夢物語(上)   作:患者

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今回ちょっと長くなりました


『なんて、もう必要ないかもしれないけれど。』

019

 

 

曲が出来た、曲が出来たぁ、わーしょっいわーしょっい。なんて2日ほど高坂がはしゃいで煩かったのも、もうわりと前の話だ。もうすぐアレだ、初ライブだ。新入生歓迎会で我らがμ´sが歌って踊ってライブするのだ。西木野真姫一年生に曲を作ってもらい、南が衣装を作って、歌詞を園田が考え、振り付けをみんなで考えた。やっとここまで来たのだ、短くもあったが、長かくもあった。

もう、新入生歓迎会は明日である

 

「ことり!」

「うん!」

 

あいつらは、神社の前で朝練だ。

今思えば高坂は一度もこの朝練を休まなかった。あの寝ぼすけの高坂がである。それほど、ライブに気合いを入れているのだろう。

南も、なんだかんだ言って園田も。

全員がこの初ライブにかけている、かくいう私もこのライブは期待しているのだが。だが、最悪の可能性もなきにしもあらず、それを気にしていては始まらないとはわかっているが、心配したくなってしまう。

そして、それを、防ぐのは私の役目である。踊れない私が出来ること。

 

「そろそろ私は先に行くよ」

「あ、うん!また学校でねー!」

「お疲れ様です」

「またねー」

 

さて、早いうちに手は打っておく。どうしようもない結果だけは御免である。そんな未来、おそらく誰も望んではいないだろうから。

 

 

 

020

 

 

 

「頼んだ」

「わかった。誰でもない、あの千里川の頼みだ、無下にはしないよ」

「助かる」

 

そう言って、私は手を振ってクラスメイトを見送る。

まぁ、何をしているかと言えば、色々と手を打っているのだ。

気にするほどでもないことだが、気にするべきことなのだ。

よって、私は愛すべき幼馴染みのためにこうやって動き回っているのである。実際に動いているのは車椅子だが。

 

「あらかた二年は回ったかな」

 

園田達が無駄に早く朝練を開始するので、それが終わるより早く登校する私はもっと時間に余裕がある。だから、こうやって無駄に早く学校に登校し色々している生徒に声をかけているわけだ。二年生の教室三クラスは大体回った。が、流石に一年三年生の教室にまで行くには私に度胸がない。

で、そろそろあいつらが登校する時間を見計らって……あっ。今とても重要なことを思い出した。

 

 

 

 

021

 

 

 

「……人…前…?」

「そうだ」

「あ」

「そういえば」

 

もしや、とは思っていたが。こいつら、どうやらライブの準備で頭一杯で肝心なことを忘れていたようである。

人前、人の前。簡単に言えば、見られる。特に園田なんかには由々しき問題であろう。

 

「人前って…人の前という…」

「だからそうだって」

 

園田は時々、自分に都合の悪い話を聞こうとしない癖がある。臆病者たる所以か、はたまた性分なのか。だが、これはどうしても聞いてもらわないといけない問題である

 

「客がお前達のライブを見に来た場合、お前達は人前で歌って踊って笑顔を浮かべるんだぞ。いまさらだが、それが出来るか?」

 

本当に今更だが、これが出来ないと論外である。まさか客が入らない、なんて想定してるわけではあるまい。少なくともってか、ほぼってか、客に見せることを想定するなら、避けては通れないことである。

高坂は…まぁ、大丈夫なんじゃなかろうか。小さい時から劇とか率先してやる奴だったし、人並み以上には人前に慣れている筈だ。和菓子屋の看板娘だし。

南、は…ちょっと判断しづらい。あいつが人前に出るところはあまり見たことないし…いざという時はやる奴だし、わりといけるのではないだろうか。いや、アレを考えればむしろ得意分野かもしれない。

だが、大問題がこいつである。園田海未、こいつがどうにかならないとどうしようもない。それはおそらく、私達共通の見解だろう。

 

「は…あはは…」

 

あぁ、園田から途端に生気が失われていく…

 

「う、海未ちゃん!えーと…そうだ!人を野菜だと思うんだよ!」

「野菜…」

 

確かにその方法はわりと有名だが、よく考えてほしい、自分の前で各々に跳び跳ねる人並みの大きさの野菜達を…不気味だ。

私なら失神する。

 

「あー!?海未ちゃんが倒れたー!?」

「だろうな…」

 

不気味過ぎて頭がどうにかなりそうだ、その光景。

 

「無理ですぅ!?野菜とか無理ですぅ!?」

「違うよ海未ちゃん!?お客様だって!」

「はっ!?.…そ、そうですね、野菜が動くなんて……人でも無理ですぅ!!?」

「海未ちゃあーん!!?」

 

駄目だこりゃ。何か別の案を出さなければ。

 

