029
アルパカ。鯨偶蹄目有蹄類ラクダ科の哺乳類。学名はVicugna pacos。
なんていうのは、かのウィキ教授からの引用である。間違っても私の知識では精々、ラクダの仲間で哺乳類、が限界だろう。
そして、そんなアルパカだけど、実は私にとってはかなりご近所さん的存在だろう。だって、うちの学校は、アルパカ飼ってるんだもの。
私は最初の学校案内でこれを見たとき、一瞬動きが止まった。可愛いー、なんて声が聞こえたが、私はアルパカを飼っている学校の謎に一瞬動きを止めたのである。もしかしたら、今時の高校はアルパカを飼うのがステータスなのかもしれない。私の視野が狭いだけで、他の学校でもアルパカは育てるのかもしれない、一応家畜生物らしいし。と、なると、最近人気のこの付近に出来たあの高校もアルパカを……あ、この学校古いじゃん。でも古いからってアルパカを飼うの?それとも目新しさでも求めてアルパカを飼い始めたのか、そこのところどうなのか。謎である。
しかし、アルパカアルパカって文にするとゲシュタルト崩壊を起こしてしまいそうになるので、そろそろこの話も打ち止めだ。
そして、なんでこんな話を私がしているか、である。まぁ、目の前で幼馴染みが熱い眼差しでアルパカを見詰めているからであるのだが。
ちなみに、南のことだ。
「はぁ~…」
あの様子を見るに余程ご熱心のようだ。…そういえば、この学校の理事長は今あそこでアルパカに戯れている幼馴染みの母親なのだが…まさかな。
「ことりちゃん!」
「あとちょっと~…」
部員を探しに来たのにこれでは進まない、どうにかせねばならないのだが……
「…」
「…フゥ」
…ふと、茶色い方のアルパカと目が合った。相手の毛で目が隠れているのに目が合うとは何事かと思うが、視線でわかる。今、私とあいつの視線は交差していると…ところでだが、ほぼほぼ関係ないことだが。
「…お前、メスなのか」
「…フフゥ」
ってことは白いほうがオスなのか...
いや、人?は見掛けによらないと言うし。それは彼女らとて同じことであろう、私が関与してツッコンでいい話ではない。触れなくていい話もある。
「その、なんだ。頑張れよ」
「フゥゥ」
ところでアルパカの鳴き声ってあんなのなのか?書いてる奴がわかってないみたいだけど。不思議だ……あ、南が迎撃された
「大丈夫か?」
「うん…平気」
「まさか攻撃してくるとは…!」
「え?あれ攻撃なのか?」
だとすればとんだ技である。『なめまわし』とか『したでなめる』とかそこらへんの類に違いない。
ヤベェ、考えてて何だか恐ろしくなってきたぞ…!
「あの…そうじゃなくて…そのぅ、遊んでた、だけ…みたいですから…」
遊んでたのか…こいつ。
「…」
……何も喋らんが確かに風格があるな...白いアルパカ…こいつならとんでもなく渋い声で『俺』とか言っても不自然なさそうだな。
「私は何いってるんだ」
考えてわけわかんなくなってきた。
「ちょっと最近変ですよ?夢。一人言多くなりました?」
「お前らのせいでストレスがマッハなんだよ」
いやしかし、園田にもつっこまれてしまうとなるとそろそろヤバい。一人言も自重せねば。
……ん?そういえば、今さっきアルパカを説明してくれた人物…何やら覚えが…
「小泉花陽ちゃん!」
そうだ、あの小泉花陽一年生だ。何故こんなアルパカとアルパカしか居ないところに。
「あの…飼育委員、ですので…私…」
そうだったのか。
アルパカを飼育しているのが彼女ならば、はたして自分から立候補したのか推薦か、はたまたジャンケンに負けたとかなのか。それは定かではないが、飼育委員としてアルパカを世話している内の一人なのだろう。
…しかし、アルパカの気持ちを一瞬で汲み取る辺り、自分からでもたまたまでも、アルパカ飼育は随分とやっているらしいと思えた。
「ところで花陽ちゃん、改めてなんだけど…アイドルしませんか!?」
おっと先に言われてしまった。
何だか高坂の言葉は少し順序を飛ばした感はあったが、小泉花陽一年生のアイドルへの期待の気持ちはあのライブへの集中具合からよくわかるものであった。
だから、もし勧誘するなら彼女を…と私は思っていたのである。高坂が誘ったからもういいけど…しかし、多分、それとなく流してやんわり断ると予想する。
「私なんか…それより、西木野さんがいいと…思います。歌も…凄い上手でしたし…」
「真姫ちゃん!花陽ちゃんもそう思う?歌すっごく上手だよね!だから誘ったんだけど…断られちゃって」
「そ、そうですか…す、すいません。私何も知らないのに…」
