精霊の世界再生   作:柚奈

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 1、2が元の一話、3、4が二話、5、6が三話。
 分割したためPixiv版とは話数が違います。

 というわけで、二話同時投稿です。


7-3

 

 

「どけ! マグニス様がお出ましだ!」

 赤い髪。鍛えられた体。尖った、しかし短い耳。そして左目に走る、一本の傷。

 シルヴァラント・パルマコスタ人間牧場の長にして五聖刃の一人マグニスは、ディザイアンに先導されながら、人混みのなかを悠々と歩いていた。

 目指す先には処刑台。そこには一人の女性が首に縄を繋がれて立っていた。左右にはディザイアンが控えている。

 それを見て、誰かがぽつりと呟く。

「東の牧場のマグニスだ……」

 なんでこんなところにいるんだという単なる呟きだったのに、マグニスは突如身を翻すや人混みの中から一人の男性の喉元を掴んだ。

「マグニス様、だ。豚が……」

 そのまま首をへし折るべく力を込めて―――

 

「魔神剣!」

 

 邪魔が入ったのだ。

 

 

 

 

 横から放たれた衝撃波は地を這い、マグニスに直撃、マグニスは男性を取り落とした。

「っ、何しやがる!」

 衝撃波を放った少年―――エミルはマグニスを一瞥すると剣を納め、男性を助け起こした。完全に無視されたマグニスがエミルに向かって斧を降り下ろそうとしたそのとき。

「何しやがるはこっちの台詞よ、マグニス!」

 高らかにマルタの声が響き渡る。

「もう先月で規定殺害数は越えた筈でしょ! 用がないならさっさとパルマコスタから出ていって!」

 規定殺害数というのはディザイアンの決まりのことで、一年に殺してもいい人間の数が決まっているというものだ。なんとも人間をバカにした制度である。

 マグニスが高笑いした。

「用ならあるぜ? ――おい!」

「はっ! この女は偉大なるマグニス様に逆らい、我々へ資材の提供を断った。よって規定殺害数は越えるものの、この女の処刑が執り行われることとなった!」

 この女、というところで処刑台に控えるディザイアンが女性の髪を掴んで顔をあげさせた。

 その女性というのは――

「ロイド、あの人カカオさんだ! 雑貨屋にいた人!」

「本当だ! くそっ、この街の兵士はどうしたんだ?」

 パルマコスタには反ディザイアンを掲げる自警組織がある。ドア総督によって集められた義勇兵は魔物とも戦えるレベルに達しており、彼等がいるならばディザイアンにも屈さない筈だ。

 しかしマルタが歯噛みして答える。

「演習があって、ほとんど出払ってるの。私がパルマコスタを離れていたのも義勇兵の演習場に届け物をしてたからなんだ。一応連絡はしたけど………」

 遠いから、来るまでには時間がかかる。

「母さん、母さんっ!」

「ショコラ?!」

 人々の中から女の子が一人走り出る。処刑されそうになっているカカオの娘である。

 それを見て、マグニスは鼻で笑った。

「おい、やれ!」

「はっ!」

 指示を受け、処刑台で控えるディザイアンがレバーを引いて―――

 

「獅子戦孔!」

「レイトラスト!」

 

