精霊の世界再生   作:柚奈

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 マンホールから外に出て、マルタはぐっと背筋を伸ばした。

 メルトキオの裏道、家々の裏にひっそりと、そのマンホールはあった。

「よ、ようやく出られた………!」

「ほんとだよ………全く、とんでもない出入り口を教えてくれたね!」

 マルタの前に出ていたしいなが、辺りに注意を配りつつマルタの後ろを睨み付けると、ゼロスがでひゃひゃ、と笑った。

「そう言うなよ。ちゃんとメルトキオには入れたろ?」

「だからってさ、他の道は無かったの? 暗いし臭いし、マルタなんてネズミに悲鳴あげるし」

「し、仕方ないでしょジーニアスっ! まさか小さくなるなんて思わないし、何より自分より大きな溝鼠なんて見たことないんだから!」

 身長が低いことからくるリーチの短さで苦労しながらマンホールから這い出したジーニアスと、同じような身長にも関わらずあっさりと出てくるプレセア。

 そのさらに後にコレット、リフィル、ロイドと続く。

「でも凄いよね、ソーサラーリングってあんなことも出来るんだね」

「うむ。どういう仕組みなのだ? 興味深い……」

「ちょっ、先生! 分解なんかしないでくれよ」

 リフィルはわかっていてよ、と返したが、実はそうしたいのは目に見えていた。ソーサラーリングが数少ない貴重品でなければ嬉々としてその仕組みやマナの流れや、刻まれた術式を解析にかかったに違いない。

「………ところで、さ」

 ジーニアスがちらとマンホールに目をやる。

「良かったのかな、放っといても」

「大丈夫じゃねーの? 一応あの辺には踏んだら元に戻る床もあるし、一応あれだけ動けるなら溝鼠に見付かっても何とかなるだろ」

「そうかもしれないけど………もう、ロイドが悪いんだからね!」

「俺かよ?!」

 突然矛槍を向けられたロイドは、半分くらいは自分が悪いと思っていたために反論はしない。

 

 何が起こったかと言えば、ソーサラーリングの事故、である。

 

 ソーサラーリングは世界再生の為に、イセリアの聖堂で保管されていた貴重なものである。これまでシルヴァラント各地の封印や遺跡ではソーサラーリングの機能を特殊な装置により変換し、遺跡の謎を解いてきた。

 ある時は炎で火を灯し、ある時は電気で装置を動かし、ある時は水を産み出し、またある時は風を起こす。リフィルが言うには装置がソーサラーリングの術式を一時的に書き換えることで機能が変わっているらしいが、ロイドにとっては行く場所によって機能が変わる面白指輪、くらいの認識だった。

 そのソーサラーリングであるが、テセアラにも同じ変換装置が存在している。このメルトキオ地下水道にも、その一つがあったのだ。

 その機能は、『小さくなること』だった。

 文字通り、ソーサラーリングを使えば小人もかくやというくらいに小さくなれる。その機能を利用して細い小道や小さな穴を潜り抜け、人目を忍んでメルトキオに入ろうとした。

 下水道故の異臭に鼻を摘まみ、溝鼠に悲鳴をあげながらも、何とか出口近くまでたどり着いたその時、暗がりからいきなり敵が現れた。

『待っていたぞ……』

 後から思い返せば囚人らしい彼等の、その登場の仕方と薄汚れた衣服(単に疲れていたのと下水道にいたせいである)。

 が、考えても見てほしい。薄暗い地下水道。異臭漂う下水道。そこに汚ならしい格好の、くたびれたぼろぼろの服を着た、生気の無いふらふらの男が数名。

『いやぁぁぁ!! お化けぇえ!』

 幽霊と勘違いして驚いたマルタがゼロスを突き飛ばし。

『うぉっ?!』

 よろめいたゼロスがロイドを押し。

『うわ! 何するん………あ』

 気が付いた時にはロイドが機能を変換させたソーサラーリングを、囚人達に向けて使っていた。

 小さくなってしまえばまともな武器もない彼等は恐ろしくも何ともない。これ幸いと小さい襲撃者達をその場に放置し、下水道を抜けた、という訳である。

 

