平原も終わりに差し掛かった頃。エミルがふと、足を止めた。
少し遅れてその後ろを歩いていたジーニアスが荷を下ろし、ロイドが剣に手をかける。
「―――魔神剣!」
剣を抜くと同時、エミルが衝撃波を放つ。衝撃波は先にあった大岩を砕き、その陰から何かが数匹飛び出した。速すぎて、ロイドはその全てを捉えることは出来なかった。最低でも三匹、いや四匹。
ぐっと剣を握ったとたん、後ろでも音がした。
「不意討ち?!」
「マジかよ!」
ジーニアスの声を聞き付けて後ろを向くと、後ろにも三匹。ロイドは咄嗟にジーニアスを背に庇った。
「くるよ!」
エミルが声を張り上げると同時、魔物達が一斉に走り出した。
死体、小型キノコ、ウサギ、狼。
それらはイセリアの近くで見る魔物達と同じだったが、強さが確実に違っていた。
「っぐ!」
剣を盾にして防ぐ。少しでも前に出すぎるとこれだ。ジーニアスはエミルが守っているが、もしくらえばただでは済まないだろう。それほど、一撃が重い。
「だあっせいっ! 瞬迅剣!」
突きで敵を吹き飛ばす。すぐさまバックステップで距離をとり、そのままジーニアスのところまで戻ると、入れ代わりにエミルが飛び出した。
「はっ! ふっ! たぁっ! 崩蹴脚! 穿吼破!」
それぞれに違う一匹を斬っていく。エミルはロイドとは全く違うタイプの剣士だった。
ロイドは敵を倒す剣。エミルは敵を引き付ける剣。
エミルはロイドと同じくらい――いや、ロイドよりも速い。エミルが敵を引き付けて相手をしてくれているため、ロイドは近づいてきた敵だけを相手すれば良かった。
「切り裂け! ウインドカッター!」
ジーニアスの魔術が発動し、エミルに後ろから襲いかかろうとしていた魔物を切り裂いた。
「ありがとう、ジーニアス!」
「へへっ、どういたしまして!」
ジーニアスに笑い返し、エミルはその一匹に止めをさす。
「……ん?」
何かが引っ掛かって、ロイドは動きを止める。エミルの方をじっと見つめ、それに誰かが重なって―――
「ロイド!」
ジーニアスの悲鳴で我に帰る。
すぐ目の前に狼の牙があった。咄嗟に剣をその口に押し込んで防ぎ、もう一方の剣で腹の辺りを斬りつける。
肉を断つ感触が剣を通じて伝わってきた。次いで、鼻につく鉄の臭い。
それに顔をしかめたのも一瞬のこと、すぐ剣を引き抜いて次の標的を見定める。初め十ほどいた魔物が、今では五以下になっていた。
「潰れちゃえっ! ストーンブラスト!」
地面から岩石の塊が飛び出した。しかし地面にはなんの変化もない。それもそのはず、その岩石はマナが集まって生み出された、岩の形を模したマナなのである。
マナとはいえ固さは石と変わりない。それで強か体を打ち付けたウサギは丸くなって動かなくなる。
ジーニアスが倒したウサギが最後の一匹だった。他は全てエミルが倒していて、もう剣の血を振り落とし、鞘に納めている所だった。
「もう倒しちまったのか? エミルやっぱり強いなー」
双剣を納めながら笑うと、エミルが照れ臭そうに頭を掻いた。
「そ、そうかな。ロイドも凄いと思うよ。……あ、新しい剣はどう?」
「ああ、まだ使いこなすには掛かりそうだけど、木刀とは比べ物にならねぇよ」
実際、そうだった。木刀は剣の形をしているとはいえ木だ。打ち、昏倒させることはできても斬ることはできない。ロイドが木刀で魔物を斬っていたのは、ひとえにエクスフィアのお陰だった。
「この調子ならコレットに追い付くのもすぐかもな。エミルがいてくれてよかったぜ」
「ホントだよね。ボクたちだけじゃ、ここまで来るのにどれだけ掛かったか」
何度も出会った魔物と戦ったのは数回だけだ。ほとんどが魔物の方から逃げていったのである。それが誰を恐れてか、考えなくても分かる。戦いにしてもたいていはエミルがあっという間に倒してしまい、やることがないとジーニアスがボヤいた程だった。
本当に、エミルがいなければここまでの五日半の道のりは十日以上かかったに違いなかった。
「ありがとうな、エミル」
エミルはにっこり笑って、先を示した。
「見えたよ。―――トリエット砂漠だ」
白の海。
正にそう表現するに相応しい景色だった。
