ここから不定期更新ですので、多分次の更新まで一月くらい空くと思います。
あぁ―――くだらない。
やっぱり人間なんてくだらない。欲深くてすぐに戦を起こす。受け入れられないモノを拒絶して差別する。
くだらない。人間もエルフもハーフエルフも何が違うというのだ。何も変わらないではないか。違うとすればそれはそう、天使だけ。
あり得ない力で、あり得ないように理を曲げた、愚かなヒトが作り出した、天使だけ。
サイバックの己に与えられた研究室で、アステルは鬱ぎ込んでいた。
―――守れなかった。何も出来なかった。
リフィルとジーニアスがハーフエルフだと分かって連行されるあの時に、エミルが連れて行かれたあの時に、驚きのあまり思考が停止して。
「動けなかったんだ………!」
「そう、自分を責めるなアステル」
そのアステルの肩にリヒターが手を置いた。
「俺だって気がついていたのに何も言わなかった。それに………お前は俺を助けてくれた」
「リヒター……そうだよね、落ち込んでいても仕方ない。何とかして、二人を助けないと」
よーし! と元気を取り戻したアステルを見て、リヒターはふっと微笑んだ。
そこでハーフエルフを助けよう、という発想に行き着くあたり、やっぱりアステルは変わり者だ。けれどそれがリヒターを友達だと笑って言い切るアステルなのだ。
………ところで、天才ゆえかアステルは時に突拍子もない行動をとる。
今回も真っ直ぐに扉に向かうと、あろうことかトントンと叩いて扉の向こうにいる兵士に声をかけた。―――軟禁中なのに!
「すみませーん、ここを開けてくださーい」
「おいこらアステルっ?!」
アステルは今現在軟禁中の身である。
連行されるときに罪状はなんだ、と問えば陛下を謀りテセアラを危機に陥れた罪だ、と返された。
………教皇の指金だろう。
アステルは、教会と―――正確には教皇と仲が悪い。それには色々、色々、ほんっとうに色々理由があるのだが、ここでは割愛するとして。
アステルは正式に陛下から直接神子に協力せよ、と言われて行動しているわけだから、ロイド達がシルヴァラントに戻ろうかと話していたとしても、嫌な言い方をするが、アステルに責はない。監視の責任者は神子ゼロスだ。
――――まあ、どうせその前の、王城で神子を殺すな、と止めた方で罪状を吹っ掛けているのだろうが。
教皇騎士団は、あわよくばアステルも連行するつもりだった。しかしハーフエルフの連行という予想外の事態が起こったことと、神子様一行も捕まってしまったため、一時的に処分は保留となり研究室に軟禁されていた。
因みにエミルだけが一人別室で調査を受けていると聞いている。…………何もなければ良いのだが。
とまあそんな状況であるからして、見張りに立つ兵士から返事が帰ってくる訳がない。
筈だったのに!
「!?」
ガツンッという金属のぶつかるけたたましい音が響いたかと思えば、一気に廊下が静まり返る。
流石にアステルも息を殺して固まっているなか、控えめな音がして、扉のノブが回り。
「あ、いたいた。おーい、アステルさんとリヒターさんがいたよー」
普通に、平然と、当たり前のように、エミルが入ってきたのである。
「なっ、何――――何で、ここに……?!」
別室で検査中じゃ、とも言えず唇を震わせエミルを指差すアステルに、エミルは満面の笑みで。
「僕を誰だと思ってるんですか?」
「あー…………そう、だね。うん。そうだった」
エミルの真の力を発揮すれば、それくらい雑作もあるまい。廊下を覗くと鎧を着たままの兵士が扉の前で倒れている。アステルはほんの少しだけ兵士たちに同情した。
「………容赦ないね………」
と、その時エミルの後ろから別の声がした。
それはアステルにとってとても懐かしい声。
「しいな!」
呼ぶとしいなはアステルを認め、一瞬おいて顔を輝かせた。
「アステル! 生きてたのかい!」
「わーい、アステルだー!」
しいなの肩口で煙が上がりコリンが現れる。コリンはそのまま肩を蹴り、アステル目掛けて飛び込んだ。
「コリン! しいなも、シルヴァラントに行ったって聞いたから心配してたんだよ?」