「何かいい案ないか?南」

「うーん…海未ちゃんの性格は昔からだし…」

「だよなぁ…」

 

いっそのこと、目を瞑ってとか。

言ってなんだが、すまない、忘れてくれ

 

「期待はしてないけれど、高坂は何か案はないか?」

「むぅ!何で私は期待されてないのー!」

「当たりはデカイけどハズレも大きいからだよ、わかったか」

「納得出来ないけど……私は、馴れちゃえばいいんじゃない?と思います!」

 

それが出来ていれば元から苦労せんのだが。まぁ、やらないよりはマシではないだろうか、方法にもよるが。

 

「具体的には?」

「これを配ります!」

 

そう言って高坂から手渡されたのは、初ライブのお知らせチラシ。これを道行く人に渡すのだという。

なるほど、高坂にしてはいい案だ。宣伝も兼ねて上手く行けば、という。これで園田の臆病が解決出来るかどうかは別にしても、宣伝も出来るのは良いことだ。

 

「で?どこで配るんだ?」

「それももう考えてます!」

 

高坂にしては話が早い。いいじゃないか、それでいこう

 

「行くぞ園田。珍しく高坂がよさそうな案を出したんだ、お前の為だぞ歩け」

「な、何が始まるんですか!?」

 

大惨事…いや、何でもない。というか、話聞いてなかったのか。耳塞いでたけどさ。

 

 

 

022

 

 

 

という訳でやってきたのは我が音ノ木坂学院の校門前。

高坂はここでチラシ配って人前を馴れようという。確かに、人前に馴れるなら人と接するのが手っ取り早い。当たり前のことだ。

それに、学園内なら私もある程度動けるし。これなら園田の奴も…

 

「……ここで、ですか…?」

「うん!こうやって道行く人にチラシを配れば、人前に出ることだって馴れるよ!」

「だからって…」

 

少し駄目そうではあったが、学園内というのもあるのか、少しは落ち着いている。これならまだ一応は大丈夫そうである。これは、もしかして本当に高坂の発想の勝利か?

 

「それじゃ、張り切っていってみよー!」

「おー!」

「お、お….」

「オー」

 

ちなみにだが、今更言っても仕方ないことだが、学園内ということは、あの生徒会長さんの目に入る可能性があるということだが…まぁ、万が一歓迎会に行く人がいれば儲けものだし。それに、どうせ外で配ったって新入生歓迎会に来る人なんてそうそうどころか、全然いないだろう。なら、生徒会長さんによる何かがある可能性があるとしても、学園内で配るほうがいいとは思う。

それに、私達ライブの告知って貼り紙以外なら口コミしかしてないし。本当にライブするつもりだったのか怪しいな…私もだけど。

 

「よろしくお願いしまーす!」

「お願いしまぁーす」

「お、おね…お願い……あっ」

 

あの二人は流石に元気いいが、園田は駄目だな。これは本当にライブなんて出来るのだろうか。してもらわないと困るんだが

 

「夢ちゃんも配ってよー!」

 

はいはいと、精々配らせてもらいますよ……って、車椅子座ってるのにライブの宣伝って…説得力ねーなこれは。

 

 

 

023

 

 

 

「配ったねー」

「園田は余りに余っとったけどな」

「そう簡単にいきませんよ!それに、そういう夢こそ全部配れてなかったじゃないですか!」

「お前…私の足見て言ってみろ、私が声掛ける距離に行く前にみんな歩いていくんだぞ…わりと寂しいぞ…」

「あー、海未ちゃん夢ちゃんを泣かせたー」

「え、えぇ!?あ!す、すいません夢!」

 

…現在は辺りが暗くなったころ、高坂の家だ。

前にも来たが、小さい頃から此処にはよく集まったものだ、時々お菓子貰えたりするので、子供には嬉しいのであった。え?泣いてる?ははは、そんなわけあるはずないだろう?この私がだ。園田があたふたしながら謝ってくるのを楽しんでるだけさ……ぐすっ

 

「い、いや、いいさ。二階まで登らせてもらったのでチャラにしよう…」

「すいません…なんか」

 

泣いてないんだぞっ!なんて、可愛く言っても黙れこの野郎と罵倒を受けかねないので、そろそろ自重する。

では、何度も言うが、基本的私は足がこうなので、高坂の部屋、つまり二階まで行けないので、もっぱら一階の和室にお邪魔するのだが、時々園田とかに肩を貸してもらって二階へ上がるときがある。ありがたい。やっぱり年頃の女の子なんだから、お喋りぐらい部屋でしたいじゃないか。私だって女の子だ。

 

「でもさぁ、はっきり来てくれるって言ってくれたの、あの小泉花陽ちゃんだけなんだよねー…」

 

