精霊の世界再生   作:柚奈

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 この辺りから捏造が入ってきますので、御注意下さい。


4-2

 

 聞こえたのは、少女の声。

 

「アイシクルレイン!」

 

 瞬時にマナが集束し、空中で氷結。それがオーガの上で、砕けて降り注いだ。

「ほらボサっとしないの!」

「任せろ!」

 少女の声に応えたのは青年。体ほどもある大剣を軸にして、独楽のように蹴りを繰り出す。そこから大剣を振り回し、地面に魔物ごと叩きつける。

「トロンベ! ラヴィーネッ!」

 ……魔物だけでなく地面まで抉り、土砂を巻き上げた。いや、それで魔物は倒せたのだけれど。

 ロイド達が呆然としていると、青年は土煙のなかから現れてバッ! と手を広げ。

「見ててくれたかい、アリスちゃん!」

「見てないわ」

 即答である。しかし青年はまるでこの世の終わりかのようにがくっと膝を折り、よろめきながら天を仰いで。

「そっ、そんなあああ!!」

「デクスうざーい」

 少女はぷいとそっぽを向く。しかしあまり本気にも見えない。何処と無く、二人とも分かっていてふざけているような。

 ロイドが剣を納めて、少女に近付いた。

「あの、助けてくれてありがとな」

「別に助けたんじゃないわ。アリスちゃんの邪魔だったから倒しただけだもの」

 そっけない少女は、しかしどこか優しそうだなとジーニアスは思った。お礼を言うべく、一歩踏み出す。

「ボクからも、ありがとうござ」

「――出ていけ!」

 ………身が、すくんだ。自分に言われたのかと。ついこの前――イセリアを追放された時にも言われた言葉だったから。

 けれどそれはジーニアスに対して言われたのでは無かった。いつの間にか辺りには人がいて(それまで何処にいたのだろうと思うほどに沢山)、そのほぼ全員が青年と少女を睨み付けている。

「出ていけ! この疫病神、化け物が!」

「あんた達のせいでこのハイマは……!」

「出ていけ!」

 少女が顔を歪めた。苦痛や悔しさではなく、呆れとか怒りで。

「言われなくても出ていくわよ」

 そう、吐き捨てて、少女は人々に背を向ける。デクス、と名を呼ぶと青年も当たり前のように少女に続いた。

 人々の中から、女性が一人駆け出して二人を呼び止めた。

「あの、待って、待ってください!」

「良いから、宿にいなさい」

「大丈夫、必ず見付けてくるからな」

 そっけない少女とは反対に、青年は朗らかに笑う。それで泣きそうになっていた女性はようやく微笑んで、二人は睨まれながらハイマの出口に――ロイド達の方に近付いてくる。

 クゥンとノイシュの声がした。オーガに吹き飛ばされた、エミルの治療が終わったのだろう。エミルはリフィルに礼を言い、そのままジーニアスの隣に立つ。

「……エミル、もう大丈夫なの?」

「あー、うん、多分一応は。ジーニアスこそ大丈夫? 無理したでしょ」

「ボクは大丈夫だよ。ほら、あのひとが助けてくれたんだ」

 少女を示してあのひとだよ、と教えると。

「―――え?」

 エミルが、何故か固まっていた。

 その時、横を通りすぎようとしていた少女がエミルを見て足を止める。少女の後を歩いていた青年もまた、それに習う。

「―――あら?」

「ん?」

 何度も目を瞬かせる。そして。

 

「―――少年?」

 

 青年は真っ直ぐにエミルを見つめて、そう言った。

 

 

 

「で、デクス?」

「おお、少年じゃないか。久しぶっ」

 デクス、と呼ばれた青年の声が途切れたのは、少女がいきなりデクスを押し退けたので舌を噛んだせいだ。

 少女はすぅっと目を細め、エミルのことを頭から爪先までじっくり見つめた後で。

「………えい」

「―――――っっ?!」

 いきなり、エミルの頬を捻り上げたのだ。エミルは声も出せず叫んだ。

 ジーニアスはあわててエミルと少女との間に滑り込んだ。少女がぱっと手を離す。

「何するのさ!」

「あら本物だったのね。偽者かと思ったわ」

 少女があまりにも鮮やかに笑うから、ジーニアスは言葉に詰まった。

 ていうか偽者って何のことだ。エミルの顔をつねる必要があったのか。

「ま、偽者ならアリスちゃんが見抜けないわけないけど」

 いや――それよりも、この気配は。

 まさか?

「えーと、エミルの知り合い?」

「いや違」

「ええ、そうよ」

 エミルが答えるより早く少女が答えた。エミルは固まった。そのエミルに少女が詰め寄る。

「ねぇ、ちょーっといいかしら? 色々と、聞きたいことがあるのよね。色々と」

「え」

 濁音つきで呻いて、エミルは目を泳がせた。

「い、いまは……今は、ダメ。無理」

 ジーニアスは少し驚いた。こんなに狼狽えているエミルを、初めて見たから。

 少女はロイド達をゆっくり見回して、コレットとクラトスに目を止める。その口が動くのを、ジーニアスは見た―――みこさま。

 背中が寒くなるのを感じた。今のは、敵意? それともただ見ただけ? あの目が怖くて堪らなかったのは、気のせい?