辺り一面が白い砂。風が吹く度に形を変える砂丘は、まるでよせては返す波のように留まることがない。
だが、忘れてはならない。ここは砂漠である。
全て白いということは、それだけ光を反射するということで。
「あちぃ……」
まずロイドが初めにダウンした。エミルはまだ余裕があるように見えるが、ジーニアスはややバテぎみだ。
「だーっ! 何でこんなに暑いんだ!」
「言い伝えによると、この地方の何処かに、イフリートに通じている門があるんだってさ。この辺が暑いのは、イフリートの影響なんだ」
授業でやったでしょ! というジーニアスの言葉はロイドには届かない。
エミルの言う通りに、砂漠手前の小屋でマントを買っておいてよかった。服を重ねて着るよりも、日差しの方が暑いなんて。
「ジーニアス、よく知ってるね。……でも、そんなに暑くないよ?」
「うえぇえ? これでかよ!」
「うん。本当ならもっと暑いはず。……マナが少ないせい、かな?」
ジーニアスが頷く。
「ディザイアンが人間牧場でマナを使ってるから、世界中マナが減っちゃってるんだもん。自然を形作っているのはマナだから、可能性はあるかも」
「そっか」
エミルは納得したらしく話を切り上げたが、ロイドにはまるで意味がわからない。
エルフであるジーニアスは大気のマナを感じ取れるらしいが、ロイドは人間だからマナが少ないと言われてもピンと来ない。ただマナがないと世界が可笑しくなる―――そんな漠然としたことしか知らないのだ。
マナが少ないと作物が育たなくなる。すると食べ物が減ってみんなが困る。そしてディザイアンが人間牧場でマナを使い続ける限り、世界のマナは減り続け、人々はディザイアンに虐げられる。だから再生の神子であるコレットが、ディザイアンを封じてマナを復活させるために、女神復活の旅に出る―――それが、世界再生だ。
「なあ、ジーニアス」
「なに、ロイド」
「何で、ディザイアンなんか居るんだろうな。奴等さえいなければ、みんな幸せに暮らせるのに」
ディザイアンがいなければ、マナが減ることもない。コレットが旅に出ることもなく、今でもあのイセリアの教室で授業を受けていたはずだ。そして何よりも、マーブルさんやロイドの母も、死ぬことはなかったはずだ。
マーブルさんを思い出したのか、ジーニアスの手が左手に――マーブルさんのエクスフィアに伸びる。
「そうかな……ほんとにみんな幸せに暮らせるのかな……?」
「ジーニアス、どうかした?」
エミルがジーニアスの顔を覗きこんだ。
「顔色が悪いよ。大丈夫? 水飲む?」
エミルが自分の水筒を(砂漠に入る前、マントと一緒に一人ひとつ買ったのだ)差し出すと、ジーニアスははっとして笑顔を作った。
「あ、ゴメン。大丈夫だよ、ありがとう。――そうだね、ディザイアンが悪の元凶なんだよね」
「んなこと、決まってるだろ。だからコレットが旅に出たんだ」
「……うん、そうだよね」
何度も確認するように頷くジーニアス。そのことに僅かな疑問を覚えつつ、口を開く。
「コレット達、どこら辺に居るんだろうなぁ……」
「トリエット砂漠は広いから……街には立ち寄ってる筈だけど」
簡単には見付からないかも、とエミルは言った。トリエット砂漠はこの大陸の半分を占める巨大な砂漠である。確かに何か手懸かりがないと難しいかもしれない。
「うーん……コレットが立ち寄ったに違いないって証拠を残しておいてくれるといいんだけどな」
「学校の壁みたいにね」
ジーニアスが苦笑混じりに言う。たしかに、コレットなら無くはないけれど。
「さすがにそれはないだろ」
「……だよね」
「学校の、壁……?」
「ああ、コレットの――あ、いや、みたら分かるさ。……多分」
「あはは……あれはなんと言うか……その、奇跡だよね」
二人の若干引きつった笑みを見て、エミルはさらに首をかしげるのだった。
術に関する記述は捏造です。
というかシンフォニアとラタトスクで出現する魔物に同じ奴がいないとはこれ如何に。
ソードダンサーに至ってはボスから仲間に格下げ。やろうと思えばソードダンサー225体なんてのも……ま、やらないけどね!