「ごめん、ロイド………ビックリしちゃって、つい」

「あー、もう良いって! 怪我もしてないし、それのお陰で戦わなくて良くなったんだしな」

 敵はその囚人数名だけだったようで、小さくなれば元々見分けが付きづらかったと言うのにますます違いがわからなくなってしまった。新手が現れることも特に特別なことも無く、無事メルトキオ浸入完了である。

「えと、何処に行ったら良いのかな?」

 しいなとゼロスはメルトキオに行こうとしか言わなかったし、アステルの伝言でもメルトキオで、としか言われなかった。

 しかしメルトキオはテセアラの首都。闇雲に探すには広すぎる。

「メルトキオで、アステルがいそうな所か……」

「城か、あそこくらいだろ」

 あそこ、と聞いてしいなが顔を歪めた。城の方を見て何度も溜め息をつく。ゼロスが先に立って歩き出した。

「決まりだ。俺様たちは城には入れないからな」

「……仕方ないね。まぁ、アステルの事だから伝言くらいは残してくれてると思うけど。……皆、こっちだよ」

「何処に行くのさ、しいな?」

「良いから、ついといで」

 しいなとゼロスは平然と歩き出す。しかも大通りを。ゼロスは有名人だから道行く人が「まあ神子様、ごきげんよう」とか「神子様、最近はお姿をお見かけしませんでしたね」とか声をかけてくる。ゼロスはそれを軽く相手しあしらいながら、迷いなく進んでいく。

「………ねえ、私たちって、一応衛兵から逃げてるんじゃなかったっけ?」

「………普通に、衛兵とも話してるんだけど」

 一応反逆者として追われる立場の筈。にこやかに手を振り衛兵に敬礼されるような状況では、ない、筈なのだが。

「あいつらは教皇騎士団じゃないからね。普通の奴なら神子に手は出せないサ。あいつもああ見えて人気があるから。……ああ、ついたよ」

 道の突き当たり。回りの家々よりも一回りか二回り大きな建物。

「メルトキオ精霊研究所。アステルの仕事場で、―――コリンが生まれた所だよ」

 

 

 

 

 

 目の前が、開けた。

 差し込んできた光に思わず手をかざす。光に慣れて目を開けば、そこは洞窟の―――氷の神殿の中だった。

 後ろの壁には大人五人が横にならんで通れそうな大きな穴が空いており、巨大獣シルルスが穴の中からこちらを見下ろしていた。

「ありがとう。おかげでここまで来れた」

 シルルスは丸い目を数度光らせて、そのまま穴の奥へと戻って行く。直後足下から鳴き声がしたかと思うと壁の穴は崩れ、瓦礫だけがそこに残った。

 苦笑し、しゃがんで、足下でぐったりしている仔達を撫でてやった。

 デーモン系ピットフィーンドのベティルと、ハーピー系セイレーンのメイ。

 どちらもまだ幼い、両手で抱き抱えられるほど小さな仔どもだが、土と氷を操る力がある魔物たち。本来ならばすぐ崩れてしまうであろうシルルスが掘った穴を、通れるように維持してくれていたのがこの仔達である。

「……お疲れ様。休んでる?」

 成体をつれていこうかと思ったのだが残念ながら成体は神殿から動けないため、仔ども達を連れてきたのだった。

 かなり無理をさせてしまった。ぐったりしているから休んでいるかと聞くと、とんでもない! と言いたげに飛び起きた。大丈夫、元気です。だから、一緒に行く! まだ仔どもなのもあって必死にピョンピョン跳ねる姿は愛らしい。