 視線がエミルに戻ると同時、ジーニアスの体から冷や汗が吹き出た。

「ふぅん……まぁ、いいわ。折角会ったんだし、ちょっと頼みがあるんだけど」

「はい?」

 満面の笑みの少女。ジーニアスは思わず皆を見回して、ロイドやリフィルと目があった。

 物凄く嫌な予感がしたのは、どうやらジーニアスとエミルだけではないらしい。

 

 

 この峰に一件しかない宿屋。少女――アリスは、入り口に立つ男が顔を歪めるのにも構わず扉を開けて中に入る。その後に、ロイド達が恐る恐るといった風に続いた。

 階段の横で何かを書き付けていた女性が、アリスに気が付いて腰を上げる。

「あ、アリス、さん。デクスさんも」

「ピエトロに会わせてくれ」

 女性の顔に、明らかな動揺が浮かんだ。

「え? で、でも」

 視線がロイドたちに据えられているのに気が付いて、ジーニアスは僅かに身を固くする。探るような視線。決して友好的とは言えない。

 しかしアリスが女性の視線を遮った。

「平気よ」

「わかり、ました。アリスさんがそう言うなら」

 女性が漸く身を引いた。アリスはそのまま、デクスは軽く会釈して階段を上る。エミルがそれに続いたのを皮切りに、リフィルとコレット、ジーニアス、クラトスの順に二階に進む。

 二階のベッドには、一人の男性が寝ていた。

「…………これは」

「――っ!」

 リフィルとエミルが呟くのが聞こえた。ジーニアスは吐き気すら催した。

 エルフの血族たるジーニアスは、マナの流れが分かる。普段は意識していないために見えないが、違和感を感じて『目』を凝らせばマナを視ることなど雑作もない。それは一種の才能であり、ジーニアスが天才魔術師たる所以でもあった。

 しかし今回ばかりはジーニアスはその力を呪った。

 マナは本来輝いている。白や虹色に輝き、それはとても美しい。

 けれど、男性に纏わりつくそのマナは。

 汚れたなんて言葉では言い表せない、黒い、それは純粋な黒いマナ。

「彼はピエトロ。ルインの近くにある人間牧場から、脱走してきた人なんです」

「脱走?!」

 人間牧場から、脱走。よくそんなことが出来たな、とジーニアスは思う。見つかれば唯では済まないし、よくこんな状態で逃げてきたと、感心すらした。

 男性を直視できなくなって、ジーニアスは顔を背けた。コレットが不安そうにジーニアスの顔を覗き込む。

「エミル、どうしたの? 先生、ジーニアスも」

「…………呪いね」

 息を飲む気配がした。

 呪い。そう、あそこまで汚れた黒いマナは見たことがない。明らかに悪意をもって紡がれた、呪いのマナ。

「ええ。それもかなり強い、ね。―――ねぇ、ボルトマンの術書に心当たりはある?」

 エミルとリフィル、クラトスが同時に反応した。一番に口を開いたのは、やはりというかリフィルだった。

「ボルトマン……マスター・ボルトマン? 治癒術の創始者の?」

「そうだ。そこに記された伝説の治癒術、レイズデッドなら、ピエトロを助けられるかもしれないんだ」

 それはあくまで可能性でしか無いけれど。試す価値はあるのだと、デクスがそう言った。

 

 

 

「意外だなぁ……アリスが人助けをするなんて」

 宿屋を出て、エミルの最初の一言はそれだった。アリスが鼻をならす。

「目的は報酬よ。エクスフィアがなければヒュプノスも使えないから」

「とかいって、アリスちゃんはあいつらが可哀想だから無償で助けようとしてるんだ。なんたって、オレたちに唯一まともに接してくれた―――」

 ビシッと音がして、デクスがつんのめった。いつの間にかアリスの手にはレイピアにも似たムチが握られていた。

「デークス?」

「ご、ごめんアリスちゃん」

 それ以上何も言うな、という事だろう。デクスもそれが分かったのか、素直に謝って口をつぐんだ。

 エミルがクラトスに向き直る。

「クラトスさん、心当たりはありませんか?」

「………何故私に聞く」

「クラトスさんが一番詳しそうだからです」

 納得。確かに一番に学識があるのはリフィルだが、知識がありそうなのはクラトスだ。何せリフィルでも知らなかったデナイドのことも知っていたし、ハイマの正確な場所も知っていた。

 伊達に傭兵として各地を旅していたわけではない、というのがクラトスの言い分だったが。

 しかし、とジーニアスは思う。知っていそうと言うなら、エミルもそうなんだけど。

 クラトスが僅かにため息をついた。

「…………マナの守護塔には古今東西の書物が集められていると聞く」

 マナの守護塔。それならジーニアスにも聞き覚えがあった。ルインの北にある巨大な塔。マーテル教会の聖堂の一つだが、一般人は立ち入れないはずだ。

「マナの守護塔かぁ……そこも封印なのかな」

 封印はいくつあるのかも分からない。これまで旅に出た神子達は神託にしたがって各地を旅したが、彼らがどこに行ったか伝わっていないのだ。

 ……何しろ、ここ八百年、再生を成功させた神子がいない。全員世界再生の旅の途中で、ディザイアンに殺された。護衛として同行した筈の司祭たちも然り。だから封印の場所、数などについてはイセリアの伝承には残っていないのだ。

 唯一現存する記録はシルヴァラント王朝時代の遺物で、パルマコスタに保存されている再生の書のみ。

 それが見られない以上それらしい場所を探すしかない。

「取り合えず、ルインまで行きましょう。マナの守護塔に行くにしても、アスカードに行くにしても、ルインは通り道ですからね」

 リフィルが地図をなぞりながら言うと、エミルが何故か一瞬顔をひきつらせたように見えた。

 




 アイシクルレインは、シンフォニアには存在しない。ラタトスクにはアイストーネードは存在しない。個人的には、アイストーネードの方が使い勝手が良かった……っ!
 アイシクルレイン敵に当たらないよ!
 いや、アビスに比べればマシなんだけど、発動直前に敵が動くんだよ……

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