ここからかなりの捏造が含まれます。御注意下さい
――――ルインが、滅びていた。
バラクラフの封印を解放して、コレットはまた体調を崩した。一晩野宿して、翌朝にアリス達と合流。無事に鍵も手に入ったのでひとまずルインに戻ることになった、のだが。
「なに、これ…………酷い……!」
家は壊され、地面はえぐられ、美しかった町は見る影もない。整地された石畳の上には誰のものともしれない血がべっとりとこびりついている。
ジーニアスは思わず目を背ける。コレットは尚いっそう手を強く握りしめ、白い手に爪が食い込んでいた。
半ば呆然としながら、エミルが駆け出した。崩れた家の隙間をぬって、だれか人は居ないかと瓦礫の下を覗いている。……だれもエミルを止められなかったし、手伝えなかった。
そんな時だった。
「だれも、いないよ。みんな、みんな連れてかれちゃった、もん」
甲高い子供のような声と、鈴の音。
「コ、リン?」
コレットを襲ってきた暗殺者の側にいた、小さないきものが、傷だらけでそこにいた。
「みんな、お願いだよ。しいなを、しい、なをたす……」
よろめいて、石畳に倒れ伏す。エミルが直ぐに駆け寄り両手で抱えた。……抱えられるほど小さくて、それは前に見たときよりも小さいような気がした。
「コリン! ―――リフィルさん、治してあげてください!」
「エミル。……それは、あの暗殺者の仲間ではなくて?」
暗殺者は神子の命をねらっていた。ならば神子の仲間もそうだと考えるのが自然。神子を守るのがリフィル達の役目だ。
怪我をしているなら止めをさせる。これ以上、神子達に危害を加える前に。声に出さないそれを聞き取って、エミルはそれでも一歩も退かなかった。
「それでも、悪いコじゃありません」
一触即発。二人の間に見えない火花が散る。ロイド達が声をかけられずにいると、アリスが横から口を挟む。
「ねぇ、このコがこのまま死んじゃったら、ここで何が起きたか分からなくなっちゃうんじゃない?」
「そうだよ先生! 助けてやろうぜ」
「先生、お願いします」
「姉さん」
「リフィルさん」
「ああもう、分かりました!」
四方から言い寄られて、リフィルはため息をついて杖を構えた。
「ファーストエイド!」
淡い癒しの光がコリンの体を包み込み、瞬時に収束する。光が収まると、コリンが呻いて目を開ける。
「コリン、大丈夫?」
「う、エミル……お願い、しいなを、助けて!」
「しいなさんを? コリン、何があったの?」
エミルが子供をあやすように言うと、コリンはわっと泣き出した。
ようやく泣き止んだコリンが語ったのは、次のような話だった。
「しいなはあのあとお前たちを追いかけて、こっちに来たんだ。けどお前たちを見失って、ルインに来て……」
魔物との戦いで疲弊しきったしいなは傷だらけで、ルインの人たちはそれを治療してくれて、一晩泊めてもらった。お礼に子供達と遊んでやったり、力仕事を手伝ったりしていたのだ。だが。
「いきなり魔物が襲ってきたんだよ! しいなはみんなを守って戦ったけど倒れちゃって……ルインの人たちと一緒に牧場に連れてかれたんだ」
「そんな、どうして? ルインの人たちはなにもしてないのに!」
「分かんないよ! ただ逃げたやつを匿ったんだって言ってた。脱走者に味方するならお前たちも罪人だ、って」
「脱走者――ピエトロだな。あいつはルインからハイマに逃げてきた」
デクスの言葉にエミルが頷く。
「しいなはコリンだけ逃がしたの。だから、ここまで戻ってきて……お願い、しいなを助けて! 戦って、まだ怪我したままなのに牧場の中で、一人で頑張ってるんだ!」
隠密行動に長けたしいなは、未だ牧場の中で一人、内部を探っているらしい。ある程度まとまった情報を得ると、それをコリンに託して逃がしたのだ。
「牧場の中はどうだった?」
「機械だらけでよく分からない。コリンは小さいからちょっとの隙間から出てきたんだけど、人間が通れそうな所には四人か五人は必ずいたよ。……捕まった人たちは一ヶ所に集められてて、その鍵も機械で動かしてるみたい」
