031
とんでもなくどうでもいい話にしよう。
私はテレビが好きなのだ。
何をどうしたらそんな話に、と言われそうだが、このままだと私は趣味が一つもないつまらない女と言われそうだったので、一つ言ってみることにした。
というか、私は基本的にテレビっ子だ。暇ならテレビ見るし、録画忘れてたら自分に腹が立つし、野球などの延長で録画を失敗したらガッカリする。バラエティもより選んで見るし、時々だけどアニメも見る。つまり、だ、何が言いたいのかというと、スクールアイドルって思ってたより凄いんだな、と。
「あの熱狂具合から見て中々の知名度だと思っていたが…」
テレビに映っているのは、我が学校の数駅先に出来たデカイビルのような学校。
名前は、UTX学院。
なんと洒落た名前だろう。名前のセンスに脱帽である。
そしてこのテレビ番組では、そのUTXを中心にスクールアイドルの特集が放送されている。
リポーターが学校の先生とか生徒とかに話を聞いたりして、番組はそれをネタにしてへぇー、とか言ったりしている。
まぁそもそも、こんなデカイ学校なんだから取材のオファーの一つや二つぐらいは来てるだろうとは思ってはいたが。むしろ今までのTVで見なかったのが不思議なぐらい(穂乃果曰く、『よくわかんないんだけど、それもなんか戦略らしいよ』らしいが)。
そして、その話の節々に出てくるある単語は、私の耳によく入る単語だった。
「A-RISEね…」
今一番注目され、爆発的に人気を上げているスクールアイドル、だったはずだ。
綺羅ツバサ、統堂英玲奈、優木アンジュの三人からなるグループで、そのダンス、歌、容姿のレベルはいずれも既存のプロアイドルと比べても遜色ないとも言われている三人だった筈だ、噂の限りでは。
あくまで、噂の限りでは。
そんな彼女らに憧れてデカイ学校、つまりUTX学院へ入学する子も少なくないという。(それゆえ生徒数取られてるとも言うか、前も言ったけど、それだけじゃないんだけども)
「しかしまぁ、見てると天と地の差だな」
高坂、南、園田。
綺羅ツバサ、統堂英玲奈、優木アンジェ。
同じ三人のグループ同士でありながら、どうしてこうも違うのか。
勿論、経験、実績、とかもあるだろうけど、もっと、根本的に、何かが違う。曲とか、容姿とかそんなのではなく、もっとこう…根本的な…
「夢ー?高坂ちゃんの家行くんじゃなかったの?」
「ん…あー、そういえばそうだった」
そういえばそうであった。
南と園田は学校から直接行ったけど、私は家で少し待機していたのだ、PCを持って行くためなんだけど。動画見るために高坂の家にPCを持って行くのだ。
家は私が一番近いし、車椅子を入れてもそれほど離れてないので、私が自分から名乗り出たのである。
すぐ行かないのは、気になるテレビがやってたという至極個人的な理由である。まぁ、5分程度遅れてもどうも言われまい、高坂に比べればマシな遅刻だ。
「…それじゃー、そろそろ行ってきます」
「あんまり遅くならないでねー」
徒歩で5分以内だから、車椅子でも10分以内で行けるだろう。もう少し早いかもしれないけども
「根本的な…何か…」
さてはて、何なんだろうかこの違和感。
トップとか最下位とかではなくて…そう、例えるなら、やってること。
「それは同じアイドルでは?」
この謎は暫く解けなさそうである。
032
何でかはわからないが、基本私達全員は店の方の玄関から入る。営業中は主に高坂のお母さんが此方にいるからだとは思うのだが、如何せん店の迷惑にならないのかと常々思っている。
入ってるのだけども、入るのだけども。
「あ、夢ちゃんいらっしゃーい!」
「お邪魔します」
今日はどうやら高坂が店番してたようだ。和菓子屋の娘だからお手伝いぐらいはする、らしい。
それなら和菓子に飽きているとか言うもんじゃないぜ、とは思うのだけど。
「ごめん!まだちょっとお手伝いしなくちゃいけなくて…あと少しで終わるからちょっと待ってて!」
「それぐらいなら待つよ、というか、私が頼む側だよ」
「ごめんねー。ことりちゃんと海未ちゃんも今二階でお客さんとお話してるみたい」
今日は二階での集会なので、私は誰かの助けが必要となる。この動きやしない脚では、階段なんて上れやしないのだ。
まぁ、それは置いておいて(どうでもいいが、『置いておいて』はなんだか洒落を言っている気分になる。多分、私だけだろうけども)話を聞く限り、南と園田は高坂の部屋でお客をもてなしてるようなので、上りを頼めない。二階で、なので多分和菓子ではなく高坂の客なのだろう。仕方ないので、私も少し待つことにする。
「…」
その間少し考え事をする。
A-RISE…スクールアイドルの最前線に居ながら、その人気は未だ衰え知らず、学校で行うライブには全国からファンが押し寄せ、チケットなんかまるでバーゲンのように消えていく。高坂がスクールアイドルを始めるキッカケでもあって、あの秋葉原のアイドル人気を牛耳る存在。と、私が聞いた話によるとそんな感じ。
まるで違うね、うちとは。いや、違うなんてものではない、格が違うと言っていい。