 ロイドとコレットが同時に技を放つ。

 獅子の形をした闘気はディザイアンを吹き飛ばし、コレットのチャクラムがカカオの首の縄を切り裂く。すかさずエミルが走って、落下したカカオを受け止めた。

 マグニスが舌打ちした。

「次から次へと……っ!」

 斧を振りかぶるマグニスに、ロイドもまた剣を構える。

 だがリフィルがロイドの前に立ちはだかった。

「ロイド! だめよ、ここをイセリアの、ルインの二の舞にしたいの?」

「分かってる。そんなへまはしない。アスカードのように、牧場ごと叩き潰してやる!」

 マグニスが目を眇める。

「アスカード? ……ほお、お前がロイドか。クヴァルをヤったのがどんな奴かと思えば、てんでガキじゃねえか。者共、かかれ! こいつのエクスフィアを奪うんだ!」

「そこまでだよっ!」

 マルタがロイドの前に立った。ロイドを庇うように両手を広げて、マルタはディザイアンをまっすぐに見据える。

「彼等はパルマコスタの客人。これ以上の狼藉は、パルマコスタ総督府が許さない!」

 マルタの足が、震えていた。声はどこまでも気丈なのに、よく見れば手足が震え、武器がカタカタと音をたてる。

 ロイドはマルタの前に出た。

「目の前の困ってる人を救えなくて、世界再生なんかやれるかよ!」

「私もこんな処刑を見過ごすなんて出来ません!」

 クラトスがコレットに迫るディザイアンを切り捨て、声高らかに叫ぶ。

「神子の意思を尊重しよう!」

 神子。

 言葉に真っ先に反応したのは、マーテル教会の司祭だった。

「おお、神子様!」

「神子様だ! マルタ様もいらっしゃるぞ!」

 

「――――おおおぉお!!」

 

 雄叫び。

 地を駆けてくる、人々の足音。

 振り替えれば、大通りを人の波が押し寄せてくる。

 その、先頭には。

「皆、無事か!」

 馬に乗る一人の男性。

 黒いマントを纏い、髪をひとつに束ねた背の高いその人は。

「ブルートさん!」

「パパ?! 何で……演習に行ったんじゃ……!」

「嫌な予感がしてな、途中で切り上げた。さて……これは何事か?」

 マルタの横で馬を止めて男性は微笑み、マグニスを鋭い目で一瞥した。

「ブルートか。あいつが相手じゃ分が悪い。引き上げだ、野郎共!」

 ディザイアン達の体が光に包まれる―――転送魔術。光が消えるとマグニスやディザイアンの姿は何処にもない。基地に戻ったのだろう。

「追え!」

「止めろ、深追いするな。怪我人の手当てを急げ!」

 辺りの人に指示をだし、ブルートと呼ばれた男性は馬から降りる。

「パ、パ」

「偉いぞ、マルタ。よくみんなを守ってくれた」

 その笑みは暖かく、マルタはみるみる瞳を潤ませる。

「パパぁ……!」

 抱きついたマルタをブルートは優しく受け止めた。

「マルタ……無事でよかった……!」

 そんな二人を、人々が見守っていた。

 

 

 

 

「改めてお礼申し上げます、神子様。民を救っていただき、ありがとうございました!」

 総督府に呼ばれ、ロイドたちはドア総督に頭を下げられていた。

「本来ならば総督府総出で歓迎したいのですが……何分忙しく、どうかお許しを」

 深々と頭を下げるドア。

 忙しいのは本当なのだろう。ドアばかりかブルートも、ドアの側に控えていたニールも居ない。

 マルタだけはこの場にいるがそれは事情を聴くためで、そうでなければマルタもあちこちを駆けずり回る羽目になっただろう。

 コレットは困ってしまっていた。

「お顔をあげてください。出来ることをしただけですから」

 ドアは躊躇いがちに頭を上げて、そっと椅子に腰を下ろした。

「そう、仰るのでしたら。……ところで神子様、再生の書はどうなりましたか?」

「はい、マルタのお父さんのお陰で封印の場所も分かりました」

 封印の場所について、コレットは詳しいことを言わなかった。

 ドアはホッとした。しかしすぐに険しい顔をして。

「そうですか………神子様、折り入ってお願いがございます」

「はい? 何でしょう」

「再生の旅、暫しお待ちいただけませんか」

 反応が早いのはリフィル。

「それは何故でしょうか。世界再生の旅はシルヴァラントを救うためのもの。一刻も早い再生が望まれる筈です」

 世界を救う事よりも優先されることがあると言うのか? 神子に何かあれば世界は救われないというのに?