それぞれ顔がしかめられた。……それほど酷い環境であることに対して。あるいは救出の困難さを思って。
「あと……」
コリンの口から語られたのは、信じたくない事実だった。
人間牧場はディザイアンの施設。人間が連れていかれて、強制労働させられる。ディザイアンはハーフエルフで、優れた技術を持っている。
牧場にこっそり潜入するにも無理があるだろう。
「ピエトロを助けましょう。逃げてきたというなら、何か知っている筈よ」
だから当初の目的通り、ボルトマンの術書を求め、鍵を手にいれたマナの守護塔に来ているのだ。中に入るとクラトスが言った通り沢山の書物が収蔵されている。
「石板がある……やっぱり、ここも封印なんだね」
感慨深げなコレットの横で、リフィルは遺跡に興奮している。
「おおお! 私の研究意欲をそそる本がこんなに沢山!」
「姉さん、目的を忘れないでよ!」
「分かっていてよ。マスター・ボルトマンの術書を探せば良いのでしょう? ――ああ、もしやこれは再生の神子スピリチュアの弟子が記したという『精霊ノ書』! こちらはかつて失われたと言われる『書記官の手帳』っ! 現存するものがあったとは! 素晴らしい、素晴らしいぞ!」
「あーもー、言ってる側からー!」
暴走するリフィルと、それを止めようと追いかけていくジーニアス。
「……手分けして探した方が、良さそうだね」
ああなれば手がつけられないのはみんなアスカードの一件で理解していたから、エミルの提案に反対するものはなかった。
本は、塔の一階の内壁に据え付けられた本棚いっぱいにあった。手分けして見ていたのだが、いつの間にか日も暮れ、手元が薄暗くなってきたのでジーニアスは一度顔をあげる。
すると丁度エミルや上の方を見ていたアリス達も作業を中断して戻ってきたところだった。
「あった?」
「ごめん、見つからなかった。アリスは?」
「無いわ。デクスあんたは?」
「ごめんよアリスちゃん」
クラトスも戻ってきて頭を降る。
半日探して彼らが得たものは、リフィルによる遺跡と文献の知識と極度の疲労だけだった。
「これだけ探して見つからないとなると……」
「だいじょぶだよ、みんな。きっと見つか……きゃっ」
大量の本を抱えて来たコレットが、床の段差に躓いてコケた。……持ってきた本と、コケた拍子にぶつかった本棚の本を撒き散らしながら。
いつものように顔面から床に激突したのだが、初めてコレットがコケる所を見たエミルは大きく目を見開いて、慌ててコレットに駆け寄って助け起こした。
「コレット! 大丈夫? 怪我は?」
「うん、だいじょぶ。ありがとう、エミル」
えへへ、と笑いながら立ち上がるコレットは、毎度のことながら傷ひとつない。……顔面からコケたのに、どうして鼻血も出ていないんだろう? ジーニアスは考えるだけ無駄だと分かっていても考えずにはいられなかった。
アリスが、コレットのドジで床に散乱した本の中の一冊に目を留めた。
「………あら?」
それは本というよりもノートみたいだった。ずいぶんくたびれてボロボロ、使い込んだ手帳のような、そんなもの。しかし綴じ目はしっかりしていて、アリスが拾い上げてもばらばらにはならなかった。
アリスは何頁か捲って目を細める。
「『この術は魔術ではない。故に人でも扱えるはずだ。これは本来誰しもが持つ力なのだから』………もしかして」
表紙は磨り減っていて、そこに刻まれていたであろう題名と著者名は読めない。アリスは本をめくり、裏の見返しを開いた。デクスがそれを覗き込む。
「……間違いない。これがボルトマンの術書だ」
「え? ええ?!」
「うーん、流石コレット」
ジーニアスの呟きに同意して頷くのはロイド。クラトスは相変わらずの無表情……けれど何処と無く、呆れている? エミルは目をぱちくりさせるばかり、アリスとデクスもまた驚愕の表情を浮かべている。
この幸運を引き起こした当のコレットは、服の埃を払うとほんわかと笑った。
「えと、よかったね。見つかって」
