である。捨て台詞と言っても、捨て台詞にもなりきれていないお粗末なものだったと思うが、どうも生徒会長には受けが悪かったようであった。私にとっては随分と頑張ったと思うのだが、いやはや、とても難儀なことである。

話を今日のことに戻そう。

朝のことである。高坂の奴が珍しく良い案があると言い出したので、期待半分。いや、悪寒六割で話を聞き始めたのである。

とはいえ、メンバーが足りないという事実に気付いたのだから、流石にそのことを話すのだろう、と1%でも思っていたのだった、思いたかったのだが。流石に高坂にアイデアを求めた私がアホだった。お馬鹿は高坂だから、アホは私である。

それは、また、何時ものように高坂穂乃果がお馬鹿なことを言い出したわけである。色々と言っていたような気はするが、一行に纏めて省略するとこうなる。

 

「ライブしようよ!講堂借りて!」

 

考えはわからないでもあった。確かに、講堂では近々新入生歓迎会がある。この、たださえ人の少ない音ノ木坂学院に入ってくれたもっと数少ない新入生を部活や生徒会が歓迎の会を設けるといったものだった筈だ。私も去年参加した覚えがある。

とはいえ、だからといって。その新入生歓迎会があるとはいえ、高坂の奴は目先のことしか考えていない。と、私は思うのだが、はたして、間違っているのは私なのか高坂のほうなのか。誰かわかるなら教えてほしいものである。

 

「おそらく、いや多分…いいえ、絶対的に夢のほうが正しいです」

「あはは…」

 

南はどっちつかずだが、園田から票を貰ったので1対0で私の勝ちである。はて、なんの勝負だったか。

まぁ、それはいい。勝ち負けなんて拘っても碌なことにはならない、と私の長年の経験が言っている。私、十代だけど。

話が逸れた。とまぁ、色々言いたいこともあるが、とりあえずは一文だけ。

今はまだとてもじゃないが、ライブなんてほざける時ではないので、精々目処がついてからにしろと。精々な私が助言を送らせてもらう。

 

「えー、やろうよーライブー!」

 

話を聞いてやがりますかねこのお馬鹿は。もしかして彼女の辞書には目処やら計画やらという言葉が欠陥しているのかもしれない。ナポレオンもびっくりだ。だとすれば、もっかい人生やり直せ、と言いたい。

失礼、随分とんでもないことを口走った気がする。日頃はこんなことは言ったりしないので、今回が特別だったと思って許してほしい。

しかし、高坂の発言に間違いはない。ただ、お馬鹿なだけなのだ。

 

「わかった、お馬鹿…じゃなかった高坂。お前の気持ちはわかった、だから別のやり方にしよう」

「別のやりかた?って夢ちゃん、今私のこと馬鹿に…」

「今生徒会長のところへ行ったところで門前払い……にはならなくとも、精々話を聞くだけ聞いてダメ、と言われるだろう」

「うん、そうだね。けど夢ちゃん、今お馬鹿って...」

「しかし、新入生歓迎会にライブをしたいのは私も同意見だ。人気をとるなら、多少リスキーでもデカイところに出たほうがいい」

 

お馬鹿?さてはてなんのことやら。巷には気にしたら負け、なんて言葉があるぐらいなのだから、多少のことは無視しろということなのだ、そうに違いない。

そう、気にしたら負け、気にしたら負けなのだ。言い訳にしか聞こえないのは耳が悪いか空耳だ。そうに違いない、そうであってほしい。

 

瞬きを二回。

 

「だから、アイドルのことは伏せて講堂の使用許可だけ取ってこい、理由はなんでもいい、発声練習がしたいだとか、楽器を演奏したいだとか、動画を撮りたいだとか、なんでもいい。だが、アイドルのことは伏せろ。それだけは、絶対だ」

「うん」

「あと、実際に生徒会室に入って許可をとるのは、園田だ」

「へっ?」

「どうして?」

「お前だとペラペラ話しかねないからだよこのお馬鹿」

「あー!やっぱりお馬鹿って言ったー!」

 