 そんな副音声が聞こえてくる。ドアは片手をあげてリフィルを制した。

「分かっております。しかし、神子様の力をお借りしたいのです」

 コレットがリフィルの袖を引いた。瞳で先を促せば、リフィルも強くは言えない。

「我がパルマコスタは遥か昔からディザイアンと戦ってきました。自警団を組織し、義勇兵を募り……ようやくそれが実を結び、今ではディザイアンに怯えることも少なくなりました」

「はい。少しでも早く皆さんが安心して暮らせるよう、私も頑張ります」

 再生が終わればディザイアンは封印される。マナが増えて精霊が目覚め、異常気象も止まる。

 だからコレットは――再生の神子は望まれる。

「ええ、皆再生の日を待ち望んでおります。……しかし、今はそれを待っている余裕がない。実は……ショコラがディザイアンに拐われたのです」

「ショコラが?!」

 ジーニアスは驚愕した。さっき雑貨屋で母を助けてくれてありがとう、とお礼を言われたばかりなのに!

「ハコネシア峠に向かう途中だったようです。ディザイアンは彼女を無事返して欲しければ神子様と、五年分の資材、人質を差し出せと言うのです」

 五年分。ディザイアンが要求する資材はその街の生産能力ギリギリの量だ。搾り上げる、という言葉が正にぴったり。大きな街ほど要求する量も多くなり、パルマコスタ程の街なら他のところの倍はある。

 それを一気に五年分など、街が滅びかねない。

「そんな要求……!」

「勿論飲めるわけがありません。そこで我々は人間牧場を襲撃し、ディザイアンを壊滅させることにしました」

 ロイド達は驚いた。

 ディザイアンと戦うだけでも大変なのに、壊滅させるなんて。そんな戦力も気合いも他の所は持ち合わせていない。

 マルタは違うところで驚いたらしい。

「出来るんですか? 確かこの前まだ戦力が足りないって……」

「ああ、今日の演習で全員の訓練が終了した。このままならば十分牧場を壊滅させられるだろう」

 そうですか、とマルタは一歩下がった。両手を胸の前で組んで、目を閉じて何度も呟いている。

 しかし、ロイドは苛立っていた。

「それとこれと、どういう関係があるんだよ? ショコラはどうなるんだ?」

 牧場壊滅は別に構わない。ディザイアンと戦ってみんなが無事か気になるけれど、それ以上に気になるのはショコラの安否なのだ。ディザイアンが壊滅しても、ショコラが死ぬなら意味はない。

 ドアは落ち着いてください、とロイドを宥めた。

「はい。牧場を襲うにしても、先に人質となったショコラと、収容されている人々を助け出さねばなりません。しかし、我々にはそこまでの余裕がない。ですから、それを神子様達にお願いしたいのです」

 義勇兵を救出組と壊滅組に分けて行動すれば皆を助けられる。しかし分けて行動するとなるとディザイアンに負けてしまうかもしれない。どちらも成功させるために、戦いなれている神子様の力をお借りしたい―――と、そういう事だった。

「厚かましいこととは承知の上です。しかしどうか、ショコラや人々のため、どうかご協力を」

 もう一度、ドアは立ち上がって頭を下げた。やがて、コレットがふっと微笑んだ。

「……分かりました。お引き受けします」

 元々お人好しのコレットだ。知り合いの窮地を知って助けにいかない訳がない。

 リフィルやクラトスは暗い顔をしたが、もう諦めているのかグミは足りるかしら、なんて考えている。

「! 本当ですか! ありがとうございます! では早速我々は準備を致します。神子様達はどうか先に」

「私もパパに知らせてきます!」

 マルタが挨拶もせずに総督府を駆け出していった。マルタの父ブルートは今は自警団の本部で仕事をしているから、そこに行ったのだろう。

「牧場はここから東、山を越えた向こうにあります。どうぞお気をつけて」

 そうドア総督に見送られて、彼等はパルマコスタを出た。

 

 ―――疑念を抱いたまま。

 

 

 

 