「ううん、大丈夫だよ。それより!何時でもいいからね!興味があるなら…」
ん、向こうから声がする。聞こえ的には、おそらく小泉花陽一年生を呼んでいるのだと思われる。
「あ、凛ちゃん!す、すいません…次体育ですので…」
「あ、うん…またね」
小泉花陽一年生が離れ、ペコリと少し遠目に見える、おそらく凜ちゃん、と呼ばれた一年生らしき人物が頭を下げ、二人揃って離れて行った。
はてさて、またも少し難儀なことである。たださえ人が少ないのに、今からアイドルなんてやってくれる人物は少ないだろう。だからこそ小泉花陽一年生のような人物が希望の光だったのだが…見た感じアイドルをやるということに否定的な感じではなかったような気もするのだが…難儀だ。
瞬きを一つ。
「どうしましょうか…」
「あと一人でも入れば部に出来るんだけどなー」
私をいれてもらっても困るのだがな。という台詞を、空気を読んで私は口にはしなかった。
030
「やっぱり入ってくれないですか?矢澤にこ先輩」
「嫌よ」
このやり取りも数えて四回目である。
ライブが終わった後から猛アピールを仕掛けているのだが、一向に振り向いてくれない。意外と硬派なのかもしれない。それとも私が口説き下手なのか。
「ライブも見に来てたのに?」
「うっ…その話題は止めなさいって言ったでしょ……ふ、ふん!ただの気紛れよ!き、ま、ぐ、れ!普通だったらあんな三流以下のアイドルなんて見に行かないんだから!」
矢澤にこ先輩はライブに来ていた。
席の裏側から隠れるようにライブを見ていた。
おそらくは、それで隠れてるつもりだったのだろうが(それにしてはバレバレだったが)私に見つかった時の先輩の顔といったら、羞恥心と屈辱に満ちた表情だったとやけに記憶に残った。
閑話休題
と、にこ先輩と数回対話した自分としては、にこ先輩はやはりツンデレというより照れ隠しのように見える。というかツンデレはやっぱり、西木野真姫一年生だ。
「というかさらっと此処に居座ってるけど、あんた最近此処に来すぎ!」
「そうでしょうか」
「その上茶までしばいていくとか、図々しいにも程があるわよ!?」
このインスタントのお茶、意外に美味しいんだよ。と、にこ先輩の勧誘のおまけについてきたら嬉しい程の価値はあると思う。
「それに!ライブに来てた人物なら他にもいたでしょ!?なんで私だけなのよ!」
「あ、いえ、目ぼしい人達は大体他の部活に入ってますので」
「私はあまりかいっ!!」
お、ナイスツッコミである。流石アイドルを目指すことはある、バラエティへの出演も想定済みということか。これは試してみたくなる。
「いえいえ、余りとはいえ、にこ先輩には敬意を持って接しております。そう、例えるなら、のび太君と同じくらいに」
「私は駄目人間って、遠回しに言いたいわけ!?」
「そんなわけないじゃないですかー、にこ先輩。のび太君は寧ろ、覚悟を決めた時は素晴らしく格好いいじゃないですか、そういうところを、私はにこ先輩と投影してるわけです」
「そ、そうね……って、よく考えたら、それってつまり普段は敬意持ってないってことじゃない!?私に敬意どころか軽易しか持ってないじゃないのよ!」
「つまりにこ先輩は軽い女ってことですか」
「人をどさくさに紛れて貶すんじゃないわよ!?それに!軽易から軽いを連想させて言ってるのはあんたの方じゃないのよ!」
「そんな!にこ先輩は軽いは軽いでも、器は大きいじゃないですか!」
「軽いって認めてるし、それじゃ中身すっからかんじゃないのよ!私!」
流石と言わざる得ない、にこ先輩のツッコミは素晴らしい。久々に楽しんでしまった。柄にもなく、楽しんでしまったぜ。
仕方ないな、こんなボケツッコミが出来たのなんか久々だったんだもの。
でもまぁ―流石に冗談だ。
「まぁ、冗談です、流石に。本当は、一番アイドルを本気で取り組んでくれそうだから、というのがあります。アイドル研究部、なんて名乗ってるんですから、アイドルもやりましょうよ、と」
「……ふん。やらないって言ったらやらない。むしろ潰してやりたいわ、あんな奴ら」
「…そうですか」
そこまで言われてはどうしようもない、今は大人しく帰るとしよう。
でも、しかし、これだけは言っておかなくてはならない。言わなくては、ならない。
「何時か絶対入ってもらいます。いえ、貴方は入る。断言します」
「…なによ急に……ふんっ」
そうだ、貴方には入ってもらわないといけない。貴方がいないと、彼女達は次のステップへ行けない。だから、入らせます、絶対に。
これだけは、確信を持って言える。私が、自信を持って言えることだった。