お馬鹿お馬鹿ー、と高坂に攻撃を受けている後方で、園田が抗議の声を上げている。

前方で高坂が『いじめられたー!』と南に泣きついている。

昔からこうである、大体私が提案するとこういう図になる。性格と正確の問題から、高坂を後ろにして園田を前にしがちになる。それが両者にとって不満らしく、よく私は挟まれて異議を申し上げられる。園田が一番真面目だからなんだけど、どうやら不満のほうが多い。難儀である。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!何故私なのですか!?ことりもいるのに!?」

「わかるだろ?」

「うっ…」

 

高坂が園田を引っ張り、南が高坂を見張り、園田が泣きながら私の言うことをきき、私は三人に車椅子ごと押される。

昔から変わらないスタイル。実際、私もこの並びは実に心地よい。いつまでも、この四人でいたいと思うほどに。

だけど、変わらないものは素晴らしい、とは聞いたが、この場合園田は、性格を少々改善すべきなのではないか、私は常々思うわけである。そんなことだから、私に臆病者なんて呼ばれるのである。

この場合は、本当に園田しか頼れないからしている訳である。私はどうやら生徒会長に嫌われているようなのだ。そうでなければ私が行くのだが。

 

「頼むよ園田」

「で…ですが…」

 

この臆病者め。

仕方ない、奥の手を使うことにする。恨むなよ園田、恨むなら自分の弱さを恨め。

私は、高坂に抱きつかれて満更でもない表情をしている南に目で合図を送る。南はそれに気付いて微笑みで返す。相変わらず返事が無駄に洒落ている。

 

「海未ちゃん」

「な、なんです…?ことり…?」

「……おねがい…?」

 

新パターンだ珍しい。上目使いと静かな声。まるで子が親におねだりするかのような『おねがい』だ。あの声でお願いされると園田の奴は弱い。

 

「うっ…ことりまで…」

「海未ちゃん…」

「海未…ちゃん…?」

「園田…」

「わ、わかりました!わかりましたよ!わかりましたから!その甘い声を止めて下さいぃぃ!」

 

勝った。

 

 

 

010

 

 

 

園田の奴は生徒会室へ、高坂と南はそれを遠目から見る係。なら、私はなにをしているのか。簡単である、分担作業だ。

仮にライブをするとして、必要なものは多々あるが、最低でも必要なものは、

名前

場所

衣装

歌詞

の5つ、最低5つ必要である。曲は現存のものを使用すればいいのでは?と、園田から質問を受けたが、それは止めたほうがいい。私達が求めるのはあくまで知名度と人気であって、アイドルとしてではない。勿論、アイドル活動は大切だが、学校を助けるために始めたアイドルである、前提を忘れてはならない。だから、最悪そうしなければならないなんて事態にならない限り、曲はオリジナルのものを用意したほうがいいだろう。

では、次に衣装と歌詞だが、これらはうまい具合に出来そうな奴が二人いるのでそいつらに任せる。場所は今取りに行ってるし、名前は後でいい。

となると残りは先程も言った、曲。

これが大変である、歌詞が出来ても曲が無ければただの詩だ。

だから私は、そうやって不自由な体を動かして、精々でいいから曲作りの出来る人はいないかと探しているのである。

 

「と言っても、現二年の中では顔は広いつもりだが…」

 

つもりである。だがしかし、残念なことにそんな特技を持った現二年は見たことない。

もしかしたら隠してる可能性はなきにしもあらずだが、そういう奴は問いただしても知らない、と答えるやつが多数なのである。南のアレとかな。

音楽の教師に頼むのも一つの案であるが、これも残念なことに私は音楽の教師もあまり面識がない。はたして言葉2つで返事してくれるとは限らない。下手すると鼻で笑われる。流石にそれはないだろうけど。