 目を細めていると、――――奥から、マナが流れてきた。

「お前たちはここにいろ。いいか、絶対に奥には来るな。戻ってくるまで、ここで待ってるんだ。わかったな」

 元気の良い鳴き声が返ってくるのを確認して、駆け出した。

 奥へ。

 外とは違い、洞窟の中は完全には凍りついていなかった。長年精霊のマナに当てられたからか、もしくは正式な神殿の一部だからか。奥に進むほどに寒くはなるが、凍っている所は減っていく。通れない所は少なかった。あれば蹴り飛ばして無理矢理にでも押し通る。

 奥から、マナが流れてくる。乱れたというよりも暴走した氷のマナ。

 記憶にあるものとは道が変わっていたが、目的地は見失うことがない。暴走の源。恐らくは精霊の

祭壇。

「セルシウ―――っ?!」

 神殿の最奥に駆け込んで、思わず息をのむ。

 大きな灰色がかった銀の狼が二匹、巨大な氷塊――中に女性が凍り付いている――を前に、頭を垂れていたのだ。

 微動だにしないため死んでいるようにも見えるがそうではない。極限まで代謝を低下させながらも、最低限の生命保持はしているし、朧気ながら意識もある。

 フェンビースト。精霊セルシウスの眷族であり、この氷の神殿の守護者である。

 許可なく最奥まで踏み込んできた無礼者を退ける最後の盾。魔物の王に敬意は払えど従うのは彼等の主セルシウスただ一人。そういう存在だ。

 フェンビーストたちは目だけをこちらに向けてきたが、攻撃はしてこなかった。……この身に宿る精霊の力を感じたからだろうか。

「……聞いて。用があるのはその奥で、貴方達の主じゃない。だから、その祭壇にも、貴方達の主にもなにもしない。そこを通して」

 少し待つと、フェンビースト達は目を閉じ動かなくなった。

 目礼し横を通り抜ける。祭壇の裏まで回り込んで力を解放すると、壁の一部に亀裂が入る。

 目的地は、その更に奥。数千年秘められた、世界最古の神殿の中。

 

 

 ――――また、一つ。

 

 

 

 再びそこに“それ”が戻ってきた時、フェンビースト達は祭壇に倒れた主を覗き込んで不安げにうろうろしていた。

 目を開かない。精霊に眠りなどというものは必要ないから、こんなことがあり得るはずはないのに。

「大丈夫だよ。多分、もう少ししたら目を覚ますから」

 そう言いおいて、“それ”はさっさと祭壇の間から出ていった。去るものは追わない。それが、彼らの流儀だ。

 目を覚ますというのだから待つしかあるまい。

 しばし主を見つめていると、ふっと主が起き上がった!

 主、主よ!

「……お前たちか。私は一体………?」

 フェンビースト達は話した。ありのまま、見たままのことを主に語った。

 主―――セルシウスは、それを聞くと随分と長い間沈黙し、“それ”が出ていったという先を見つめた。

「すまなかったな、お前たち。早速で悪いが、神殿の回りを見てきてくれ。力を調節せねばならん」

 命じられ、フェンビースト達は祭壇の間から出て行く。祭壇から動けぬ主に代わり、神殿を守るのは彼らの役目だ。

 セルシウスはそれを見送り、そして、後ろの壁に空いた大穴を見て、天を仰ぐ。

「………時が、来たか」

 セルシウスは目を閉じ、マナに溶けた。




 シンフォニアのソーサラーリングってかなり色んな事が出来ますが、使う相手を選べればもっと色んな事が出来ますよね。
 シャボン玉とか使いたい。あと小さくなるやつ。あれを使えば重たい荷物もらーくらく―――ってそう簡単にはいかないか。

 フェンビーストというのはファンタジアで氷の魔剣を守る魔物です。シンフォニアにもラタトスクにも出てきません。
 個人的にはあれ、フェンリルの最終進化系ではないかと思っております。

※追記
設定の違い
・地下水道ではリーガル戦はなし。
・氷の神殿は現在氷に包まれており、出入りが出来ない。その氷は竜の炎でも魔術でも溶かすことは出来ない。
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