夢物語(上)   作:患者

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矢澤にこ先輩、お誕生日おめでとうございます。


『言ってあげようぜ?おめでとうって』

025

 

 

 

今思っても変な話である。踊れもしないのに、アイドルのグループに入っている。踊ることが出来ないのに、である。

踊らないアイドルなんてものもいるらしいが、踊って歌える、なんて風にも言うように、歌だけではなく踊りもいれて人々を魅了するのがアイドルなのである。そうなのである。

歌いたいなら歌手になれ、踊りたいならダンサーに、両方ならアイドル…アイドルの場違い感が凄いが、けれども、私はスクールアイドルなんてものをやっている。直接は何もしていないが、グループに入れられている。

何度考えても不思議な話だ。高坂に引っ張られて、勝手な内にグループ入りだ、迷惑な話もあったもんである。

けど、断らなかったのは、あいつがやり遂げる奴だとわかっていたからなのかもしれないのだった。そう、思うのだ。

 

「なぁ、本当に不思議だとは思わないか」

「…」

「未来予知なんて私が一番信じてない癖に、高坂が言ったときには確信したんだ、こいつはやるって。」

「……それを私に言ってどうするつもりなんですか?」

「なに、高校生の独り言と思って聞き流してくれていい。本題はこっちだ、感謝の言葉を言いにきたんだ」

「…私、先輩に感謝の言葉言われるようなことしました?した覚えありませんし、したとしても当てがありません」

「そんなことを言うってことは、何か心当たりでも?」

「ありません!」

 

顔を赤くして大きな声で否定。

まぁ、予想の範囲内だが。彼女のようなプライドが高い人間は、そういう風にでもしないと、素直に人を助けるも出来ないようだ。全く、このツンデレめ。いや、照れ隠し?いいや、ツンデレだ。違いない。

 

「まぁ、それでいいならいいんだが。一言だけ言っておくよ、ありがとう、感謝する。西木野真姫一年…いや、西木野さん。ライブも来てくれると嬉しい」

「だから私は何もしてないって…勝手なこと言わないで下さい」

「ははは、すまないな。ライブ待ってるよ、またね」

「誰が行くって…」

 

ツンデレさんは素直じゃないなー

にこ先輩みたいである。あの人は本当に照れ隠しだけど。しかし、それでも、曲を作ってくれたということは、そういうことである。期待して待つとしよう。

 

 

 

026

 

 

 

時刻は夕方手前だろうか、もうすぐ日が沈み始めるだろう。場所は楽屋のような裏場所、三人が着替え中である。 

 

「うわぁ!やっぱり可愛い!」

「えへへ♪頑張った甲斐があったよ」

 

高坂はピンク、南は緑。ヒラヒラとした可愛い服である。似合ってるなぁ、と素直に思う。それぞれが似合う色を着て…ちなみに、園田はまだ着替えてる、試着室の中で。

 

「海未ちゃんまだー?」

『ちょ、ちょっと待って下さいっ!!』

 

着替えに時間が掛かりすぎというか、多分、衣装を恥ずかしがって遅くなっているのではないだろうか。しかし、それにしても…女しかいないんだが、ここ。どれだけ恥ずかしいのか。同性同士でこれなら、異性ならどうなってしまうのか、今から園田の将来が心配である

 

「…ど、どうでしょうか…」

「わぁぁ…あ、あ?」

「あ、あれ?」

 

……ようやく出てきたと思ったらこれである、いい加減しろ、と声を大にして言いたい。

おい、いい加減にしろ!

 

「なんでジャージ着てるんだよっ!!」

 

声に出てしまった。

 

「えぇ!?だ、だって!恥ずかしいじゃないですか!!」

 

私は思わず天井を仰いだ。呆れているのだ

こいつは…本当にもうでしょう!

 

「もういい!二人ともやるぞ!脱がせ!」

「あいあいさー!」

「了解でーす♪」

「え!?い、いやぁぁ!!?」

 

さぁー脱がせー!!あ、服にまで手はかけないでいいぞー、その生意気なジャージを脱がしてしまえー!

なんだか、図らずもいたいけな女の子を苛める糞女みたいな構図になってしまった。

 

「いや、いやぁぁ…ちょ、なんで服に手をかけてるんですかぁ!?」

 

強いて言うならお前が暴れるからだー。いやぁ、園田の胸は相変わらずだなー

と、さりげに園田の胸を揉み始める私。

変態暴漢女になる私。

 

「胸に関して夢に言われたくないですっ!あとなんで目標変わってるんですかぁ!!?」

 

冗談だ、さっさと脱がすに限る、やっぱり。

 

「もう嫌ですぅ!!?」

 

 

 

027

 

 

 

私は今、外にいる。あいつらは、幕の後ろにでもいるのではないだろうか。なんだか予想に反して悪いが、あくまで、私は客としてあいつらのライブを見るつもりでいる。だからこうやって、客席の入り口の前にいる。公演まで待っている

 

『μ´s初ライブ、ご観覧の方は早々に入場して下さい』

 

もうすぐ、である。

しかし、周りに人の姿はない。

いるのは私だけ、周りに客は、いない。

……予想していた最悪の状況であった。

客が来ない、いない、入ってこない。

それを回避するため、私は動き回っていたのだが、やはり少々難しいらしい。もう少し時間がかかりそうだ。なんせ、相手の都合もある。

 