…だがしかし、園田をああやって行かせた手前、私も何かしないわけにはいかない。折角高坂直々にマネージャーに指名されたのだから、これぐらいはやっておきたい。

では、こういうことの基本はまず情報収集からである。始めるぞ、ワトソン君。

ところでだが、私ワトソンと呼んでいるが、翻訳によってはワトスンとなることもあるらしい(寧ろそっちが主流?)。本当に、どうでもいいことであるが。

 

と、瞬きを一つ。

 

 

 

011

 

 

 

おおよそ1時間。本当はもっと過ぎているかもしれないが、多分その程度だろう。

さて、わりと情報は集まった。私の顔の広さとあと色々のおかげで早めに終われた。私の顔様々である。

それでは、軽く情報を纏めるとする。

ひとつ、三年生にバレエをやっている人がいる

ふたつ、音楽室からピアノの演奏と綺麗な歌声が聞こえた

みっつ、一年生に歌の上手い子がいる

よっつ、今は学校来ていないが、三年生に音楽に精通した人がいる

いつつ、理事長は実は歌が上手

最後はまぁ、南にでも確認とったらわかりそうなので置いておく。

ひとつめは、あくまでバレエである。確かにバレエで音楽は使うが、あくまでバレエは踊りである。曲作りが出来るとは期待出来ない。

よっつめ、これは良物件だが期待はできない。聞いた話、その先輩が家庭の事情で不登校らしい、いつ来るかもわからない人を待つのは流石にリスキーが過ぎる。

そしてふたつめとみっつめが…

 

『prrrr』

 

携帯が鳴った。

滅多なことで鳴らない私と携帯へ鳴らす人物なんて、両手で数えなくても足りるので、どんな人物が電話なんぞを掛けてきたのかななんて、わりと予想がつく。

ゆっくりと携帯を持ち上げ、通話ボタンを押す。

 

「もしもし」

『あ!夢ちゃん。今どこにいるの?』

「音楽室前」

『音楽室?』

「色々理由があってな。それで?どうかしたか」

『あ、うん。練習場所探してて。どこか良いとこない?』

 

練習場所。それはまぁ、初歩的なものがないものである。だが、確かにこの学校で活動出来るところなんてたかが知れている。グラウンドと体育館は運動系の部活がほぼ占領しているし。空き教室という手もあるが、電話を掛けてきたということはもう試したのだろう。教師に鼻で笑われるところまでは予想できた。

ではではさてさて、では残りで練習が出来そうな広い場所といえば、私の知る限り一つ。

 

「屋上、かな」

『屋上?』

 

屋上。残念ながら私は基本エレベーターでの移動なので、階段を登る必要のある屋上なんて行く機会もないが、この学校の紹介で広そうな屋上があったことを記憶している。

 

「おそらく雨も凌げないし、日陰も少ない。だけど、今は精々そこぐらいしかないと思う」

『そっか…うん、わかった。行ってみる』

「あぁ、頑張れ」

『うん!頑張る!』

 

ピッ、と通話をきる。

おやおや、長々と携帯を弄っている内にお目当ての人物が到着なさったようである。これはベストタイミング。

 

「こんにちは、初めまして、西木野真姫一年生」

 

言いかけていたふたつめとみっつめの人物の正体はこの一年生だと私は推理する。とまぁ、そうは言っても知り合いから聞いた情報を元にさらに調べただけなのだが。

おそらく間違いはない筈だ。

 

「貴方は…」

「私の名前は千里川夢、二年生。気軽にセンとでも呼べばいいさ」

 

千里川という、珍しい苗字。私の家系以外いないんじゃないか?とたまに思う。

まぁ、それは今はどうでもいいのだが。

 

「折り入って、頼みたいことがある」

 

これからの映像は、先輩がみっともなく後輩に縋る映像だ。見たい人だけ見ればいいさ。映すとは言っていないが。




因みに読み方は、そのまま『せんりがわ ゆめ』と読みます
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