尖り耳だからこそ隠す者。丸耳だからこそ隠す者。どちらも同じ、ハーフエルフ。
因みにデクスの剣は暗黒邪神剣ゴールデンドーン(ラタトスク本編で使っているもの)ではありません。
「荒れ狂う流れよ――スプラッシュ」
また一匹、アリスの魔術で魔物が潰される。魔術を耐え抜いた魔物もいたが―――
「ぶっ飛びなぁ!」
デクスの大剣で地に沈む。討ちもらした魔物はエミルがすぐさま切り伏せ、戦いはクラトスやジーニアスが出るまでもなく終わった。
アリスとデクス。ハイマで出会った彼等は、あれから同行していた。
『私たちも付いていくわ。そこのコに興味もあることだし』
そんな一方的な宣言でエミルが仰け反ったのは二日前の事。
『ボルトマンの術書が見付かるまでで良いからさ。見付けた術書も、そっちのもので構わない。オレたちが欲しいのは中身なんだから』
それをデクスが取り成して、期限を区切られたことでリフィルもしぶしぶ同意したのである。
ボルトマンの術書は治癒術師にとってはお宝だ。申し出はリフィルにとって、満更でもなかったのだろう。
「アリスちゃん、愛してる!」
「はいはい」
そして魔物を蹴散らす度に行われるこの台詞にも、そろそろ皆飽きていた。
ロイドが抜きかけていた剣を納めた。
「アリスは強いんだなあ。魔術も使えるし」
ロイドからしてみれば、それは単純にアリスを誉めただけだった。ロイドでは敵わない魔物をほぼ一方的に蹴散らす、自分よりも年下の少女を。
アリスはふふ、とにっこり笑って。
「だってハーフエルフだもの」
さらりと、爆弾を投下した。
「………は? 人間じゃなくてか?」
「人間が魔術を使えるわけ無いじゃない。……まあ、例外もいるみたいだけど?」
クラトスの方を見ながらそう言った。
アリスの言う通り――人間が、魔術を使える筈がないのである。
クラトスが言うにはエクスフィアで使えるようになった、らしい。エクスフィアの効果は人によって違うのでそういう物だと思っていた。
だからロイドはアリスもエクスフィアを装備しているのを見て、アリスも人間なのだろうと思っていた。
いたのだが。
「それがどうかしたのか?」
重い沈黙を、デクスの声が破る。
「アリスちゃんはアリスちゃんだろ?」
ハーフエルフだろうがエルフだろうが、そんなものは関係ない。デクスにとってはそれが全てで、怖れる理由などありはしない。
アリスはアリスだから。
意図せず一行(エミルと常に無表情のクラトスは除く)が呆気に取られる。
ハーフエルフ差別の思想は、ディザイアンの被害を受けるシルヴァラントにおいてはかなり根深いモノだ。ディザイアンはハーフエルフ。ならば憎むべきディザイアンであるハーフエルフは憎むべき存在―――そんなはっきり言って馬鹿げている考えが、シルヴァラントでは一般的だ。
ロイドはドワーフに育てられたのでそういった思想には染まりきっていないが、ここまで言い切ることは出来ないだろう。多少なりとも、ディザイアンが、ハーフエルフが憎いと思う。母の仇と知ってからは尚更。
けれどデクスは。
「デクス、その考え随分珍しいからね?」
他所で言ったらとんでもないことになるよ、とエミルが――あまり驚いていない――忠告した。しかしその口調は反対しているわけではなく、恐らくはエミルもそう思っているのだろうことが伺えた。
「分かってるさ。けど、助けてもらったあの日から――オレの残りの命はアリスちゃんのものだ」
デクスの顔はとても純粋で、真っ直ぐで、眩しいくらい。けれどアリスはそれをばっさりと切り捨てた。