「そして、小泉花陽一年生も来ていない…と」

 

もしかしたら、と思ったが、やはり来ていない。あの見るからに食べるのが好きそうな一年生は来ていない。残念だ、あの一年生は抱き心地がよさそうだったが…来てないなら仕方ない…か。

 

『ライブ、もうじき開演です』

 

西木野真姫一年生も、矢澤にこ先輩も来ていない。まぁ、仕方ないとはいえ、この人達も来るには時間がかかるだろう。ツンデレだもの、許してやってほしい。

誰も来ない、初のライブ。

そんなの、あいつらがどう思うなんてわかってる癖に。たとえ、あいつらが自分で立ち上がれるとしても、それは別の世界の話。

私がいるなら、私が行ってやるしかないじゃないか

 

「精々、あいつらをガッカリさせないように」

 

あぁ、世話の掛かる幼馴染み達である。……私もその一人か。難儀なものである。

 

 

 

028

 

 

 

『現実はそんなに甘くない…』

 

入った時には、涙目になってマイナスな言葉ばかりを呟く三人の幼馴染みがいた。見渡しても人影はない。

当たり前だ。

挫けそうになっているのは予想していたけれど、投げ出しそうになってるとは思っていたけれど、まさかここまでとは思わなかった。

……そうだけど、そうなんだけど…私は…私は、お前のそんな泣き言聞きたくない。

 

「馬鹿言ってんじゃねーよ…」

 

お前が諦めるわけか、ここまでやって、客がいないから。

ふざけるな、高坂穂乃果。私はそんなお前についてきたんじゃない

 

「…こーさかーッ!!!!」

 

人生二度も出したかどうか定かではない程の声で、私は叫んだ。今にも泣きそうな幼馴染みへ向かって

 

『夢……ちゃん……』

「諦めるのか!お前が!!此処までやってきてッ!!ようやく行き着いたのに!!これがお前のやりたいことじゃなかったのかぁ!!」

 

やめろよな、私まで泣けてくるだろ。お前らがこんなんだと、私まで悲しくなってくるんだよ。だからやめろよ。お前は、最悪を最高にできる奴だろ。こんなところで、やめていいわけあるか…!!

 

「もう一回叫んでみろ!!!高坂!!南!!園田!!『よろしくお願いします』って、叫んでみろ!!!」

 

やれよ

お前達のその声は

きっと届いて奇跡を起こす筈だ

 

『……うん!!』

 

…どうやら私の声は届いたようだった。

やれやれ、全く世話のかかる幼馴染みだ。

だけどそんなお前らが、私は大好きだぜ。

 

『ことりちゃん!海未ちゃん!』

『…うん!』

『…はい!』

 

あいつら三人は、輝いている、輝こうとしている。

まるで神様にでも選ばれたのか。いや、あいつら自身が神様なのかもしれない、女神という、美しい神様なのかもしれない

 

『μ´s初ライブ!!よろしくお願いします!!!』

 

三人がそう言った。それと同時に聞こえる足音。

ほらな、あいつらの声が聞こえたんだ

 

「はぁ…はぁ…あ、あれ?ライブは?」

 

少なくとも、後輩一人には届いたようだ

 

「安心しろ、小泉花陽一年生。今からだよ、君はμ´s一番最初の客だ」

 

私は、三人に合図を送る。『存分に見せてやれ』と。自分でもビックリな程優しい声で

 

『やろう!この日のために、やってきたんだから!!』

 

━━━そして始まる、最初のライブ、始まりのライブ。

後の私は、きっとこう言うことであろう、『あれは凄かったよ』と、当たり障りない、そんな点数も付けられないセリフを、真顔で言うだろう。

だって、特別な言葉をつけるまでもなく、彼女らは輝いていたのだから。

 

『I say…』

 

そしてどうやら、私の手回しも間に合ったようである。

 

「もう始まってる!ごめん千里川!」

「いや、いいよ。その代わり、存分に彼女らを見ていってくれ」

「あぁ。早く入って、みんな」

 

説明しておくと、私が手回ししたのは、運動部の部長達。そっちの部活動紹介が終わり次第、ライブを見に来てくれと、なるべく部員の方々の一緒にと。二年と三年、全ての教室に回って言い回った。随分と、時間はかかったが、上手くいったようで安心した。

 

『明日よ変われ!』

『希望に変われ!』

 

あぁ、変わった、変わっただろう。

お前達も、私も、希望への第一歩。

 

『眩しい光に、照らされて変われ…』

 

お前達の物語は、まだ始まったばかりなんだ。最初ぐらい、羽目外しても怒られない筈さ、私が保証する

 

『START!!!』

 

「…あぁ、今まさにスタートした」

 

入った人数、おおよそ20人弱。

多いか少ないかは、みんなの感性に任せるとして、少なくとも、私とっては成功だった、あのライブは。

だって、見ていた全員が、三人の女神を見ることに集中してたんだ、成功と言わずしてなんだろうか。意地悪言わず、素直にここは言ってあげようぜ?

おめでとうって。

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