 パルマコスタは広い平野の海沿いに作られた。海を挟んでイズールドがあり、そことの貿易と漁業、観光で栄えた街だった。

 しかし東に向かえばそこには険しい山々が広がっている。

 カミシラ山地を初めとする山脈の中、森に隠されるようにして、パルマコスタ人間牧場はあった。

「パルマコスタの人は……まだ着いてないみたいだね」

 兵士たちが来てしまうと救出どころではない。なんとか先につけたようだ。

 先に進もうとしたその時、コレットが足を止める。

「待って。誰かいる」

 言ったのはコレット。しかしクラトスとエミルも同時に反応する。

 各々すぐにでも戦えるように準備して―――

「流石だな、神子に少年! あとそこの剣士! オレに気が付くとは中々だ……っ痛!」

「バカデクス。声が大きいのよ」

 茂みのなかで人影が立ち上がり、もう一人に叩かれる。その正体は。

「アリスにデクス! なんでここに……それから、ええと、ニールさんも」

「神子様、お待ちください。そこでは目立ちます。こちらへ」

 言われるままに手を引かれて茂みに入った。

 やがて少し開けた、しかし回りからは見えないような所に来る。

「どうしたんですか?」

「神子様――なぜいらっしゃったのですか!」

 コレット達は顔を見合わせた。

 なぜ、とは。拐われたショコラを助けるために決まっている。

 しかしニールは絶望的な顔をした。

「神子様、どうかこのままパルマコスタ地方を去ってください。これは」

「罠か?」

 クラトスの言葉にロイドは狼狽えたが 、エミルもリフィルも動じなかった。

「クラトス?」

「嫌な方の想像が当たったようね」

「先生も、一体どういうことなんだよ?」

 ロイドは人を疑うことを知らなすぎる。信じきっていたらしい。エミルはため息をつかなかった。知らないなら、知ればいい。

「ロイド、何かを守るときに、完全に守るものから離れるなんて、あり得ると思う? 守るものを放置して、戦える者が全員離れるなんて」

 分かりやすい例え話。物事を複雑に考えるから分からないのなら、単純にしてやれば。ロイドは頭の回転は早い。理解すれば分かる筈だ。

「エミル、どういうことだよ? なにを言ってるんだ。そんなの可笑しいだろ」

 コレットを守るのにコレットから離れるようなものだ。コレットを一人で砂漠に放り出すようなもの。

 そんなこと、ありえるわけがない。

「だよね、可笑しい。……だから変だと思ってたんだ。いくら訓練でも、街に残った兵が少なすぎた。それを見計らったような公開処刑――」

 罠だとしか思えない。

 クラトスが頷く。

「私もディザイアンが軍隊をもった街を放置していることが疑問だった」

 他の町であれば反乱の意思ありと疑われたその瞬間に滅ぼされている。……ルインが、そうだったように。

 リフィルも同意する。

「ええ、その通りだわ。反乱の芽を潰さないのはそれが有害ではないから。力がないから放置されているのか……あるいは、有益存在だから」

 クラトスとリフィルがニールを横目で見た。ニールは力なく首を振る。

「私も詳しくは分かりません。しかし……その通りです。ドア総督はディザイアンと通じています。そして神子様を罠にはめようとしているのです」

「それに気がついたブルートがオレたちを差し向けたって訳さ」

 なるほど。二人の雇い主はブルート。慈善家で人々に慕われ、自警団を纏めるブルートならば気がついても可笑しくはない。

「ショコラたちのことは私たちが何とかします。ですから、神子様達はこのまま、」

「待って」

 止めたのは、それまで黙っていたジーニアス。

「ショコラたちって、他にも誰か拐われたの?」

 ほんの僅かな言葉尻。けれどジーニアスには引っ掛かったらしい。

 ニールは不味いことを聞かれたといった風情で目を逸らし、何度も口を開閉させた。

「大変申し上げにくいのですが―――」

 マルタ様が、拐われました。

 

 

 

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