「バカなこと言わないで。私は自分しか信じないわ。誰かに頼りたくないの。私は私を取り巻く世界を変える。その為には、自分が動くしかないのよ」
だから。その先を、ロイドは聞き取れなかった。アリスはさっさと先に行ってしまう。デクスも走ってアリスを追いかけた。
後には、ロイド達だけが残される。
「凄いな………」
「ジーニアス……」
リフィルがそっと、ジーニアスを抱き締めた。
「ねえ、ロイド。もし、もしも――」
「ん? どうした?」
顔を近付けると、ジーニアスは慌てて両手を振った。言いかけていた言葉があったはずなのにそれを飲み込んで、ぎこちない作り笑顔を浮かべるのだ。
「! ううん、何でもない!」
ロイドは首をかしげながらも先に進む。こういう時のジーニアスは、無理に聞こうとしないほうが良いと、ロイドは長年の付き合いで理解していたから。
後ろでリフィルに肩を抱かれたジーニアスは小さく呟いた。
「何でも、無いんだ」
ルインはシノア湖という湖の上に建つ町である。町に出入りするには二ヶ所ある橋のどちらかを渡らねばならないため、敵から身を守るには適していると言える町だろう。
しかし最近は魔物に襲われることが増えたのだという。
「シノア湖の水量も減ってるし、何かの前触れじゃなきゃ良いけどな」
直接口にする人は少なかったが、皆の顔が沈んでいるのは確かだった。そしてコレットが神子と知るや、口々に頑張って下さいと激励を受けたものだった。
しかし封印らしきマナの守護塔には入れなかった。
「はー、アスカードかぁ」
宿屋で机に突っ伏して、ロイドが呻いた。
因みにアリスとデクスはルインに入ると止める間もなく何処かに行ってしまった。明日の朝には戻ってくるわ、とのこと。
戻ってくるなら構わないと言うのがリフィルの言葉で、ルインにいる間は自由行動となったのだ。
そしてアリスとデクスを除いた一行は、取り合えずマナの守護塔のカギを管理するという司祭に会いに行った、のだが。
「仕方ないよ。間が悪かったんだ」
「そだよ、ロイド。行き先が分かって良かったよ。ね?」
コレットはそう言ったが、ジーニアスだってロイドに同意したい。
誰だって、三日かけて漸く辿り着いた遺跡はカギがかかっていて入れず、カギを管理している人に会いに行っても丁度出掛けていて、それがここから十日近くかかる遠方と聞けば、そりゃあ気落ちするだろう。
仕方ないと言えば仕方ない。探し人はマーテル教会の司祭だから。
マーテル教会の教えの一つに旅業がある。『生きることは即ち旅すること。人は皆、旅をせよ』と。
「アスカード……やはり遠いわね。出発は明日の朝のほうが良いかしら」
「妥当だろう」
クラトスが同意すると、エミルが席を立つ。
「あ、じゃあ僕少し出掛けてくるね」
「うん、気を付けてね」
ルインは湖の上の町。危険なこともないだろう。ジーニアスは笑顔でエミルを見送った。
ルインから、少し離れた平原。
鳥の鳴き声にも似た、鋭い音が空に響き渡る。指笛だ。
やがて彼は指笛を吹くのを止め、空の一点を凝視した。
彼の見る遥か彼方から、真っ直ぐに向かってくるものがいる。それは小さな点になり、みるみるうちに近付いて来て、彼の前に降り立った。
本来なら砂漠にいるはずの――赤い、小さな鳥の魔物だった。
「ここまで来させて悪かったな」
魔物は鳴く。いいえ、とんでもありません。呼ばれれば何処にでも参ります。主からも、王の助けになるようにと言われておりますから。
「そうか。助かる」
はい、何時でもお呼びください。……所で、今回はどのような御用でしょうか?