「あ、うん。そう、だね……」
「これでピエトロを助けられるんだな、アリスちゃん!」
嬉しそうなデクスの声に、アリスの応えは無かった。不思議そうに、というか不安そうに、デクスがアリスを呼ぶ。
「アリス、ちゃん?」
アリスはやっぱり応えずに、丁度戻ってきたばかりのリフィルに本を譲り渡した。リフィルは目を輝かせて読み進め……やはり、アリスと同じように黙ってしまう。
「……どうしたんだ、二人とも」
ロイドの問いかけに、リフィルが顔をあげる。しかしその顔は暗い。
「今の私たちの治癒術では、この術を使いこなせないのよ」
治癒術は魔術とは違う。理論的には人間でも使える術だ。しかし魔術と同じで習得者が未熟であれば使えなかったり、効果が薄かったりする。
書かれているのはレイズデッド――治癒術の奥義。
ふとエミルが手を打った。
「二人が協力したらどうですか? アリスもリフィルさんも、治癒術を使えるでしょう?」
「……それでも難しいわね。せめて体内のマナを増幅させるものがあれば……」
ユニコーンの角。エルフの薬草マナリーフ。リフィルが例にあげたのは、伝説にかろうじて出てくる、あるかどうかも分からないものばかり。
アリスは踵を返した。
「―――いくわよデクス」
「え、良いのかい?」
「術書の中身が見られただけでも収穫よ。約束通り、その術書はあなたたちにあげるわ。見つけてくれてありがと、じゃあね」
アリスがさっさと塔の扉に手をかけると、隙間からコリンが顔を出した。コリンの体ほどもあるおおきな白い結晶を抱えている。
「あ、ねえねえ、見て! コリンこんなの見つけたよ!」
つま先立ちでよたよた歩くコリンから、アリスがそれを取り上げる。
「これは……マナの結晶? なんでこんなものがあるの? シルヴァラントはマナが減少してるのに」
「わかんないよ! けどあっちにたくさんあったの。何かに使えるかと思って」
そこに案内しなさい、とリフィルが言った。
コリンに案内されて着いたのは、守護塔の正面入り口からは少し外れた林の中だった。その一角に、コリンが抱えてきた結晶が沢山ある場所があった。
それを見て、普段無表情のクラトスが珍しく目を見張った。
「驚いた……まさかこれほど純粋な光のマナの結晶が存在するとは」
「えぇ?! これがあの?!」
驚いたジーニアスを見て、エミルとロイドがぽかんとした。……エミルは学校に行っていなかったらしいから仕方ないとして。
「? どうしたんだよジーニアス。何をそんなに驚いてるんだ?」
「ロイド……習ったでしょ? 大気に満ちるマナは、長い時間をかけて結晶化する事がある。結晶化したマナは術の媒介になる。けど結晶化するには豊富なマナと、安定した力場が必要で……」
「えーと?」
ああ、ダメだ。ロイドには詳しい理屈を言ってもしょうがない。
「つまり、これがあれば、ピエトロさんを助けられるかもしれない、ってこと!」
ジーニアスの乱暴な説明に、ロイドは納得してくれた。
リフィルが顎に手を当てる。
「しかし……結晶がここにだけ集中しているな。随分と塔からは離れているが……ん?」
「こんなところに、階段?」
「――っ!」
コレットがそう言ったとたん、エミルの肩が跳ねた。
「少年、どうした?」
「な、なんでもない!」
いや、なんでもなくはないだろう。汗も流してるし、その慌てようはちょっと普通ではない。
大丈夫かと尋ねようとしたとき、リフィルが見つけた階段を降り始めていた。
「ちょっと姉さん?!」
呼び止めても聞こえていないらしく止まらない。仕方なく後を追って階段を降りる。
降りた先は洞窟だった。さっき見た結晶があちこちから生えていて、地下のはずなのにぼんやりと明るい。
少し広くなった所の中央には何かの台座のようなものと、それにかじりついているリフィルがいた。
「これは……祭壇か? 精霊の祭壇と似ているが……む、こんなところに天使言語―――いや、違うな。エルフ文字か」
エルフ文字は天使言語よりも古い文字。ジーニアスは知識としては知っていたが見るのは初めてだった。勿論、読めない。