これはチラシ配りの話。

チラシを配っている最中、一人の眼鏡一年生が熱心な顔でライブ行きますと言ってくれたのだ。これで私達のやる気がさらにうなぎ登りだった。

そして、後々の調べで、彼女の名前は小泉花陽一年生だということがはっきりした(私調べ)。見た感じバストは80以上ありそうだったが、最近の子は発育が実に宜しい。なんて、おっさんか!と、自分で内心つっこむ。はい、滑りました、忘れて下さい。

……なんだか、最近の私の内心は、荒ぶっている気がするのだが…気のせいだろうか。

 

「あの一年生には心から感謝するとして、一人でもいたことをありがたいと思え、0と1は違うんだよ」

「わかってるよー」

 

それに、日本人はとてもシャイなのだ、自分から行きます!なんて言い出すほうが少ないと私は思う。

 

「それじゃ、本日のメインイベント!衣装の発表に移りたいと思います!」

 

わー、と観客は僅か三人であるが。

そもそもこれの前に何もしてないだろうが、と色々言いたいが、そこは水を差すのも野暮である。大人しく眺めているとする。

 

「では!ことりちゃんどーぞ!」

「うん!……じゃじゃーん!」

 

今の間は衣装を取り出してた間だ、他に何もないぞ。

そして、カバンから布を取りだし、それを広げてピンクを基調とした衣装を私達に見せる。うん、可愛いんじゃないかな。私はいいと思う

 

「可愛い!」

 

高坂にも好評だが、あることを私は忘れていない。さぁ、園田のほうを向いてみるのだ

 

「ことり…?このスカートは?」

「え?……あっ」

 

どうやら思い出したようである。そうだ、園田は南が衣装の案を出したその時から、スカートへの交渉を行っていた。不毛だとは私ですら思うが、園田にとっては死活問題だという。

万年ロングスカートの私が言ってもどうかと思うけど。

 

「ことり!!言いましたよね!!?スカートは膝より下と!」

「あはは…忘れちゃってた」

「海未ちゃーん…もう作っちゃったんだしさー」

「その手は卑怯です!」

「気にするからそうなるんだ、気にしなければいいんだ」

「それが出来たら苦労しませんし、万年ロングスカートの夢に言われたくないです」

 

やはりロングスカートの私が言っても駄目だな。…でも、車椅子でミニスカートはちょっと…

 

「それなら私は一人だけ制服で踊ります。そもそもスクールアイドルなんですから、此方のほうが正しいでしょう」

「えぇ!!?折角作ったのにぃ!」

 

いや、学校の制服もわりとミニスカートだし、まぁ膝よりは下だが。それに、一人だけ制服とか、そっちのほうが目立つと思うのだが、そのことわかってるのだろうか。多分わかってない

 

「お願い海未ちゃん!」

「う…でも、やっぱり短いのは…」

「園田」

 

このままでは話が停滞してしまうので、しょうがない。私から少し助言を、精々な助言を。それくらいならしても許してくれるはずだ、誰が、とかではなく。

 

「夢…?」

「園田、お前がどう思ってかはわからないが、私達三人は、お前と最高のステージをしたいと思ってるんだぞ?それなら、衣装だって最高の物を用意するのが、いいと私は思うのだが」

「そうだよ!私も、最初はどうかと思ってたけど、今は違うよ。今は、穂乃果ちゃんと海未ちゃんと、一緒に踊りたい」

「うん、海未ちゃんとことりちゃん…夢ちゃんとも!皆でここまでやってきたんだ、折角なら!最高のライブにしたい!」

「そうだ、全員でここまでやってきたんだ。どうせなら、全員が全員、やってきてよかった!って思いたいじゃないか」

 

これは私の数少ない心からの本心である。私だって幼馴染み達とやり遂げたい、成し遂げたい。わかるだろう?お前だってそうなんだから、園田。

 

「……」

 

長い沈黙。園田はこんな風に黙っているが、次に言う言葉はおそらくあれだ。わかるんだよ、わかってしまうんだよ、理解してしまうんだ、長年一緒にいたら。

 

「…はぁ、わかりましたよ…仕方ないですね…そうですよ、私だってやり遂げたいですよ…」

 

ほら、やっぱり私達って仲良し幼馴染みだろ?

 

「…ありがとぉ!海未ちゃーん!大好き!」

 

こんな元気一杯なやつに振り回されてるんだからさ。少しぐらい考えが似てても文句言われないさ。

 

 

 

024

 

 

 

ラストは短いが、やるべきことがある、やらなきゃいけないことだ。024番、許してくれ

 

「ライブが、成功…いや、大成功しますよーに!!」

 

私達の練習を見守ってくれていた神田神社にお参り。

賽銭を入れ、礼と拍手と、目指すは大成功、お願いします神様、どうかこの三人にほんの少しの勇気を…なんて、もう必要ないかもしれないけれど。

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