「あそこの塔に行きたいんだが……大丈夫か?」
この系統は総じて体が小さいのだ。現にこの魔物も彼の頭と同じくらいの大きさしかない。魔物だから鳥よりは力は強いが、同じ種族の違う系統と比べれば遥かに弱い。
「お前には乗れないな……」
さてどうしたものか。腕を組んだとき魔物はくっと震えると、翼をバタバタさせた。
大丈夫です! 頑張ります! 何処かを掴んでぶら下げれば飛べますから!
「そうか、その手があったな。……頼めるか?」
魔物は人間で言うところの感極まった状態だ。……何か言ってはいるのだが、聞き取れない。
「どうした?」
なっ、なんでもございませんっ! 大丈夫です!
「? ならあそこまで頼む。日の出までには帰ってきたい」
魔物は甲高く一声鳴いて、彼をぶら下げ飛び立った。
やがて見えたのが、マナの守護塔。
そんな塔を見るのは初めてだった。さっきロイド達と来たとき、あまりにも記憶と景色が違いすぎて戸惑ってしまった位だ。彼が覚えている限り、ここは小高い丘があるばかりだったのだから。
さっきは正面の入り口だけ見て、カギがかかっていたので早々にルインに引き返したのだ。
「ま、ロイド達はこっちには気が付いて無かったけどな」
彼がいるのはマナの守護塔入り口から横道に逸れ、林のなかを少し歩いたその先。草木に飲み込まれた一角に、やたら水晶がある場所があった。
彼はそれを見て頭を抱えた。
「まさかこれ程とは……」
早めに来て正解だった。
水晶がある辺りに向けて手をかざす。ほんの少し力を解き放つと――それに呼応して、地面のなかから階段が現れる。
魔物が、苦しげな声を上げて踞った。
「お前にはここはキツいんだろう? 良いから、ここで待っていろ」
魔物は反論したそうだったが、やはり辛いのか申し訳ありません、と言ってその場に留まる。
彼はその頭を軽く撫でてやると、一人階段の中に降りた。
中は外と同じか、それ以上の水晶がある。全て、マナが歪に集まって出来たものだ。
彼は歩く。歪められたマナの奔流の中を。
ここには魔物もいない。本来ここでこれを守るはずの魔物たちはマナに当てられて弱り、いなくなってしまったのだろう。
シルヴァラントが八百年も衰退していたせいもある。魔物もひとも、命の源はマナだ。マナが少なければ生きられない。
「だから」
トリエットでそうしたように、それに手を伸ばす。
「二つ目―――」
ゆっくりと蕾が、花開く。
宿屋で剣の手入れをしていたクラトスは、手元に影が落ちたことで顔を上げた。
そこに、ロイドが立っていた。
「どうした。神子達と出掛けたのでは無かったのか」
「コレットならジーニアスと先生と一緒にいるよ。本屋に行くってさ」
なるほど、ならばロイドは興味がないはずだ。
彼等の所に行こうかと考えて、それを否定する。いくらなんでも町のなかで何かあるわけもないだろう。
「ならば行くと良い。シノア湖は観光の名所にもなっているからな」
ふと、昔を思い出して口元が緩む。しかしすぐに気を引き締めた。良い思い出ばかりではないのだから。
観光名所と言えば食い付くかと思ったが、予想に反してロイドは動かない。
「……頼みが、あるんだ」
「頼みだと?」
クラトスの鳶色の目が鋭くなる。その視線を受けて、ロイドもまた真っ直ぐにクラトスを見た。
ロイドは何かを言おうと口を閉じたり開いたりを繰り返し、一向に話そうとしない。
少しして、決意したのか一つ息を吸った。
「俺に―――俺に剣を教えてくれないか」
ボルトマンルートだと剣術指南イベントが発生してくれないのです………。
でも壊滅前のルインが見られるから、クラトスの好感度を捨ててでも、ライフボトルにガルドを注ぎ込んででも北に向かって行くのです。
ラタトスクの掛け合いは結構好きでした。アリスとデクスのも欲しかったなぁ……どっかに没ボイス眠ってないかな……