リフィルは小さな手帳を取り出して、祭壇の文字と見比べ始めた。
「先生、リフィル先生?」
「ルー、ルーメン。センチュリ………センチュリオン、ルーメン。《扉》……《扉の守護者》の八つの御手?」
「先生」
「《太陽の鳥》と《月の乙女》の眷属――」
「先生ってば!」
三度目で、ようやく小声でぶつぶつ言っていたリフィルがロイド達の存在に気がついた。しかしすぐに眉をひそめる。
「む、なんだロイド、邪魔をするな! ここは劣化が少ない、恐らくは新発見の遺跡なのだぞ! しかも天使言語ではなくエルフ文字が刻まれた祭壇など、世界的にも例がない、貴重な……!」
と、興奮するリフィルの腕にコレットがしがみついた。
「そんなことより、ピエトロさんです!」
「姉さん、調査は後! 早くピエトロさんを助けないと」
反対の腕をジーニアスがつかんで、未だ興奮冷めやらぬリフィルを連行していく。
「ああっ、そんな、せめてあと少し! 壁画の解析だけでも……!」
「先生の少しは少しじゃないだろ」
アスカードでバラクラフの石板を解読するときも少し時間をちょうだい、とか言っておいて結局一晩かかったのだから。
「………本当に、信じて良いのか? あれ」
デクスが不安で仕方ない、というように横目でリフィルを見る。
「大丈夫、だと思うよ。腕は確かだから。大丈夫。……多分」
多分をつけなくてはならない実態に、エミルは苦笑せずにはいられなかった。
そこからは、大急ぎで。
ルインに引き返し、朝を待ってすぐにハイマへ。前は二日かけた道のりを、今度は一日半で踏破した。
ハイマに踏み込むと、やはりアリス達に恨みのこもった視線が向けられた。それを無視して宿屋に入ると、前と同じように女性が立ち上がった。
「ソフィア!」
「アリスさん、デクスさん!」
「ピエトロは?!」
「奥の部屋に。あの、もしかして助ける方法が見つかったんですか?」
「これから試すわ。入るわよ」
女性――ソフィアは大人しく道を譲ってくれた。
奥の部屋に入ると、ピエトロが寝ていた。まだ体の回りに黒いマナが漂っている。前よりも黒いマナの量が多い。増えている。――ジーニアスはまた吐きそうになり、顔を背けた。
リフィルとアリスが術書を広げて、それぞれ術を使うときのようにリフィルは杖を、アリスは鞭を構えていた。
「準備はよくて?」
アリスが頷いたのを確かめて、二人は術を紡ぎ出した。
『彼の者を、死の淵より呼び戻せ』
清らかなマナが立ち上るのが見えた。しかし黒いマナに比べるととても少ない。あれではダメだ。
リフィル達もそれが分かっている。僅かに顔を歪めた。
その時。
「え、あ、結晶が……」
コリンが持っていた結晶が輝き出したのだ。強いマナが放たれている。それはエルフの血が無いロイド達にも見えているほど、強く汚れていないマナだ。
そのマナが、リフィル達にも纏わりつく。しだいにリフィル達のマナも強くなっていった。
アリスとリフィルが目配せした。互いにマナを練り上げる速度を上げて行き―――
『レイズデッド!』
マナは、ピエトロに向かって収束する。再びマナが拡散したとき、ピエトロの回りに漂っていた黒いマナも同時に空気に消えていく。
みんなが見守る前で、ピエトロはゆっくりと目を開けた。
シンフォニア本編では塔の地下に洞窟なんてありません。ていうか、そんなのあったの…?
再生の神子の仲間だからって、知らないことはあるんだよ、マルタ。
出てくる書名は禁書の名称をちょっと弄ったもの。元ネタは一応あります。
結晶云々は本当に捏造。
大量のマナが安定した力場のもと結晶化したもの。マナが少ないシルヴァラントにおいてはとてもとても珍しいものです。属性が合えば魔術法術全般の性能が強化されます。
因みに元ネタはヴェスペリアの聖核。
ヴェスペリアも面白かったですが、ラタトスクにも衣装替えが欲しかった……。防水防シワ防カビと各種加工が施されていても、ずっとあの格好っていうのは………ねえ?