しかし、何で此処まで私が考え込むのか、まるで空の上の存在のような彼女らに、何か起こらない限り関わることもないだろう彼女らに、私は一体何を悩んでいるのだろうか。
「変だよな…」
「何が変なの?」
おっと、高坂ではないか。…そうか、もう終わったのか。随分考え込んでいたようだな、私は。
「…いや、ババ抜きしたときの園田の顔が変だよな、って考えてただけだよ」
「海未ちゃん…そう言われてみればあの顔は…」
なんであんな顔するんだろ、あいつ。心理戦ヘタクソ過ぎるし、賭け事とか絶対無理だ。
と、考え事との話を変える私。
「って!その海未ちゃん達が待ってるんだよ!」
「あぁ、すまんな。肩を貸してもらえるか」
「もっちろん!」
何時もは園田に連れ添ってもらってるから、高坂に頼るのは久々である。うーん…和菓子の香りがする。
「えへへー♪夢ちゃんと一緒に歩くのも久しぶりだねー」
「大袈裟言うな、歩くなんて距離じゃないだろ」
「えへへー♪」
こいつも中々に変な奴だな。
そして、それを心地良いと思ってる私も同類なのかもしれないのだった。類友って奴。
033
「遅かったですね…夢」
「何かしてたのー?」
「こんばんは…」
部屋へ入ると園田と南と、小泉花陽一年生がいた。
どうやら、お客というのは小泉花陽一年生のことであったようだ。小泉花陽一年生は少しもじもじしながら座っている。
うん、可愛い。
しかし、どことなく何とも言えない空気が漂っているのは何故だ。園田がうつむいてるし。
「何があったのかと、とても聞きたいところではあるが。先にPCを出すぞ」
私は高坂から離れて床に座る。
さて…と、鞄の中には…PCが、あります。ない、なんて事はありません。あってたまるものか。
「あとは任せた南」
「はーい。あ、ごめんね」
「あ、いえ…」
私は電源を入れたPCを南に渡して、お菓子の入った皿を退けた小泉花陽一年生のほうを見る。
んー…ふっくらとした柔らかそうな体、もっちりとしている頬、穏和さうな瞳に…やはりバストも80越えてそうだ。やはり私の見立て通りであった、この子は絶対、抱き心地が良い。間違いない。
「え…ぁの……そのぅ…」
私に見られていることに気付いたのか、さらにもじもじし始める小泉花陽一年生。彼女を見ていると、とてもとても苛めたいという欲望が出てくる。
可愛い後輩だなぁ、おい。
さながら小動物のような可愛いさである。
「あった!」
おっと、後輩の気をとられて本題を忘れるところであった。
「どれどれー?…わぁ!ちゃんと映ってる!」
「……こんなスカート着て…私…」
ふむ、PCの画面内で再生されてる映像は紛れもない、μ´sの初の曲である『START:DASH!!』である。
高坂と南と園田が三人踊る様子が再生されていて、随分綺麗に撮れている、手持ちカメラではこうはいくまい。
しかし…後ろで客席を見ていた私は、三脚まで使って録画している輩の姿は見ていない。
つまり、別のところから録画されたものになるのだろうが…
「誰が撮ってくれたのでしょう?」
「わからん。私は見てないな、撮ってた奴」
「うーん……あ、花陽ちゃ…」
…おやおや、随分熱心に見てますね。
真っ直ぐPCを見つめる後輩を見て、私は高坂を肘で突く。高坂もコクン、と頷く。
「ねぇ花陽ちゃん」
「へっ?あっ!す、すいません!私…」
「やっぱり、アイドルやってみない?」
「えっ…?」
彼女は、さいあくμ´sでなくとも、アイドルをした方がいいと私は思う。あそこまで情熱を掛けれる物を、そうそう諦めていい筈もない。やりたいならやればいいのだと、好きにすればいいのだと、私は思う。
…あの先輩は少し違うかもしれないが。
「でも私…声小さいし…運動も出来ないし…歌もそんなに…」
「そんなの、私達もですよ。私も、人前に出るのが無理なんです」
「え…?」
「私もよく歌詞忘れちゃうの、運動も得意じゃないし」
「私はおっちょこちょいだし!」
「私は足が動かん」
あれ?私だけ何か違う気がするぞ?
「それでもね…やりたい、って気持ちがあれば出来るんだ」
「やりたい気持ち…」
「ゆっくり考えて、もう一度答えを聞かせて?」
「.……はい」
小泉花陽一年生は高坂の言葉に真剣な表情で頷く。
これで、どうなるか、である。
私としては、良い方向に向かってほしい、と思う。
一方的で、勝手なものであるが。
034
「…夢はどう思います?あの子、入ってくれると思います…?」
帰り道、園田がふとそんな事を聞いてきた。
「さぁな」
「そう言うと思いました…」
「南は?」
「入ってくれると嬉しいけど…どうかなぁ…」
「ほらな、まだわからんのだよ。それに、やりたいようにやれ、って言ったのは私達だし、入るも入らないも小泉花陽一年生次第だ」
「それは…わかってますよ」
可愛い後輩抜きしても、私は彼女に入ってほしいと思っている。あの子の性格はとても後ろ向きだ、物事をよくネガティブに考えて、それがどんなプラスかをわかってないのだと思う。
はたして、どうだろうか……あ。
「テレビの録画忘れた…」
「今関係ありますか!?それ!?」
最初に言った通り関係ないに決まってる。
けれど、はぁ…あの番組見たかったな……。