「それはこっちの台詞だよ! あたしはあんたが《異界の扉》に行ったって………よかった、あの噂はデマだったんだね」
「ううん、《扉》には行ったんだけど」
それを聞いたしいなは頬を引きつらせ、リヒターに詰め寄った。
「リヒター! あんた何で止めなかったのサ?!」
「一応止めた。が、こいつがそんなことを聞き入れると思うか?」
―――否。
笑顔で大丈夫だよ、とか言いつつ色々と理由を上げ連ね、最終的にはうやむやにして意思を通す。
『だってリヒター、勇気は夢を叶える魔法なんだよ?』
「勇気じゃなくて無茶だよそれは………」
口癖が耳の奥に蘇って、しいなはがっくりと項垂れた。アステルは何時もと変わらない笑みを浮かべる。
「しいな、ロイドさん達を頼むね」
は? と反論しようとしたしいなより先に、アステルと同じ顔が口を挟んだ。
「アステルさんとリヒターさんは僕に任せてください。それよりロイド達の方が心配です。ジーニアスとリフィルさんも早く助けないと」
「アステルはどうするのさ?」
神子ゼロス一行だけでなく、アステルも今は犯罪者として狙われる立場にある。ロイド達は戦えるから強行突破という道もあるだろうが、アステルは戦えない所か、学者らしく体力がなかった。
ここにアステルを放っては行けないのだろう。しいなはそういうひとだ。どちらかのために、何かのために、他の何かを切り捨てられない。
だからこそ、暗殺者なんてのには向いてない。
「メルトキオに行く。陛下への正式な報告もしないといけないし、必要な資料が向こうにあるんだ。僕はコレットさんを救うために全力を尽くすよ。それが僕の仕事だもの」
「それはそうだけど、でも………」
まだ逡巡するしいなを見て、リヒターが一つため息を溢した。
「グランテセアラブリッジは跳ね橋だ。急がなければ間に合わなくなるぞ。助けられたとしても、恐らくそのままサイバックの方には戻れない」
つまり、間に合わなければしばらくの間フウジ大陸には渡れない。その間に二人は死刑で終わりだ。
そのことを思い出したか、しいなの顔から一気に血の気が引いた。
「じゃあ、あたしは行くよ。気を付けてね、アステル、リヒター、エミル」
踵を返しロイド達のところへ向かおうとしたしいなを、アステルは呼び止める。
「あ、そうだ。しいな、ロイドさん方が乗って来たっていうレアバードを回収して来られる? 少し考えがあるんだ」
「え? ああ、それくらいは出来ると思うけど……?」
一体何をする気だろうかと目を瞬かせるしいなだったが、すぐに考えても仕方ないと考えるのを止めた。どうせアステルが考えていることは教えて貰ったって理解できない。
だから、しいなはアステル達に口を出さないことに決めた。アステルが大丈夫だというなら大丈夫だ。リヒターもいるのだし、―――何よりエミルも一緒にいる。
アステルはそんなしいなの顔から何を考えているのか正確に読み取っていた。失笑し、微笑む。
「じゃあ、メルトキオで待ってる。だから………ちゃんと来てね。リフィルさんと、ジーニアス君も一緒に」
言外に必ず二人を助けてね、と言えば、一瞬呆けたあと、しいなは満面の笑みで応えた。
「っ、ああ―――ああ、任せときな!」
しいなが行ってしまった後で。
「―――で、どうやってサイバックを脱出するつもりだ? 監視されてるんだぞ。まさか監視を全員気絶させるとか言うんじゃないだろうな」
リヒターの冷ややかな視線を受けて、エミルはしれっと言い返す。
「まさか。さっきやって分かりましたけど、鎧の隙間を縫って気絶させるのとんでもなく疲れますよ」
………やはりか!
とんでもなく疲れる、ではなく普通は出来ない。其処らにいるような冒険者の鎧とは訳が違う。相手は教会の、教皇直属騎士団。装備も最高級品、構成員も生え抜きのエリート達である。その鎧の隙間なんて、剣の刃がようやく入るかどうかと言うくらいだ。
「…………えーと、エミル、もー少し、騒ぎにならない方法でお願いシマス……」
「ええ、分かってます。実力行使は最期の手段ですから。そうじゃなくて―――“ソルム”の力を使うんですよ」